外伝3 顔合わせ ハヤテ編
1人暮らしをはじめて一週間。
イビキとアンコとは顔合わせは済ませたものの、監視役は3人と聞いていたのに…と首を傾げていたのだが、どうやら最後の1人は現在入院中とのことをイビキから聞いた。
もうそろそろ退院してくるとのこと。
大丈夫なのかなぁ…
本日も1人暮らし用の様々な品物を見て、食事の買物をし、買物袋をえっちらおっちら持って三代目火影にあてがわれたアパートの一室へ帰ると、ナルトは眉を潜めた。
(何かいる…)
自分の部屋の扉の前に。
黒い服を着た――
「…死体?」
脈を確認していないからわからないが、たぶん死体。
ちょうど扉の前にバッタリと伏せて倒れている。
顔が見えないために額宛が確認できないが、服装を見る限り、木の葉の里の指定の忍び服を着ている。
別に死体が倒れていること自体は珍しくない。
今でこそ戦争はおこっておらず平和そのものだが、昔は任務で帰る途中に息絶えてしまった忍びだって多い。
なんたって昔の暗部の一番の仕事は、そんな死体を片付けることであったのだから。
しかし一応平和なこの時代、何で死体がこんなところに、しかも懇切丁寧に自分の部屋のドアの前にいるのか。
(…嫌がらせか?)
とりあえずなんでこんなところにあるのかわからないが、死体を足先でつついてみる。
反応が無い。
やはり死体のようだ。
そしてじっくりと観察する。
任務で失敗してここで力尽きたような感じは見受けられない。
服は汚れていないし、戦闘の形跡も無い。
血の匂いがしないため、傷も無いだろう。
毒でも食べたとか?
いや、それにしても胸をかきむしった形跡とか苦しんだ形跡が無い。
キレイすぎる。
「つか、どーしよ。部屋に入れないや。」
なんといってもまだ身体は6歳。
いくら四代目火影としての記憶があろうとも、6歳の子供の身体で成人男性の死体を動かすことは至難の業だ。死体は結構重いのだ。
イビキが来るまではまだ少し時間がある。
仕方無しにナルトはアパートの階段に腰を下ろすと、持っていた買物袋を横にそっと下ろす。
そしてがさごそを中をあさると先ほど買っておいたコロッケパンを取り出した。
まだあつあつ。
袋から出すとコロッケのいい匂いがあたりに広がる。
「いただきまーす。」
元四代目火影、うずまきナルト。
横に死体があろうと無かろうと、ナイロンザイルのような精神構造をおもちのお方であった。
そのままアツアツのコロッケパンを口に含もうとするが、しかしそうは問屋がおろさない。
そのコロッケパンの匂いに、死体がピクリと反応を示したのだ。
あいにくとナルトはそちらに背を向けていたので気がつかない。
「……シ…」
「…うん?」
「…メ・シ……」
背後から聞こえてくる声に、ナルトはギ・ギ・ギと首を後ろへと回す。
そして死体と目があった。
「メシ~!」
「う、わぁあああ!!?」
高速匍匐前進をしてナルトに近づく死体。
ナルトは顔を青くして踵を返し、階段を駆け下りようとして――
ボスッ
壁と衝突した。
いや、壁ではない。
「…何をやっているんだ、お前ら。」
イビキであった。
「イビキぃ! し、し、死体がぁっ!!」
「死体? …あぁ、アレな。」
なおもナルトに近づいてくる死体に、イビキは手裏剣を放った。
すると死体は飛び起き、手裏剣を手で受け止める。
イビキも手加減していたのだろう、手裏剣はそれほど回転がかかっておらず、スピードもついていなかった。
「ゴホ…いきなりひどいんですね、イビキさん。」
「しゃべった!?」
「そりゃしゃべるだろう。ナルト、こいつが監視役の最後の1人、月光ハヤテだ。」
「よろしくなんですね。」
と、ゴホゴホ咳をしながら手を挙げるハヤテ。
ナルトは里の未来がとてつもなく不安になってきた。