03 「ハルトマンと決意、そして飛翔」***Side Wilhelmina*** はい、皆さん。 あれから一週間、怪我が完治したオレは現在、第501統合戦闘航空団の格納庫でストライカーユニットを絶賛装着中です。 何故かバルクホルンお姉ちゃんと一緒に模擬戦を行うことになりました。 うーん、自分でも何でこういう事になってるのかよくわからん。 いや、経緯はわかるんだが……「どうしたバッツ、さっさとストライカーを起動させてこっちに出てこないか」 うん、バルクホルンさん、それ無理。 いやだってさ、このストライカー、足突っ込んでるけどうんともすんとも言わないよ! っていうかそもそも、そっちのストライカーユニットと違って足がすんなり入ってかなかったし。 ぬるっ……って感じで、泥の中に足突っ込んでるような速度だったよ。 あ、あと、足突っ込む時に初めて体験する妙な感覚だったんで勝手に意識が行ったんだけれど。 魔力を流すプロセスって意識を向けるだけでよろしかったらしく、尻尾と耳出ました。 耳は兎も角尻尾とか、尻穴のちょっと上がすんごいむずむずして、そりゃあ頬も赤く染まるわけです。 ……思わず出ちゃった妙に色っぽい自分の吐息に反応したりも。 オレキモイです。 マジ凹む。「? やっぱり、まだ本調子じゃないのか……?」「いや……もう少し、頼む」 適当に応えながら思考する。 「新型機は起動に時間が……」とか言ってるが無視無視。 オレが現在履いているストライカーユニットの型番はMe262。 コンバットフライトシミュレータから入ったにわかミリオタの知識によれば、世界初の実用的なジェット戦闘機である。 ……そんなすげー機体をオレなんかが使って良いんでしょうか。 ああ、もう、なんでこんな事になってるんだぜ……? ――時は一週間前にさかのぼる。***Side WItches*** 金髪の少女、エーリカ・ハルトマンは戦場での凛とした雰囲気とはかけ離れた表情で病室の前に立っていた。いつもの飄々とした表情とも少し違う、不安のそれ。 彼女の脳裏に、数時間前のやりとりが思い出される。////// JG52所属、ヴィルヘルミナ・ヘアゲット・バッツ中尉は一命を取り留めたものの、記憶障害の疑いが強い。 その報を受けたミーナ、エーリカ、トゥルーデの気は重かった。 発見時の状況と、その後の救助・回収・検証作業の結果から、彼女は迎撃のために緊急発進しようとして。 その直前にネウロイのビームが搭乗していた駆逐艦エーリッヒ・ギーゼの弾薬庫を直撃。 爆発に巻き込まれ吹き飛ばされたと推測されている。 とっさに魔力シールドを張ることに成功したのか、骨折や内臓破裂などの重大なダメージ負っては居なかったが。 爆発の熱波と衝撃に晒されたため、全身に重い火傷と打撲を負ったと見られている。 四肢を欠損したわけでもない。 肉体的なダメージは直る。 それを可能にするのが治癒魔法であり、この世界の常識だ。 民間・軍事を問わずに、治癒魔法の使い手達は多くの人々の命を救っている。 だが、精神や記憶と言った物は無理だ。 精神に影響を与える魔法技術の使い手は数えるほどであり、一般的ではない。 また、魔法と平行して発展してきた科学的療法でもそれらの分野は全くと言っていいほど未知のままだ。 結局の所、形が有ろうが無かろうが、ひとたび失われてしまえば帰ってこない。 それが世界の摂理である。「……ミーナ、どうする」 数時間とも思われた――実際は数秒だったのだが――沈黙を破ったのはトゥルーデだった。「そうね……指揮官としての立場から言わせて貰えば、戦えない者は必要ないわ」「そうだろうな」 ウィッチで、空戦適正があり、その魔力適正はMe262を運用できるほどに高い。 そして戦況は膠着しているものの決して楽観視はできない。 正直なところを言えば戦力はあればあるだけ欲しい。教導員だとしても、前線基地であるこの地に来るのだ。 まさか、ヴィルヘルミナが教師役だけやって後は寝て過ごす事はないはずであり、ネウロイが来れば戦列に加わっていただろう。 だが、軍隊は別に戦えない者にそれを強制する場ではないのだ。 訓練過程を修了したばかりのリネットがこの隊に居るのは、統合部隊に自国のウィッチを組み込むというブリタニアの政治的な思惑だけではない。 彼女が戦力になり得ると判断されたからである。 だが、記憶に障害があるとなれば別の話だ。 話を聞く限り、ある程度の記憶は維持されてはいるらしいが。 戦闘関係の記憶や知識が無くなっていれば、それは素人と同じである。 再び訪れた沈黙を破ったのは、エーリカだった。 「私、行ってこよっか?」 「ハルトマン、お前、何を言って……」「いや、解らないなら会いに行って話を聞いてくればいいじゃない? 忘れられてるかも、と思うと不安だけどさ」 どうせこのままだと一度も会わないまま後方に移送されて療養でしょ? と何でもないように続ける。「一度も会わないままと言うことはないだろうが……ああもう、しかしそういうことは私かミーナが直接行くことだろう?」「えー、トゥルーデ行きたいの?」「違う。 私は副官代行としてだな……」「でも結構心配してたじゃん、ヴィルヘルミナのこと」「当たり前だろう、戦友なんだぞ」「二人とも! ……解ったわ。 ハルトマン中尉、昼食後、彼女が収容されている病院に行って、彼女の様子を見てきて頂戴」「ミーナ! 行くなら私が……」「はぁ……バルクホルン大尉、午後は先日回収された補給物資の引き渡しの監督があるはずなんだけど。 回収作業の監督も任せてしまったけれど、これは信頼できてある程度階級の高い人じゃないと」「う……そういえばそうだったな。 じゃあ、ハルトマン、あいつのことは頼んだぞ」「まかされた~♪」////// 本当に大丈夫だろうな。 そう心配していたトゥルーデの顔が脳裏に浮かぶ。 その瞬間は失敬な、と思ったエーリカだったが、いざその瞬間になってみると、不安がぬぐいきれない。 忘れられているかも知れない。 エーリカは別に、ヴィルヘルミナと特に親しかったわけではない。 むしろ、トゥルーデの方がよほど彼女と親しかっただろう。 軍の広報関係ではあったが、一緒に写真に写っていたこともある。 そのころはトゥルーデ、ヴィルヘルミナ共にエーリカより階級が上であったため、部隊運営上の話し合いも良くしていた。 それに引き替え、エーリカは何度か彼女とロッテを組んで戦闘を行ったり、一緒に昼寝をしたりしただけだ。 それでもエーリカは、ヴィルヘルミナのことがどちらかと言えば好きである。 そして、そんな友人に完全に忘れられているかも知れないというのは。 命を預けあった戦友に、誰ですか、と問われるかもしれないというのは。 撤退の時に毎日感じていた、隣にいる友が明日には居ないかも知れないという恐怖とも。 命のやりとりを行っている時に感じる恐怖とも、違う物だった。 エーリカの、普段は武器を握っている小さな手が、ドアを叩いた。 木を叩く独特の柔らかい突音が響く。「……入れ」 聞き覚えのあるトーン。 動悸がやや速くなる。 ドアノブを握り、押す。 それだけの動作だ。 二秒もかからずにドアは開かれる。 エーリカは出来た隙間から、そっと室内をのぞき見た。 士官用の、しかし決して広くない個室の病室。 窓際のベッドに、彼女は居た。 肩の下まで伸びた、毛先にウェーブのかかったブルネットの髪。 エーリカより年上にもかかわらず、部隊最年少のルッキーニと同程度の体躯。 半身を起こしてこちらを向く顔の半面には包帯が巻かれ。 病院着の隙間からは包帯が見え隠れしていて、非常に痛々しかった。 その身体は満身創痍だったが。 「ちび」の愛称で呼ばれていた、ヴィルヘルミナがそこに居た。「エーリカ……ハルトマン?」 彼女のことを覚えて、そこにいた。「あ……」 忘れられていなかった。 彼女は私のことを知っている。 そんな安堵がエーリカの胸中を満たした。 心配していたのが馬鹿みたいだった、と。「あはは、久しぶり! 大丈夫そうで何よりだよ」「ああ……」「それにしても災難だったね、トゥルーデも心配してたよ。 トゥルーデ、覚えてるでしょ? もう心配ッぷりが半端じゃなくてさー」「トゥルーデ……」「……覚えてない?」「いや……ゲルトルート、バルクホルン?」「そうそう! それでね……」 変わらない。 ほとんど単節で喋るような喋り方も。 その優しそうな声音も。 今までの、柄にもない緊張をごまかすように。 今まで離れていた分を取り戻すように。 生きて再び出会えた喜びを伝えるように。 隊のこと。 バルクホルンのこと。 ミーナの事。 ブリタニア戦線のこと。 此処にたどり着けなかった者のこと。 たどり着けた者のこと。 エーリカが一方的に話し、ヴィルヘルミナが簡単に返事をする。 昔通りのやりとりだったから、エーリカはそれに気付くのが遅れた。「どうかした?」 この数年で何があったのか、一時間ほど話していたら。 ヴィルヘルミナの視線が下がっていた。 何度か逡巡するように目線が彷徨い。 その言葉が、口から流れ出た。「……すまない」「え?」「オレは知っている…… お前が、どんな人間か……どんな風に戦うか…… バルクホルン……のことも。 だけど」「……」「オレは……知らない…… お前と……お前達と飛んだことを……知らない。 オレは……お前達が知っている……オレ、じゃない……」 すまない。 一つしかない鳶色の瞳を瞼の下に隠して、ヴィルヘルミナは口を噤んだ。***Side Wilhelmina*** ごめんなさい。 それ以外の言葉が思いつかない。 目の前にいる少女は、エーリカ・ハルトマンは、元々アニメの登場人物で。 つい先ほど、オレの現実の登場人物になった。 別にそのことに関しては今更どうとも思わない。 ただ、心苦しい。 この、少女のことをなまじっか知っているから余計に。 オレは多分、この世界で、ヴィルヘルミナさんとして生きていくしかないわけで。 エーリカは、オレに期待している。 以前のように、彼女に接することを。 以前のように、バルクホルンに接することを。 だがそれは無理だ。 オレは以前のヴィルヘルミナさんを知らないし。 オレは自分を殺してまで彼女の真似をする気はない。 ……もっとも、この喋り方に動じないと言うことは、案外ヴィルヘルミナさんもオレと一緒で引き籠もりだったのかも知らん。 だから謝るのだ。 すまない、と。 彼女たちが望む物は、此処では得られないのだと。 「……実はさ、ミーナに、ああ、さっきも話した、今の私の部隊の司令官ね。 ミーナに、ヴィルヘルミナの様子を見てきて貰うように言われたんだ。 元々、ヴィルヘルミナは私たちの所に、新型機の教導に来る予定だったんだよね。 ……覚えてる?」「いいや」「そっか。 ……飛び方、覚えてる?」「……いいや」「そっかー」 それじゃ、しょうがないかな、なんて悲しそうに苦笑しながら。「ミーナに言ってさ、安全な後方に送ってもらうよ。 そこでゆっくり身体を治せば、きっと記憶も戻ってくるから」 絶対この年齢の女の子がしないような表情で。 絶対この年齢の女の子が言わないような台詞を言う。「大丈夫、ネウロイは私達が絶対に食い止めてみせる。 ここから先には進ませないし、これ以上街を焼かせもしない」 ――――おいおい、そんな顔でそんなこと言われちゃあさ。 オレも覚悟決めなきゃ駄目だろ。「カールスラントも、絶対に取り返してみせる。 だから、ヴィルヘルミナは、安心して――」「断る」 休んでていいよ、なんて言わせねぇ。 オレにだって男としての意地って物がある。 転生だか憑依だかを経験して、真の意味で天涯孤独になったオレ。 そこで、少ない時間ながらも言葉を交わした相手だ。 しかも確かまだ年齢的に高校生だぜ、この子。 そんな子供がこんな台詞を吐いて良いわけねえだろ。 んでもって、この子が所属している部隊には、元々のオレの年齢の半分くらいの子だって居る。 そんな年端もいかない子達に守られて、後ろの方で安穏と暮らすとかほんと無いわ。 オレには耐えられない。 戦う力があるとか無いとか関係ないし、力で言うならあるはずなんだ。 今のオレはウィッチだから。 尤も、飛び方とか知らないから空に上がれば足手まといだろう。 だが、空戦するだけが戦いじゃない。 なんでもやるさ。 それこそ、掃除婦でも炊事でも書類整理でも。 こいつの、こいつ等の力になれるなら。 こいつ等の助けに少してもなれるなら。「なんでもやる……オレを……使え」「……でも、出来るの?」「出来るか……出来ないかじゃない……やるんだ。 それに……お前達だけを、戦わせたくない」 男一人暮らしの半ニート舐めんなよ、二週間42食、同じ献立しなくて良いくらいにはレパートリーあるんだぜ! 掃除だって得意な方だし、書類整理とかだったら……なんとかなるだろ。 エーリカはしばらく迷っていた様だったが、オレがじっと見つめて頷いてやったら、決心してくれたようだ。 「……わかった! じゃあミーナには伝えておくから!」 そう言って、笑顔で部屋を出て行くエーリカさん。 それを決意を込めて見送るオレ。 このときは、まさかこんな事になろうとは思っても居ませんでした……////// 以上回想終わり。 エーリカァァァァァァァッ!!!! 確かに主語や目的語が曖昧だったオレも悪いけどさぁぁぁ! 雰囲気に流されて、これでよし……とか思っちゃったオレも悪いけどさぁぁぁ!! 病み上がり一番に模擬戦とかさせんじゃねぇよぉぉぉぉ!!! 病院から朝イチに連れてこられて、そのまま格納庫に直行ですよ。 そこでバルクホルンお姉ちゃんに、入団試験である模擬空戦を行う! とか言われた。 無茶苦茶である。 無茶苦茶であるが、やたら嬉しそうに説明するバルクホルンを見ていると、なんか邪魔をするのが非常に申し訳なくて…… あとオレ、朝は血圧とテンションが低いので…… ん? そういえばこの惨事をセットアップしたはずのエーリカが見あたらないな。「バルクホルン……エーリカは?」「ん? ハルトマンか? ヤツは確か今日は非番だったから……まったく、ヤツのことだからまだ寝ているんじゃないか?」 オレがこんな危機的状況にあるというのに惰眠をむさぼっているだと!? あンのアマァァァァァァッ!!! オレが後から、雰囲気に飲まれたオレの発言きめぇ……とか反省してたのに! これが終わって生きてたらぜったいあの微妙な胸を揉み倒してやるからな! この身が女であることを最大限に利用してやる……最早手段は選んでいられねぇ……! ンでもって桃色吐息でヒィヒィ言うくらいにだな……!「? ハルトマンがどうかしたのか、バッツ」「いや……」 おかしなヤツだ、とか言われるオレ。 ……まぁ落ち着けオレ。 桃色桃源郷到達のためには とりあえず飛ばなくては。 ――魔法は精神的な物である、らしい。 全く魔法に関して無知なオレだが、反射的に意識を向けるだけでストライカーユニットも、ケモ耳尻尾の装備も出来たのだ。 精密精緻に、手足のように魔法を扱うには、専門の教育や知識、訓練が必要だろう。 だが、ただ魔法を使うだけなら、オレにだって出来る。 ウィッチの身体は、そういう風に出来ているのだろう。 とにかく、知識が無くても、オレは魔法を、魔力を使えるのだ。 目を閉じる。 ストライカーユニットの中、異次元と言う名の不思議空間につながっているはずの両足に、意識を向ける。 目に見えるのも、足に感じるのも金属の感触だ。 金属で出来た、空を飛ぶための、足。 ストライカーユニットという鉄の義足に、イメージという名の血管を伸ばしていく。 バネが弾ける音。太ももの外側で軽い衝撃。 おそらくは、その位置にあった装甲が閉じた音だろう。太ももが強く固定される。 良い感触だ。やり方は間違っちゃ居ないらしい。 伸ばした血管に、血を流し込む。 ゆっくりと、ゆっくりと、決して焦らず、蛇口を慎重に緩めていく。 こいつはジェットエンジンだ、それも初期の。 初期のジェットエンジンは耐熱性が無くて、いきなりフルスロットルにすると燃焼室が融解したらしい。 魔道エンジンだから違うのかも知れないが、だからといって乱暴な賭は出来ない。 やがて、バルクホルンの魔道エンジンの音を上書きするように、叫声にも似た吸排気音が響き始める。 ……きたっ!「ほぉ……なかなか面白いエンジンの音だな。 しかし、起動で二分か……即応性に問題がありそうだな」 うるせー、多分もっと速く起動できる。 オレの能力経験不足だ。 お前がやればきっともっと速い。 胸中でぼやきながら、目を開く。 Me262を装着台に固定していたロックが外れる。 浮遊感。 足元を見れば、小さな青白い魔法陣を展開させて、オレは地上数センチを浮遊していた。 前に、と思えばするすると氷の上を滑るように前に進んでくれる。 案外姿勢と機動制御は楽かも?「バッツ。 お前の分だ」 長い金属の塊を手渡される。 両手で受け取ったそれはオレンジ色に塗装されたMG42だ。 箱形のやたらでかい弾倉付きである。 あれ、案外軽いな。 お米袋担いでる感じ?「……軽いな」「まぁ、装填されているのはペイント弾だからな。 それに、新型の魔力増幅率はかなり高いから、身体強化もそれに比例して強くなってるんだろう。 ついでに言うならお前の魔法技術は質量・重量操作だろう?」 ……重力を自在に操り光速の異名を持つなんとやら、とかそんな中二病能力の持ち主だったんすかオレ。「なんだ……それは」「……すまん、それも忘れていたのか。 バッツ、お前の固有魔法技術は触れている物の重量と質量を擬似的に上下させるんだ。 軽くなれ、とでも思いながら魔力を流してみろ」 ……おおう、なんか軽くなってきました。 すげー、軽ーい。 中身入りのリッターペットボトルくらいの重さになりました。「逆に、重くなれ、とでも考えれば重くなるんじゃないか? 最も、お前は質量は重く、重量は軽くすることしかできないらしいがな。 まぁ、前に……ん……前のお前の言っていたことだが、軽くしても質量は変わらないから振り回す時に注意しろよ」「気にするな」 声のトーンが落ちかけていたバルクホルンをとりあえずフォローしつつ、魔力を流したり流さなかったりしてみる。 うーん……要するに、重量は軽くできても、質量は重くすることしか出来ないから慣性とかに振り回されないように、ッてことね。 ……やっぱ重力操作じゃねーか! しかも質量操作とか分子構造変わるじゃない! どうやってんだ……あ、いや、流し込んだ魔力の分だけ重くなるとかそんな感じなのか? 耳と尻尾生えるとか物理法則無視なパワーだからな…… それにしても大して役に立ちそうもないな……質量減らすことも出来るなら重火器自由にぶんぶん振り回せそうなもんだけど。 そんなことを思いながら、バルクホルンに促されるまま滑走路上にするすると動いていく。 ……歩かなくて良いのは楽だな。 「判定はミーナが行う。 模擬戦の開始も、ミーナが地上から通信でやってくれる。 インカムはつけたな?」「……ああ」「ミーナ」『こちら第501統合戦闘航空団司令部、ミーナ=ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。 二人とも、聞こえるかしら?』「……ああ」「感度良好、問題なしだ、ミーナ」『こちらも感度良好よ。 今回の模擬戦だけれど、いつもどおりユニットに被弾した時点で戦闘不能・撃墜判定とします。 シールドの出力は調整してあるから、ペイント弾でも規定値を超えれば貫通するわ。 戦闘空域は基地周辺20kmとします。 エリアから外れそうになった場合はこちらから警告を送ります。 これを無視した場合には敵前逃亡と見なし、自動的に敗北。 制限時間は三十分。 決着が付かなかった場合は、こちらで判定を下させて貰うわ。 これで良いかしら?』「……ああ」「了解した」『……バッツ中尉、本来なら貴女は後方で静養するべきなの。 それを蹴ってまで此処に居たいと言うのだから……それなりの物を見せて頂戴』 ミーナさん微妙に怖いよ!? 劇中だともっと優しくなかった!? 芳佳さんの時とは大違いだよ! 実は身内にしか優しくないとかそういうのなんですか!「……解っている」 だけど、オレだって此処まで来た以上何もせずに帰れるか。 コンバットフライトシミュレーターで鍛えた実力、見せてやるよ!「先に行くぞ、バッツ。 ……ゲルトルード・バルクホルン、いくぞ!」 プロペラとエンジンの回転数が一気に上がる音。 バルクホルンの足下の魔法陣が大きく拡大される。 前傾姿勢になり、プロペラの推力を水平方向に向けた彼女は、風をまき散らして加速。 滑走路を1/3ほど走ったところで離陸していった。「……行くか」 その姿を、綺麗だな、かっこいいな、なんて思っている余裕は今のオレにはない。 原型機はシミュレーターで散々飛ばした事があるとはいえ、これは現実だ。 しかも、ストライカーユニットとか言うよくわからん代物である。 余裕ぶって虚勢を張っていた精神が、緊張で冷えていく。 ……オーケー。やってやろうじゃねえの。 流す魔力の量を徐々に上げていく。 それに比例するようにエンジン音も甲高くなっていく。 よーしよし、良い子だ……この辺は気むずかしいバイクをあやすのと似たような感じだな。 オレの足下の魔法陣も、バルクホルンのそれよりは少し小さいが展開される。 噴出口からはき出される風が、周囲にまき散らされ、オレの長い髪がはためくのを感じた。 こんなもんか? ……ええい、男は度胸!「ヴィルヘルミナ・バッツ……出る!」 バルクホルンに習い、前傾姿勢になる。 前に倒れそうになる身体。 だが、ストライカーが押し出すオレの身体は倒れない。 前に出る。 速度が上がる。 陽光に輝く海を横目に滑走路を駆け抜けていく。 だけど――畜生、加速が温い! 滑走路の1/3程度を走りきっても、バルクホルンの半分も出てないぞ。 焦るな、焦るなよオレ。 此処で意地になってフルスロットルとかして、エンジンチャンバー溶けたらそこで終わりだ。 「飛べ……」 加速は続く。 焦りの所為か、声が震える。 滑走路の半分を走りきる。 まだ速度が足りない。「飛べ……ッ」 加速は続く。 吹きすさぶ風の所為で涼しいはずなのに、汗がしたたり落ちる。 滑走路の2/3を走りきる。 まだ少しだけ、速度が足りない。「……飛べよッ!」 もう後がない。 滑走路の終わりが、広がる海原が見える。 ここでドボンはあまりにもみっともないだろうが! 飛翔するイメージを強く持つ。 上へ。 空へ。「オレは……!」 ――浮遊感。 その瞬間は唐突に訪れた。 ゆっくりと身体が上昇していく。 眼下の、滑走路の灰色は消え去り、海の青が全面を支配した。 視線を上げる。 そこには、果てしない青空と、点在する白い雲が。 ……あ、ははは! オレ飛んでるよ! ああ、うん、今、オレは空を飛んでいる! こりゃあアニメで芳佳がはしゃいでたのもよくわかる。 オレは今、生身の人間が一生かかってもたどり着けない場所に居るんだ。 そんな言いようのない感慨にふけっていると、インカムから声が聞こえた。『……良く帰ってきたな、ヴィルヘルミナ』「……バルクホルン?」『お前の右斜め後ろ上方だ』 インカムの通信に従い、そちらの方に視線を向ける。 遙か上方に、空を飛ぶ人影が小さく見えた。 高度をあわせる。 一度空へ上がってしまえば、基本的な機動は案外楽に行えた。 才能があるのか、身体が覚えているのか、それとも基本的な機動は簡単なのか。 まぁ、三つ目だろう。 一つめを選ぶほど自惚れちゃ居ない。 基本はスキューバみたいなもんだった。 バタ足しなくてもストライカーユニットが勝手に推力を生み出してくれる。 オレはその推力の方向を足を動かして操作するだけだ。 高度を合わせた後は、適当に慣らし運転。 ……うん、これなら、やりたいことは割と出来そうだ。 次いで、背中に担いでいたMG42を手に持つ。 えーと……ファイアリングロックはこれか? うん、これだな。 よし、命中精度は期待できないがそこは機関銃。 弾数が命中率を補ってくれるだろう。『準備は良いか、バッツ』「……ああ」『そうか。 本気で行かせて貰うぞ』 ああ……て、ホワッツ!? ちょ、おま、待って! 待って!『……二人とも、安全高度に到達。 準備も出来たみたいね。 現時点より双方の無線を封鎖。 司令部との交信のみを許可します。 模擬戦闘訓練……開始!』 --------自分のエーリカに対するイメージはこんな感じ。一般的なイメージとのぶれはそんなに無いと思う。主人公のキャラとしての軸はぶれまくりだけどな。あと、こんな無茶なテストする理由も一応あります。詳細は次で。改行をちょっと変えてみるテスト。横幅が広いから別に38文字付近で改行しなくてもいい気がしてきた。