マシュー・バニングスの日常 第六十五話 八神がお茶を入れ直してきた。 13時ごろから始まった話し合いは・・・いつの間にか15時近くになっていた。 お茶うけに和菓子が出される。 ふむ落雁か。体に優しい本格和糖で作ってあるやつ。こういう時でも俺の体の事を実は気遣ってるんだよねこいつ。 多分本人気付いてないぞ、無意識にもう習慣としてやってる。既に嫁でね? 形式を実質に合わせても問題無いとしか思えん。 しかしこれってミッドに売ってないよな・・・どこで買ってきたんだか。 水分補給に糖分補給。 さらに八神はみんなの分も用意して、部屋に配達にいった。 それやこれやで15分ばかり間があいた。 戻って来て再び席につく八神。 しばらく無言で二人は茶菓子を喫し・・・ さて、話し合い、再開しますか。 だがこっからは正直気が重いな・・・「謝罪は済んだわけだが・・・さて問題は、それでお前が・・・」「状況を改善する気があるかってことやな。」 八神はまっすぐに俺を見詰める。 なんか気合を入れ直したって感じだな。 小休止で態勢を立て直させてしまったか。「ああ。」「結論を言うと・・・」「状況を改善出来ないって言うんだろ?」「そうや。」「仕事を・・・減らすこともできない?」「そうや。」「これまでみたいに滅多に会えない状態が続く?」「そうや。」「ま・・・それは仕方なかろう。」「へ?」 意外そうな顔をする八神。「お前には・・・理由があり、仕事をしてる、その理由ゆえに仕事を減らすこともできない。そうだろ?」「・・・そうや。その理由を」 と言いかける八神をとりあえずスルーして。「だからこれからは俺は、週末、八神が家にいない場合は病院寮に泊まる。向こうなら人が多いし安心だからな。」「せやな、そうしたほうがええ。」「だが八神が帰れる時は連絡を貰って、やっぱりこっちにくる。」「え?」「学校始まれば俺は週末しかこちらにこれない。そうなると会えるのは・・・下手したら二カ月に一回もあるかどうか?」「もっとかも・・・」「だけどだ、八神。」「なに?」「だったらだったで、二ヶ月か三ヶ月かに一度でも、ちゃんと会えば、それで済む話でね?」「え・・・」「俺とお前の仲って・・・そうして多少疎遠になるだけで自然消滅するほど浅いのかね? かれこれ十年来の付き合いだぜ?」「それは・・・」「俺たちなら、そうしてたまに会うだけでも、関係維持できると思う。そう思わないか八神?」「・・・・・・」 虚を突かれたって顔をしてやがる。 つまり・・・こういう妥協案みたいのを検討してなかった、頭にも浮かんで無かったのか? そうなると、くそっ、考えたくなかった可能性だったが・・・どーもこいつ・・・「別れる」気だったってことか。 そしてそれで頭一杯になってそれ以外の方法とか、多分探すことすらしていない。 そうと分かればこっからは、さらに慎重に行かんとな。 俺も気合を入れ直した。☆ ☆ ☆ なるほど・・・そう来たか・・・ でも言われてみれば、ほんまにそうかも? それがあかんっていう理由が・・・咄嗟に見つからへんかった。 悩む私をしばらく眺めた後、またマーくんが話し出す。「ただ、やはり、問題は、理由か。お前がそれだけ頑張る理由。」「うん。」「実はさ・・・これ聞かないで済ましたかったんだよな、本音言うと。」「え?」「言えるなら最初から言ってるだろ、お前なら。言えなかったから言わなかっただけで・・・そしてそれでも俺との関係は維持したかったから言わずに済まそうと、曖昧なまま流そうとしてたんだよな、お前。」「あ・・・」 ドンピシャや。 そっかやっぱり分かってくれてたんや・・・「で、俺の方も、お前がそんなに言いにくいことなら無理に聞く気は無いし? それにお前は中々帰ってこれなくても・・・帰って来た時は会えなかった時間を埋めるみたいに俺にベタベタ甘えに甘えまくってたもんな?」「・・・そ、そんなことないもん・・・」 ただ会えるときはいつも抱きついてちゅーとかして撫で撫でしてもらってずっとくっついてただけやん。 マーくんが中々ぎゅってしてくれへんと泣き真似とかしたり、それで困ったマーくんがよしよしって30分くらいするまで許さへんかったり、いつものセリフを十回くらい連続で言わせたりとかもしてたけど・・・その分、マーくんが私の体をえっちな目的で触りまくるのも許したったりもしたからイーブンやしな。それで私があちこち可愛がられて、変な声だしてたとかそういう事実はないし。 それは普通やし、うん、別に甘えてへん、多分。「ウソつけ。とにかくそういうお前の態度を見てれば、お前も関係維持したいんだってのは明白で、それが分かってれば、後は、今は忙しいというその理由程度のもんは、大して気にならなかったというか・・・」「マーくん・・・」「だから、聞かずに済むなら済ましたかった、が、やはり、そうも行かなくなってきたな。」「・・・うん、せやな。」「つまりさ・・・仮に大雑把に言える範囲程度の事だけでも聞いてれば、俺は姉ちゃんに胸張って『説明は受けてるから大丈夫』って言えたはずだったんだ。しかし大雑把な説明すら受けてなかったからな、そこを問い詰められると反論できんかった、それが痛かったな。」「せやな・・・ゴメンな・・・」 あ。 しもた・・・謝ってもうた・・・ でもまだ一回目やし・・・うん大丈夫やろ。それに別件やし。☆ ☆ ☆ ずずっとお茶を一啜り。 今の「ゴメン」もひそかにカウントしておこう。 3回目になったら容赦せん。 それはともかく。「さて、それで問題となってる、お前がそこまで頑張る理由ってやつだが・・・」「うん、まずは・・・」「司法取引による勤労奉仕?」「最初はそこからやったな。」 『闇の書』の引き起こした災厄は非常に大きい。 特に八神の前の代の『闇の書』事件となると死者百名以上負傷者千名近く、航行艦数隻撃沈大破、その他器物損壊数知れず。 またそれ以前に、実際に一つの次元世界を巻き込んで滅ぼしたなどという最悪の前例すら確認されている。歴史上の話ではあるが。 八神の代の『闇の書』事件では死者は奇跡的に出ていない。しかし暴行傷害百件以上に公務執行妨害何十件に器物損壊も結構ある。 守護騎士たちが、犯罪者だったのは、どうしょうもない事実なのだ。 しかしその主たる八神自身についてはどうだったか? どう考えても、完璧に、被害者の一人に過ぎない。 八神自身が能動的に犯罪を犯したことなど一度もないだけでなく。 何の罪もないのに、扶養義務放棄されて孤独な環境に隔離され、そのまま凍結処分された上、さらに生きたままどこかに不法投棄・・・ されてしまうところだったのだ。 もろに被害者で、それ以外では無い、間違い無い。 そしてだな、ここは管理局も捨てたもんじゃないと思う所なんだが・・・ 一般的には誤解してる人も多いのが実情、つまり八神が書の主として犯罪者の一人だったのだろうというふうに。 しかし管理局はそこを公正に判断し、適切に裁いた。 つまり八神個人は、あくまで被害者、犠牲者の一人。 騎士たちが独断で行った犯罪に関する公的な責任は、八神には、一切、被せられていない。 だから・・・「もともとお前が、皆の減刑嘆願して自発的奉仕をするって言い出したんだっけね。」「そうやで。なにせ皆は・・・奉仕義務の内容も結構大変なんが適用されようとしとったし?」「管理局のために働く、それだけでその他の実刑は事実上免除ってのもそもそも甘い処置・・・なんだがな。さらに皆のその義務を軽くするためにお前が頑張るって言い出したときは・・・全員揃って大反対だったよなそういえば。」「うん、でも私はそうしたかった。」「まあそれは済んだ話だからいいんだが・・・確か皆の奉仕義務については結局・・・」「事実上、騎士たち皆は・・・一生っていうか稼働できる限り・・・管理局のために働くようにって感じになるやろな。」「でもせめて勤務条件・勤務内容についてはある程度の自由をってんで、お前は頑張って・・・少しは裁量範囲、増えたんだよな?」「うん。でも私の専属護衛としてザフィーラは他の仕事につかへんって体制を受け入れてもらうためにまた少し・・・」「でもまたそっから取り返して、確かうまく行けば数年もすれば? お前の部下に皆を呼べるかもとか言ってなかった?」「うまくいけばな。」「しかし・・・お前がいくら頑張ってもその功績によって騎士たちを・・・完全に自由にするわけにもいかんって話で結論出てたよな?」「せやで。」「・・・だから、それが理由では無い。」「・・・その通りやな。私がいくら頑張って、管理局のために、仮に無料奉仕でもしても? そもそもそれとこれとは別やから、それで騎士たち皆の義務をなくすとかそういうことは、ありえへんと。」「そう判断するのは当然だと、俺思うけど?」「私もそう思う。」「だよなあ・・・お前はそういう判断誤らない・・・だから、考えられる可能性として・・・」「ん?」 湯呑を手の中でまわしながらゆっくりと話す。 八神は実に平静な・・・表情の読みにくい微笑気味の顔を浮かべてる。 どっちかといえば仕事用の顔だね、だがそんなもんで怯むと思うなよ。「お前自身が偉くなる、とことん偉くなる、そしてそういった罪状認定みたいのにも口出せるくらいにまでなって・・・皆を完全に自由にすること、それがお前の目的なのかと・・・」「そうやな。」「思ってたんだよな、長い間。」「え?」「でもそうじゃない。」「・・・・・・なんで、そう思うん?」 八神は一瞬だけ驚いた顔になったものの、またすぐ仕事用みたいな平静な笑顔に。 ふん、そうやって防壁張らなくちゃいけない領域に話が及んできたわけだな。 だが今日ばかりは、きかずにすまんし。 さて、言いにくい話なんだが。 お茶を一啜りして。 覚悟決めて話しますか。「今日は、本音を言う日だ。だからはっきり言うぞ、言いにくいことも。」「うん当然やな。言って。」 腹を据えて、呼吸を整え、冷静な口調で、はっきりと言う。「所詮『闇の書』の主であるお前は、決して、一定以上、昇進することは出来ない。」 正式名称はもともと「夜天」ですなんて言い訳、圧倒的に有名な通称「闇」の知名度を前にすれば実際には無意味だよ。 だからあえて闇という。その名で通ってると言うのが世間一般の認識というものだ。 騎士たちに部屋に戻って貰ったのは、この話を率直にするためでもあるんだろ、八神? ゆえに俺も遠慮なく本音を話す。「・・・・・・・・・」 八神沈黙。しばらく瞑目して・・・少し下を向いてしまった。「『闇の書』の主でさえなければな・・・魔力といい頭脳といい、お前は本当に・・・実力だけで管理局トップに登りつめることが、可能な人間なのかも知れないと思う。だけど無理だ、お前が『闇の書』の主である限り・・・」 そして何よりも家族を求める八神にとって真の家族となってくれた騎士たちを見捨てるなんて選択肢は皆無である以上。「・・・・・・」 八神は沈黙を続ける。 言い出してしまったからには。 全部言ってしまおう。「お前の代の『闇の書』事件はそれほど被害大きく無かったとは言っても、それも先代に比べればってだけの話で、冷静にそれだけ見れば結構な連続通り魔事件で立派な犯罪。さらに先代の事件のときは、死者も百何人も出てるし、負傷者も、非殺傷なんて甘い攻撃されてない、ちゃんと殺傷設定でズバズバ切られてグシャっと潰されて・・・大怪我した人も多い。その後遺症に未だに苦しんでる人を・・・俺は診察したことすらあるんだよ、だから分かってしまう。 闇の書の守護騎士達、本人たちにその記憶が無くとも、その被害者たちは忘れない、忘れてもらえるほどに時間が経っていない、クロノの父親もその時に亡くなってるくらいだしな・・・」「・・・・・・せやから出世に限界がある・・・・・・」「違うか?」 八神はまたしばらく沈黙してたが、ふっと一息つくと、茶を少し飲んで、そして少し笑った。「やっぱな・・・マーくんから見ても、やっぱりそう思うんや。」「悪いんだけどな。」「別に悪くない、うん、ほんまの話や。」「だろ。」「出世競争言うんは・・・きれいごとやない。上に行けば行くほど、そのキャリアに傷が無いかどうか・・・深刻な問題になる。さっき、マーくんは私は魔力と言い頭脳と言い、トップも目指せる人間やって言ってくれたけどな、でも実際はそんなことないで。優秀な人なんていくらでもおるし、魔力大きい人もいくらでもおる、そして両方とも持ってるって人もおるんや、やっぱり。そういう人間同士で、仕事で競い合って、優劣付けるとなると、最終的には・・・・・・本当に『無傷』な人やないと、ほんまに偉くは、なられへん。」「高級官僚の出世レースってのは、そんなもんらしいな。」 「上に行っても問題無い」という身上を持ってるかどうかは恐ろしく重要なことだ。 偉くなって有名になって管理局の顔ともなったような人がだな、いかに有能で人柄も良く仕事熱心で非の打ちどころが無かったとしても。 もしもその人が過去に一つの世界を滅ぼすほどの大犯罪に関わった経歴を持ち。 いまだにその犯罪被害者の憎しみや恨みが残っていて、その負の思いが、はけ口を求めているとかいうことでもあれば。 その人がいかに今、有能かつ善良でも関係無い。 その人に向けられる理不尽なマイナスの感情が、そのまま管理局へのマイナスの感情になったらどうすんだ? だからそういう「問題ある身上」である人間は、絶対に一定以上、上には行かせてもらえない。 具体的にいえば。 エース高町は広告塔として有名になっても問題無いし、本人が望めば前途洋洋だが。 『闇の書の主』である八神は、エリートとは言え裏方系の仕事しか回ってこないし、既に先も見えているということ。 それが現実であり、ぶっちゃけ仕方ないという以外に言いようもない。 それを八神が分かっていないはずは無かったね、やっぱり。「せやから私は・・・多分どんなに昇進しても・・・きっと、特に司法関係の問題とかには・・・タッチさせてもらえへんやろな。」「だろな、お前自身が・・・所詮は犯罪者の身内であるって見なされて、罪状決める問題とかの関係からは意図的に遮断されるだろ。」「そして、それをも決めるくらいのほんまに上のレベルにまでは、絶対に、出世させてもらえへん、と。」「そうなるね。悪いが・・・間違いなく。」「ふ、うふふ・・・やっぱりな、マーくん、やっぱり、分かっとったんや・・・」 自嘲的に微笑む八神が・・・落ち着くまでしばらく待った。 だが八神はまた珍しい、少し感情的な口調で話を続ける。「ほんまのところぶっちゃけると、例えばフェイトちゃんとかもそうやな。犯罪歴があるって事実は消えへんのや。フェイトちゃんも、例えばクロノ君みたいに? ほんまにどこまでも上を目指して出世できるか言うたら難しい・・・」「現役期間を通じて結局・・・現場仕事から離れるってこともまず無いだろな。ま、フェイトさんの場合は本人もそれでいいんだろが。」「ほんまに偉くなれるんは、例えばクロノ君、なのはちゃん、ユーノ君も管理局の仕事に専念すれば行けるかもな、そして、あとは、実は、マーくんやな、マーくんも本気出せばむっちゃ偉くなれるやろ。せやのに、せやけど、私は・・・・・・」「お前は現状で既に強力な魔導師であり優秀な官僚でもあり・・・俺たちの中でも一番階級高いさ、だが先行きは・・・」「暗いな、絶対にどっかで頭打ちになる。私の見込みでは・・・今回は何とか佐官になれたけど? 将官になるのは難しいやろな・・・」「ものすごく無理して頑張って功績も上げまくれば・・・少将くらいにまでは・・・なれるかもって思うぜ?」「でもなったところで私がほんまに欲しい権限は与えられへんし、しかもそこから上にも絶対に行けへん、と。」「・・・そういうことだな。」 八神は一息ついて目を瞑ったまま、語り続ける。「そうや、その通りや。しかも私にも、そういう上の人らの判断は妥当なんやろなって分かってまう。つまり上の人らの考えはこうや、きちんと冷静に私の代の『闇の書』事件を見れば私は被害者、でも騎士たちは弁護の余地なく犯罪者、せやから騎士たちには事実上一生・・・管理局のために働いてもらう、それで償ってもらう、そもそも皆は人間や無いわけやしそれで当然、一応ちょっと安めでも給料は払ってくれてるし? 現場レベルに終始するやろけど、階級とか権限も与えへんわけやないし? ただ離職の自由が事実上無いっていうだけで・・・それだけやったら御の字やろと。先代の闇の書の事件とか考えればほんまのところは死刑でもヌルいしな・・・皮肉なことやけど、実際問題、みんなが人間やない、プログラム体やからってことでの寛刑、これに下手に文句つけて人間やって扱われると・・・どうにもならん。 私については、それなりに優れた魔導師でもあるから本人が管理局のために働きたい言うんやったらそれはそれで大歓迎やけどそれで私がどんだけ働いても、騎士たちの処遇についてはそれとこれとは別の話、それに私についても実は・・・結局のところほんまに上に行かせる気は無い、できれば中堅くらいの位置で? そこで頑張ってくれてればそれが一番嬉しい、ただ諸般の事情から私を一定以上出世させる気は・・・ほんまに、ほんまに皆無なんや。中堅幹部から・・・上級幹部の一番下くらいが限界かな、多分。 今回、無理に無理を押してなんとか佐官には、なれたけど、これもほんまきつかった。普通ならありえんやろって厳しい条件こなして、それでやっとやで? そろそろ実際に『頭打ち』になりつつあるって空気をヒシヒシと感じさせられたわ。しかも今回もかなり厳しかったのにさらに上を目指すとしたらもっともっと厳しくなるわけやな、いくらなんでもどっかで私も・・・力尽きるかもな。そしてそうして私が諦めて辞めたとしたら、それは好都合としか思わへんやろな、上の人らも。騎士たちはどうせずっと働くしかないわけやし私はどんなに私自身が強くても優秀でも・・・まあ仮にそうやったとしてやけど、そうやったとしても、逆にそうであればあるほど扱いに困る言うんが本音、できれば普通位の魔導師か、理想的には単なる一般人であってほしかったいうところか。・・・闇の書の名前は、重すぎる。 私が・・・仮に有能でも誠実でも熱心でもどんなに頑張ってても! 闇の書への恨みが未だ根強く残ってるこのミッドで! 管理局で!ほんまに上のステータスを与えられる、わけがない・・・」 話す内容の苦しさに比べて。 八神の表情は実に冷静。 事実を事実としてありのままに認識し、しかもそれを今さら苦とはしてないって感じだな。 感情的になっても仕方ないことだ、俺も冷静に言葉を返す。「上にいって目立ち過ぎれば『夜天』が『闇』だってバレる危険性も増えるしな。」「せやな・・・その通りや・・・私の事を気遣って、そんな急いで出世することないって止めてくれた人もおった・・・」「俺も正直、同意見だわ。」「マーくんは、せやろな・・・」 あと、分かってる話だが確認しとかんといかんこととして・・・「そもそも騎士たちは家族だ、皆は、お前が自分の人生を犠牲にしてまで騎士たちのために働くとか・・・本当に嫌がってるんだぞ。」「わかっとる・・・」「それに皆も罪に対する当然の償いであるとして受け入れている。」「それもわかっとる・・・」「そうだな、分かってんだよなお前は、そしてそれでも・・・」「それでも、なんとかできるもんならって・・・」「だがなんともならん、それはそれ、おいとくしかない。分かってんだろ?」「・・・せやな・・・ほんまは・・・わかっとる。」「皆をプログラム体であると見なして、一個の人格を認めず、あくまでお前という主の僕であるとお前が思ってるなら、お前が全員の責任者として色々しなくちゃいかんって思うのも仕方ないが、だがそうではない。お前にとって皆は家族だ、違うか?」「そうや・・・」「だったら各人の自由意思をこそ尊重するべきだ。皆は今の境遇を、誰かから強制されたからではなく、自主的に受け入れている。それに少しずつだが勤務地とかの裁量範囲も増えてきてるし、きっといつかは普通の勤め人程度の待遇までなら持っていけるさ。」「うん・・・」 八神は静かな表情で頷いた。 まあこの件についてはそういうことで、こいつも本来納得してないわけじゃあ無いんだよな。 ちょっと一息。 また茶を啜る。冷めると微妙に渋くなるよね日本茶って。 ちょっとばかり沈黙して・・・ 気分を切り替える。 さて、まあ、これはこれとして・・・「おい、話を戻すぞ。」「え? なんやったっけ・・・」 なんか力抜けてる八神。「だからお前にとっては、出世それ自体が目的とは思えんって話だ。」「あ・・・」「お前が頑張って仕事に専念する理由。以上の考察から、出世自体が目的では無い。そう認識して間違いないな?」「せやで・・・そこまで分かっとったら・・・隠しても無意味やわな、その通りや。」 こいつの昇進には必ず上限があり一定以上は絶対に昇れない。 だからそれ自体を目的にするわけがない、と。 まあここまでは考えれば分かる話だが・・・ さてと、まだまだこっからだな・・・☆ ☆ ☆<蛇足・・・本編の重い雰囲気を壊したくない人は読まないでね>「水入り後は雰囲気変わりましたねクロノ親方。八神関が立て直しましたかね。」「土俵中央でがっぷり四つだな。まだ力比べしながら硬直してる、しばらく動かないかな、これは。」「うーんどちらも本来、技巧派なんですがね、柄にも合わず正面からの押し合い、珍しい取り組みですね。」「摩周関が技をかけても、それがかえって隙になるかもな。しばらく両者、この状態で耐えるしかないか。」「しかし深刻ですねえ、リアル事情の方だと、やっぱそんな感じなんでしょうかね親方。」「親方と繰り返すなユーノ。残念ながら現実問題そんな感じだろう。彼女が如何に優れていても関係無い部分がある。」「僕が本気出して偉くなったら色々変えられるのかな・・・」「一人では無理だし数人でも無理、つまるところは『闇の書』のもたらした被害が大き過ぎると言う事さ・・・」(あとがき) 闇の書と八神、騎士たちの処遇問題、この辺は大いに荒れる話題であるのは重々承知してます、ほんとこの話は出すの怖かった。 ですからしつこいようですが繰り返し確認しますが、この話には独自設定や独自解釈が出る場合があります! こうしたほうが妥当だろとかの指摘は聞いて誰も気付かない内に直したりしますが、この件についての議論は絶対しませんので悪しからず。