マシュー・バニングスの日常 第四十六話 日本は4月から新学期だが、アメリカでは新学期は9月からである。 だからして俺と姉ちゃんは半年ばかり休暇が出来た。 日本人ならこの期間内に語学の特訓とかするって話になるのだろうが、もともとバニングス家の家庭内公用語は英語である。 ちなみに日本語の方は俺も姉ちゃんも適当に好きに喋ってるのだが、英語の方は躾が厳しく、米国東部の品の良い米語をきちんと話せるように幼いころから教育されている。 でもまあいきなり大学に行くことになるわけだし、事前にある程度、勉強する期間に充てようと俺は考えていたのだが。 しかしそれでも半年ってのは結構長い。 そこで姉ちゃんの、せっかく時間があるんだからマシューの職場とか見たい!という要望により・・・ ミッドチルダ観光ツアーが始まることとなった。 別に管理外世界の人間が、ミッドに行くのは禁止とかされてはいない。 ただ現実問題、普通なら伝手もなければコネもない、行く手段が無いのだな。 次元航行を可能とする船に管理外世界の住民が乗る方法なんて無いし。 転送ゲートなんてものはもちろん管理外世界に設置されてるなんてことは普通はありえない。 しかしその例外として、月村家とバニングス家には転送ゲート設置をしてしまってるわけではあるが・・・ それを発動するときの消費電力とかね、ハンパねーのよ。 月村家とかうちだからこそ維持できるレベルと言いますか・・・ 無駄遣いすることも無いし、俺個人については普通は自力で転移魔法で飛ぶわけだけどね。 他の面々も同様で、自力転移が怪しいのは長らく高町一人だけであったが・・・ 彼女も、固定されたマーキングの間に限定してであれば、詠唱に時間はかかるがなんとか自力転移が出来るようになった。 出来るようになるまではかな~り苦労してたものである。誰かに連れて行ってもらうか、小型の航行艦にわざわざ迎えに来てもらうか、ほかの都合が付かなくて俺に頼るしかない状態になったときなどはとことんからかってやったものだが、うーむあれがまずかったか。よほど悔しかったのかついに自力で出来るようになってしまった。つまらん。 閑話休題、とりあえず俺の勤務する病院から提供されてる寮の一室に転移して来た。 ここには直接転移してくる許可を取ってる。 ここはなんもない。 たまにここで寝ることもあるって程度だし。 キッチン・バスにベッドルームと、あともう一部屋あるって程度。安い独身寮だしね。もっとちゃんとした部屋を用意してもらうこともできるのだけど、それって俺にはあんまり意味ないし。 しかし我ながら、ほんとに閑散としてるなあ。「ちょっとマシュー。なんでこんなに何も無いのよ。」「うーん、一月に一回ここで泊るかどうかだからなあ・・・」「それ以外は?」「いや、まあ、ご存じの通り・・・」「ふふん。それじゃあそこに向かいましょうか・・・主目的の一つがそこの偵察だからね。」「・・・なんか嫌な予感が・・・」「連絡はしてあるんでしょ? どうするの? また魔法で飛んでくとか?」「八神の家は新築で、まだあそこへの直接転送許可とか降りてないしね。普通にタクシーで。」「ふーん。そういうもんなんだ。」「まーね。」 転送は便利だが事故が起こるとシャレならんのでむやみに街中では使ってはいかんのだ。 飛行魔法も同様で、特に市街地は無許可飛行禁止区域となっている。 交通手段となる車はエンジンが魔法機関である以外は大して地球と変わらん。 結局、町の風景も特にメカメカしいとか、逆にファンタジックであるとか、またはSF風未来都市とかそういうわけではない。 確かに海鳴に比べたら巨大な都市ではあるが・・・たとえばニューヨークとかロサンゼルスと比べたらどうかね。人口密度も地球に比べたらかなり低いわけでもあるし。まあそういうわけで・・・「何度見ても、普通よねぇ。これが次元世界の中心ミッドチルダなのかって感じ。」 何度も来てるが、あくまで一時的な滞在しかしてない姉ちゃんならまあそういうだろな。「ん~パっと見には分かりにくいけどさあ。」「なによ。」「たとえば・・・ミッドに限って言えば・・・この辺の空気、郊外とほとんど変わらないんだよね。」「?」「この大都市のど真ん中で、大気汚染が全くない。化石燃料使ってないからね。」「へーそれはすごいわね。」「まあ完全にとは言わないけど・・・環境汚染の問題がほとんど無いね、こっちだと。俺みたいに体が頑丈とは言えない人間には住みやすい。ミッドチルダ型の魔法文明社会ってのは、少なくとも『クリーン』であるってことについては間違いないね。」「なるほどね・・・」「何をもって『進んでる』と見なすのかってのは難しい問題だけど、意外と本当に進んでるってのは、そういう地味な所が洗練されてるってことなのかも知れないって思ったりもする。」「そうかもね。」 とかなんとか話してるうちに八神家に到着。車で15分くらいだし。 八神の新居はかなり大きい。日本基準でいえば、もう家というよりは屋敷というか。 まあ八神一家でリィンまで入れると6人、それぞれに個室と、さらに複数の客間に大きなキッチンにリビングに。 二階建ての中々大きな屋敷である。ちなみにミッドではあまり流行らない、地球風バリアフリー建築になってるのも八神のこだわり。 八神一家は、常に八神の護衛として犬モードで傍にいることになってるザフィーラ以外は全員、仕事を持ってるので収入はかなりある。八神本人も既にかなりの高給取りだし、武装隊で実戦任務に就くことが多いヴィータも、正統なベルカ式魔法と騎士の戦い方を教える仕事が多いシグナムも、医務官として働いているシャマルさんも、管理局職員の平均所得水準に比べればかなりの収入があるのだ。リインも近頃は後方勤務の情報処理の仕事とかで働き始めてるし。だからこういう屋敷を純粋に自力で建ててしまうことができるのだな~ ちなみに俺のミッドでの収入は、シグナムと同じくらい。シャマルさんよりは多い。八神にはかなり圧倒的に負けているw この家、建てるときに俺も金を出すかと言ったのだが・・・話し合いの結果、「まあ今はええわ」という八神さんの裁定が下ったので、建築費負担はしてない。 思ったより大きいわね・・・そーだろー・・・とか話しながら、姉ちゃんを連れて玄関に向かい、鍵でドアを開けて・・・「ってなにを当然のように合鍵持ってるのよ。」「いや、まあ、それも今さらだし・・・」「あー、マーくん?」「おーただいまー」「おかえりー。アリサちゃんもいらっしゃい。」「・・・『ただいま』なのね・・・はやて久しぶり、しばらく世話になるわね。」「うん、荷物とか洋室の客間に運んどいたけど、それでよかった?」「泊めてもらうわけだしその辺は任すけど・・・もしかして和室もあるの?」「せやでー。マーくんの部屋は和室やし。」「・・・なんで?」「だってうちとか全部洋室だろ。和室に憧れてたんだよなぁ。実際住んでみると妙に落ち着くし。」「いいけどね・・・」「畳っていいよな~」「近頃は作務衣とか浴衣とか着て畳でゴロゴロしとるもんな~いつも。もうちょいシャンとせぇって言いたくなるくらい。」「いいだろ別に。えっと、シグナムたちは?」「みんなは仕事やねん。私はちょっと休ませてもらったんやけどな。せっかくアリサちゃんが来てくれるわけやし。」「平日だしなあ。やっぱあんまいられない?」「ごめんなぁ。今日一日は空けたんやけど明日はまた朝から仕事。アリサちゃんと一緒に観光とかは無理ぽいわ。」「あーいいっていいって。こっちはこっちで勝手にやってるから。姉ちゃんいる間は俺はずっとこっち泊まるし。」「うん分かった。せや、味噌が切れそうやって言ったっけ?」「味噌はミッドには売って無いからなぁ。いつもの合わせ味噌でいいのか?」「うん、できればある程度まとめ買いしといて。家計から出すからレシート忘れんといてや。」「味噌くらいなら別に俺が出しといてもいいんだけど。」「あかん! マーくんもちゃんと食費出しとるんやからそういうことはきっちりせんと。」「へいへい。」「・・・・・・とりあえず部屋に案内してもらっても良いかしら?」「あ、ごめんな。はい上がって。」「靴、脱ぐんだ。」「こればっかりはな。ミッドでも靴履いたままが普通やねんけど・・・」「家入るときは靴脱ぐ方がいいって絶対。」「あんた何人よ・・・」 姉ちゃんを客間に案内。まあ普通の部屋である。あらかじめ送ってたスーツケースが何個か。荷ほどきをするのかと思いきや、俺の部屋に案内しろというので連れてくると、あちこち家探しを始めるし。あのな、ここは八神が掃除するんだぞ、そんな変な物とか置いてるわけがないだろうと言っても30分ばかりあちこちゴソゴソしてた。八神がお茶を入れてくれたのでリビングで一服。時間はまだ午前中。 さてこれからどうするか。「マシューの勤務先訪問は週末にするとして、まず今日はせっかくはやてがいるわけだし、一般人が見れるギリギリまで? 『管理局』ってものを実際に見てみたいのよ。具体的には建造物とか施設とか、できれば資料庫とか図書館、博物館みたいのがあるならそれも見てみたい。どういうものなのか知識としては結構学んだつもりだけどやっぱり実際に自分の目で見てみないとね。」「うーん、一般公開されてる範囲となると、そんなに見れへんかもしれへんよ?」「それならそれで良いわ。どの程度が公開されてるのかって範囲を掴むだけでも何がしか分かるでしょ。」「おいおいなんか調べるつもり?」「マシューたちが働いてる場所でしょう? 一回ちゃんと納得いくまで調べたかったのよね。これまで暇がなかったけどいい機会だわ。」「うん、分かった。それやったら・・・ここから近いのはまずベルカ聖王教会やねんけど・・・」「宗教勢力の規模と動向をつかむのは大切よね。さっそく行きましょう。」「わ、わかった。」 姉ちゃんの精力的な調査活動はかなり真剣なものであった。単なる観光って雰囲気では無いなぁ。 その日は車をチャーターしてあちこち駆け回って結構疲れました。(アリサチェック) はやての家はきれいに片付いてて申し分ないわね。マシューの部屋も隅々まできちんと掃除されてて・・・タンスの中の服も下着も、あれは全部はやてが洗濯してたたんでしまってるのよね。夕ご飯作ってくれたけど相変わらず美味しいし。しかもマシューの体のことも考えた献立だったみたいね。しかしマシューってば自分専用の茶碗にお箸に湯呑まであるのね・・・おまけに二人の会話が妙に所帯染みてるったら・・・ とりあえず夕食後、マシューは自分の部屋で仕事でもしてなさいと追放して、はやてと一対一に。 滅多にないこの機会、はやてには聞きたいことがたくさんあるのよね。 マシューの部屋のガサ入れ結果とか、はやてにそれとなく聞いてみたときの答え方などから・・・どうやら二人は最後までは行っていないらしいと確認できた。これは他のルート(ヴィータ→なのはetc.)から得た推測情報と一致するわね。 ・・・というか・・・どーもこうして実際に二人を見てみると・・・もしかして今の状態で安定しちゃってる?みたいな・・・ まだ一線を越えてないし下手したら言葉で確認もしてない、子供の時以来の一番近い幼馴染で、別に離れる気は無いけど、かといって、これまでの関係を一新してもっと近づこうって雰囲気も、両者とも無いような感じがするというか。 話をきいてると、今のはやては仕事が面白くて仕方無いみたいな感じなのかな。ロストロギア対策のための、部門横断的な部隊を作る計画とか熱く語ってるし。実績を積んで、独立したひとつの部隊を任されるまでになって、その部隊を運用してさらに実績を積んでキャリアアップを目指したいってところかしらね。もちろんそれはそれで結構な話なんだろうとは思うけど・・・うーん、もしかしてはやては仕事に生きる女? 家庭的な子なのかと思ってたけど、これはもしかするとなのはに匹敵するワーカーホリックなのかな・・・ マシューには早めに嫁を貰って子供を何人も作ってもらって、そのうちの一人をバニングス家の後継者として私の子にするって計画のためには、一番良いのははやてだと思ってたんだけどこれはどうかしらねぇ。マシューに言われたら反射的に言うこと聞いちゃうクセのついてるなのはをモノにした方が良いのかな? 一線越えさせるだけならそっちの方が簡単かも。でもどっちも仕事命だし・・・うーん、まだ焦ることは無いか・・・しばらくは様子見ね。私としてはマシューが幸せになれるならどちらでもいいわけだし・・・ 翌朝、仕事に出かける八神を見送って、さて今日はどうしますかと姉ちゃんに尋ねると、昨日は軽く眺めるだけだったクラナガン中央図書館を今度はじっくりと見てみたいとのことなのでさっそく向かう。 もちろん所蔵されてる書物はすべてミッドチルダ共通語で書かれているわけだが、姉ちゃんは普通に読めるのだ。 翻訳の魔法ってのがあって、地球の性能の低い翻訳機などとは次元の違う正確さで他言語も翻訳理解できるし、その機能だけを抜き出して作られた汎用の翻訳専用端末みたいのも普通に売ってはいるのだが、しかしそれは99%以上の正確さで翻訳されるもの、やはりどこまでいっても100%ではない。ちゃんと自力でミッド語を理解できるにこしたことは無いわけで、俺とか高町とか八神ももちろんミッド語を翻訳魔法など介さずに扱える。ちなみにミッド語の勉強も一番遅れたのは高町であった。というか高町の勤務部署って主に前線、武装隊とかだったので、そういう前線の連中が使うような、つまり軍隊の兵士が使うようなスラングというのを高町は自然にかなり覚えてしまったりしたという問題があって・・・はじめて翻訳魔法を媒介せずにミッド語だけで喋ってみたときの高町の言葉の恐るべきガラの悪さというものは実に衝撃的であった。そこから泣く泣く矯正のために勉強しなおしたので、結局一番遅れたのだな。今でも高町は、実はその気になって言葉に迫力を持たせようとしたらシャレならんほど怖いガラ悪い言い方が出来たりするw ちなみに八神はベルカとの縁が深いということもあり、ちょっと古風な、いまどきのミッドでは流行らないような仰々しい言葉遣いの影響を受けたり、管理局員としても基本的に指揮官職で、そういう立場の人たちの言葉の影響を受けたりしたので、八神のミッド語は「丁寧だけどちょっとエラそう」な傾向があったりする。彼女の発言が関西弁で表記されてるように見えるのはもちろん気のせいであるが・・・もしかしたら「古風」で、かつ「その話し方を押し通す」=「相手の話し方に合わせない」=「ちょっとエラそう」であるというのは、どこでも関西弁で通すというのと似てるかも?? 関西人ってのは本来、正しい日本語はこっちだと思ってるフシがあるからなぁ、まあそれはどうでもいい話だが。 姉ちゃんは俺とか八神に付き合って勉強してるうちにあっという間にミッド語をものにしてしまった。実は高町よりも早く会話できるようになったりしている。そもそもミッド語は言語としては英語系に近いので俺たちには覚えやすいものだったしね。 さて姉ちゃんは図書館に来ると、管理局関連の文書の棚に向かって分厚い年鑑みたいのを調べだしたり、同時に図書館のデータベースの画面を開いて色々参照してみたり、なんだか色々とやっている。なんでも時空管理局という組織の透明性・健全性・公平性などについて納得いくまで調べてみたいとのこと。うーん、その辺は俺も気になる所ではある。ちょっと手伝おうかと言ってみるものの、聞きたいことがあったら聞くから今は良いとかで、どうにも俺は手持無沙汰。仕方なく医学誌とか適当にパラパラと読んでみたり。 昼は近所で適当に済ます。 そこに八神からの通話、悪いが今夜はみんな仕事で帰れそうにないそうだ。 まあ夕飯もその辺の店で適当に済ますとして、さて午後はどうする? と姉ちゃんに聞いてみると、当然のように図書館での調査続行。まだ納得いくまで調べきってはいないそうな。まずは公開されてる資料がどの辺まで信頼できそうなものなのかあたりをつけようと様々な資料を読み比べてはいるものの、地球とは感性が違うのか、意外な情報が公開されてるかと思えば、重要度低そうな話が非公開だったりどうにも基準が見えにくい、この午後はまだそれを調べる!とのお言葉。 午後は俺は壁際のソファーに座って雑誌を眺めながらウトウトと・・・ 閉館時間間際に姉ちゃんに起こされる。時間はまだ17時くらい。 食事するにはちょっと早い、近所のデパート的なところをぶらぶらと散歩することに。「つまり、紙媒体での記録とネット上で公開されてる記録との乖離ね、それに各種年鑑の記録も、その年鑑の版数によって微妙にニュアンスが変えられてる可能性も・・・」「いや、しかしその程度の齟齬は普通に存在するもんなんでね? 意図的に何かを隠そうとかしてるって可能性は・・・」「もちろんあからさまに隠してるってわけじゃない、そうじゃなくて前後の情報から考えたとき違和感が・・・」」「しかしそうなるとそれは非公開情報を調べないことにはどうにもならんわけで、それは無理が・・・」「うん、分かってる。ただ私が問題にしたいのは、それが一般職員に対して犠牲を押し付ける形になる可能性があるかどうかで・・・」 とかなんとか話しながらウィンドウショッピングの真似ごと。とはいっても姉ちゃんと議論しながらなので全然見てないけど。 夕方の繁華街には結構な人混みがある。 そろそろどこで夕飯食べるか、適当な店を探そうかなって頃合い、ふと見まわすと前方になんだか見覚えのあるカップル発見。 金髪美女と黒髪の好青年。男はフォーマルな格好だが女性は適度に着飾ってる。年のころは20前後ってとこかな? いや女性の方はもうちょっと若いかな・・・うーん、どこかで見たような・・・ 腕組んでくっついて歩いてるしどう見ても恋人同士。「姉ちゃん姉ちゃん。」「なによ、どの店にするの?」「いや、あのカップル、なんか見覚えない?」「あんたならともかく私がミッドで知った顔なんて・・・あれ?」 歩いてる方向が同じなのでたまに横顔が見えるくらいなのだが・・・「なんだフェイトじゃない。」「ああ、言われてみれば・・・」「って! フェイトに彼氏!?」(あとがき)・意外な展開にはなりません。「やっぱり」という方向に行きますですw・改めて強調しときますが、オリ主でオリ設定満載の話ですのでご理解お願いいたします。・アリサinミッドで皆の現況説明後・・・エリオ編に行くかもって予定です。