「はーい。それじゃあ先生プリント作ってきたのでまずは配るですー。それを見ながら今日は補修の授業を進めますよー?」
もうこのあり得ないぐらいのロリボイスを聞き始めるようになって一学期経つが、未だに俺はこの教師は素晴らしい教師だとは思うものの、その容姿からそこまで頼りがいがあるとは思え
なかった。
そんなおれの視線や他の奴の欲望に塗れた視線を一身に受けて教団に立っているのは、身長135cmの幼女な月詠 小萌先生だ。
彼女は一生懸命持ってきたプリントを配る。
うん、まあそんな事は関係なしに俺は携帯電話を弄って、撮りだめた美琴ちゃんの写真を流し見る。
やべぇ。やっぱ可愛いわ~! 俺の股間がエレクトしちまった!!
「おしゃべりは止めないですけど先生の話は聞いてもらわないとこまるですー。
先生気合いを入れてテストを作ってきたので、点が悪かったら罰ゲームは透け透け見る見るですー。あと垣根ちゃんはいい加減にしないと黄泉川先生を呼ぶですよー」
「ってかそれ目隠しでポーカーしろって言うアレでしょう先生! ありゃ透視能力(クレアボイアンス)専攻の時間割だし!」
俺が言われたために仕方なく携帯をしまうと、上条が勢いよく小萌先生に抗議する。
どうでもいいけど、このそそり立ったバベルの塔はどうしよう? トイレに行って色々飛ばしてくるか?
「えー、でも垣根ちゃんは見事にクリアして見せましたよー。あと、上条ちゃんは記録術(開発)の単位が足りていないので、どの道透け透け見る見るですよ?」
「先生、それはあの野郎がいかさまして…」
「だらっしゃああああああ!!」
上条が全て言い切る前に俺は上条の顔面をぶん殴って、強制的に黙らせる。
因みに、席を立ちあがった瞬間に後ろの青髪ピアスが「ぐえっ!?」と呻いていた気がするが、気にしてはいけない。
それより、今はあのくそ面倒な授業をいかさましたことがばれる事の方が問題だ。
いや、そもそもあれはいかさまではない。
ただカードを自分で切らせてもらって、自分の所に狙ったカードが来るようにしているだけだ。
因みに、結果の度に目隠しは外してもらえないので、カードに仕込みをしたのも秘密だ。
上条は俺の一撃程度では倒れずにそのまま俺を睨みつけてくる。
「なにすんだよ、このメルヘン野郎!」
「るせぇ! 余計なこと言ってんじゃねぇよ、フラグ生産機! あと、小萌先生トイレ行ってきてもいいですか!?」
「か、上条ちゃんも垣根ちゃんも喧嘩はだめなのですー! あと、おトイレはいつも言ってますけど、授業前にすませてください!」
「いえ、ぶっちゃけ美琴ちゃんへの愛が俺の股間から溢れかけて、暴発しかけているだけですから」
「な、小萌ちゃんになんてこと言ってんのや、帝督!! もっとやれ!!」
「あーもー、てめえは黙ってろ!! 本気で地面に沈めんぞ!」
いつの間にか俺の後ろの席の青髪ピアスも復活して俺にエールを送る。と言うか、大多数の補習組男子が俺の言葉に真っ赤になっているのを嬉しそうに見ている。
ただ一人上条は紳士を気取っているが、それはいつものことだ。
と言うか、そこまで恥ずかしがるようなものか? ただ俺の愛が溢れるだけだと言うのに。
小萌先生は真っ赤になりながら、大きな声で騒ぎ始めたクラスを静める。
「し、静かにするんですー! それと垣根ちゃんは何その場でズボンをおろそうとしているんですかー!!?」
「いや、結局トイレに行っていいものか悩んだので、ここですることに……」
「くたばれええええええ!!」
ゴガンというまるで敵キャラを倒す時のような凄まじい効果音と共に俺は上条に殴りつけられ、教室の隅まで机や他の生徒を巻き込んで吹き飛ばされる。
いでぇぇぇぇええええ!? それに顔に誰かの股間が付着していて気持ちが悪い!
いや、待てよ俺。これが何らかの薬の効果でフタナリ化した美琴ちゃんが生やしてしまったものだと考えれば……
「はぁはぁ、美琴ちゃん」
「ぎゃああああ! 帝督の荒い鼻息とよだれが僕の股間にぃ!? 上やん、助けてや―!!」
「はーい。それでは本当に授業を始めるですよー」
「無視っすか、小萌先生も!? でもその無視っぷりに興奮がとまらへん!!」
どうやら俺の上で騒いでいたのは青髪ピアスであったらしく、俺の上で騒いでいたので何となく蹴り飛ばしてどかす。
あんな糞ったれの股間と美琴ちゃんの股間を一緒にすんじゃねぇよ。
美琴ちゃんのは24時間耐久で舐められるが、奴のは見た瞬間に踏みつぶす自身がある。
と言うか、奴の股間の感触が消えないため、後で美琴ちゃんに踏んでもらいに行くことにしよう。
待っててね、美琴ちゃん!!
「やっべ! 今から楽しみでしょうがねえ!!」
「垣根ちゃん、そんなに警備員さんが好きですかー?」
小萌先生は何を思ったのか、指をパチンと鳴らす。
すると、教室のドアがガラガラと開けられて外から見覚えのあるジャージ巨乳なお姉さんが入ってきた。
な、何故この方がここに!?
「ふっふっふ、この人は黄泉川先生と言って小萌先生の友達なのです。あと、この学校の先生ですよ?」
「マジか!? まず名前も知らなかったし、この学校の先生だなんて知らなかった!!」
「…言っておくけど、初めて会ったときに名乗っているし、忠告の時に学校内で変態行為は控えろって言ったじゃん」
あ、やべぇ。思わず口に出しちゃった。
あと、お姉さんの顔がすごいことになってます。呆れと怒りが素晴らしいぐらいにブレンドされてます。
お姉さんこと黄泉川先生は座ったままの俺の脚を掴むと、小萌先生に気軽に声をかけた。
「じゃあ、こいつちょっと躾けてくるじゃんよ」
「あ、あの、ほどほどにしておいてくださいね。垣根ちゃんはどうしようもないクズですけど、小萌先生の生徒なのです」
「はいはい。じゃあ行くよー。これからは全て調教タイムじゃん。人生変わるよ~」
「い、いやああああ! 上条、助けて! 今ならお前が今朝拾えたらいいなと思っていた魔砲少女とのフラグの立て方を教えるから!!」
「いるか。自業自得だ、せいぜい従順な犬になって来い」
「アッーーーーーーーー!!」
要するに、しつけの良い犬になって来いと。今のように盛るだけではダメなのですね。
だが、甘いよ小萌先生も黄泉川先生も。
ズルズルと引きづられていく俺は静かにその瞳を閉じる。
この時、黄泉川先生はもう一つミスを犯す。
それは俺を隣の教室に引きずっていく際に俺に話しかけなかったことだ。
それはつまり俺に集中する時間を与えてしまったということに他ならない。
いまだぁぁぁぁぁああああ!! 目覚めろ我が能力!!!!
「『脳内メルヘン(ダークマタ―)』!!!!」
「んな!?」
「しまったのです!?」
「あいつ、こう言うときだけ本気になりやがって!」
皆の言葉の直後、俺の背中に正体不明の光がともり、俺の体に浮力を与える。
黄泉川先生の手を離れた俺はさらにそのまま開いていた廊下の窓からその身を躍らせた。
そして、この能力の効果はそれだけではない。
「あはは~待つじゃん。垣根~」
黄泉川先生はな何やら発言をメルヘンにしながらもなんとか俺を取り押さえよう手を伸ばす。しかし、その頃には極限の集中力によって作り上げられた我が能力が真価を発揮する。
すなわち、背中の一対の光が次第にその姿を翼へと変えたのだ。
雄々しく。かつ、優しい色をした純白の翼へと。
ただし、その羽は俺の180cmという巨躯に少しも合っていない、30cmぐらいの全体的に丸い感じにデフォルメされた可愛らしいものであるが。そして、俺の頭には天使の輪っか。
そうだよ、何か文句あっか!? 飛べるけど、ソレしか用途はないし、俺の脳内を投影しているかのようにメルヘンだよ!!
これがダークマタ―って呼ばれる破壊力だよ!!
だが、この能力の恐ろしさはそれだけではない。
「あは~垣根ちゃんが飛んだのです~」
小萌先生はぽへ~とメルヘンナ笑みを浮かべる。見ると、上条以外のその場にいた奴らがポヤポヤとしたメルヘンナ笑顔を浮かべていた。
そう、これぞ俺の能力『脳内メルヘン(ダークマタ―)』。なんでこうなるのかはさっぱりわからないが、能力発動中の俺の傍に寄るとみんながみんな頭の中がメルヘンになるのだ。
俺の似合わない外見と、このやばい特殊能力。
この二つでもって俺の能力は『脳内メルヘン(ダークマタ―)』と呼ばれているのだ。因みに能力レベルは『強能力(レベル3)』。この学校に限って言えば滅茶苦茶高いレベルになる。
もっとも、能力の価値でいえばもっと高いはずなのだが、俺がほとんど制御できない上、俺自身の頭がお粗末であるのでこのレベルに収まっている。
うん、今も少しでも気を抜くと下に真っ逆さまだ。まあ、俺の能力の発動中はみんな脳みそがメルヘンになっているため、俺の邪魔をする奴はいないのだが…
さらに言えば、本当は全然違う能力なんだけどね。これ以上のことをやろうとすると、俺は知恵熱で3日は寝込むことになる。
「……っぷ」
「ごらぁぁああああ!! 今笑った奴出て来い!!」
しかし、その時俺の耳に確かに誰かが俺を笑う声が聞こえた。
俺は空中からゆっくりと地面に降り立ちながら、反射的にそれに怒鳴リ返す。
と言うか、今笑った奴は誰だ? 俺の美琴ちゃんを捜すために鍛えた地獄耳では下からだったのだが……
しかし、その瞬間だ。
俺の制御の計算式をひたすら編み出していた脳は、一瞬にして集中を切らし能力の暴発を防ぐために発動その物を自動的に止める。
所謂、自己防衛本能というやつだ。
その結果俺に起きることは、大地への落下なため本末転倒だが。
因みに、俺が飛び出た場所は三階。今いる現在地は2階だ。
「いやあああああああああああああああ!!」
自分でも情けないと思いつつ、落ちもの系ヒロインのごとく俺は大地に吸い込まれる様にして落ちていく。
もう駄目、僕は死んじゃう!!
俺はそう思い次の瞬間の硬い大地の感触に備えて、その目を閉じる。
しかし、その衝撃はいつまでたっても訪れずに、代わりに柔らかい肉の感触と美琴ちゃんには負けるがそれなりの良い匂いが俺を包んだ。
「大丈夫ですか? 一応間に合いはしましたが……」
目をゆっくりと開けた俺の視界にまず映ったのは、切れ長の眼をした美しいヤマトナデシコ。
その表情はどこか焦ったように俺を見ている。
どうやら、途中で落ちてしまった俺はこのヤマトナデシコにキャッチしてもらったようだ。お姫様抱っこで。
やっば。これは惚れちゃうよ!? でも、残念でした!! 俺は美琴ちゃん一筋なんだよ!!
あ、でもおっぱい大きいな。
「あ、あの……」
「あ、すんません。おろしてもらってもいいですか?」
「え、あ、はい」
そう言うと女性はゆっくりと俺を地面におろしてくれる。
同時に、俺が飛び出したまどから脳内メルヘンから回帰した黄泉川先生と小萌先生が、身を乗り出して大声を出して怒鳴った。
「こらー!! 垣根ちゃんは能力の制御が不十分だから飛んじゃ駄目ですって、いつも言ってるでしょー!!」
「上等じゃん垣根! 今すぐそこにいくから待ってろ!!」
嫌です。俺はこれから美琴ちゃんを探しに行きます。
俺は取りあえず俺を助けてくれたらしい女性に視線をやる。
でっかい女の人だ。俺までとは言わないが上条よりも背が大いかもしれない。あと、恰好が滅茶苦茶なんですけど。
具体的には、片方だけ扇情的に股のあたりまでばっさりと切ったジーパンとか、腰から拳銃のようにぶら下げた2m以上もの日本刀とか。
うん、助けてもらってアレだけど頭のおかしい人なのかもしれない。
俺は素早くその女性に頭を下げると、自分のズボンのポケットから美琴ちゃんにあげようと思っていたイチゴ味の飴を手渡す。
「助けてくださってありがとうございます! この美琴ちゃんへの献上物を上げますんで、チャラと言う事に!」
「は、はぁ」
「かーきーねー!!!!」
ひぃ!? マジギレした黄泉川先生がもう昇降口まで来てる!?
俺はそれから逃避するために全力で駆けだした。
なんか、昨日から俺ってば走ってばっかりじゃね?
今日も学園都市は平和です。
????side
私は、その少年を見た瞬間に、天使かと我が目を疑った。
様々な能力者がいる学園都市。その中では飛べる能力などそこまで珍しいモノではないのに。
だと言うのに、私は彼が天使に見えた。
その背中に生えた翼はなんとも可愛らしく、頼りないモノでとてもではないが彼の長身には合っていない。
それでも、私にはその翼はとても誇り高く思えたのだ。
しかし、見れば見るほど少年に不似合いなメルヘンなそれに私は思わず失笑してしまう。
「……っぷ」
「ごらぁぁああああ!! 今笑った奴出て来い!!」
そして、少年は驚くべきことに瞬時に私の笑いに反応したのだ。
私は校門の前に立ってはいたものの、2階辺りの少年との距離は少なからず離れている。聞こえるはずはない。
だが、次の瞬間に少年が落ちていくのを見て、私は焦った。
まさか、自分のせいか?、と。
そして、気がついた時には自分の身体能力を活かして駆け出し、その少年を受け止めていた。
結局、私の笑い声で落ちたのかどうかは、確かめる前に彼が慌ただしく去ってしまったので分からない。
私の手には透明な包装紙に包まれたピンクの飴玉だけが残された。
「イチゴ味、ですか」
仕事中、しかも彼女を追いかけている最中だと言うのに、私はついついそれを口に含んでしまう。
それは、なんとも甘い味がした。
同時に、私は久々に大きな声を上げて笑い始めていた。
ああ、なんとも愉快な少年だった。
あとがき
今回は変態が少なめです。