1話 新たな門出
死神にたたき起こされ、死神の姿を確認したミナトが再び失神という悪循環を三度ほど繰り返した後、ミナトはしぶしぶ今の状況を認めた。
認めざるを得なかった。
なぜなら…
「はーい、ミルクでちゅよ~」
コレだ。
元々子供好きなのか、得体の知れない赤子だというのに嬉々としてミルクを差し出す三代目火影の姿。
何の拷問だ。
ミナトは耐えた。
自分は、今は何の力も持たぬ赤子。
1人で生きていくことはできない。
養ってくれる人は必要だ。
しかし――
「いい子でちゅねー」
三代目火影の顔が近づいてくる。
近づいて…
近すぎじゃね?
まだ近づく気?
…まさか、コレは…
キスする気ですか!?
「あるぅ〇☆■◇!!」
赤子が出すべきでない泣き声を出し、ミナト(赤子)は小さな手を勢いよく出した。
油断しきっていた三代目はそれを正面から受ける。
「へばっ!?」
所詮赤子の力だ。たいしたダメージは与えられないのだが、赤子の手は見事に三代目火影の鼻の穴に突っ込まれた。
これはプロフェッサーと呼ばれた三代目火影でもたまらない。
慌てて赤子から距離をとる。
このようなことが繰り返されたからだ。
食事は生きるためには必要不可欠なもの。
死神のときのように失神して現実逃避することもできない。
こうしてミナトは現実を受け入れることになった。
ちなみにオムツ換え時は失神している。
いくら必要なことだとわかってはいても、元、健全な成人男子である以上、認めたくても認められない。
複雑なのだ、男心というものは。
◇◇◇
――再びミナトの精神世界――
「――で、認めたか?」
相変わらず趣味の悪いマントを羽織った死神が問いかけてくる。
ミナトはしぶしぶ頷いた。
本音を言えば認めたくない。認めたくないが、現実として受け止めるしかないのだろう。
「んじゃ、今のお前の危機的状況について話すぞ。真面目に聞けよ。」
そして再びリモコンを操作しようとする死神に、ミナトはふと疑問に思ったことを訊ねた。
「なんで、そんなに親切なの?」
「………。」
黙。
リモコンを握ったままの姿で硬直する死神にさらに続ける。
「いや、僕としては感謝感激っていうか、助かってるんだけど…なんで?」
「……お、ま、え、な~~~!!!」
胸倉をつかまれ、持ち上げられる。
「だぁれが人間に好き好んで手を貸すかっ! 自分の命がかかってるからに決まってるだろーが!!」
「へ?」
「だ~か~ら~」
胸倉から手を離し、ミナトの左手の甲をトントンと叩く。
「普通の口寄せの契約と違って、絶対服従のこの契約は、契約主の命が尽きると契約された相手も死ぬんだよ。だからこその“絶対”契約。命がかかっている以上、契約主の命を守るのが契約されたものの宿命だ。」
契約主が契約を解消しない限り、それは続くという。
「へー、そうなんだ。」
「それぐらい常識だろ常識。お前火影だったんだろ? 頭ゆるいんじゃないのか。」
「そんなことないよ。コレでもアカデミーでは首席で…最近では絶対服従の契約は一部の忍犬としか交わされてないからなぁ…知らなかった。」
つまりは一昔前のコアな知識。
勉強になった。
それに憮然とするのは死神。
もしかして俺、年寄り扱いされてね?
しかし、へー、ほー、ふーん、と感心仕切りのミナトにいちいち指摘するのがバカらしく思い、スルー。先ほど操作しようとしていたリモコンを取り出し、ボタンを押した。
すると画面に映る、見覚えのある方々。
それもそのはず、火影襲名時に挨拶にいった覚えがある。
火の国上層部を占める老人の方々だ。
なんだか会議の真っ最中らしい。
全員が全員、気難しそうな顔をしながら深い皺の刻まれた顔に、より皺を刻んでいる。
「何コレ?」
「現在開かれている会議の生中継だ。」
「へー、便利だね。こんな風に見れるなんて。」
「遠眼鏡の術の応用だ。三代目がよく使ってる水晶で遠くを見る…って、そんなコトより内容を聞け。」
死神に促され、ミナトは交わされている会話に耳を傾ける。
『三代目火影の返答はどうだった?』
『相変わらずじゃ。知らぬ、存ぜぬ、とな。』
『今更そんな言が通じようはずが無かろう!』
『今すぐ子供を明け渡して、しかるべき処置をせねば…』
『しかし、子供を殺せば九尾が再び出現する可能性が捨てきれないぞ。』
『ぬぅ…』
『そんなに難しく考える必要も無かろう。いっそのこと里の兵器として利用するのはどうじゃ?』
『おお、それは名案だ。』
『しかし、力を与えるのは逆に危険なのでは。』
などなど。
なんだかとてもとても不安を掻き立てる内容ばかり。
決定的なのは、“九尾”という発言。
「………ねぇ、もしかして、コレ…」
「お前をどう処分するかの検討会。」
「…やっぱり。 や~だ~! 処分されたくない~!!」
ごろごろと精神世界を転げまわる。
せっかく何の因果か死なずにすんだのに、姿が赤子に代わっていたり、ついには処分!?
せっかく一生懸命、命を懸けて戦ったというのに。
いや、彼らは赤子=四代目火影とは知らないのだろうけど。
それでも、里の者達のために全てをなげうって九尾と戦ったのはこんな仕返しを受けるためではなかった。
また、あのとき死にたくないと思ったのは、こんなことをされるためでもなかった。
里のため、忍びのため、これから生まれてくるだろう新たな木の葉の者達のため、火影としての職務を全うしたものに対する仕打ちがコレ。
ミナトはなんだかだんだんムカついてきた。
画面の向こう側ではなお、好き勝手なことを老人がしゃべっている。
ムカムカムカムカムカムカ………………プチン。
「ふっふっふっふっふ…」
急に笑い出すミナト。
死神はギョッとしてミナトから距離をとった。
「だ、大丈夫か? お前。」
「大丈夫? 大丈夫か、だと? ふ…っっざけんなぁー!!」
ウラーっとちゃぶ台をひっくり返すミナト。
ここはミナトの精神世界。
やろうと思えば、自分の望むものを出現させることができる。
ミナトは精神世界に仰向けにひっくり返った。
「もう知らん! どうなろうが知らん! 勝手にやれ!! つか、死ね!! 死にさらせ!! あんな奴らがどうなろうが、僕は、もう一切手を貸さん!!!」
テメェらのために命を懸けたんじゃねぇよ!!
と、ミナトは仰向けに寝転んだまま散々罵倒する。
そして全て吐き終え、息を整えると静かに悔し涙を流した。
あんな奴らのために、僕は…
「…ちくしょ……っ!」
悔しい。
…こ の う ら み ゆ る す べ か ら ず 。
ミナトは傍らに呆然と立っていた死神につかみがかった。
「お前、僕と絶対服従の契約をもぎ取られたって言ったな!?」
「あ、ああ。」
「じゃあ、今すぐその力を僕のために使え!!」
「はぁあ? んなことなんで俺がしなきゃ――」
「あ、なんだか僕、ものすごく死にたくなってきちゃった。」
そう言って、精神世界に作り出した、天井から吊り下げられた縄のわっかに首を通す。
「ぬおぉおおおお!!?」
あわてて止める死神。
ミナトに今死なれてしまっては、死神も死んでしまう。
「わかった! 力を貸す!!」
「ホントに?」
「ああ。」
「ホントのホントに?」
「本当の本当だ。」
その死神の言を聞き、ミナトはゆっくりと首に通していた縄を取り除いた。
「じゃ、コレ、計画書ね。」
ミナトはぺらりと死神に紙を渡した。
死神は、最初こそ真面目くさった顔でそれを眺めていたが、眺めていくうちに呆れた顔をし、最後まで目を通した際には目が点になっていた。
「…聞きたかないけど………これ、ナニ?」
「だから、計画書。」
「……何の?」
その問いに、よくぞ聞いてくれました、といわんばかりにミナトはその場から立ち上がり、拳を握り締め、声高らかに宣言する。
「僕の人生は、あんな死にぞこないの、骨と皮だけのクソジジイやクソババアのために命を懸けることじゃなかった! 僕の人生は僕のもの!そうだ!! 僕はこれから好き勝手に、自分の好きなように生きる!! 僕は僕のために生きる! 自分の力は自分のために使う!! これぞ、ビバ☆ 自分の人生を楽しくおかしく謳歌するぞ! 計画!!」
「……あ、そ。」
死神は止めるのを諦めた。
◇◇◇
それからは様々なことが里で起こった。
赤子の処分を検討委員会の皆様方はどこからともなく跳んで来た野球ボールで骨折し入院したり、何故か落ちていたバナナの皮で滑って入院したり、外を歩いていると、どこからとも無く飛来したバケツに視界を奪われて転倒したり…
話はそれだけではすまなかった。
里の者達にも赤子の処分に積極的に乗り出していた者達が、任務の最中に子供の掘ったと思われるブービートラップにひっかかったり、集団食中毒になったり、何故か突っ込み用のたらいに見舞われたり。
はては、火影の屋敷に忍び込み、赤子を処分しようとした強硬派の者達が何故か大移動をしていた象の群れに巻き込まれて大怪我という事件まで発生。
他の強硬派の連中を震え上がらせた。
こうして、赤子の処分の話はお流れになった。
誰だって自分の命は惜しい。
そして赤子は九尾の子供の噂とは取って代わり、天に愛された子供としてまことしやかに里で噂されることになった。
続く。
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あとがき
はじめまして、ヤドクガエルです。
ナルトでは初投稿となります。
ナルトが里の者達からいじめられてるの知ったら、四代目火影、
怒るだろーなー…なんて考えてて思いついた小説。
オリジナルキャラはこれ以上出さず、原作どおりに運んでいくつ
もりですが、原作と性格変わっているキャラは結構居ると……(汗
それではよろしくお願いします。