<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.7333の一覧
[0] 烏の紋章の名の下に(架空東欧史) 【完結】[FIN](2011/11/20 20:41)
[1] 烏の紋章の名の下に ~年表~[FIN](2011/11/20 19:02)
[2] 烏の紋章の名の下に ~プロローグ~[FIN](2011/11/19 20:01)
[3] 烏の紋章の名の下に 第1話 烏の紋章とマーチャーシュ[FIN](2011/06/12 05:27)
[4] 烏の紋章の名の下に 第2話 大元帥の死と北方の若き英雄[FIN](2011/01/23 09:02)
[5] 烏の紋章の名の下に 第3話 傭兵隊長 マルティン=シュヴァルツ[FIN](2011/01/23 09:04)
[6] 烏の紋章の名の下に 第4話 リパニの狂気 ヤン=イスクラ[FIN](2011/01/23 09:04)
[7] 烏の紋章の名の下に 第5話 ヤン=ジシュカの遺産[FIN](2011/01/23 09:05)
[8] 烏の紋章の名の下に 第6話 イスクラの慧眼[FIN](2011/01/23 09:05)
[9] 烏の紋章の名の下に 第7話 戦場を動かすために[FIN](2011/11/22 20:37)
[10] 烏の紋章の名の下に 第8話 邂逅と決着[FIN](2011/01/23 09:06)
[11] 烏の紋章の名の下に 第9話 将軍拝命[FIN](2011/01/23 09:07)
[12] 烏の紋章の名の下に 第10話 蒼き狼の後裔[FIN](2011/01/23 09:08)
[13] 烏の紋章の名の下に 第11話 その名はイヴァン=ヴァシリエヴィチ[FIN](2011/01/23 09:08)
[14] 烏の紋章の名の下に 第12話 竜公の足音[FIN](2011/01/23 09:09)
[15] 烏の紋章の名の下に 第13話 約束の姫君[FIN](2011/01/23 09:09)
[16] 烏の紋章の名の下に 第14話 姫騎士 ルティエ=ポジェブラディ[FIN](2011/01/23 09:10)
[17] 烏の紋章の名の下に 第15話 竜公 ヴラド=ツェペシ[FIN](2011/01/23 09:10)
[18] 烏の紋章の名の下に 第16話 姫騎士との結婚[FIN](2011/01/23 09:11)
[19] 烏の紋章の名の下に 第17話 出会いの水車小屋[FIN](2011/01/23 09:11)
[20] 烏の紋章の名の下に 第18話 少年騎士 キニジ=パール[FIN](2011/01/23 09:12)
[21] 烏の紋章の名の下に 第19話 少年と隊長と将軍と[FIN](2011/01/23 09:12)
[22] 烏の紋章の名の下に 第20話 蒼き狼の後裔と盲目公[FIN](2011/01/23 09:13)
[23] 烏の紋章の名の下に 第21話 北方の勇者達[FIN](2011/01/23 09:13)
[24] 烏の紋章の名の下に 第22話 先を見据える眼[FIN](2011/01/23 09:14)
[25] 烏の紋章の名の下に 第23話 ポーランドの雄 カジミェシ4世[FIN](2011/01/23 09:15)
[26] 烏の紋章の名の下に 第24話 ドイツ騎士団とポーランド[FIN](2011/01/23 09:15)
[27] 烏の紋章の名の下に 第25話 カジミェシ4世とエルリックスハウゼン[FIN](2011/01/23 09:16)
[28] 烏の紋章の名の下に 第26話 ドイツ騎士団の降伏と従属[FIN](2011/01/23 09:16)
[29] 烏の紋章の名の下に 第27話 征服者 メフメト2世[FIN](2011/01/23 09:17)
[30] 烏の紋章の名の下に 第28話 竜公と征服者[FIN](2011/01/23 09:18)
[31] 烏の紋章の名の下に 第29話 英雄 スカンデルベグ[FIN](2011/01/23 09:19)
[32] 烏の紋章の名の下に 第30話 モルドヴァ大公 シュテファン3世[FIN](2011/01/23 09:19)
[33] 烏の紋章の名の下に 第31話 ハンガリーと神聖ローマ帝国[FIN](2011/01/23 09:20)
[34] 烏の紋章の名の下に 第32話 Fekete Sereg[FIN](2011/01/23 09:21)
[35] 烏の紋章の名の下に 第33話 オスマン帝国の大宰相[FIN](2011/01/23 09:21)
[36] 烏の紋章の名の下に 第34話 征服者と竜公の弟[FIN](2011/01/23 09:22)
[37] 烏の紋章の名の下に 第35話 蒙古と共に歩む国[FIN](2011/01/23 09:22)
[38] 烏の紋章の名の下に 第36話 ロシアの公女と盲目公[FIN](2011/01/23 09:23)
[39] 烏の紋章の名の下に 第37話 邂逅の時[FIN](2011/01/23 09:24)
[40] 烏の紋章の名の下に 第38話 沈黙の東欧[FIN](2011/01/23 09:25)
[41] 烏の紋章の名の下に 第39話 姫騎士と騎士王[FIN](2011/01/23 09:25)
[42] 烏の紋章の名の下に 第40話 専制公領、侵攻前夜[FIN](2011/01/23 09:26)
[43] 烏の紋章の名の下に 第41話 激震の専制公領[FIN](2011/01/23 09:26)
[44] 烏の紋章の名の下に 第42話 運命の少女[FIN](2011/01/23 09:28)
[45] 烏の紋章の名の下に 第43話 天の時、地の利、人の和[FIN](2011/01/23 09:29)
[46] 烏の紋章の名の下に 第44話 専制公領、陥落[FIN](2011/01/23 09:29)
[47] 烏の紋章の名の下に 第45話 シャルルマーニュ[FIN](2011/01/23 09:30)
[48] 烏の紋章の名の下に 第46話 悪魔の申し子[FIN](2011/01/23 09:56)
[49] 烏の紋章の名の下に 第47話 英雄の後を継ぐ者達[FIN](2011/01/23 09:57)
[50] 烏の紋章の名の下に 第48話 交錯する思惑[FIN](2011/01/23 09:57)
[51] 烏の紋章の名の下に 第49話 両雄激突[FIN](2011/01/23 09:58)
[52] 烏の紋章の名の下に 第50話 リパニの狂気対ポーランドの雄[FIN](2011/01/23 09:58)
[53] 烏の紋章の名の下に 第51話 急転する戦場[FIN](2011/01/23 09:59)
[54] 烏の紋章の名の下に 第52話 狼の気配[FIN](2011/01/23 09:59)
[55] 烏の紋章の名の下に 第53話 思わぬ結末[FIN](2011/01/23 10:00)
[56] 烏の紋章の名の下に 第54話 和平と背後に迫る者[FIN](2011/01/23 10:00)
[57] 烏の紋章の名の下に 第55話 全ては掌の上で[FIN](2011/01/23 10:01)
[58] 烏の紋章の名の下に 第56話 認識の差が生むもの[FIN](2011/01/23 10:01)
[59] 烏の紋章の名の下に 第57話 狼たる所以[FIN](2011/01/23 10:02)
[60] 烏の紋章の名の下に 第58話 有無の差[FIN](2011/01/23 10:03)
[61] 烏の紋章の名の下に 第59話 好転しない状況[FIN](2011/01/23 10:03)
[62] 烏の紋章の名の下に 第60話 牙を剥く狼達[FIN](2011/01/23 10:04)
[63] 烏の紋章の名の下に 第61話 騎士王とタタールの狼[FIN](2011/01/23 10:04)
[64] 烏の紋章の名の下に 第62話 フス派の姫と剣戟と[FIN](2011/01/23 10:05)
[65] 烏の紋章の名の下に 第63話 激昂する蒼き狼[FIN](2011/01/23 10:05)
[66] 烏の紋章の名の下に 第64話 蒼き狼は鬼神の如く[FIN](2011/01/23 10:06)
[67] 烏の紋章の名の下に 第65話 リパニの狂気と蒼き狼[FIN](2011/01/23 10:06)
[68] 烏の紋章の名の下に 第66話 猛将、二人[FIN](2011/01/23 10:07)
[69] 烏の紋章の名の下に 第67話 変化する戦いの様相[FIN](2011/01/23 10:07)
[70] 烏の紋章の名の下に 第68話 黒幕[FIN](2011/01/23 10:08)
[71] 烏の紋章の名の下に 第69話 勝利者の現れたその裏で[FIN](2011/01/23 10:08)
[72] 烏の紋章の名の下に 第70話 大鴉と蒼き狼[FIN](2011/01/23 10:09)
[73] 烏の紋章の名の下に 第71話 猛る少年騎士[FIN](2011/01/23 10:09)
[74] 烏の紋章の名の下に 第72話 猛将としての差[FIN](2011/01/23 10:09)
[75] 烏の紋章の名の下に 第73話 初邂逅[FIN](2011/01/23 10:10)
[76] 烏の紋章の名の下に 第74話 イヴァンとマーチャーシュ[FIN](2011/01/23 10:10)
[77] 烏の紋章の名の下に 第75話 友との再会[FIN](2011/01/23 10:11)
[78] 烏の紋章の名の下に 第76話 皇帝の行方[FIN](2011/01/23 10:12)
[79] 烏の紋章の名の下に 第77話 烏と悪魔の出会う時[FIN](2011/01/23 10:12)
[80] 烏の紋章の名の下に 第78話 それぞれの動向[FIN](2011/01/23 10:12)
[81] 烏の紋章の名の下に 第79話 動き始める欧州[FIN](2011/01/23 10:13)
[82] 烏の紋章の名の下に 第80話 オルレアン公 シャルル=ド=ヴァロワ[FIN](2011/01/23 10:13)
[83] 烏の紋章の名の下に 第81話 獅子公子 シャルル=ル=ティレール[FIN](2011/01/23 10:14)
[84] 烏の紋章の名の下に 第82話 来訪者は予期せぬ時に[FIN](2011/01/23 10:14)
[85] 烏の紋章の名の下に 第83話 邂逅が齎した新たな道[FIN](2011/01/23 10:14)
[86] 烏の紋章の名の下に 第84話 闘将 ウズン=ハサン[FIN](2011/01/23 10:15)
[87] 烏の紋章の名の下に 第85話 オロモウツの和約[FIN](2011/02/06 21:31)
[88] 烏の紋章の名の下に 第86話 2人の見るものは[FIN](2011/02/27 21:43)
[89] 烏の紋章の名の下に 第87話 東欧の三傑[FIN](2011/03/13 21:57)
[90] 烏の紋章の名の下に 第88話 教皇と言う名の力が求められる時[FIN](2011/04/10 21:45)
[91] 烏の紋章の名の下に 第89話 ローマ教皇 ピウス2世[FIN](2011/04/29 08:47)
[92] 烏の紋章の名の下に 第90話 終わりを迎える激動の年[FIN](2011/05/22 20:56)
[93] 烏の紋章の名の下に 第91話 謁見[FIN](2011/06/12 05:33)
[94] 烏の紋章の名の下に 第92話 イタリアの地で求めるもの[FIN](2011/06/13 18:46)
[95] 烏の紋章の名の下に 第93話 ベルガモにて[FIN](2011/07/25 21:14)
[96] 烏の紋章の名の下に 第94話 老司令 バルトロメオ=コッレオーニ[FIN](2011/07/25 21:44)
[97] 烏の紋章の名の下に 第95話 女摂政 ビアンカ=マリーア=ヴィスコンティ[FIN](2011/08/15 23:30)
[98] 烏の紋章の名の下に 第96話 ヴラドとシュテファン[FIN](2011/09/05 21:03)
[99] 烏の紋章の名の下に 第97話 集結[FIN](2011/09/19 21:20)
[100] 烏の紋章の名の下に 第98話 母[FIN](2011/10/02 22:12)
[101] 烏の紋章の名の下に 第99話 決戦前夜[FIN](2011/10/31 21:18)
[102] 烏の紋章の名の下に 最終話 全ては始まりの地で[FIN](2011/11/20 19:08)
[103] 烏の紋章の名の下に ~登場人物~[FIN](2011/11/20 19:50)
[104] 烏の紋章の名の下に ~あとがき~[FIN](2011/11/20 19:14)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[7333] 烏の紋章の名の下に ~プロローグ~
Name: FIN◆3a9be77f ID:1110e6a6 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/19 20:01





 ――――1456年、ベオグラード









 二つの勢力の軍勢が対峙している。

 一つは10万の大軍勢。

 もう一つは1万の軍勢。

 10万の軍勢は周囲に隙間があるかも解らないようにベオグラードを包囲している。

 包囲している軍勢はメフメト2世が率いるオスマン帝国軍である。

 ベオグラードは、オスマン帝国の中央ヨーロッパ侵攻を食い止める防衛線の役目を果たすと言う役割を持った重要な要所である。

 なんとしても、オスマン帝国としてはこの要所を落とす必要があった。

 対する、1万の軍勢はハンガリーのフニャディ=ヤーノシュ率いる兵、1万。

 数の上では全く戦いにすらならないと言う兵力差である。

 メフメト2世もこれだけの兵力差があればベオグラードなど容易に落とせると踏んでいた。

 しかし――――事はそう簡単には運ばなかった。





「ええい……まだ、落とせぬのか!」


 戦局は一向に優位に運べない。

 配下からの戦況報告を聞き、メフメト2世は激昂する。

 ハンガリーのフニャディ=ヤーノシュ率いる兵団は僅かに十分の一でしかないと言うのに未だにベオグラードを落とせる気配が無い。

 メフメトが苛々するのも無理は無かった。

 このベオグラードさえ落としてしまえばヨーロッパに侵攻するのが容易になるのだから。

 だが、それは相手にとっても同じであると言える。

 ヤーノシュ率いる軍勢1万も死に物狂いの戦いを挑んでくる。

 それに対しオスマン軍は1453年の折りにコンスタンティノープルを落としたことによる厭戦気分があるのか士気が振るわない。

 ヤーノシュ程の人物がその士気の乱れに気付かないわけがない。

 先程からくる報告は全て悪い方向のものであった。


「ぐ……これでは、ヤーノシュの思うつぼでは無いか!」


 メフメトが苛立ちを表に出しながら立ち上がる。

 最早、軍勢の状態を戻すことは敵わない。

 メフメト自身もそれは痛感していた。















「包囲の一角が崩れたか」


 冷静に戦場の動きを見極める1人の武将。

 1万の軍勢を指揮しているのはハンガリー摂政、フニャディ=ヤーノシュである。

 この戦いでは全軍の指揮を執る立場で参戦していた。

 現在のハンガリー王、ラディスラウス5世は若年であり、全軍を指揮出来るだけの力量は持ち合わせていない。

 それ故に摂政であるヤーノシュが軍勢の指揮を執っているのだった。


「父上、このまま勝負を決められるので?」


 目を閉じたまま戦略を考えるヤーノシュに1人の少年が問いかける。

 少年の名前はフニャディ=マーチャーシュ。

 ヤーノシュの二男である。

 長男のフニャディ=ラースローはヤーノシュの命令を受けて軍勢の一部を率いている。

 マーチャーシュは初陣と言うこともあり、ヤーノシュのもとでその駆け引きを学んでいた。

 ヤーノシュもまだ、年若いマーチャーシュが供をすることには激しく反対していたのだが、息子の懇願には敵わなかった。

 ならば、せめてと言うことでヤーノシュは自分の傍に置き、戦と言うものを教えているのだった。


「うむ……私も今、それを考えていたところだ」


 マーチャーシュの言葉にヤーノシュは頷く。

 まさに自分が考えていた事と同義だったからだ。


「では、あの一角から崩しにかかるのですか?」


 ヤーノシュが頷いたのを確認したマーチャーシュが更に問いかける。

 マーチャーシュの見据えた先を見て驚いた表情をするヤーノシュ。





 なんと言うことだろうか。

 初陣にも関わらず、マーチャーシュは戦場の動きを把握している。

 マーチャーシュの事は元々から才能もあり、勤勉家だと思っていたが、これほどまでに才能を秘めていたとは思わなかった。

 戦場の動きを把握するなどと言うことは一朝一夕に出来るものでは無い。

 今の自分があるのもフス戦争の名将、ヤン=ジシュカとの戦いから始まり、オスマン帝国皇帝、ムラト2世との幾度と無い戦いを経たからこそだとと言うのに。

 戦場の流れを把握すると言うのには相応の経験と言うものが必要だと言っても良かった。

 確かにワラキア公、ヴラド=ドラクルと共に戦のことは教えてきたつもりでいたが……この才能は並みのものでは無いだろう。

 ましてや、マーチャーシュは初陣なのである。

 将来的な力量は恐らく、自分をも凌駕するかもしれない。





「うむ、マーチャーシュの言うとおりだ。総員、出撃するぞ!」


 マーチャーシュの言に頷き、すぐさまヤーノシュは軍に命令を下す。

 今のマーチャーシュの指摘はまさに自分が考えていた事と同じだったのだ。

 その言葉に頷かない理由が存在しない。


(この息子は必ず、大物になる――――)


 ヤーノシュはそう確信した。

 ならばこそ、この戦は絶対に勝たなくてはならない。

 己の才覚の片鱗を見せた息子をこんなところで死なせるわけにはいかない。

 ヤーノシュは自らの心に言い聞かせながら軍勢を進め始めた。














「おのれ、ヤーノシュめ!」


 最早、完全に軍勢は浮足立ってしまった。

 突如としたヤーノシュの動きに軍の命令系統が完全に麻痺してしまったのである。

 メフメト自身も戦場の流れは把握していたが、それが追い付かなかった。

 軍勢が多いと言うのは大きな武器ではあるが、欠点も多く持ち合わせている。

 それが、今回の劣勢の要因の一つであった。

 あまりにも軍勢が多い故か、指揮が行き届かないのである。

 いや、メフメトの力を持ってすれば指揮を執ることは出来る。

 だが、ヤーノシュの動きは速かった。

 寡兵であると言う利点を活かした機動を重視した戦術と火計による兵の分断。

 更にはこの戦に参加していたドミニコ会の修道士であるヨアンネス=ド=カピストラヌスの苛烈な攻撃。

 特にヨアンネスの戦い振りは凄まじく、オスマン帝国が誇る名将、カラジャ=パシャを討ち取った。

 ヤーノシュとヨアンネスの神速と言うべき軍勢の運用の前にメフメトは手を打つ前に包囲の一角を崩されてしまったのである。

 こうなると包囲戦を仕掛けている意味が無い。

 ましてや、オスマン軍は本国から遠征をしてきてベオグラードに布陣しているのだ。

 勝ち戦ならまだしも、劣勢の状態から下がり始めた士気を上げるなどと言うのは難しい話だった。


「余が自ら指揮をしておりながら、このざまとは!」


 悪態を吐いてみるが、どうにもならない。

 特にカラジャ=パシャがヨアンネスによって討ち取られた事で劣勢は決定的になってしまっている。

 長年に渡ってオスマン帝国の軍勢を率いてきた中心人物が一介の修道士に討ち取られたなど前代未聞だ。

 最早、この戦いは完全にヤーノシュの手のひらの上に踊らされてしまっている。





「……ゲディクを呼べ」


 戦場の動きを見ながら配下のゲディク=アフメト=パシャを呼び付ける。

 暫く待つと落ち着いた様子のゲディクがメフメトのもとへとやって来た。


「お呼びでございますか、陛下」

「うむ、そなたに尋ねたいことがある」

「……なんなりと」

「この戦は……余の負けか?」


 落ち着いた表情でメフメトはゲディクに尋ねる。

 今までは苛立ちを隠そうとは思わなかったが、時間が経過したことで逆に頭が冷静になった。

 ここは熱くなってしまえば負けなのだ。

 先程からずっとヤーノシュに踊らされて苛立っていたが、それこそがヤーノシュの狙いだったのかもしれない。 

 ここに来て漸く、冷静になったメフメトは自らが最も信頼している配下であるゲディクを呼んだのである。


「はい、残念ながら。今回は完全にヤーノシュめにして遣られましたな」

「……そうか」


 ゲディクも今回は負けだと言うが不思議と苛立ちは湧かなかった。

 自分でも今回はヤーノシュに負けたのだと解っていたからだろう。

 ならば、今の状態で出来ることは既に解っている。


「ゲディク、全軍に通達せよ。撤退するとな」

「はっ!」


 メフメトの命令に従い、ゲディクが急いでその場を後にする。

 後のことはゲディクに任せておけば問題は無いだろう。

 自身も撤退のための指揮を執る。

 今、やるべきことはそれだけだった。

 だが、この屈辱は必ず晴らさねばならない――――。

 メフメトはヤーノシュに遣られた軍勢を見ながら心に誓った。















「父上、敵軍が撤退していきます」

「……放っておいても良い。残念だが我が軍に追撃をかけるだけの兵力は無い」


 オスマン軍が撤退を始める様子を見ながらヤーノシュは呟く。

 確かに今回の戦は勝利することが出来たが、その兵力差は10倍もあるのである。

 追撃をしかければこれ幸いと叩かれてしまうだろう。

 それに、撤退の指揮を執るのはゲディク=アフメト=パシャかメフメト2世自身のどちらかだろう。

 その時点で迂闊な追撃は自らの破滅に直結していた。


「そうですね……今回は勝利出来ただけでも大きいかと思いますし」

「うむ」


 マーチャーシュも今回の戦の重要性を理解している。

 今回の戦いでの重要な部分はベオグラードを守り切ることであり、オスマン軍を撃破することである。

 この目的を達成出来た時点で、此方の勝利は確定であった。



「やはり、父上は凄いですね。私は見ていることしか出来ませんでした」

「いや、そんなことは無い。お前は良く、戦場の動きと言うものを把握していた」

「そうでしょうか……」


 自信が無さそうな表情をしているマーチャーシュにヤーノシュは優しく頭に手を置く。


「そんな表情をすることは無い。初陣でここまでやれたのだ。もっと、自身を持っても良い」

「父上……」

「だからこそ、私の後を……っ」

「父上っ!?」


 次の言葉を紡ごうとして突如、崩れ落ちるヤーノシュ。

 慌てて、ヤーノシュに近寄るマーチャーシュ。

 先程までは初めての戦に夢中でヤーノシュの様子には気付かなかったが、ヤーノシュは既に病魔に侵されていたのである。

 兆候が出始めたのはベオグラードに布陣してから、暫く経過した後。

 今までは薬で抑えていたが、戦が終わったことで気が抜けたのか一気に症状が表れてきたらしい。

 やはり、オスマンとの戦いが終わって気が抜けてしまったのだろう。


「父上、父上っ……!」


 マーチャーシュは何度もヤーノシュに呼びかけてみるが、その返事は弱々しい。

 最早、意識も混濁し始めている様子だ。

 恐らく、ヤーノシュはその強靭な意志力で病を無理矢理抑え込んでいたのだろう。

 狼狽しながらもマーチャーシュはそう結論付けた。

 しかし、どうすれば良いのかどうしても思いつかない。





「マーチャーシュ……良く聞け」

「……父上」


 ヤーノシュがゆっくりと口を開き始める。


「私は最早、長くは無い。お前はラースローと共に軍に通達し、国へと戻るのだ」

「はい……。ですが、父上は……?」

「私も共に国へと戻りたいが……最早、そこまでは身体が持たぬであろう」

「父上ともあろう人がなんと弱気な事を!」

「……解っている。解っているのだ。だが、身体の事は自分が良く解っている」


 ヤーノシュは既に自分の命が数日だと言うことを実感していた。

 恐らく、自分の罹った病は黒死病だろう。

 何度も戦場でこの病によって死んでいった人間達を見てきた。

 自分もその人間達と同じような状態になっているのである。

 ましてや、薬で無理矢理に兆候を抑えながら戦に出ていたのだ、最早……助かることは無い。

 不思議と死ぬと言うことは怖くなかった。

 だが、一つだけ心残りがあるとすれば……この息子の行く末を見ることが叶わないことか。

 自らが教えられるものは教えてきたつもりだ。

 しかし、これ以上マーチャーシュを自らの手で導いていけないことが何よりも悔しかった。

 これからマーチャーシュの歩む道は困難を極めるかもしれない。

 せめて、その助けとなることを少しでも伝えたかった。

 だが――――それも叶いそうにも無い。


「すまぬ、マーチャーシュ。父としてお前を導いてやれそうも無い……」

「そんなこと言わないで下さい! 父上にはまだ、教わらなくてはならないことが沢山あります」


 息子が――――マーチャーシュが必死に呼びかけている。

 だが、意識の方は朦朧としていて働いてくれない。


「マーチャーシュ――――」


 今、自分が何を言ったのかさえ解らない。

 ヤーノシュは最後に愛する息子の名前を呼んで意識を手放した。










 ベオグラードでの戦いが終わった数日の後。





 ――――1456年8月11日





 ――――フニャディ=ヤーノシュ、死去。





 この後から約、2年後。





 ――――1458年





 物語は動き始める。
















前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.050362110137939