マシュー・バニングスの日常 第一話 姉ちゃんは美人だ。まだ9歳だけど既に美人だし将来も美人になること間違いなしだと思う。 姉ちゃんは頭が良い。既に小学生のレベルを超えていて、親父の会社を継ぐための経営学まで勉強しはじめてる。 姉ちゃんは運動神経も抜群である。たいていの男子よりも足は速いし力も強い。 で、俺の方だが・・・ 俺は地味である。生来の金髪に整った容姿を持つ姉ちゃんと違い、ほとんど黒に近いダークブラウンな髪と目を持ってる。よ~く見なくては絶対に黒では無いとは分からんと思う。まあ日本では目立たないから良いのかもしれんが。顔立ちは姉ちゃんと似てる部分もあるんだろうが、俺は姉ちゃんと比べればちょっと痩せすぎていて・・・もうちょい肉が付けばもしかしたらとは思うが。 俺は大して頭が良くは無い。比べる相手が姉ちゃんでは分が悪いにも程があるというのが本音であるが、まあ同学年と比べれば十分、頭が良いほうではあろう。しかし、実は既に大学レベルの学問に手をつけ始めていて、小学校には付き合いで出てるだけみたいな状態の姉ちゃんとは・・・比較にならんね我ながら。 俺は運動神経については・・・運動以前の問題である。生まれつき心臓が弱いらしいのだ。たまに痛む。不整脈はしょっちゅう。一年のうち半分は寝込んでいる。さらにそのうち半分は入院している。食欲は慢性的に無い。ゆえにガリガリである。骨と皮。意外と背丈だけは姉ちゃんより高いのだが、姉ちゃんより体重が軽いというのが笑えない事実である。たぶん、俺の骨ってスカスカなんだろうなあと思う。体は弱い・・・というより、はっきりいえば慢性的病人であろう。両親は金持ちなので、カネにものを言わせて世界中の病院をまわってきたが、結論としては「不治」。いつまで生きていられるかも分からんらしい。 だからって変に運命を恨むこともないだろう。金持ちの両親の子供として生まれることができたからこそ、こんな体なのにのんびりと暮らして来れたわけだし。 美人の姉ちゃんが「俺の分まで頑張る」って頑張ってる姿を見るのは、裏表とかなく、ホントに嬉しいし。 しかしまあ・・・今の調子だと、俺って、二十歳くらいまででも生きられるのかなあ・・・とボンヤリ考えるだけの毎日を俺は過ごしていたわけだ。 生まれたときからこういう体の人間というものはだねぇ・・・「健康に走り回ってる状態」というのを経験したことが無いからこそ、別に現状をつらいとも思わないのよ。持っていたものを失えばこそ、惜しむということもできるわけで、持っていたことがなければ、羨ましいとすら思えない。ただ違うのだと納得して、諦観するのみなのよねえ。 まあ諦めているみたいなことを言ってしまうと、姉ちゃんが泣いて怒るので言わないけどさ。 自己紹介がまだだったかな。 俺の名前はマシュー・バニングス。 姉の名前はアリサ・バニングスという。 ちなみに双子である。 全然似てないけどね。 さて、寝たり起きたりを繰り返しながら、それなりに平和だった日々がいきなり途切れたのは、3年生になってすぐくらいのことだったと記憶している。俺も一応、姉ちゃんと同じ学校、同じクラスに所属はしているが、なにせしょっちゅう休むので、日にちの感覚は薄くて、正確な日時は分からない。 俺の眠りは、常に浅い。熟睡というのも健康でなくては出来ないことで、俺は多少の気配がするだけですぐに目覚める。夢というものも見たことが無い。俺は昏睡して意識不明か、目をつぶって何とかうつらうつらする程度か、どちらかの状態しかないみたいだ。このことを姉ちゃんに話したことがある。また泣かれたが・・・ 「なんでも話せ! 隠し事はするな!」と強要するくせに、素直に思っていることをいうとすぐに泣くのである。困ったものだ。 その夜、俺は夢を見た・・・ような気がした。はじめての経験で、それなりに嬉しかったのを覚えている。 はるか上空・・・宇宙空間か、それより高いところを船が通っていた。 その船はSFに出てくる宇宙船のように思えた。 その船の一部が、いきなり爆発し、そこから次々に船が壊れていった。 そして船から20個くらいの光る石が飛び出して、この海鳴市に降り注いだ。 石を追うようにして、同年代くらいの男の子が船から飛び出し、墜落するような勢いで地表に向かってきて・・・ そこで目が覚めた。 夢ってのは変なものなんだなあ・・・と思いながら、目が冴えてしまったので灯りをつけて、サイドテーブルの上の水差しをとって水を一杯飲んで、さっきまでの夢を反芻してみた。 宇宙船の形とか、よく思い出してみようと目を閉じると・・・ おかしな感覚に気づいた。 なにかおかしなものが・・・市外全域にバラバラに落ちている? さっき夢に見た石のような、不思議な力を感じさせる何かが、大量にある? 距離にして数キロから数十キロ、かなり正確に感じ取れる・・・多分、近づけばさらに正確に分かる気がする。 なんとなく面白くなって、さらに精神を集中してみる・・・と、まるで意識が際限なく広がっていくような不思議な感覚とともに、海鳴市の範囲を超えるほどに、自分の「センサー」のようなものが広がり、例の奇妙な石の位置が俯瞰図から見下ろすように正確に把握されていった。 石の一つが妙に光っている・・・それに注目。 何か、光が強くなり、しかし同時に濁りが混ざり、しかも近くに人がいるような・・・ もっと細かく見よう・・・と意識を集中したところで。 いきなり心臓が激しく脈打った。 手足から力が抜ける。 サイドテーブルにもたれかかり、水差しが落ちて、深夜の静寂を破る。 しかし俺は、その音を気にすることもできず、床に崩れ落ち、半ば意識が朦朧としたまま、荒い息をつくしかできない。 全身が虚脱し、心臓は激しく脈打ち、呼吸は激しくなるが同時に浅くなる。 薄れていく意識の中で、最後に見えたのは、必死に涙をこらえる姉ちゃんの顔だった・・・ 翌朝のとある小学校での会話。「あれ? アリサちゃん休みなのかな? すずかちゃん、なにか聞いてる?」「病院に寄ってから来るんだって。昨日の夜、マシューくんの具合がまた・・・」「そうなんだ・・・そろそろ学校に来れるくらいになるって、先週、嬉しそうに話してたのにね・・・」「そうだね・・・早く治るといいね、マシューくん・・・」「というわけで、妙な夢を見たんだよ。」「へー。ほんまに妙な夢やなぁ。」 飽きるほどに見慣れた病室で、病院仲間の八神とダベる。八神は下半身が麻痺していて、まともに歩けた記憶が無いそうだ。定期的に心臓が暴動を起こして担ぎ込まれてくる俺とは顔馴染みで、いつの間にか親しくなってた。八神も心臓が痛むことがあるそうで、俺はまだ歩けるだけマシかと思う。「それはどーかなー。私、マーくんと違って、マジで動けなくなることってあんまないしな。」「地の文に突っ込むな。あとマーくんはやめい。俺だって、マジで動けなくなることなんて一年に何十回かくらいしか・・・」「それだけでも十分やがな。うちはそんな経験、これまでで2~3回くらいしかないしなぁ。」「今年はまだ十回に達していない・・・俺も健康になってきたもんだ。」「笑えんなぁ・・・そのジョーク。」「おっし! 入ったー! 油断したな八神! このまま決めてやる!」「あああ卑怯や!」「ふはははは。金髪マッチョのアメリカ人のくせに八極拳を使うなどというわけわからんキャラはボコボコじゃ!」「それがええんやないか! そんなひょろいジャッキーもどきのコンボなんて・・・」「7、8コンボ・・・しまった途切れた!」「甘い! 浮け!」「なんの防ぐ! そんな大技当たるか!」「はいそこで下段から崩拳やぁ!」「ぐはああああああ。」 鉄○シリーズを通じてコンスタントに強いキャラを使う八神。どちらかといえばトリック系キャラが好きな俺。二人ともゲームくらいしかやることがないような境遇なので腕の差は無い。そうなるとどうしても八神が勝ち越してしまうのだ。「おのれ・・・チャンピオンでリベンジだあ!」「ふ・・・プロレス技にこだわるマーくんのタイ○ーマスクなんて怖ないわ。」「言ったな八神! 今度こそグラウンドのフルコンボを決めてやる!」 ○拳の激闘を続けるうちに検査の時間が来た。んじゃまたなーと八神と分かれる。 くそう・・・また負け越した・・・(あとがき)あんまり激しく戦うような展開には全くならないまま・・・バニングス弟の闘病記が続きそうな話でございます。第三者視点から、エースたちを見守るような流れで行くと思われます。ご意見、ご感想をお待ちしております。