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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 09 女王蟻の女王 前編
Name: BA-2◆63d709cc ID:515c5899 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/07 17:31
幻想立志転生伝

09

***冒険者シナリオ4 女王蟻の女王***

~いろんな意味で運命と出会った日 前編~

《side カルマ》

ようやくランク認定試験の傷が癒えた俺はちょっとした旅に出る事にした。

シスターから買い込んだ情報を元にちょっとしたお宝を探す事にしたのだ。

その名を"ザンマの指輪"と言う。


え?どんな効果があるのかって?

別料金で聞いた所、自分に残存している魔力を元に光り輝くんだとか。

要するに、残存魔力を光の強さでお知らせしてくれるって事だな。

だから残魔の指輪。

まあ、純粋な魔法使いにとっては別に必要無い物らしく、地下洞窟内部に放置されてるとの事。


俺としては剣も魔法も捨てるのは勿体無いと言う事で、別方面のアプローチである。

無い物は外から補う。それが魔術師だと誰かがどこかで言ってた気がするし。


んで、これもまた別料金だったんだが在り処は"蟻の洞窟"と言いまして。

巨大な蟻がわしゃわしゃと存在するこれまた巨大な蟻の巣だったりする。

以前の持ち主がそれを指にはめたままこの蟻の巣の女王を退治しに来て返り討ちにあったらしいので、

きっとどこかに指輪をはめたままの白骨死体があるのだろう。

それを見つけ出すのが今回の俺が俺に依頼したミッションである。


……デカイ、マジデカイ。


いやー、体高だけで三メートルの巨体を筆頭に一番小さいので親指程度の蟻がうろうろ。

明らかにこっちを見てやがった個体も居るし、もう準侵入者扱いだろうなこれ。

まだ蟻の巣の入り口も見つけてないのに何この異常なテリトリーの広さ。

人類最強の男に異星人の技術使った武器でも渡さなきゃ殲滅は無理だと思うぞこれ。

こんな奴ら相手にどうしろというんだ……あれ?


何か集落があるぞ?

色んなもので作られた分厚いバリケードで囲まれてる。

蟻が集団で突っ込んで来るのに合わせ、火矢とか魔法とかで応戦してる。

はて?こんな所に村があったっけ?

地図に載ってないよな。うん、無い。

まー、行ってみりゃ判るか。


……。


「ようこそ新入り。対クイーンアント・クイーン戦用キャンプへようこそ」


なるほど、ここはあの蟻の巣を攻略する連中が築いたキャンプなのか。

賞金首のポスターを見ると、あの蟻の巣の女王には金貨1000枚もの賞金がかけられている。

一生遊んで暮らせる大金目当てに何人もの猛者が集まり、

それが何年も一進一退繰り返してるうちに村と化していると、そういう事らしい。


それにしても冒険者とか傭兵とか色々居るもんだ。

中には一角を完全に占拠してる何処かの国軍までいる。

なんでまた?あー、訓練の一環?そりゃまたご苦労様な事で。


だけどまあ千人近く居ると思われる屈強な野郎どもでも落とせない蟻の巣って何さ?

有り得ないんですけど。

まあいいか。別に俺は討伐依頼受けてる訳じゃ無し。

しっかり情報集めてから乗り込んで、指輪だけ見つけたらおさらばだしな。


と、高を括っていた頃が俺にもありました。


「連合軍による総攻撃?」

「らしいぜ兄ちゃん?魔王打倒から30年近く経つがまだあの洞窟は落ちない。だからさ」


要するに業を煮やした各国のお偉いさんたちが軍を集結させて一気に叩き潰すと。

そう言う事か。うん、じゃあそれに合わせて……いや待て!


そういう状態で別な奴に見つけられたら終わりじゃん!

もし買うとしたら金貨10枚じゃ足りないとか言われてなかったか確か。

まずいなこれは。それに何千と言う兵が押し寄せたら指輪自体が何処にあるか判らなくなる可能性も高い。


「総攻撃は何時なんで?」

「来月末らしいぞ」


余り時間はないか。食料と水を買い込んでさっさと出かけよう。

幸か不幸か同じような考えの連中が何人かキャンプから出て行っているらしい。

うまく協力するなり利用するなりしてこっちの目的が果たせりゃ良いけど。


……。


時折出会う蟻の集団を上手くやり過ごしながら、俺は件の蟻の巣までたどり着いていた。

大地に開いた大穴と、その周囲の蟻と人の死体。

白骨化したものから今さっきまで生きていたような物まで様々だが、ここが激戦地である事は間違いない。

幸い総攻撃の事を知ってそれより先に賞金を得ようとする者が何人も突撃して行ったばかりなんだろう。

入り口が無人である事は俺にとって何よりのアドバンテージであるといえた。


ご丁寧に縄梯子まで下ろしてあるその入り口に足をかけ、大地の奥に進んでいく。

松明に火を灯して暫く進むとまた蟻の死骸。蟻の死骸。蟻の死骸。そして人の遺体。

生きている者が居るのかといった感覚を思わず受ける。


そして、更に下へと進む坂道で俺は異様なものを目にする事になった。


「なんだこれ。氷の滑り台か?」


地下二階、と仮に呼称する本日二つ目の地下への坂道は分厚い氷に包まれていた。

別に寒い地方でもないし、地下とは言え自然に氷が張るにはまだ気温が高過ぎる。

誰が何のためにこんな物を作り出したのかはわからない……いや、そうでもないか。

無数の蟻が氷の下に閉じ込められている。

複眼がこちらを睨みつけている?まだ生きてる奴も居るのか。

という事は人間側の仕業だという可能性が高いな。

まだ奥に誰か居るという事だろう。

俺は足を滑らせないように慎重に下へと降りていく。


そして再び地下迷宮。時折幼虫や卵の部屋も見つかるがおれ自身はそれを無視する。

余り脅威だと思われても困るし、今回の目的にもそれの破壊なんてものは関係ない。

何より幼虫の死骸がゴロゴロとしていた部屋の真ん中で、

何人かの冒険者が無残な姿になってるのを見てしまっては、

例えやる気があっても躊躇してしまうだろう。

だが、その光景はある事を俺に教えてくれた。


……蟻の連中、こっちの動きを把握してやがる。


どうやってとかは考えるだけ無駄だろう。

問題なのは俺という侵入者を向こうが察知しているだろうという事実だ。

幼虫や卵に手を出さなかったのは幸いだったな。

単独行動で被害もまだ出ていない故に脅威としてみなされていないのか。

それとももっと大きな獲物を狩るのに忙しいのか、そのどちらかと思われた。

何にせよ、目的の指輪をさっさと見つけないと俺も蟻の餌にされてしまう。

急がないとまずそうだ。


更に地下を進む。一体何階層降りてきたかもう判らなくなってきた。

俺が物陰に隠れる先を巨大な蟻の集団が移動している。

しかも明らかに組織化された動き、とでも言えば良いのだろうか?

なんと言うか知性を感じられる行動をするものが増えてきたように感じる。

さっきもさなぎを咥えた1m級の蟻と鉢合わせたが、

こっちが剣だけ抜いて様子を見ているとじりじりと後退して、一気に後ろを向いて逃げて行った。

もしかしてあれか。子供の世話の途中か?

そんでもってあれか。明らかに非戦闘要員を逃がしてるのか?


「ち、ちくしょう!やられてたまるか!」


お、視界の先に広間。そして何人か冒険者が居る。

さっきのさなぎ咥えた蟻がざっくりと切られた。

別に邪魔になるわけでもないし、ほっときゃ良いものを。



って……うわっ!?

上から一杯降ってきた!?

でかいのから小さいのまでわらわらと!

群がられてる!視界の全てが蟻で埋まってますよ奥さん?

擬音的にはごわごわごわごわって感じ?

そして骨だけが残されてる。

えげつねぇ。洒落にならねぇ。


あ、こっち見んな。それも一斉に。

滅茶苦茶怖いから。


とりあえず後ろ歩き一歩、二歩、三歩。

がさがさがさーっと。

凄ぇや。壁を伝って一気に撤退しやがった。

流石は蟻だ。あの巨体で90度の壁をすいすい登っていきやがる。


うん、出来るだけ戦闘は避けよう。


それと幼虫とかにも決して手出ししないようにしよう。

勝てる気がしねぇ。

戦いは数だよ兄貴!って真理だよなぁ。

なんて言うかあれを倒しに来た連中にちょっと同情する。


とか何とか言ってる内に、なんか今までで一番広い場所に出たんだけど?

え?松明?そんでもって玉座?宝物?そして……部屋全体を覆うようなこれは卵管ですか?


『良くここまで来られたものよな人間。ほれ近う寄りゃ?』


んでもって、向こうでおいでおいでしてるのは……件の蟻の女王様ですかそうですか。

ヤバイ、もしかして探し物見つけられない内に最深部に進入しちまったか!?

それにしても上半身は人型で下半身は蟻型?

まさしくこれがファンタジーだな。普通居ねぇよこんな生き物。

まあ何にしろ行かなきゃならないよなぁ?

何せ、特別屈強そうな兵隊蟻が腐るほど壁に引っ付いて居るし。

その上俺の背中を急げやとでも言わんばかりに突っついてるしなぁ。

あー、泣きてぇ。


……。


百人は入れるんじゃないかと言うくらいの大広間。

十数本の松明が薄暗く照らすその奥にそれは鎮座していた。

顔はまさしく美人さんだ。ただし複眼で触覚持ち。

下半身から部屋全体に伸びる卵管は少し中が透けていて、

卵が量産されているのが良く判る。

何このボスの間?別にここに来る予定なんか無いんだけど。


『お主等の一族にも困ったものじゃ。人の家に勝手に入ってきて荒らして行きよる』

『俺は探し物をしに来ただけですんでお気になさらずに。それじゃあこのへんで』


三十六計逃げるにしかず!

こんな所に長居出来るか馬鹿野郎。

人類全体の負債を背負わされる前にさっさと撤退、撤退!


……うん、無理。

唯一の出口を数百の大群が塞いでやがります。

出口が蟻で文字通り塞がれてますが一体どうしろと?


『待たりゃ。わらわ達の言葉が理解できるとは珍しいの。それで探し物とはなんぞや?』

『ずっと前に入り込んだ奴の落し物でザンマの指輪って言うんですけどね?蟻の女王様』


『ああこれか。指にはめるとピカピカ光って綺麗よの?』

『あんたが持ってたのかよ!』


ジーザス!

ボスキャラのドロップ品かよ!?道理で何処にもないわけだ。

もう少し入手難易度落としちゃくれないもんか?

いや、ゲームじゃないんだから探し物の有用性と入手の困難さが比例なんてする訳無いんだけどさ。

だからってこれは無いだろう?

何て言うか今の俺、蟻の捕虜みたいなもんではない?

それでどうやって手に入れろと。


まさかあれか。

口先三寸って奴か。

幸いコイツ等に被害を与えた記憶はないし、

今なら交渉で何とでもなるのではないか。

よし、そうと決まれば話は早い!


『つまりお主は泥棒と言うわけじゃな?』

『あー、はい、まあそういうことに、なりますな。は・は・は』


そういえばそうだね。向こうからしてみりゃ不法侵入者か。

何ていうか既に周囲を取り囲まれてますが。

うん。多分もうすぐ"者どもかかれ!"とか言われるんだろうなー。


『残念じゃが見せしめの意味もある。ただで返すわけにもいかんの』

『た、ただのこそ泥に死刑は厳しすぎるんじゃないですか?』


『ふむ。ではこうしよう。こやつ等の囲みを抜けてわらわに一撃入れられたら生かして返す。指輪もくれてやりゃ?』

『MA・ZI・DE!?』


『うむ。久々に面白い事になりそうよの?』

『そういう事なら大歓迎。後悔するなよ女王様!?』


おお!こういう展開か!?

暗闇の中から一筋の光明が見えた気分だ。

よぉし、俺様大活躍→指輪ゲット→安全に脱出→ミッションコンプリート!

そんな華麗かつ素晴らしいコンボを決めてやるぜ。

え?向こうが約束守らなかったら?

その場合の事は後だ!とりあえず考えない!

まずはこのゲームに勝つほうが先ってもんだし。


では戦力比分析を開始。

味方、
俺一人。

敵、
3メートル級兵隊蟻 多分200体くらい(壁に張り付いてるのも含む)
2メートル級羽付蟻 (オスだと思う。多分親衛隊) 10体か11体
1メートル級働き蟻 うぞうぞしてて数なんてわからない。入り口を物理的に封鎖中
ちっこいの      数えるのも馬鹿らしい。無数。たかられたら多分アウト


これはなんと言う絶望。

かかって来いやと言わんばかりに顎をガチガチさせてる奴までいるし、戦意は旺盛だなー。

100人は入れる広間って表現したけど、今はもう壁が見えてない。


でっかい蟻の上にちっこい奴がたかってて、天井から時々間抜けな奴がぽたぽた落っこちてきている。

恐らく虫に耐性無い奴なら既に失神してるだろう。

何この黒い絨毯および真っ黒壁紙+漆黒のシャンデリア。

死ぬの?もしかして俺ここで死ぬの?


『どうした?来ないならこっちから行かせりゃ?』

『今暫しお待ちを!』


こんなのが一斉にかかって来られたら俺は間違いなく死ぬ。

何より精神が持たん。

急げ。向こうが待てる内に脳細胞を全力回転させろ。

考えろ、相手を出し抜ける必勝の策を思いつくんだ!


……。


あ、思いついた。

見てやがれ。ドギモ抜いてやる!


『それでは、覚悟を決めて特攻します』

『そうかそうか、てっきり絶望して固まったかと思ったぞ?』


『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』

『ふむ。初撃としてはまずまずじゃが一匹二匹燃やしても……なんりゃ!?』


ぐわああっ!予想以上だぞこれは!?

だが、意表を突くのには成功。

そのまま一直線に突っ込んでもわらわらと避けていく。

速攻で飛びついてきた通常サイズのチビどもは残らず即刻黒こげだ!


『まさか己自信に火を付けるとは!正気かお主!?』

『相手の予想しない事でもしないと、虚を突くなんて出来る訳無いだろうが!』


全身に火が回り酷い火傷を負っている事だろう。

けどよ?どう考えてもあの状態から逆転するにはこれしかないと思った。

野生の生き物は火を怖がる傾向があるし、

鉄の皮膚と化して突っ込んだ所で、鼻や耳から大量に侵入されたらその時点で積みだ。

そもそも物量で突撃を阻止されるだろうしな。

故に、向こうから避けて通る方法を考え付いたというわけだ。


『さて、親衛隊までさっさと逃げたぞ?約束は守ってもらうぞ!』

『うむ!もしわらわに一撃でも入れられたのなら約束は果たそうぞ?』


既に俺と女王の間に障害は無い。

蟻の女王も脇に立てかけられた剣や槍を抜き放つ。

向こうは余裕だが、考えてみれば俺がここで女王を殺したりしたら間違いなく向こうの残党に殺される。

死ぬ事は無いという余裕なんだろうか?


『もっとも、気付いておらぬ以上お主はここまで来れんがの』

『え?』


突然、側面からの衝撃に跳ね飛ばされた。

な、何かがわき腹に突き刺さってる?……とんでもなく太い、針?


『お主等は知らぬかも知れんがわらわ達……蟻と蜂は親類での?』

『毒針くらい持ってるってか?そんなの反則だ!?』


『おほほほ、勉強不足じゃ。まあ、良い勝負ではあったが。残念だったの?』


俺の胴体ほどもある卵管が蛇のように鎌首?をあげている。

その先には牛乳瓶程もある極太の針が。

一度引き抜かれたそれが俺目掛けて再び降ってきた。


あれが動くのかよ!?それこそ反則じゃないか!?

いや違う、勉強不足……指摘どおりだな。

時間に焦り、急いでこちらに向かいすぎた。

あれだけの規模のキャンプが常設されるほどの相手が居るんだ。

どんな能力があるのか。どういう規模の相手なのか。

例え一日だけでも調べ上げてから来れば何か判ったかも知れないじゃないか。

だから、この敗北は必然。

ここで俺の冒険が終わったとしても仕方ないのだろう。

……全く、欲と焦りで馬鹿な事をしたもんだ。


衝撃が数回。そして意識が薄れていく。

このまま俺は目覚めることなく終わるのだろうか?

いや、何故かそうは思わない。

まだ終わらない。そんな確信めいた予感がする。

何故かって?

意識を失いつつある俺を顎で掴み上げたアリがさ、甘噛みだったんだなこれが。

多分このままだと生きたまま蟻の餌にされるんだろうけど……。


兎に角今は眠っておこう。

目覚める前に食い殺されたら向こうの勝ちだ。

けど、その前に目を覚ましたとしたら?

そうだ。まだチャンスはあるんだ。

そう信じようじゃないか。


……。


どうやら、おれは、かけに、かったようだ。

まだ、いしきは、うわのそらだけど。

すくなくとも、おれはまだ、くわれてはいないらしい。


……さて、ここはどこだ?


首を満足に振れる状態ではなかったため、必死に瞬きをして意識を覚醒させる。

ふむ、何かの粘膜の中かここ?

俺は天井から吊るされた粘膜の袋から顔だけ出している。

その中に胎児のように丸められて入れられている訳だ。

うん、イメージ的にリュックサックから顔出す子猫って感じ。可愛げが足りないのは認めるが。

要するにここは餌置き場なのだろうな。

そんでもっていずれ蟻の群れがこの中から新鮮なお肉をいただきますと。

……OK、それまでに脱出だ。

だが、何とも頑丈な粘膜だ。むしろ繭みたいな気もするが、どちらにせよ身動き取れないのは同じ。

普通なら、獲物が目覚めても身動き取れないままご飯にならざるを得ないと。酷い話だ。


しかぁし!俺の場合は勝手が違うぞ。

両手の指は……良し何とか動く!

それじゃあさっそく……俺自身を燃やすのはもう勘弁なので、

この粘膜を吊っている部分目掛け火球(ファイアーボール)を発射。

よし、燃えろ燃えろ。


どさりと地面に落ちました。

ここも洞窟の何処かなんだろうが……まあ移動するのが先だな。

地面にズリズリとやっているうちに粘膜の袋は次第に破けてきている。

これなら一時間以内に脱出……あつ?


あ、熱い!?

うわっ、さっき燃やした部分から火が回ってきてる!?

嘘!これって凄まじいレベルの可燃性物質っていうか油的な何かなのか?

ヤバイ、マジヤバイぞこれ。

粘膜は体に密着してるし……全身に油+火?

もしかしなくてもこれは、すぐに火達磨!?

ちょっと待て!待たなくてもこれはマズイ!マズイぞ!?


……。


《side ??????》

故国マナリアを発って早数ヶ月。私に冒険者が務まるかと心配もしたが、取り合えず何とかやっていると思う。

学園から貰った一年間の留学期間中に資金を集め、

かつ魔法使いとして何らかの成果を上げなければならないが、これならどうにかなりそうだ。


我が家が没落さえしなければ良かったのだが、それを求めるのは酷という物。

お父様は我が家を維持するだけで精一杯。

私自身の授業料と使用人達の給与位は私が何とかせねばならないだろう。


授業料の納付を待ってくれている学園には感謝の言葉も無い。

資金を作る時間と手段を得る為に国外留学と言う名目で国を出たが、その試みは取り合えず成功したといえる。

私と我が家を馬鹿にする事しかしない学友や目の敵にするだけの幼馴染と顔を合わせなくても良いのもありがたい。

そして、私を哀れんだ目でみる町の人達とも。


国の外に出てもやはり世間は厳しかった。

ただ、故国のように不条理な扱いを受ける事は減ったように思う。

実力があればきちんと相手はしてくれるし、

私だからと言う理由で入店を断られたりもしない。

ただ、人の醜さという物を直視させられる事が増えたのはどうにかならない物だろうか?

いやらしい目をした人は余りに多いし、お金に汚い修道女に出会った時などは何の冗談かと思ったほどだ。


そして今、私はまた見るに耐えない光景を目にしている。

この人に一体何が起こったのだろう?


「ぐああああああっ!熱い!燃える!そして痛い!」


生きたまま拘束され燃やされるなんて人間のやる事とは思えない。

かと言って火を使うのは蟻の仕業とも思えない。

取り合えず助けるべきだろう。感謝もされずに逃げられたとしても別に困る訳ではない。

万一、逆に襲い掛かって来るような恩知らずなら消し飛ばすだけだ。


……。


《side カルマ》

全身を炎が覆う。熱いとか熱くないとかそういうレベルはとうの昔に飛び越えた。

何の冗談なんだか、俺は自分の炎に焼き殺されようとしてる。

蟻にとっ捕まって何とか逃れたと思ったらこのざまだ。

……あー、前世の分も含めて走馬灯が。

よりによって走馬灯がアニメですかそうですか。どんだけオタだったんだ俺?


ん?歌が聞こえる?

遂に幻聴まで聴こえるようになっちまったのかよ?


けど何が悲しくてこんな洞窟の奥地で母さんが蛇の目でお迎えする歌が聞こえるんだよ?

ぴちぴちでもちゃぷちゃぷでも良いけど雨が降るんなら降ってくれ!

ランランじゃないよ?俺死んじゃうよ?アヒャヒャヒャ!


……。


何でか知らないけど俺の周囲で蒸気が上がってる。

そして洞窟の中なのに雨が降っている。


「降雨(レインコール)」


ささやく様な声がする。

俺は炎に巻かれてから必死に閉じ続けてきた目を開けた。

ゆっくりと、探るように。


「もう、火は消えた」


そして見上げた先にあったのは一人の魔法使いの姿。


大きなつばの付いた三角帽と小柄な体格には大きすぎる分厚い皮のマント。

その内側にはクリーム色のブレザーとチェックのプリーツスカート。

その上ハイソックスから絶対領域が覗いているような学生さん仕様の割りに、

足元だけは長旅用の革のロングブーツを履いている。

因みに顔立ちは端麗、極めて整っております。何このあざと過ぎる美少女?


「コレナンテエロゲ」

「言葉が通じない」


いやいや見た目の可愛さを語ってる場合じゃないだろ俺。

向こうはどう考えても命の恩人だぞ?

とりあえず礼の一つも言うべきだろう常識的に。


「あ、有難う。俺はカルマ、見ての通り冒険者だ。今回は本当に助かった」

「私はルーンハイム。気にしないで」


そういい残し彼女はさっさと奥に行ってしまった。

思わず追いかけようとして、激痛が走って思い出す。

まだ全身大火傷のままだよ俺。


洞窟奥の暗闇に消えていく三角帽を目で追いながら、

現状はまず死にかけの自分を何とかするべきだろ気持ちを切り替える。

どうせなら治療までと思わんでもないが、通りすがりにそこまで求めるのは無理ってもんだ。


急いで治癒を発動させながら、自分の状態を確認する。

うん、武器も荷物もそのままだ。

焼けてしまった物も多いが、まだいける!


そんな風に気勢を上げていた俺であったが……何処とも判らない洞窟の奥に、

ただ一人取り残されているという絶望的な事実に気付いたのは、

それから数十分後の事だったりする。

続く


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