マシュー・バニングスの日常 第九十三話××年○月□日 先日治療した謎の覆面魔導師男性についてのレポートを作成、上に提出。 UD論文が目指していた、魔力の飛躍的な増幅が実現されているかどうかについては厳しい評価を下さざるを得ない、あの技術は本来、健康なコアの持ち主に件の魔力結晶を接合して飛躍的な増幅を目指すものなのに、瀕死の人間で試すとか実験の趣旨と違う。 ただしそれはつまり本来は魔力増幅を目的とした技術を、治療目的に転用したとも言えるのだ。そういう点で言えば見事なものだ。多分8割がた死んでいた人を強引に復活させることに成功してる、俺に同じことが出来るかといえば難しい、傷ついたコアを治すのは得意分野だが既に死に掛かってるコアを蘇らせるとか、実際問題ああして強力な魔力結晶接合というショックを与える以外の方法で実現できたとは思えない。UD論文の実行者は結果的にだが確かに、彼の命を救ったのだ、他では真似できない技術によって。 リンカーコア直接整形により適合率を高めるのは可能であると思われる。今、普及しようとしてる中核刺激法のための設備の転用により十分、ある程度の調整は可能、そこの所については問題無い。 UD論文による魔力増幅が一般に普及できるかどうか、最大の問題点は間違いなく、あの人造魔力結晶のコストによる。 もしもあの人造魔力結晶が現代の技術で量産可能なものならば、また万人向けに加工することが可能ならば出来るかも知れない。 しかし魔力結晶の素材自体非常に高価なのではないかと思われたし、それを加工する技術というのもきいたことが無い。 結論として、UD論文の「人造魔力結晶のコアへの接合による魔力増幅」は、一般向けの技術ではなく、特定の・・・非常に数少ない高位の魔導師の力をさらに増幅するための、いわばエリート向けの技術にしか、なりえないのではないかと思われる。 ただし正確な評価は、人造魔力結晶のコスト、その加工技術について詳しく知らねば下せない、と。 うん、下手したらあの技術は、最大で一時的に魔力倍増とか? そのくらい無茶ができる技術であるかも知れない。 しかしそんなことしたら肉体への負担は尋常では無い・・・ もしもその方法を本気で使う気ならば、最初から肉体の方もそれ専門に調整するくらいの勢いがいるだろう。 これはカンだが・・・なんだかベルカくさいなぁ、この技術。 短時間に強烈に増幅する・・・カートリッジシステムと似てるような。 古代ベルカの王族や高位の貴族、騎士とかは遺伝子レベルの肉体の調整を代々行っていたというが・・・ だがそういう本来の使い方をしても、元から強い極少数の魔導師をさらに強くするくらいが限界か。 それよりその技術を劣化させて一般向けに変え、治療に転用するほうが多大の効果が見込めるのではないかと思われる。 安くて軽い人造魔力結晶を製造・加工して、壊れたコアを補填するという方法がもしも実現できれば、直接整形では治せないレベルのコア負傷をも治療できるようになる可能性がある。 そだな~実際にコアに埋め込み接合してしまう、というのには技術的な障害が多そうだから・・・ 着脱可能な義肢や義歯みたいな感じで、胸部のコア前に専用のベルトみたいので結晶をくっつけて魔力的なラインをコアとの間に引いていわば外部魔力タンクみたいに利用とか出来ないものだろうか・・・直接に接合するのは難しい、ならば敢えて遠回りして間接的に補う状態にすれば・・・しかしそうするとリミッターつけてるのと大して変わらんか・・・いやリミッターはゼロからマイナス方向に抑えているのに対して、外付け魔力結晶による補填が成功すればこれはゼロからプラス方向に行くのであり・・・いやしかしそれもまた我が身を常人並にきちんと治すという目的とは合致しないか・・・ さて、どうしたものか。とにかく人造魔力結晶についてより詳しく知らねば始まらないかな。××年○月□△日 ナカジマ姉妹の健康診断をする前日、上から通達が来る。 実は医療的な側面から彼女たちを見てる俺とは別に・・・機械的な側面から定期メンテみたいのを行ってる担当者がいたそうで、今度からその人と協力してナカジマ姉妹を診るようにとのこと。 その担当者、マリエル・アテンザ女史と会う。 はじめましてと挨拶したらなぜか怒られた。 俺は全く記憶に無かったのだが実はず~~~っと前に、アースラに乗ってたことがあるそうで、そこで俺と何回か会ったと。 うわぁ100%忘れてた。 もうっ! 私はあの痩せた小さな子供だったマシュー君が、成長して活躍してるのを聞いていつも遠くから応援していたのに! 今使ってるデバイスのサウロンの調整も私がやったのよ! なんで覚えてないの! って言われても。 彼女は少しマッド気味な程の技術担当官で、アースラにいた頃もほとんど技術室に籠もっていて、降りた後も出歩かずに、とある研究所に詰めて好きな研究をやっていたそうなので、それでは忘れても仕方ないのでは無かろうか。接点無いじゃねーか。 しかしそういう研究一途な人だけに、機密情報とかに触れる権限については実は俺よりもずっと先行してて、今度やっと俺がそのレベルに追いついたので協力できるようになったそうだ。 二人で話し合いながらナカジマ姉妹の健康チェック。 大きな意見の違いも無く、まあ問題無いということで一致。 しかしアテンザ技官をもってしても、姉妹の肉体改造技術には良く分からない部分があるそうだ。 もしかしてこれもUD氏の研究成果の一種なのだろうか。 だがUD論文については他者と気軽に話してよい話では無いし。 また機械的人体改造技術に関連するUD論文は・・・どーも俺には与えられてないらしく見つからず・・・ むしろマリエルさんのが詳しかった。戦闘機人という単語もこのときはじめて知った。 分からないことを考えてもしょうがない。 二人で分担して姉妹の健康状態をチェックして、終わったところで問診。 なにか気になってることとか無いかな? もちろん質問の意図は姉妹の健康上の問題なのだが。「あの・・・それだったら一つ、いいですか?」 スバルちゃんがおずおずと手をあげる。「うん、何かな?」「あの・・・魔力増幅手術のことなんですけど・・・」「ん? コアに異常は無いと思ったのだが・・・何か違和感とか痛みとかある?」「いえそうではなくてですね、あの・・・その・・・」「うん?」 俺が直接に実施した中核刺激法の被験者に何か異常があれば大問題だ。これはしっかりと聞かねば。 自然に俺は真剣な顔になってスバルちゃんを正面から見つめて彼女の言葉を待つのだが。 言いにくいことのようでなかなか話を続けられないスバルちゃん。 見かねてギンガさんが。「ほらスバル、ちゃんと言わなきゃ、先生に変な心配かけるよ? すいません先生、本当に体とかコアの話ではないんですが」「うん、何かな?」「えっとですね・・・あたしの友達で、一緒に・・・そのですねティアって言うんですけど、それでその・・・」「ああもうはっきりしなさい! すいません先生、中核刺激法の志願実験者の選抜の基準とかの話になっちゃうんですけど・・・」「あ~・・・もしかして知り合いで一緒に応募したのに、その友達の子だけが落ちたとか?」「そ、そうなんです! それでどうしてそうなったんだろうって・・・」「いやそういわれても・・・凄い倍率だったし定員は十人だけだったし偶然としか言えないなぁ」「そう、ですよね、やっぱり・・・」「選考基準とかもね、そこは一般公開できない情報だから」「でも! 私たち姉妹は二人揃って受かったのに、ティアだけはダメで、ティアが落ちたのは偶然だから仕方ないとしても、私たち姉妹が二人で受かったというのはなにか特別扱いでもされたんじゃないかって! もちろんティアはそんなこと言わなかったけどきっと思っててだから私も不安で!」「なるほどね。」 ん~そういうこともあるか。難しいなあ。 なんとかスバルちゃんとその友達が・・・仲直りできるようにしてあげたいが。 偶然二人が揃って受かっただけというのは確かに無理がある。実際偶然では無いしな。「えっと、逆にきくけど・・・その友達は、君たち姉妹の特殊な肉体的事情については知ってるのかな?」「あ・・・いえ、その・・・」「戦闘機人だって特殊な事情、しかも比較対照が容易な年の近い姉妹、さらに昔から俺が見てたからその他の情報も非常に多く持ってて、それやこれやが絡まって、二人を意図的に選んだ、それは事実だよ」「やっぱり・・・」「その辺の事情をなぁ・・・全部話せれば納得してもらえると思うんだが・・・全部は無理でも話せる範囲だけでも・・・」「・・・そうですね、うん、そうです! 話してみます色々と!」 スバルちゃん少しは表情明るくなったかな。姉妹は帰っていった。 まさか隅から隅まで全部? 特に戦闘機人であるってことまで話すことは無いだろう・・・とか思ってた俺だったが。 甘かった。スバルちゃんの真っ直ぐさを甘く見ていた。 なんとスバルちゃんはその友達に、自分が普通の人間では無い、違法な肉体改造により半分機械の体にされた特殊な改造人間なんだって話を全部洗いざらいぶちまけてしまったそうで・・・ だが幸いその友人は物分りの良い子で、それをきいて納得してくれて。 さらにそうして踏み込んだ話をすることで、これまでは普通の友人だったのが、無二の親友と言っても良い存在になったそうなのだが。 いやしかし無茶するなあスバルちゃん・・・ 機会があったら、その親友の子にも会って、その情報は他に漏らさないように注意しとく必要があるかな・・・ そこまで話せる親友という存在は非常に貴重なんだろうけど。「バニングス医務官、本当は贔屓したんでしょ」「誤解ですよ、アテンザ技官。あくまで諸般の事情により必然的にそうなっただけです」「ふふっ。まあそういうことにしておいてあげるわ、マシュー君」「・・・助かりますマリエルさん」××年△月□△日 高町、フェイトさん、エリオ君の健康診断の日。 なんだか高町が微妙に元気無いような気はしたが特に異常なし。なんかあったのかときいてみるも普通・・・かな? エリオ君も異常なし。 フェイトさん・・・過労気味。 また働き過ぎですねフェイトさん、少しは仕事減らしたほうがといったところ。 今だけは、お願いだから今だけはと、凄い剣幕で頼まれる。 なんでも違法な人造魔導師研究をこれまでずっと追ってきたのだが、その研究や技術の元締め、卸問屋みたいな存在がやっと見えてきてそれが誰なのかもう少しで特定できるかも知れない! という山場なのだそうだ。 もしかしたら、とある広域次元犯罪者こそがその黒幕なのかも知れない、しかしまだ証拠が足りない、向こうの証拠隠滅のスピードとこちらの捜査のスピードのギリギリの競争、今だけは仕事に専念しないわけにはいかない! と。 ことが違法な人造魔導師、違法なクローン等に関わるだけにフェイトさんの迫力は凄い、この件だけは誰に止められても絶対にやりとげるという覚悟のようだ。うむむ・・・ことがことだけに止められないな、フェイトさんの一番深い所に根差した問題だから・・・ 俺だって自分の治療についての話になれば形振り構わなくなるからな。 誰にでもそういう逆鱗はあるもんだ。 そういうことなら仕方ないですけど一段落したら言ってくださいよ、一回徹底精査しますのでとそこは約束してもらった。 それじゃあ今日のところはそういうことでという雰囲気になったとき。 エリオ君が急に発言、珍しい。「あの~先生」「ん? なに?」「エイミィさんから伝言があるんですが」「伝言?」 なぜわざわざ伝言。しかもエイミィさん。嫌な予感しかしないぜ。 しかしその内容は。「もしも時間があったら協力してやって欲しい、ということです」「ん? それだけ?」「はい」「・・・わけわからんが・・・フェイトさんの調査とかに協力する権限は俺には無いんだが」「ですよね」「それを知らないエイミィさんで無し・・・ほかに何か言ってなかった?」「僕も詳しくは・・・ただ『多分マシュー君なら選択肢に入るだろうから・・・』とか呟いてたんですが・・・」「うーんよく分からんな・・・なんの話なんだろう?」「ですよね?」 俺とエリオ君だけでなく、そばで聞いてたフェイトさんと高町も分からないと首をひねる。 とりあえずその日はわけわからんままで皆は帰っていったが。 なんだか気になるな・・・ フェイトさんに協力しろって話じゃあ無いよな・・・そうなると・・・ クロノかな? なんかあんのかな? それとも何かある予定なのかな? 分かるまでは、まぁ、待つしか無いか・・・☆ ☆ ☆(裏舞台の謎の博士と秘書)「ふむ、聖王のクローン、レリックウェポンについては目処が立ったな」「はい、当初の予定よりも順調です。後は素体の成長待ちとなります」「そうなると・・・やはり念のために実験しておきたいかな・・・」「何をでしょう?」「聖王の遺伝子を持つ者だけが利用できる古代ベルカの兵器、最終的には『揺り籠』を起動する予定であるわけだが、他にも無いわけでは無い、使い潰しても問題ないものを使って起動実験をしておきたいな」「聖王自身が抜きでは・・・」「『揺り籠』なら聖王の全身が必要になるがね。聖王が血を振り掛けることで、起動の認証となるタイプの、揺り籠ほどには強力でない兵器もあるだろう、そちらを使って、今培養中の聖王が確かに聖王として認証されるのか試しておきたいね」「・・・ただの起動実験だけで聖王の遺産を一つ使い潰してしまうのはコストパフォーマンスが・・・」「分かっている。だから起動実験に伴い、証拠隠滅、さらに戦力評価も並行して行う。近頃捜査も厳しくなってきたからね」「認証後は、任意に機能停止も出来ないタイプの、使いにくい兵器を使い潰す・・・という方向でよろしいでしょうか?」「そうだな。あとは出来る限り派手に暴れて最後は大爆発でもして証拠を完全に消し飛ばすというのも条件に・・・」☆ ☆ ☆××年□月□△日 ミッドチルダは次元世界全体の管理者ではあるが、お世辞にも絶対者とは言えない。 盟主であり、比較的第一位であり、調整者であり管理者、そしてそれ止まり。 支配者でも無ければ絶対者でも無い、と。 だから管理世界でも昔からミッドと仲が悪いとかでミッドの影響が及びにくい世界とか普通にある。 特に旧ベルカ系の支配地とかね。なにせ古代ベルカは次元世界の支配者であり覇者だったので範囲も広くて。 ミッドと相打ちになった後に生き残った古代ベルカ勢力のうち「穏健派」とでも言うべき勢力は、その後、ミッドにまとまって移住してきてクラナガンからかなり北の方にベルカ自治領というのを作ってる。彼らはあくまで穏健派、ベルカだって一枚岩じゃあ無かった、戦争してる場合じゃねーだろまずは落ち着けと言ってた人たちも多かった、その子孫にあたる人たち、そして今でも彼らは穏健派であり、基本ミッドと仲良くしましょうねって態度で、それにミッドも協力していて、次元世界の中の「旧ベルカ」系勢力の大部分はこの秩序に従っている。ちなみにこのベルカ穏健派首脳陣のミッドへの移住と、ミッド・ベルカの正式な和平締結というのは必ずテストに出るほど重要な年号だから覚えて置くように。 まあとにかく今ではこの秩序に旧ベルカ勢力も従ってる。 そう、従ってはいるのだ、大部分は。 当然、従っていない少数というのもいる。 戦後に穏健派主導でミッドとの和平にまとまった旧ベルカ勢力なのだが、それから既に時間も経って・・・ そうなるとやっぱりミッドは気に食わんという昔のベルカ強硬派勢力みたいな人たちも、やっぱりいるわけで。 管理外世界なんだけど、実は薄々とミッドの存在を知ってて、そして潜在的だが友好的な世界というのもある一方で。 非常に歴史が古く昔からの、それこそ管理局体制設立以前くらいからの付き合いがある管理世界なのに、逆にそうであるからこそ昔からの因縁が縺れて絡まって抜き差しならず、どうしょうもなく仲が悪い管理世界というのもあるわけだ。 うん、例えばイギリスと日本なら互いに縁もゆかりも無いから意外と仲良く出来たりするが。 イギリスとアイルランドとなると昔から古い付き合いがあるがゆえにもう仲良くするとか不可能みたいなもんだな。 第四管理世界「バドブルグ」は旧ベルカ強硬派の強い世界で、ミッドとの仲はもう何百年も最悪。 ミッドとの貿易も交流もあるくせに一方で小競り合いも紛争も絶えない世界で・・・ またまた国境紛争が起こったそうな。 それを聞いたとき多くのミッド人は「またか」としか思わなかったし正直俺も同感。 ベルカ自治領からは「遺憾に思う」といういつもの声明が出され、管理局からも同様の声明が・・・ うん、実際それを聞いても皆が皆「はいはい」と聞き流すようなもはや年中行事。 だからその小競り合いに次元航行艦アースラが参加してたとか。艦長はクロノだったとか。 なぜかフェイトさんもその世界に用があったそうで同行してたとか。 それでも俺には基本的に関係ない話であろうと、ニュースを見たときは思っていた。(あとがき) 「バドブルグ」実際の地名。どこにあるか調べないでね。ベルカ系なのでドイツ語系だが今後他の設定とかぶれば速攻変更しますw スカさん念のために実験。それに振り回される周囲。久しぶりに全員集合できるかな? クロノが将官に出世するのに該当する事件の予定。あいつも若くして出世しすぎだろうと。