Side:??
金髪のナルトという少年に場をかき乱され、正常心を失い背後をとられた再不斬にまさか、と身を乗り出した。
寸でのところで飛び出すのを耐える。
自分に与えられた今回の指令は戦いを観察し、分析すること。
戦いに加わることではない。
しかし次に起こったことは、自分の予想をはるか遠くに突き破る出来事だった。
木上に居た彼は、その光景を見た瞬間、頭から転げ落ちるという忍びとしてあるまじき失態をした。
うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 6
「ぐ…」
水面に倒れ伏していた再不斬は、愛刀首切り包丁を支えにして何とか立ちあがった。
腰が引けて足がプルプルしているのはまあ、あの攻撃(笑)をもろに食らったのだ、仕方がないともいえる。
むしろ、それでもまだ立ち上がり相対する勇気を称賛する気にカカシはなった。
「くっ、水牢を解いちまうとはな…」
「解かされたんだろ…千年「黙れ!!」……うん、悪かった。」
敵に同情的なまなざしを送られ、かつ、こうも素直に謝れるなどいまだかつてなかったことだ。
再不斬はカカシから距離をとる。
この傷(…)では、腹立たしいが接近戦は無理だ。
忍術主体の戦法に切り替える。
『丑・申・卯・子・亥・酉・丑・午・酉・子・寅・戌・寅・巳・丑・未・巳・亥・未・子・壬・申・酉・辰・酉・丑・午・未・寅・巳・子・申・卯・亥・辰・未・子・丑・申・酉・壬・子・亥・酉!!』
長い印を組むカカシと再不斬。
組みはじめたのは再不斬のほうが早かったというのに、印を組み終わるのはほぼ同時だった。
そして発動する忍術。
『水遁 水龍弾の術!!』
再不斬とカカシ、それぞれから水でできた龍が生じ、二人の間で衝突した。
大きな水柱がたち、サクラ達へと水滴がスコールのように降り注ぎ、大量の水が津波のように襲いかかる。
「うおお!! お?」
タズナも水に飲み込まれて流されそうになったが、一瞬の浮遊感と共にその気配はなくなった。
いつの間にか木の上に来ており、両脇には金髪の少年ナルトの姿がある。
再不斬の水牢からカカシを解放する際、影分身の術を使用していたナルトだが、現在のチャクラコントロールではどうやっても分身体を一つに絞れない。
なのでサスケに変化した本体と、影分身。そしてもう一体の影分身は再不斬が正気に戻る前にそのあたりの林に紛れ込ませていたのだ。
だがそんな事実を知らないタズナは、二人に増えたナルトに眼をむいた。
「分裂増殖!?」
ナルトならできそうだ。
しかしこの発言を聞いたナルトはとてもとても軽蔑的な目でタズナを見た。
ていうか、先ほど似たような“水分身の術”を再不斬が使っていたはずだが…それにも気付かないあたり、タズナの混乱ぶりがうかがえる。
二人がそんなやり取りをしている時、サクラ達といえば水に飲み込まれていた。
タズナと違ってナルトの助けは入らなかったので、水に流されないように必死に踏ん張るサクラ。
気絶しているサスケもかばいつつだとかなり苦しかったが、そこは乙女の底力。
恋した男の為ならえんやこら。
「ふんぬらば!!」
サクラに姫抱きされるサスケ。
本人の意識があったならば憤死したくなるような光景がそこにあった。
やがて水も引き、中心にはクナイと首切り包丁を交えるカカシと再不斬が残された。
再不斬の腰が引けているのは愛嬌である。
(おかしい…どういうことだ…)
刀に力を加え、反発力によってカカシと距離をとる再不斬。
あらぬところがズキリと痛んだが、根性で押さえつけ、刀を背中に戻して印を組む。
それと同時にカカシも再不斬と全く同じ印を組む。
はっとして別の印を組むが、カカシもその動きをトレースする。
(こいつ…俺の動きを……)
「読み取ってやがる。」
「!!!」
再不斬が思っていることをカカシが口にする。
あせりが再不斬の顔に浮かぶ。
(? なに!? オレの心を先読みしやがったのか?)
すぐさま組んでいた印を別の術に切り替えるが、それもほぼ同時にカカシによってコピーされる。
カカシの写輪眼が再不斬を射ぬく。
まるで全てを見透かされているような感覚を覚え、再不斬のいらだちは高まっていく。
(くそ! こいつ…)
「むなくそ悪い目つきしやがって…か?」
「!!! くっ…しょせんは2番せんじ、『お前はオレには勝てねーよ、サルやろー!!』」
カカシと再不斬の声がかぶさる。
再不斬の苛立ちは遂にピークに達した。
「てめーのそのサルマネ口…二度と開かねェようにしてやる!」
印を組むスピードを上げる再不斬。
だが、カカシを見て動きを止める。
カカシの背後に…人影が見えた。
(あ…あれは……オレ? ……………ドッペルゲンガー!!?)
ドッペルゲンガーとは??
自分の姿を第三者が違うところで見る、または自分で違う自分を見る現象のこと。
自ら自分の「ドッペルゲンガー」現象を体験した場合には、「その者の寿命が尽きる寸前の証」という民間伝承もあり、未確認ながらそのような例が数例あったということで、過去には恐れられていた現象。
(ウィ○ペディアより抜粋)
(やべ、見ちゃった。ドッペルゲンガー見ちゃった。死ぬ。オレ死ぬ! いやいや待て待て、奴の幻術っていう可能性も無きにしも非ずで…)
この再不斬という男。
(生まれつき)眉もなく、どう見ても一般人としてかけ離れた強面の顔をして元暗部で人殺しなどそれこそ腐るほどしてきた再不斬だったが、どうしても克服できない弱点があった。
オカルトがダメなのである。
いっぱい人殺してるくせになにってるんだといわれるかもしれないが、だからこそ怖いとも言える。
元々苦手だったが、全く受け付けなくなったのは、暗部であったころ敵の忍びと遭遇した一件が発端だった。
依頼は当時から無音暗殺術を得意とした再不斬には簡単なもので、ある大名の不正の証拠である書類を城から盗み出すというもの。
しかし、途中で同じ書類を狙っていた木の葉の忍びと遭遇した。
与えられた任務は書類を里に届けることだったので戦闘は避け、相手の忍びとの追いかけっこが始まったのだが……この忍び、再不斬が逃げても逃げても、どこまでもどこまでもどこまでも追跡してきた。
気配を感じなくなってほっとした次の瞬間、背後に迫る気配。
どこまでいっても振り向けばいる忍び。
月明かりしかない森の中、仄かに月明かりを受けてボウッと浮かび上がる金色の髪はまるで火の玉のようだった。
結局怖くなった再不斬は書類を彼に投げつけることでその場から逃走することに成功した。
相手は一人。
木の葉の有名な忍びだと知ったのは命からがら里に戻ってからだった。
有名な通り名は「木の葉の黄色のなんとか」だが、霧の里では「木の葉の黄色い貞子」、「木の葉のストーキング(王)」「振り向けば奴がいる」と呼ばれて恐れられている。
彼のせいでオカルト関係が苦手になった忍びは多い。
※そこにいます(作者)
と、再不斬がトリップしているうちにカカシは印を組み終える。
『水遁 大瀑布の術!!』
「な…なにぃ!?」
(術をかけようとしていた俺よりも早く…っ!)
驚愕に包まれながら大量の水に飲み込まれる再不斬。
冷静に考えれば当たり前の結果である。
再不斬はカカシの幻術(notドッペルゲンガー)を見てから思考が過去に戻っていた。
そして印を組む手も止まっていた。
相手は千以上の術をコピーしたといわれるコピー忍者、カカシ。
その千の術の中に“水遁、大瀑布の術”が含まれていないなどとあるはずがない。
それもそのはず、“水遁、大瀑布の術”の術は水遁系の大規模忍術のなかではそれほど難しいものでもなく、効果も高く、水遁系の忍術を使う者たちにとってはフィールドを水浸しにできるのでその後の戦闘を有利に進めることもできる為、凡庸性の高い術としてポピュラーな術なのだ。
水遁の術を得意とする上忍と戦闘すると一度は目にする術だろう。
大瀑布の術の術を知っている天才コピー忍者
VS
負傷中(笑)でトリップ中の元暗部
勝敗は明らかだった。
「ぐあぁ…!!」
圧倒的な水流に押し流され、再不斬は木に背中と尻を強打してやっと止まった。
まさに泣きっ面に蜂(笑)。
ぐおぉぉおおお…と情けないうめき声をあげてうずくまる再不斬。
態勢を立て直す間もなく、4本のクナイが放たれ再不斬の両腕両足に突き刺さる。
「終わりだ…」
「ぐっ!」
再不斬の脳裏に今日の出来事がリフレインする。
何故こんなことになった?
最初は順調に行っていた。
コピー忍者のカカシも水牢に閉じ込めることに成功したし、後は下忍を始末してターゲットである男を殺すだけだった。
狂ったのはあの少年のせいだ。
トラウマを植えつけた男と全く同じ髪色をしたあの少年。
そしてあの術(vv)。
あんな術のせいで追い詰められている自分。
もし今倒されて後世にまでそのことが伝わってしまったら…?
…………………………
…………
…
恥 だ 。
再不斬は最後の手段に出た。
このままここで倒れるわけにはいかない。
木々に潜んでいる相手に向かって密かに合図を送る。
次の瞬間。
首に二本の針のような武器が突き刺さり、再不斬はドサリと地面に倒れ伏した。
「フフ…本当だ。終わっちゃった。」
続く。