マシュー・バニングスの日常 第六十七話 夕食は皆で一緒に食べた、これもまた久しぶりやったんやけど。 でも今日は話せんとあかんってみんな知っとるから・・・凄い急いで食べて速攻で部屋戻るし皆・・・ そういう緊張した雰囲気やのに。 マーくんは全然平気でゆっくりと、いつも通りに食べとるし。 ほんまずぶといなあ自分? 私と別れたくないんちゃうん? そのために頑張ろうとしとるんちゃうん? せやのに何をそんなに落ち着いとんねん! 別れようとしとるくせに、私はそんな理不尽な怒りを少し感じたんやけど。 でもすぐ考え直して冷静になった。 あかんで八神はやて。マーくんをなめたらあかん。これは自信ある・・・言うことなんちゃう? 私が何を言いたてても説得する自信が本気である? なんかほんまにそんな雰囲気・・・に見えてきた。 ふん、甘く見られたもんやな、私も交渉術には自信結構あるでマーくん。 一番最後にマーくんが食事を終えて、私はお茶とか準備して持ってきて。 慎重に・・・何気ない感じで・・・単なる雑談みたいな雰囲気で質問する。「そういえばマーくん、エリオ君だけやなくて・・・」 マーくんはお茶を飲みながら平然とした顔で私の方を向く。「フェイトちゃんの健康診断もすることになったんやって?」「耳が早いな・・・そだよ。」「やっぱりフェイトちゃんの体が・・・特殊やから心配になった?」「ま、そういうことだな。昔から違和感は感じてたんだが、エリオ君絡みではっきりと知ったし。」「違和感?」「ああ。つまりだな・・・例えば樹木で例えれば、年輪ってもんがあるだろ。」「うん。」「あの年輪って自然な木だと、必ずしも毎年、等間隔できれいに整然と並んでるってもんで無いんだよな。」「せやな。」「天候の良い年、悪い年、成長の良い年、悪い年、年によって幅に差があり自然なばらつきがある。同様の事は実は人間の肉体にも言える。」「へー。」「人は病気もするし怪我もする、機能上は問題無いレベルに治っても、それでも完全にそれらの痕跡が消滅するかって言えば違う。」「なるほど。」「フェイトさんの体は・・・ある一定の年齢まで、不自然なほど整然とした成長をしていたように感じた・・・あれは恐らく・・・」「自然に生きて成長したんやないってこと?」「だな。今回エリオ君絡みで、そういうことを可能にする培養層とかね、はっきり見たし。」「これまでは見たこと無かった?」「少なくともあれほど高機能のものはな。限定的機能を持つものなら知ってたんだが・・・」「そっか。」 フェイトちゃん・・・・・・ほんまに・・・・・・困った子やな・・・・・・「それやったら・・・その、具体的に・・・どのくらい知ってるん? その、フェイトちゃんみたいな・・・」 ああ~なんて言ったらええんやろ。「人造魔導師を作る計画、戦闘用機械人間を作る計画、そういうのがあるってのは知ってる、が、それらに関わる固有名詞は知らん。」 いきなりマーくんは素直に言ってくれた。「そうだな、このへん相談したかったんだ。俺はそのへんの計画については大体知ってるんだが、関わってる固有名詞は決して知らない、つまり機密度Aの情報アクセス権限をいつの間にか与えられてたんだよ。これって危ない?」「へ? そんなん・・・だってマーくん、まだ二尉待遇で・・・」 おかしい。私が確認した時、本局では・・・「なんだか地上本部の医官としての権限が拡大されててさ、そこまで見れるようになってた。」「いつの間に!」「だな、俺も驚いた。」「うぅ~ん・・・・・・まだA?」「そだよ、それは間違いない。」 Aならば、まず絶対に「固有名詞」は伏せられとる筈。それ以外にも年月日とか地域とかとにかく「特定できる情報」は伏せられて、あくまで大体何があったか分かるって程度の筈やけど・・・「Aならまだ問題無い、問題無いけど・・・」「ふむ、また勝手にアクセスランクを上げられたりして、気付いたら引きずり込まれてる可能性とかある?」 すぐにそこに頭が回るんかい。ああ~やっぱりヤバいかなぁ・・・「・・・そこが問題やな・・・」「逆に訊けば、どうだ、そのへんってやっぱり知ったら危ないことってある?」 機密漏洩とかしたら問題やろけど、マーくんにそれは無い思うし、正式な権限を得てアクセスしとるわけやからそれ自体には問題無い。 けどその内容をもっと詳しく知ろうとかすると危なくなるかもやけど、そんなこともマーくんはせんやろし。 知ってしまったこと自体が手遅れになるレベルの本物の機密とかは流石にな、最高度のアクセス権限Sを得た上で、そしてそういう通常のアクセスランクを超えた所にあるレベルの話になるから普通にしとれば問題無い、はずやけど・・・「・・・場合によるとしか言えへんわなぁ・・・なあマーくん、そもそもなんでそうやって気付いたん?」「んーと、まずナカジマ姉妹の健康診断するにあたってさぁ。」「うん。」「気合入れて本気で徹底走査すれば専門分野違うとは言え大概分かるだろうと自惚れてたんだが・・・そうは行かなかった。」「・・・そっか。」「ああいう半分機械みたいな体、やっぱ純粋な医学とは畑違いの工学系知識とか、またはそのものズバリ機械的人体改造技術の前例とかさ、そういうのをちゃんと知らないことには適切な診断も出来ない、と考えざるを得なくなったんだ。」「・・・」「そんでそれを調べてる最中に、俺の情報アクセス権限が陸では拡張されてることに気付いて・・・八神、どうした?」 私はマーくんの気遣う言葉も良く聞こえへん状態になっとった。 あちゃー・・・ 最悪や最悪や最悪や! それやったらまるっきり・・・ マーくんがそういった危険度の高い情報にアクセスしようと思った動機は・・・ 私が検診依頼した戦闘機人ナカジマ姉妹をきちんと治そうと思ったからってことで。 つまり私のせいや! 私が、危ないところまで、既に、マーくんを、巻き込んでる! なにを・・・やっとるんや・・・それはやったらあかんて・・・分かってたはずやのに・・・ なんでこんなことに・・・ そうや私はマーくんの性格は良く知っとる自信がある。 マーくんは危険に自分から好んで踏み込んだりは絶対にせぇへん。 自分の体が結局は弱いこと、大きな危険とか負担とかに耐えられへんこと、良く知ってて。 自分が無茶して、そして身近な人を悲しませたりしたらあかんって・・・そう強く思ってる。 せやからマーくんが自分からそんな情報を求めるなんて・・・ 見誤った。 なんで、なんで・・・「なんでマーくんは、そんなこと調べようと思ったん?」 八神がやっと絞り出したみたいな口調で言った言葉は・・・正直ちと不愉快だったが。「患者を治すためにベストを尽くす、当然だろ?」 マーくんはそうクールに答えたけど、それだけでは納得できへん!「せやけど! それでも自分から危なそうなところに踏み込むなんて! それはせぇへんて約束してたんちゃうん?!」 確かにな、姉ちゃんとそう約束したことは八神も良く知ってることだ。しかし。「なあ、ナカジマ姉妹のさぁ、あの改造された肉体は・・・彼女たちのせいかね?」 なにを言っとるんや?「そんなわけ無いやん、あれは彼女たちの意思によらず違法研究者が勝手に・・・」 そこまで分かっててなぜ分からない?「つまり生まれつき自分の意思によらず肉体に障害を負わせられてたわけだわな。」 それはそうやけど・・・あれ?・・・なんか分かりそうなんやけど・・・でも!「それでもや! それでもあかん! マーくんはそんな危ないことは」 雰囲気が変わった。 これまで。 八神はやてとマシュー・バニングスの間になされた会話の数など数えきれないが。 二人はどちらも幼少期に死に直面した経験を持ち、生死に対する一種の諦観を強制的に持たされており。 ゆえに精神的な成長度は、肉体に比して老成している傾向があり、その分、包容力や受容力も高い。 そんな二人だから相当な皮肉や偽悪なセリフをぶつけあってもこれまでずっと平気だったし、どちらかが本気で怒ったことも無い。 二人が本気でケンカしたこと無いというのは事実だった、そこまでどちらかが煮詰まるということが無かったのだ。 しかし。 今、八神はやては忘れていた。 自分もまた、自分の責任では無いのに無理やり障害を背負わされて苦しんでいたことを。 だがそれも無理は無い、彼女が健康体に復帰して既に長いのだ。 忘れるともなく無意識に少しずつ忘れていってしまうのは自然なことなのだ。 それに大してマシュー・バニングスにとってはその苦しみは現在も続行している。 その苦しみを忘れることなど決してない、日々それに直面して生きている。 だが彼は、八神はやてなら・・・それを分かってくれていると、彼女が忘れることは無いと、信じていた。 だから今の彼女の、まるでその苦しみを忘れたかのようなセリフを聞いて・・・彼女に対して前例のない気持ちを持った。 つまり、怒ったのだ。本気で。「あのな、八神・・・」「とにかく! そういう危ないことには!」「聞け。」 怒鳴らなかった。 静かな口調だった。 しかしこれまで、はやてが聞いたことのない迫力が込められていて、彼女は思わず沈黙した。「自分のせいでは無いのに、生まれつき障害を負わされて、そのために苦しむという、その境遇。」「あ・・・」「それはもろに俺の境遇と重なる、そういう状態の子供を!」 マシューははやてを睨みつけた。「そういう状態の子供を! 俺が治さないというのなら! では俺が医者である意味がどこにあるんだ!?」 そこまで言われてやっと理解したはやては青ざめて唇を震わせる。 そう・・・それは彼にとっての例外。 危険に自分から近づかないという制約を乗り越えてしまうほどの例外。 自分と同じような境遇の子供を治さないというのなら、医者である意味は無い、それはこれまでマシューは明言したことは無かった信念であるとはいえ・・・彼の生まれ育ちを知ってれば当然分かる事であるはずだった。 だが言われなければ気付かなかった、そこまで彼の事を注意して見ていなかった! 彼の事を考えていなかった! 彼は自分の事を深く深く考えて理解してくれていたのに・・・そのショックではやては言葉を失った。 そんな彼女をマシューは冷ややかな・・・怒りの籠もった視線で貫き、言った。「俺が医者であることを、邪魔するな。」 前例のない感情にマシューの口も止まらない。「お前の仕事が多少どころかかなり危険を秘めているってことは当然俺も知っている。だがそれがお前のやりたい仕事なら仕方ない。だから俺はこれまで一度も、お前がそういう仕事をすることにケチをつけたことは無い、いつも黙って見守ってきた。しかしそうであるのに、お前の方が、俺の仕事にケチをつけるとはな! もちろんいくら治療のためであるとは言え普通なら俺も危ない橋など渡らない、しかし、ナカジマ姉妹の場合は、そもそもお前に紹介された患者だったし、しかもその境遇が俺の境遇と見事に重なる。お前もそこまで理解した上で俺に紹介したんでは無かったのか? いや違うか、単に一番信頼できる医者として紹介しただけだったわけか、まあそれはいい。だが俺は、そういう境遇の患者を治すにあたっては普段より頑張らずにはいられない、それが当然だということが、お前には分かって無かったのか!」 八神はやては理解した。 理解して、そして後悔した。 なんとか口から出した言葉は・・・「ごめんなさい・・・」 マシューはそれを聞き、苦々しい表情で、沈黙し軽く首を振った。 そのまま十数分か、それ以上・・・ただ時計の音だけが部屋に空しく響いていた。☆ ☆ ☆ あはは。 「怒らせる」つもりやったくせに、「怒られて」、どうすんねん私。 しかしほんま・・・私って最低やな。 マーくんに甘えてたって自分に認めたはずやったけど、どうも考えてた以上に甘えまくっとったんやな。 自分が危険な仕事しといて、それについては一言も口出しせんマーくんに対して調子に乗って、マーくんがお医者さんとして絶対に、曲げられへん信念にケチをつけて非難するとか、ほんま何様やねん。 しかもそうしてマーくんが危険な所に近づくように、誘導してもうたんも私かい。 マーくんのことを良く見てへんかっただけやなくて。 マーくんが倒れた時に駆けつけへんかっただけやなくて。 なによりも。 マーくんがほんまに大事にしてたこと。 お医者さんとしての生き方、態度、スタンス。 そういうものを・・・きちんと理解することさえ。 してへんかったんか、私は。 あかん。 ダメや。 ここまで、やな。 今になってやっとわかったんやけどな。 マーくんの方が私よりもいつも体が弱かった。せやから私が世話したらんとあかんて私は思ってた。 そうすることで、私は必要とされてる人間なんやって小さいころから私は・・・信じてたんやけど、実はそれって・・・ マーくんが、そうさせてくれとったんか。甘えさせてくれとったんやな。あんだけ死にそうな病状やったくせにそれでも。 そんなふうに私を気遣う・・・精神的な余裕は持っとったんや。そうか私は・・・ 私は、体はマーくんよりはマシやった、けど心は・・・いつも孤独に震えて不安定な精神状態で。 肉体的にはマーくんの方が弱かったから私の介護とか助けとか、意味無かったとまでは言わへんけど。でも。 精神的にはいつでも私は不安定で、そこをマーくんに依存して、安心させてもらってたんか。 私ら二人は、実はそういう風に・・・支え合っとったんやな、今さら分かったで。 つまり近頃になってやっと、私がマーくんに甘え過ぎるって問題が起こったわけやなかったんや。 最初から。ずっと今まで、どんなときでも。私はマーくんに、精神的に依存して、甘えて頼ってそれは当然って思ってて。 今回の件でやっと、実はそうやったんやってことを自覚しただけか。 きっとそんなこととかアリサちゃんはお見通しやったんやろなあ。 でもそこでやな、もしも私が彼の体のケアをちゃんとするんやったら、私が彼にメンタルで甘えてもええっていうんが・・・ ずっと黙契みたいなもんとして存在して、それもアリサちゃんは分かっとった、せやから許してくれとったんや。 私が彼の体の事を見れへんのやったら、私には彼に甘える資格が無いんや。 それでもきっとマーくんは許してくれる? うん、せやろな、正直そう思う。またそれに甘えたくなるけど。 あかんて、それは。そうなるとやっぱりどうしても・・・私は私を、許せへんわ・・・ やっぱりな。 考えてみたら結論は一つ。 私には、マーくんの、そばにおる・・・資格が無い言うことやな。 こんなに長く一緒やったのに、実は精神的に凄く依存してたってことすら気付いてへんかった私には。 そのくせ上から目線で、体の面倒を私が見たってるんやみたいに、私の世話が必要とされてるんやって自惚れてた私には。 そして何も気付かず勝手なことして勝手なこと言って・・・こんなにマーくんを困らせて、怒らせてしまってる私には。 一緒にいる資格が無いし、正直、一緒にいても、一方的に負担をかける以外に・・・何もできへんとしか思えへん。 マーくんが危ないこととかに巻き込まれたら今度こそ私らは一家総出で、それ以外のすべてを放り出してでも命がけでも助けて見せる。 危ないことに巻き込まれへんように相談にものるし色々と話せる範囲の事は説明もする。 せやけどそれってな、こうして一緒に暮らしてベタベタしてへんでも・・・普通に友人としてでも出来ることやわな。 むしろそのほうが安全やろ、実質私の旦那さんみたいなもんやって知られてたらまたそれで色々危険度が上がる可能性あるし。 ある程度、距離を置いて、友人として助言や忠告もして、そして今度こそ絶対助けると、出来るのはここまで、やな。 一緒にいたい、都合の良い時にまたぎゅってしてもらって甘えたい。 そう思って、そういう状態続けるんは・・・もうあかんってはっきりした。 彼の事を・・・見てへんかった私には・・・一緒にいる資格は無いわ。 自嘲的な笑みが浮かんできた。 さて、既に最低な私やけど。 さらに最悪なこと言うか。 マーくんが許せへん、マーくんが傷つくことを。 思い切り言いますか。 あ、でも本気で言おうとなると・・・ ちょっと正面から言うのは無理やな・・・ どうしょうもなく顔が横向いて、マーくんの視線を避けてまう。 でも大丈夫やろ。 これ言ったら。 マーくん傷つくしなぁ。☆ ☆ ☆ 落ち着こう、よし落ち着こう、俺は姉ちゃんじゃないんだ。 らしくないぞ俺。なんでそんなに怒ってる? なにをそんなに・・・そうか。 俺の方は、八神の事を良く見ていた、良く考えていた、そしてきちんと分かっていたのに。 だが八神の方は・・・何かを見忘れていて、最後まで考えておらず、そして・・・分かって無かった、そう思った。 つまり俺は言われなくても分かってたのに、こいつは言われなければ分からなかった。 それがショックだった、だから腹が立った、そういうことか。 八神に怒るなんてのは前例が確かに無い。 しかし良く怒る人なら身近に知っている。 姉ちゃんの例でいえば・・・怒った時は怒り切らねばならない。 そうして感情を全部吐き出して、そこでやっと気持ちも落ち着き、相手を許そうって気にもなるんだ。 んで俺は姉ちゃんほど激しい感情が長続きしないな、やっぱり。 これだけ言った程度で・・・既に気持ちが沈静しつつあるのを感じる。 既に健康になって長い八神が、俺やナカジマ姉妹、エリオ君やフェイトさんが未だに直面してるような健康問題について・・・ いかに自分も同じような境遇だった経験を持っているとは言え・・・ どこか忘れてしまうこと。 それ自体は仕方ないし、また当然で自然で、むしろ祝福すべきことだ。 本当に健康になってきたんだって証拠だからな。 俺は、八神がそこまで健康になったんだってのは、考えてみれば確かに嬉しいよ。 そもそも「言わなくても分かってくれてる」って期待をしていたのはお互いさまで。 俺は八神の事をかなり分かってたと思うがそれでも決して全部ではないだろ、まだ分かって無いこともあるはず。 八神もやはり言われなければ分からなかったことがあった、それだけの話だ。 つまりは互いに説明不足だったってことだな。 そして俺の考えについて八神に説明が不足していたのなら、これは俺の方が悪いんでね? それに八神がどこか誤解するのも無理ない部分がある。 つまり俺が自ら好んで危険に近づくわけは無いって確信が強すぎたんだな。 そしてそれは間違いなく俺の行動原理の一つであり、それを良く知ってるがゆえに八神は判断を誤った。 あくまで八神が俺のことを良く知っているがゆえだ。 うん、考えてみればそれほど怒ることでも無かったような気がしてきた。 単なるすれ違い、ちょっとした誤解だろこれは。 話せばわかる事、ただ話し忘れていただけの事、うんその程度だ。 八神、お前を一番にするっていったのは嘘じゃないぞ、掛け値なしで本音だ。 俺はきっと生き方を変えようとしてる、まあ端的にいえば姉離れしようとしてるのかも知れんが、それって男として当然だよな? そして俺が新しい生き方をしようとするときに、そばにいてほしいのは八神、お前なんだよやっぱり。 色々と不都合な事情も特に仕事関係とかで多いのは確かだけど、それは二人で協力すれば何とかなるさ。 何か理由があって八神なんじゃなくて、八神が八神だから一番にすると決めた、これはもう理屈じゃない。 だからこんなふうに多少、行き違いがあった程度のことはきっと俺たちにとって大したことじゃあ無いさ。 やはりちゃんと話さないのはダメ、これからはきちんと話し合おうって互いに確認すれば済む話だな、うん。 それで済む話だと、俺は八神なら無条件に信じることが出来るんだ。 よし、まあこれはいいからって許しとくか。 考えてみたら既に二回目の謝罪だし。 実に良い感じだ、あと一回、無理にでも謝らせて、決めてしまうとしよう。 と思ったものの。 それでも感情が激しく動いたのは事実で、そういう経験は滅多に無かったので。 とりあえず落ち着いて、平静な声が出せるようになるまでは少し待って・・・ よし、そろそろ大丈夫かな、普通に話せそうだ。 俺がとりあえず「もうこれはいい」と言おうとしたとき。 八神はなんだか横向いて、ボソリと呟いた。「マーくんが悪いんや。」 あんだと? せっかく関係修復の努力を俺がしようとしてんのにその態度はなんだコラ。また少しムカつく。「マーくんの、体が、弱いんが、悪いんや。」 ・・・・・・・・・なんて?「全部、マーくんの体が弱いこと、きちんと治ってないこと、それが悪い。」 何を言われてるか分からなかった。「いつまでも半病人のマーくんなんて私の・・・足手まといなんや。」 呆然と・・・してたかも知れない。☆ ☆ ☆<蛇足>「これって・・・・・・反則打撃では・・・・・・ないでしょうかクロノさん・・・」「かもしれん、そうでなくてもギリギリだが、確実に言えることは・・・非常に有効だということだな。」「モロに入った? カウンター? マシュー足が止まった! ガードも下がって来た!」「それ以前にすでに彼には珍しい激しい感情により(精神的)スタミナも減っていたしな。しかも死に体になったか、決まったかな。」「・・・それを言ったらおしまいってことをさあ・・・・ほんとは気にして無いくせに・・・」「だが冷厳な事実でもあるからな。しかし八神はやては手段を選ばんな。手段を選ばず本気で倒そうとしている。」「マシューは・・・ポイントを積み重ねて徐々にって戦術で・・・これでは・・・」「はやて相手に本気攻撃などマシューには不可能、対してはやてはこういう手も使うと、ま、これで決まりだろ。」(あとがき) 行き違い、初めてのマジ喧嘩、怒られて八神ショック、暴走、さらに状況悪化、さてどうなるかと。 この後の話ですけどね、このままマジ喧嘩別れパターンと、それでも仲直りパターンがあるのですな。 そしてどちらにするかは、まだ決めてない、さてどうするのが正しいのやら・・・