最近、夏候惇こと惇さんがしつこく勝負を挑んできます。
「勝負しろー!!太史慈!!」
いやいや、あなた自分で魏武って名乗ってるくせに一介の客将に勝負を挑むな。
見ろ!周りの武官や文官がまるで俺が強いように勘違いしてしまうだろうが!!
俺はあんたみたいなチートキャラじゃないんだ。
素手で飛んでくる弓矢を掴むとか、もはや人間業と思えないことする人と闘って勝てるとかそう言う問題じゃなく生きてられるかの問題だから。
夏候淵こと淵さんは姉者は楽しそうだな、と言うだけで助けてくれません。
曹操さんに相談しようかとも思ったが、あのチビ君主絶対面白がって勝負させようとする。
絶対サドだよ、あの人。人が苦しんでいるところ見て楽しむのが趣味とか言われてもやっぱりとしか思えないくらいサドっ気満々だもの。
元々の始まりはなんだったのだろうか。
6話
そうあれは確か季衣と一緒に城を歩いていたとき、季衣が
「魏で一番強いのって夏候惇って人なの?」
と聞いてきたから
「そうだな、あれはもう人間って枠組みをこえた何か新しい種族とさえ思うときがあるよ」
「でも頭は悪いんだよね~」
「書類整理が全く出来ないからな。むしろその方面でもある意味人間とは違うのかもしれないな」
「でも、兄ちゃんの方が強い気がするな~」
「まぁ、勝負をしたことがないからどうとも言えないがな」
と言う会話を惇さんが聞き付け、朝から晩まで追いかけてくる始末です。
てか仕事しろ、仕事。こっちは武官と文官の二足わらじで働いてるんだぞ。
おかげで給料あがっても使う暇がないよ。
趣味って聞かれたら『貯蓄』っていえるぐらい金があるのに使う暇がないのだもの。
そんなことで日々が過ぎていくと、気付いてしまいましたよあのチビ君主。
「なんだか大変なことになっているみたいね」
って言ってるけど『おもしろい物見つけたぁ~』って顔に出てますから。
むしろ隠そうとしてないだろ。
“第一回夏候惇対太史慈武闘対決”
そんな物が開かれてしまいました。
第一回か、生き残ったら2回3回もあるってこと?
ついでにこのお祭り騒ぎは何?文官、武官問わず見物に来てるよ?
この国の中枢を支える身でしょ?何でこんな所にいるの?馬鹿なの?死ぬの?
仕事しろ仕事!!ていうか賭け事をするなしかもほとんど夏候惇優勢じゃねぇか!!
死んだらその金で香典出しますって冗談にもならないこという人いましたよ?
チビ君主は
「娯楽よ娯楽。たまには楽しみも必要でしょ?」
俺は全く楽しくないですよ?
あぁ今日で俺の人生終わりかぁ~。
もう、いっそのこと開き直ろう。そう某錬鉄の騎士も言ってたじゃないか『勝てる自分を想像しろ』って勝てる自分か。
暗示だ暗示。俺は最強、俺は最強。
もう藁にも縋る勢いで自分に暗示を掛ける。
そうして夏候惇が舞台に上がる。
そこでお互いの口上を述べて試合開始だ。
【夏候惇サイド】
ついにあいつと試合ができると思うと高揚してくる。
舞台上にあがり、口上を言う。
「この夏候惇元譲、これより華琳様の御前にて我が武こそ魏の国一番と証明しよう!!」
その口上に会場はにわかに沸き立ち、耳が痛いくらいだ。
そして、皆の目が太史慈に向かう。
何も言わないために周りは不審がりざわざわしてくると。
バッと顔を上げた太史慈の顔に浮かんでいたのは穏やかに楽しそうな顔。
静かに二本の剣を取り出し、
「小便は済ませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ震えて命乞いする心の準備はいいか?」
しんと静まりかえる会場。
普段の太史慈のおよそ想像のつかないほどの濃密な闘気を放っている。
自然と笑みが浮かぶ、楽しい。こんな相手を待っていた。
魏の武の象徴になってから本気で剣を振るう相手がいなかった。
もてあました衝動が体を駆けめぐる。
合図もなにもなく、お互いに相手に向かって走り出す。
上段からの切り落としに太史慈は半身になりかわすと、左の剣を横になぎ払うように斬りつけようとする。
しかしそれを半歩さがり上半身を反らして紙一重によける。
そして下から切り上げるように振ると太史慈は両剣で受け止めるが、わたしはそのまま力任せに振り切る。
太史慈は自分から飛び、距離を取る。
おそらくこの一連の流れも常人にはまばたきしている間に起こっているためなんが起きたか分からないだろう。
だがそんなことはどうでもいい。今、心にあるのはなんでもない純粋な思い。
楽しい。ただ、ただ楽しいという思い。
太史慈はただこちらを射殺すようにじっと見ている。
心がふるえる。今奴の心をしめているのは私だけだ。
そして今私の心をしめているのは太史慈だけだ。
そこから激しい斬り合い。
一体何合打ち合ったのだろうか。
太史慈は満身創痍の様相だ。
傷だらけになり、もう限界だろう。
それでも、どうしてだろう求めてしまう。まだ何か見せてくれるはずだと。
「さぁどうする? 勝機はいくらだ。千に一つか万に一つか、億か兆かそれとも京か!」
「例えそれが那由他の彼方でも――――俺には充分過ぎる!!」
あぁ、その目だ。
この時がいつまでも続けばいい。いつまでこうしていたい気持ちがわく。
しかし、それ以上にお前の限界が見たい。
太史慈の一撃目は突きを繰り出し、そこからコマが舞うように連撃を放つ。
全ての力を振るっている攻撃に。防御するのに精一杯だ。
嵐のような剣の舞が止み、そこにいたのは力尽きて寝ている太史慈。
ここまで満足する。充実感のある戦いはもうないだろう。
今までの私ならあの連撃を受け流すことは出来なかっただろう。
私は今日自分の武の限界を超えられた気がする。
しかし、このやはり終わってしまったのは、なにか物寂しい。
【太史慈】
なんか自分に暗示掛けてハイになってたら、いつのまにか試合終わってました。
結果?そりゃもう完敗ですよ。勝てるわけがないじゃないですかあんな人外魔境に。
今生きていることに感謝感激ですよ。
世界が輝いて見えています。九死に一生を体験したら世界が変わって見えるっていうけれど、確かにそうでした。
あと惇さんと淵さんが見舞いに来てくれました。
惇さんは曹操さんにこっぴどく叱られたそうです。『誰が死闘をしないさいといったの!!』って。
というか惇さんやっぱり本気だったんですか、よく生きてたな俺!!えらいぞ俺!!
淵さんはすばらしい試合だったぞっていってくれました。
優しいなぁ淵さんは。
こんな一方的にボロボロにされている俺を慰めてくれるなんて。
ノリで「淵さんを嫁にください」といったら
全力で惇さんが「ダメだ!!」って剣を突きつけてきましたよ。
だからって、けが人に剣を向けないでくださいよ。
冗談なのに、帰るまでずっと「ほんとに冗談なんだな!!」って15秒置きに聞いてきましたよ。
惇さんは少しシスコン気味だね。なんていうか。
君主といい、軍師といい、武将といいなんか魏ってレズ集団になってるね。
最後に一言、この世界の女性はチートキャラです。