マシュー・バニングスの日常 第八十六話「私ね、マシュー君のこと・・・好き」 言った瞬間、固まるマシュー君。 うーん面白い、完全に硬直して目を見開いて。 動揺してるね。でも続きがあるの。「かも」 聞いた瞬間、ずっこけるマシュー君。「はい?」「だから、好きかも。好きなのかな? どうなんだろ?」 立ち直って、かぶりを振りながら後ろ頭をガリガリ掻いてこっちを呆れた目で見て。「ああ~~~ビビったぞコラ。結局そうくるか。ふぅ・・・所詮は高町か」「ひどーい。でもね、これが正直な気持ちなの。良く分からないんだよね」「で、それを言ってどうしようと言うのだ」「良く分からない、だから相談してるの。どうしたらいいんだろ?」「あのな・・・俺本人に相談するのは何か間違ってるのではないかと思うぞ・・・」 私もそう思わないことは無いんだけど事情があるの。「お母さんがね」「ん? 桃子さんが?」「お母さんがひどいんだよ、近頃ずっと。ユーノ君は私を好きで、私はマシュー君を好きな疑いがあって、これまでは、はやてちゃんに遠慮して自分の気持ちを抑えていただけだって言うんだよ」「・・・で、お前はどう思ってるんだ?」「わかんないの」「むむ・・・」「それで・・・こういうこと・・・きっと本当は、本当に他人事だったら・・・はやてちゃんに相談するのが良いような気がするんだけどなにせ問題になってるのがマシュー君のことだし、相談なんてできなくて、だからアリサちゃんも相談相手にできないし、フェイトちゃんはこういうことではあんまり頼りにならないし・・・ほら、もうマシュー君に相談するくらいしか無いじゃない?」 これは私なりに考え抜いた意見なの。 でもそれに対するマシュー君の答えは・・・「いや、それだったら月村さんに相談すればいいんでね? あの人が一番冷静で客観的な・・・」 彼の表情を確認すると、うん、真剣だ。ふざけていない、他意無く真面目に言ってる・・・あきれた・・・「・・・へぇ」「なんだその冷たい返事は」「ふぅん、なるほどね・・・」「な、なんだよ!」 本当に、あきれた! マシュー君ならとか思って過大評価してたんだ、私。 男の子というのはこんなに・・・バカなんだ。マシュー君でも。 なにを見事にすずかちゃんに・・・騙されてるわけ? 家同士でそんな話が出てるだけだから・・・私たちは実際には単なる友達だし・・・意識することないよ、これまで通りでとか。 そういいながら確実に距離を詰めてきてるすずかちゃんの、手のひらの上で踊らされて、気付いてないの? ああ本当にバカ。 バカ過ぎて。「だから分かんないんだよね。本当に私、マシュー君のこと、好きなのかどうか・・・」「だから、がどこに係ってるのか良く分からんのだが」「マシュー君が、そうだから、そんなマシュー君を私は本当に好きなのか? わかんないの」「いやすまん、やっぱりわからんのだが」「ううん、いいの!」「いやお前だけ納得されても」「私は!」 言いながら、姿勢を正し、マシュー君の目をまっすぐ見た。 こんなふうに正面から彼を見るのは久しぶりだ。「私は、マシュー君を、好きかもしれない!」「む」「でも分かんない!」「いや、だから」「そういう現状だってこと、はっきり分かった、うん、これなら大丈夫!」「・・・お前って本当にいざとなると人の話聞かずに自分の道を突っ走るよな・・・」 今はここが限界。でもそうとはっきりすればそれはそれで心が晴れて。 そんな私を呆れたような目でみるマシュー君に。 改めて聞きたかったことを聞いてみた。「マシュー君は、はやてちゃんが好きなんだよね?」「ああそうだよ、それもこの前、さらにはっきりとそれが分かることがあってだな」「へえ、なにがあったの」「八神が、仕事で親しい同僚の男と、連れ立って歩いてるのを見て」「見て?」「嫉妬した。そのあと八神と連絡とったら・・・互いに嫉妬心全開で醜い罵り合いの大喧嘩になった・・・」「ん? ってことはマシュー君も女連れだったの?」「あー・・・まあ、そうだ」「なるほどお互い様だったんだ、それで怒るなんてマシュー君もちょっとアレじゃない?」「俺もそう思う、だけど気持ちが止まらず、そういうふうになってしまうってことがやっぱり」「本当に好きだって証拠・・・なのかもしれないね」「それ考えると、お前はやっぱり別に俺のこと好きじゃないんじゃないかと思うんだけどな」「うーんどうなんだろ・・・」「俺と八神がずっと一緒なのを一番近くで見てたお前はそれでも別に嫉妬心とか持たず・・・だからやはり違うんでね?」「うん、私もそう思ってたんだけどね」「だけど?」「・・・教えない」「おいおいここまで互いに腹割って話してるんだから・・・」「女の子の秘密だよ、ぜった~い、教えない~♪」「ぬぬぬ・・・」 すずかちゃんを変に意識してもらってはたまらない。 マシュー君が意識したらしたで、すずかちゃんなら・・・抜かりなくまた一歩近づくための策略を実行しそうで・・・ そしてきっと、おバカなマシュー君はコロリと騙されて・・・言い訳の余地が無いような状態にされてしまうに違いない! なんでそんなふうに思うのかな? でもそれも素直な気持ち。 別に無理せずに、正直に言って・・・私今でもマシュー君とはやてちゃんなら心から祝福できると思う。 でもすずかちゃんだと何か釈然としない! それも本音みたい。 結局私は彼が好きなのかな? 良くわからないし、どうやったら、はっきりわかるのかもわからない。 ただ「かもしれない」ってわかっただけで。 でも・・・これまでの私はきっと、そういう可能性すら否定してた。 今はそういう可能性はありえるんだって、それを認めることはできた。 それだけですごく気持ちが楽になって。 とっても楽しくなって、さらに色々ときいてしまう。「ねえ、どうしても不思議だったんだけど・・・なんではやてちゃんと別れたとか言い出したの?」「む・・・」「私でも分かるよ二人は両思いだって。明日やっぱり結婚するって言い出しても納得、誰も驚かない。そんな二人なのに・・・」「ええい! 色々あるんだよ、とことん話し合ってこうなったわけでだな・・・簡単に説明できることでは・・・」「うーん・・・やっぱりよくわからないの。そういえば・・・あ! そうだ!」「なんだ?」「ユーノ君が私を好きって言うのは・・・本当なのかな?」「うわ・・・ユーノ哀れ・・・あんだけ見え見えで・・・」「そうなの?」「あ~・・・そういうことは本人に聞くべきだろう、俺の口から言うべきことではない。」「マシュー君から見て、どう思うのかって意見が聞きたいんだけど」「お前ちょっと前まで俺の近く来ると無闇にテンパってただろ、あの状態の時、俺がお前に『俺のこと好きなのか』とかきいたら、お前、どんな状態になってたと思う? まともに対応できたか?」「え? でもそれとは違わない? ユーノ君は私の近くに来てもいつも・・・普通だよ?」「いやとにかく・・・うんやはり本人の口からきくべきだろう・・・ううむ難しい・・・」「はやてちゃんもどうせマシュー君のこと好きなくせに何か意地張ってるし? 本当に分からないよね? 今度きいてみようかな」「とにかく微妙な問題だから他者が簡単に口出しできるようなことじゃないんだと思うぞ」 マシュー君が難しい顔をするのを見て、私は思わず言ってしまう。「はぁ・・・やだねぇ」「何がだよ」「私たち普通に友達であるってことは変わらないし、それはそれでこんなふうに楽しくお喋りできるのに何でそれ以上に色々と・・・考えなくちゃいけないんだろ。うんやっぱりマシュー君のことを迷い無く好きだ! とか思うようになったら・・・本当に大変そう、とっても面倒なことになりそう・・・それだけでそうなりたくないと思えるくらい・・・」「俺と八神の場合は互いにそう断言できるはずなんだけど・・・なんか面倒なことになってるしな」「本当にね。私・・・やっぱり二人を応援したい! 二人が幸せになるのが正しいって思うの!」「それはありがたいがお前があれこれしてもどうにもなるもんでもないと正直思うのだが」「そうして二人の近くにいれば、私の本当の気持ちとか? はっきりするような気もするし!」「まあお前の場合はまずユーノのことが・・・」☆ ☆ ☆ なんか妙に話が盛り上がってしまった。 高町と恋愛談義で盛り上がるとは実に意外だ。 しかし現状の自分の気持ちを整理することに成功したらしい高町は昔通りに明るく快活になり。 さらに実は昔と違って? 俺に押されるばかりでいつも負けてるみたいな、いつでも俺が精神的に優位に立っていたような。 そういう状態では無くなり、成長して心が強くなったのか、俺と心理的に対等に・・・自然になってるみたいな。 で、そうして色々話をしてるうちに。 気付いたら午後9時をまわっていた! さて確認しよう。 高町は今、仕事が無い、停職中だと家に知られている。 そして今日は俺のところに遊びに行く、夕飯を作るつもりだとかも恐らく言っている。 その状態でこの時間! 士郎さんと恭也さんに殺される! お二人は基本俺に対して好意的だが程度ってもんがある! それに気付いた俺は焦って高町に帰宅を促す。 近頃、友達と気楽にお喋りする機会が少ない高町はまだまだ喋りたそうなのだがそんな意見は無視! ほら急げよ、後片付けとかはいいからと、とにかく急いで・・・ 俺の部屋備え付けの転送設備から。 まず日本のバニングス家に転移して。 そっから車出してもらって、高町家に送り届ける、時間は9時半過ぎ・・・どうだろ、ギリセーフかな・・・ しかし高町家の門の前に並び立つ二つの影! ただいま~と気楽に言う高町の横で。 俺は冷や汗をかきながら、すいません遅くなってと謝る。 で、そのまま逃げ帰ろうとした俺なのだが。 士郎さんと恭也さんにいつの間にかガシっと肩を掴まれて。 まあ待ちなさい、少し話していこうとか言われつつ高町家の中に連行される・・・ 若い娘を午後9時過ぎまで引き止めるのはどうなのか? しかも二人きりで部屋の中で? 夕食まで作らせて? などなどリビングで詰問されてたのだが。 そこに救いの手が! 桃子さんと高町が笑いながらやって来て二人を止めてくれる。 で、明日も仕事なのですいません失礼しまーす、と逃げに成功、ふぅ・・・怖かった・・・ マシュー逃亡後の高町家リビングで。「あのね! 私、マシュー君のこと、好きかもしれないの!」「かも?」「うん、好きかも知れないってそれだけは分かった。でもそれ以上は分からないの!」「・・・そう」「だからそれがはっきりするまでは・・・色々試してみようと思うの!」「・・・どんなことを試すの?」「う~ん・・・それも分からないの。でもね、お父さん、お兄ちゃん。邪魔しないでね!」「なのは・・・」「ちゃんと節度は保ちなさいね。あといざとなったら責任とってもらうこと」「も、もう! 急にそんなことにはならないと思うの!」 まだまだだけど少なくとも自分の気持ちから逃げずに向き合って・・・そして明るくなったことだけは確かであるようだ。 それを確認した桃子は、少しだけ成長した娘の笑顔につられて、穏やかに微笑んだ。☆ ☆ ☆(裏舞台における謎の会話)「ははは、今回は勝ったな。それも大勝利と言って良いだろう。」「そうですか?」「うん確かにレリックは取れなかった、それだけ見れば達成率50%と思えるかも知れないがね」「はい」「だがレリックも今は取れなかっただけで既に追跡して保管場所も分かっているし、再奪取も時間の問題だよ。」「はい、それはそうでしょうが・・・」「本局病院から奪ったリンカーコア直接整形術のデータの方は・・・素晴らしい! の一言だ! 生まれつきリンカーコアに障害があった人間にしか分からないのだろう繊細で高度でしかも大胆な干渉・・・もはや芸術だねこれは、彼のスキルは期待以上だ! もちろん私の研究にも役立つデータだし、これで皆のIS出力も全体的に増幅できるだろうが・・・それ以前にこれほど見事なテクニックというのは見ているだけで気持ち良いね! こればかりは恐らく私も及ばない技術だよ! 参考にして模倣して近付く事は可能だろうが、決して彼と同レベルのコア整形は出来ないのだろう、そういう技術がこの現代にも存在するとは実に素晴らしい!」「ですがそれも恐らく彼の場合は・・・」「うん、明らかに肉体の障害を代償にした特殊能力だね。だが素晴らしいことは変わらない。それにだね・・・」「はい」「ククク・・・それ以外にも得られた情報は実に大きかった。まだ確定ではないが恐らく彼は『目』だ」「目? なんのことでしょう?」「過去に二例だけ表に出て噂となった『魔王の目』または『冥王の目』と呼ばれる存在だよ」「・・・・・・照合しました。エース高町の手助けをしたとされる正体不明の魔導師・・・異常な索敵能力や特殊な転送魔法などを使用したという噂もあるが不確定・・・管理局の暗部に存在する闇の特殊部隊という都市伝説なども・・・しかし噂通りの力を持つならば、もっと運用された実績があるはずで二例だけというのが不自然・・・やはり信頼できない噂というレベルの話で、検討に値しないと我々は考えていたようです・・・しかし・・・」「辻褄が合うんだよ。エース高町、優れた探査魔法に転送魔法、さらに普通は表に出ないという事実。それは上の連中に隠されていたからというわけではなかったのだな。いやそれも少しはあるのだろうがそれ以上に・・・そんな前線での戦闘などということに使うには勿体なかったということなのだろう。それ以外の能力の方が有用過ぎて。だから偶然以外の理由では表に出なかったのだ」「・・・可能性は高いです、しかしまだ確定は出来ません」「そうだね。しかし面白い。さらに新たな研究も始めているというし。彼は実に私を楽しませてくれるよ!」「とりあえず推測される能力などを検討し・・・皆と情報を共有しておきます・・・」「ああ任せた。」 しかし彼の技術は本当に見事なものだ・・・ 是非、彼にも私の「レリックウェポン」の調整に、一度だけでも手を貸して欲しいものだが・・・ なんとか上手くやる方法は無いものだろうか・・・ スカさんからの励ましのメールは事件が解決した頃に届いた。【全く、世の中には悪い人がいるものだね。だが管理局もバカじゃない、きっとすぐに犯人は見つかるさ。なによりも、君に怪我が無くて本当に良かったよ。君の研究の発展と完成を心から祈っている】 うーん、本当に俺のことを心配してくれてるな~、やっぱりスカさんは良い人だ。(あとがき) なのはルートクリアのための重要な分岐「好き・・・かも?」を無事に通過。でもまだ友達ですw なのはの場合はVSはやて、というイベントが一番の山場になるのかも知れません。はやて相手でも!って気持ちになるかどうか。 スカさんと本格的に研究協力するには・・・今はまだ動機が弱いかな・・・期限が差し迫ってきて焦った頃が危ない?