「フフ…本当だ。終わっちゃった。」
軽やかな少年と思われる声の方向にカカシ達は鋭い視線を向けた。
そこには霧隠れの里のマークの入った白い仮面をかぶり、黒い髪を高い位置でくくっている、ナルト達より少し年上だろう少年が木の上に立っていた。
うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 7
親切心のありか
再不斬の首に刺さっている針状の武器…千本というのだが、それを放ったのは間違いなくこの少年だろう。
カカシは倒れている再不斬の首に手を当てた。
脈は感じられない。
(確かに死んでいるな…)
「ありがとうございました。ボクはずっと…確実に再不斬を殺す機会をうかがっていた者です。」
「確かその面…お前は霧隠れの追い忍だな?」
「………さすが、よく知っていらっしゃる。」
「追い忍?」
「そう、ボクは“抜け忍狩り”を任務とする、霧隠れの追い忍部隊の者です。」
「なんかいまいちピンとこないわ…」
首をひねるサクラにナルトは分かりやくす説明した。
「通称、死体処理班とも呼ばれてるね。」
「し、死体!?」
「死体をまるで消すかのように処理することで、その里を抜け出した“抜け忍”が生きた痕跡の一切を消すことを任務にしてるんだ。忍者の死体はその忍びの里で染み付いた忍術の秘密やチャクラの性質…その体に用いた秘薬の成分とか色々な情報がわかってしまう。例えばだけど、カカシ先生が死んだとする。」
「うんうん。」
わかりやすく例を出すナルト。
さらに分かりやすくする為に、自らの班の先生を具体例にする。
「ちょ、不吉なこといわないでよ…」
カカシが抗議するが、黙殺してサクラに説明を続ける。
カカシが肩を落とすのが視界の端で見えたが、これも黙殺する。
「そうなると、さっき先生が使っていた写輪眼を敵に全部調べられちゃうんだよ。下手をすれば敵の忍びに移植されて、戦場でカカシ先生の写輪眼と感動的な再会とかあり得る訳。」
「うわっ!」
「無視? 先生の言葉無視? っていうか、サクラ。うわって何? どういう意味のうわっな訳? ちょっと先生気になっちゃうな~」
「そういうのを防ぐのが追い忍なの。音もなく臭いもない…それが忍者の最後。」
「こわぁ~~!!」
「……………(悲)」
せっかく頑張ったのに…っ!
無視され続ける悲しさに、カカシは膝を抱えて座り込み、地面にのの字を書き始めた。
そこで蘇るおもひで。
バリアー(盾)にされるサスケ。
投げつけられるサスケ(ナルトの影分身だったが)。
おっとこ殺しの術Ⅱ(笑)を喰らう再不斬。
―うん、俺の方がましだ!!
自分より不幸と思われる人と比べてなんとか復活し、いまだ木の上からこちらを観察している仮面の少年にカカシは視線を向けた。
背丈や声からしてまだナルト達と大して変わらない年頃ってのに、追い忍か…ただのガキじゃないね、どーも……
仮面の少年は、スッと再不斬の横に舞い降りるとその腕を掴んで持ち上げた。
体格が倍程違うというのにその動作にふらつきなどは見られなかった。
先程の再不斬にとどめをさした一撃といい、あの若さで追い忍になっていることといい、ただのガキではない。
次いで、カカシは傍らにいる、先程人が死んだというのにまったく様子の変わらないナルトを見やる。
タズナは一般人として仕方ないにしても、初めての実戦での人死にだ。
サクラも気丈にふるまってはいるが、顔色は悪い。
というのに、様子の変わらなさといい、先程の…こ、攻撃(動揺)といいどういう訳か実戦慣れ、いや実戦慣れしすぎているナルト。
こっちも、ただのガキじゃないよねぇ…
それに、先程戦闘中に聞いた言葉も気になる。
密かに問い詰めなければ、と決意するカカシを置いといて、仮面の少年はこちらに向き直る。
「あなた方の戦いもひとまずここで終わりでしょう。ボクはこの死体を処理しなければなりません。何かと秘密の多い死体なもので。」
「あ、じゃぁどうぞ。」
さらっと告げたのはナルトだった。
横に居るサクラなどはキョトンとした顔をしている。
思わずカカシもその半眼が標準だった眼を100%開いた。
死体処理班というのは、通常殺した者の死体はすぐその場で処理するものである。
仮面の少年がそれをせず、再不斬の死体を持って移動しようとしていたのは、実戦経験の少ない、というかない下忍達を慮ってのことだったと思われるが、ナルトはここでやっても構わないとさらっと言ったのだ。
ナルトからすればわざわざ移動しなくても…と親切心から言った事だったのだが、これに焦ったのは他でもない仮面の少年である。
カカシ達からは見えないだろうが、仮面の下で冷や汗を滝の様に流した。
彼は再不斬をこのままこの場から脱することを目的としていたのだ。
ここで再不斬を解体してしまうことだけは、どうしてもできなかった。
「い、いや…どうやらそちらはまだ実戦経験の少ない下忍のようですし…後々トラウマになったりするとですね……」
「大丈夫大丈夫。ちょっと人一人解体されるぐらい。」
あっけらかーんと返すナルト。
どーぞどーぞとジェスチャーつき。
これに焦ったのは仮面の少年だけではなかった。
「え、ちょ、解体って…! 止めてよ!! せっかく別の場所でやるって言ってんだから、よそでやってもらってよ!!」
「でも春野さんだっていつかは経験することだし、ここで見学するってのもいいと思うよ。」
「いや、いつかはそうだけど、今じゃなくていいじゃない!! それに、ほら! サスケ君だって気を失ったままだし、ちゃんとした場所で手当てする方がいいと思うわ!!」
そうだもっと言え、と言わんばかりにこくこく頷く仮面の少年。
その姿に違和感を覚えたのはカカシだ。
別に解体の現場を見られたところで、そう困ることではない。
秘伝の技術などは死体を見た程度でどうこうできるものではないし、解体した後の死体は必要な部分以外は獣達に食わしてしまったり、燃やしてしまうのが定例だ。
必要な部分は彼が持って帰れば済む話。
ここまで拒否する事ではない。
事実、他里との連携をとったりする任務も時にはあるのだが、彼らが万が一死亡した場合は、解体場所を貸出たりすることだってままある。
「君…」
おかしいと思ったカカシが少年に声をかけようと一歩足を踏み出す。
少年の肩がぎくりと強張った。
自分の対応がいかに不審であったか気がついたのだろう。
しかし、カカシが一歩踏み出すとともに、カカシの体はその場に崩れ落ちた。
再不斬戦でのダメージだろうか?
ナルトとサクラの注意も少年から逸れてしまう。
そんな隙を見逃す少年ではなかった。
再不斬の体を抱えなおし、術を発動する。
「それではボクはこれで失礼しますっ!」
「…待て!」
「先生っ」
カカシが腕を伸ばすが届くはずもなく、少年と再不斬の姿はふっと煙に消えてしまった。
ナルトも少年を追いかけようとしたが、ハッとして足を止める。
現在カカシが戦線離脱。
サスケは気絶中。
その上まだ向こうの戦力がいかほどかもわからないのに、サクラにタズナの護衛まで任せて少年を追いかけるということは無理な話だった。
せめてカカシが倒れなければ話は違ったのだろうが…
「………上忍のくせに…役立たず……」
「!!? ひどい! 俺、頑張ったのに!!」
「ちっ」
「舌打ちつき!」
「ま、まあまあ。とりあえず彼は去ったのだし…」
「カカシ上忍、動けますか?」
「あー…ちょっと写輪眼使いすぎたみたいだわ……」
「つまり動けないと。上忍のくせに。」
「……そうでーす。」
「そこの黒髪の少年も気絶していることだし、当初の予定通りわしの家に来るか!」
「そうですね、頼みます。」
「…ん?」
「頼みますね、カカシ先生。僕たちじゃ体格的に背負えないので。」
「わし…依頼人なんじゃが。」
「依頼人だろうが何だろうが、使えるものは使う主義なので。ね! Bクラスの任務をCと偽った橋作り職人のタズナさん?」
「………………。」
「どうしたんですか、早く行きましょう。なんたって僕は3人の中でも一番小さいですし! ね、タズナさん?」
後悔先に立たず。
執念深いナルト。