マシュー・バニングスの日常 第二十話△○年×月□日 時空管理局の次元航行部隊は本局と呼ばれ、通称は「海」。それに対してミッドチルダ首都防衛本部は本部と呼ばれ、通称は「陸」。本来はミッドチルダの治安を守る組織として陸のほうが先に出来たそうだ。ところがミッドチルダの勢力が広がるにつれて、最初は本部の一部門だった次元航行部隊が、どんどん規模が拡大して、事実上独立して、本局と名乗るまでになった。今では海の本局の方が圧倒的に規模も大きく力も強い。そしてどーも陸と海は慢性的に仲が悪い。 そういう派閥争いほどアホらしいものは無いとは思うが、人間の作る組織なんだから派閥が無いはずもないのだ。そんなに気にするほどのことでもないね。 まあとにかく俺はこれまで、海の方であっちこっち派遣されてきたのが多かったのだが、今回は珍しく陸の方に呼ばれた。 例のリンカーコア障害に関する論文、あの反響が大きかったのだ。船医ギルさんは海の方で引っ張りだこであり、ギルさん争奪で海のほうはリンディさんみたいな艦長クラスから、本局病院の幹部クラスなどまでが群がってケンカしてるらしい。 で、陸の方でもギルさんを呼びたかったのだが、海で既に争奪戦になってるので難しい。そこで一応、共同研究者となっている俺を、ガキであるから不満ではあるものの呼んでみた、というわけだ。 激しい魔法行使で、リンカーコアが慢性的に痛むような症状に悩む人は実は非常に多かった。しかしそれを治療する有効な方法は見つからず、せいぜい体を治療して、その痛みに耐えられるようにする程度しかされてこなかった。ギルさんと俺の共同研究の内容は、別にそれを根治する方法を見つけ出したというものではない。そんな方法があれば俺が知りたい。リンカーコアが原因で体にガタが来た時に、どういう順番で、どこを治療するのが効果的かという点を、多くの凡例と、俺自身の経験から抽出した具体的な方法論であり、それによって症状を大きく緩和することはできるというものだ。 地上本部の病院に赴いた俺の前に、まずは年とった偉そうな人たちが何人か来た。若い頃には相当無茶をやったしその頃は平気だったのだが、近頃は慢性的な胸の痛みがある、しかし心臓が悪いわけでもないし、やはりリンカーコア原因だろうとのこと。 年寄りなので慎重に調べ、さらに一人につき一時間ほどかけてゆっくりと治療。別にくすぐったがたっりはしなかった。俺の腕が上がったのか、年寄りなので鈍いのか、まあ後者だろうな。 一通り治療したあと、さらにもう一度調べてみて、微調整したりして。 その日はお年寄りの皆さんのケアだけで終わりました。 しかし爺さん婆さんたちは、体が軽くなったと大喜び。俺の手を握っていい笑顔を見せてくれた。 医者やってて良かったと思う瞬間である。 実際、ギルさんのほうが多くの元データを持っていて、知識としては俺よりも上だろうが。 治癒技術という点では、リンカーコア異常については体で覚えてる俺のほうがかなり上なのだ。 喜ぶ爺さん婆さんたちに、この治療は、今日体験してもらったように、本気でやるとなると時間がかかる。皆さんも出来ればまた後日、診察に来て経過を観察させてほしい、だからそんなにたくさんの人をこなすことはできず、俺が診れるのは一日に十人程度が限界である、ちゃんと丸一日休んで治療に来れる人を、予約制で診ることにしたいと話しておく。 爺さん婆さんたちは了承して、また必ず来るからといって帰って行った。 その後は、年上の同僚たちと、例の論文を題材にして話し合い、今日の治療のポイントなども説明した。 俺は特殊な探査能力で、超正確に患部を見抜いて治療するわけだが、それでは人には真似できず意味がない。ゆえにある程度、マニュアル化して、まずはここ、次はここ、さらにここ、というふうに順番に治していくルートが必要になる。論文に示されているルートと、今日の俺が実際に通ったルートの相違点、その理由などなど、話していると定時が来たので、また明日~ んで、なんだかんだで俺はそれから一ヶ月も地上に引き止められてしまった。なんか怒涛のようにやってくる患者たちの中には、知らないうちに結構な偉いさんも混じっていたそうで、なんとか俺をこのまま地上に取り込むことは出来ないかと上のほうでは結構マジに話し合いが持たれていたりしたとか。 これまで曹長待遇だったのを、気づいたら准尉待遇にしてもらってた。引きとめ工作の一環だったらしい。 俺は、これでまた高町さんをいじめられると喜んでいただけだったのだが。 まあ結局のところは、週に一回、確実に陸のほうに来るということで落ち着いた。 基本的に俺は臨時に呼ばれてあちこち行くのが多かったので、週一でも確実にいる、という状態は大きい意味がある。 しっかし若い人たちも、今は自覚症状がなくても将来はやばいだろうって人が多かったな。地上勤務は、特に前線部隊となるとかなりの激務らしい。海だと、結果的には意外と平和に済むロストロギア回収とかも結構多いのだが、陸は常に犯罪者が相手の戦いとなるのだ。疲労が取れない、いつの間にか視力が相当落ちてた、アレルギーがひどくなった、風邪を引きやすくなったなど・・・魔力疲労が原因で様々な症状に悩まされている人たちは、海よりも確実に多かった。△○年□月□日 地上本部からの帰り道のついでに、八神が今、滞在しているという聖王教会ってとこによってみた。来るのは初めてだ。 なんでも八神は罪を被って自ら消えた、夜天の書の管制人格、リインフォースの能力を継承した、新たなユニゾンデバイスを作り出そうと研究しているそうだ。八神自身が蒐集で蓄えた情報がなんちゃら、八神のリンカーコアをコピーしてなんちゃらとか専門的な説明をマッドな目つきでしていた。右から左に流して聞いてたけどね。 ちなみにユニゾンデバイスってのは、デバイスの中では実は最も古く、ほとんどロストロギア・太古の遺産に近いもので・・・展開するとデバイスと自分自身がユニゾン、融合して、すんごく強くなるとかなんとか。誰でも使えるわけではなく、八神だから使えるってもので汎用性は欠片も無いそうだ。 カリム・グラシアさんて美人のお姉さんと会った。美人だが、リンディさんみたく迫力のある人だ。教会の偉いさんだとか。 八神のことを相当可愛がってるらしい。こういう長身の迫力美人ってのは、八神みたいな小柄な子ダヌキみたいなコロコロした子を愛玩したくなるもんなのかな。とか言ったら八神が怒ったが気にしな~い。 カリムさんの横にシャッハさんて護衛みたいな女の人がいた。この人も相当無茶してるなあ。今はいいけど将来、絶対に体にガタが来るぞ。今のうちからケアしておかなくては年取ったときに後悔するだろな~と思ったので正直に言ってみる。 シャッハさんは現代のベルカの騎士で、聖王教会のなかの実働部隊の人だそうだ。俺の言葉にちょっとムカついたらしいが、俺が准尉待遇の軍医であると説明すると何かに気づいたようだ。「軍医で、マシュー・バニングス? もしかして近頃地上で評判になっていた・・・」「はいそうです、本人です。魔力の使い過ぎで来る諸症状にはちょっと詳しいですよ~」「なんと・・・若いとは聞いていましたが・・・」「勤務時間外ですが、八神が世話になってるそうなので、軽く治療しましょうか? 気づいてないんでしょうが疲労がたまってますよ。」「いい機会ではないですかシャッハ。ぜひ受けさせてもらいなさい。私も評判の治癒術を見てみたいですし。」 カリムさんの言葉で、シャッハさんは素直に、近くのソファーに横になった。 八神が小声で話しかけてくる。「マーくん、かまわへんから思い切りやったってな。」 なんかニヤニヤ笑ってやがる。「俺はいつでもきちんとやっている。手を抜いたりしない。」「うんうん、その調子で頼むで~」 シャッハさんは別に病気ってわけじゃない。自覚症状も無い。いわば「未病」の状態だな、東洋医学で言うところの。 でもこの段階で小まめにケアしておけば、この世から病気なんて無くなるんだが、まあ実際にはそうもいかん、と。 サウロンを展開して、シャッハさんの胸の中央、胸骨部分にあてる。 んで集中・・・ あ~やっぱ疲れ溜まってるなあ。全身の筋肉が鍛えられて鍛えられてさらに鍛えられて・・・ この調子で行けば、俺の予想では40くらいから自覚症状が出て、一気に体にガタが来るな。 鍛え上げた筋骨は衰えずとも、魔力中枢は自然に年を取り、滑らかに魔力を出すことが出来なくなり、心臓に来るかもだな。 似たような症状の年よりは、すごい多かったのだ。だから良く分かる。 循環器、消化器を中心に一通り・・・ついでに慢性疲労がたまってる筋肉もほぐしておくか・・・ ううむ硬いなあ・・・入念にモミモミ、モミモミ、ちょっと強引に・・・ よし、一通り終わった。 んで目を開けると。 シャッハさんは浅く息をついて、頬は紅潮しており、目はぼんやりしてる。 なんかカリムさんは気まずそうに目を逸らしている。 八神はニヤニヤ笑っている。「あれ~。大丈夫ですかシャッハさん? どこか痛かったりしましたか?」「い、いえ・・・そんなことは無い、無かったんですが・・・」「今はちょっと力入らないかもですが、すぐに戻ります。前より体が軽くなったと思いますよ。」「そ、そうですか・・・」 八神がいきなり話に割り込んできた。「はいはい、マーくん、ご苦労様。んじゃそろそろ帰ってな~。疲れてるやろから、教会の転送機使ってええから。」「なんだよいきなり。もう少し様子を見てからだな。」「ええから。マーくんの治癒の腕は良う知っとるから。ただ今はちょっと帰ってほしいねん。悪いなあ。」「なんか用事でも? まあそういうことなら。」「うん、そういうことなんや。それじゃマーくん、またな~」 部屋に残った3人の会話。「ふふふ・・・どうやシャッハ。腰抜けたんちゃうか~立てる?」「騎士はやて・・・知ってましたね・・・」「大丈夫、腕は確かやで。むっちゃ体が軽くなってると思うで。」「む・・・本当だ。これまで痛いとも感じていなかった部分まで全部治されたような・・・確かにこれは凄い。」「はやて、彼の治療は、その・・・いつもあんな感じなの?」「そうでもないって。今回は、徹底的にやるって言ってたから。なんやシャッハ、マーくんの好みやったんかもな~」「な! じょ、冗談・・・」「真っ赤になって悶えて、声だけは出ないよう押し殺してたシャッハ・・・むっちゃ可愛かったで~」「うぐぐ・・・」 マシューの腕は上がってたのだが、今回のように「未病」の状態の患者を癒す場合は、なんか余分な刺激を与えてしまうようだった。△○年××月□日 元アースラ船医、今では本局病院でリンカーコア障害治療部というところで働いているギルさんが会いに来てくれた。 俺も一緒に働かないかという誘いである。 互いの臨床経験やデータをすり合せて、より精密な治療ルーチンを作ろうという提案には心が動いた。「う~ん。どうしましょうかね。今は俺は週1で陸に顔をだす以外には、臨時で呼び出されてあちこち行ってる状態なんすけど。」「ああ。君の今の勤務状況は確認した。これは本局・本部の上の方も了承してる話なんだがな・・・」「なんです?」「週1で陸に顔を出してるのと同様、週1で本局病院にも来てくれたら、君の拘束期間はさらに短縮される可能性が高い。給料も上がる。あと、臨時に呼び出されることも、ほぼ無くなると考えてもらって良いそうだ。」「あらま。いい待遇ですね。」「まあ上としては、君みたいな優秀な若い医者は、無理やり義務で拘束などせずに、待遇を良くして自分から働きたいと思ってほしいというところだろうな。つまり実質勤務は週2だ。そして可能な限り早く、より徹底的な治療ルーチンの確立を目指して欲しいとのことだ。研究者待遇ってところが主かな。」「なるほど。悪くないっすね~分かりました。受けますよ。」 これ以降は、臨時であちこち飛ぶってことはガクンと減った。 海の病院で勤務、次の日は陸の病院で勤務、で、次の日は海の病院に付属してる研究所でギルさんと話し合いながら膨大なデータをまとめたりと研究作業、さらに教会からの出向要請を受けて、教会の病院にも定期的に出るって感じの日々になった。 勤務日は土日で、平日の放課後は研究したり、出張したり。 地球の学校の方は、金曜日を勝手に俺の休日にして休んでる。水木も基本的に仕事は入れない。 ちゃんと休むのは重要なことなのである。特に俺は体力に自信ないからな。 ギルさんは俺の体のことを良く知ってるので、相当、俺に気を使って、ゆったりと仕事もできるし。 ちょっと忙しいのは陸の病院くらいで、全体には前より遥かに楽になったな~ 仕事する場所が固定されると、その仕事場に自分の休める環境を作れるってのも大きいし。 つっても俺は前から基本的に休む権利のある日は全部休んでたみたいな勢いだったので、激務といえるほどの仕事してなかったけどね。 久しぶりに高町さんに会った。相変わらず前線でバリバリやってるらしい。「マシュー君! 私、空曹長になったんだよ!」「なに! いつの間に・・・ありえんだろうその昇進速度・・・」「ふふふ~♪ これでもうマシューくんにからかわれることも無いね!」「甘いな高町空曹長。これを見よ!」「な! それは准尉の階級章! そ、そんな・・・」 高町さんはorz状態になってしまった。「そっちも頑張ってるんだろうけど、こっちも頑張ってるんだな~。甘かったな高町さん。」「ああそっか・・・聞いてるよ、リンカーコア障害の治療法で・・・」「そういうこと。でもさあ高町さん・・・」「ん? なに?」「相当無茶してんじゃない? 気づいてないかも知れないけど、かなり疲労が溜まってるみたいだよ?」「え? そんなことないよ。どこも痛くないし。」「素人はこれだから困る。俺は医者だぞ。今の高町さんはギリギリだ。一回ちゃんと休めよ。」「う~ん。でもお仕事は楽しいし・・・」「今度、時間が取れるとき、一回ちゃんと診てやるから。暇な日ってない?」「えとね~地球の休日は大体、お仕事に出てるの。学校の放課後も大体、お仕事だし。学校を休んでお仕事に出る日もあるし・・・」「・・・ちょっと待て。それじゃあ完全休養日ってのが無いのか?」「でも大丈夫! 絶好調だし!」「いやちょっと待て。気づいてないんだろうがマジに・・・」「あ! また呼び出しだ! ゴメン仕事だから~」 あ~。 あれはやばい。 マジでやばいぞ。 ご両親に話すべきかな・・・んで強制的に縛り付けてでも休ませる、と。 しかしご両親も知ってて、それでも好きにさせてるわけなのか? わからんな。とても娘思いの、子煩悩なご両親にしか見えなかったのだが・・・どうなってんだ一体。「空のエース」って名前も売れてきたみたいだが・・・今のままだとどこかで折れるぞ・・・△□年×月□日「あれ? 今日は姉ちゃんと月村さんだけか。」 早朝のスクールバスでの会話である。「おはよう、マシュー君。」「おはよう、月村さん。」「・・・ねえマシュー。どうなってんのよ?」「八神は、なんか今、作ってるものがあるとかで今はそっちに集中したいってさ。新型のデバイスだったかな。あと、フェイトさんはそろそろ執務官試験なんだわ。今、鬼気迫る勢いで追い込みしてる。」「それは聞いてるわ。二人はまあ、いいのよ。問題はなのはよ。」「あ~やっぱり姉ちゃんも思ったか。」「なのはちゃん、働きすぎじゃないかな。」「フェイトとはやては、たまにまとめてミッドに行くときもあるけど、基本的には普通に暮らしてるし休みに一緒に遊んだりもするわ。あんたも病院勤務になってからは、余裕をもって仕事をして休みも多いし。でもなのはは・・・」「近頃、一緒に遊んだりもしてないの?」「うん、なのはちゃん、忙しいってばっかりで・・・」「おかしいわよ、あの子。聞いてみたらやってる仕事も武力鎮圧とか強行突入とか・・・そもそも子供がやる仕事じゃないでしょ!それをやらせる管理局もおかしいけど、それを嬉々としてやってるなのははもっとおかしいわ!」「全くね。でもまあ、例えば八神なんかは上級職の捜査官として言ってみれば官僚的な方向の勉強してるし、そういう方面に将来は進もうとしてる。フェイトさんが目指してる執務官てのは、戦うこともあるけど基本的には指揮官であり総合職。高町さんは・・・自分から希望して行ってるんだよなあ・・・武装隊に・・・。他の選択肢もあったはずなんだけど・・・」「ほんとに何考えてるんだか・・・一回ちゃんと話しようにも、すぐに任務だ仕事だっていなくなるし・・・」「マシュー君の目から見て、なのはちゃんはどうなの? 大丈夫そう?」「ううむ・・・はっきり言えば危ない。慢性疲労が蓄積されてるのに本人は気付いてない。一回、強制的に休ませる必要があると思う。その話をしようとしたんだけど、また仕事だって飛んでいっちゃってさ。」「マシュー。なんとかできないの?」「一回、高町さんの勤務状況をちゃんと調べて見たんだけどさ。義務としての出撃は、実は週3くらいしか無いはずなんだ。」「週3どころじゃないわよ、あの子。」「そう。高町さんが志願してるんだ、自分から。別に高町さんじゃ無くても良い任務にまで、手を出せる所には全部手を出すって勢いで志願して出てる・・・上の人としても、もうちょっと休めと言ってるそうなんだけど、本人が聴かないらしいんだ。」「なんでそこまで・・・」「それで、この前、上の人と話し合ってさ。来月の定期健康診断のとき、内容をでっち上げてでもドクターストップかけるって案に同意してくれた。だからそこで捕まえて強制的に休ませようと思う。」「やるじゃないマシュー! ナイスアイディア!」「でもさあ・・・多分、なんか心理的な問題だと思うんだよね。強制的に休ませることは一時はできるんだけど・・・多分、高町さんの心の問題が解決されないことには、同じ問題がまた起こるような気がするんだ。」「そうね・・・。」「ご両親とも一回ちゃんと話し合う必要があると思ってんだよね。娘の様子がおかしいって気付いてないはずは無いんだけど・・・」△□年×月□○日 今日は本局病院。 治療法もかなり確立されてきて、実践できる他の医師も増えてきたので俺の負担はかなり減っている。 しかし、やはりかなり重症の患者とかだと俺が直接に診る。 長年のツケが溜まって、心臓どころか全身にガタが来て、それでももとの肉体が頑強だから頑張ってガマンした末に、ついに担ぎ込まれてきた元管理局員のご老人を診ることになった。しかし長年の無茶で体は隅々までボロボロだ。 出来ることはほとんどなかった。少し、苦しみを和らげてあげるくらいしか・・・ もっと早く・・・せめて十年早くきてくれれば何とか出来たかもしれないのに。 色々と試してみたのだが、結局は、有効な対処法が見つからず。 ギルさんに立ち会ってもらって、ご家族に、手の施しようが無い、事実上、手遅れだと告げなくてはいけなかったのはつらかった。 本人は意識を取り戻すと、結構サバサバとした表情で笑ってた。少し楽になった、ありがとうといってくれたが。 そのご老人は、これは寿命だ、気にしないでくれと言って帰っていったが・・・俺にはそうは思えなかった。適切なケアを前から行っていれば、彼の寿命は少なくとも十年は延びたはずだし、余計な苦しみを味わうことも無かったはずなのだ。 落ち込んでいる俺にギルさんが声をかけてくれた。「マシュー。言い古された言葉だが・・・医者は神様じゃないんだよ。」「分かってます。分かってますけど・・・」「助けられる人もいる。助けられない人もいる。所詮、それが現実だ。」「はい・・・」「俺たちは、助けられる人を頑張って助ける。それ以上のことは出来ないんだ。」「そうですね・・・」 そうだな。せめて助けられる人だけは・・・助けていこう。 この日。 俺は病院で落ち込んでいた。 八神はデバイス作成に熱中していた。 フェイトさんは試験勉強を頑張っていた。・・・そして高町さんは・・・任務中の事故で重傷を負っていた・・・(あとがき)小5終わりくらいから小6くらいかと思われます。なのは負傷の日は・・・小6の一学期くらいを想定してますが細かい日時は突っ込まないで下さると幸いです。治療編は話がちょっと深刻になっちゃうなあ・・・と心配です・・・