マシュー・バニングスの日常 第五十八話 聞こえてるか分からないけど、ベッドに寝てるマシュー君に語りかける。「勝手にアリサちゃんに連絡しちゃうからね。うふふ、アリサちゃんきっとまた泣くし怒るだろうなー。でもこれも自業自得なんだからね、心配かけるマシュー君が悪いんだから。きっと『奥さん』も心配してるよー。」 奥さん、って言ったのは軽い気持ち、からかうつもりで、前からたまにマシュー君とはやてちゃんの周りにいる皆は、私も含めて、二人に「奥さんはどうした」「旦那さん今日はどこ?」とか言うことあったし。 二人は照れながらもまんざらではないというか、もう諦めてるというか、そういうからかい混じりの問いかけにも普通に答えてたし。 だから大したことじゃ無かったはずなのに。 なんか私は少しだけ・・・自分で言っといて勝手に自分で落ち込んだような? なんで? 別に落ち込むところなんてどこにもなかったよ? うん、どうせすぐに「奥さん」来るだろうし。 そしたらマシュー君の大好きな「姉ちゃん」と「奥さん」がすぐに二人揃ってマシュー君の世話を焼き始めて・・・ 私はそれを、結局、周囲から見てる立場。 そういうものなんだから、それで別に良いよね。 でもなぜか。 私はアリサちゃんにはすぐ連絡したんだけど。 はやてちゃんにはしなかった。 大丈夫だよきっと? マシュー君が連絡した・・・筈だから。 うん、きっと、間違いなく。 目覚めたマシュー君もそう言ってる、うん問題無い。 うーん・・・ ほら、マシュー君て基本的に私には意地悪じゃない。 普通に起こせばいいのになんか夜這いみたいな雰囲気でガバーって来て起こしたり。(あの時は驚きすぎてなんか体から力が抜けた、冗談だったから助かったんだけど・・・) それに私のリハビリのときのあの鬼悪魔鬼畜外道な仕打ち・・・あれ絶対面白がってたしいつか目にもの見せてやるって思ったし。 一緒に戦った時とかも結局全部自分のペースに持ってってしかも戦後処理とかは全部、私に丸投げだったし。(もちろん私がするのが正当なんであって医官であるマシュー君には本来権限無いんだけど何か釈然としないものが・・・) それなりに色々あったんだよね・・・そしていつもマシュー君は私より立場強くて私はいつもマシュー君には逆らえなくて・・・ だから、弱ってるマシュー君って久しぶりだったから、こう、珍しく私の方が上から目線でマシュー君の世話を焼くのが・・・ 普段の復讐というか、日頃のリベンジというか、妙に楽しかったというか・・・ でもきっとすぐにはやてちゃん来て私の役目も終わるわけだし、今、少しだけこの状況を楽しんでも、いいよね? なんか遅いね、奥さん。なにしてるんだろ? でも・・・こうしてマシュー君の近くにずっといるとかって私が入院したとき以来かな。 あの時は本当に本当に助かった。今回少し助けた程度じゃ釣り合わないと思う。 うん、借りを返せるうちに返しとかないとね。 ある日、二人きりで会話してたとき、急にマシュー君が真剣な顔で私をじっと見詰めてきた。 な、なに、そんな真面目な顔して、ちょっとドキドキしちゃうじゃない・・・ って、ああ、助けたお礼ね、もう、そんなこと大したことじゃないのに・・・ その後も何だか二人でいる時間が多くて・・・ なんだかぼーっとマシュー君の横顔見てて思ったんだけど。 近頃マシュー君、アリサちゃんに似てきた? そう見えるかって? ううん実は全然見えない。 だったら言うな? だけどなんでだろ、顔立ちはともかく内面的に? そんな感じがしてきたような・・・ バニングス姉弟は、なんといっても双子なのだから、似てないようでどこか似ている。 外見はともかく内面的にはその傾向が特に顕著である。 二人とも表面的には結構、人当たりが良いとは言えないタイプ。 アリサは陽性で、プライドが高くて人を近付けないように見え。 マシューは陰性で、ちょっと冷たくて人が近づきにくいように見えるという違いはあるが・・・ そしてアリサは一旦、仲良くなるとむしろ過剰なほど情が熱い内面を見せ、面倒見も良くなる。 実は、同様の事はマシューにも言える。ただアリサほど感情表現が激しくないからそう見えないだけで、一旦、仲良くなり、身内に準ずるみたいな距離感になった相手に対しては、いつでも気を使い、さりげないフォローを常にする。 実は似たもの姉弟。 姉と仲良くなれる人は・・・ 弟とも仲良くなれるのだ。 なのはは漠然とそのことを感じるようになっていた。 なんだ、意外とマシュー君って・・・苦手じゃないのかも? さりげなくというか・・・微妙に優しいのかな、微妙なのが微妙なんだけど。 でもそういうところが、はやてちゃんは好きなのかなー ちょっと遅れる程度だと思ってたのに。 一日来なかった時もまだ大丈夫だろうと思ってたのに。 ついに一週間も来なかった時、疑問に思った。 どうしたの、はやてちゃん。 どうするの、アリサちゃん切れてるよ、これ。 静かな・・・穏やかな顔してるあたりがほんとヤバいよ? でも今回はアリサちゃん怒っても仕方ないと私も思う。 私自身、なぜか・・・どこか、腹が立って来たような気がするくらいだもん。 でも、はやてちゃんが真っ青で泣きそうな顔で病院に駆け込んできたのを見た時、責める気とか失せたんだけどね。 仕事に専念して、専念し過ぎて、他の事を見失って、そして失敗する。 はい、私にも経験あります。 声高に責める権利とかありません。 でもアリサちゃんは容赦なく、はやてちゃんを捕まえて・・・そのままどっか行った。 さすがに私も心配になった。 本気で怒るアリサちゃんは・・・本当に怖いから。私も良く知ってる。 そのままマシュー君と一緒に、うちに帰って来て話してると・・・ マシュー君は・・・どうも、もしかしたら全然? はやてちゃんに怒って無い? 倒れたのも心配されるべきなのもマシュー君の方なのに、逆にマシュー君がはやてちゃんを心配して庇って・・・ なんなの? はやてちゃんなら全部オッケー、なんでもありなの? ついそんなことを口に出してしまう。 マシュー君は、そんなことはない怒る時は怒るさと言ってるものの・・・うーん、信用できないような気がするの。 怒りながら帰ってきたアリサちゃんも同じ意見みたい。 「あんたははやてを庇う! 黙ってろ!」ってさすがはアリサちゃんなの。 でもマシュー君、基本的に全面服従の「姉ちゃん」相手なのに、それでもはやてちゃんを庇う。 マシュー君にとって絶対の存在であるはずの「姉ちゃん」相手にしても、それでも、はやてちゃんを庇うんだね。 はやてちゃんと話し合うの? ふーん、話し合えばまた前みたいにバカップルになるのかな。 意外と簡単にまたそういう関係に戻りそうな気もするの。そういう仲だったしね。 でももしかして・・・それが変わりつつあるのかな? お母さんとかお姉ちゃんが読んでる女性週刊誌に書いてあったの。 仕事の環境とか変わって、あまり会えなくなると、夫婦でも関係を維持するのが難しいって。 離婚原因ランキングとかで、性格の不一致とか金銭問題とか並ぶくらい、そういう環境の変化は大きいんだって。 考えてみたら結局のところ、二人は夫婦では無いんだしね、正式には。 あっさり仲直りするのと同じだけの確率で、あっさり別れちゃうってことも・・・あるのかな? そうしたらマシュー君はどうするんだろう。 それでもはやてちゃんのことを思って過ごすんだろうか。 それとも別に恋人作ったりするのかな? とか考えてる所に。 いきなりアリサちゃんが「なのはがマシューの嫁になってくれれば大歓迎」とか言い出すし! ちょ、ちょっと待って! それはないよ! だってマシュー君は! はやてちゃんの・・・じゃ、なくなるかもなくなったらそしたら私が嫁っていや待って! いつもならもっと気軽に「それはないよ!」って言えるのに。 なんだか言えずに黙って赤くなっちゃった。 それを見て困り顔のマシュー君に、さらに盛り上がるお母さんたち。 その後の食事中もずっとアリサちゃんは「なのはをマシューの嫁にするなら・・・」って話ばっかりするし。 もう! はやてちゃんに怒ってるのは分かるけど! そこで私をあて馬にしないでほしいの! アリサちゃんて感情走るとこういう暴走すぐするんだから! 大体マシュー君なんかの嫁になんて・・・そんなマシュー君が言うわけ無いし、嫁になってくれとか、うん言うわけ無いし。 仮に言ったら? いや言うわけ無いんだけどもしもマシュー君が真剣な顔で「結婚してくれ」とか・・・ 妄想過ぎるの! ダメダメ! 高町なのは! 落ち着いて! いくら小さいころから知ってる幼馴染だからって、ほらマシュー君て意地悪だし、うん意地悪だけど微妙に優しかったりもするけど、でもやっぱり微妙だしね微妙。私の体を一生懸命治してくれたりしたけど、それは仕事で、でも仕事にしても相当頑張ってくれてたらしいって後から聞いたけど、でもそれとこれとは別だし、私の周りには他にもっとカッコイイ男の子とか・・・いや仕事関係の人しかいないような気もするけど、そしてそういう仕事で会う人はみんな私の事は「凄い魔導師」扱いで敬遠気味な雰囲気あって、そういう人たちに比べたらマシュー君て私のこと「バカ町」とか呼んで全然普通の女の子扱いしかしないような感じが居心地良いとか、ううんほらほかにそういう態度で接する人っていったらユーノ君とかも一応、だから決してマシュー君だけ特別ってことも無いし、だいたいつまりうーんとえっと・・・「どうしてもイヤ? 絶対にありえない?」「そんなことはない・・・かもしれないけど・・・」 とたんに盛り上がるお母さんたち。あれ? わたし声に出てた?「なのはの同意も得られたし、この際一気に婚約を・・・」「姉ちゃん、いい加減にしとけよ。」 マシュー君が苦々しげにアリサちゃんを止めた。 そのマシュー君の顔を見て私もなんだか冷める。 あ、そっか。 やっぱりマシュー君は、はやてちゃんのことが・・・ うんそうだよね。分かってたし、分かってる・・・ その日はマシュー君とアリサちゃんは、うちに泊って行った。 私はアリサちゃんと同じ部屋で色々お喋り。 いきなり私とマシュー君をくっつけようと画策し始めたアリサちゃんにしっかり怒っておく。「いい、アリサちゃん。まわりがどうこう言っても、結局、マシュー君の気持ちが大切なんだからね。マシュー君ははやてちゃんのことが好きなんだよ結局。アリサちゃんが怒っても反対しても、今度ばかりは言う事聞かないと思うよ、マシュー君。」「ふうん・・・まあ、そうかもね。」 意外とあっさり同意するアリサちゃん。拍子抜けする私。「でもね、なのは。」「なに?」「あんたはどうなの?」「はい?」 なにをいってるのか分からない。「あんたは好きじゃないの? マシューのこと。」「はい?」 一瞬頭が真っ白に。真っ白なままなんとか言葉を口から押し出す。「・・・・・・別に・・・・・・そういうふうには、好きじゃない・・・」 うん、そうなんだもん。 だってマシュー君は、はやてちゃんのことが好きなんだから。 だから私はそんな気持ち、持ってない。 なんか理屈がおかしい気もするけど。 とにかく違う、違うんだから。 それを聞いたアリサちゃん。 別に問い返しもせず。「そう、分かったわ。うん、今日はゴメンなさい、からかったりして。はやての態度があんまり腹立ったもんでね、つい。それにマシューもないがしろにされてるってのに怒って無いどころか・・・はやてを庇って弁護してそれもムカついて・・・・・でもゴメンなさい、本当に。なのはに迷惑かけたわね・・・・・・寝ましょ。」 言うが早いがすぐ布団をかぶってしまうアリサちゃん。 私はしばらく固まってたけど・・・のろのろと再起動して、部屋の明かりを消して・・・布団に潜った。「マシュー君は、お友達だよ。」 小さく呟いたその声が、アリサちゃんに聞こえたかどうかは、分からない。 やっぱりマシュー君は苦手だよ・・・ いつもこんなふうに・・・ 私を困らせてくれる・・・ いつの間にか私は眠りに就いた。(あとがき) 「まず意識させる」作戦をアリサが意図的に発動したのか、まだ切れてて勢いで言っただけなのかは作者も知りません。 しかし姉ちゃん大暴れ・・・ううむ困った人だ・・・一番勝手に動く人なのです、強すぎるw フェイトは友達復帰しただけ、アリサは既に言いたいこと言いまくり。故に次「はやて」行きます。さあ一気に巻き返す・・・予定です。