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No.7333の一覧
[0] 烏の紋章の名の下に(架空東欧史) 【完結】[FIN](2011/11/20 20:41)
[1] 烏の紋章の名の下に ~年表~[FIN](2011/11/20 19:02)
[2] 烏の紋章の名の下に ~プロローグ~[FIN](2011/11/19 20:01)
[3] 烏の紋章の名の下に 第1話 烏の紋章とマーチャーシュ[FIN](2011/06/12 05:27)
[4] 烏の紋章の名の下に 第2話 大元帥の死と北方の若き英雄[FIN](2011/01/23 09:02)
[5] 烏の紋章の名の下に 第3話 傭兵隊長 マルティン=シュヴァルツ[FIN](2011/01/23 09:04)
[6] 烏の紋章の名の下に 第4話 リパニの狂気 ヤン=イスクラ[FIN](2011/01/23 09:04)
[7] 烏の紋章の名の下に 第5話 ヤン=ジシュカの遺産[FIN](2011/01/23 09:05)
[8] 烏の紋章の名の下に 第6話 イスクラの慧眼[FIN](2011/01/23 09:05)
[9] 烏の紋章の名の下に 第7話 戦場を動かすために[FIN](2011/11/22 20:37)
[10] 烏の紋章の名の下に 第8話 邂逅と決着[FIN](2011/01/23 09:06)
[11] 烏の紋章の名の下に 第9話 将軍拝命[FIN](2011/01/23 09:07)
[12] 烏の紋章の名の下に 第10話 蒼き狼の後裔[FIN](2011/01/23 09:08)
[13] 烏の紋章の名の下に 第11話 その名はイヴァン=ヴァシリエヴィチ[FIN](2011/01/23 09:08)
[14] 烏の紋章の名の下に 第12話 竜公の足音[FIN](2011/01/23 09:09)
[15] 烏の紋章の名の下に 第13話 約束の姫君[FIN](2011/01/23 09:09)
[16] 烏の紋章の名の下に 第14話 姫騎士 ルティエ=ポジェブラディ[FIN](2011/01/23 09:10)
[17] 烏の紋章の名の下に 第15話 竜公 ヴラド=ツェペシ[FIN](2011/01/23 09:10)
[18] 烏の紋章の名の下に 第16話 姫騎士との結婚[FIN](2011/01/23 09:11)
[19] 烏の紋章の名の下に 第17話 出会いの水車小屋[FIN](2011/01/23 09:11)
[20] 烏の紋章の名の下に 第18話 少年騎士 キニジ=パール[FIN](2011/01/23 09:12)
[21] 烏の紋章の名の下に 第19話 少年と隊長と将軍と[FIN](2011/01/23 09:12)
[22] 烏の紋章の名の下に 第20話 蒼き狼の後裔と盲目公[FIN](2011/01/23 09:13)
[23] 烏の紋章の名の下に 第21話 北方の勇者達[FIN](2011/01/23 09:13)
[24] 烏の紋章の名の下に 第22話 先を見据える眼[FIN](2011/01/23 09:14)
[25] 烏の紋章の名の下に 第23話 ポーランドの雄 カジミェシ4世[FIN](2011/01/23 09:15)
[26] 烏の紋章の名の下に 第24話 ドイツ騎士団とポーランド[FIN](2011/01/23 09:15)
[27] 烏の紋章の名の下に 第25話 カジミェシ4世とエルリックスハウゼン[FIN](2011/01/23 09:16)
[28] 烏の紋章の名の下に 第26話 ドイツ騎士団の降伏と従属[FIN](2011/01/23 09:16)
[29] 烏の紋章の名の下に 第27話 征服者 メフメト2世[FIN](2011/01/23 09:17)
[30] 烏の紋章の名の下に 第28話 竜公と征服者[FIN](2011/01/23 09:18)
[31] 烏の紋章の名の下に 第29話 英雄 スカンデルベグ[FIN](2011/01/23 09:19)
[32] 烏の紋章の名の下に 第30話 モルドヴァ大公 シュテファン3世[FIN](2011/01/23 09:19)
[33] 烏の紋章の名の下に 第31話 ハンガリーと神聖ローマ帝国[FIN](2011/01/23 09:20)
[34] 烏の紋章の名の下に 第32話 Fekete Sereg[FIN](2011/01/23 09:21)
[35] 烏の紋章の名の下に 第33話 オスマン帝国の大宰相[FIN](2011/01/23 09:21)
[36] 烏の紋章の名の下に 第34話 征服者と竜公の弟[FIN](2011/01/23 09:22)
[37] 烏の紋章の名の下に 第35話 蒙古と共に歩む国[FIN](2011/01/23 09:22)
[38] 烏の紋章の名の下に 第36話 ロシアの公女と盲目公[FIN](2011/01/23 09:23)
[39] 烏の紋章の名の下に 第37話 邂逅の時[FIN](2011/01/23 09:24)
[40] 烏の紋章の名の下に 第38話 沈黙の東欧[FIN](2011/01/23 09:25)
[41] 烏の紋章の名の下に 第39話 姫騎士と騎士王[FIN](2011/01/23 09:25)
[42] 烏の紋章の名の下に 第40話 専制公領、侵攻前夜[FIN](2011/01/23 09:26)
[43] 烏の紋章の名の下に 第41話 激震の専制公領[FIN](2011/01/23 09:26)
[44] 烏の紋章の名の下に 第42話 運命の少女[FIN](2011/01/23 09:28)
[45] 烏の紋章の名の下に 第43話 天の時、地の利、人の和[FIN](2011/01/23 09:29)
[46] 烏の紋章の名の下に 第44話 専制公領、陥落[FIN](2011/01/23 09:29)
[47] 烏の紋章の名の下に 第45話 シャルルマーニュ[FIN](2011/01/23 09:30)
[48] 烏の紋章の名の下に 第46話 悪魔の申し子[FIN](2011/01/23 09:56)
[49] 烏の紋章の名の下に 第47話 英雄の後を継ぐ者達[FIN](2011/01/23 09:57)
[50] 烏の紋章の名の下に 第48話 交錯する思惑[FIN](2011/01/23 09:57)
[51] 烏の紋章の名の下に 第49話 両雄激突[FIN](2011/01/23 09:58)
[52] 烏の紋章の名の下に 第50話 リパニの狂気対ポーランドの雄[FIN](2011/01/23 09:58)
[53] 烏の紋章の名の下に 第51話 急転する戦場[FIN](2011/01/23 09:59)
[54] 烏の紋章の名の下に 第52話 狼の気配[FIN](2011/01/23 09:59)
[55] 烏の紋章の名の下に 第53話 思わぬ結末[FIN](2011/01/23 10:00)
[56] 烏の紋章の名の下に 第54話 和平と背後に迫る者[FIN](2011/01/23 10:00)
[57] 烏の紋章の名の下に 第55話 全ては掌の上で[FIN](2011/01/23 10:01)
[58] 烏の紋章の名の下に 第56話 認識の差が生むもの[FIN](2011/01/23 10:01)
[59] 烏の紋章の名の下に 第57話 狼たる所以[FIN](2011/01/23 10:02)
[60] 烏の紋章の名の下に 第58話 有無の差[FIN](2011/01/23 10:03)
[61] 烏の紋章の名の下に 第59話 好転しない状況[FIN](2011/01/23 10:03)
[62] 烏の紋章の名の下に 第60話 牙を剥く狼達[FIN](2011/01/23 10:04)
[63] 烏の紋章の名の下に 第61話 騎士王とタタールの狼[FIN](2011/01/23 10:04)
[64] 烏の紋章の名の下に 第62話 フス派の姫と剣戟と[FIN](2011/01/23 10:05)
[65] 烏の紋章の名の下に 第63話 激昂する蒼き狼[FIN](2011/01/23 10:05)
[66] 烏の紋章の名の下に 第64話 蒼き狼は鬼神の如く[FIN](2011/01/23 10:06)
[67] 烏の紋章の名の下に 第65話 リパニの狂気と蒼き狼[FIN](2011/01/23 10:06)
[68] 烏の紋章の名の下に 第66話 猛将、二人[FIN](2011/01/23 10:07)
[69] 烏の紋章の名の下に 第67話 変化する戦いの様相[FIN](2011/01/23 10:07)
[70] 烏の紋章の名の下に 第68話 黒幕[FIN](2011/01/23 10:08)
[71] 烏の紋章の名の下に 第69話 勝利者の現れたその裏で[FIN](2011/01/23 10:08)
[72] 烏の紋章の名の下に 第70話 大鴉と蒼き狼[FIN](2011/01/23 10:09)
[73] 烏の紋章の名の下に 第71話 猛る少年騎士[FIN](2011/01/23 10:09)
[74] 烏の紋章の名の下に 第72話 猛将としての差[FIN](2011/01/23 10:09)
[75] 烏の紋章の名の下に 第73話 初邂逅[FIN](2011/01/23 10:10)
[76] 烏の紋章の名の下に 第74話 イヴァンとマーチャーシュ[FIN](2011/01/23 10:10)
[77] 烏の紋章の名の下に 第75話 友との再会[FIN](2011/01/23 10:11)
[78] 烏の紋章の名の下に 第76話 皇帝の行方[FIN](2011/01/23 10:12)
[79] 烏の紋章の名の下に 第77話 烏と悪魔の出会う時[FIN](2011/01/23 10:12)
[80] 烏の紋章の名の下に 第78話 それぞれの動向[FIN](2011/01/23 10:12)
[81] 烏の紋章の名の下に 第79話 動き始める欧州[FIN](2011/01/23 10:13)
[82] 烏の紋章の名の下に 第80話 オルレアン公 シャルル=ド=ヴァロワ[FIN](2011/01/23 10:13)
[83] 烏の紋章の名の下に 第81話 獅子公子 シャルル=ル=ティレール[FIN](2011/01/23 10:14)
[84] 烏の紋章の名の下に 第82話 来訪者は予期せぬ時に[FIN](2011/01/23 10:14)
[85] 烏の紋章の名の下に 第83話 邂逅が齎した新たな道[FIN](2011/01/23 10:14)
[86] 烏の紋章の名の下に 第84話 闘将 ウズン=ハサン[FIN](2011/01/23 10:15)
[87] 烏の紋章の名の下に 第85話 オロモウツの和約[FIN](2011/02/06 21:31)
[88] 烏の紋章の名の下に 第86話 2人の見るものは[FIN](2011/02/27 21:43)
[89] 烏の紋章の名の下に 第87話 東欧の三傑[FIN](2011/03/13 21:57)
[90] 烏の紋章の名の下に 第88話 教皇と言う名の力が求められる時[FIN](2011/04/10 21:45)
[91] 烏の紋章の名の下に 第89話 ローマ教皇 ピウス2世[FIN](2011/04/29 08:47)
[92] 烏の紋章の名の下に 第90話 終わりを迎える激動の年[FIN](2011/05/22 20:56)
[93] 烏の紋章の名の下に 第91話 謁見[FIN](2011/06/12 05:33)
[94] 烏の紋章の名の下に 第92話 イタリアの地で求めるもの[FIN](2011/06/13 18:46)
[95] 烏の紋章の名の下に 第93話 ベルガモにて[FIN](2011/07/25 21:14)
[96] 烏の紋章の名の下に 第94話 老司令 バルトロメオ=コッレオーニ[FIN](2011/07/25 21:44)
[97] 烏の紋章の名の下に 第95話 女摂政 ビアンカ=マリーア=ヴィスコンティ[FIN](2011/08/15 23:30)
[98] 烏の紋章の名の下に 第96話 ヴラドとシュテファン[FIN](2011/09/05 21:03)
[99] 烏の紋章の名の下に 第97話 集結[FIN](2011/09/19 21:20)
[100] 烏の紋章の名の下に 第98話 母[FIN](2011/10/02 22:12)
[101] 烏の紋章の名の下に 第99話 決戦前夜[FIN](2011/10/31 21:18)
[102] 烏の紋章の名の下に 最終話 全ては始まりの地で[FIN](2011/11/20 19:08)
[103] 烏の紋章の名の下に ~登場人物~[FIN](2011/11/20 19:50)
[104] 烏の紋章の名の下に ~あとがき~[FIN](2011/11/20 19:14)
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[7333] 烏の紋章の名の下に 第46話 悪魔の申し子
Name: FIN◆3a9be77f ID:1110e6a6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/23 09:56





 ――――1460年6月















 ――――オーストリア















「……動かないか。フリードリヒ3世」


 フランスがハンガリーの動向を掴んでいる通り、ハンガリー軍はオーストリア方面へと進軍していた。

 天の時を見極め、今こそが動く時であると判断したマーチャーシュはすぐさま、軍を編成。

 僅か1ヶ月とかからずに対ポーランドに備えた準備を全て備え、モルドヴァのシュテファン3世に進軍すると言う報せを伝えた上でオーストリア方面へと軍を進めた。

 当然の事であるがポーランドに対する宣戦布告も忘れていない。

 元々から敵対関係にあるポーランドに対してそのような必要性は無いのではあるが……そこはマーチャーシュの気質であった。

 マーチャーシュ自身、策略も出来る武将ではあるのだがその本質は騎士であり、武人である。

 カジミェシ4世と雌雄を決した上で味方とするのならば策略など必要では無いと判断したのである。

 それに敵対するカジミェシ4世と言う人物も策士では無く、どちらかと言えばマーチャーシュと同じく武人である。

 カジミェシ4世もマーチャーシュと雌雄を決したいと考えている以上、同じような事を考えている事だろう。

 マーチャーシュの下にはカジミェシ4世が軍勢をオーストリア方面へと向けていると言う報告を受けている。 

 それに対して新たに設立した黒軍を中心とした軍勢15000を率いてマーチャーシュはオーストリア方面に進軍しているのだが――――。

 流石にカジミェシ4世の対応は早く、ドイツ騎士団の一部を率いて20000ほどの軍勢を編成している。

 やはり、ポーランド=リトアニアと言う強大な勢力を誇り、ドイツ騎士団をも取り込んだポーランドは容易く大軍を編成出来る。

 それが脅威の一つであり、マーチャーシュがポーランドを無視出来ない理由であった。

 そして、今回のカジミェシ4世の対応であるが――――流石に見事であると言っても良い。

 カジミェシ4世もマーチャーシュと雌雄を決するつもりであったのか、初めから軍勢の準備には余念が無かったようである。

 だが、それに対して全く動こうとしないフリードリヒ3世にマーチャーシュは不信感を覚えていた。

 今回の進軍はポーランドを含め、その影響下にある勢力には既に情報が伝わっているはずだ。

 しかし、この状況にも関わらず全く動きを見せないフリードリヒ3世が何を考えているのか全く解らない。


「フリードリヒ3世はそう言う男だ。俺も会った事はあるんだが……フリードリヒ3世は俺と契約を結んだ時も何か煮え切らない態度だったしな」

「……イスクラの時もか」


 嘗てはハプスブルグ家の傭兵であったイスクラはフリードリヒ3世とも面識がある。

 しかし、イスクラが雇われていた時もフリードリヒ3世とは優柔不断な人間であったらしい。


「契約していた間もフリードリヒ3世は別段、何をするわけでも無かったが……。俺がハプスブルグ家との契約を絶ち切った時は大喜びだったらしいぜ?」

「イスクラほどの人物が離れると言うのにか?」

「ああ、そう聞いてるぜ」


 イスクラの言葉を聞いてますます、フリードリヒ3世と言う人間が解らなくなってくる。

 ヤン=イスクラと言う人物は東欧においても屈指の戦術家であり、優れた将軍である。

 その力量は英雄と呼ばれたヤーノシュをも打ち破ったほどであり、その実力は疑いようが無い。

 それほどまでに優れた人物であるイスクラを傭兵として雇っておきながら離れる事を喜ぶと言うのは合点がいかない。

 リパニの狂気と呼ばれ、フス派の用兵術を習得しているイスクラは他の武将に比べても代え難い人材であるはずだ。

 少なくとも普通の人物であればイスクラを手放すことを良しとはしないだろう。

 だが、フリードリヒ3世と言う人物はイスクラが自らの下を離れると言う事に喜びを見せたと言う。

 これでは尚更、フリードリヒ3世の考えている事が解らない。

 それに今回の進軍についてもそうだ。

 普通ならばそろそろ、何かしらの動きでも見せてくるのが普通であるのだが、フリードリヒ3世が動いた様子は無い。

 軍勢も特に動いていると言う情報が入っているわけでも無い。

 このような手合いの人物はマーチャーシュにとっては初めてであった。


「フリードリヒ3世――――いったい、何を考えているんだ?」


 だが、このマーチャーシュの言葉がフリードリヒ3世がどういう人物なのかを端的に示す言葉であると言っても良いだろう。

 マーチャーシュはまだ、動向を掴んではいなかったがフリードリヒ3世はマーチャーシュの予測した方向とは全く違う形で動きを見せたのだから。















 ――――ウィーン















「なんと……ハンガリーがこのオーストリアへと進軍してきたとな?」

「はい、陛下」


 1人の人物が驚きの様子を隠す事も無く側近からの報告を聞く。

 その表情からはハンガリーが動くと言う事が全く想定外の事であったと言う事が窺える。

 ハンガリーの動きは既にポーランドを含めた諸国にも情報が伝わりつつあるのにこの対応は些か遅すぎるとも言えるだろう。

 この、ハンガリーの動きに驚きを見せたこの人物こそが現、神聖ローマ帝国皇帝であるフリードリヒ3世なのであった。





 ――――フリードリヒ3世





 現、オーストリア大公にして神聖ローマ皇帝。

 オーストリア大公には先代、ハンガリー王であるラディスラウス5世の後に神聖ローマ帝国皇帝としては1452年にジギスムントの後を継承した形で就任した。

 それ故に対オスマン帝国との防波堤となる事を期待されていた人物である。

 しかし、フリードリヒ3世は皇帝に即位してからも一度もオスマン帝国に対して対策を練った事が無い。

 それどころか1453年にコンスタンティノープルが陥落し、ビザンツ帝国が滅亡した際にも「嘆かわしい事だ」と一言発したのみで興味すら持たなかった。

 フリードリヒ3世にとってオスマン帝国などは自分とは関係無い存在であるし、戦う理由も無い存在であった。

 そもそも、フリードリヒ3世自身も戦いなどは他国に任せておけば良いと言った考えの持ち主であり、戦をしようとは全く思っていない。

 それ故にオスマン帝国がビザンツ帝国を滅ぼしたと言う話を聞いても何の興味も持たなかったのである。

 こう言った事からもフリードリヒ3世は多くの人々に凡愚であると言われている。

 自発的に動くと言うような人物では無い皇帝であるフリードリヒ3世は英傑と呼ぶには程遠い人物であった。















「うぬぬ……マーチャーシュ=コルヴィヌスめ。どういうつもりなのだ?」

「さぁ……それは私にも解り兼ねます」


 軍勢を率いてきたマーチャーシュ=コルヴィヌスの意図が全く解らないフリードリヒ3世は側近に尋ねるが答えらしい答えは得られない。

 フリードリヒ3世の側近も戦などを見極められるような武官と言った気質では無い。

 今回のハンガリーの動きはフリードリヒ3世を含めたこの場の人間達には解らないのであった。


「ぬぅ……ハンガリーが何を考えておるか解らぬか。では、他に動いていると言う勢力などはおらぬか?」

「はっ、ポーランドのカジミェシ4世がハンガリーの動きに対して軍勢を動かしたと言う報せも聞いております」

「おお、カジミェシ殿が動かれたのか」


 カジミェシ4世の妻はフリードリヒ3世と同じく、ハプスブルグ家の出身である。

 敵か味方か解らないマーチャーシュ=コルヴィヌスと違ってフリードリヒ3世から見ればカジミェシ4世は味方と感じる存在であった。

 少なくともフリードリヒ3世の方からはカジミェシ4世と敵対はしていないつもりだ。


(だが……このままでは儂の身も危ないのでは無いだろうか?)


 しかし、カジミェシ4世が軍勢を動かしたと言う報せにフリードリヒ3世は不安を覚える。

 ハンガリーとポーランドの争いなど自分自身には何ら関係も無い。

 マーチャーシュ=コルヴィヌスとカジミェシ4世が戦おうがそれは知った事では無いのである。

 だが、オーストリア方面にハンガリーとポーランドが同時に軍勢を繰り出してきたと言うのは流石に恐ろしいものがある。

 双方ともフリードリヒ3世と敵対しているわけではないが、間に挟まれた形であるこの状況は好ましくない。

 万が一があれば自分も巻き込まれてしまう可能性が考えられるからである。


「今すぐ逃げるぞ。このままでは巻き込まれるやもしれぬ」


 そう思い立ったフリードリヒ3世は決断する。

 戦うと言う事なんて考えない――――自分の身が無事である事、それだけを考える。


「すぐに荷物を纏めよ。ああ……いや、そこまで多くなくて良い。逃げるのが大事なのだからな」

「か、畏まりました」


 とにかく、保身を考えてフリードリヒ3世は側近に命令を下す。

 こうして、逃げるようにと決断したフリードリヒ3世ではあるが、彼の下には充分な兵力が無いわけではない。

 カジミェシ4世と連携すればハンガリーに対しても充分に優位に立てる。

 だが、フリードリヒ3世にそのような選択肢は存在しない。

 戦など自分とは縁遠いものであり、そのようなものに飛び込むようなつもりも無い。


「だが……逃げるのには息子はいらんぞ。あの息子を連れて行っては逃げようと思っても逃げ切れぬ」

「マクシミリアン様を置いていかれるのですか!?」


 逃げると言う選択肢のために次々と命令を下していくフリードリヒ3世だが、息子はいらないとまで言いだした。

 フリードリヒ3世の息子、マクシミリアンは昨年の1459年に生まれたばかりであり、幼すぎる。

 確かに逃亡すると言う意味合いではマクシミリアンの存在は都合が悪いと言える。

 だが、流石に息子を置いていくと言う事まで言い出すとは誰も思わなかった。


「うむ。マクシミリアンはここに残るであろう侍女にでも預けておけ。流石にマーチャーシュ=コルヴィヌスもカジミェシ殿も子供や女性に害はなすまい」

「そうですが……」


 フリードリヒ3世の言う通り、マーチャーシュ=コルヴィヌスもカジミェシ4世も女性に害をなすような人物では無い。

 双方とも武人であり、騎士としての側面も持っているため、そのような真似を好まないと言うのは周知の事実でもあった。


「それにイタリアで授けられた子供と言うのは悪魔の申し子であると言われておる。マクシミリアンはその悪魔の申し子やもしれん」


 悪魔の申し子と言う言葉に側近が肯定の返事をする。

 確かにマクシミリアンは悪魔の申し子であると言う噂もあるのである。

 実はフリードリヒ3世は庭いじりや占星術に興味を持ち、そう言った事に熱心であったためその結果を気にしている。

 その占星術の結果ではイタリアで授けられた子供と言うのは悪魔の申し子であると言う結果であった。

 ちょうど、マクシミリアンを授かった時はその占いの結果が出ていた頃であり、マクシミリアンこそが災いの元では無いかと考えるのは充分であった。

 実際にマクシミリアンが生まれてからこの沙汰、碌な事が起きていない。

 昨年はハンガリーがスロバキアを制圧し、ポーランドがドイツ騎士団を降している。

 それに今年はオスマン帝国も再び動き出したと言うでは無いか。

 どれもこれもマクシミリアンが生まれてからの出来事では無いか。

 だからこそ、フリードリヒ3世はマクシミリアンこそが嘗て占星術の結果で出た事である悪魔の申し子と思っているのである。


「だから、マクシミリアンは他の者に任せる。このままであれば害が及ぶであろうからな」


 最早、フリードリヒ3世にはマクシミリアンが今の事態を引き起こしているようにしか見えなかった。


(どれもこれもマクシミリアンが生まれてからだ――――)


 心の中でフリードリヒ3世はそう悪態を吐く。

 考えれば考えるほどマクシミリアンと言う存在こそが災いの元にしか見えなくなってくる。

 息子であるマクシミリアンを連れて行かないと言うのはそういった事情からでもあった。

 昨年から続く、ハンガリーやポーランドの積極的な勢力拡大。

 そして、オスマン帝国の動き。

 その全ての動きが昨年からの出来事なのである。

 だからこそ、マクシミリアンさえいなければ――――フリードリヒ3世は今の状況をそう思っているのであった。















 ハンガリーとポーランドと言う東欧における大国が動こうとしているその水面下で神聖ローマ帝国皇帝、フリードリヒ3世は確かに動き始めていた。

 だが、その方向性は誰もが予測しなかったものであり、信じられないようなものであった。

 誰がフリードリヒ3世が逃亡するなどと言う選択肢を取るだなんて考えただろうか。

 正にこのフリードリヒ3世の行動はマーチャーシュ=コルヴィヌスにもカジミェシ4世にも予測できない事であった。

 それに誰が自らの息子であるマクシミリアンを置いていくと考えたであろうか。

 その理由が占星術の結果である悪魔の申し子と言う事だけであると言うのも。

 フリードリヒ3世の行動は誰にも理解出来ないような事であった。

 だが、皮肉にもフリードリヒ3世が悪魔の申し子であると言ったマクシミリアンこそが後の英傑である1人の人物――――。















 ――――マクシミリアン1世なのであった。
















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