城を散策していると、なにやら騒がしい声が聞こえていた。
「なんかあっちの方が騒がしいな」
今にして思う。なぜ放って置かなかったのか。
7話 松の廊下?
「貴様なんと言ったー!」
なにやら叫んでいる惇さん。
いや、8割あの人叫んだりしているけどね。
対するのは荀彧の嬢ちゃん。
「まったくこれだけ言ってもわかんないの?」
こちらもイライラしている。
いや、嬢ちゃんは普段からイライラしているけどね。
隣で静観している淵さんに尋ねてみると
「あぁ、それがな・・・」
聞いていれば分かると言った顔で二人に顔を向けている。
「だからあなたは馬鹿だって言うの」
「なにっ!もう一度言ってみろ!」
嬢ちゃんがなにやら惇さんに喧嘩を売っているらしい。
嬢ちゃんは軍師として優秀だから無意味に相手を貶めるようなことはしないだろう。
話を聞いていると嬢ちゃんは惇さんに『突撃ばかりするな猪』と言っているらしい。
まぁ、惇さんはその誰にも止められない突撃が売りだからなぁ。
そこを否定されたら痛いかも。
嬢ちゃんの持論は『相手の思考や心理を読んだ戦術、戦略による策を用いて予定調和により勝利する』だった。
まぁ、戦略や戦術はたしかに戦に勝つ上で重要だからなぁ。
惇さんは『戦は生き物だから思考の読み合いでは予定調和の勝利など存在しない』
と反論した。
まぁ、勝負は時の運とも言われるし、すべて予想道理には行かないし、策を使って逆に痛い目に遭うって話しは珍しくないからね~。
なんだか、二人の言い争いがだんだんヒートアップしてきた。
「それこそ視野の狭い脳みそ筋肉がいいそうなことね」
おぉ、ここまでいえるのは魏の中でも曹操さんかお前くらいだよ。
「だ、誰が脳筋かー!!」
ちょっと!!剣に手を掛けましたよ。武人が剣を抜くと言うことは闘うことを意味する。だからこそ武将は戦や訓練の時以外ではそうそう剣を抜くことは許されないのだが・・・
必死に惇さんを押さえに掛かる。
「惇さん!!殿中!!殿中でござるー!!」
気分は松の廊下である。そう言えばこの世界だと娯楽少ないのか。脚本とか小説書いたら売れるかも。
背中から押さえると惇さんはぴたりと動きを止めた。
あれ?いつのなら力ずくで振り払われるのに?
「いつまでそうしているのよ、変態!!」
嬢ちゃんが鬼の形相で怒鳴ってきました。
なんで?俺あなたが斬られそうになったから止めたのに、その人から怒鳴られるってどんな理不尽ですか?
「そ、そそ、そうだぞ!!まったくいらぬ横やりをいれおって!」
あれ?何で俺が怒られてるの?俺争いの仲裁に入っただけだよね。
でも、二人が怖かったから素直に謝ったけどな!!
ヘタレとか言うな!!あの二人を敵に回したら肉体的にも精神的にも殺されてしまうわ!!
なにやら城があわただしいです。
何か朝廷から黄巾を討つように言ってきたらしいですが、朝廷はどんだけ事態に把握が遅いんですか?そりゃ滅びるはずだわ。
しかし、これで大手を振って大規模な軍を動かせるらしい。
会議してたら嬢ちゃんが慌てて中に入ってきた。
まぁ、この場合十中八九悪い知らせと決まっているけどな。
「今までにない規模の黄巾が現れたとのことです!!」
やっぱりなぁ。
しかも、聞いた規模の大きさから察するにそれを纏めれる指揮官クラスの奴がいるってことか。
しかも間の悪いことに、最後の物資搬入が終わるのは明日の払暁、兵達には休むように言ってあるから本隊がすぐに動くことは不可能か。
「今すぐ動かせる隊は?」
そうするしかないよなぁ。
「当直の隊と最終確認のために残っている隊はいるはずです」
「秋蘭、それらを率いて、すぐに先遣隊として出発なさい」
「それとその補佐に太史慈と許緒が着きなさい」
まぁ、妥当な人選か。惇さんは護る戦は苦手だからなぁ。
「「「了解」」」
「後発部隊もすぐ送るから撤退の判断は任せるわ。春蘭、明日の払暁には発てるように準備なさい。」
ここら辺の指示と決断の早さはさすが曹操さんだな。
では、出発の準備でもしますか。
向かった街にはすでに義勇軍が柵を作り戦の準備をしていた。
その義勇軍のリーダーらしき3人がこちらに挨拶してきた。
「我らは大梁義勇軍。黄巾の横暴と闘うために立ち上がりました。」
なにやらすごく真面目オーラを出している子が挨拶してきた。
何でも楽進、李典、于禁という名前らしい。
そろいも揃って魏の優将ばかりがこうして揃う踏みしていると、なんだかこう。激しく自分が場違いな気がしてくるのは気のせいでしょうか。
なんか出番を間違えた俳優の気分です。
この三人組簡単に言うと、武士、ドリル、ギャル。と言う感じでイメージしてくれるとわかりやすい。
後、李典。『天を突くドリル』ってそれは穴掘ったりする方達のセリフですから。1800年ほど先取りしてますよ。
楽進は俺の『風林火山』の旗に見とれながら、部下にしてください!!って跪かれました。何か心響く物があったらしい。
于禁はなぜか語尾の『~なの』は妙に感にさわったのでアイアンクローで寝かしました。いたらイライラして作業が進まん。
そんなこんなで夜を徹して5段重ねの防柵を作りました。
おそらく春蘭のことだから急いでくるだろうが半日はもたさなきゃダメだな。
伝令に余力を残してこいと言って走らせる。
どうやら張角はいないようだ。少し残念だがいたらいたらでこれ以上の数にふくれあがって手がつけられないしな。
俺の役目は前線にいる小隊や中隊規模の指揮官を見つけ出し狙撃すること。
なにしろ数ではこちらが圧倒的に不利だ。だとしたら指揮官クラスを倒し、前線で混乱して貰おうというわけだ。
混乱すれば敵の行動は味方同士で邪魔になり、動きが鈍る。
今の敵は黄巾ではなく時間だ。
時間さえ稼げば勝ちはこちらに舞い込んでくる。
しかし、数に押されてだんだん柵が壊され始めている。
兵を走らせ逃走の経路だけは確保するように命じる。
楽進が単身で突っ込もうとするのを諫めたり、こちらも急場しのぎの連携にズレが生じてきた。
「もし最後の柵までたどり着かれたら、わたし、楽進、李典、于禁は自分の隊を連れて撤退。殿は太史慈隊と許緒隊に任せる」
淵さんの発言に楽進たちは反対している。『自分たちも戦える』『自分たちだけ逃げることは出来ない』とまぁこんな感じだ。
うむ、若いなぁ。はっきり言って客将は傭兵と同じような物なのだからやばくなったら殿や足止めは普通なんだけどねぇ。
淵さんも淵さんで申し訳なさそうに見てくるし、人がよすぎるって言うのも損だなぁ。
「はいはい。口論はおいといて、ここでの最高指揮官は淵さんなんだから指示に従いなさい。義勇軍とはいえ軍隊なら命令を聞くのが仕事だって分かってるだろ?」
全くそろいも揃って殿をつとめたら死ぬみたいな目で見るなっつの。
それに
「救援が来たみたいだから大丈夫だろ?」
喧噪の中にかすかに鳴り響く銅鑼の音。
さすが曹操さん。まるで謀ったのようなタイミング。
ついでに救援隊より飛び出して一騎駆けしてくる馬鹿は間違いなく惇さんだろう。
敵の本隊を一騎駆けで抜けてくるなんて普通は無理だと思うけど、やるんだろうなぁ。
リアル三国無双。
人ごみに埋もれてもどこにいるか分かるよ。だってそこだけ人が飛んでるもの。
なんですかあの戦略兵器。
ほんとにここまで抜けてきましたよ。
前より数段強くなってるように感じます。
「無事か!秋蘭、太史慈!!」
心配してくれるのはありがたいのだけど、その返り血で汚れた姿はある意味味方の志気にも関わるから着替えような。
外の黄巾も先ほどの惇さんの一騎駆けで総崩れになったのかあっさり勝てました。
ゴチン!!
「馬鹿ですかあんた!!救援隊を率いているのに自分1人で一騎駆けするなんて魏の将軍としての自覚を持て、この大馬鹿者!!!」
絶賛おしかり中です。いや助けてくれたのはうれしいのだけれどあんな無茶されたらこちらの心臓に悪すぎる。もし万が一討ち取られてでも見ろ。せっかく勝ちの見えた戦いが台無しになってしまう。
チートなのは分かったから、もう少しこちらのこととか考えて欲しい物だ。
1刻後・・・・
やばいです。絶賛後悔中です。
拳骨入れちゃいましたよ、あの惇さんに。首とかはねられるかも。逃げる準備とかしたほうがいいかな。
「そんなことをすれば、それこそ姉者は地の果てまでお前を追うだろう?」
え、淵さん!!
もう藁にも縋る思いだ。
「助けて淵さん!!今度何かおごるから!!」
「まぁ、仕方がないな。ついでに姉者は何か燃え尽きたように真っ白になって『燃え尽きた・・なにもかも真っ白に』と放心していたぞ。」
うわー、これは元に戻ったら戻ったで怖いな。
「まぁ、まかせておけ」
と頼もしい笑みを浮かべた淵さん。
もう神に祈るしかないよ。
1刻後
曹操さんから集合の命令が来ました。どうしよう。いきなり斬りかかられるかも。
もしくは、曹操さんに首を刎ねられるかも。
しかしそこのにいたのは、何故か顔を赤くした惇さんでした。
なんで?と思い淵さんをみるとニヤッて笑いましたよ!ニヤッて!!
こう何か悪い企み事がうまくいった時に人間が見せる笑みでしたよ。一体惇さんに何吹き込んだんですか!?
嬢ちゃんも惇さんを見て何かイライラしてるし、曹操さんも詳しくは言われなかったけど『何したんだ?テメェ』って目で睨まれました。
俺頑張ったよね?今日、殿を勤めようとしたり、楽進諫めたり、八面六臂の活躍だったはずだよ?
なんかギズギズした空気が漂ってます。
ついでに、例の3人組は暫定的に俺の部下になりました。
おまけ
【夏候惇】
太史慈に怒られてしまった。失望されてしまったのだろうか。
どうしよう。謝ればいいのか、しかしそれで許してくれなかったら?
頭の中が混乱してきた。
思い悩んでいると秋蘭が入ってきた。
「太史慈は姉者が大切だからこそあれほどまでに怒ったのだ。太史慈もやりすぎたと反省しているし、許してやらないか?」
太史慈が・・大切・・・。
その言葉を聞くとなぜだか顔が赤くなる。
うぅ、どうしてしまったのだ私は。