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No.7208の一覧
[0] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母(DQ5 女主人公再構成 完結済 補遺追加)[航海長](2011/11/22 22:21)
[1] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第一話[航海長](2009/03/09 22:18)
[2] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二話[航海長](2009/03/10 21:03)
[3] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三話[航海長](2009/03/16 21:59)
[4] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四話[航海長](2009/03/16 21:59)
[5] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五話[航海長](2009/03/13 22:04)
[6] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六話[航海長](2009/03/14 20:30)
[7] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七話[航海長](2009/03/16 23:37)
[8] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第八話[航海長](2009/03/16 22:09)
[9] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第九話[航海長](2009/03/17 21:10)
[10] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第十話[航海長](2009/03/18 21:52)
[11] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第十一話[航海長](2009/03/26 21:53)
[12] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第十二話[航海長](2009/03/27 23:51)
[13] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第十三話[航海長](2009/03/28 21:57)
[14] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第十四話[航海長](2009/03/29 17:34)
[15] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第十五話[航海長](2009/03/30 21:59)
[16] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第十六話[航海長](2009/03/31 22:10)
[17] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第十七話[航海長](2009/04/01 23:41)
[18] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第十八話[航海長](2009/04/02 21:58)
[19] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第十九話[航海長](2009/04/03 21:49)
[20] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二十話[航海長](2009/04/04 21:08)
[21] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二十一話[航海長](2009/04/05 17:21)
[22] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二十二話[航海長](2009/04/06 21:43)
[23] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二十三話[航海長](2009/04/07 21:53)
[24] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二十四話[航海長](2009/04/08 21:31)
[25] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二十五話[航海長](2009/04/09 21:58)
[26] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二十六話[航海長](2009/04/10 20:57)
[27] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二十七話[航海長](2009/04/11 22:42)
[28] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二十八話[航海長](2009/04/12 18:24)
[29] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第二十九話[航海長](2009/04/13 22:52)
[30] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三十話[航海長](2009/04/14 21:09)
[31] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三十一話[航海長](2009/04/15 22:49)
[32] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三十二話[航海長](2009/04/16 21:04)
[33] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三十三話[航海長](2009/04/17 23:51)
[34] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三十四話[航海長](2009/04/18 17:19)
[35] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三十五話[航海長](2009/04/19 22:05)
[36] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三十六話[航海長](2009/04/20 21:30)
[37] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三十七話[航海長](2009/04/23 23:45)
[38] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三十八話[航海長](2009/04/24 21:44)
[39] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第三十九話[航海長](2009/04/25 21:04)
[40] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四十話[航海長](2009/04/26 17:19)
[41] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四十一話[航海長](2009/04/27 21:45)
[42] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四十二話[航海長](2009/04/28 21:59)
[43] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四十三話[航海長](2009/05/02 11:07)
[44] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四十四話[航海長](2009/04/30 21:36)
[45] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四十五話[航海長](2009/05/02 10:55)
[46] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四十六話[航海長](2009/05/02 11:00)
[47] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四十七話[航海長](2009/05/03 21:06)
[48] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四十八話[航海長](2009/05/04 02:09)
[49] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第四十九話[航海長](2009/05/05 20:48)
[50] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五十話[航海長](2009/05/06 18:46)
[51] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五十一話[航海長](2009/05/07 21:00)
[52] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五十二話[航海長](2009/05/08 20:50)
[53] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五十三話[航海長](2009/05/09 21:20)
[54] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五十四話[航海長](2009/05/10 21:02)
[55] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五十五話[航海長](2009/05/11 20:14)
[56] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五十六話[航海長](2009/05/21 21:03)
[57] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五十七話[航海長](2009/05/13 20:35)
[58] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五十八話[航海長](2009/05/14 21:08)
[59] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第五十九話[航海長](2009/05/15 20:39)
[60] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六十話[航海長](2009/05/16 00:25)
[61] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六十一話[航海長](2009/05/17 15:56)
[62] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六十二話[航海長](2009/05/18 20:47)
[63] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六十三話[航海長](2009/05/19 21:26)
[64] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六十四話[航海長](2009/05/20 21:15)
[65] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六十五話[航海長](2009/05/21 20:58)
[66] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六十六話[航海長](2009/05/23 16:48)
[67] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六十七話[航海長](2009/05/23 18:21)
[68] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六十八話[航海長](2009/05/24 21:05)
[69] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第六十九話[航海長](2009/05/25 21:21)
[70] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七十話[航海長](2009/05/26 21:22)
[71] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七十一話[航海長](2009/05/27 21:17)
[72] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七十二話[航海長](2009/05/28 21:01)
[73] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七十三話[航海長](2009/05/29 20:46)
[74] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七十四話[航海長](2009/05/30 21:18)
[75] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七十五話[航海長](2009/05/31 20:30)
[76] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七十六話[航海長](2009/06/01 20:47)
[77] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七十七話[航海長](2009/06/02 22:42)
[78] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七十八話[航海長](2009/06/03 21:38)
[79] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第七十九話[航海長](2009/06/04 21:22)
[80] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第八十話[航海長](2009/06/05 20:49)
[81] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第八十一話[航海長](2009/06/06 21:49)
[82] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 第八十二話[航海長](2009/06/07 17:57)
[83] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 最終話[航海長](2009/06/08 21:24)
[84] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 最終あとがき[航海長](2009/06/08 21:26)
[85] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 補遺[航海長](2011/11/22 22:23)
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[7208] ドラゴンクエスト5 宿命の聖母 最終話
Name: 航海長◆ccf1ea4b ID:88514eac 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/08 21:24
 地上に戻ったヘンリーは、抱えていた世界樹の花を持って、ゆっくりとリュカの亡骸のほうへ歩いていった。誰もが固唾を呑んで見守る中、ヘンリーはその花をリュカの胸の上にそっと置いた。
「頼む……帰ってきてくれ、リュカ」
 そう言って、手を組んで祈りを捧げるヘンリー。横に並んで、子供たちも祈る。
「お母さん……」
「帰ってきて……!」
 気がつけば、全員が手を合わせるか、あるいは目を閉じて、唯一つの願いを一心に念じていた。
 
 帰ってきて。
 帰って来い。
 我らの元に。
 この世界に。


ドラゴンクエスト5 ~宿命の聖母~

最終話 聖母の帰還


「ここは……」
 気がつくと、リュカは見知らぬ土地に立っていた。
 そこは何とも美しい世界だった。果てしなく広い大地は、色とりどりの花と緑の若草で覆われ、唯一つ、大きな川だけがその大草原を横切って流れていた。感じだけは、あのグレートフォール山の頂上台地に似ていたかもしれない。
「わたしは……どうしてこんな所に?」
 記憶があやふやで、思い出すことができない。ただ、自分がすべきことはわかっていた。
 行かなければならない。川の向こうへ……リュカは川に向かって一歩足を踏み出した。しかし、数歩も行かないうちに、彼女は足を止めた。
「そっちへ行ってはならん」
 そう言って、リュカの前に立ちはだかった人物がいたのだ。かなりの高齢と思われる老人だった。
「……通してください。わたしは、あっちへ行かなきゃいけないんです」
 リュカはそう言って、老人を避けて先へ進もうとしたが、老人は年齢に見合わぬフットワークで、リュカの行く手を塞ぎ続けた。
「行ってはならん。お前は、まだあちらへ行くべき人間ではない」
 リュカは立ち止まり、彼女にしては珍しく、苛立った様子で言う。
「何でですか……わたしが行かなくちゃいけない、ってわかってるのに、どうしてお爺さんは行ってはいけない、なんて言うんですか」
 老人は答えた。
「まだ、お前にはやるべき事があるだろう。それをせずに、川の向こうへ行く事はできんはずだ」
「やるべき事?」
 リュカは首を傾げる。そんな事が自分に……? わたしは、自分にできることは全てみんなにしてあげたはず。
 そこまで考えて、リュカはみんなって誰? と疑問を抱く。その表情の変化に気付いたのか、老人はさらに言葉を続けた。
「思い出すのだ、リュカよ。お前の運命は、まだ終わってはいない。帰るのだ。お前を待っている人々のところへ」
 リュカは考える。みんな? わたしを待っている人? それは誰? 疑問が次々に頭の中に浮かぶが、川向こうを見たとたんに、その疑問は氷解する。そこに立っていたのは……
「父様、母様……」
 川向こうにパパスとマーサが立っていた。そうか、待っていてくれたのは父様と母様だったんだ、とリュカは思い、再び川のほうへ歩き出した。
「待て! 行くなと言うのに!!」
 老人がやはり止めようとするが、リュカは今度はそのブロックをかわし、小走りに川へ向かう。
「父様、母様……! 今そっちに行きます!」
 しかし、川原のところまで来た途端、川向こうの父は厳しい声で言った。
「そこまでだ。リュカ。こっちへ来てはいけない」
「え……」
 リュカは足を止めた。
「私たちはあなたを迎えに来たのではありません。止めるために来たのですよ」
 マーサも言った。
「止める……? どうしてですか?」
 リュカの問いに、パパスは答えた。
「ここは、死者の国だからだ。その川を渡れば、もう二度と引き返すことはできない。お前はまだこっちへ来てはいけない」
 それを聞いて、リュカは思い出した。そうだ、わたしは魔王と戦い……
「戦って、死んだはず……」
 倒れて散った仲間を救うために、メガザルを唱えた。だからわたしは死んでいるはず……
「違いますよ、リュカ」
 リュカの心を読んだように、マーサが言った。
「あなたの宿命は、まだ終わってはいません。これからあなたは未来を担う世代を……あなたの子供たちを守り、育んでいかねばなりません。私たちがあなたにそうしてあげられなかった分まで、子供たちを可愛がってあげなさい」
「そうとも」
 パパスが妻の言葉に頷く。
「お前は、親を失う辛さを知っているだろう。お前の子供たちに、そんな辛さを味あわせてはいけない。帰りなさい。子供たちやヘンリー君のところへ」
「でも、どうやって?」
 リュカは両親に尋ねた。ここへどうやって来たかも覚えていないのに、どうすれば帰れるのか。すると、追いついてきた老人が言った。
「どうやら、迎えが来たようだ」
「えっ?」
 リュカがその老人の方を振り向いた時、彼女の嗅覚を、今まで嗅いだ事もない、妙なる香りがくすぐった。
「これは……」
 魂まで揺さぶられるようなその香りに、リュカは思わずその香りが漂ってくる方向を向く。それは、パパスやマーサのいる川向こうとは、真逆の方向だ。
「その香りを辿って行きなさい。きっと、あなたが愛する人たちの所へ導いてくれるはず」
 マーサが言った。
「ヘンリー君や孫たちによろしくな、リュカ。そして、また何時か……お前が本当の意味で全てをなし終えたその時に、改めて会おう」
 パパスが言った。リュカは振り向き、そして両親に頭を下げた。
「はい……父様、母様……!」
 その答えを聞き、安心したように微笑むと、パパスとマーサの姿はすっと消え去った。
「やれやれ、両親の言う事は聞くのだな」
 老人が苦笑したように言う。リュカは老人にも頭を下げた。
「すみません、お爺さん……疑ったりして。でも、あなたは一体?」
 両親と同じくらい自分を案じてくれたその老人に、リュカは覚えがあるような気がした。老人は笑顔を浮かべると、首を横に振った。
「なに、名乗るほどの者ではない。ただの通りすがりだよ。それより、早く行け。お前を待っている人がいるのだろう?」
 そうでした、とリュカは言うと、香りの来る方向に歩き始めた。何度も振り向きながら。
「さようなら、お爺さん! ありがとう!」
 そう叫ぶリュカに、老人は苦笑で答える。
「良いから、早く行け!」
 やがて、老人の視界からリュカの姿は消え、花の香りも消えた。
「やれやれ、余に……このミルドラースにあんな説教をしておきながら、自分が先に死にそうになるとはな。そんな事を認められるものか」
 老人――ミルドラースは歩き出した。
「宿命の聖母、リュカよ……今度こそ本当にさらばだ。もう二度と会うこともあるまい」
 ミルドラースが歩む道の先では、草原が消え、灼熱の荒野が広がっていく。彼は、死者の国には行けない。罪深い者が行き着く先は……地獄でしかない。
「そういえば、地獄にはエスタークがいたな。かの者が蘇らぬよう、見守るのも一興か……」
 天空の勇者でも倒しきれなかった地獄の帝王を封じ込める。それもまた、自分が勇者を越える存在と示す方法だろう。そのためにはゲマやラマダを……先に行った者たちを探さねばな、と考えるミルドラース。地獄への道行きにしては軽い足取りで、最後の魔王は永遠に去って行った。
 
「……あっ!?」
 じっと見守っていたヘンリーは驚きの声を上げた。リュカの胸に乗せていた世界樹の花が、淡い光を発したのだ。光はリュカの身体に染み渡るようにして消え、それと引き換えに、青白くなっていたリュカの身体が、暖かみのある肌色に戻っていく。傷や闘いの汚れさえも消え去り、微かな呼吸音と共に、その胸が数度上下した。そして。
「ヘンリー……?」
 リュカは目を開き、そっと身体を起こした。
「リュカ!」
 もう二度と聞けないと覚悟していた最愛の女性の声に、ヘンリーは彼女の身体を強く抱きしめた。
「馬鹿野郎……心配させやがって! 二度と、二度とあんな無茶はするなよ! いいな!?」
「うん……ごめんね」
 リュカもまた、夫の肩にそっと手を回す。だが、次の瞬間、わあっと声を上げて、見守っていた仲間たちや人々が、リュカのところに殺到してきた。
「お母さん! お母さん!! お母さん!!!」
「お母様! 良かった、本当に良かった!!」
 左右からリュカの身体に抱きついてくる子供たち。
「おかえりなさい、リュカ!」
「姫様! もうどこにも行かないでくださいよ!!」
 子供を抱いたままのリュカを、胴上げでもするように担ぎ上げるビアンカとサンチョ。ヘンリーは妻から引き剥がされ、地面に落ちて尻餅を打った。
「いてぇ! おい、お前ら……せっかくの良いシーンに水を……」
 抗議しようとするヘンリーの頭を、踏みつけてピエールが言う。
「うるさい! もうリュカ様はお前だけのリュカ様ではないぞ。世界のリュカ様だ!!」
 さらに、そのピエールを踏み台にしてリュカの胸に飛び込むスラリン。リュカたちを担いでいるビアンカとサンチョを、さらに担ぎ上げるアンクルとゴレムス。祝砲代わりなのか、イオラやメラミなどぶっ放してみせるミニモン、サーラ。
 ピピン、ヨシュアは肩を組み、調子外れに兵士たちが歌う勝利の歌を歌いながら、抑え切れない喜びを表現する。ジュエル、ブラウン、ロッキーは輪になってアンクルたちの足元で踊る。それにあわせて、頭上をくるくると飛び回り、火を吐いたりアクロバットをしたりして、溢れる喜びを表現するのは、メッキーとホイミン、それにシーザーだ。
 ロビンはマーリンを肩車し、四本の足を器用に動かして、剣舞のような事をし、時々、誰かが祝砲で呪文を唱えると、あわせてレーザーを撃っていたりする。そうした光景を見て、マスタードラゴンとグランマーズは愉快そうに笑っていた。
「やれやれと……おーい、プックル」
 ヘンリーはプックルを呼んだ。駆け寄ってきた彼の背中にまたがると、軽く首を叩く。
「たのむぜ、戦友」
 ヘンリーの言葉に頷き、プックルは大ジャンプして、ゴレムスの頭に飛び乗った。ヘンリーもそこに立つと、ゴレムスに悪いな、と言ってから、妻を呼んだ。
「リュカ」
「ヘンリー」
 普段はヘンリーのほうが頭一つ高いのだが、今は二人の顔の高さは一緒だった。
「……もう、離さないからな」
「……うん」
 二人の唇がそっと重ねられ、ひときわ大きな歓声が沸いた。

「さて……リュカよ、そして一族の者たちよ」
 そこへ、厳かなマスタードラゴンの声が響き渡り、一行は騒ぐのを止め、その場に畏まった。
「真に良くやってくれた。そなたらの働きで、この世界に再び平和が訪れた。心から礼を言うぞ」
 リュカとヘンリー、ユーリルとシンシアは並んで頭を下げた。
「いえ、母を探す旅のついでのようなものでしたから」
 リュカが答えると、マスタードラゴンは大笑した。
「はっはっは、ついでで世界を救うとは、お前も大物だな。ともかく、お前たちの働きに報いるためにも、何か褒美を与えたい。希望はあるか?」
「え? 褒美……ですか?」
 リュカが顔を上げると、マスタードラゴンは頷いた。
「まぁ、我の力が及ぶ範囲ではあるがな……なんでも一つだけ、願いをかなえよう」
 急な話に、リュカたちは戸惑った。周りの仲間たちと顔を見合わせる。そのうち、魔物代表でマーリンが言った。
「我らには特に願い事はありませぬ。今後も、リュカ殿と共にあることができれば」
 仲間一同、大いに頷く。リュカは聞いた。
「本当にそれでいいの?」
「ええ。今のままで、我々は満足しております。それより、リュカ様のほうこそ、何か願い事はないのですか?」
 ピエールに言われ、リュカはサンチョ、ビアンカとピピンを見た。真っ先に首を横に振ったのはピピンだ。
「いえ、私は何も」
「私も同じです、姫様。私は姫様にお仕えできて、ビアンカさんが傍にいてくれれば、他に何もいりません」
 サンチョが言うと、ビアンカがおどけたように言う。
「あら、私はリュカの次で二番目なの?」
 こほんこほんと咳払いをしてごまかすサンチョ。リュカは家族たちを見た。
「ボクも、別に何もいらないかなぁ」
「私もお兄様と同じです。お父様とお母様と、みんなと、ずっと幸せに暮らせれば……」
 まずユーリル、ついでシンシアが首を横に振った。そしてヘンリーも。
「オレにはお前だけで良い。リュカ、何か願いがあるなら、言ってみろよ」
「……うん、わかった」
 リュカは頷くと、マスタードラゴンの方に向き直った。
「では、わたしからお願いが一つあります……魔界の、ジャハンナの街の人々を、この世界に連れてくることは可能でしょうか?」
「なに?」
 首を傾げるマスタードラゴンに、リュカは事情を説明した。マスタードラゴンは頷いた。
「良かろう。マーサの功績を考えても、その街町の住民たちは保護せねばなるまい。そうだな……住む場所を失ったエルヘブンの民のためにも、街ごとここへ転送する事にしよう」
 マスタードラゴンがそう言って何事か念じると、背後の世界樹の木陰に蜃気楼のように街の像が浮かび上がり、程なくして実体化した。確かに、ジャハンナの街だ。
「わぁ……」
 驚きに目を丸くするリュカたち。決して万能ではなくても、やはりマスタードラゴンは神に相応しい力の持ち主ではあった。そのマスタードラゴンは、力を使ったためか、少し疲れた様子で言った。
「それでは、リュカよ……世界を救った宿命の聖母よ。改めて礼を言おう。本当に良くやった。ありがとう……そして、さらばだ。またいつか会おう」
「はい、マスタードラゴン様もお元気で!」
「うむ、家族仲良くな!」
 マスタードラゴンはリュカの別れの挨拶にそう答え、飛び去っていった。金色の神竜がやがて点になって空に消えてしまう頃、異変を悟ったのか、ジャハンナの街のほうからざわめきが聞こえてきた。
「おっと、どうやら事情説明の時間らしいな」
 ヘンリーが苦笑しながら言うと、リュカは笑顔で頷いた。
「そうね。きっと驚いてるわ」
「よし、じゃあ、行くか!」
 ヘンリーが差し出した手を、リュカは握った。
「ええ、ユーリル、シンシア、おいで」
 子供たちが駆け寄ってくる。
「はい、お母さん!」
「今行きます、お父様!」
 リュカとヘンリーは子供たちと手をつなぎ、歩き始める。その後を、仲間たちがついて歩いていく。かつて妖精だった人々が守る樹の下、魔物だった人々の住む街へ向けて。それは、人と魔物と妖精が、共に歩み暮らしていける世界を象徴する光景。
 
 後の歴史書は語る。
 
 天空の勇者の母、宿命の聖母リュクレツィアは、また新しい世界の母でもあった、と。

(完結)


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