マシュー・バニングスの日常 第八十一話○△年○月×日 なんで・・・ 陸士訓練校の卒業式に・・・ 特別捜査官で上級管理官でどう考えても管轄が違う、教育分野とは関係ないはずの八神三佐殿が来るのかね・・・ だがまあ来たことは仕方ない、それは言ってもはじまらん。 年下の可愛い女の子とデートしてて俺が微妙に浮かれてたことも認めよう。 いや、それは普通に楽しいだろう? あんまり踏み込んだり私的にも何らかの関係をもったりとか、し過ぎたらそれはまずいだろうけどさ。 俺が、ギンガさんと私的に会ったってのは・・・治療病院関係以外で会ったってのは・・・これがはじめてだぞ。 そして今後も基本的には病院でしか会わんだろ、たった一回私的に会った、その機会によりにもよって・・・ なんで八神と鉢合わせになるかね・・・ しかし今日はギンガさんの晴れの日だ。 だから彼女を優先して、彼女が楽しく卒業の日を祝えるようにしてあげなくちゃいかんだろ当然。 八神とはまた別に会う機会もあるわけだしな。 俺は基本、姉ちゃんによって「女の子をほめる」習慣というのが叩き込まれている。 もう大概見慣れてる姉ちゃんのドレスアップ姿、それを見た瞬間、まず褒めろと、うん、そうしないと怒り出すし。 ほとんど無意識に、条件反射的に、俺は女子が着飾ってたら褒めるかも知れん。 それにやっぱり姉ちゃんで、女の子をパーティでエスコートするというのにも慣れてるし。 結局俺は八神のことに意識をとられながらも・・・なんとかギンガさんが不愉快に思わないように、違和感を感じないように。 彼女をエスコートし、折々に褒めて、パーティを楽しませることは出来たと思う。 彼女が可愛いというのは単なる事実だし、性格も素直で頑張り屋で良い子だし、俺も一緒にいて普通に楽しかったし。 なんとかパーティが終わりギンガさんを家に送って。 すぐに八神に直通。 やはりすぐに出る八神、こんなに速攻でつながるのは珍しいが今夜は大丈夫だと思った。 俺は、女房に浮気現場を抑えられたみたいな心境になったのかな? それで言い訳・・・しようと思ったのかな。 でもそれも変な話だよな。 それやこれやで俺は混乱していた? 冷静さを失っていた? ついついアコースさんのこととか口に出してしまったり。 そして後は・・・泥沼だ。 互いに責めて、でも互いに責める権利無いだろってまた責めて、ただ感情をぶつけあってそのまま切って。 イライラしたまま就寝し・・・ 次の朝の目覚めは最悪な気分だった。 ハァ・・・ どうしてこうなったのか、どうするべきなのか、分からない。 仲直り・・・したければ・・・また話し合う、できれば直接会って・・・それをするべきだとも思うのだが。 でも会って話しても・・・つまるとこ互いに「なにも言う権利ないだろ」ってそれも本当で。 そう、あいつが他の男と幸せになるというのなら・・・俺にはそれを止める権利とか無いんだよな。 でもそれはイヤだ。 ん? ここ重要なポイントぽいぞ。 俺は、八神が、他の男のものになるのは・・・うん、正直に、イヤだ。 仕事の付き合いで来たって分かりきってるアコースさんが側にいるのを見ただけで若干、平常心を失ったほどに。 独占欲、確かにある。 ああそういえばユーノが言ってたな、俺が高町の近くにいるようになって嫉妬して、はじめて高町を好きだって分かったって。 なるほど、こういうことか、俺は確かに・・・嫉妬した、やっぱり俺は八神が好きだな・・・ それを確認できて、少し心は晴れた・・・のだが。 問題はそれでどうするか、か・・・ なにがどうあっても「今すぐに」ヨリ戻すのは・・・無理だ、それが現状。 やはり・・・当初の予定通りに・・・「まず我が身を治す」以外に出来ることは・・・無いのかも知れん。 その間に八神が他の男のものになる危険性は? いや、それは無いだろ、あいつの仕事がそう簡単に片付くわけが無い。 俺みたいに、ほとんど会えなくても放置されてても平気で八神を待ってるという、異様に物分りの良い幼馴染であってさえ今の八神としては付き合うことができないくらいだし。普通の男が、特別捜査官で上級管理官で仕事に時間全て使ってて休みも不定期で、実際問題私的にはほとんど会えないという女と、付き合うなどというのは不可能だろーどう考えても。 それにこれは自惚れでは無いと思うのだが、異性と一緒の所をみて激怒したって、その怒りの程度では・・・八神の方がかなり上だったろうどう見ても。あれはマジ怒ってた、通話だから良かったが対面してたらなにされるか分からないくらいに。つまり八神は今でも俺を好きだというのも間違いないだろう。 だからまず治す、それしか無い! その後はもう容赦なく・・・あいつに仕事が残ってようが構わずにとりあえず一回押し倒す! うん、それで行こう! それしかないと再確認したところで、俺は自室の机から前に書いた「中核刺激法」の論文を取り出す。 高町が結果的に魔力10%くらい上がったように、その程度の魔力向上を可能とする技術の論文だ。(→ 七十三話後半) かなり画期的なものであるはずだと自負してる、よし当初の予定通り、まずはこれを提出し上に認められより多くの情報を! それはそれとして八神にフォローのメールでも送っておいたほうがよいかな。 それに気付いた俺は「昨日はゴメン、やっぱ俺お前のこと好きだ、会いたい」ってだけのメールを送った。 返事はすぐには返ってこなかったけど、それが普通だろ、どうせ仕事してんだあいつは・・・ 俺も研究所に出勤して、新たな治療の可能性を本格的に模索するとしよう! その頃、八神はやては確かに仕事中だった。 彼女はマシューからのメールだとアドレスを見て知った瞬間。 なにか決意に満ちた表情でそのアドレスを一瞬、にらみつけたが、すぐに。 内容の確認もせず無視し・・・仕事を続行した。 件名なし、明らかに私用メール。 公用とか緊急ならすぐ分かるし。 多分昨日のことをまた色々と言おうとしてるのだろうが。 でも、だったら、見ない、見ないと決めた。 会えないのが普通の状態に、既に慣れてしまっていたマシューは。 メールが読まれていないことに気付かず・・・ フォローすることは出来ないまま・・・時が過ぎる。○△年○月△△日 まず俺は「中核刺激法」の論文を翌日には研究所の上司に提出。 どういう内容か俺が説明するに連れて・・・上司は信じられない! という顔になり・・・ 無茶苦茶盛り上がってくれてしまいました。 その日のうちに、上の上、いや下手したら一番上まで話が行ったそうで。 同時に研究所内でも噂が飛び交い・・・ ああ~・・・やはり最初のうちはしょうがないかなこの盛り上がり。 魔力ランクを上げることができるかもしれないコア整形術なんてのは魔導師にとって大きすぎるからなあ・・・ 実現可能性が高いということもすぐに理解され・・・ 同時に最高度の機密として、関係者全員に絶対的緘口令が敷かれたが、まあ当然だろな。 俺は情報漏洩なんざ興味ないので黙ってるの平気だし。むしろそういうことするやつが分からん。 さて一般普及できるレベルにまで「中核刺激法」を標準化するには幾つかの段階を経ねばならない。 まず従来の直接整形術により魔力増幅が起きた前例を、もう一度、徹底的に精査すること。 精査もアフターチェックもしてなかったわけではないが今回は、俺自身が独自の探査能力により分かれば良いなどという個人に頼る状態からの完全な脱却を目指し、機械的な調査法により万人に利用可能なデータの抽出を目指す。このための測定装置とかの技術改良も同時に必要になるだろし、そういった特別な測定装置を設置できるような環境となるとよほどの大病院クラスでなくて無理ということにもなるだろうが、まあそれは仕方ない。 次に、志願実験者を募る。 健康なコアに手を入れて、魔力を増幅するということが可能かどうかやはり実験しかない。 もちろん俺は成功する自信はあるが一般的には・・・無理にコアをいじくるのは悪影響しかもたらさないと思われているので。 だから不本意ではあるがこの段階では俺の名声・・・虚名も含めて大いに喧伝して利用するしかないだろな。 リンカーコア直接整形術で有名なバニングス医師主導による、魔力増幅固定の実験! 成功率も非常に高い!ってな具合に。 無駄に有名になるのは嫌なのだが・・・これも仕方ないことだろう。 この実験に成功したら、後は数をこなしてデータを蓄積し続けて具体的な技術を詰めて・・・ そこまで行けばかなり俺の手から離れるだろな。 なにせ重要なのは「俺ならできる」状態ではなく「専門医なら誰でもできる」状態に持ってくことだから。 まずは第一段階だが。 直接整形術の被術者というのは、最初の高町から、今のところ最新のエリオ君まで数えて・・・実は11名しかいない。 まあつまり高町やエリオ君なみにコアがぼろぼろになって、しかも直接整形術なら治る見込みがあると断言できる症例というのが。 意外と少なかったということなのだが。 そして被術者は、実は全員、魔力向上ってのがあったのだが・・・しかし個人差がある。 標本数が少ないので有意かどうか微妙だが、若い人の方が伸び率が高い傾向があるように見える。 しかし一番若かったエリオ君より、高町の方が伸び率高かったりするので絶対ともいえない。 まあエリオ君の場合は、クローン体であるがゆえの体の弱さみたいのがどこかにあるってこともあるだろが。 なんにしてもエリオ君は特殊な事情が多くて一般例として考えにくいから置いておいて。 まず高町、あと複数の・・・できる限り多くの・・・精査段階での研究協力してくれる人を探さねば。 拘束時間がそれなりに長くなりそうなので来るのが困難な人もいるしまずは若くて権限も小さくて来やすそうな人から・・・ そういうわけで、候補をリストアップして上に要望を出すと。 驚くほどに速攻で許可が下りて、過去の被術者たちへの研究協力命令も下された。 うーん上の人たちの期待の程度が良く分かる。 でまあなんだかんだで二週間ほどして。 まず最初に時間の都合がついた高町が、研究所の方にやってくる。 研究所の正面玄関まで出迎える。「いや、すまんなわざわざ。ご協力感謝します、高町二尉殿」 大好きな教導任務を妨げられて、渋々といった風情で研究所に初出勤してきた高町に俺は声をかけた。☆ ☆ ☆ 彼が。 私を振り回すというのは昨日今日に始まったことでは無い。 多分はじめて出会ったときから、今に至るまでずっとあの時もその時も・・・ いつでも彼のペースで彼の都合の良いように振り回して巻き込んで・・・ すずかちゃんに・・・ 言われてしまってしばらく。 私は・・・呆然として考えもまとまらないまま、過ごしてた。 周囲から見れば、何をやらせても心ここにあらずで危なっかしくて。 教導にも身が入ってるようにみえなかった、研究協力でもして気分変えて来いということであっさり決められてしまって。 ぼんやりしたままその任務を受けて、どこに行けばよいのかだけ確認して・・・内容はよく読まず。 なんだか中央の技術研究所の、魔法医療技術研究の中心みたいなとこに呼ばれてるらしいとは理解してたけど。 コアがどうとかの説明文は正直流し読みしてた。 だからいきなりその研究所の受付のところでマシュー君に出迎えられたときは・・・ 気持ち的には完全に不意打ち? なるほどリンカーコアに関する技術の研究だからマシュー君が出てくるのはむしろ当然で、さらに直接整形術の最初の成功例だった私のコアを精査したいというならそれも普通に予測できる話だったはずで、だけど私は多分意図的に彼のことを考えないようにしていて、だからここに彼がいるって当たり前の事実にすら気付かなくて、でもそれにしても。 なんでこうして彼の顔を見ただけで。 涙が、出てくるんだろう。 研究所の入り口で彼の顔を見た瞬間。 私は目からポロポロと涙を零しながら。 ただ彼の顔を見て呆然と立ち尽くした・・・・・・(あとがき) なのはさんは自分からどうこうできないタイプなので、なにか、ひょんなことでも無くては進展しない。 しかしそういった機会やらチャンスやらアクシデントやらに恵まれるのが主人公、と。 基本的に治療イベントの一環の話。志願実験者に応募してくるギン・スバ・ティアあたりの扱いに悩み中・・・