「このままじゃあ…ちときついか。」
額当てをつかんだカカシをみて、再不斬は刀の上から5人を見下ろして口を開いた。
「写輪眼のカカシと見受ける………悪いが、じじいを渡してもらおうか。」
悪いとは全然思ってない顔で平然と言ってのける。
そして再不斬の言葉に反応したのはカカシではなく、サスケだった。
(写輪眼!?)
驚いた顔をするサスケをしりめにサクラは首をかしげる。
「写輪眼…て、何?」
「うちは一族がもつ瞳術、それが写輪眼。」
「え、うちは一族って…サスケ君の……」
「そうだ。いわゆる瞳術の使い手はすべての幻・体・忍術を瞬時に見通しはねかえしてしまう眼力を持つという…写輪眼はそのなかでもうちは一族が特有に備え持つ瞳の種類の一つ…だが写輪眼の持つ能力はそれだけじゃない。」
「クク…そこのガキ、詳しいじゃねえか。それ以上に怖いのはその眼で相手の技を見極め、コピーしてしまうことだ。オレ様が霧隠れの暗殺部隊にいたころ、携帯していた手配帳にお前の情報が載ってたぜ。千以上の術をコピーした男…コピー忍者のカカシ。」
「……再不斬、まずは俺と戦え。」
カカシは額当てを上げ、隠されていた左目をあらわにした。
大きく縦に入った傷、だがそれ以上に目を引くのは不思議な巴型の文様が入った眼。
これが…写輪眼。
「ほう、噂に聞く写輪眼をさっそく見れるとは…光栄だね。」
「…ナルト、サスケ、サクラ! 特にナルト!! 卍の陣だ。タズナさんを守れ。お前達は戦いに加わるな。それがここでのチームワークだ!」
「なんで僕だけ二回も名前呼ばれる訳? 納得いかない…」
「自業自得だ。ウスラトンカチが…」
(だけどどういうことだ…? 写輪眼はうちは一族のなかでも一部の家系にだけ表れる特異体質だぞ。うちは一族はオレ以外には生き残りはいないはず。それにカカシは外見的特徴もうちは一族の要素が一つもない。もしかしてアイツ……)
うずまきナルトのカレーな里外任務(波の国編) 4
「さて、話はこのぐらいで終わりにしようぜ。オレはそこのじじいをさっさと殺んなくちゃならねぇ。」
再不斬は乗っていた刃の上にしゃがみ込み、タズナに向けて殺気を放つ。
するとカカシの後方、タズナの前で3人の下忍が顔を蒼くしながらもクナイを構える。
腐っても忍びということか。
ひとまずタズナから意識を放し今度こそカカシと向き合う。
「だがその前に…カカシ! お前を倒さなきゃならねェーようだな。」
木を蹴り飛ばし、首切り包丁を幹から抜くと再不斬は水面に降り立った。
印を組み、かなりのチャクラを練りこむ。
「忍法……霧隠れの術。」
そう再不斬が言うと同時に元々濃かった霧がさらに濃くなり、やがて再不斬の姿を覆い隠してしまった。
「消えた!?」
再不斬が消えた後も霧は濃くなり続け、近くに立っているはずのタズナや生徒たちの輪郭すらぼやけている。
写輪眼は瞳術というだけあって、視界を遮られるとその能力を発揮するのは難しくなる。
(オレとの相性が悪いな…)
カカシは内心舌打ちした。
先程狙いをカカシにするような発言をしていたが、ブラフの可能性のほうが高い。
どう考えても弱い下忍を狙う方が、目標は達成しやすい。
それにカカシの記憶が正しければ桃地再不斬という男は…
「まずはオレを消しにくるだろうが……桃地再不斬、こいつは霧隠れの元暗部で無音殺人の達人とまで知られた男だ。気がついたらあの世だったなんてことになりかねない。オレも写輪眼を全てうまく使いこなせる訳じゃない…お前達も気を抜くなよ!」
カカシの忠告に下忍達の顔に緊張が走る。
その時だ、濃い霧の中を再不斬の声が響いた。
反響していて再不斬の場所はつかめない。
『8か所』
「!! え? なっ…何なの!?」
『咽頭・脊柱・肺・肝臓・頚静脈に鎖骨下動脈・腎臓・心臓………さて、どの急所がいい? クク…』
「えっと、なるべく苦しみたくないんで心臓かせぎぃっ!」
「真面目に答えるな!! この馬鹿!!」
「うすらとんかちが…」
「……………」
『……………』
緊張していた空気が一瞬でパァだ。
カカシは脱力するのを阻止するのにそれなりの気力を消費した。
なんとなく霧の中からも再不斬の呆れたような気配が漂ってくるが、認めたくないので無視する。
そして気を引き締めると、胸の前で印を組み殺気を放つ。
その場の空気ががらりと変わった。
触れれば切れてしまいそうな糸のような緊張感。
下忍達の中でそれに当てられたのは意外にもサスケだった。
サクラは気配にはそれほど敏感ではないらしく、蒼い顔をしてはいるもののサスケほどあてられてはいない。
サスケは下忍トップを自認するほどの実力を誇っているだけに、もろにその殺気にあてられてしまった。
ナルトは…書かなくてもいいような気がひしひしと感じるが、険しい顔をしてはいるものの、けろりとしている。
元四代目火影だし、このような戦場は数え切れないほど経験している。この程度であてられたりはしない。
あたりを包み込む殺気にサスケの顔色がどんどん悪くなっていく。
クナイを握っている手も、恐怖でカタカタと震えている。
(スゲェ殺気だ! …眼球の動きひとつでさえ気取られて殺される、そんな空気だ。…小一時間もこんなところに居たら、気がどうにかなっちまう!)
冷や汗があふれ、顎から地面へと何滴も滴り落ちる。
歯が鳴るのを防ぐために顎に力を入れるが功を奏したようには思えない。
徐々に息が上がり、呼吸が苦しくなる。
(上忍の殺気…自分の命を握られている感覚…ダメだ、これならいっそ死んで楽になったほうが……)
サスケの精神が限界に来ようかとした瞬間、こちらに背中を向けていたカカシから声がかかる。
先程までの情けない姿はそこからは想像できなかった。
「サスケ…安心しろ。お前たちはオレが死んでも守ってやる。オレの仲間は絶対殺させやしなーいよ!」
そして戦闘中とは思えない笑顔を不安げな顔をした下忍達に向ける。
恐怖にひきつっていたサスケやサクラは不覚ながらそれにしばし見惚れてしまった。
だがその直後、不吉な声が響く。
『それはどうかな…?』
再不斬の声。
そして霧の中から現れた再不斬。
その場所は、下忍達三人の立ち位置の中央、依頼人であるタズナの目と鼻の先だった。
やはり先ほどのカカシとのやり取りはブラフ。あくまでも狙いはタズナ。
しかし、声が発せられるその直前までまったく気配が感じられなかった。
無音殺人術の達人というのは伊達ではないらしい。
「終わりだ。」
宣言をして、首切り包丁をふりかぶる。
だがその刃がタズナに届くより、再不斬の懐に飛び込んだカカシが再不斬の体にクナイを刺す方が早い。
動きを止める再不斬。
カカシの持つクナイは再不斬の腹部深くまで刺さっている。
しかしその刃物から滴り落ちるのは紅い血ではなく、透明な水。
ハッとし、あわてて身を引こうとするが相手の行動の方が早い。
カカシの死角に現れた再不斬が刃を振りぬくのと、カカシが刺したはずの再不斬が水に変えるのはほぼ同時だった。
先ほどカカシがクナイで刺したのは再不斬の作った水分身。
力はオリジナルの十分の一程の力しか出せない水分身だが、かく乱させるのには十分すぎる。
腰部分で首切り包丁によって真っ二つにされるカカシだったが、そこから噴き出るのも紅い血ではなく、水。
(水分身の術、だと…!? まさかこの霧の中、コピーしたってのか!?)
驚愕に目を見開く再不斬。
気を取られたのはほんの一瞬だったが、上忍同士の戦いの中で思考にとらわれるのは致命的なミスだった。
背後から首筋にクナイがあてられる。
「動くな……」
「!!!」
「終わりだ。」
先ほどの再不斬の言葉をそのまま使う。
だが、再不斬は肩を震わせて笑った。
とても首にクナイをあてられている忍びの態度とは思えない。
「ククク…終わりだと……分かってねェーな。サルマネごときじゃあ、このオレ様は倒せない。絶対にな!」
余裕を崩さない再不斬の態度にカカシは視線を険しくする。
まだ、この状態から事態を逆転できる手があるのだろうか。
いぶかしげな顔をするカカシをしり目に余裕の態度のまま再不斬は口を開いた。
「しかし、やるじゃねェーか。あの時、既に水分身の術はコピーされたって訳か…分身の方『いかにもらしい』台詞を喋らせる事でオレの注意を完全にそっちに引き付け、本体は身を隠して、オレの動きを伺ってたって寸法か……」
「………」
「だがなぁ…オレもそう甘かあないんだよ!」
最後の台詞はカカシの背後から聞こえてきた。
眼を見開くカカシ。
再不斬はやはり眼の前にクナイを突き付けられた状態で居る。
では、この声は…
硬直するカカシに、ナルトは叫ぶ。
「伏せて! カカシ君!!」
「!!」
ナルトの声に我に帰り、慌てて頭を下げる。
カカシの頭上を首切り包丁が通り過ぎるのと、クナイを突き付けていた再不斬が水に還るのはほぼ同時だった。
しかしこれで再不斬の攻撃が終わった訳ではない。
流れるような動きで振りぬいた刀を地面に固定し、それを軸として後ろ回し蹴りをカカシに放つ。
無理な避け方をしたためにカカシはそれを避けられない。
なんとかガードはしたものの、威力は殺せずカカシは水中に吹き飛ばされた。
「(今だ!)…!?」
とどめを刺そうと一歩踏み出すが、足に痛みを感じ踏みとどまる。
見やれば地面に撒かれた複数のまきびし。
こんなもので…
「まきびしだと? くだらねぇ…」
不機嫌そうに舌打ちをし、再不斬は姿を消す。
その光景に息を飲む下忍とタズナ。
頼みの綱であるカカシが劣性であるが、手助けしようにも実力に差がありすぎて手が出せない。
むしろ足手まといになってしまう。
(あのカカシ先生が…蹴飛ばされた!?)
(体術も半端じゃねえ…!)
声もなく顔色を蒼くしながら二人の戦闘に見入っているサクラとサスケ。
一方、ナルトは苦り切った顔をしながら爪を噛んでいた。
ああ! 生前のようにチャクラが使えたら手助けできたのに!!
スピードは眼で追えるが、おそらく今の自分ではその反応に体のほうがついていかない。
昔の自分なら…あんなことや、こんなこと、そーんなことまでできたのに!!
イライライライラ。
フラストレーションがものすごい勢いで溜まっていく。
そんなことをしていると、いつの間にやらカカシが水牢に捕らわれていて、いつの間にか再不斬が目の前にいて、しかも蹴りを思いっきり放ってきたりして、しかもしかもその蹴りがクリーンヒットしちゃったりなんかして…
「偉そうに額当てなんかして、忍者気どりか? だがな、“本当の”忍者っていうのはいくつもの死線を越えた者。つまり俺様のビンゴ・ブックに載るようになって初めて忍者と呼べる。…お前らみたいなのは忍者とはよばねぇ!」
なんて言われた日には、あーた。
雰囲気を察したのか、吹き飛ばされても頭の上に乗っていた黒耀が空へと飛び立つ。
空気の読める忍鳥だ。
ナルトは危なげなく立ちあがり、口にたまった血をペッと吐き、口元を手でぬぐった。
痛みはある。
だが、骨までは痛めてはいない。
動くのに支障はない。
ぎり、と再不斬をにらみつけ、ナルトは顔をゆがめた。
笑みの形に。
こいつ、絶対に泣かす。
続く。