マシュー・バニングスの日常 第六十話 マーくんと出会ってからは病院行くんがさらに楽しみになった。 風呂にも入れへん状態のマーくんの体を拭いたったこともあるし。 スプーン持つ力も無くなってる時はゆっくりとスープとか食べさせたったし。 熱出してうなされてるときは何時間も手ぇ握ってたこともあった。 元気な時は一緒にゲームしたり。 面白い本があれば互いに薦めて交換して読んだり。 ほんまに英語が喋れたマーくんに初歩の英語を教えてもらったり。 私は学校行ってへんかったしマーくんもまともにはほとんど行けてへんから一緒に勉強したりとかもした。 実はマーくんは相当頭良かったな・・・それまでの私は生活で必要なことだけ、がむしゃらに我流で覚えただけやったから・・・ マーくんのおかげでかなり助かった。でもすぐに追いついたったけど。 マーくんが90点しか取れんかった学校のテストを私がやらしてもらって軽く100点取った時は凄い悔しそうな顔しとったw 一年に何回かマーくんは外国の病院に行ったりもした。 その間はほんまヒマやったけどマーくんは外国から絵葉書出してくれたりした。お土産も買ってきてくれたんやけどな・・・ ハワイの病院帰りに、現地のなんか怪しい突起物の細工品とか持って帰って来た時はしばらく口きいてやらんかった。 見た目がおもろかった、メガテンの魔王マーラーに似てるよなとか、そんなもんを女の子に渡すなや! 京都の病院に行った時とかわざわざ寄り道して・・・本場の信楽焼のタヌキを買ってきおった。 ほら見ろでかいよなって、ほんまマーくんはアホなんやから! イギリスの病院行った時は、わざわざ不気味な英国王子蝋人形とか買ってくるし・・・見た目怖いっちゅうねん! 全然かわいくない! なんでそんなもん選んでくるんや! ロサンゼルスの病院行く時は、ハリウッド関係のなんかって指定したのに。 シ○の暗黒卿のマスクとマントなんていらんわい! 本場もんだぞ日本では売ってないとか知るか! はっきり言ってどこ行ってもマーくんはろくなもん買ってこんかったけど・・・ でもそんなアホなお土産が、気付けば私の大切なコレクションになってたり・・・ そんな日々をマーくんと一緒に、気付けば何年も過ごしてた。 せやけど。 私も治らへん。マーくんも治らへん。 二人ともちょっとも治らへんなー。 でも私は病状悪化も無かったんやけど・・・ マーくんはこれ・・・ほんまのところは・・・いつ死んでもおかしくないんかもしれんって。 そのうち分かるようになった。 ほんまにどうにもならんのかなあ・・・ いつか分からんけどきっと、マーくんは私より先に死んでまう。 それはどうしょうもない事実で・・・ マーくん死んだら私どうするかな・・・ 私も正直、生きてても死んでてもしょうがないような気がするねん。 家族もおらんし、友達もせいぜいマーくんくらいしかおらへんねんもん。 そのマーくんが死んでもうたら・・・ 私も死のうかなあ・・・とか。 そんなこと思ったんは一瞬だけ! たった一回だけやで?! あれは気の迷いやったんや、いくらなんでも私そこまで思ってへんて、うん、あれはなんかの間違い! それは置いといて! いきなりマーくんが消えたのは小学3年生の時やったな。 そうは言っても私はそのときは学校行ってへんかったけど。 心臓発作、自律呼吸不全で植物状態。 機械に繋がれて、かろうじて生きてるだけになってもうたマーくん。 もう話もできへんのかな・・・死ぬのはしょうがないのかもしれんけど・・・せめてもう一回だけでも話したいなあ・・・ そう思ってるうちにマーくん、病院移ってもうた。 まだ治る見込みがあるから・・・病院移ったんやんな? うん、きっとそうや、そう信じよう。 そう思ったけど・・・でもやっぱり私は落ち込んでた、そんなとき。 いきなり家族が出来たんや! 妙な本の中から出てきたとか、その本はほんまに怪しい本やったとか、そんなことどうでもええねん! ずっと一人で暮らしてたガランと広い家の中に、私と一緒に暮らしてくれる家族が出来た! それだけが本当に重要なこと。 私はほんま嬉しかった。嬉しくって嬉しくって、しばらくマーくんの事も忘れたくらいや。 でも、しばらくすると私の体調が・・・妙に悪くなってきた。 そしてついに入院。 お医者さんは気を使ってはっきり言わんかったけど、私の体や、私自身が一番良う知っとる。 下半身だけかと思ってた麻痺が・・・上の方にも登って来たみたいやな。 あちゃー。 折角、家族が出来たのになあ。 ええことばかりは続かんいうことか。 もとから下半身の麻痺の原因も不明やったんや。 原因不明の麻痺が上半身にも及んできたんやで? 必死に私を治そうとするお医者さんにも、折角できた家族の皆にも悪いねんけど・・・ これ、このままやと、まず助からんなあ。 私には、はっきりと分かってもうた。 ほぼ助からんって状態でベッドに一人で寝てると、いつもマーくんの事を思い出す。 うーん、マーくんも似たような境遇やったわな。 ほぼ助からないって分かった上で、いつも一人で寝てた。 マーくんもそうやったんやろなあ、私もそうなんやけど。 実はあんまり悲しいとかつらいとか思わへんねん。 自分の体については、もう受け入れてしまって。 それより残していく皆の事が気にかかる。 どうなんやろ、でも守護騎士の皆は、私が消えたら一緒に消えんのか。 なんとか私が消えても、みんなは消えへんで済む方法とか無いもんかなあ。 ほかには会いたい人って・・・せいぜいマーくんくらいか。 でもマーくんも生きとるのか死んどるのか・・・分からへんし。 病院の先生に聞いたら分かるのかも知れんけど、怖くて聞けんかったんや。 五分五分かなあ、多分。 でももしも生きてたら・・・また会いたいなあ。 そう思っとったら。 前に偶然、図書館で会った月村さんって子がわざわざお見舞いに来てくれた時に。 一緒に来た人。 前に何度か遠くから見た。 アリサさん? もしかしてアリサ・バニングスさん!? 驚いたんでついつい、これまで怖くて聞けへんかったこと、聞いてもうた。 でもそれに対する回答は、最高やった! マーくん治った? ほんまに!? 今は普通に歩いてる!? ウソや信じられへん! でももしもほんまやったら?! 生きるしか無い! あきらめたらあかん! あんだけ絶望的やったマーくんでも治った! そうやきっと治るんや! このとき持てた希望のおかげで、そのあとも色々と・・・乗りきっていけたんちゃうかと思う。 グレアムさんの陰謀、闇の書の闇の暴走。 そして夢の中の理想の世界、ウソで固められた希望の世界。 でもあれは笑ってもうたで。 マーくん元気に走り回って私を抱き上げたりするんやもん。 ありえへんやん。 そもそも。 理想通りの世界やったら、私とマーくんは出会ってへんねん。 両親生きてて私が何の不自由もない幸福な世界やったら。 下半身不随になって病院に行くこともなかったし、そこで年中慢性的に死にかけてるあのマーくんに会う事も無かったんや。 大体治ったゆうても、多分まだ完全にってわけやないやろ、そんなこと言ってたし。 まだ頼りないけど、でも少しずつでも確実に、健康になろうとしてる途中の、そんなマーくんに私はこれから会えるはずなんや。 今の事態を乗り切ったら! それでも悪戦苦闘しとったとき、遠くからマーくんの声が聞こえたような気がした。 せやけど、ここは「頑張れ」とか「愛してるぞ」とか言う所ちゃうんかい! 「死んだら墓にタヌキって刻む」とはなにごとや! 空気読まんかい! あああ、でも、そんなこというってことは、あれは間違いなくマーくんや。 気合入った! おっしゃあああ、片付けるでぇ! 私は根性で何とか闇の書の闇を分離して、それを皆で一緒に吹き飛ばして。 ついに私にも、健康になれるって希望が出来た。この闇が私の病気の原因やったからな。 その闇が無くなった以上、多分、私の方が先に健康になりそうやな。 ほんまマーくんはしゃあないなあ、私が面倒見たらんと。 なんとか事件は乗り切って、悲しいことも起こったけど・・・ それも落ち着いてしばらくしたころにやっとマーくんと再会できた。 久しぶりに見たマーくんは、大体私の予想通り。 やっぱりな。完全にはまだ治って無い。 でも確かに昔に比べたら劇的に回復してる。 いつ死んでもおかしくないみたいな雰囲気はもう無い。 久しぶりの会話も弾む。 でもやっぱり腕相撲は弱いな。全然勝負ならんわ。 いつか押し倒す? できるもんやったらやってみぃ! それからしばらくは・・・ 想像したことも無かったくらい、楽しさに満ち溢れた日々が続いた。 たくさん友達が出来た。学校にも行けるようになった。家族のみんなも元気や、仕事も勉強も面白い! 私の足も治って歩けるようになった。 マーくんも少しずつ健康になってきて今ではちょっと痩せ気味くらいで、知らん人が見たら病気とか分からんやろな。 夢中に過ごしてた日々に・・・あの事件が起きてもうた。 なのはちゃん大怪我? しもた・・・様子おかしいて私も気付いてたのに・・・ 自分の事ばっかりになってた、友達やのに止めてあげられへんかった。 冷静なふりしとるけど、実は内心ではむっちゃ熱くなって必死になのはちゃんを治そうとするマーくん。 付き合い長いんやからな、まるわかりやっちゅうねん。 でもフェイトちゃんは誤解しとるかな・・・でも今はしゃあないか、それどころやないし。 まだ完全に自分の体も治っとらんくせに、寝食削ってなのはちゃんのために頑張って・・・ あかんでマーくん、倒れたらどうすんの? 私もそんなマーくんが心配で頑張って手伝えることは手伝って。 アリサちゃんと相談して、ご両親をなのはちゃんといきなり会わせたりとかもしてもうたけど。 あれは私、間違っとったとは思っとらへんで? それでなのはちゃん凄い明るくなったし、マーくんもかなり楽そうになったやん。 そうしてやっと一息ついたころに、フェイトちゃんが無神経なこと言うし・・・ あれは切れたわ。あんなに怒ったんて記憶に無いかも。 なんなん? マーくんがあんだけ頑張ってたの全然見てへんの? 信じられへん! ああー。 でもマーくんもあかんねん。 アリサちゃんと私くらいちゃう? マーくんの頑張りを・・・ほんまに分かっとったんは。 そうか、マーくんも・・・ なにせ長い間、病人扱いしかされてこぉへんかった。 いつまでたっても半病人、妙に気遣って一線引いたみたいな態度で接してくる人ばかり。 せやから・・・マーくんは・・・普通の人みたいに見てほしいんやんな? せやから・・・マーくんは人に弱みを見せたくないんやんな? そしてそういう表面だけ見て、騙されてくれる人も結構おるゆうことか。 しかしほんまに似たもの姉弟やわ。こういうの専門用語を使うと、ツンデレ姉弟って言うべきかな。 でもマーくんが無理とかせんと、休める場所も必要やんな。 アリサちゃんの所がまずその一つ目の場所なのは間違いないけど。 うん、しゃあないな、私の所を二つ目の、マーくんが本音出して休める場所にしたろ。 ほんまにマーくんは手がかかるわなあ・・・私がおらんとあかんねんから・・・ そういうわけで、なのはちゃんの手術後にまた倒れたアホを連行して来て、これからここで夕食摂るように言っといた。 これまでミッドおるときはどうしてた? なに? 外食? アホか、ほんまにアホなんかマーくん。 私が考えてメニュー作るからこれからはここに来ること! 分かったな、ちなみに異論は聞かんから。 でもまあそうやってると、夕食後とか夜遅いし泊った方がええゆうときも結構あったんで。 マーくんの日用品、揃えにいこか。 食器、下着、寝巻、布団、日用品色々・・・ なんなんシャマル・・・ニヤニヤしながら私を見て・・・ 新妻みたいねって・・・アホか! そんなつもり無いわ! その・・・今はまだ・・・ とか言っとったんやけどな。 うーんしかしなあ。 あかんね。 私らみたいな幼馴染の年頃の男女が。 週末同棲とかしとると、うん、あかんね。 なるようになってまうやん自然に。 というかな、マーくんがあかんねん。 「いつでもそばで見ててやる」とかな。 「いざとなったら一緒に逃げてやる」とかな。 そういうこと真顔で言うんやもん。 マーくんて意外と女たらしの才能あるんちゃうか思たわ。 それに肩とか平気で抱いてくるし。 私が落ち込んでたらきゅって抱きしめるし。 なにヴィータ? 最初にぎゅっと抱きしめたんは、私ちゃうんかって? うるさいわそこは気にせんでええんや。あんときマーくん、体のことで苦しんでたししょうがないねん。 最初にちゅーしたんも私の方からちゃうんかって? やかましなぁ、あれは軽くや。本格的なんを本気でしてきたんはマーくんの方からなんは確かや。 中3の後半くらいには・・・既に、ちゅーくらいは平気でする状態になってたな・・・ そんでな、ある晩、何か盛り上がって、抱き合いながら倒れこんで、そんでちゅーとかしてたら・・・その・・・ なんというか普通は触ったらあかんとことかな、うん、なんというか流れで・・・ もう、「あかん・・・あかんでマーくん、あかんて・・・」って言ってもな、やめてくれへんし・・・ ほんまマーくんはえっちなんやから・・・ しかし揉まれたら大きくなる言うんは、ほんまの話やったんかも・・・ って! なにを言うとるんや私! コホン、それは置いといて。 あ、誤解したらあかんで。 最後まではしとらんから。 ほんまやて! ほんまにほんま! 私はそんなに軽い女とちゃうねんから。 絶対にほんまに最後までは、最後ま、で、は、してへん。 じゃあどこまでしたんかって? 言えるかいアホ! とにかく子供作りはしてない言うことや。 かろうじてそこまでしてないだけで、かなーりえっちなことを毎週しとった・・・なんて事実は無い。 コホン、とにかく最後まではしてない、それだけでも大したもんちゃう? マーくんも言っとったけど、遊びちゃうねん、私らの仲は、うん。 真剣やったらかえって、そういうのも抑制効くもんなんや。 少なくとも私らの場合はそうやもん。 ちゃんと最後までするとかそういうのはその・・・マーくんが地球で一人前のお医者さんになってからやな、うん。 そしたら胸張って、みんなに祝福されて・・・ まあ先の話やわ。 多分そうなると・・・思う。 せやから! 仕事・・・片付けんとなあ・・・ そう、仕事。 いくつかな・・・ どうしても どうしても! どうしても!! 片付けへんと、あかんのが、あるねん。 これマー君にもちゃんと言ってへんか。 でもどうしても・・・(あとがき) うーん、ちと長めかな。 これでやっと中学卒業間際まで持って来れたか。 やっと次で時間追いつく・・・かな?