マシュー・バニングスの日常 第二十六話△□年☆月□日 八神とフェイトさんがケンカした。 穏やかなウサギさんチックで、ケンカを仕掛けるなんて想像できないフェイトさんに・・・ニコニコニヤニヤ笑顔を作るのが得意で何を言われても平気で流せるタヌキ八神・・・この二人がケンカって・・・想像できん・・・ まずは八神側の事情を本人から聞くと・・・「フェイトちゃんがお見舞いに来てな。なのはちゃんの顔色が良くなったとか元気そうやとか満面の笑顔で気楽そうに言ってな。大体、そのへんからもうムカついとったんや。そんでベッドの上に上半身乗せて、なのはちゃんの膝の上に頭乗せてな、なのはちゃんに頭、撫でてもらって嬉しそうな顔して・・・なのはちゃんが一番大変なんやで? それを分かっとるのか分かっとらへんのか・・・ あからさまになのはちゃんに甘えて依存して頼って、何をやっとるんや逆やろうって話やろ? フェイトちゃんがお母さんの問題とか色々あって大変やったんゆうんは知っとるわ。そやから人に依存しがちで、特になのはちゃんに依存する傾向があるっちゅうこともな。そやかて、していい時と、あかん時いうんがあるやろ! まあそれだけやったらガマンできたかも知れへんわ。何せ、初めてや無かったし・・・いつもなんや! それとなく注意してみても全然! ぜんっぜん理解せぇへんし! そやけど・・・ それからフェイトちゃん、マーくんの悪口を言い始めたんや! なかなか会わせてくれへんかったとか・・・士郎さんと桃子さんについても、結局は上手くいったんやからそれやったら最初から会わせとけば良かった、マーくんは分かっとらんとか・・・リハビリかて相当きついそうやけど、マーくんはほんまにちゃんとリハビリしてくれとんのか分かったもんやないとか・・・ キレたわ。でもその場では何も言わんかったけどな・・・ お見舞い終わって帰るフェイトちゃんに声かけて、中庭に連れてきて言うたった。 マーくんがどんだけ頑張ってたか・・・どんだけ悩んでたか知らんのか! 自分も健康ってわけやないのに、寝食を削ってなのはちゃんのために治療計画を立てて、主治医の先生を押し切って士郎さんと桃子さんにもちゃんと話を伝えにいって! 学校もあるし他に仕事もあるのに、リハビリに疲れたなのはちゃんの体を毎日慎重にチェックして丁寧に治癒するの忘れたこと無いし! その間フェイトちゃんは何やっとったんや! グチグチと執務官試験に落ちた、マーくんが会わせてくれへんて文句言うだけで! 実際になのはちゃんに会えば、全然気ぃ使わんとベタベタ甘えるだけで何しに来とるんや! それでお見舞いしてるつもりなんか! フェイトちゃんは自分の感情だけでしか物を考えとらん! ほんまになのはちゃんのことを思って頑張ってたマーくんに文句言うなんて、ふざけんのもええ加減にせえ! って、思い切り言うたったわ。 すっきりしたわ~。 うん、全然後悔してへん。 フェイトちゃんが謝らへんのやったら私から許す気は無い。 あの子は、子供過ぎるわ。年から言ったら地球では相応なんかも知れんけど、ここはミッドやからな。同情したらん。 多分、何が悪かったんかも分かっとらへんわ。マーくん悪いけどリンディさんにでも連絡して、フェイトちゃんと話しするように言ってくれへんかな。そうでもせんと解決せんわ。 つくづくマーくんの判断の方が正しかったわ・・・フェイトちゃんは会わせるべきや無かったわな。 本音言うと、今でも会わせへんほうが良かったわ。フェイトちゃんは、なのはちゃんに依存して甘えるしかできへんねんから、それやったらなのはちゃんが健康に戻ってから会わせて、好きなだけ甘えさせてやったらよかったんや。それでまたなのはちゃんを潰して、死ぬほど後悔したらええねん!」 うう~ん。俺の味方になって怒ってくれるのは嬉しいのだが・・・まあ実際は俺もそれほどご立派では無かったわけで・・・いや、高町を治すことに集中してたのは本当だが・・・それで周囲への気遣いを忘れてた点も今になって思い返せば多々・・・ とかブツブツ言ってると・・・「せやから、それのどこがあかんねん! マーくんはほんまに頑張ってなのはちゃんを治そうとしてたし、今もしてる! 完璧や無かったなんて当たり前やろうが! 完璧に出来る人なんておらへんのや! せやのにその頑張ってるのを一方的に責めてええんか! そもそもフェイトちゃんがあんま頼りないからあかんのやろが!」 うう~ん、らしくないな・・・ あ~そうか、そもそも八神があんまり看護上手いんで、色々押し付けてやらせてしまって八神自身も大変だったのかも知れない。 しかもこいつも自分が大変だなんて外には全く表さないやつだし・・・ さて・・・どうしよう。 フェイトさんの方は・・・連絡取れなかった。俺からと分かると繋がらなかった。 ん~どうなんだろうね。これでフェイトさんが来なくなれば、また高町は余計に気を使うだろうし、だから結局フェイトさんには、また普通に見舞いしてもらうしか無いんだが、だからって同じ事繰り返されたらまた八神が怒りそうだし・・・ 話し合いが必要だな・・・ とりあえずリンディさんに電話して相談に乗ってもらう。「つまりですね・・・フェイトさんは高町のことが大好きだし、高町だってフェイトさんが大好きだ、それは間違いないですよ。でも、心身衰弱状態だった高町に、気を使わせたりは絶対にせずに、落ち着いて、安定した看護をフェイトさんが出来たかって言えば、その、正直言ってフェイトさんには難しかっただろうと思うんですよね。」「・・・そうね、フェイトならすぐに泣いちゃうわね・・・」「ですから高町がある程度容態安定するまでは、フェイトさんには見舞いを遠慮してもらったわけでして。・・・その際の俺の言い方も冷たかったかもとは思いますが、その判断自体は間違ってたとは思わないんすよ。」「確かにね。そこはしょうがなかったと私も思うわ。フェイトにまで気を使える状態じゃあ無かったわけだし・・・」「それで今回のケンカなんですが、つまりはフェイトさんが高町に・・・こうベタベタしてですね、甘えるみたいな感じで、どちらかと言えば高町の方がフェイトさんに気を使って甘えさせてやるみたいな・・・そういう状態だったそうなんすよ。それで、そういう状態になるのを苦々しく思っていた八神が、ついに切れてしまったわけでして・・・」「後でフェイトからも事情を聞くけど・・・多分言う通りだったんでしょうね。情景が目に浮かぶわ。あの子はなのはちゃん相手だと、そういう感じになりがちだしね・・・でもフェイトは、はやてちゃんみたいな、きちんとした看護なんて心得も経験も無くて出来るわけないし・・・」「ええそれは八神も俺も分かってますよ。別にそんなに高度な要求をするつもりも無いですし・・・」「・・・どうやらそれだけじゃないわね。他にまだフェイトが言っちゃったこととかあるんじゃない?」 鋭い・・・ていうかリンディさんに隠し事とか・・・もとから不可能か。 あんま言いたくないんだが・・・「え~と・・・つまりフェイトさんに最初、面会も禁止したのは間違いなく俺でして、その際の言い方もどうも冷たかったようでして、だからフェイトさんが俺に不快な感情を持ってしまったとしても、しょうがない部分もありまして・・・」「なるほど、分かった。フェイトがマシュー君の悪口言っちゃったんだ。」「あ~ま~端的に言うと。」「患者の前で医者の悪口を言うのはちょっと不心得過ぎるわね・・・それにずっと一緒になのはちゃんの看護をしてきたはやてちゃんとしてはマシュー君の悪口なんて許せなかった、か・・・うん、事情は分かったわ。」「八神も仕事あるのに、看護も手を抜かず、疲れていたのかも知れませんし・・・」 リンディさんはしばらく考えて・・・「とりあえずフェイトと話するわ。それでまた後で連絡するから。」「分かりました、お願いします。」「でもねマシュー君?」 リンディさんはクスリと笑った。「はやてちゃんのフォローはちゃんとするのよ? あの子にあんまり借り作ると将来怖いかも。」「は、はあ・・・」「それじゃマシュー君も体に気をつけて。またね。」 リンディさんはフェイトさんとじっくり話し合い・・・今の高町に甘えるような態度を取るのは高町の負担となりかねない、八神は高町にほんの少しの負担も与えないように細心の注意を払って看護してるのに、その目の前で高町に負担をかけるようなマネをしては八神が怒るのも無理はない、とコンコンと言い聞かせ、納得させてくれたようだ。俺のことも色々言ってくれたようだが、そこんとこは良くしらね。 俺の方は、八神も仕事に看護にときついんじゃないか、大丈夫かと気を使ってみたのだが・・・何を言うとるねん、今でも見た目だけでホンマは病気治っとらんマーくんに気を使われるほど落ちてへんわ、なのはちゃんの治療だけで手一杯なクセに私にまで気を廻してる余裕なんて無いやろがと反撃を食らい・・・いかん八神と議論しても絶対勝てないのかも・・・ とりあえず三日後には、リンディさんの仲介で、八神とフェイトさんは顔を合わせ、フェイトさんが分かってなかったと素直に謝ると八神も言葉が過ぎたと謝り、仲直りは出来たようだ。なんか俺にも謝ってくれたので、いやこちらこそ前は言い方が冷たかったよゴメンと言うことも出来て、なんとかわだかまりは溶けたかな・・・と思った。 んで、フェイトさんはまたすぐにお見舞いにやってきたわけだが。 今度は、前みたいな失敗はしなかったが・・・高町のために何かしようと病室の中で色々とバタバタして、意気込みは分かるんだけどさ・・・なんか空回りしてるというか・・・あっちに行ってものを引っくり返し・・・こっちに来てものを壊し・・・どうしても高町の方が、フェイトさんに気を使うような感じにしかならないというか・・・ それはそれで、二人は楽しそうではあるので、必ずしも悪くは無いんだろうけどさ・・・どうなんだろう・・・ フェイトさんが来ると高町の表情が明るくなる、これは間違いないんだわ。 でもフェイトさんが来ると、高町は気を使うし普段よりも疲れるんだな、これも間違い無くて・・・ 全くもってこういうことばっかだな・・・どっちも悪くないしどっちも正しいし、だったらどうするべきなのやら・・・ まあ心の問題にまで踏み込んで解決しようとか過剰に思うとロクなことにならんと学習したので、この件についてはなるようにしかならんと思うことにした。あ~でも結局、フェイトさんの空回りのフォローまで八神がさりげなくやってるし・・・いかん、また八神にばっかり負担がかかってる・・・八神には借りを作るばかりだな、なんとかせねば・・・ フェイトさんていい人なんだけど・・・困った人だなあ・・・ああ、そういえば高町もいいやつだが・・・困ったやつだし・・・ 似たもの同士の親友なのかね・・・ でもまあ、高町自身も今では心身衰弱とは程遠い状態だし、問題無い範囲かな~と思っていたわけだが。 だがこの後も、高町の厳しいリハビリを見るに見かねたフェイトさんが飛び出して手を貸そうとしたり・・・ 高町も相手がフェイトさんだと困って、本当は自力で頑張りたいのに仕方なく手を借りたりだなあ・・・ 療法士の先生とか俺とかがフェイトさんに注意しても、涙目で高町しか見てなくて話が通じなかったり・・・ それを見ていた八神が、後でフェイトさんを連行して小一時間説教したり・・・ なのに懲りないフェイトさんはまた来るたびに同じことをしようとしたり・・・ たまりかねてリンディさんに俺から連絡することになったり・・・ そんでリンディさんが今度は厳しくフェイトさんに説教したり・・・ それでまた俺が軽く恨まれてしまったり・・・ そのことに八神がまた怒ったり・・・ 早く高町を治さんことには身がもたん・・・「なあ八神・・・フェイトさんて、100%いい人だよなあ・・・」「間違い無いで。120%ええ子や。」「フェイトさんて頭も良いよな、聡明だし知識もあるし・・・」「そうやな。成績も良いし理解力も高い。」「なのにどうして・・・ああなんだろう・・・」「ほんまにな・・・」 親の愛情に恵まれなかったという点であれば八神はフェイトさんに劣らない。フェイトさんは何か特殊な生まれらしいが、だからって別に健康に不安があるわけでも無く、俺みたく半死人みたいな状態だったこともない。つまりは彼女の個性、優しすぎるほどに心優しいというのが彼女の性格であるというわけで、それはどう考えても悪いことでは無いのだが・・・ 結局フェイトさんにはリハビリ見学禁止令が下りました。リハビリ時間内に来ると受付に問答無用で面会を断られる状態となりました。普通のお見舞いまで、今度は療法士の先生に禁止されそうになったので・・・俺もどうかと迷ったけど結局フェイトさんを弁護して・・・限られた時間内だけの見舞いは許されるという状態になりました。でもそれは夕食後の30分くらいで、フェイトさんだって仕事があるのでそんなに都合よく時間を合わせられず、あんまり来れなくなりました。んでまた何故か俺が恨まれました。 いや、いいよ。いいけどさ・・・ とりあえずかなり長ーい間、なんか俺とフェイトさんは微妙にギクシャクしてしまい・・・ちゃんと解決したのは数年後・・・(あとがき)前回はユーノ編。今回はフェイト編ですね。駄目だフェイトにお見舞いさすとこういう展開にしかならない・・・フェイト好きなんだけどなあ・・・いい人なんだけど困った人・・・フェイトには本当に参りますた・・・