外伝2 顔合わせ アンコ編―1
その日、アンコは機嫌が悪かった。
どれくらい悪かったというと、廊下をすれ違う人が全員――上忍とか含めて――下を向いて視線を合わせないようにするほど悪かった。
元々つり目だった眼はますますつりあがり、剣呑な空気を周囲に振りまいている。
原因はわかっている。
先ほど三代目火影に話された任務のことだ。
任務自体はいい。どうでもいい。勝手にやってくれといった感じだ。
一部下の忍びで不穏な空気を振りまいている奴がいるらしいが、関係ない。
九尾の狐など、まったくもって興味もない。
ただその子供の監視を自分に任すとはどういうことだ。
これでも大蛇丸のうんぬんがあり、里から容易に外に出ることが許されていない身でこそあるが、実力的にいえばアンコは十分に上忍としてやっていけるほど力をもった忍びである。
それに子守をしろとは!?
下忍でもあるまいし、なぜそんな任務を任されなければいけないのか。
アンコは抗議した。猛然と抗議した。
だが三代目火影は無情にも「もう決定しちゃった。」…とのたまったのだ。
アンコはこのとき、プッチーンと自分の中で何かが切れる音を聞いた。
いつものことならそのまま暴れていたアンコだが、相手は仮にも里の長、三代目火影だ。
頭の中で素数を数え、乱れた息を整える。
ヒッヒッフー (違。
数回繰り返し、息を整ったのを確認すると、再び三代目火影へと向き直る。
このクソジジィ…!
「拒否権は?」
「んなもんないわい。」
決定、私刑。
火影、私刑。
アンコは高速で印を組む。
今までで最速の速さで印を組む。
今なら大蛇丸にもほめてもらえるだろう。うれしくないが。
「変化!」
「ぬっ!?」
モクモクと煙が発生し、その向こうに人影が見える。
火影は椅子から立ち上がりいつでも対処できるように姿勢を整えながら、その煙の向こうの人影に目を向ける。
しかし何故変化なのか。
攻撃系の術を使ってこないのはわかる。
火影に対して教えをこうてるわけでもないのにそんなもん放ったら、反逆罪で囚われてしまう。
だからといって、今変化したところで何ができるというのか。
そんなコトをつらつらと考えていると、煙がやっと晴れ、アンコの変化した姿が眼に映った。
「んなぁ!?」
すっとんきょんな声を上げる三代目火影。
それもそのはず。
アンコが変化したその姿、それは今は里を抜け出し、抜け忍となってしまった三代目火影の教え子、大蛇丸の姿であったのだ。
さすがというか、アンコは大蛇丸の教え子であるので、その姿は本物と比べても遜色がなかった。
細部まで再現済みだ。
しかし…それが三代目火影にとっては不幸であった。
アンコが変化した大蛇丸。それはふんどし一丁であったのだ。
一応、(変態だけど)里の三忍にも数えられた人物である。
その身体は見事といっていいほど完成されていた。
無駄のない筋肉。贅肉など一切見当たらない身体。立派な腹直筋。
万人が万人、褒め称えるだろう身体だ。首の上に鎮座するのが大蛇丸の顔でなければ。
顔を青くする三代目火影。
きもい。きもすぎる。
今では過去となってしまったとはいえ、弟子に当たる人物。
だがそれとコレとは別。
コレは生理的に無理。
冷や汗を流しながら後ずさる三代目火影にニヤリとアンコ(外見は大蛇丸)は笑い、再び印を組む。
「ちょっ、それは!!」
“影分身”の印を。
影分身
それは普通の分身の術とは違い、実態のある分身を作る術。
力をこめれば2体以上の分身ができ、多重影分身の術という禁術にまで難易度が跳ね上がる高等忍術である。
中忍程度では会得できない術だが、大蛇丸に指示していたアンコはもちろんこの術ができた。
もちろん分身の数は2体以上である。
一体でもこの威力。
もし複数、この大蛇丸(しかも実態つき)が出てきたら…?
地獄絵図だ。
止めようと手を伸ばす三代目火影だが、もう遅い。
影分身の術はその威力に反して印かものすごく単純なのだ。
その分大量のチャクラを消費することになるが。
よって……
「多重影分身の術!!」
ボボボン
大量に発生する大蛇丸(ふんどし)。
それは執務室をあふれんばかりに現れ、押し合いへし合い三代目へと向かう。
「立派でしょ、私のこの姿。」
「センセ、照れてるの? 可愛いわ…」
「ふふふ…見とれてるのかしら?」
などという台詞を吐きつつ、大量の大蛇丸(ふんどし)がセンセ、センセと三代目を襲う。
「ぬああああぁぁぁああっ!!!?」
三代目火影ご乱心。
寿命もいくらか縮んだかもしれない。
アンコはささやか(?)な仕返しをおえ、それでも任務をすることには変わりはないので、前述どおりに不機嫌な顔をして火影執務室を出た。
続く。