マシュー・バニングスの日常 第十八話XX年X月X日 俺はミッド中央医の受験勉強で忙しい。実技はともかく問題は筆記だ。ひーひー言いながら勉強してる。同じ境遇であるはずの八神のやつはなぜか余裕そうだ。話を聞いたら特別捜査官候補生として推薦で行くみたいなことを言いやがった。なんでも八神の魔道士としてのランクが現状で既にSランクとかで、高町さんとかフェイトさんと比べてさえ、上らしい。なんつーデタラメ。 言ってみれば国家公務員試験をスルーしていきなり中央官僚としてのキャリアを始めるのが許されるみたいな話では? 魔道士ランクってのは、経験や知識を無視するほどの価値があるのか?と大変疑問に思ったので正直に言ってやる。所詮てめーもただのガキに過ぎない以上、マジメに勉強して少なくとも知識レベルは上げておかないと絶対に後で泣きを見るぞ、と。 ところが八神はその辺のことも分かってて、シャマルさんを専属教師にして勉強しまくっており、既に文系知識では俺は八神よりも遥かに下であることが判明してしまった。くっそう医学の専門知識の詰め込みをしてる俺とは分野が違うんだよ・・・ でも俺もシャマル先生の特別授業を受けることにしたけどね。シャマルさんいい人だ。 ちなみにシャマルさんと俺とで八神の下半身麻痺の治療をすすめている。闇の書が八神に負担を与えていた結果の魔力障害が麻痺の原因だったそうで、それが無くなったので自然に治る程度のレベルなのだが、まあ念のためだ。 フェイトさんは嘱託魔道士としての時空管理局への奉仕義務の期間が終わったあと、どうするか悩んでいるようだ。そうだフェイトさんと言えば、この前、正式にリンディさんの養子になった。めでたいことなのでみんなでお祝いした。今後の進路については、実際、フェイトさんほどに強力な魔道士は、管理局に入ればかなり優遇されるようで・・・このまま管理局で働こうかな、どうしようかなと悩んでいたが。まあマジメなフェイトさんには管理局は合っているような気もする。 ちなみにフェイトさんは4年生から同じ学校の同じクラスである。ちゃんと友達と一緒に学校に通わせて上げたいというリンディさんの親心だ。姉ちゃんも高町さんも月村さんも俺も同じクラスで、偶然なのかね、このクラス分け。美少女という点では姉ちゃんたちも負けてはいないが、なにせ姉ちゃんたちは強すぎる。フェイトさんの薄幸ぽい雰囲気と萌えパワーは一瞬でクラスの男子をノックアウトしてしまった。しかし本人は全くこれっぽっちも気づいてないのがフェイトさんらしいわ。 高町さんは本人の強い希望で、時空管理局武装隊に士官候補生として入隊した。正直、なにを考えてるのか分からん。俺は医者、八神は捜査官、フェイトさんも総合職に行くかどうかって話なのに、高町さんは武装隊。バリバリ実戦の最前線を希望・・・ 分からん、どう考えても分からん。なぜそんなところに行きたいのか・・・ やっぱ高町さんはおかしいわ。どっかおかしい。そんな確信を深めつつある今日この頃・・・ 身長は、同年代(ただし日本人男子平均)より少し高い、体重は同年代(ただし日本人女子平均)より数キロ重い。 それが今の俺の体格である。マシュー・バニングスなんて名前でなぜ日本人平均を持ち出すなどという突っ込みは無しで。 分かりやすく言えば姉ちゃんとほぼ同じ。ゆえに高町さん、フェイトさん、月村さん、八神よりも背は高い。 体重のほうは、俺は俺の方が重いと主張するし、女性陣は自分の体重などはっきり言わない。ゆえに不明であるが・・・恐らく、俺より確実に軽いのは八神くらいのものであろう。次点でフェイトさん。俺より実は重いのではないかと一番疑わしいのは高町さんである。仕事で近頃筋肉がついてきたみたいだし。 まだ八神と再会したばかりの頃は、少し病的な痩せ方をしていて、病気なのか病後なのかって感じだったが、近頃はなんとか、いきなり病気かと疑われることも無くなった。まだまだ痩せぎすではあるんだけどね。八神いわく「65点くらいにはなった」とのこと。 表面的には健康にも見える状態になったし、体調不良もほぼ無くなった。もともと全身の極度の衰弱だけが病気の症状みたいなもんだったので、特にどこが悪いということも無かったのだ。しかも俺は長年の入院生活で、衛生観念とか、病気への予防意識とか極端に高い。ちゃんと注意していればカゼなんて引かないもんだ。 とはいえ、それも全ては今の段階では、左手首に巻かれたリミッターのおかげだ。これに依存して、今の「偽者の健康」がある。 これを外せたとき、やっと本物になるわけだが、さてそれはいつのことか。まあ焦ってもしょうがないんだけど。××年○月▽日 試験は通った。思ったより簡単だった・・・というか実技重視だったなあれは。受験生のレベルと比べれば、俺の治癒魔法のレベルは特に実践的な技術の面では段違いに高かったようだ。筆記も悪くは無かったはずだと思うのだが、それにしても実技優先の印象が強いな。 八神も近頃は結構歩けるようにもなってきたし、そろそろ一回は向こうに詰めて集中教育を受けるか検討中だそうだ。 フェイトさんは正式に管理局に所属することにしたそうだ。今のところは特にスキルとか無いので、まずは武装隊に所属して経験をつみながら、クロノみたいな執務官を目指すといってた。そのための正式な訓練学校に行くとか。 高町さんは・・・前線でバリバリ戦ってるらしい。任務の呼び出しがあると嬉しそうな顔をして学校から抜け出していくのが怖い。敵は場合によっては非殺傷設定なんて気にしないような連中で、しかもそういう連中を強行鎮圧するような任務であるのに・・・ ちなみに武装隊ってのは管理局の本局に直属してる組織であり、そこから各部署に派遣されるという形になってる。次元航行艦隊の指揮系統とは別であり、艦に乗ってる武装隊員てのも派遣されて来てるのだ。まあ現場では現場指揮官の命令を聞くわけだが。高町さんとかフェイトさんの場合は今はリンディさんの計らいで、主にアースラに乗船してリンディさん指揮下での仕事をこなしているが、将来的には別の場所にも派遣されるようになるとか。 姉ちゃんと一緒に高町さんの家に遊びにいったところ、実は父親・兄・姉が同様な武闘派であることが判明した。特に父親の士郎さんは古流剣術の正統な当代の継承者?とか、本人も昔は物騒な仕事もしており・・・人の十人や二十人は軽く切ったことがありそうだった。お兄さんとお姉さんもその剣術を習っており、二人とも既に実戦経験があるそうで・・・なんつー物騒な一家だ、高町家。 血なのかな・・・多分そうなんでしょうね・・・と姉ちゃんと呆れながら論評した。全く呆れるほどに良く似た親子である。 母親の桃子さんは、あんなに穏やかないい人なのになあ。高町なのはは父親に似すぎてる・・・×○年△月○日 どーもミッド中央医は実践重視に偏ってるなあ。より優れた治癒術を研鑽することよりも、実際に戦場で負傷している人を、うまく治癒できるかどうかの方を重視してる。んでそうなると俺はかなり上手いので面倒だ。どんだけ実践治療が授業の中でうまくできたとしても、俺は体力に限界があり、しかもその上限は他の人よりも低いのだ。軽症程度の人を迅速に大量にこなすことこそが実践で要求されるスキルなんだろうが、俺はどっちかというと重症の人をきちんと治療するほうに向いてると思うんだけどなあ。 アースラ船医のギルさんから連絡があった。リンカーコア原因の魔力障害に関する治療法について、闇の書事件の経験を踏まえて、論文をまとめようとしているのだが、その草稿をまずは見て欲しいとのこと。俺が経験的に重視すべきだと分かってるポイントについて思い出せる限り指摘して、それを資料にまとめて、添削して送り返す。 八神は特別捜査官候補生としての勉強が結構忙しいらしい。フェイトさんの目指してる執務官は総合職で組織の中枢を担う人材、高町さんの武装隊はモロに前線実働部隊、それに対して八神の捜査官とは後衛で、本質的には指揮官候補生って感じのもんらしい。執務官は前線での総合権限を持つのだが、特別捜査官はそれらを監察する権限を持ち・・・実際には上の立場らしい。 どーしててめーがいきなりそういう立場に立てるのだと小一時間、詰問してやったのだが、八神に言わせれば別にわざとではない。そう結局の所は、ランクとやらなのだ。9歳で、既にSランクの八神は、上に立てる。AAAランクの高町さんとかフェイトさんも、好きなところを選べる、年上の人がたくさん部下になるような場所でも。 あーなんか絶対間違ってるなーどうなってんだ魔法至上主義ってのは全く・・・ 幸い、医者はパワーではなく技術が重要な職分だ。こっちはこっちでやるしかないな。 ただまあ八神は、前線指揮官である執務官等に対する指揮権や監査権を持つことは出来ても、前線自体の指揮はあまりできないような役回りになるだろうってことなのだが、にしてもねえ。×○年×月□日 いつものように八神と悪態をつきあっていたら、騎士ヴィータがなんかいちゃもんをつけてきた。前々から俺の八神に対する態度が気に入らなかったそうだ。意外とシグナムは俺と八神がホントに仲が良いって分かってたんだが、ヴィータは見た目どおりの子供っぽい精神を持っていて、わかっちゃいるけど気に入らないそうだ。しかし殴り合いをすれば俺はマジで死ぬのでヴィータの気に入るような騎士っぽい振る舞いなんて不可能である。八神のやつはニヤニヤしながら見守ってやがる。この野郎、止めやがれ、俺は殴りあいになったら速攻で死ぬぞと言ってるのに平気なツラである。男らしく勝負しやがれというヴィータに、無茶を言うな俺が心臓悪いのは冗談なんて一欠けらもなくマジだぞと言ってるのに聞かない。 ヴィータはシャマルに結界を張らせて、ハンマーを取り出して騎士甲冑を展開して、見るからにマジである。そこで俺はサウロンを展開して展開と同時にシャマルの結界を破り、さらにヴィータをその格好のまま夕方時で混んでいる近くのスーパーマーケットの中に瞬間転送してやった。10分後に真っ赤になって八神家に駆け戻ってきたヴィータ。この野郎マジメにやりやがれと、今度は素手で俺を殴ろうとするのでまた瞬間転送、今度は八神の家の庭の木を思い切りぶん殴る位置に飛ばしてやった。なんとヴィータは普通に素手で木をぶち折った。あんな凶器を俺に向けてたのか。次は手加減抜きだ、海の中に直接転送してやると決意したところで八神のレフェリーストップが入った。 木をぶち折ったのを怒られるヴィータ。俺にもなぜか怒り出す八神。理不尽である。シャマル先生からは、あんなに簡単に結界を破られたのは初めてだ、そうかあの時、結界を破ったのは俺の仕業かと今になってやっとばれた。シグナムからも大した腕前だと褒められはしたものの、正面から戦わないのは男らしくないと説教された。だから無茶言うなってば。 八神いわく、「フェイトちゃんから聞いていた。本気になったマーくんを殴るのは無茶苦茶難しいと。だから簡単にはやられへんやろうと思っていたが予想以上やわ~」。 ザフィーラは「正面から戦うのを旨とするベルカ騎士とは最悪の相性の・・・正にミッドの魔道士だな。近づいて殴ろうとしても全部かわすわけか。あの時、お前が前線に出てこなくて良かったよ。」といってた。 ヴィータはシャマルと相談して、俺の転送封じの方策を検討しはじめた。無防備に近づけばいきなり転送されるなら、それに対する防御プログラムをあらかじめ組んでおけばとか結構マジに議論してやがる。 ヴィータ「いつか絶対にきれいに一発入れてやるからな!」 だが断る。全部避けてやる。 ちなみに守護騎士たちはベルカ聖王教会ってとこに戦い方を教えにいったり、管理局の仕事で出張したりと結構忙しいようだ。 珍しく4人とも八神の家にいたある冬の日の出来事であった。(あとがき)小学校4年くらいを想定していますが5年にも差し掛かってるかも知れません。年月日が全部伏字なのは・・・前後に矛盾無く完全に時系列を一致させる自信が今の段階では無いためでございます・・・一年で一話くらい? 話によってはもっと? とかその辺もどんなペースになるか不明でございます・・・