「覚悟、できたよね?」
一方通行は、一歩足を前に踏み出して酷薄な笑みを浮かべた。
まるでとろけるチーズが融解した時のようなそのつり上がった笑みを見て、俺は数歩後ずさった。
こ、こえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
これは勝てないって、流石に瞬殺されるから! てか、しゃべり方がなんか変わってません?
歩み寄る一方通行に、その分だけ後ろに下がる俺。
状況は綱渡りをするかのようにギリギリ。
いや、正確には一方通行の気分次第だ。
あいつの能力は全てのベクトルを操るとかいう意味の分からないものである上、たしかこの前美琴ちゃんと戦おうとした時にはゴミ箱を蹴って建物の外壁を破壊していた。
真正面から逃げに徹しても逃げ切れる相手じゃない。
よし、ここは口でなんとか煙に撒くか。
それで、いつかのようになんとか脱出して、荒事専門の警備員を呼ぼう。他人任せだが、それが確実にこいつを撃退する方法だ。
なんだか喋り方が変わってからのこいつは、何かヤバイ。
言うなれば、背中から絶えず冷や汗が噴き出るような感じがする。
こいつとは戦うなと、理性も本能も悲鳴を上げている。
俺は、いつの間にか口の中に溜まってしまっていた唾液を呑み込んだ。
ゴクリと言う喉が上下する音が嫌に鮮明に聞こえた。
「なあ、お前…」
「ああ、口でごまかすつもりなら止めておいてね。今、そんな事されたら自分を抑えきれなくなりそう」
そう言った瞬間、一方通行は爛れた笑みを浮かべる。
俺の股間のジュニアはそれを見た瞬間、怯えて縮上がってしまった。
え? ナニソレ、どういうことなの?
俺が目に見えて動揺したのが分かったのか、一方通行は爛れた笑みに嘲りの色を多分に含ませる。
「貴方、さっき言ったよね? 私が貴方の大切な人を殺したって?
はっ! 笑わせないでよ! 『自分の好きな人の区別も出来ないくせに』!!」
「!? は、はあ!? 何を言って……」
こいつは何を言っている!? 俺が美琴ちゃんを間違えるとか、そんな訳…。
俺は俺より少し離れた所に転がるようにして放置してしまっている彼女の死体を見る。
亜麻色の髪の毛に、常盤台中学校の制服。
うん、間違いない。いつもの彼女だ。こいつ、出まかせを言ってやがるのか?
俺は何かを確かめるかのように一方通行を睨んだ。すると、彼女はさらに俺を馬鹿にしたかのように嗤う。
「ねぇ、まだ気がつかないの? そこら辺のスキルアウトならともかく、そんな『有名人』殺すと面倒でしょう?」
その瞬間、俺は頭をハンマーで殴られたかのような電撃が走ったのを感じた。
そうだ。こいつの言うとおりだ。
美琴ちゃんが通っているのはかの有名な常盤台中学。
そして、彼女はその庶民的な行動が目立つため、忘れがちとなってしまうがれっきとした『お嬢様』だ。
つまり、彼女が死んでしまうと学園都市はその看板に傷を負う。
少なくとも、彼女を進歩している白井 黒子を筆頭とした常盤台中学校の面々は不審に思うだろう。
たとえ、学園側が『事故』と片付けても人の口に戸は立てられないと言うように噂は尾ひれをついて広がるだろう。
学園都市のスポンサーでもある『金持ちたち』に。
そうすると、学園都市には圧倒的不利とは言わないが、他の化学機関に付け込まれる隙にはなってしまう。
そんな無益なことを、たとえ狂った科学者たちが賛成しても学園都市側は許すだろうか?
答えは否。
学園都市は、子供たちの学校であると同時に『実験場』だ。そして、実験や研究は無駄に金がかかる。
いくら学園都市の株や製品が売れても、『信用』無くなってしまえば元も子もないのだ。
それに、折角『超能力者(レベル5)』まで育て上げた逸材だ。
彼女たちは、それほど研究に金を注いでいる存在であり、そうそう無碍には出来ない筈。
そう考えると、美琴ちゃんは殺されるはずがない。
しかし、現実に彼女はそこに死体となって転がっている。
もし、彼女が殺されないとしたらそこに転がっているのは、どこの誰なのだろうか?
その時、俺の脳裏をある一人の少女が過った。
『? どうしましたか? 顔色が悪いようですが、とミサカは面倒だと思いながらも問いかけます』
美琴ちゃんと同じ顔をした無表情な少女。
確か、御坂 ミサカちゃん。
まさか、いや、でも彼女も常盤台中学のようだったし、美琴ちゃんと同じ理由で殺されは――
俺が、未だに結論を出せないでいると、待ちきれなくなったのか、一方通行が口を開いた。
「教えてあげる。貴方がさっきまで無様に縋って泣いていたのは、御坂 美琴のクローン。その名も『欠陥電気(レディオノイズ)』」
クローン、だって?
俺は茫然と口を開けて一方通行を見た。
そう考えれば辻褄が合う。
恐らく彼女のクローンは優秀であるだろうし、クローンならば死体を秘密裏に処理すればなんら問題はない。
そして、美琴ちゃん本人が殺されるわけではないのだから、社会的に問題にもならない。
いやはや、学園都市の糞ったれな科学者どもが考えそうなことだ。
完全に信用する訳ではないが、本当であったと考えると虫唾が走る。
何にせよ、どうやら俺が先ほどまで泣いてすがっていたのは、美琴ちゃんのクローンである可能性が高いようだ。
俺の推察を余所に一方通行は、そのまま俺の反応を見ることなく言葉を続けた。まるで、自嘲するかのような笑みを浮かべて。
「私はその『実験』で、クローンたちを殺し続けているの」
「その子で一〇〇三二人目。後、九九六八人の彼女たちを殺した後、私は絶対の秩序『絶対能力(レベル6)』となる」
おいおい、なんだよその中二病極まりない実験は?
RPGかよ? 敵をたくさん倒すとレベルアップ! ってか? 馬鹿なの? 死ぬの?
そんなドラクエ紛いの実験の為に美琴ちゃんのクローンが殺されてるって言うのか?
そんな事に使うぐらいなら、俺に提供してくれた方が何万倍も素晴らしい使い方をしてやると言うのに!!
じゃなくて、アレか。最近美琴ちゃんが何やら裏でこそこそ活躍してたのは、そのクローンを救うとか彼女が考えたからか?
…ありそう、じゃなくて彼女ならそんな事を必ず考えるな。
恐らくは、「私が遺伝子マップを提供しなければこの子たちは生まれなかった。実験道具にされることもなかった!」的に。
どう考えても科学者側が悪いだろうに。ぶっちゃけ、美琴ちゃんが知らない間にDNA情報を手に入れることなんて容易い。
それに、自分の遺伝子が使われても所詮は他人だ。
そんなに気にすることないのに、やっぱり美琴ちゃんは可愛いなぁ。
さて、どうやら一方通行の話も本当であるようだし、病院に美琴ちゃんがいるかどうか確認に行こう。
そうすれば、俺の気持も落ち着くことだろう。
「どこに行くの?」
俺が戻ろうと背中を向けると、一方通行はどこか焦ったように口を開いた。
俺は、歩み出しこそしなかったものの、背中を向けたまま口を開く。
「病院だ。美琴ちゃんの寝顔を見に行く。それと、折れた腕の治療だな」
「……なんで?」
「?」
「なんで、貴方はそんなに普通なの!? 私が、私が何をしてきたか知ったでしょう!?
ソレなのに、何の感慨も浮かばないと言うの!? 私に対する義憤すらないと言うの!? 貴方が好きな子のクローンを殺したのよ!?」
「別に、美琴ちゃんが殺されたわけじゃないだろ? クローンなら、どうでも良い。同じ顔をした人間が何万人殺されようが、俺には美琴ちゃんがいれば良い」
俺はそう言うと、とりあえず大通りを目指して歩き始めた。
そう言えば、猫を追いかけてここまで辿り着いたので、ここがどこだか分からないのだ。
取りあえず、大通りに出なければ話にならない。
「っ! 彼女たちの殺人を肯定するの!? 『実験』を止めようとも思わないの!?」
そんな俺に追いすがるかのように一方通行の声が届く。
俺は、仕方なしに彼女を振り向いた。
「あのなぁ、今まで一万人殺してきた人間の台詞じゃないだろ、それ」
「――――――あ」
「自分が殺しておいて、それはないんじゃないか? 殺人を肯定してないなら、なんでお前はその子を殺したんだ?」
「私、は――」
「悪いけど、俺はお前みたいな異常者を相手にしている暇はないんだ」
「あ、いやっ、待って…」
いつの間にか、一方通行は膝をつき、呆けたように虚空を見つめ、俺に手を差しのばす。
俺はそんな彼女から視線を外して再び歩きだしながら、最後に止めとなる言葉を投げつける。
「じゃあな、殺人鬼。お前は、一生『闇(そこ)』で悶えてろ」
俺は、ふと自分がいつも以上に感情的になっているのに気がついた。
どうやら、俺は思った以上に一方通行に鬱屈とした感情が溜まっていたようだ。
あいつと俺は少しだけ似ている。恐らくは、あいつも優秀であったがために学園都市の闇に浸されたのだろう。
俺は、生憎とさっさと抜け出せたから良かったモノの、あいつは抜け出せなかった。
要するに、あいつは俺がなっていたかもしれない姿なのだ。それこそ、あいつが先ほど言っていたように『第一計画』とやらを俺が実行していたかもしれないのだ。
だから、見ているとイライラする。
俺が、今手に入れた美琴ちゃんや上条と共にいられるこの温かい場所。それを否定され、俺の本来いるべき場所が、あいつがいる薄汚い泥の中であるかのように錯覚させられるのだ。
「……………くせに」
ふと、小さな声が聞こえた。
余りにか細く、風に消えてしまったほどの小さな声。
そして、それは聞き返すまでもなく、次の瞬間には辺り一帯に響き渡った。
「貴方だって、人殺しの癖に!!」
「!?」
「知らないとでも思った!? 貴方の罪!!」
「て、めえ」
なんで、こいつが知ってやがる?
それこそ、あの事件の生き残りのあのケバイ少女ならまだしも、よりによってこいつがなんで知っているんだ!?
上条にすら話したことのない俺の秘密を!!
「貴方が壊した科学者たちは、今ではもう――――」
「黙れぇぇぇぇええええええ!!」
ソレ以上、聞きたくなかった。
俺は怒りのままに能力を発動させる。
その俺の思いに応えてか、怒りと折れた腕から絶え間なく伝わる痛覚により少しも集中できていないにもかかわらず、能力は発動した。
背中に顕現したのは一対にも満たない翼。
いや、それは翼と呼ぶのもおこがましい、歪な形をした光の粒の集合体であった。
だが、それでもこいつを、目の前の障害を消せるのであれば何でも構わない。
俺は、そのまま一方通行めがけて駆け出した。
彼我の距離は、およそ9m。
駆け抜ければ1秒かかるか否かだ。
その短い距離を全力で駆け抜ける。
どうやら、『脳内メルヘン』の効果範囲が狭まっているらしく、普段なら既に効果が及んでもおかしくない位置であったが、一方通行は平然とこちらを見つめていた。
あえて構える様子もないし、どうするつもりだろうか?
そんな疑問が頭によぎると同時に、あいつの能力『ベクトル操作』でおられた腕が痛みを発する。
そうだ。あいつは無意識でベクトル操作を行っているんだ。
恐らくは自分への力のベクトルを全て攻撃した相手に返すと言う、自動防御。
うん、すげぇなぁ。
だけど、俺の『脳内メルヘン』の効果範囲に入れば、その無意識も『メルヘン』に変わる。
そして、『メルヘン』状態ではその防御が出来ない。
これが、俺が一方通行に時々攻撃を当てられていた理由。
そして、どうやら一方通行はいまでにそのことに気がついていないらしい。
馬鹿が!
俺は残り3mになろうかと言う時に力いっぱい地面を蹴った。
次いで足を折りたたむようにして空中を飛ぶ。
一方通行は未だに動こうとしない。
お前は、恐らく俺の過去について調べたんだろうが、藪蛇だったな。
俺は彼我の距離が限りなく〇に近づいて行くその瞬間を狙って、とび蹴りを繰り出した。
足に、重たい肉を蹴り飛ばす感触が伝わる。
同時に、無防備のまま俺の蹴りを体の中心に受けた一方通行の体が面白いように吹き飛び、地面を転がっていった。
俺は着地すると同時に足の踏ん張りを利かせて、勢いを殺す。
足の感触からすると、どうやら一方通行に攻撃は当たったようだ。
それにしても、良く飛んだ。
俺は路地裏の喧嘩などでとび蹴りをかましても、大抵は相手がたたらを踏む程度の威力しか出せないのだが、一方通行の体が軽いのかその吹っ飛び方は『異常』であった。
一方通行はそのままゴロゴロと地面を転がり、やがて俺から30mは離れた場所で一時停止する。
…おかしい。いくらなんでも、『飛び過ぎだ』。
俺は腕の骨折のせいで全力を出せないはずなのに、この飛距離は明らかにおかしい。
まるで、一方通行が自分から距離を取ったよう――って、まさか能力が不完全で効いてなかったのか!?
俺は嫌な予感と共に、一時停止したままの一方通行を眺める。
すると、奴はまるで何も答えていないかのようにあっさりと、白い髪で表情を隠しながら立ち上がった。
同時に、くぐもった笑い声が辺りに響き始める。その発生源はもちろん一方通行。
「くすくすくすくす。残念でした、黙りません。貴方が壊した科学者は全員もう死亡済み。
それも、精神が壊れた果ての狂死。
――――ぜぇんぶ、あなたがころしたんだよ」
ギリリと、何かを噛みしめる音が鳴る。
いや、これは俺が歯を噛みしめた音か。知らず知らずのうちに体に力が入ってしまった。
それは、俺の罪を改めて思い出させられたからだろう。
そう、俺はかつて自分の研究所の科学者たちを壊しつくした、らしい。
と言うのも、俺は感情を昂ぶらせすぎて暴走しただけであったから、具体的に自分がどんなことをしたか覚えていない。
ただ、カッとなって意識が途切れ、次に目が覚めた時には周りが狂人だけの世界に変わっていたのだ。
だから、俺はあまり自分の罪が自覚できていない。
いや、したくないのだ。
壁に『萌タン』と名づけて穴をあけてひたすらに自分の逸物を突き入れていた男の研究員や、四つん這いとなって犬の真似を続ける女の研究員。
あんなおぞましいモノを自分が作り上げたなどとは、信じたくなかったのだ。
それは、今も変わらない。
それに、アレはあいつらが悪いんだ!
俺を『廃棄処分』しようとしたあいつらが!!
だから!!
「黙ってろってんだよ! アレはあいつらが悪いんだよ!!」
俺は再び一方通行との距離を詰めるべく、肉薄を開始する。
しかし、一方通行は少しも慌てない態度を崩さなかった。
「あいつらが悪いって…彼らは『上』の命令で研究していただけよ? 家族の為に、自分が生きたいから、貴方で実験して、使えなくなったから捨てようとしただけ」
「うるさい! 俺も自分の為にあいつらを殺したんだ!! 自分の自由を獲得するために!!」
だいたい、俺は前世の記憶とやらで『自由』の味を知っていた。だから、それを求める気持ちが人より大きかったんだよ!!
その時、距離を詰める俺に一方通行が徐に手を振り上げる。
「自分のため――なら、私も自分が死にたくないから、あの子たちを殺したんだ!!」
その手が振り下ろされた瞬間、俺めがけて凄まじい突風が吹き荒れた。
とても、走り続けることができない様な、猛烈な突風。
俺はそれに足を強制的に止められてしまう。
それでも、俺は叫ぶことを止めなかった。
「知るか! それなら、お前が勝手に殺し続ければ良いだろう!? これ以上俺をそっちに引き戻そうとするんじゃねぇ!!」
「なんでそんな事言うの!? 言ったでしょう! もう嫌なの!! 殺したくないの!!」
こいつ、頭大丈夫か!? さっきから言っていることが滅茶苦茶だ!
これ以上俺に何をさせようと言うのか、俺には全く分からない。
だから、そんな縋りつくような眼で俺を見るな!
「勝手にやってろ! これ以上俺に、そのおぞましい姿を見せるんじゃねぇ!! 正直、吐き気がするほど醜悪なんだよ!!」
「あ、う、わたし、私は――」
「消え失せろよ悪夢! お前なんて、誰も触れようとしない!!」
常の俺ならば例えどんな相手であろうと、こんな言葉はぶつけない。
でも、こいつだけは、こいつだけは俺にとって許容できる存在ではなかった。
どこまでも、どこまでも俺を乱し続ける質の悪い麻薬のようで、とても怖かったのだ。
そして、俺のその言葉の刃を受けた一方通行は、俯き小さく何かを呟いた。
「イヤ、だ」
それは、とても小さな言葉。
だが、それは彼女の心のダムの水門を容赦なく開くモノであった。
「もうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤ
ダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤ
ダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤ
ダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダもうヤダ!!!!
痛いのも辛いのも悲しいのも全部ヤダでもやらなきゃ私が殺されるいやだいやだいやだしにたくないけどもうぜんぶヤダもうがんばれないがんばりたくないどうすればらくになれるのあな
たみたいにぜんぶころせばいいのでもわたしはもうころしたくないそれぐらいならじぶんがしんでやるでもじぶんがしぬのはこわいこわいのはやだなんでわたしばっかりそんなおもいをし
なきゃいけないのわたしだってひのあたるところにいたいあなたはズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイ
ズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイ
ズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイズルイなんであなたばっかりわたしだってたすけてほしいでもあなたがみているのはあのおんなだけなんでわたしもみてくれないのわたしを
みてよたすけてよわたしをいけにえにじぶんだけたすかろうとおもわないでゆるしてゆるしてもうしないからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだか
らだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだか
らだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだか
らだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだか
らだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだからだから!!!!!!!!!!!
」
瀑布のように次から次へと吐き出される陰鬱な感情。
その様子はただ事ではなく、先ほどまでの彼女の雰囲気から一転してまるで幼い子供のような印象を受ける。
彼女はそこで言葉を一度切ると、ゆらりと顔を上げて俺を真正面から睨みつけた。
その赤い瞳には、かつて俺が勝手に勘違いした美琴ちゃんと同じ輝きが在ったはずだが、今は片鱗すら見えないほど暗く濁っている。
例えるのなら、赤い空洞。
空虚でどこも見ておらず、ただそこに肉として存在するだけ。
そして、彼女は空洞と化したかのようなその両眼から、涙を流した。
「たすけてよ」
その瞬間、一方通行の姿がブレた。
刹那の後、一方通行は俺の目の前に現れる。
それは、30cmも離れていないギリギリの位置。
いくらなんでも、その場所は俺の『脳内メルヘン』の効果範囲内だ。
だと言うのに、一方通行はメルヘン特有の恍惚とした表情ではなく、狂った者特有のイカレタ笑みを浮かべていた。
ようするに、俺の能力が効いてない。
なんでだ、なんで俺のメルヘンが効かない?
在りえない、警備員の防護服の上からでも効果がある代物だぞ? いくら、集中できずにその効果の10分の1も発揮できていないとは言え、そんなことが――
理性では理解できない異常事態。
それでも、本能が俺に教えてくれた。
――曰く、こいつはメルヘンを無効化した。
「やっべ、勝てないわ」
諦めると同時に自棄に世界がスローモーションで見えるようになった。そんな中、彼女は最後に一つだけ俺に願った。
「貴方を(私を)、殺させて(殺して)」
ゆっくりと、それこそ逃げようと思えば逃げられる速度で、俺に差し出される手。
それが俺に触れた瞬間、俺の心臓は停止した。
あ、俺ってばまだどうて――――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「帝、督?」
上条は、まるで世界が音を立てて凍りついたように感じた。
息を切らせて辿り着いた場所。途中、同じ病院にいた御坂 美琴と行動を共にしながら、全ての事情を聞いた。
美琴のクローンが軍事目的で生み出されたこと。
それは、美琴ほどの力を持つには至らず、結局廃止されることになったこと。
だが、それをただ廃棄するのではなく、有効活用するために実験が行われたこと。
その実験は、一方通行と呼ばれる学園都市最強のベクトルを操る『超能力者(レベル5)』をさらに上の『絶対能力者(レベル6)』に強化するために『戦闘訓練』と称し、彼女のクロー
ンが殺され続けたこと。
美琴がその実験を止めたいと願っているが、その唯一の方法が何故だか美琴が死ぬことだということ。
そして、なにより、帝督がそれに気が付きかけて、危険な真似をしているかもしれないということ。
その全てを、だ。
上条は悔しさで唇を噛んでいた。
帝督が自信を頼ってくれなかったこともそうだし、自分が無駄に怪我をしてしまったことが悔しかった。
だから、彼は美琴と共に夜の街を駆け、帝督がいるかもしれないと言う『実験場』に向かった。
その結果は、今上条の視界に広がっている。
ピクリとも動かずに大地に倒れ伏す帝督の体。
そして、その体の上に足を乗せて夜空に哄笑を上げる白髪の少女。
全てが非現実的であり、また上条に容赦のない物語の結末を見せた。
恐らく、笑っているのは一方通行。
そして、地面に倒れているのはそんな最強な相手に挑んで敗れた垣根 帝督。
上条 当麻の大事な親友だ。
共に笑った。
共にふざけた。
時に喧嘩し、殴りあった。
常に自分の傍らに居てくれた最高の友。
そんな存在が、糞ったれの足元で恐らくは、もう二度と立つことはないのだろう。
「一方通行ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!!」
上条は血を吐くような絶叫と共に一方通行に駆け寄り、壊れたように笑う彼女の顔面に右の拳を振り下ろした。
呆気なくその一撃は一方通行の端正な顔立ちをした頬に突き刺さると、彼のいつもの威力でもって彼女を吹き飛ばした。
「!?」
一方通行も、まさか自分が殴られるとは思っていなかったのか、吹き飛ばされ倒れ伏してからすぐさま起きあがろうとしたものの、頭が揺れて立てないのか目を白黒させていた。
上条はそんな彼女を睥睨しながら、力なくうつ伏せに倒れた帝督を抱き上げる。
グニャリとまるで人形のように力ないその感触に絶望しながら、そっとその首筋で脈を測った。
「……」
ない。
聞こえない。
本来聞こえるはずの帝督の鼓動を打つ音が。
「っ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
上条は悔しそうに声を張り上げると帝督の動くことのなくなった体をそっと横たえて、絶叫する。
その瞳は怒りに曇り、ようやく起きあがった眼前の一方通行(敵)を捉えた。
そして、上条が怒りを爆発させようとする一方で、美琴はただ茫然と倒れ伏した帝督を見ていた。
彼女は、ただ彼が泣いているかもしれないと思い、ここまでやってきた。
しかし、眼前の存在はすでに事切れていた。
「あ――――」
美琴は糸が切れたマリオネットのように、腰が砕けてしまう。
その瞳からは、次から次へと涙が溢れている。
――――また、守れなかった。
だが、呆けたのも一瞬。
美琴はすぐに何かを決意したかのような表情になると動かなくなった帝督を抱きよせ、すでに事切れた彼の気道を確保すべく顎に手を当て、引いた。
――歯車は回っていく。
――ただ、彼が望む結末に向けて。
あとがき
え、何このシリアル? 作品を間違えていませんか?
しかも、これで更新が遅いとか救いようがない。
ご迷惑をおかけしました。