外伝1 顔合わせ ―イビキ編―
それは未知との遭遇であった。
イビキの顔はいかつい。
元々上背のあるほうで肩幅も平均男性と比べれば広く、いるだけで威圧感を与える姿形をしている自覚はある。
その上、他の里の忍びから拷問を受けた跡があり、バンダナをはぐと、リアルフランケンシュタインの降臨である。
よってイビキは子供受けが悪かった。最悪といっていいぐらいに。
実は子供は好きなほうなのだが、普通に泣かれるだけならまだしもひきつけを起こされること複数回。イビキは意識的に子供を避けるようになった。
そんな彼にとって、それは青天の霹靂であった。
「監視…ですか?」
「そうじゃ。」
三代目火影に呼び出されて向かった執務室。
イビキはそこで火影から聞かされた任務に聞き間違えたかと、再度問いただすが返ってくるのは肯定。
イビキは耳が悪くなってしまったのかと、耳を指でほじくりかえす。
だがそんな様子のイビキに火影は無情にも「もう決まったことだ。」と言い切る。
「いや、ですが…」
「アスマに今までたのんどったんじゃが、何時までも使える上忍を里内で遊ばせておける状況ではない。」
「まあ、今の時期では仕方がないですね。」
「そこで、だ。里内に常勤していることを指定された特別上忍のお前にこの任務を継続させることになった。」
捕らえられた忍び等の拷問係を任命されているイビキは、何時拷問の任務が入ってくるかわからず、拷問の中には緊急を要するものもあるので、里内で常勤することが決定付けられている。
そのことに不満はなく、当たり前のことだと思っているが、まさかこんな任務を仰せ付けられることになるとは。
「四六時中張り付けとは言っておらん、お前のほかに2人の特別上忍の者にも頼むつもりだ。その3人でローテーションを組んでもらうことになる。」
「はあ。」
「監視といっても拘束することはなく、特別変わったことがないか様子を見ていてくれるだけでよい。そう、難しいことでもあるまい。」
確かに難しい任務ではない。
むしろ簡単すぎる。
監視といっても、監視していることを気取られないようにするわけでもない。
だがしかし、イビキにとってはそれはとてつもなく難しいことであった。
「ですが…子供、なんでしょ?」
そう、子供。コレがイビキにとっては大問題であった。
監視対象、うずまきナルト。
それはいい。
九尾に対しては一緒に任務にも行ったことのある仲間の忍びが殺されたため恨みぐらいある。
だが元々自分達は忍びだ。敵忍びに殺された忍びの数のほうが多いし、その敵忍びの里と同盟を結ぶことだって今までだってあった。
そのたびに仲間の仇ぃ!とか言っていては、同盟など結べない。割り切ることぐらい忍びであればできる。
それにうずまきナルトの中に九尾が封印されていることは三代目から今回の任務内容を聞かされる際に聞いた。
つまりは、うずまきナルトの中に封印されている⇒うずまきナルト≠九尾。
うずまきナルト自体に何か思うところはない。
そもそも会ったことすらないのだから。
まあ一部の忍びの中にはそんな考えができずに未だにうずまきナルトに対して遺恨を持っている者もいるが。
今回の監視任務もそのような不満を抱く者達をある程度納得させるためにするらしい。
イビキにとっては迷惑以外のなにものでもない。
「えらく子供であることに拘るのぅ…」
「自分の外見ぐらい自覚していますから。」
そのイビキの発言で、三代目火影はイビキが何をそんなに気にしているのかにやっと気がついた。
見慣れてしまえば本人以外、外見などたいして気にしないものである。
「なるほどのぅ…つまりは子供がお主の姿を見て泣き出さないかが不安であると。」
「…まあ、端的に言えば。」
「ふむ…大丈夫だろうとは思うが、そういうことならば明日、一度ナルトと会ってみるか?」
「………は?」
我ながらマヌケな顔をしていると思う。
きっと鏡を見れば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているだろう。
しかし火影はそんなイビキの様子を無視し、勝手に話を進めていく。
「うむうむ、我ながら妙案じゃ。」
「いや、あの――」
「お主もナルトがお前の外見に対して泣いたり怯えたりしなければOKなんじゃろ?」
「……泣き出さなければ。」
無理と思うけど。
今まで泣き出さなかった子供は、幸運にも眠っていてイビキの姿を視界におさめることがなかった子供だけだ。
後は盛大に泣き出す、必死に泣くのだけは耐えたが、目に涙をあふれんばかりに溜めた子供たちばかり。
今までのことを思い返し、ちょっとへこむ。
火影はへこんでいるイビキを無視して話を進める。
「では明日3時頃に執務室に来るがいい。ナルトと他里の菓子を食べる約束をしておってのぉ。」
ぬふふ…と顔をほころばせる三代目火影。
言っちゃ悪いがちょっと不気味。
息子のアスマをつけるあたり、可愛がっているのだろうことは推察できたがここまでとは。
トリップし始めた三代目火影にイビキは溜め息を吐く。
三代目の中ではすでにイビキが来るのが決定事項なのだろう。
この件を断るにしても理由があったほうがいい。
イビキは喜色の悪い含み笑いをし始めた三代目火影に了承の返事をすると、そそくさと執務室を後にした。
◇◆◇
―次の日―
「はじめまして。うずまきナルトです。」
イビキを見ても泣き出すこともせず平然としており、六歳にしてはしっかりとした言動と態度をとるナルトにイビキが呆然としたのは無理もなかった。
また断る理由がなくなったことから、イビキはナルトの監視任務を受け入れることになる。
うずまきナルト。
それはイビキにとってはまったくの未知との遭遇であった。
終
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あとがき
イビキとナルトの顔あわせ。
ナルトは元ミナト、四代目火影であるのでリアルフランケンシュタインでも
気になりません。
むしろ格好いい…とか言いそうです。