それまで何不自由のない人生だった。
アカデミーを優秀な成績で卒業し、すぐ下忍にもなれた。
数年後には中忍試験にも一発合格をし、エリート街道をまっしぐらのはずだった。
だが自分の今の状況をみると、エリートとは程遠いアカデミー教師という枠にはまっている。
こんなはずはない。自分はもっと上にいるはずの人間だ。
そう、こんなところで終わるわけには……
うずまきナルトのカレーな卒業試験 2
「…と、以上が今週の報告です。」
「ああ、ありがとう。ご苦労じゃった。では引き続きナルトの監視任務についてくれ。」
「は。」
火影の執務室、そこでイビキは一週間毎の監視任務の報告をしている。
何故イビキがしているのかというと、他の二人が期待できないからだ。
だからこうして、二人分の報告書をイビキが理解できる言葉に翻訳して火影に報告することになっている。
といっても、監視任務自体が上層部を納得させるだけのもので報告も半ば形骸化しており、以前はそれなりの形を整えていたものの、現在は口頭での報告のみ。
火影も書類にサインしながら聞いているので、本当に頭に入っているのかは謎だ。
「…ああ、そういえば最近ナルトの周りをアカデミー教師がうろちょろしているのを見ましたが。」
「アカデミー教師? イルカか?」
ナルトの周りにいる教師といえばイルカぐらいしか思いつかない。
以前は九尾云々でアカデミー教師から接触があまりなかったが、現在は忍びとして高く評価されていて、嫌悪されることはほとんどなくなった。
ただし、日々のイタズラのせいであまり近寄ってくるアカデミー教師はいない。イルカ以外には。
だがイルカがナルトに構うのはいつものことだ。わざわざ言うようなことではない。
「いえ、イルカ先生ではなくてですね。なんか柔和そうな表情の…ミカヅキ?」
「あぁ…ミズキか。」
「そうそう、そういう名前の。何か三日ぐらい前からナルトの周りのうろうろしています。別にこれといって危害を加えたりとか、実害はないのですが気になりまして。」
「ナルトは気付いておるのか?」
「はい。外では気付かないふりをしていましたが、アパートに帰ってからそれとなく名前を出したら微妙な顔をしていましたのでおそらく気付いているかと。…あまりいい気分ではないようでしたが。」
「そうか…まあ確かに周りでうろつかれたらあまりいい気はしないだろうな。」
ふむ…とあごひげを撫でて一考。
「わかった、それとなくミズキに問いただしてみよう。それと、できれば止めるようにもな。」
「了解しました。それではこれで。」
そう言ってイビキが執務室を後にしようとしたとき、扉をノックする音が響いた。
「火影様、うずまきナルトです。入室の許可をお願いします。」
さっきまで話題の渦中だった人の出現にイビキと火影は顔を見合わせた。
今日は別に会う約束もしていない。
伝言があればイビキに託したはず。
二人は首をひねるが、ナルトを扉の外に待たしておくのもアレなので、火影は「入れ。」と許可を出した。
「失礼します。」
「どうしたのじゃ、ナルト。お主が突然ココを訪ねてくるとはめずらしい。」
「今日はお願いがあってまいりました。」
「お願い? なんじゃ、言うてみい。」
「封印の書を一冊お貸し願いたく。」
「「ブッ!!」」
イビキと火影は思わずふく。
封印の書とは禁術指定になっている術が記されている書のことだ。
普通の忍びでは扱いが難しいものから、人徳的に問題視されている術が載っている。
使い方によっては恐ろしいことにもなるのだ。
そんな危険な書を、何故ナルトが欲しがるのか。
急な展開についていけず、火影は疲れた顔をしてナルトに向き直った。
「…何故そのようなものを?」
「一時間ほど前のことですが……」
~一時間前~
「おや、ナルト君。買物かい?」
「…ミズキ先生。」
買物帰りだったナルトは偶然(本当に偶然だったのかは甚だ疑問だが)、ミズキ先生と会った。
ミズキ先生はアカデミーで会ったときと同じように優しそうな笑顔を浮かべてナルトに近づいてきた。
そして興味津々ナルトの抱えている買物袋を覗いてくる。
今日は三人とも来ることになっていたので、すき焼きでもしようかと大量に買っていたのだ。
買物袋でナルトの姿が隠れてしまうほどの量だった。
「しかし、また…一人にしては量が多いね。」
「あはは…お恥ずかしい。(アンコ達の食べる分も入ってるからね~)」
「それよりせっかくだ。甘味でも食べるかい? おごるよ。」
本心から言えば、断りたい。
今すぐ帰って夕食の準備をしたい。
だが、ここのところ周りでうろついているミズキの思惑が知りたかった。
今だって偶然を装っているものの、機を見て声をかけてきたに違いない。
「本当ですか!? じゃあ、あそこの団子おごってください!」
本心を隠し、ナルトは喜色満面の笑みを見せミズキの誘いに乗った。
「今日も授業をサボっていたようだけど、卒業試験が間近なんだ。大丈夫かい?」
「いや~、追いかけてくるイルカ先生のあの表情を見るとどうにも止められなくて。サボっても叱ってくれるの、イルカ先生だけだし。」
「イルカ先生真面目な人だから…小さい頃に両親亡くして、1人で頑張ってきて。ナルト君が自分に似てると思ったんじゃないのかな。」
「…そうかも、しれないですね。六年間お世話になりましたし。本当、感謝してます。あ、これイルカ先生には内緒ですよ?」
「ああ、内緒にしておくよ。それはそうと、本当に卒業試験、大丈夫かい?」
「え…?」
「言ってはなんだが、成績、悪いだろう?」
「はあ。」
何が言いたいんだ、こいつ?
思わずいぶかしげな顔になり、返事もおざなりになるが、ミズキは気にした様子はない。
「そこでとっておきの秘策を教えてあげよう。これをすれば卒業間違いなしだ。」
「……あ?」
目も口も開ききったマヌケな顔をさらすナルト。
思わず銜えていた団子もポロリと口から零れ落ち、地面に落ちてしまった。
その顔は図らずも三日前のイルカと同じような表情であったが、ミズキは気付かず話を進める。
フリーズしていてあまり話しを聞いていなかったナルトだが、頭になんとなく残ったことを整理すればこうなる。
→まず、火影の家に侵入し初代火影が封印した封印の書を持ち出す。
→ミズキ先生が教えてくれた場所で術の練習。
→卒業試験でその術を披露。
→卒業間違いなし!! イエイ☆
「…とまあ、こんな感じです。」
「…………」
「…………」
「100%実話に基づいてます。」
「………マジ?」
「マジです。」
「あー…言っちゃ何だが、そいつ、アホか?」
「身も蓋もなさすぎだと思いますが、僕もその意見に賛成です。」
ナルトの忍びとしての評価が高いことはアカデミーにとっては周知の事実だ。
ナルトのことを快く思ってない者達も、苦々しい顔をしながらも、それを認めている。
火影だって、監視役の三人だって知っている。
一部の忍びたちだって知っている。
なのに! 今更!!
卒業試験が危ない?
HAHAHA、楽勝ですよコンチクショウ。
ミズキがアカデミー教師でなく、長期里外任務とかに出ていたのならこの意見もわかる。
だが現役の。アカデミー教師が。そりゃないだろう。
「アカデミー教師といえば中忍だろう。…落ちこぼれか?」
「いえ、忍びとしては優秀な部類に入るという話を聞きましたが。」
「…能力的にはな。」
「「?」」
「ミズキはいわゆるエリートだった。中忍試験にも一発合格を果たし、上忍試験にもすぐ合格するだろうといわれていた。だがどうも視野狭窄なところがあってな…二度ほど上忍試験を受けたが落とされ、それ以降は受けることすらなくなった。」
「順風満帆に生きてきて、初めて味わった挫折に立ち直れなかったということですか。」
「そうだ。視野を広げてもらおうと、様々な者達が出入りするアカデミーを勧めたのだが…残念だ。まさかこのようなことを計画するとは…しかし何故わざわざミズキの話に乗るような真似をする? そのまま捕らえればいいのではないか?」
「証拠が僕の証言だけではいまいち押しが弱いのではないかと。」
「証拠がないなら作ってしまえってことか。ナルト、お前も悪よのぅ。」
「いえいえ、イビキほどではありませぬぅ。」
イビキと二人して黒い笑みを浮かべるナルトに三代目火影は深い溜め息をついた。
昔は可愛かったのに…
やはりあの濃ゆい性格の三人を監視役にしたのは間違いだったかもしれない。
火影は結構真剣に後悔をした。