マシュー・バニングスの日常 第十六話「八神の体調が悪化して入院?! 具合はどうなんだ?! 命に別状は?!」 八神は下半身麻痺はしていたものの、それ以外には特に問題は無く、俺と違って本格的な入院などほとんど無かったはず。せいぜいが検査入院で・・・その八神が倒れた?「・・・知ってる子なの?」「病院で良く会った・・・一緒にゲームしたりさ・・・あいつが倒れたって・・・」「そんなに深刻な容態じゃないと思うわよ? 友人の面会が許されるくらいだし・・・」「そっか・・・そだよな・・・」「マシュー、知ってる子なら心配するのも当然だと思うけど・・・あんたの場合は例の犯人に襲われたら命にかかわるんでしょう?」 既にそのへんまで姉ちゃんには知られていた。「うん・・・」「とりあえず私たちがお見舞いに行ってみて、どんな具合か確認してくるから・・・ほんとに危なかったら連絡するから。今は大人しく待っててくれない?」「そう・・・だな。うん分かってる。頼むよ姉ちゃん。」 八神はいつでも元気に車椅子に乗って(妙な表現だが)、病院で俺を待っててくれてるような気がしていた。俺にとっては間違いなく八神と過ごした時間は大切なものだったのだ。それが失われるかもしれない、という可能性を聞いて・・・俺はかなり動揺した。 だからって自分の命にかかわるような無謀な行為はするわけには行かない。そんなことをすれば何よりも姉ちゃんが泣くし、八神だって俺がそんな行為をしたと知ったら怒るだろう。 少年漫画の主人公なら、それでも万難を廃して無謀な挑戦をするところだろうが・・・ 俺はそんな無謀なことは・・・絶対にしないしできない。 そういうわけで見舞いに行けなかった俺は、やきもきしながら待ってたんだが。 その時、八神の見舞いにいったのは姉ちゃんたち3人組に、地上に遊びにいってたフェイトさんも含めた4人。 4人が病室に入ってみると・・・なんと守護騎士シグナムと守護騎士ヴィータがいた・・・ 必死に探していた相手と、まさかの場所で鉢合わせ・・・高町さんもフェイトさんもさすがにうろたえたらしい。 なんかギスギスしてる高町さんとフェイトさんを無視して、月村さんは普通にお見舞いしてたらしい。姉ちゃんは、なんかあるなと気付いたらしいが、そんなそぶりは見せずに見事な社交術で場を取り成して見せたらしい。 そしてそのうち自然に八神は、姉ちゃんに気付いた。直接に話したことは無くても病院で何度も顔を会わせていたのだ。「あれ・・・? アリサさん? もしかしてアリサ・バニングスさん?」「ええそうよ。」「あ! あの! マーくん、いやそやなくてマシュー君は! 今どこにおるんですか! 大丈夫なんですか!?」 そのときの八神は必死で、守護騎士たちが落ち着かせようと駆け寄ったくらいだったらしい。「落ち着いて。大丈夫、マシューは意識を取り戻したし、回復もしたわ。もうすぐ帰って来れると思う。」「ほんまに! ほんまに大丈夫なんですか!?」「敬語はやめてよ。はやて、マシューが帰ってきたらすぐにお見舞いに来させるわ。(妙な妨害が入らなければね・・・)」「そっか・・・良かったぁ・・・」 八神は泣き顔を枕で隠した。「意識不明になって・・・人工呼吸器までつけて・・・もうあかんかと思って・・・回復したんや・・・よかったぁ・・・」 姉ちゃんは思わず八神の肩を抱いた。「ありがとう、マシューのこと心配してくれて。あなたも大変なのに・・・」「ううん。うちは倒れたのなんてせいぜいこれで何回目って感じやけど・・・マーくんは一年に何十回も倒れて担ぎ込まれて・・・マーくんは、俺のほうが歩けるだけマシだ~とか言ってたけど、ほんまはまともに歩けへんくらい弱ってて・・・そんで今度こそはあかん、って思ってもうて・・・」「じゃあ会ったら驚くわよ。今のマシューは背も伸びて、体重も増えて、見違えるくらい元気になってるから。」 その言葉に、やっと八神は笑顔を取り戻した。「え~ほんまに? 想像できへんわ~。あの、うちに腕相撲で勝った事も無いマーくんがな~信じられへん。」「多分、腕相撲は今でも微妙かもね・・・なんとか肉はついてきたけど、まだまだガリガリだし。」「そ、そんなことないよアリサちゃん! マシュー君、近頃は結構筋肉もついてきたみたいだし。ねえフェイトちゃん。」「え? えええっとそうかな、うん、きっとそうかも!」「フェイトちゃんて正直なんだね・・・」 共通の話題である俺を出したことで場はなごみ、4人はしばらくしたら帰って行った。 ところが帰り道に、シグナムとヴィータがついてくる。 高町さんとフェイトさんは、姉ちゃんと月村さんを先に帰らせて、改めて向かい合う。 とりあえず、後で分かったんだが・・・ 実は八神が闇の書の主だった。半年くらい前に、闇の書は目覚めて守護騎士たちが現れた。これは俺がミッドに入院してる時期だな。で、異常に適応力の高い八神は、魔法とか闇の書とか細かいことはどうでもいいからと置いておいて、孤独だった自分の家族になってくれと守護騎士たちに頼んだ。主にそういわれては従うしかないのが騎士で、それから何ヶ月かはのんびり暮らしていたらしい。しかし八神の体調が悪化した、原因は闇の書らしい。解決するには闇の書に魔力を貯めるしかない。騎士たちは、今となっては心から家族であると思うようになった八神のために蒐集をはじめた、八神に隠れて・・・ で、ここで話をややこしくするのは、ギル・グレアム提督っておっちゃんだ。彼は多くの犠牲を出した悪名高い闇の書が、地球の孤独な少女、八神はやてのもとに転生して現れたことを誰よりも早く知っていた。彼はなんと外道にも、八神一人を犠牲にして闇の書を封印する計画を独自に立てた。具体的には八神が闇の書を完全起動させるのを待ち、八神と闇の書が融合した瞬間、凍り付かせて封印して、次元世界のどこかに捨てるという計画だったらしい。闇の書は魔力が満ちて完成すれば、まずは主を取り込み暴走を始め、世界を滅ぼすものであるそうな。 騎士たちは、八神の体を治すために魔力蒐集を続けていたのだが・・・それは最終的には、世界を滅ぼすほどの結果になったというわけなんだが・・・この場合、誰が悪いんだか・・・なにもしなければ八神の麻痺は全身に及び死に至った可能性もあった、それを回避するために騎士たちは蒐集活動を繰り返し・・・一つの世界を滅ぼす可能性を持った闇の書を封印するために、一人を殺すということをギル・グレアム提督は躊躇無く決断し・・・ 後で事情を知った俺の感想は、正直言って・・・「単純な悪者などいない」という単純な感想だった。 誰もが自分の信じるベストを目指して頑張っていた。目指していたものも悪などとは程遠いもので・・・ リンディさんたちも頑張って闇の書の主を捕らえようとはしていたが・・・んじゃ捕らえた後、安全に闇の書だけ封印するって方法があったのかといえば微妙なのであって・・・ そして守護騎士たちについて言えば、最終的に闇の書が暴走するという点については、もとから情報を欠損していたらしい。そう、つまるところは暴走ロストロギア「闇の書」の掌の内で操られていたということか・・・ さて起こった事態をありのままに記してみよう。 まず、高町さん・フェイトさんと、ヴィータ・シグナムが向かい合って何か言い合っていた。 そのときに、緊急転送反応が二体確認された。 前からアースラでは徹底マークしていた仮面の男の二人組みだ。 しかし二人組みは何故か、八神の病室に現れた。手には闇の書を持っており、それを八神の方に近づけた。 そして八神の目の前で、シャマルとか言う守護騎士が書に吸い込まれた。 このとき同時に、ヴィータ・シグナム。さらに八神の家にいたザフィーラという守護獣も吸い込まれたらしい。 二人組みは目の前でシャマルが消えて動揺する八神に、さらになんか妙な魔法をかけた。 後日の取調べによれば、精神干渉系の趣味の悪い魔法で、相手に悪夢を見せるものだったらしい。 八神の心を絶望で一杯にして・・・闇の書と融合させ、そして融合した闇の書を封ずるつもりだったそうだ。 しかしこの話し聞いたときは、グレアムさんの目的自体は否定できない部分があるにしても、やり方がマジ最低だと思ったものだ。 そしてこの瞬間、クロノが転送と同時に、転送前から組み上げていた捕縛魔法で奇襲。 仮面の男たちは闇の書に集中していて、奇襲をもろに食らった。ざまあみろである。 クロノの捕縛魔法は、特殊拘束「ストラグル・バインド」とか言うものだそうで、束縛と同時に相手の魔法行使を封じる強力な上級捕縛魔法であったそうだ。そしてそれにかかった二人は、いきなり女の子に変身。いや変身魔法が解けたのだ。 見てた俺は結構驚いたのだが・・・その女の子二人を見たクロノは表情を曇らせ、リンディさんもモニターを見ながら、「やっぱり・・・」と苦々しくつぶやいていた。グレアム提督の使い魔だったそうだ。 この瞬間、確たる物証を抑えることに成功し、グレアム提督の違法行為が明らかになったわけなのだが・・・ まあそれは置いといて。 クロノが女の子二人を見て、表情を曇らせた、その一瞬の隙に・・・ 八神と闇の書が融合した。 ていうか、闇の書が、溢れ出た闇の固まりみたいなのになり、その中に八神が入り込んでしまったのだ。 そしてそこから何が起こったのか・・・ 余りにも怒涛のようで・・・ 正確にはわからんことも多い。 ただ俺にとって肝心なことは、展開された結界の中に、事故で姉ちゃんと月村さんが巻き込まれてしまったことだ。 二人は、高町さんとフェイトさんに言われたくらいで、なにかいわくありげな状況で素直に帰るような性格はしていなかった。 強く意思を持って、高町さんたちのところにいく! と思ってた二人は結界の中に入り込んでしまった。 1%以下の確率で起こるとされている結界事故だ・・・このタイミングで起こるとは・・・! なんかドンパチやってるようだが、関係あるか? 姉ちゃんのすぐそばに魔法の流れ弾とかが炸裂してる! キレた。 なんかリンディさんが叫んでいたような気がするが全く耳に入らなかった。 リミッターを外す。 アースラ船上から、直に姉ちゃんのいる位置を「見る」。 瞬間に転移。 状況を確認。 最悪だ、姉ちゃんと月村さんに同時に流れ弾が向かってきてる。 なら姉ちゃんだけ助ける。俺にとっては選択するまでもない当然のこと。 しかし姉ちゃんは「すずかを助けなさい!!!」と俺を月村さんの方に突き飛ばした! 「バ、バカ!」 一人なら転送で確実に助けられたのだ。 中途半端な位置で体勢を崩して、これでは二人とも助けられない! 防ぐしか無い! 防ぐならシールドだ! しかし俺のシールドは紙だ! うすっぺらな紙を砲撃の前にさらしたところで意味は・・・ いや待て。確かに紙一枚なら指でも破れる。 しかし十枚重ねればどうだ? 百枚重ねればどうだ? 千枚重ねればどうだ? 幸い、俺の「サウロン」の杖は極度に高い情報処理能力を持ってる。 限界まで使って、百枚、千枚、一万枚の紙を、同時に展開してやる! 「シールド同時展開!」 くそっ。もともと防御は苦手だ。同時に展開できるのは100枚程度が限界か。まだ足りない。 100枚の後ろにさらに100枚、さらに100枚、さらに100枚・・・・ 800は行ったと思う・・・やっと防げたわ・・・ これで流れ弾かよ・・・つきあいきれん。 今度は有無を言わさず、まず姉ちゃんをアースラに転送、続けて月村さんを転送っと。 ちょっと安心して気が抜けた。 例によって血を吐く。 胃と、喉も破れてんな。これならまだ動ける。 ドンパチやってるすぐそばに転移。 なんだあれは八神か? いや外見は違うんだがなんとなく・・・ 思い切り叫んでやった。「てめえ八神! 大概にしとけよ! とっとと何とかしろ! お前が当事者なんだろが! このまま死にでもした日には、てめえの墓には『バカな仔狸ここに眠る』って刻んでやるからな! マジでやるぞ! はやく起きろこのバカ女!」 で、攻撃が来る前に転送で逃げてやった。ふん、俺自身を転送する分にはほとんど瞬間なんだよ、遅い遅い。 アースラブリッジに転移して・・・姉ちゃんの顔を見た瞬間、気が抜けた。 四肢から力が抜け、血を吐きながら倒れ伏す。 ここで俺の意識は途切れた。(あとがき)大きい事件は片付いて、次は後始末編。進路相談とか説明とか再会とか。あ~A'sも終わっちゃうなあ・・・