マシュー・バニングスの日常 第七十六話△年X月X日 クロノとエイミィさんの結婚式は、いわゆる「人前式」みたいな感じであった。 まあミッドチルダは宗教色薄い文化だからね。ベルカの聖王「教会」とかもそういう名前でも実質、昔、ミッドと勢力を二分したベルカという魔法文明社会の残存勢力みたいなもんで、あれは本質的には政治的派閥の一種だろうと思う。 それはともかく、結婚式だ。 披露宴では無くね、それに先立って式の方。 式の次第を言うと。 まず朝早く、新郎新婦の身内や親しい友人たちが集まる。 次に、みんなで役所に行って、二人が正式に婚姻届を出すのを見届ける。 そこでおめでとー!って少し騒いだが場所が場所なので控えて、このために借りてたパーティ会場みたいな所に移る。 リンディさんはこの日のために馴染みの高級レストランを借り切ったそうだ。 まず乾杯、その後で。 二人は、ここにいる全ての人を立会人として、皆に、これから何があっても二人で一緒に頑張っていくと誓った。 さらに二人は互いに向き合い、お互いに対して、ここで改めてもう一度、そう誓い合う。 ずっと一緒に頑張ろう、と・・・ 見つめあい、頷き合う二人。 ウェディングドレスを纏った今日のエイミィさんはすごくきれいだったし。 花婿の方も今では立派な一人前の大人の男だし。 そんな二人がこれからも一緒に行こうと確認する光景・・・ なんといいますか。 うん、実に感動的でありました。 エイミィさんも普段の調子じゃなくて、すごい真剣に誓い。 クロノももちろん真剣で。 ああ、この二人ならうまくやっていけるんだろうなあと、納得しました。 そんな二人を見て女性陣は涙を浮かべる人、多数。 エイミィさんも涙ぐんでるな・・・そういう姿をはじめてみた、いつも笑ってる印象が強い人だから。 クロノの方は・・・あんなに優しい笑顔を浮かべることが出来るやつだって初めて知った。 なるほどエイミィさんにはそういう笑顔を向けるわけね・・・ 列席してる人々、高町とか八神とかフェイトさんとかもハンカチが乾く暇も無いくらい涙を拭っている。 しかしそういった人々とは比較にならない位・・・思い切り号泣してるリンディさん・・・ もう尋常じゃ無い泣きっぷりです、感動もあり淋しさもあり何より嬉しいけど嬉し過ぎて感情が爆発して・・・ こういうときは旦那さんが・・・・・・いないというのも大きいんだろな、どうしたものか。 悩んでるうちに、新郎新婦が近づいてきて、リンディさんの肩に、それぞれが腕をかけて抱き寄せて。 リンディさんは二人に抱きしめられて、まだしばらく・・・十数分は涙を流し続けていたと思う。 その後で何とか立ち直ったリンディさん、それからは何とか普通に振舞ってはいたが。 だが、ふとしたはずみにまた感動が盛り返してくるようで、すぐに涙ぐみ、目は常に新郎新婦を追い。 ここまでリンディさんが感情的になるところなど・・・恐らくここにいる人間全員、見たこと無かったのではないかと思う。 本当に、本当に・・・嬉しかったんだろうな。 本日はおめでとうございます、クロノ、エイミィさん、リンディさん・・・ さてこの結婚式は、親しい人だけ集めてしてるので。 出席者の顔は、ほとんど知ったメンツ。 あ、あの人知らない・・・けどエイミィさんに良く似ている、間違いなく血縁者だな。 後はほとんど知った顔。 ゆえに非常にリラックスした楽しい雰囲気、皆、心から二人の幸せを祝福してる。 それは当然、俺もだが、しかし本音を言うと。 うらやましい! ああ、うらやましい、うらやましい・・・・・・ 幸せそうで・・・いいなあ・・・ あんなふうに・・・なりたいもんだ・・・ そう、心底、思わされる二人だった。 式は式として。 披露宴の方の日程も決まったようだ、やはり式との間にあまり時間が空くのは良くないということで、ほんの数日後。 しかし・・・ 披露宴は社会的な顔見せって意味もある一種のセレモニーだからなぁ。 この式の後で、普通の披露宴やられても、こっち見ちゃうと披露宴のほうでは感動できそうも無いかも。 ちなみに俺も含めて全員、披露宴にも出る予定である。 友人としての祝福の挨拶とかもね・・・披露宴の方でやる予定になってしまっていて、それ考えると少し憂鬱。 各方面からお偉いさんがたくさん来るからなあ披露宴・・・その人たちの前でスピーチ・・・ううむ・・・「なに暗い顔してるの? せっかくのお祝いの席なのに」 俺の横、微妙に視野に入るかどうかくらいの位置から声をかけられる。 俺は、新婚夫婦の幸せそうな顔を、少し遠くから眺めながらぼんやりと答える。 今、二人は学生時代の友人たちに囲まれておめでとーおめでとーと大合唱で祝われてて。 少し喧騒が。だから話しかけてきた声とかあまり注意を払わず、誰かも確認せず。「あぁ、披露宴でのスピーチさ、やっぱり気の利いたことか言おうとせずに無難にまとめたほうが良いのかな、とかさ・・・」「うん、その方が良いんじゃない? たまに、ひねりすぎてわけわからない話とかする人いるしね」「だよなぁ、あのスピーチは不味かったと後悔するようなのはしたくないし、だからって余りにも形式通りでもと・・・」「真情がこもっていれば大丈夫だよ? マシュー君は二人を祝福する気持ちはあるんでしょう?」「それは当然。ただ本音言うと、羨ましいぞこの野郎!って言いたくなる気持ちも多々・・・」「ふふっ、そうなんだ。友人としての挨拶だし、そういうことも少し言っても許されると思うよ?」「うーん、そうだなあ・・・」「7割くらいは型通り、3割だけアレンジ、そのくらいを心がけてるかな、私がスピーチするときは」「私がって・・・そんな披露宴とかでスピーチする機会、お前は・・・あ」 言い訳しよう。 俺に対して「マシュー君」と呼びかける人間は意外と少ない。 八神の「マーくん」を除けば、あとは基本「マシュー」とだけ呼ぶ人が多い。 そして、今この結婚式の会場は当然、ミッドである。 ミッドで俺を「マシュー君」と呼ぶ人間となると事実上一人だけ。 つまり高町である。 声で分かれと? ごもっとも。 しかし少し周囲が騒がしかったのに加えて。 お祝いの杯を飲み干して、ちょっと酔ってたんだよ。 基本的に飲まないからね、俺。 実は飲めないわけでも無いようなのだが、別に飲もうとも思わず、飲みなれてなければ酔いの影響受けやすかったり。 しかしつまり俺は、高町と、月村さんとを、途中まで誤認して話していた! うーん我ながら注意力散漫である。 クロノの妹の友人ということで月村さんも来ていたのだ。もちろん姉ちゃんも来てる。 式に来てる人は、だいたいこのくらいの範囲までって感じ。 ぶっちゃけ月村さんは一番遠い範疇くらいだろな。「・・・なんか月村さんにはマヌケなところばかり見られるような気がするなあ・・・」「ふーん、なのはちゃんには、平気で『お前』とか呼べるんだ」 俺の言葉に微笑みながらも微妙に鋭い指摘が。「いや八神にも言うぜ?」「私だと『月村さん』だね、いつも」「そういやそうだね、月村さん相手だとそれが自然だなあ」「無理に変える必要も無いけどね。」 穏やかな自然な笑顔。 少し酔った目で彼女を見ると、いかんやっぱり可愛い。 スタイルはフェイトさん以上かもってレベル、顔立ちは優しい控えめな美人系、少しクールな感じもあるけどそれも姉の忍さんほどでもなく、彼女の場合はむしろ穏やかさや淑やかさが勝っていて、ぶっちゃけ小さい頃に月村さんが一番可愛い女の子だと思ったのも本音で、身近に姉ちゃんみたいな派手な美人がいれば、ステーキは美味いにしてもそればっかり食ってるとあっさりしたものも食いたくなるみたいな論理もあって、いわゆる癒し系のホッとできる雰囲気を持ってる人なのであり、そういう穏やかさが俺の女性の好みにストライクなような感じもして、しかも家柄釣り合ってて縁談が既に起こってるし、彼女と一緒になるのは社会的には自然、どの角度から見ても、問題が無かったりして・・・ 祝いの席で浮かれた気分、少量だがアルコール摂取。 なんか箍が外れたような感じで。 俺はそのまま結婚式の間中・・・ずっと月村さんと一緒に、話し込んでしまった。 いや、向こうで怖い目で俺を睨んでる姉ちゃんとかね・・・ 近づこうとすること自体に努力が必要で、どうにも向こうが避けようとしてる八神とかね・・・ そういう面々と話すよりは明らかに楽しかったのだ。 せっかくの祝いの席なんだから俺も楽しんでも問題ないよな、うん。 月村さんとはあくまで家関係の付き合いでって程度の話で、あくまで友達だし。 そのことは月村さん自身が認めているので。 こうして友達として話すことにストレスを感じないのが大きい・・・ そういうニュートラルな雰囲気を持ってるんだよなあ、月村さん。 祝いの席だから空気を読んで、前の話を変に蒸し返したりもしない、そんなことあったっけ?って顔してくれてるのも良い。 新郎新婦が海鳴組の方に来たときは、八神と一緒に結婚祝い選んだし、二人で手渡したのだが・・・ その後はまた迅速に離れる八神。 普通に側にいる月村さん。 八神はどう見ても意図的に離れてて。 それを追いたい気持ちはあるのだが。 少し酔ってて精神的な・・・忍耐力とか減ってて。 避けられてるのにそれでも敢えて追うという・・・気になれず。 それに八神のいる方向には海鳴組が多く、俺が近づくと固まる高町とか、俺を睨んでる姉ちゃんとかいるし・・・ あのコーナーに行って気疲れしながら話しかけるというのはちょっとね・・・ 俺を引き止めるでもなく自然に横にいるだけでリラックスした雰囲気で話せる月村さんと比べると・・・ で、結局、ずっと月村さんと一緒のままで結婚式は終わった。 だが、しかし、とにかく良い結婚式だった。ああいうふうになりたいと素直に思えたな・・・△年X月XX日 なんでも。 結婚というのはシャレにならないくらい大変な・・・事務手続きであり、作業であるそうだ。 結婚式と披露宴、その準備をするだけでクタクタに疲れ果てるのが普通だとか。 そこまで大変だから、あれほど労力を払ったのを無駄にしたくないと思い知り、離婚を防止する効果があるとかないとか。 クロノとエイミィさんの場合も大変さでは人後に落ちず。いや普通より大変だったのだろうと思う。 なにせ、披露宴・・・ クラナガン中央にある巨大なホテルの貸切状態だったし・・・ 一般人が披露宴開くような場所じゃねえええ! 管理局員とは言え、まだ一介の艦隊士官であり、艦長とかにもなってない段階のクロノにはちょっと大きすぎる! あれだよ、政界とか財界とか芸能界とかそういう世界の大物が使うような場所をさあ・・・ リンディさん頑張りすぎである。 結婚式の方はクロノ仕切りで、披露宴の方はリンディさんが好きなように演出してるのか、やっぱり。 各方面に顔が利くリンディさんがその全力を挙げてこの披露宴を仕切ったんだろな、だからシャレならん規模。 その披露宴でのスピーチ、大変でした・・・ 将官クラス当たり前にゴロゴロいるし、政界財界からも多数の来賓。 なんといいますかミッドチルダの「エライ人」を全員とは言わんがかなり多数集めたのでは無いかという勢いで・・・ 次のスピーチは新郎の友人でって俺の名前が紹介されると「ほう、あれが」って注目されるし。 いやはやこういうのきついなあ。 昔から世話になってるクロノのためで無ければ到底やる気になれんぜ。 仕事の付き合いでこういう場でのスピーチとかよくやる姉ちゃんや月村さんを尊敬。 なんとか無難にスピーチをこなす、ちょっとふざけてみる勇気も起きないw その後もそうそうたる御来賓の方々からのスピーチが。 その他にも祝電だとかお祝いの映像メールだとかお色直しとか再登場とかその度に趣向の変わる演出とか。 新郎新婦がテーブルごとにまわるターンがあるかと思えば、首座に着いてる二人に入れ替わり立ち代り近づいてお祝いを言いに行く人たちのターンもあり、しばしのご歓談をって休み時間みたいのは挟まれるにしても、二人の辿ってきた道の紹介とか、それぞれの親御さんへのお礼のシーンとか、披露宴でやれることは全部やろうって勢いでは無いかと・・・・・・イベント多すぎw まあとにかく「盛大な儀式」でありました。 これほどの規模の披露宴とか普通無い、さすがハラオウン家は健在だって。 そういう会話がそこかしこでされてたし。 リンディさんの企画は成功だったのだろう。 しかし披露宴終了後、親しい顔ぶれで集まって新郎新婦の控え室に行ってみると・・・ 精も根も尽き果てた・・・消耗し切って真っ白になった二人がいました。 半日近く笑顔を浮かべて愛想良くスピーチに礼をし続けお色直しも複数、ずっと緊張しながら座ってて、さらにそれ以前に半年以上の準備もあってあれやこれやでもう限界って感じ。 今夜は初夜・・・とかもうそういう雰囲気では無い、くたびれはててすぐに寝そう。 おめでとーって小声で言いながらとにかく早めに皆で退散しました。 一人元気なのはリンディさん、やりきった表情ですごい充実してましたw 披露宴は午後遅い時間に始まり、豪華な夕餐が饗されつつもさらに十時くらいまで続いた。 終わって、もう時間は深夜だから、さてどうするかと。 姉ちゃんとか月村さんについては俺たちと違って固定の宿舎とか住居とかミッドには無いので。 そういう来賓の面々のためにリンディさんはホテルの部屋も取れるように手配してた。 しかしこういう全員集合は実に珍しいので。 せっかくだから皆で一緒に八神家に泊まろうという話になったのだが・・・ むむう・・・俺とユーノ、男二人は帰る宿舎があるだろと追い出されました。 すまんユーノ、多分、俺の巻き添えだ。 八神関係で俺はダメだから、ここは男はダメってことにして、仕方なく二人ともって感じだろうか。 いやいやもう俺たち、それなりの年だし、昔みたいに男女が一つ屋根の下で寝るとか普通は無しが当たり前か、うん、そうだな。 まあとにかくそういうわけで俺たち二人は寂しくそれぞれ孤独に帰って寝ました・・・☆ ☆ ☆ 八神家にて、パジャマに着替えて一室に集まった5人、はやて、なのは、フェイト、アリサ、すずか。 5人分布団が敷けるほどの広さの部屋は無かったのだがそこは強引に敷いてくっつきあいながら。 このまま夜通しでもお喋りし続ける気満満である。「こうやってみんなでお泊まり会とかって、久しぶりだね!」 なのはははしゃいでいる。 中学卒業して既に一年以上が経過、みんなバラバラになってしまい、特に地球の親友である、すずかとアリサについては、たまに電話で話すことはあるけれどこうして会うという機会も少なくなってしまった。だから純粋に嬉しい。 そしてやはり話も弾む、中学時代の雰囲気が蘇りとっても楽しい! 普段の憂さも忘れて大いにはしゃぐなのは。 しかしそのうちどうしても・・・ 結婚式と披露宴の話になるのは自然の流れ。 はじめのうちは、良い式だったねー披露宴もすごかったねー二人とも幸せそうだったねーとその程度だった。 良い式だった本当にと互いに同意しあうのはフェイトとすずか。 なのはもそこは同意。 しかしどうもこの話になると、はやてはニコニコと笑顔になって何も言わなくなるみたいな状態になり。 アリサはどこか微妙な・・・言いたいことがあるけど言えないみたいな表情に。 はやてが「結婚」の話題となると微妙に逃げ腰になり何も言わなくなるのは、なのはにも何となく理解できたのだが。 アリサの方が良く分からない。なんで複雑な表情になるのだろうか。 なのはは疑問に思った・・・・・・(あとがき) 展開、結構迷ったが。次、すずかのターン再びいきます。 これまで登場少なかった分、取り返そうとしている感じか。 ゲーム開始して序盤はすずかが強い!って雰囲気の話ということで。