マシュー・バニングスの日常 第五十話 八神と一緒にザフィーラとシャマルさんも帰ってきてたので、二人に目できいてみるも。 なんか目を伏せられてしまった。 言いにくいことらしい。なるほどね・・・ 俺の胸元にしがみついて顔を伏せてる八神を、苦労しながらリビングのソファの所まで移動させて・・・ この体勢では普通に座るのも大変なのでとりあえず、ゴロンと二人でソファに横に寝転がる。そのくらいの広さはある。 なんかあったのかな。 あったんだろうな。 でも簡単には言えないと。 まあ言えない苦労ってのは良くあることで。 こういうときムリに聞き出そうとかしない方がよい。 けどまあ何も言わないのも何だし。「・・・どうした? 八神。」 優しく呟きながら、八神の頭を撫でてやる。「なんでもない・・・」 まーだ顔を伏せて表情も見せないくせにそんなことを言う。「そか、なんでもないのか。」「うん、なんでもないねん。」「よしよし。」「背中も撫でて・・・」「はいはい。」 十五分ばかり八神をイイコイイコってしてあげて。 少しずつ八神は立ち直ってきたかな・・・「姉ちゃんと高町だけどさ。」「うん。」「姉ちゃんが高町に化粧品とか買わせるって出かけて・・・」「うん。」「帰ってくるのは多分5時くらい。」「うん。」 また会話が途切れる。「あのさ八神・・・」「なに?」「あんまりそうしてくっついてるとお前・・・」「なに?」「・・・いやなんでもない。」「なんでもないことはないやろ。」「いや、なんでもない。」「うそや~」「ほんとだって。」「あ、もしかして・・・」「ん?」「えっちな気分になったとか?」「ふん自惚れるな、今さら八神ごときにそんな気分になるものか。」「ほんまかな~ほれほれ。」「ぬぬ・・・お前近頃結構・・・」「ふふん、大きくなってきたやろ。」 ちょっと揉み合うがまあ互いにふざけてるのは分かってるのですぐに落ち着く。「・・・しかしなあ八神・・・」「なんなん、急に切り替えて・・・」「お前、本当に大丈夫か?」「・・・大丈夫や。」「まだ頑張るのか?」「もうちょっとだけ・・・」「うん。」「まだもうちょっとだけ頑張りたいねん・・・」「そうかよ。」 ギュっと抱き締める。「あ~なんか落ち着くわ~」「・・・なあ、やっぱり言わなきゃダメ?」「当然やろ! はい言って。」 はーっとため息を一つついて、「・・・そばで見てるくらいはしてやるよ、お前の頑張るところをな。」 何年か前にしたこの会話の流れ、八神はいたくお気に入りで・・・ことあるごとにリピートを要求されている。 既に何十回目だか分からん。 こういうのって一回だけだからいいもんなんでねーかと抵抗してみたこともあるが八神のおねだりの前には無駄であった。「ちゃんと近くで見ててくれるんやんな?」「アドリブには応じません。」「あー卑怯やー」「どっちがだこのやろ。」「もう・・・たまにはサービスしてくれてもええやんか。」「・・・実際、傍で見てるだろ、今日も、今も。」「・・・うん。」「あ~なんか眠くなってきたかな、俺。」「私もちょっと・・・」「そだ、後で八神に相談したいこととかあったんだけど・・・」「うん分かった。」「まあ、後でいいや・・・」「うん・・・」 まだ二時くらいだし、ちょっと二人で昼寝しても夕食の支度は間に合うだろう・・・ そのままソファで並んで寝入ってしまった俺たちに、シャマルさんがタオルケットかけてくれたらしい。そこは感謝なのだが。 しかし俺たちがくっついて寝てる状態のを起こさないように遮音結界まで張って注意しながら、意外と早く、5時前に帰ってきた姉ちゃんと高町を連れてきて・・・ 二人に「もうこういう関係なのよ」って意図的に誤解する方向に話を持って行ったのは許さん。 子供作る前に結婚しなさい!ってだからさ姉ちゃんそれは誤解で・・・ 出来ちゃった結婚なんて許さないわよまずはちゃんとしなさい!ってだからさ俺まだ16・・・ 16でもミッドなら正式な結婚できるよって、ええい高町お前は黙ってろ。 ほら、チャイムが鳴った! お客さんだ! 俺が出るよ! ユーノ! よく来てくれた!! さあさあ上がってくれ!!! うん助かったよ、男同士助け合わないとな、今後も協力するから協力してくれ。 高町の格好? そうだ良く見てなかったが結構きれいに着飾ってたような気が・・・ 分かった分かった服とか小物とかのブランドとかお気に入りとか姉ちゃんから聞いて後で教えるから・・・ ☆ ☆ ☆ 八神がかなり落ち込んでた理由なんだが、実は聞かなくても分かってる。 仕事が大変とか、甚だしくは仕事で失敗してしまったとかでも、そういうことで簡単にへこむやつじゃない。 八神がひどく落ち込む理由ってのはひとつしかない・・・一言でいえば・・・つまり・・・ 闇の書、なんだ。 闇の書のせいで亡くなった人といえば例えばクロノの父親のクライドさんなんかがそうなんだが。 つまり、犠牲者の記憶はまだ生々しい。その関係者はまだまだたくさんいるのだ。 八神の情報もかなり高度に規制されてて、ベルカの夜天の書が、闇の書だったってのも一般には知られてないのだが・・・ さらに、4体の守護騎士が、4体で同時に同じ場所に揃ったりとかしないように、特に公共の場所、人目につく場所ではそういうことの無いように注意されたりしてるのだが・・・ それでも、やはり、分かる人には分かったりしてしまう。 負の感情を、八神が、向けられてしまうってことがあるんだよな・・・たまに。 復讐心とか恨みとか、そうだな・・・ぶっちゃけ騎士たち4人なら、いくら記憶が無いとは言え、やはりそういう感情を向けられてしまうってのは仕方ない部分があるかも知れないが。 しかし八神は。 八神は・・・むしろ犠牲者で被害者であるって点では同じようなもんなのだが・・・ でもね。 親しい人が犠牲になったなら、やはり湧き起こるのは怒りであり悲しみでありつまり感情であり。 感情ってのは理不尽でも怨む対象を求めてしまうのだな・・・感情論っていうように。 仮に八神についての事情を正確に知っていたとしても、それでも恨む気持ちを完全に消せるってもんじゃないんだろうな。 ザフィーラが・・・他の仕事に就かず、常に犬型であたかも八神の使い魔みたいなふりをして常に八神を護衛してるのも・・・実はこれが理由なんだな・・・実際にあったんだよ、八神には常時護衛が必要なんだって実感せざるを得ない出来事が・・・ これは残念だが、八神がミッドチルダに住む限り、騎士たちと共に暮らす限り、一生つきまとう問題だろう。 だから俺は、地球で医者になって、八神を連れて帰って・・・ とにかく、今でもたまに実際に闇の書関係で嫌な思いをさせられるってことが八神にはあるんだ。 そしてその時ばかりは本気で落ち込んでしまう。 八神が悪いわけじゃない、そんなことは八神自身が一番知っている、恨んでくる方が理不尽で、そういう理不尽な思いに晒されて・・・ 傷つく八神を。 俺はせいぜい、抱きしめてやるくらいしか出来ないが。 今の俺ではそれが限界。 いつかきっと・・・ ☆ ☆ ☆ とりあえずユーノを交えて食事して場が切り替わったかとマシューは油断したが、もちろんそれは甘かった。 アリサのコーディネイトで微妙にお嬢様風になったなのはの姿を堪能して満足したユーノが9時くらいに帰ると・・・ なぜかいきなりリビングの空気は重苦しくなり・・・ マシューとはやてを並んで座らせると、その前にアリサが立ち、二人をじろっと睨む。 なのは・シャマルは横の方に。ザフィーラは例によって知らん顔。(アリサチェック) もうなんというか・・・ いろいろ考えたのがアホらしくなるわね、この結論。 やっぱりじゃないの結局。 なにをギューって抱きしめあって体を密着させたまま寝て、それがいつものことだし大したことじゃない、よ! マシューの部屋をガサ入れしても避妊具が見つからなかったんで、まだだとばかり思ってたけど・・・ちゃんとそういうのは医者であり男あるマシューのほうが準備するもんだと思ってたけど・・・もしや、はやてに準備させてるの!? それとも準備したのはマシューだけどいつもはやての部屋で・・・だからそっちに置いてあるとか? でもはやての部屋は勝手にガサ入れするわけにもいかないし。もしかしたら着けてないとかじゃないでしょうね! その可能性はあるわ・・・はやても平気で受け入れそう! 先に妊娠しちゃえば踏ん切りがつくとか考えてないでしょうね! そういうのは良くないわよ! ちゃんと考えて計画的に! なによ。 マジメに考えてるから、してないんだって? 二人とも真剣だから、そんな気軽に軽率な真似なんてしない? ・・・ ううーん それは本当ぽいけど・・・ でも若い二人が一緒に寝て何もないなんてあるのかしら・・・ ちゃんと目を見て答えなさいマシュー、ほんとにしてないの? じー・・・(アリサの魔眼発動、マシューには常にクリティカルヒット!) なに? 少なくとも所謂古風な表現で言う所のABCのCまではしていません間違いありません? じろじろ・・・(マシューの精神値がマイナスに突入しました。「墓穴を掘る」モードが強制発動) いや、その・・・寝てる時にはちゅーはしないように気をつけてまして? ?・・・! 一緒に寝てるときにちゅーしちゃって盛り上がって、しそうになった経験とかがあるわけね? なにを二人揃って目をそらしてんの! そこまでいって引き返した自制心を褒めてくれ? ふん、それは自制心が強いっていうより単なるヘタレってんじゃないの? すいませんもう勘弁してくださいって土下座するマシュー。 大丈夫やで気ぃつけてるし、どーせ私が本気で抵抗したらマーくんには無理やりとかムリやしと笑うはやて。 そのあんたも寝ててちゅーして盛り上がって寸前まで受け入れちゃったんじゃないの? マシューのことだから強引になんてするわけもなく優しく優しくされちゃってそれでヤバくなったんじゃないの? いやそれがな、いざとなるとなんか急に強引になったりしてな、そのくせすんごいテクニックが・・・って!! なんてこと言うのよって私は赤面したのに。 『やっぱり』そうなんだ、いざとなると強引になるのね・・・って、なのは!!!!??? 凍りつく居間の空気・・・ 違う! 違います! 私にはやましいところなど一切ございません! と白を切るマシュー。 しかし私が問い詰めるより早く! やっぱりなのはちゃんに手ぇ出しとったんやな、健康診断にかこつけて何をやっとるんやこのセクハラ医者!とはやてが噛み付く! 違う・・・本当に違うって・・・高町! 誤解を招くような言動はやめてくれ・・・ うつむいて表情を隠してるが微妙に肩が震えてるなのは・・・泣いてる?笑ってる? なのはちゃんと医務室で二人きりになって健康診断や言うて半裸にして・・・お医者さんごっことか毎月やっとるんかこの変態! マシュー君・・・先生だろ・・・先生恥ずかしいです・・・先生の言うことは聞かなきゃダメだぞ・・・でも先生そんなところまで・・・さあいい子だから手をどけて・・・ダメです先生変な感じに・・・ダメじゃないさあこっちはどうかな・・・ああん・・・とか! いやちょっとまてそれは妄想行きすぎ落ち着け八神本当になんでもない高町おい笑ってないで事態を収拾してくれーーー!!! ほんとのところはどうなのよ、なのは。ほらマシューが締めあげられて泡吹いてるし・・・ ごめんねー(かわいく舌ペロっ) なんだかマシュー君をボコボコにして完全勝利できそうな状況だったからつい魔がさして☆ 大丈夫だよ、はやてちゃん、本当に何もないからニコニコ 悪魔め・・・・・・悪魔でいいよニコニコ むむ、成長したわね、なのは・・・ 本当に何もないともとれるし・・・実は何かあるともとれる・・・見事な笑顔だわ・・・ いつの間にこんな表情できるようになったのかしら・・・でもそういえば桃子さんの娘なんだから・・・ はやてもなんだか曖昧な、疑うべきなのか信じていいのか分からないって顔になってるし・・・ やっぱりもう、したほうがええんやろか・・・って待ちなさいはやて。 軽率にしないってあんたたち話し合って決めたんでしょ、それで正しいと思うわよ。 大丈夫マシューが浮気したら私も吊るし上げに協力するから。 私が裁判長ではやてが検察で騎士たちが陪審員で周囲を固めて、弾劾裁判すればマシューなんて何もできないから。 弁護士は・・・とか呟きながらマシューがガクブルってるのは、まあ置いておいて・・・ はあ・・・ とりあえず! とにかく事後承諾で伯母さんになったって報告が来るようなことだけはやめてよ? 事前にちゃんと報告すること。 分かったわね!? その晩、アリサとなのはとはやては三人で布団を並べて寝たのだが・・・ 眠りにつく前の会話。 ねえ・・・ ほんとになにもないのよね? なにもなかったのよね? ほんとだよーマシュー君となんて冗談じゃないよニコニコ ほんまにほんま? ほんまになんもなかったんやんな? ほんとだってばニコニコ(ダメだわ・・・読めない・・・)(あかん・・・分からん・・・) 母である桃子さんから女としてのスキルのうち強力な何かを受け継いだなのはに対し、どうにもなにか勝てないものがあると初めて二人が実感した夜であった。(あとがき)・起承転結のうち「起」が「無印・As」「承」が「~中学生日記」、「結」は「sts編」の予定で。・「転」が今ですねここからです、やはり「転」が一番難しいって話は本当だった・・・・早く連れて帰りたいマシューとまだ頑張りたい八神の意見の対立から来る壮絶な夫婦喧嘩・・・「VS.八神」編、はじまります。