上条の馬鹿に着いていくこと数十分。名前を聞いたところ、上条に背負われた銀髪の女の子の名前はインデックスと言うらしい。
彼女の容体は最悪の一言で、背中に鋭利な刃物でばっさりと切られた跡があった。
恐らく、そこからあふれ出た血が彼女の白い修道服を真っ赤に染めたのだろう。
俺はそれを見て迷わず上条に救急車を呼ぶことを進言した。
だが、少女には特殊な理由があるらしく、俺の申し出はあえなく却下。
そればかりか、命の危機に瀕しているためか突然機械のように声と表情から抑揚を失った少女の指示の下、能力が使えない人間。
つまるところ、学園の大人たちに会いに行くことになった。
うん、その時になんか色々理由があって、上条と少女がなんか色々話していたけど俺は知りません。
ええ、知りませんとも。
魔術とか、儀式とか知りませ~ん。
そして、信用できる学園の大人と言う事で、合法ロリの小萌先生の所にお邪魔することになった俺たちだが、そこで見てはいけない物を見てしまう。
具体的に言えば、山と積まれた灰皿の上の煙草の吸殻だとか、無造作にゴミ袋に入れられたアルコール飲料の空き缶だ。
何と言うか、青髪ピアスが見たら二度と立ち上がれなくなるほど三次元的(げんじつ)であった。
「ないわー。その顔で熟年離婚したオヤジばりの喫煙量とかドン引きします」
「ひ、ひどいです~! 先生だって大人の女なんですよ!?」
「どうでもいいです。大人だろうがなんだろうが、美琴ちゃんにぶち込むことしか考えていない俺には」
「……ほんと、死ねばいいと先生は思うですよー? 垣根ちゃんは女の子をなんだと思っているんですかー?」
「恋愛対象ですね。まあ、俺の中で女の子にカテゴリーしてあるのは美琴ちゃんだけですけど」
こんなやり取りをする前になんだか小萌先生が積み木をして遊んだり、上条が少女に対してフラグを立てていた気がするけど知らない。
さらに、今目の前で重症だった少女が元気に起き上がったりしているのは夢だ、夢に違いない!!
「…たいがいお前もしつこいな。ここまで来たら事実を認めろよ」
「うるせえよ上条。科学を信じて生きてきたんだ。今さら魔術なんて認められるかよ」
俺はそう言って横を歩いていた上条にそう言った。
俺たちからそう離れてはいない所では少女が「おっふろ♪ おっふろ♪」と元気良くはしゃいでいる。
……美琴ちゃんには及ばないものの、なかなか愛らしいではないか。
現在、俺と上条と少女ことインデックスは銭湯に向かっていた。
なんでも、体の匂いが少し気になると言う事だ。
そもそも外人は日本人と比べて体臭がきつい。それをごまかすために、香水と言うものを開発したほどだ。
まあ、そんな風呂に入る文化もないしね。彼らは温泉に入るのではなく飲むと言った文化の持ち主だ。
まあ、最近の若い外人の子までそうだとは思わないけどね。
それにしても、このお風呂に入りたがっているのが美琴ちゃんだったら……。
『あ、その…お風呂行きたいんだけど…』
『? なんで?』
『えっと、その…ちょっと匂いが気になって…』
『大丈夫、良い匂いだよ。俺が大好きな美琴ちゃんの匂いだ』
『あ。やあ、そ、そんな所の匂い、嗅いじゃ…』
『嗅いじゃ?』
『そ、その恥ずか、しいよ』
「み な ぎ っ て き た ! !」
「ねーねー、とうま。ていとくは変態さんなの?」
「…見たら分かんだろ」
「は、言ってくれんじゃねーか『青髪ピアスと同類(ロリコン)』が」
何やら酷いことを言われた気がしたので、俺がそう言い返したところ、上条はおろかインデックスちゃんまで怒り出した。
「んな、あいつと同類だけはごめんだ! あと、そういうお前もロリコンだろ!」
「と言うか、レディを幼女扱いとは失礼かも!」
「何言ってんの? 美琴ちゃんはたぶん第二次性徴が始めってますー。あと、俺としては第二次性徴前は全てロリだから。
そもそも、俺が女として見てんのは美琴ちゃんだけだから」
俺がそう言うと、目の前でインデックスちゃんが青筋を浮かべて、拳をプルプルと震わせた。
「ねーとうま。こいつ殴って良い?」
「むしろ殴ってやれ」
「ああ、ちなみに反撃するからね。俺はそこのロリコンでお人好しの馬鹿とは違うから。
君とのフラグとかにも興味もないし」
「フラグ?」
インデックスちゃんは聞き覚えがないのかそう言って首をかしげた。
やっぱりフラグは普通は知らないよね。
そして、それと対照的に顔を赤くしたのは上条であった。
「あのなぁ! 俺がこいつにラヴコメいた素敵イベントなんざ期待していると思ってんのか!?」
「…………」
ふーん。そっかそっか。でも、インデックスちゃんは違うみたいだねー。
上目づかいで睨んじゃって、まあ。
俺に遅れること数秒。上条もインデックスちゃんのそんな様子に気がついたのか、不思議そうに首をかしげた。
いや、アレは焦っているな。
「あ、あの、姫? なんで上目づかいで睨んでいらっしゃるんですか?」
「…とうま」
「はい」
「だいっきらい」
直後、上条は襲いかかってきたインデックスちゃんにより、頭のてっぺんを丸かじりすると言うコアなプレイにいそしみ始めた。
俺は上条を助けるでもなく、それを見つめながら呆れて溜息をついた。
他でもない、こいつのお人好しっぷりにだ。
俺は基本的に不干渉を決め込もうと思っていたので、小萌先生の家に着いてからはほとんど上条たちと関わっていない。
ただ、頼まれて小萌先生と一緒に買い物に行ったりはしたが、それだけだ。
その結果、上で回想したように彼らに関することがおぼろげになったわけだが。
俺としては上条に命の危機が及ばない限り、インデックスちゃんのことは『どうでも良い』。
それなりに上条のフォローはするつもりだけどね。
だから、話を聞くと記憶がなかったりしているらしいが、俺はそんな彼女を助ける気はあまりない。
そもそもこの目の前で幼女に頭を噛まれている馬鹿が行きすぎないように監視することが目的なのだから。
まあ、なんか相手の組織も巨大っぽいから、そろそろ手を引かせようとは思っているんだけどね。
そんなことを考えている内に、処女を奪われた生娘のようにさめざめと泣く上条を残して、プンスカと怒ったインデックスちゃんは一人で銭湯へと向かってしまった。
あれ? 道分かるのかな?
そうこうしている内に、上条がゆっくりと起きあがって恨めしそうに俺を睨んだ。
「何だよ」
「いや、まず助けろよこの糞ったれと言いたいところを我慢して上条さんは言いますが、お前なんでここの所ずっと怒ってんの?」
俺は上条のその図星な言葉に思わず二の句が告げなくなる。
と言うか、なんだかんだで普段の上条の奴は周りが見えているんだよな。
だから、俺のちょっとした反応とかでも敏感に感じ取ってくるわけで…
「いや、俺の勘違いなら良いけどさ」
そう言って少し不満そうに頭を掻いた上条に俺はいらだたしげに肩をすくめた。
「…いや、勘違いじゃないさ。まあ、理由はお前がインデックスちゃんのことにめっちゃ深入りしていることかな」
「言っとくけど、止めねえからな」
そして、上条(バカ)は真正面から俺を睨みつける。
いつか、俺がこいつと親友になった日に見せたような真っ直ぐな視線で。
こいつのこう言った誰でも助けるために動ける事は確かに他の何かに変えようがない美徳だ。だけど、
「あのなあ、相手がどんだけ大きな組織だと……」
「そんなこと関係ねえよ。俺はただあいつを地獄から引き揚げてみせる」
その強情な言葉に俺は呆れながら頭をかく。
上条のこんな反応は予想の範囲内だ。とは言え、そろそろ本当に『深入り』しすぎている気がする。
俺は上条に親が子に言い聞かせるように優しく説く。
「俺の時とかとは、『違うんだ』。相手もプロだろうし、組織も世界規模。そんな相手にただの喧嘩早い落ちこぼれ高校生が勝てると思ってんのかよ?」
「勝てるさ。あいつが手を差し出してくれたんだから、俺はあいつを地獄から連れ出す。それにな、」
上条はそこで言葉を切って俺を真正面から見つめた。
「お前も手伝ってくれれば、絶対に大丈夫だ!」
どきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううん!!!!
そんな擬音と共に俺に電流が流れる。
え、やだ。顔が熱くなるのが止まらない!? そ、そんな、そんなこと言われたら協力しない訳にはいかないじゃないか!!
って、まてぇぇぇぇぇぇ!! ダメ、そういうの良くない!!
ここでごまかされちゃダメだ、帝督!
「っ、この馬鹿! 俺はなぁ、『強能力』だぞ!? しかも能力もまともに発動できないような! 俺が『超能力者』だったら、どんな敵が来てもお前を守っていやれる自信があるけど…
違うんだ!!」
「は、良く言うぜ。お前の能力の凶悪さを俺は知っているぜ? たぶん、あの能力が効かないのは俺だけ。つまり、あのメルヘン空間で動けるのは俺だけ」
上条が言ったその言葉に、俺は顔をしかめた。
上条が言いたいことは分かる。
俺のメルヘン空間で動けるのは上条だけ。つまり、敵が来ても俺がいれば殴りたい放題だと言う事だ。
それでも…
「それにな、帝督」
しかし、上条は俺が口を開く前に言葉を切ることなく続けた。
「お前って言う親友となら、負ける気がしないんだ」
「う、うがあああああああああああ!!」
ら、らめええええええええええ! 俺の心にこれ以上踏み込んじゃ、BL展開になっちゃぅぅぅううう!!
俺は上条の言葉に叫びながら駆け出した。
とりあえずここいらを一周してから戻ってくることにしよう。その間にこの胸の高鳴りも治まっているはず。
うん、ものすごく嬉しくて胸がドキドキするのや、親友と言われて少し胸がチクッとしたの気のせい、気のせいだよ!!
上条side
帝督は突然叫び出すと駆け出してしまった。
ソレを苦笑しながら俺は頭を掻いた。
少し言葉が臭かったからあいつは照れてしまったのだろう。やっぱり、あいつは純情だ。
それにしても、俺以外の誰が知っているだろうか。
いつもは平然と変態行動をしているあいつが、こんなにも仲間思いで良い奴だと。
あいつには心配をかけているが、インデックスを救うまでもう少し心配してもらうしかないようだ。
そう考えると、上条は苦笑しながら頭を掻いた。
「悪いね、親友。俺はあいつを助けたい」
「――貴方が、上条 当麻ですか?」
その時、俺はその声を聞いた。
慌てて振り向いた先には奇抜な服装の女。
俺はそいつを見た瞬間に確信した。
こいつは、敵だと。
あとがき
祝、理想郷復活!
今回は少し話が飛んでます。だって、インデックスのけがが治ったりする所は、帝督はハッキリ言って邪魔ですからね。
ですから、神裂戦直前まで飛ばしてみました。
今回も変態の見せどころが少ないのは、シリアスだからではなく帝督のレベルが低いからです。
戦力的にも変態的にも。
これからも変態の性長を見守ってやってくだされば、幸いです。