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No.6950の一覧
[0] 【習作】とあるメルヘンの未元物質 (とある魔術の禁書目録転生)【完結】[地雷G](2009/12/29 11:23)
[1] プロローグ[地雷G](2009/02/28 04:53)
[2] 一章 一話[地雷G](2009/04/12 18:10)
[3] 一章 二話[地雷G](2009/04/12 18:10)
[4] 一章 三話[地雷G](2009/04/12 18:11)
[5] 一章 四話[地雷G](2009/04/12 18:11)
[6] 一章 五話[地雷G](2009/04/12 18:12)
[7] 一章 六話[地雷G](2009/04/12 18:12)
[8] 一章 七話[地雷G](2009/04/12 18:12)
[9] 一章 八話[地雷G](2009/04/12 18:12)
[10] 一章 九話[地雷G](2009/04/12 18:13)
[11] 一章 十話[地雷G](2009/04/12 18:14)
[12] 二章 一話[地雷G](2009/04/12 18:15)
[13] 二章 二話[地雷G](2009/04/12 18:16)
[14] 二章 三話[地雷G](2009/05/02 03:18)
[15] 二章 四話[地雷G](2009/05/04 01:18)
[16] 二章 五話[地雷G](2009/05/11 00:18)
[17] 二章 六話[地雷G](2009/05/10 23:03)
[18] 二章 閑話 一[地雷G](2009/05/18 03:06)
[19] 二章 閑話 二[地雷G](2009/06/14 01:55)
[20] 二章 閑話 三[地雷G](2009/06/14 01:54)
[21] 二章 七話[地雷G](2009/08/20 00:53)
[22] 三章 一話[地雷G](2009/06/28 21:47)
[23] 三章 二話[地雷G](2009/08/05 21:54)
[24] 三章 三話[地雷G](2009/08/22 18:00)
[25] 三章 四話[地雷G](2009/09/04 21:20)
[26] 三章 五話[地雷G](2009/09/05 16:17)
[27] 三章 六話[地雷G](2009/09/06 21:44)
[28] 三章 七話[地雷G](2009/10/30 23:16)
[29] 三章 八話[地雷G](2009/10/30 23:17)
[30] 三章 九話[地雷G](2009/11/08 01:43)
[31] 三章 十話[地雷G](2009/11/29 00:53)
[32] 三章 十一話[地雷G](2009/12/06 23:41)
[33] 最終話[地雷G](2009/12/29 03:45)
[34] 予告  ~御使堕し編~[地雷G](2010/02/27 16:09)
[35] 番外 一話[地雷G](2009/05/10 23:05)
[36] 番外 二話[地雷G](2009/12/29 03:45)
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[6950] 一章 九話
Name: 地雷G◆f20ef6c2 ID:a0cf472a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/12 18:13
上条side

ぐったりとした彼女は、ふと目が覚めたのかゆっくりとその目をあけ、ぼうっとした表情を俺に向けた。
俺はたったそれだけのことなのに、胸が締め付けられるように疼くのを感じた。


「とう、ま?」


安心したかのように口から洩れるのは、彼女の熱を帯びたため息。
もはや、俺と彼女の間には10分しか残されていない。10分後にはインデックスは上条 当麻の目の前からいなくなる。

いや、全ての記憶を忘れてまっさらになるのだ。

…そもそも、その記憶ですら俺は良いものを残してやれなかった。
それに、俺の後ろで気絶している帝督が酷いことを言って彼女を傷つけた。
そんな状態で彼女に俺は何を言えるのだろう?

いや、一言だけ言わなくてはいけないことがある。


「ごめん」


君を守れなくて、ごめん。
帝督が酷いことを言って、ごめん。
怖い思いをさせて、ごめん。
その苦しさから救ってやれなくて、ごめん。

様々な感情が渦巻いて、俺の中は滅茶苦茶にされていく。
ソレは俺に一つの感情の発露として、涙を流させようとする。しかし、それはいけない。
泣くことさえ、今の上条 当麻にとっては卑怯なのだから。

だから、俺は代わりにもう一度だけ謝った。


「ごめん。俺、強くなるから。もう二度と、負けねえから。お前をこんな風に扱う奴らをまとめてぶっ飛ばせるように強くなるから」


俺は熱でうるんだ彼女の瞳を真っ向から見据え、ともすれば震えてしまいそうになる声を奮い立たせて、かすみかけた視界に彼女を捉えて言う。


「…待ってろよ。今度は絶対に、完全に救い出してやるから」


今さらだ。
次などと言っているのなら今すぐ彼女を助けるべきだ。
しかし、今の俺には力がない。だから、彼女を救うなんてことも出来ないんだ。

インデックスはその俺のみじめな言い訳にふっと柔らかく微笑んだ。


「うん、待ってる。とうまとてーとくなら絶対に出来るんでしょ?」


その彼女の言葉に俺は目を見張る。こいつは、あんな風に自分を傷つけた帝督も信用してくれるのか、と。
あいつは、俺のためにあんな事をした。言ってはいけないことをインデックスに言った。
それでも、彼女はあいつも信頼してくれるのか。

俺がそう感動していると、彼女は再び口を開いた。


「ねえ、とうま。ある所に太陽みたいにかわいい女の子がいたんだって」


「? ……なんだそりゃ?」


俺はその言葉にどこか拍子ぬけになりながらもそう彼女に言い聞かした。
すると、彼女は分かっていないなと笑みを深くしながら口を開く。


「その太陽に惚れちゃった馬鹿な男はね、その手が焼けただれようとその手を伸ばす。そういうお話を聞かせてもらったの」


誰に、とは彼女は言わないが、俺はすぐさまそれが誰か分かった。
皆まで言うまでもない。それは、後ろで伸びている馬鹿が話したのだろう。たぶん、俺が気絶していた間にでも。
インデックスは苦しそうに息も絶え絶えになるが、それでも続きを口にする。


「その馬鹿な男には、最高の親友が居てね? 足を止めそうになった彼を殴り飛ばして前に進ませてくれる。そして、男以上に馬鹿で、最高の英雄なんだって」


太陽に惚れた男がだれで、その親友が誰なのかわかり俺は自分の眼から何かがこぼれてくるのを感じた。
だめだ、それだけはダメなのに。俺はその熱い何かを拭おうともせずに彼女の話に聞き入った。


「英雄はね、傷ついても立ち上がり、助けられない誰かを救う存在なんだって。
それでも、その隣に男がいれば英雄はさらに力を増して、もはや敵はいなくなるって」


だから、と彼女は言葉を続ける。
ふわりと彼女の顔に浮かぶ、俺を包み込むように優しい聖母の笑み。
それは宗教画に描かれる奇跡の聖人の生誕を心の底から喜んだ聖母が浮かべるにふさわしいものだった。


「待ってるよ。英雄が来てくれるその時まで」


「ああ、ああ! 必ずそこに行くから、だから……」


待っていてくれ。俺は君に向けて手を差し出し続けるから。


「ねえ、とうま。てーとくに続きを聞かせてって、言っておいて。男の話は終わらずに、まだ続いているらしいから。それとね、とうまに言いたい殺し文句があるんだ」


おそらくは、その殺し文句と言うものも帝督に教わったのだろう。
そして、彼女は本来ならピクリとも動かせないはずのその手を差し出して、布団の外に伸ばして俺の手にそっと触れる。
その手は異常な熱が出ているため、とても熱い。


「インデックスは、とうまのことが大好きだから、いくらでも待ってていられるんだ」


「インデックス!」


それだけ言いきると彼女は先ほどまで話せていたのが奇跡であるかのように、それが当り前であるかのように意識を失った。
俺の手に触れた手すら力を失って、畳に落ちる。
俺は、それをただ見ていることしかできなかった。


「……ちくしょう」


悔しい。この少女を、自分のことを好きだと言ってくれた彼女を救えない力に自分が悔しい。


「畜生!!」


俺は感情のままにそう叫び、


「なーにキレてんだよ。この中二病患者」


親友の声を聞いた。





上条side out








俺が目を覚ますと、もうすっかり夜のようで辺りは暗くなっていた。
そして、あいつが心底悔しそうに『諦めていた』。


「……ちくしょう」


この世の終わりみたいな顔をして、力なく布団で眠る少女の上で涙を流していた。

……このバカたれは、何をやっているんだ?


「畜生!!」


叫んでる場合じゃねーだろうが。


「なーにキレてんだよ。この中二病患者」


俺はその言葉と共に立ち上がった。
すると、ボロボロになった上条は俺をハッとしたように見上げた。その表情が可笑しくて俺は苦笑しながら、馬鹿の隣に立つ。


「あ、それと人に看病してもらっておいて殴りやがったからに、おごりは覚悟しとけよ?」


「帝、督」


まるで人形のように俺を見る馬鹿に、俺は呆れたように溜息を吐きだしながらその隣に腰をおろした。


「それで? お前はもう諦めてあいつらに尻尾を振るのかよ? 俺を殴っておいて?」


「…俺だって、俺だってこんな最悪な終わりはないって思うよ」


その言葉を聞いた瞬間、俺はとっさに横にいるそいつを全力で殴った。
完全な不意打ち。それこそ防御も回避も間に合わない神速の一撃だ。

そいつは俺が不十分な態勢で放ったために吹き飛びはしなかったものの、痛そうに顔をしかめた。
次いで、何をすると敵意に満ち溢れた目で俺を睨んだ。

しかし、俺はひるまない。今のこいつなんかにひるんでやらない。


「お前、誰だよ?」


「……え?」


すると、上条の姿をしたそいつは呆然とするように俺を見上げた。


「俺が知っている上条 当麻は、こんな程度じゃ止まらねえ。助けられない現実に直面してただ涙を流すだけじゃない。
それこそタイムリミット1秒前まで必死に食い下がって、その子を助けるために駆け回る。違うか?」


「あ……」


その瞬間、上条は元の上条に戻った。
その瞳には不屈の闘志を宿して、その顔には獰猛な笑みが浮かぶ。

そう、それで良い。
上条 当麻という人間は英雄だ。それこそ、誰も叶わないぐらいに。
そして、諦めない。最後のその瞬間まで。


「なあ、帝督。一つ教えてくれ」


「なんだよ?」


何かを思いついたのか、その瞳に確かな希望の光を宿して上条は俺に聞いた。


「完全記憶能力者って、一年間の記憶で脳みその15%も使うのかよ? その場合の計算は、そいつらの寿命は6、7歳で終わることになるんだけど…」


それがインデックスちゃんとどういう風に関わるのかは分からないが、俺は答えてやる。
こう見えても俺は『強能力』。その分だけ上条たち『無能力』と比べて記録しやすいように頭を開発してある。
つまり、勉強ができるという事だ。


「んな訳ねえだろ。人間の脳ってのは140年分の記憶が可能だ。パンクしようがない」


「でも、もし記憶力にまかせて図書館の本を全部暗記したりとかしたら、どうよ?」


「ばーか。これだから『三馬鹿(デルタフォース)』は…。そもそも人の記憶は一種類じゃねーんだよ。
言葉や知識をつかさどる『意味記憶』、あと思い出なんかをつかさどる『エピソード記憶』とかいろいろあるんだ。
因みに、それらはそれぞれ別の容器に入ると言えば分かりやすいかな。だから、別の容器に水を入れても水はこぼれないんだ。
ようするに図書館の本を覚えて『意味記憶』を増やしても、『エピソード記憶』が圧迫されることなんてあり得ないんだよ」


まるで雷にでも打たれたかのように上条は表情を固める。
直後、何かを思いついたのか目を見張り、



「―――――は、はは」



笑った。
どうやら、起死回生の一手を思いついたようだ。
上条はすぐさま苦しそうに眠るインデックスちゃんを振り向くと、おもむろにその頭に手を乗せる。

俺は何かが起きるのかと咄嗟にその身を縮めるが、触れただけで音もしなければ何も起こらない。
それは上条としても意外であったようで、首をかしげておもむろにおれに問いかけた。


「なあ、帝督」


「なんだよ? てか、お前は何かするつもりなら先に言え」


「俺がインデックスの体で触ってない部分ってどこだろう?」


「ぶっほぅ!!?」


ななななな、何をいっとるニダ!! 理解不能ニダ!
アレか、こいつはインデックスちゃんとそこまで深い仲になっていたニダか!?
まさか、もうやったってことは……


「あ、そうか口の中か」


「って、まてぇえええええ!!」


く、口の中ですと!? それはあれですか!?
笛螺遅尾というやつですか!? う、うらやましす!! じゃなくて、上条のあんなにえげつないモノを入れられたら、インデックスちゃんの顎が外れてしまう!
それに、第一病気か何か知らないが、苦しそうに眠っている病人になんてことをしようとしているんですか!!


「な、なんだよ。止めるんじゃねえよ、帝督」


今は一刻を争うんだと、上条はとっさに足にすがりついて愚行を止めた俺を睨んだ。
ぶっちゃけ、その瞳は血走り興奮のためか息も荒い。

アレだ。君は今冷静な判断が出来ていないんだ。だから、落ち着きたまえ。
てか、お願い! それ以上踏み込むと完全に『青髪ピアスの同類(ロリコン)』に落ちてしまうぞ!?

あ、インデックスちゃんを抱いている時点で、もはや同類か。


「いーや、止めなきゃだめだ。お前は疲れているんだよ上条」


「は?」


「そんな少女にぶち込むより、オナホールを使いなさい。フェラは俺も美琴ちゃんにやらせたいことNo.1だけど、出会ってまだ一週間もたっていないのに、それは厳しいよ?」


「…なあ、お前はこのシリアスな場面で何を言ってるんだ?」


「てかさー、美琴ちゃんってSっぽいけど、確実にMだよな。フェラしているときに必死になって顔を真っ赤にしているのを想像すると……。
辛抱堪らん!!!!」


「主人公(ヒーロー)気取りじゃねえ――――主人公になるんだ」


俺の言葉をそのままさっくり無視して、その右手をインデックスちゃんの口の中へと押し入れる。

…あ、なんだ右手の話だったのかよ!?


俺がそう思った瞬間、バギンという何かが砕ける音がした。

同時に吹き飛んでくる上条の体。


「へ?」


俺は当然そんなモノを受け止められるはずがなく、上条と一緒に床を転がった。


「ぐばあ!?」


「わ、悪い帝督」


同時に、上条が上に乗っかったおかげで俺はみしみしと潰された。
慌てて上条は俺の上からどいたが、時すでに遅し。俺は大ダメージを負ってしまった。


「帝督は瀕死となった。と言わけで上条さんは頑張ってください」


「手伝うぐらいしやがれよ!?」


「いやいやいや、無理ですって」


俺はそう言って自分の目の前に広がる悪夢のような光景を指さした。
そこにはぐったりと倒れていたはずのインデックスちゃん。しかし、その両の眼球には真っ赤な血のような魔法陣が浮かんでいる。


「―――――禁書目録の『首輪』、第一から第三までの全結界の貫通を確認。再生準備……失敗。『首輪』の自己再生は不可能、現状一0万三千冊の『書庫』の保護のため、侵入者の撃退

を優先します」


ノロリと、まるで某生物災害のゾンビの如く不気味な動きで立ち上がった彼女は、あの少なくとも俺が三日間世話をしてやった彼女とは似ても似つかない。
まるで、人形のように不気味な存在であった。


「ねえ、上条君や。君は何をしちゃったんだ? と言うか、これはどんな状況なんですか?」


「そういやあ、一つだけ聞いてなかったな。超能力者でもないお前が、なんで魔術を使えないのかってことを」


わーい、上条君が僕を無視する―。
上条はそのまま真っ直ぐインデックスちゃんを睨みつけ、傷が開いたのか血を流す右手を構えている。
俺は、今何がどうなっているのかなんてさっぱり分からない。

でも、こいつが必死に『幻想殺し』を振りかざすってことは、これがインデックスちゃんを救うための最後の戦いなんだろう。

ようがす。この漢、垣根 提督。親友に助太刀いたす!

その瞬間、今まで何事かをぶつぶつと呟いていたインデックスちゃんが、コテンと人形のように首を傾げて言った。


「――侵入者に対して最も有効な魔術の組み込みに成功しました。これより特定魔術『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」


バギン! という凄まじい音共にインデックスちゃんの両眼にあった魔法陣が拡大。彼女の眼前に直径二メートルばかりの魔法陣が広がる。
そして、彼女は歌った。

いや、正確には何か声を出した。それは、これから何かを起こすのに必要なことなのかもしれないが、俺にはただ歌っているように見えた。


――――それこそ、神様の無慈悲な性格を。


バキリ! と再び何かが割れる音がした。それは、目の前のインデックスちゃんの眼前、二つの魔法陣が重なり合った中心に突如として出来上がった黒いスキマから発されていた。
そのスキマには黒い雷のようなものがチロチロとまるで蛇のように時折顔を出す。
しまいには、その穴はどんどん広がっていき、威圧感が増していく。

そんな中で俺は恐怖で顔を引き攣らせていた。

正直に言おう。こんなものは人間の相手に出来るものではない。
と言うか、できるのなら今すぐ上条の首根っこを掴んで逃げ出したい。もっとも、もう手遅れだろうが。


「なあ、帝督」


俺がちびりそうになっているのを我慢していると、不意に上条が口を開いた。
俺はこの真面目な事態の中で俺を無視し続けていた馬鹿に、応えてやることにした。俺ってば大人♪


「何だよ? 今さら逃げるのは無理っぽいぞ」


「誰が逃げるか。俺は嬉しいんだよ。ようするに今目の前で出てこようとしているアレをぶちのめしちまえば、俺はインデックスを救える。違うか?」


「違わないさ」


「だろう? だからさ、俺は行くぜ」


「…止めたいところだけどな。ここまで来たんだ、行って来い」


「おう!」


そう上条が声を張り上げた瞬間、上条はそのままインデックスちゃんとの四メートルばかりの距離を埋めるために駆け出した。
そのズタボロの右手を固く握り締めながら。


しかし、いつの間にかスキマは亀裂へと昇華されており、走りインデックスちゃんとの距離を詰めようとする上条に牙を向いた。



それは暴れ狂う光の奔流。
まるで上条をこの世から削除せんばかりの勢いをもった光の柱だった。
上条はとっさにかざした右手でその光の柱を受け止めた。


「んな、馬鹿な」


バカみたいな攻撃を出す方も出す方だが、その攻撃を止めている上条も上条だ。
正直に言ってチートすぎる。
たしか、あいつの右手の能力は『全ての異能を打ち消す』というもの。理屈はよくわからんが、とりあえず今は目の前の光の柱を防いでくれている。

だけど、勢いに押されているのか徐々に上条が押され始める。


「…アレ? これってまずくないか?」


こんな化け物みたいな光の柱を食らったら死ぬことはおろか、魂ごと消滅させられそうである。
なんとかしなくては……

俺がそう一人で焦っていると、外で待機していたのか赤髪神父とあの女が駆け込んできた。


「また無駄なあがきを…って何だこれは!?」


「ど、『竜の殺息(ドラゴンブレス)』って、そんな。そもそもなんであの子が魔法を使えるんですか!」


何やら慌てているお二人さん。
そんな二人に上条は満面の笑みで言葉を投げかけた。


「おい、光の柱(こいつ)のことを知ってんのか? これの正体は? 弱点は? 俺はどうすればいいか片っぱしから答えやがれ!!」


「いや、しかし……」


上条の言葉に二人はどこか戸惑ったように視線を彷徨わせる。
その間も光の柱は上条を押していっている。もっとも、上条は獰猛な笑みを浮かべたままであるが。


「ああ、もう! 『インデックスが魔法を使えない』っていうのは教会の大嘘だ! ついでに、一年間ごとに記憶を消さなければならないって言うのもな!
だから、解んだろ!? こいつをどうにかしちまえばインデックスを助けられるんだ!!」


「――あ」


「冷静になれよ。教会のおえらいさんたちがテメェら下っ端に本当のことなんか話すわけねえだろ!!」


二人は茫然と亀裂の向こうにいるはずのインデックスちゃんを見つめたようだ。
それにしても、こいつらは行動が遅い。遅いにもほどがあるぞ、この馬鹿野郎!!

俺はずかずかと二人との距離を詰め、あの女の襟首を掴んで引き寄せた。


「ああ、もうウジウジウジウジうざってぇな!! あの子を助けたいんなら、さっさと手伝いやがれ!」


「あ、う」


女は俺の視線からのがれるように目を背ける。
しかし、その俺の一瞬のすきをついて赤髪神父の方は何やら呟くと、大量のカードを辺りにばらまき、そのうちの一枚を上条の首筋に突きつけた。


「あ、てめっ!」


「僕はあいまいな可能性なんていらない! 今ここであの子の記憶を消せば取りあえずはあの子は助か…」


「とりあえず、だぁ!? ふざけんじゃねえよ!!」


しかし、その赤髪神父の叫びも上条によって遮られる。
上条は自分を圧してくる光に真正面から立ち向かいながら、大きく吠えた。


「てめえは、インデックスを助けたいんじゃねーのかよ!?」


二人が雷に打たれたように背筋を伸ばした。


「テメェらはずっと待っていたんだろ!? インデックスの記憶を奪わなくて良い方法を! 
インデックスの記憶を消さないで済む、インデックスの敵に回らないで済む、そんな誰もが望んでいた最高に最高な幸福な結末(ハッピーエンド)って奴を!!」


直後、勢いを増した光の本流に上条の手が押される。
しかし、上条の口は止まらない。そのような状況であっても少しも止まらなかった。
俺は、そんな上条を見ていることしかできない。


「さあ、始めるぞ魔術師!! 主人公はてめえらで、場面は少しばかり長かったプロローグの終わり!
手を伸ばせば届くんだ!! くだらねえ矜持も理念も捨てて手を伸ばせ!!」



「助けたい子(インデックス)はそこにいるぞ!!!!」



上条がここまで言った瞬間、ついに均衡が破れて上条の右手が跳ね上がる。
そして、恐ろしい速さで光の本流は上条へと殺到し、


「Salvare000!!」


その英語ではない不思議な言葉を名乗った瞬間、女はその長い二メートルばかりの刀を抜いて、光に向けて真っ向から打ち合った。
同時に、どんなトリックかは知らないがインデックスちゃんの足もとの畳が切断され、彼女は転倒して仰向けになる。
同時に、彼女の眼前にあった魔法陣と亀裂も動き、アパートの屋根もろとも、いやその上空の空気もろとも、さらにはその上にあったかもしれない人工衛星もろとも全てを貫いた。

やっぱり、あんなものを食らったらただでは済みそうにない。


「――――アレと、まともにやりあおうなどとは思わないでください!」


そう女が叫ぶと同時に上条が距離を詰めようと駈け出した。だが、インデックスちゃんは即座に体勢を立て直すと視線を再び上条に向ける。
その動きに伝道するかのように光の柱が上条目がけて振り下ろされた。
が、それは横合いから駆け込んできたいつの日か見た炎の魔人によって防がれる。

どうやら、あの炎の魔人と言うのは赤髪神父が操っているらしい。


「行け、能力者!!」

彼は上条に何かを叫んで、上条はそれに頷いた。

そして、俺はこの人間の限界を軽く六段ぐらいとばした戦いに何の介入も出来なかった。
能力を発動するにしても、周りの騒音がうるさくて集中できない上に俺の能力はこの場では役に立たないだろう。

むしろ、二人の脳内をメルヘンにしてしまったら、上条も俺も助からないだろう。

せめて、せめて俺の翼がもっと巨大で上条の防御に仕えたのなら――


「ダメです――――上!!」


上条がインデックスちゃんに迫ったその瞬間、まるで上条を上から押しつぶそうと言わんばかりの羽根が上空から出現した。
その凄まじい数からして、『後ろに引かねば回避できない』攻撃だと判断できる。

だが、上条は止まらない。
その中心にいる女の子に手が届くのだからと、止まらずに駆け抜けようとしている。

駄目だ、アレに触れたら――ダメなんだ!!

それは、ただの直感。
いや、俺はただ自分も何かの役に立ちたいと思っただけかもしれない。


「があああああああああああああああああ!!!!」


計算式なんて考えない。
ただ、イメージするのはいつもの可愛らしい羽根ではなく、天を覆い尽くさんばかりの雄々しい翼。
風圧で全てを吹き飛ばせる翼だ。

ゾクリ、と頭に電極をぶっ刺されるような、そんな感覚。
分かっている。これは能力の暴走の兆候だ。制御できない能力の行使に俺の脳が拒絶反応を起こしているのだ。

だが、そんなものは関係ない!!

『自分だけの領域(パーソナルリアル』)に命令する。

――翼を寄こせ

瞬間、全てを吹き飛ばす風と共に俺の背中に片翼四メートルばかりの巨大な羽が一瞬だけ出現する。
その風は上条の上空にあった全ての羽根だけを綺麗に吹き飛ばし、上条に道を作る。
あいつが欲しかった結末へと続く道を。


「決めて来い、親友!!」


俺は叫びながら、上条が右手を振り上げるのを見た。同時に、俺の鼻から一筋の赤い雫が垂れる。
それは一瞬とは言え能力を無理に使った代償。ひょっとすると、脳の血管が切れているかも知れない。

それでも俺は立ち上がって最後の結末を見届ける。
上条はインデックスちゃんにその手を振り下ろすと同時に、あの太い光の柱が消滅。
彼女の体からも力が抜ける。上条はそれを抱きしめるように抱え、愛しげにその名を呼んだ。
それは、全てが終わったことを証明していた。


「インデックス――」


だが、同時に俺は声の限りに叫んでいた。


「上条、まだ羽が残っている!!!!」


そう、インデックスちゃんを抱きとめた上条に俺が吹き飛ばし損ねた羽根が一枚だけ、落ちてきていたのだ。
上条がゆっくりと、まるでスローモーションのように上を見上げる。

その視界には避けようがないほど自分に接近した羽根が見えたことだろう。

俺は駆けだし、その手を伸ばす。

今なら、今ならまだ間に合うと必死で手を伸ばす。

しかし、四メートルの距離は絶望的で、羽根は上条へと舞い降り――





「―――――――とうま」




上条の腕の中から抜け出し覆いかぶさった『白い何か』に直撃した。


「――あ」


その声は、はたして誰のものだったのか?
白い何か、インデックスちゃんは雷に打たれたかのように体を硬直させ、やがてその力を失い再び上条の腕の中に納まる。


その顔には最高に嬉しそうな笑顔があった。




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