マシュー・バニングスの日常 第五十七話 それからの私は、少しはマシな人間になったと信じたい。 お母さんともお父さんともちゃんと話せるようになった。 何も言わず勝手に魔法の道に突っ走るんじゃなくて、きちんと理解を得た上でそうしようと思うようになった。 そしてずっと私の治療リハビリを担当してくれたマシュー君。 マシュー君は何でも前例のないほど画期的な治療法を私に施してくれて。 なんと魔力が昔よりあがりました! すごい! すごいよマシュー君ありがとう! でも・・・ それからは昔みたいに「近づいて傷つけるのが怖い」って恐怖感はほぼなくなったんだけど。 なんだか別の意味で苦手になった、マシュー君の事。 だって月一の健康診断絶対受けるの義務になって、それもマシュー君の担当になったし! 仕事内容も全部把握されて、少しでも無理してるようなら問答無用で休ませるって断言されちゃうし! しかも両親だけじゃなく周囲の人間全員、武装隊の上官に至るまでマシュー君の味方だし! もう完全に頭が上がらなくなりました・・・ なんていうか・・・天敵? 蛇に睨まれた蛙? 絶対に敵わない相手になってしまいましたマシュー君。 しかもね・・・ なんだか両親の中でマシュー君の株が高騰してるような。 昔は、お母さんもお父さんも、マシュー君の事は腫れものに扱うみたいに、やっぱちょっと苦手みたいな感じだったんだけど。 なんでもきちんと私の病状とか説明に来てくれたこととか真摯な態度とか。 その後も色々とマシュー君と話す機会が大いに増えて。 あれなら、なのはが嫁に行っても安心だって、ちょっと待って! それは無いから! 絶対無いから! 私、マシュー君のこと苦手だもん! それに大体・・・ うん、そうだよ。 マシュー君って、まずアリサちゃんのものだったけど。 なんか近頃変わって無い? 少しずつ・・・ はやてちゃんのものになりつつあるというか。 それも、とても自然に。 あれは結婚するでしょ絶対。 苦手だけど、嫌いじゃないよ、それは確か。 でも明らかに既に、はやてちゃんのものってムードだし。 だから、それは無い。 私とマシュー君がとか、それは絶対無いんだよ。 やっぱり中学に入ってしばらくしてみれば。 なんだかもう見てて腹立つくらいのバカップルになってるし二人! 一緒のお弁当は当然、週末同棲、ヴィータちゃんから聞いた話によると家のなかではいつもベタベタイチャイチャ実に暑苦しいとか。 たまに口げんかぽい雰囲気になることもある。 でもそういうときこそ注意が必要。 気付けば抱き合ってイチャついて、おいケンカはどこにいったんだ!って突っ込みたくなることが多々あるそうで・・・ 夫婦喧嘩は犬も食わない。 つまりどうせ仲直りすることが前提にあり、横から何を言っても無意味なのだ。 というかそれもイチャつきのうち、一環に過ぎないのだろう。 私が入院したとき、一気に距離が縮んだんだって。 私は知らなかったけど、実質、マシュー君とはやてちゃんが協力して私の看護体制を整えてくれていたとか。 別にそれが無くともどうせそのうち結婚しそうな二人だったけどね! 私にとっては一番昔からの親友といえばアリサちゃんとすずかちゃんになるけど・・・ マシュー君とはやてちゃんは病院つながりでそれ以前からの知り合いだそうだし。 もう早く結婚してくれないかな・・・正直、ウザいの。 高校生になって、アリサちゃんがミッドに遊びに来るっていうから一緒にあちこちまわった後ではやてちゃんの家行ってみれば。 なんなの? なにを真っ昼間から互いに堅く抱きしめ合って一緒に寝てらっしゃるわけなのこのバカップルは?! 思い切り体密着させて足とかも軽く絡めてるとか、まだ外明るいって分かって無いのこの二人?! だから多少、意地悪してやったとしても私は悪くないと思う。 幼馴染で健康診断を毎月してる・・・うふふ・・・浮気相手の可能性あるよー マシュー君が私に対して常に立場強いのを利用してえっちなことを強制してるかもよー もちろん実際にはそんなことは皆無だけど。 私の入院以来、私達二人は昔に比べたらかなり仲の良い友達にはなったけど、それだけ。 たまに医者と患者の関係になるわけだけど、そういうときはむしろマシュー君は完全にビジネスライクに切り替える。 すごく冷静に、あくまで一線を引いて、礼儀正しいけど余所余所しく、決して過剰に近づかない。 そういうお医者さんモードのマシュー君は、なんだか冷たくて・・・ちょっと嫌いかも。 私とも口ゲンカとかたまにするけど、そういうときの遠慮無く皮肉を言うマシュー君の方が・・・ それはともかく、このバカップル。 幸せそうにお互いの体を撫でたり、むにゃむにゃ甘いセリフを寝言でも囁き合ってたこの二人。 なんだか妙に腹が立ったので・・・ 私とマシュー君の間に、本当に何も無かったのか曖昧なままで逃げてやったの。 はやてちゃんも少しは疑いを持ったかも? ふん。 どうせあのバカップルならすぐ仲直りするに決まってるの。 そう、決まってるの、絶対。 マシュー君には借りばかり作ってる。 だからやっぱりいつもどこかで彼の事を気にしてる。 研修中、レイジングハートの発したメール着信音はマシュー君専用。 もちろんほかの着信は受けない、研修中だもんね、切っとくのが当然。 でもマシュー君のだけは入れたまま。そもそも健康診断の連絡以外にはほぼ連絡してこない人だし。 だからいつごろマシュー君から連絡来るかも、言われるまでもなく分かってるし。 今日、この研修中に、マシュー君から連絡が来るはずは無いのに。おかしいな? 周囲の非難の視線を気にしながらコソコソとメール確認、多分間違いとかじゃないかな・・・ と思ったけど見た瞬間、私は立ちあがった。 講義してる教官も、一緒に聴講してる教導隊・武装隊の同僚たちも私の唐突な行動に驚く。 そこからは無我夢中だったかも知れない。 だってこんなメールなんて初めて見た。 マシュー君って・・・認めたくないけどあれで相当強いよ? 正直、今の私が本気でやっても倒せるか分からないくらい。 ただしそれは、互いに向き合って、よーいドン、で始めればって条件だけどね。 マシュー君には実戦魔導師として致命的な弱点がある。 一発当たれば、終わりに近いのだ。 だから全部よける、それが前提。 もしも完全な奇襲とか不意打ちとかで、最初に間違いでも一発入れば・・・そこで終わりだ。 マシュー君の打たれ弱さは前線に立つ実戦魔導師としては致命的なのだ。 これはもしかしてマシュー君、間違って最初に一発当てられてしまったのでは? そうなるとそれだけで彼の場合、命に関わるかも知れない! 強引に飛行許可とか取って私は先発する。 メールにあった座標に探査魔法を向けつつ全力飛行! 私の探査は結局、「相手に気付かれない」って隠蔽性能はどうしょうも無かった。 でも相手に気付かれてもしょうがないという前提で探査球を発動する分にはかなりの距離をカバーできるようになってる。 マシュー君には及ばないだろうけど。 探査が届いた。 これは・・・AMF! AMF下に入って私の探査球も急速に性能を減じる。 しかしそれでも機能をなんとか失わない。それが魔力集束に特性のある私の利点。 そうか逆に魔力発散が特徴であるマシュー君には・・・AMFって致命的なのかも? 急げ、急げ、急げ! あれはフェイトちゃんと・・・この前保護したっていう少年、エリオ君? そのエリオ君の前に膝をついて・・・マシュー君が治癒してるように見える・・・ 敵は3人? 少なくとも見える範囲では。 治癒が終わったらしい、マシュー君は立ち上がろうとして・・・血を吐いて倒れそうに! AMF下で! きっと体も苦しいのに! エリオ君を治そうとして! 体に負担が来たんだ! そしてそんなマシュー君の手からデバイスを奪おうとする敵! 間に合う? 届く? 間に合わせる! 届かせる! カートリッジ装填! 集中力が冴え渡っている、我ながら驚くほど滑らかに魔力を集束させて・・・これが私の全力全開!「ディバイン・・・バスター!」 絶対に助けるよマシュー君! 急速に接近する私を見て敵はひどくあっさりと撤退した。 増援を恐れたのかな? それはあるだろうけど・・・ フェイトちゃんは後日、「マシューの行動を見て気が引けたというか・・・戦う気がかなり失せたんじゃないかな」と言ってた。 てきぱきと事後処理。なんだかとても頭が冴えていた。 倒れるマシュー君を冷静に抱え起こして・・・うん生きてる、大丈夫。 無防備なマシュー君て珍しい・・・そしてこういうふうに倒れたマシュー君の面倒見るのはアリサちゃんか、はやてちゃんの役目だったのになぜか今日は私の役目に。抱えあげたマシュー君、意外と重い。昔は私達のなかで一番体重軽かったそうなんだけどさすがにもうそれは無いみたいだね。ちゃんと成長して、男の子らしくなったんだ。 背丈は私よりかなり高い。うーんどうやって運べばいいんだろう。 フェイトちゃんの助けを借りて、私はマシュー君を背中におぶった。 救急車の中の紐とかでそのまま落ちないようにあちこち補強してもらって・・・ 武装隊の人も陸士部隊の人も徐々に集まって来た。 幸いエリオ君はマシュー君の治療で既にかなり回復してるみたいだし・・・ 後の事はフェイトちゃんに任せて私は本局病院に一直線。 病院入口に文字通り飛び込んできた私に、受付の人とか驚いたみたいだけどマシュー君はここではかなりの有名人。 すぐにギルさんに連絡が行きストレッチャーが運ばれてきてマシュー君は運んで行かれる。 私はずっとそばに付き添ってマシュー君の手を握ってた。 ギルさんがそれを見てちょっと怪訝そうな顔をしてたのはなんでなんだろ? 友達が倒れたから心配してるだけなのにね。 ギルさんから「大丈夫、意外と軽傷、命に別状なし」と聞いて気が抜けた。 良かった・・・ 助けられた。 これで少しは借りも返せたかな・・・ もうほんとに・・・「アリサちゃんが心配する気持ちも分かるなー。こんなふうにすぐ倒れるんだもん、マシュー君。早く起きてね。」 マシュー君の耳元で囁く。 マシュー君が吐いた血の匂いが強かったんだけど・・・それ以外に。 ちょっと男の人の匂いがして。 私はなんか慌ててマシュー君から離れた。(あとがき) むむむ・・・前後編にも収まらぬ。 3まで行きそうかな。 さすが主人公、存在感あるなあ・・・軽く済ませられない。