「なんで、なんで分かってくれねえんだよ上条!!」
「どけよ、帝督。俺は決めたんだ」
俺の叫びに目の前の男、上条 当麻は冷酷な言葉でもって打ち消す。
俺は、その表情が気に食わない。なぜなら、あの馬鹿の表情はまるでたった1人で異教徒の軍勢に立ち向かう殉教者のソレ。
他者の幸せに至上の喜びを感じてしまう、哀れな人格破綻者の表情だ。
俺はギリリと歯を噛みしめてその馬鹿に吠える。
目を覚まさせるために、今目覚めさせなければ間に合わなくなると感じたから。
「それが、その選択が俺には許せない!! なんでだ、なんでいつもお前は誰かの為に……」
「…分かんねえ」
そう答えた上条は虚ろだった。そう、虚ろであるはずたった。
しかし、上条が俺の眼を見据えた瞬間に奴の瞳にある一つの感情が満ち溢れていく。
その感情には俺もとても身に覚えがある。
それは、たった少しで世界が変わる奇跡。
上条は俺に微笑んで見せた。その笑顔は何か大切なものへとほほ笑みかけるもの。
目の前にいる俺ではなく、別の誰かに向けられたもの。
「…でもさ、俺は見つけたんだ。たった一つの欲しいモノを」
「上条…」
「あの子の笑顔。それさえあれば、俺は――――」
「上条!!」
「帝督、お前だってぶちのめして前に進める」
語りかける言葉など初めからなかったのだ。
なぜなら、あいつと俺は既に正反対の方向を向いていたのだから。
いつからだ。いつから、俺たちは別の方向に歩き出してしまったんだろう。
俺は、いつまでもお前の横を歩けると思っていたのに。
――――それは、きっとあの日に彼を止められなかったから。
「そうかよ。そうかよ!」
俺は言葉をまき散らす。怒気と共に少しでも上条の中に自分を残せたらと、そんな下らないことを考えながら。
俺は拳を握り締める。そこに、この馬鹿を目覚めさせることが出来る筈だという儚い願いを握りしめて。
俺と上条はにらみ合う。
気のせいか、空気がまるで俺と上条の間の空気を恐れるかのようにピリピリと鳴動する。
腰が沈む。
それは、駆けだす瞬間のために力を貯めこむ動作。
そして、次の瞬間に俺は身体を前に投げ出した。
それはまさに大地すれすれに滑空する隼の如く、高速で目標へと迫り握りしめた左の拳を顔面に向けて繰り出す。
「お、ああああああああああああ!!」
烈拍の気合い。
それは俺の体の内に貯めこまれた力を出し切るためのひと押し。
だが、それは同時に上条に俺の攻撃のタイミングを教えていた。
「テレフォンなんて当たる訳がねぇ!」
上条はそう叫び、まるで俺の拳の上からかぶせるようにして自身の右の拳を繰り出す。
その技の名を『クロスカウンター』と言う。
上条は右利き。
その威力たるや路地裏の喧嘩で一撃で不良たちを倒すほどのものだ。
当然、俺も当たったらしばらくは立てなくなるだろう。
ソレに対して俺の拳の威力は数段劣る。
俺の繰り出す拳が左だからと言う事もあるが、上条と俺の拳がこのまま互いに相手の顔面に当たった場合、確実に倒れるのは俺の方だろう。
そもそも、クロスカウンターとは相手が拳を出した衝撃により2倍のダメージを相手に与える技。
元の拳の威力も鑑みれば、俺の方のダメージが多いことが圧倒的だと分かるだろう。
だから、だからそれだけは食らう訳にはいかない。
そして、俺は上条が『クロスカウンター』を繰り出すことを読んでいた。
わざわざのテレフォンパンチはこの為の布石。
上条にわざとタイミングを計らせて、カウンターを繰り出させる。
クロスカウンターを繰り出す可能性は低かったが、上条の性格上一発は俺にやり返させてくれるだろうと読みが当たったのだ。
だから、俺の勝利は目前。
――上条、お前の敗因はその友達思いな性格だ!!
俺はそのまま上条とクロス仕掛けた腕を大きく外に払う。
自然、上条の腕も俺の手の動きに従い弾かれる。さらには、体が流れてしまい、反撃を打とうにも体勢が整わない。
俺はここで握り締めていた右の拳を上条目がけて繰り出した。
これぞ『トリプルカウンター』。『クロスカウンター』の返し技として某有名ボクシング漫画に登場した技だ。
その威力たるや凄まじく、さしもの上条もこの俺の一撃をくらって立っていられない。
だから、終わりだ!!
一撃を振り抜く。
同時に、俺の手には肉を殴る確かな感触が伝わった。
しかし、
「!?」
その瞬間に俺の頬に衝撃が走った。
瞬時に頭まで駆けあがったそれにより俺の脳みそが揺さぶられる。
俺はそのまま地に膝をつけることになる。
「なん、だと?」
そして、俺は目の前でたったままの上条を見上げる。
上条の『左腕』は未だ俺を殴った時のまま姿勢を保っている。その姿を見て、俺はようやく俺は理解した。
(この馬鹿、まさか――!?)
なんのことはない、上条は俺の『トリプルカウンター』に再び『クロスカウンター』を合わせただけ。
上条は読んでいたのだ。俺が『トリプルカウンター』を使うという事を。
「…俺の、負けか」
「…帝、督」
「行けよ」
心配そうに俺に駆け寄ろうとした馬鹿に俺はそう告げた。
俺たちの道はすでに分かれ、俺は上条に敗れたのだ。敗者は、このまま去るのみ。
だから、
「泣いてんじゃねぇよ」
「っ、泣いてなんか…」
「なあ、上条よ。俺は、お前の為にお前が望むモノを差し出そうとした。だけど、お前は自分の幸せよりもあの子の笑顔をとったんだ」
「ああ、そうだな」
「俺は、誇らしいよ。お前にただ一つの譲れない者が出来たんだからな」
「…………」
「だから、行けよ。あの子にそいつを渡してやれ」
俺がそう告げると上条は無言で俺に背を向けた。
その手にそれを握り締めながら。
俺は体から力が抜けるのを感じ、ゆっくりとそばにあった壁に寄り掛かった。
ここで煙草の一本でも燻らせれば様になるのだろうが、生憎だが俺は煙草は吸わない主義であったりする。
「はは、様にならねぇ」
そう笑って俺は上条の姿を目で追った。
俺の視線の先にはふわりと天使の笑顔を浮かべる少女に可愛らしい服を手渡す上条。
俺の手には明らかに丈が短いスカートのメイド服だけが残る。
「信じられるか? 今までの下りは上条とインデックスちゃんの服を決めるためだけだったんだぜ?」
上条の欲望通りに超ミニスカートなメイド服を着せたかった俺。
あえてその欲望を無視して清楚系を望んだ上条。
そんな、紳士な二人の戦い。
だが、その戦いはどうやら室内で行ってはいけないものであったようだ。
その証拠に俺の目の前には怒りに燃える美人な店員さんと、見慣れたジャージに身を包んだ黄泉川先生。
「お客様、他のお客様の邪魔になるのでとっとと失せやがってください」
「…お前は一日足りと私に休日を堪能させないつもり? 私もいい加減にマジでシメるじゃん」
店員と黄泉川先生。容姿は少しも似ていない二人だが、たった一つ共通している点があった。
それは二人とも笑顔なのに目が少しも笑っていないことだ。
むしろ背後にスタンドっぽい何かが見える。
スタンド使いはスタンド使いでなければ倒せないですね、わかります。
「さて、覚悟はいいじゃん」
そう言って黄泉川先生が一歩前に出た時、その後ろでいちゃつくインデックスちゃんと上条が見えた。
良いんだ良いんだ。この前、僕は美琴ちゃんとイチャイチャを堪能したから。
でもさ、でもさぁ!
「助けてくれたっていいじゃんか!!」
「さて、黙るじゃん」
「アッーーーーー!」
「? とうま、てーとくが叫んでるけど…」
「いつものことだろう?」
??? Sound only
「アレを使えば良い。魔術側(君たち)にとって最大の天敵となりうる最高の素材だ。
加えて、アレは『無能力』であり貴重な情報など何一つ持っていない。そのため、君たちに科学側(我々)の情報を漏らすことはない。
また、アレに君たちの情報を理解できる頭などないのだからな」
「…………」
「さて、双方納得できたところで一つだけ忠告しておこう。アレのそばにいつもいる存在について、だ」
「? それは、一〇万三〇〇〇冊についてですか?」
「違う。そう言えば、そんな者もあったな。確か、記憶をなくしたと聞いたが?」
「…それについては現在私たちで回復方法を探していますが、そもそも回復するための手段を記憶してあったのが彼女です。
回復は、厳しいかと」
「そうか。だが、そんな事はどうでも良い。今はアレの傍らに常にいる『未元物質(ダークマタ―)』のことだ」
「『脳内メルヘン(ダークマタ―)』では、なくてですか?」
「いや、『未元物質』だ。アレだけには今回の件を関わらせるな」
「何故、ですか? 彼にはそこまで力がない。あの子を助ける時ですら、彼は脇役でしかなかった。それこそ、アレに一瞬のお膳立てをしただけでした」
「…『未元物質』。この意味が分からない君たちには話しても意味がないが、一つだけ教えておこう。
アレは『神』に匹敵する化け物だ。私の手に負えない、私に触らせることすら躊躇わせるほどの、な」
「っ!?」
「『吸血殺し(ディープブラッド)』はカインの末裔の存在を証明する。
ならば、『未元物質』は人間の辿り着く可能性を証明するのだよ」
「人間の、たどり着く可能性…」
「忘れるな。アレは私たちの予想をはるかに超える、真の『変態』だ」
「は?」
「ああ、思い出しただけで胃に穴が開きそうだ」
「彼が邪魔ならば消せば……」
「ああ、なら君に頼めるか? 何、魔術側が科学側のモノを殺すことになるが、我々は一向に構わない。むしろ、率先して証拠隠滅をさせてもらおう」
「あの――」
「我々はもう二度とアレに関わらないと決めている。後は君の好きにしたまえ」
「ちょ――」
あとがき
更新が遅くて申し訳ない。
リアルが忙しすぎて小説を書く隙もないです。月姫やリボーン、東方の方の小説も更新したいのですが、本当に余裕がない。
ですから、これからも更新が不定期になること間違いなしです。本当に申し訳ありません<(_ _)>
また、今回は閑話と言いますか二章のプロローグみたいなものですので悪しからず。