マシュー・バニングスの日常 第八十五話 状況がまた変わる。 ガジェット群が研究所内への侵入を諦め、別方向に向かってまとまって動き出す。 どこに向かうのか最初は分からなかったが、下水道地下通路に入っていくのを見て撤退かと理解。 この段階になると陸士部隊も現場に到着し始め、逃げ腰のガジェット群に対する攻撃が始まり・・・ うん、普通に優勢だ。もう勝てるね間違いない。「敵は退却しつつあるな・・・味方の増援も来たし、これ以上、余計な手出しはしない方が良いかな?」「うーん・・・できれば援護したいけど・・・でもマシュー君に前線についてきてもらうわけにはいかないし・・・」「そだな、まあ一応念のためにもう一度、あちこち探査してみるよ。不慮の事態が無いかどうか・・・」 再び探査発動。 ガジェット群と陸士部隊の戦いは一方的に陸士側が優勢だな、これ。問題無し。 敵が逃げ腰なのと、倒さずとも刻一刻と敵は撤退して数が減ってくのと。 あとはレリックを運んでいたトラックの方の現場はどうかな・・・ おや既にAMFが解除されてる。トラックは後ろを引きずって停止して・・・炎上してる! しかも! 周囲に怪我人がバラバラと倒れてる! 意識のある人もいるようで頑張って怪我人を運んでる様子も! しかし意識不明の重態ぽい人も5人くらいいる! これは・・・「あちゃー・・・すまん高町」「ん? なに? どうしたの?」「今から救急隊を呼んで行ってもらうのでは間に合わないぽい負傷者が・・・俺が行かねば・・・」「すぐに行かなきゃ!」 何の迷いも無くそう返事して俺に詰め寄る高町。「いや、俺が勝手に動いて危険かもしれない場所に行けば多分、実際に責任取らされるのは護衛のお前・・・」「それがどうしたの! 助けなきゃいけない人がいるんでしょ! ほら私ごと転送して! できるんでしょ急いで!」 彼女の目は全く曇り無く純粋で。 なんだこいつは全然変わってないんだ、魔法を使って人を助けたいと決めた幼い日、あの頃のまま。 それがなんだか嬉しくて微笑みながら。 俺は高町ごと運送車両襲撃現場に転移した。 治療ってのは何よりも、早くしなくてはならない。 ほんの数分の差で助かるかダメかが決まる。 心臓が止まっても呼吸が止まっても、心肺蘇生を迅速に行えば助かる。 だがそこでためらってほんの一分無駄にしただけで死ぬか重度の障害が残るか。 転移、突然の出現に驚く現場の人たちに医者だ! と怒鳴って怪我人チェック、現場の怪我人は護衛・運転手併せて12名全員。 そのうち意識不明者5名、かろうじて呼吸してるの3名、本当にヤバイのが2名! 外傷多数、火傷もひどい、だがそれよりもまず心肺蘇生、これは物理的にも行えるがこういうときのための治癒魔法! 素人が使えば単に漠然と体力回復くらいしかしないもんだがこちとらプロだ! 狙いを絞り極度の刺激を与えず精妙に治癒すべきポイントだけに・・・絶対に助ける! よし・・・最低限回復・・・他の意識不明者も・・・ テキパキと処置、よし、これで大丈夫だな、現場で出来ることは限界、急患だし転送許可もらえるだろ、連絡しよう。 と、思ったら。軽傷の人が既に通報してたそうだ。 既に救急ヘリがこちらに向かってる、5分も経たずに着くと。「それなら・・・大丈夫かな・・・救急設備の整ったヘリで運んだ方が・・・強引に転移して連れていっても受け入れ態勢をそれから整えなくてはいけないから、どっちが良いか微妙だし・・・」「本当にありがとうございました、先生! って・・・あれ? もしかして」「はい?」「バニングス先生ですか?! うわ・・・本当にすいませんわざわざ!」「いえ、偶然私が最初に発見しただけですので。それにこちらの2名は本当に・・・危なかったですし」「マシュー君、ちょっといい?」「ん? なんだ高町?」「うわ! そちらは高町二尉?! 凄い人たちが・・・あ、すいませんお話邪魔して」「いえ・・・マシュー君、ここ来てから周囲の探査した?」「あ、してないな、治療優先で」「うんそれでいいと思うけど・・・念のため周囲をざっと見てくれない? 何か違和感があるの」「了解っと・・・・・・ん?」「なにかあった?」「いや・・・なんだろあれ・・・わからん・・・ちょっと見てくれ、そっちにデータと座標送る」「うん、って・・・ほんとだなんだろこれ・・・何かが埋まってるの?」「こっちからリアルタイムでつなぐぞ・・・ほら見てみ」「んん? 地面の下で・・・動いてる? 本当になんだろう?」「なんか埋まってるだけかと思えば・・・動いてるのがわけわからんな・・・あやしい・・・」「あやしいね・・・」「良くわからんけど襲撃犯の一味?」「うーん・・・軽く一発撃ってみる、座標だけ最新の更新し続けといて」「了解」 高町は溜めの無い、軽い砲撃を当該座標に向けて発射。それでも並の砲撃ではないのだが。「当たった? ・・・かと思えば沈んだ? 遠ざかってく・・・地面の下だから見えにくいな・・・」「見えなくなった? なんだったんだろう?」「うーん・・・分からんとしか言えん・・・」 どっかで見たような気がするのだがこのときは思い出せず・・・ 二人で首をかしげてると救急ヘリが到着。 救急隊の人に容態説明と引継ぎして、どうやら重態の人たちも助かりそうだと確認したところで。「考えてても仕方ない、か。とりあえず帰るか」「そうだね・・・本当になんだったんだろう」「しかし・・・一連の事態をどう報告したら良いのか・・・頭が痛いな・・・」「あう・・・それを今、思い出させないでよ・・・」 二人は来たときと同じように迅速に転移して帰っていった。 無機物の中を泳ぐように潜行し移動する特殊なスキル「ディープダイバー」を持つ戦闘機人セインは。 なんとか直撃を避けることには成功したものの、潜行中を見抜かれてしかも撃たれるという事態に肝を冷やしながら。 現場で起こったことを報告するために、そのまま帰還の途についた。○○年△月□○日 あれからの経緯を軽く説明すると。 まずレリックは無事に、気付かれないうちにそっと返すのに成功した。 あとは知らんよ興味無い、俺の管轄では無いだろう。 俺と高町の独断行動については・・・ああやっぱりって感じだったのだが・・・ 今、重要な研究を進めてて大いに上から期待されてる俺の方は「頼むから危険なことしないでくれ」と上司とか警備の人たちとかから泣いて頼まれて、俺も「本当にすいませんでした」と謝罪して軽く譴責食らう程度で許されたのだが。 高町は・・・護衛に徹しろと命じられていたのに勝手な援護攻撃に、護衛対象が危険性があるかもしれない場所に出るのを止めなかったことにと、その両者についての責任を・・・ほぼ全て取らされて・・・ギリギリ降格までは行かなかったのだが・・・まず厳重な譴責を食らって、さらに減給六ヶ月に、おまけにしばらく謹慎してろってことで停職三ヶ月まで。これまで高町が受けた処分の中で、一番重い処罰だったそうなのだが・・・ しかし高町は平気で笑っている。 自分は間違ったことはしていない!って信念は揺るがない。 だけど俺は微妙に責任を感じざるを得ない。 さらに・・・俺がショックを受けたことがあり・・・ 事件が起こった時に、なんと本局病院リンカーコア障害治療部の専用独立データ倉庫に侵入者が来た形跡があったというのだ。 それしか分からない、つまり侵入者が・・・「いたかも知れない」程度しか分からない。 証拠の隠滅が完璧で、データを不正にコピーしたのでは無いかとかそれをどこかに勝手に転送したのでは無いかとか。 疑われるのだが分からない、ただ状況証拠として・・・その日は休みだったはずの一人の職員が来ていたこと、その職員はデータ倉庫に入る権限を持っていたのだが特に用も無かったはずだったのに入ったらしいこと、ただそれも曖昧な目撃証言しか無く確実では無いこと、その職員専用のキーの位置がいつも置いてある場所から微妙にずれて置かれていたらしいことなどしか分からない。 データ倉庫の扉の開閉記録とか、キーに自動で残るはずの使用履歴記録とか・・・加工され消されたような跡がある・・・ような気がすると専門の調査官の人が自信無さげに言っていた。既知のデータ改竄技術とは明らかにレベルが違う・・・知られていないような高度の技術によって加工されたような感じはするのだが・・・しかし正確には分からないとのことだ。 それほど高度な技術を持つ犯罪者とかいるのかも疑問であるし・・・ 分からない、分からないのだが。 嫌な予感しかしない。 多分・・・盗まれてる。外部に流出したことの無いリンカーコア直接整形の詳細な記録データが・・・ やられたな、こっちが本命だったのか? それともそれぞれ別だったのか? レリックを奪う方と・・・いやそれにしてはタイミングが・・・ 分からないけど多分最悪の直感が当たってる気がする。 ハァ・・・ 高町はかなりの処罰を食らうし。 悪用することしか考えて無さそうな悪人に、治療のための貴重なデータは盗まれたぽいし。 あああ・・・「参るなぁ・・・本当にたまらんわ・・・」 俺が病院寮の私室でデータの確認チェックとかしながら呟くと。「でも分からないじゃない? 本当に盗まれたのか・・・」 キッチンの方から料理の音に混じって高町が返事してくる。「いやお前は正直言ってどう思う? あんだけ怪しい状況証拠揃ってて何も無かったとか思うか?」「それは・・・私も正直に言うと・・・」「だろ」 停職中の高町との会話であるが。 なんでこういう状況に至ったのかというと・・・ 高町が研究所に出勤する義務のあった期間は終わったのだが、そのあとで・・・ 事態の収拾をつけるため報告とか処理とか一緒にしなくてはいけないことが多くて。 あれからさらに十日ほど、常に無いほど高町と共に行動してた。 で、一段落して、なんとか事後処理終わったところで。 俺の方は連続して、今度は他の被術者の検査とかあったのだが。 高町の方は停職食らったのでしばらくヒマで。 ヒマだからってんでなぜか遊びに来る高町。 研究所に来るたびにどんどん悪化していく周囲の誤解! 用が終わったはずなのに会いに来てる! バニングス先生のファーストネームを呼ぶような仲だしね・・・ やっぱり噂通りなのかな? これってスクープ? スキャンダル・・・ってことは無いわね、普通にお似合いだし。 昔からバニングス先生が担当だったらしいし、だったらなんだ別に驚くほどのことでも無いね。 いいなあ私も彼氏欲しい。 などなど無責任な周囲の皆さんの囁き声が嫌でも聞こえてくる! 本局病院のギルさんの方からも。 なんだ八神さんとは別れたのか? それで高町さんの方に? それならそれも分かるけどなぁとか言われてしまって。 しかしだな、今回の一連の事件では、結果的に高町にかなり負担かけて責任取らせてしまって負い目があって。 それに今の高町にとっては身近に気軽に遊びにいける友達ってのがね・・・姉ちゃんはアメリカ、月村さんはドイツ、八神とフェイトさんはミッドでどちらも忙しい、ユーノも無限書庫勤務はかなり忙しい。 その点、俺は、基本的に時間の余裕の多い大学生でもあり、ミッドでの研究も無理せず余裕見ながらやってるので・・・ 一番、会いにきやすいという環境ではあるのだ。 こうしてよく顔をあわせて話をしてると。 前も思ったとおり、やっぱり普通にしてれば普通だ。 高町は高町で、そのキャラが変わってるわけでもない、むしろ愚直なほど昔と同じ。 気楽に軽口を叩けるし、俺も全然気を使わずリラックスして一緒にいれるし、つまり正直言えば普通に楽しいわけだ。 ここでいきなり「八神に誤解されるのイヤだから来るな」とか? 改まって言うのもおかしい雰囲気なのだな。 でまあ俺の方も、コア整形術のデータが盗まれたっぽくて落ち込んだりしてだなあ・・・ へこんでる俺を見て、純粋な好意で、じゃあ今度、ご飯作りに行ってあげる! とか言われると。 それやこれや、あれやこれや、つまるとこ無碍に断る理由が思いつかず。 病院寮で、高町の作ってくれた夕食を食いながら二人で話しているという現状に至ったわけだ。☆ ☆ ☆ 研究協力のため研究所に来た日から、一ヶ月近く。 これまでに無いほどに一緒の時間をマシュー君と過ごしてた。 最初はまたギクシャクしてた。 お母さんに言われたこととか思い出して変に意識してしまったり。 でもね。 一緒にいる時間が増えれば自然に昔通りになってきて。 うん、やっぱりそうじゃない。 無理することは無いんだ、私たちは友達。 そうであって別に全然問題無い。 それも間違いなく本当なんだけど。 でもね・・・ 一回、極端に意識して。 そこからまた冷静になって。 普通に親しく過ごす時間を持ってみると。 いつの間にか。 前は無理に認めないように意地を張っていた気持ちが。 認められるようになっていた。 だから今日は、それを言う日なの。 それでどうなるのか分からないんだけど。 ご飯を食べ終わって、食後のお茶を入れる。 マシュー君の好きな軽い焼き菓子も持ってきたの。 そして私は彼と卓を挟んで向かい側に座って、改めて笑顔で彼に話しかける。「ねえマシュー君、ちょっといいかな」「なんだよ?」「聞いて欲しいことがあるんだけど」「なにを改まって・・・」「私ね・・・・・・(あとがき) セインの好感度も下がった! スカさんに情報がかなり流れた! スカさんルート突入確率が上がった! レリック輸送車両襲撃現場の方は置いといて、通信妨害の方に注意してれば本局病院の方に行けたのかな。 その場合はドゥーエの好感度がダダ下がりしたんでしょうが。次回で、なのはのターンは一段落する予定。