18 「お茶と約束」******「……」「…………」 ペリーヌ・クロステルマンは目の前の少女があまり好きではない。 というか、好き嫌いの感情以前に苦手である。 どういう相手なのか掴み損ねていた。 敵か味方か、判別しかねていたといっても良い。 自身よりも年上なのに、あきらかに年下に見える容姿。 大き目の服に隠れたその胸以外。 影の薄い、居るか居ないかも定かではないサーニャよりもぼそぼそとした喋りなのに、いやに主張する妙な存在感。 トゥルーデやエーリカと同じくらい歴戦の戦士のはずなのに、いまいち洗練されていない戦闘機動。 そして何よりもその無駄に威圧的な視線と表情である。 何時も何かに怒っているかのようにも見えるその目つき。 無表情の癖に火傷痕のお陰で凄みを見せる表情。 兎も角。 ペリーヌは自分を無言で睨み付けてくる少女――ヴィルヘルミナが苦手だった。 そんな相手と一対一で相対している。 この場に他人が居れば話の振りようもあるのだが、あいにくと無人の廊下のど真ん中だ。「な……何か用ですの?」 腕を組む。 妙な沈黙に耐えられず、そう聞いた。 ヴィルヘルミナは無言で一歩前に出る。 怯みそうになったが、ぐっとこらえた。 ペリーヌは歴史を持つ貴族の子である。 たとえ祖国ガリアと共に領地も失ったとはいえ、誇りまで失ってはいけないと常日頃から自分に言い聞かせていた。 ポケットに突っ込まれていたヴィルヘルミナの手が引き出される。 普段なら何事かと問いただすところだが、ヴィルヘルミナの瞳から視線をはずせない。 自分の頭へと向かってくるその小さな手が妙に大きく見えて思わず息が詰まった。 思わず少し目を閉じてしまう。「……髪」 頭に手のひらではないやわらかい感触。 濡れ髪から、水分が取り払われていく。 その時点で、ペリーヌはようやく自分が何をしようとしていたのか思い出した。 ヴィルヘルミナの雰囲気に威圧されていたとはいえ、懸念事を一瞬忘れていた自分を少し情けないと思い、ため息をつく。 「……綺麗、なのに……」「あ、ありがとう……って、お礼は言いますが、余計なお世話です」 それでも濡れている髪から水気をぬぐってくれているヴィルヘルミナを好きにさせつつ、素直に目を閉じる。 親切でやってくれているのだ。 どうせこの後すぐシャワーを浴びるとはいえ、何時までも髪を掃除水まみれにしておくというのも気分が悪い。 どうも最近入隊した二人はおせっかいが好きな様で。 幸いなことは、ヴィルヘルミナの方は芳佳よりも幾分かしっかりしているように見えるところだが。「まったく……あの豆ダヌキ……こほん、もとい、宮藤さんにも困ったものですわ」「……」 無表情で首を微かにかしげるヴィルヘルミナを少し不気味に思いながらも、ペリーヌは愚痴をこぼすように語りだす。 髪の濡れている理由。 掃除中の芳佳に水をたっぷり含んだモップを頭に被せられた事。 二回もだ。 芳佳の注意力散漫さ。 ペリーヌが注意をしている最中、余所見をしてまったく聞いていなかった事。 基本的には芳佳の未熟さについての苦言だったが、話しているうちにだんだんとおかしい方向へと逸れていく。 曰く、考え方が甘すぎる。 曰く、いくらお国料理だとは言え、腐って糸を引いている豆を食卓に出すなど考えられない。 曰く、坂本少佐に馴れ馴れしすぎる。 曰く、坂本少佐は構い過ぎているのではないか。 曰く、坂本少佐にもっと敬意を払って接するべきである。 曰く、坂本少佐と一緒のお風呂に入るなど恐れ多すぎる。 私も一緒に入りたいのに。 曰く、坂本少佐って素晴らしいですわよね? というか、いつの間にか主題がすり替わって坂本少佐――美緒の事ばかりで。 髪を一通り拭い終わったヴィルヘルミナはそれをじっと聞いていた。 「――と、言う訳なのです。 ああ、素晴らしいですわ坂本少佐……貴女もそう思いません事?」「……ペリーヌ、は」「はい?」「……美緒、少佐が……好き」 ヴィルヘルミナの口から放たれた言葉。 それがペリーヌの耳に届いた瞬間、白磁の肌が一瞬で耳まで上気する。 美緒の話をしている間に自然と己の身を抱くように回されていた手が緊張のため強ばり。 な、とかぬ、とか、声にならない音が彼女の口から壊れた楽器のようにこぼれ落ちた。「な、の、そそそ、そ、そんなことは……」「では……嫌い」「う、ええと、その……そ、それこそあり得ませんわ! 第一、わたくしはその、好きとか……ごにょごにょ。 そう言う感情ではなく、そう、純粋に尊敬しているのです!」 自分の中で落としどころが見つかったのだろう。 やや落ち着きを取り戻したペリーヌの耳に追撃が入った。「好き、は好き……そう言う……どんな、感情」 好きというのに、それこそ好ましいという、それ以外の何があるのかと。 まったく場面にそぐわぬ無表情でヴィルヘルミナはそう問う。 実際の所、ペリーヌが美緒に持っている感情は崇拝に近い尊敬の念だ。 そこに艶っぽい要素は一切無い。 無いが――いざ、こう聞かれてみると返答に詰まる。 自分でも理解している。 明らかに、普通の相手に抱くような感情の段階を超えているのだから。 じっと、ガラス玉の様な瞳に見つめられて、ペリーヌの思考は逃げ場を求めて疾走する。 辺りを見回して、何か無いか、誰か居ないかさんざん探して。 疾走して――結局、いつもの所に落ち着いた。 すなわち。「な、何を仰るんですか! 少佐の様に素晴らしい方にそんな……ありえません。 それと、なんですか、バッツ中尉! 少佐の下のお名前を呼ぶだなんて……規律厳しいカールスラント軍人とはとても思えませんわね」「……良いって、言った」「本人が許可しようと、それとこれとは話が別でしょうに。 それに、そういえば救援の際に、ば、ば、馬鹿と! 少佐のことを馬鹿と呼んだそうですわね!」 逆ギレである。 「それに! 先日の朝食の際、坂本少佐にあの腐った豆……な、ナートゥ?」「納豆……」「そう、それですわ! そのナトーを処理していただいたでしょう!」 北大西洋条約機構、などと彼女にとって意味不明な台詞を呟くヴィルヘルミナ。 視線で射殺す。 無表情のままヴィルヘルミナが一歩後ろに下がった。 もはやペリーヌにとって彼女は苦手な相手ではなかった。 自分をからかった上に、美緒に必要十分な敬意を払ってない相手である。 とりあえず、敵だった。「あれは……美緒」「坂本! 少佐!」「……少佐が……」「お黙りなさい、まだわたくしが喋っている途中でしてよ!」 まったくもう、あの豆ダヌキと言い、中尉と言い、世界の空を守るウィッチーズとしての自覚が云々。 勢いづいたペリーヌは止まらない。 ヴィルヘルミナが黙っているのを良いことに、長々とお説教は続いていく。 数分。「ん、なんかぎゃーぎゃーやかましいと思ったら……何やってんだ」 少し遠くの角を曲がろうとしてペリーヌの声を聞いたエイラが寄ってきた。 通る人数が少ないとはいえ廊下、つまりは人員の移動経路である。 最初の邂逅からずっと移動していないのだ。 流石に誰かが通りがかってもおかしくない。「エイラさん、邪魔しないでくださいまし。 今、先任士官としてこの方に規律のなんたるかを説いているところですから!」「カールスラント軍人相手に規律て……」 いや、エーリカみたいな例外中の例外もいるだろうけど、と。 エイラの口からは呆れの吐息が漏れる。「まぁ、ほら……ヴィルヘルミナもうんざりしてるじゃないか」「…………」「表情は先ほどと一切変わってませんわよ」「ふっ……精進が足りないな、ツンツン眼鏡」「何の精進ですの!?」「…………」 まぁいいや、わかんない奴には何言ってもわかんないだろうし、と手をひらひらさせて。 わざわざ耳と尻尾まで生やしたエイラの狐のような笑みが余計にペリーヌの感情を逆撫でする。 ペリーヌは反撃の為口を開こうとするが「ああ、そういえば、少佐がなんか探してたっぽいぞ」 そう、尻尾を揺らめかせたエイラに機先を制される。「んぐっ……ほ、本当ですの?」「本当本当」「エイ、ラ……」 何かを言おうとしたヴィルヘルミナの頭に手を乗せて。 いつもより強めに、かき混ぜるように撫ぜた。 むぐ、とヴィルヘルミナが小さな呼気を吐くのを無視しながら。 髪も汚れてるみたいだし、会うならシャワーとか浴びないと、とエイラは急かす。「わ、わかりました。 ヴィルヘルミナさん、先ほど話したこと、くれぐれも心に留め置いてくださいね」 そのまま、ペリーヌは大股歩きで進み出す。 向かう方向はシャワー室のようだった。 その姿が角を曲がり、見えなくなったところでエイラは溜息一つ。「んー、相変わらず扱いやすい……」「美緒……少佐、嘘?」「まぁ、嘘は言ってないから」 それに、ペリーヌが少佐に話しかける口実を作ってやったんだから感謝して貰わないと。 エイラはそう続けて、ヴィルヘルミナの髪を、今度は解かすように撫でた。 乱れた髪がきちんと整うのを確認して、頷く。「ん、じゃあ私はサーニャ起こしてくるから……お茶会でなー」 そう告げて、軽やかに歩み去るエイラの背中を見ながら。 ヴィルヘルミナもエイラやペリーヌと同じように息を吐いて。 エイラに触れられた当たりを撫でながら、自室へと向かった。 ****** 昼食後。 少し遅れてオレはテラスにやってきた。 前にエーリカと話したりした場所。 白い丸テーブルが五組。 そこに座っている人たちも五グループだ。 上官二人、エイラーニャ、シャッキーニ、カールスラントコンビ、あと若手三人組。 若手三人組てなんかお笑い芸人みたいである。 テーブルの上には茶器セットと焼き菓子らしき物が幾つか。 誰がどこから見ても文句なく、お茶会だった。 ネウロイ侵攻の合間に休息としてお茶会など開いているのはアニメを見て知っていたが、実際に目の当たりにするとアレだな。 暢気だなー。 今回も予定より早くいらっしゃいますよ、ネウロイさん。 前回、陽動作戦を取ったとはいえ予定通りの襲撃だったぽいし。 ……油断してるのか、それとも本来の目的通り気を張りつめすぎないようにするためか。 さて、少し出遅れたらしい。 何処に座ろうかという感じである。 こういうのって微妙に悩むものがある。 こう、教室でグループ分けしたとき、一人だけあぶれてるあの気まずさとか。 一番奥の方にある美緒さん・ミーナさんのテーブルはちょっと遠すぎる。 あと、夫婦の中に割ってはいる気は無いです。 芳佳を筆頭とした若手グループは、その、ペリーヌが面白怖いので遠慮しますです。 いやぁー、ちょっとからかっただけで結構面白いのな! でもオレ、今は弁舌が全然立たないって自覚が無さ過ぎたな……反論とか口挟んだりとか一切出来ねえでやがる。 軽妙なノリの無いからかいは苛めと変わらんトコもあるし、もっと上手く喋れるようになるまで自重しよう。 ……三週間近く他人と触れ合ってて一向に改善の余地が無い今、美味く喋れるようになる日が来るのか不安で仕方が無いが。 エイラとサーニャも、美緒さんと同じ理由で無し! 二人だけの空間が出来上がっております。 なんか妙にエイラ構ってくれてるから突っ込んでっても厭な顔はされないだろうけど。 でも! ぶっちゃけるとオレ、エイラとサーニャのセットが好きだから! そこに割り込んでいくのは気が引けるのです。 ……カールスラントコンビも、無いな。 なんというか昨日の今日ので気まずすぎる。 もう少し冷却期間置くか……オレも、バルクホルンも、多分必要だ。 何でだろうな、最近妙に沸点が低い気がする。 と言う訳で残る選択肢は一つ。 突撃ー。「お。 お客さん、いらっしゃーい」「いぇーい!」「……いぇー、い」 なんかお水っぽいシャーリーと意味のよくわからないルッキーニの歓声に応えつつ、彼女達のテーブルに混ざらせて頂くことにしました。 いやぁ、このグループは良いね、何時もドライというか、いやこの言い方だとネガティブな感じだな。 何時でもカラッとしてて、真夏の太陽の様な感じでございます。 ……エーリカの視線がちょっとだけアレい。 すまんな。 でも、初日のお前さんよりは無責任じゃ、無い、はずだ! 出来れば次の出撃までに決着は付けておきたいが……クソ、次のネウロイって何時だっけか。 遠くないのは確かなんだが…… オレが席に着いたのを見て、ミーナさんが、そして美緒さんが口を開く。「皆さん、お仕事ご苦労様です。 観測班からの連絡によると、次の出撃は明後日になります。 今日はゆっくりして、英気を養ってください」「ああ、宮藤、リネットはこの後も訓練だ。 気を抜くなとは言わんが、切り替えだけはしっかりするように」「「はい」」 そして、そのまま各々のテーブルで好き勝手に会話や茶器をこすらせる音、お茶を啜る音が……いや、うん。 芳佳さーん、紅茶は音立てて飲んじゃ駄目だよー。 日本茶も格式高いところだと音立てて飲むと怒られるんだよー。 案の定ペリーヌに窘められて、リネットに指導を受けていらっしゃいます。 で、うちのテーブルであるが。 何故かポットが三つありやがります。「……どの、ポットが……紅茶」「ああ、こっちが紅茶用のお湯。 この背の低い奴が紅茶を注ぐ奴な。 で、こっちがあたしのコーヒー。 どっちにする?」「紅茶……」「はいよ。 ほらルッキーニ、砂糖とミルク取ってやってくれ」「はーい」 割と茶器とか本格的なのが揃ってるな……さすがはイギリス……もといブリタニア。 その割にはティー・バッグとか普通にあるけど。 まぁ別に紅茶の味なんぞ気にもしないし、飲めりゃいいけど。 一回り小さなポットから、やや濃い色の紅茶を注いで貰って。 匂いを一嗅ぎ。 結構良い匂いだ。 ティーバッグの癖に……良い葉っぱ使ってんだろうか。 いや、オレの嗅覚が貧乏くさいだけかも知れないけれども。 角砂糖を一個投入。 ミルクはいいや、匂い変わっちゃうし。「んじゃ、乾杯するかー」「乾杯……?」「そうそう! シャーリー、偉くなったんだよ!」「うむ、聞いて驚け。 あたしことシャーロット・イェーガーは先日付で大尉になりました」 いやー、辞令が遅れてただけなんだけどねー、と朗らかに笑うシャーリー。 ほう……それはそれは。 何にせよめでたい話だ。 シャーリーの性格なら人の上に立ってもきちんと人、纏める事が出来そうだしな。 ペリーヌとかルッキーニとかよりはよっぽど上司にしたい人間である。「いやー、悪いね、同階級で仲良くしようって言ってたのにさ」「……ん、良い……めでたい」 じゃあ、乾杯するか、と。 三人で見合って。 各々の飲み物が注がれたカップを、小さくぶつけ合わせる。 ……本当は最低のマナーなんだろうなー。 でもいいや、このテーブルの中に気にする人居ないし。 一口二口。 うん、ほどよい甘みだ。「それにしてもさぁ」 シャーリーが自分のカップから口を離しながら話しはじめる。 うわ、ブラックだ。 シャーリー男前だな……!「ヴィルヘルミナ、あたしゃてっきり、堅物ン所行くと思ってたけどね」「えー、別にヴィルヘルミナ、こっち来たっていーじゃん」 いや、別に悪いって言ってる訳じゃないけど、とルッキーニに返しながらも、その目はオレの方をぼんやりと見つめている。 えー? いきなりその話題ですか。 何、オレ、いきなり選択肢間違えた?「……少し……喧嘩、して」「ありゃま。 あんたはそう言うのなさそうだって思ってたけど……」「んー、でも、バルクホルン大尉、最近なんかイ゛ーッって感じだったよ?」 ルッキーニよ、なんだそれは。 い゛ーて。 いやまあ解らんでもない辺り、そのしかめっ面な表情の威力は素晴らしいと思うが。「んー、その関係? ああ、話したくないことなら無理に聞かないけどさ」「……ん、そんな……感じ」「ふーん……夢見でも悪いのかねぇ」 夢見……か。 夢見と言えば、ここ最近オレもかなり最悪なんだよなぁ……イライラしやすいのもその所為かもしれん。 はぁ、と溜息をついて、今朝見た夢を思い出す。////// 暗い峠道に血を流して横たわる彼女の姿。 オレの所為である。 彼女の死を直接招いたわけではないが、そう考えねば気が狂いそうだった。 原因を外に求めるのは容易い。 それを殴り飛ばすのも簡単だ。 だが、殴り終わったら、殴り終わっても気がすまなかったら何をすれば良い? 当り散らし、暴れまわり、狂犬という冗談交じりの呼び名を真実にして。 時間と周囲の善意を無駄に浪費して、それでも周りが見えなくて。 周囲に怒りをぶちまけていた、そんな昔の夢。////// まぁ、断片的だが、それだけでオレは何の夢か、どんな出来事だったかしっかりと思い出せる訳で。 あまり積極的に思い出したくはない出来事だ。 過去とか別にどうでも良い……訳じゃないが、ンな事よりも、今やる事の方が多すぎて気にしてらんないし。 大事なのは忘れないこと、同じ間違いをしない事……そのはずだしそう思わなけりゃやってられんだろ。 うー、なんかお腹痛くなってきたかもしれん。 こんなこと程度でお腹痛くなるとか……メンタル面弱いなぁ、オレ。 バルクホルンを縛ってんのは多分、芳佳の姿と妹さんの姿が重なって。 夢とか、ふとしたことで故郷が焼かれる様を思い出してんだろうが……重い、よな。 本当ならそう言うの汲んでやってささやかに見守ってやるのが良いんだろうけれども。 あるいは当の芳佳さんにガツンと一発やって貰うとか……アニメみたいに。 そのくせオレ何やってんだよ……ああ、自己嫌悪ぶり返してきたわぁ。「だいじょぶだよ、ヴィルヘルミナ。 中佐だってハルトマン中尉だって、ヴィルヘルミナだって……天才のアタシやシャーリーだって居るんだし!」 オレが凹んでるのを見かねたのか、そういって無い胸を張るルッキーニ。 ルッキーニ……お前ほんまええ子や……お馬鹿だけど。「そうそう、ルッキーニの言う通り。 まぁヤバくなったら容赦なくぶん殴ってでも止めればいいしな」 友達なんだろ、と続けてくるシャーリー。 友達かどうかは微妙なところだが……うん、大事に思える人間ではあるさ。 とりあえずは次のネウロイ戦で怪我させないように、どうにかしないとな。 それにしても。「……顔に……出てた?」「ん? ああ、いや、なんていうの? 表情じゃなくて……雰囲気というか……なぁ?」 そう言ってルッキーニと顔を見合わせるシャーリーさん。 ……雰囲気ですか。 うーん、オレってそんなに解りやすい、かなぁ? 「じゃあ……今は」「ん? んんー……」「さっきよりはザワザワしてない感じ?」「お、まぁ確かにそんな感じだな」「……む」 よくわからん。 解るシャーリー凄いな……流石ルッキーニのおかーさんだ。 そのおっぱいは伊達じゃないな。 しかし、余り相談する人間が居ない環境で、変な意見のバイアスかからないこの二人と話せたのは良かったかな。 なんだかんだ言って少しは気が軽くなったと思う。 とりあえずルッキーニには褒美を取らすことにしよう。「ルッキーニ……」「んにゃ? 何?」「……この……マフィンを……くれて、やる……」「え、ホント? やったー!」「良かったなぁ、ルッキーニ。 で、あたしには何もないのか?」 ルッキーニに向けていた穏やかな視線から一転、どことなく悪戯小僧じみた表情でこちらに笑いかけてくるシャーリー。 別に本当に欲しい訳じゃないだろうが……ん、そういえばそうだな、あれがあったか。「……午後……お休み、だっけ」「ああ、芳佳とリーネ、それに付き合う坂本少佐以外はみんな休みのはずだよ」 当然、あたしもルッキーニも休みだよ、と興味深げな表情で続ける彼女にオレは伝える。「じゃあ……多分、あの約束……出来る、と思う」「約束? ……ってああ、ホントに!?」 約束――すなわち、Me262を使わせる、という事。 それを聞いたとたん、机をひっくり返す勢いで此方に身を乗り出してくるシャーリー。 本当! 本当ですから! おっぱいが強調されるので止めて頂きたい! 目に毒です。 別に根拠無しに言ってみたわけじゃない。 とりあえず、今のタイミングならなんとかミーナさんも許可出してくれると思うんだ。 丁度ミーナさんの試用も終わったところで、今日の午後は一日オフで。 多分、この機会を逃したら暫くはMe262の訓練ローテーションが決まっちゃうと思うんだよ。 教わるほう、というか一緒に飛ぶほうは三人居るが、オレは全員について飛ぶはずで。 そういった理由でオレの体力もあるから四六時中、という訳にはならないだろうが、それでも結構な率でヘビーローテーションになるだろう。 仮にそうなったら、シャーリーに使用許可が下りるくらい余裕のある時間が出来るかどうかも少し怪しい。「……ほ、本当……」「うわぁ、うわぁ……よっし、ああ、もう居ても立ってもいられなくなってきた! ほら、ルッキーニ、行くぞ!」「え、まだマフィン……」「そんな物後でいくらでも食わせてやるから、ほら、計測器とか持って来てくれ」 ……なんかルッキーニと大差ないレベルではしゃぎ始めたシャーリーさんです。 もしかしてこの二人が仲良いのって、シャーリーの大人さとルッキーニの子供っぽさのバランスが取れてる訳じゃなくて。 二人とも根っこの部分では同レベルだからじゃないのか……?「……シャーリー……あの」「なんだよ、今更約束は無しで、とか聞かないからな?」「まだ……ミーナ……とかに、聞かないと……駄目、だから」 うん、まぁ、駄目って言われたら素直に止めるからね?「……とりあえず……今は、ゆっくり……する」「う……解ったよ」「オレの……マフィン、あげる……から」「うん」 オレの二つめのマフィンを手渡されたシャーリー。 なんか見てて気の毒になるほどそわそわし始めてるし……伝えるタイミングを考えるべきだった。 なんか最近オレこんなんばっかだなぁ。 結局、シャーリーはお茶会がお開きになるまでそわそわしっぱなしで。 みんなに訝しげな目で見られたのでありました。******「じゃー、先に行ってるからー!」 そう告げて、ルッキーニと一緒に格納庫の方へと走っていくシャーリー。 手を軽く振ってお見送りだ。 あっちにゃ見えてないだろうけどな。 しかし、うーん……シャーリーは胸も見事だが後姿も良いな。 主に腰から尻にかけてのライン的な意味で。 あと二、三年たったらさぞかし素晴らしいことになっているだろう。 お茶会が終わって、解散間際にミーナさんと話し合った結果、思ったよりもスムーズに話が進みました。 以前交わしたシャーリーとの約束どおり、立会人がもう一人必要だったのですが、ミーナさんがやってくれるとか。 さすが軍隊、さすが公的組織だな。 一度身内になってしまえばなんと甘いことか! いや、ミーナさんが話のわかる人なだけなんだろうけどもさ。 異国の人間に最新鋭兵器を惜しげもなく使わせるとか普通無いよな、オレが提案しておいてなんだけど。 あるいは、ネウロイという全人類共通の敵が昔っから存在するお陰で国家間の諍いが現実よりもマイルドになっているのかもしれない。 さて。 ミーナさんは少し残ってる仕事を片付けてから格納庫に向かうとか言ってたし。 オレも一度部屋に戻ってコンパス持ってくるか……あれで使い魔と意思疎通できると解ってから、肌身離せなくなりました。 ストライカーユニットも十分不思議アイテムだけど、勝手に動くコンパスとかなんかそれっぽくて良いんだよな。 マジックアイテムみたいでさ。 寝る前とかに軽くお話、の様な事もしてるし。 見えないけど相棒なんだ。 少しでも意思疎通は出来たほうが良いに決まってる。 お陰でコンパス握ったまま寝入ったりすることもあるけど、鎖が首に絡まなければ大丈夫だろ……「あ、あの、ヴィルヘルミナちゃん!」 んあ、この声は芳佳……か。 なんぞ? 振り向いて、少しだけ顔を上に向ける。 こげ茶色の髪に、セーラースク水の少女。 案の定そこには芳佳が居た。「……?」 首を傾げて、疑問を表現。 あ、いや、こういう事やってるから何時まで経っても口下手が直らんのか? まぁ今はいいか。「あの、ちょっと話したいことがあって……良いかな」 ふむ。 なんか内緒話っぽいね……辺りを軽く見回して、誰も居ないことを確認してから、首肯する。 ほれ、おじさんに何でも話してみなさい……うわ、なんか変態くさいな。 芳佳は少し逡巡するように目線を漂わせてから、少しうつむいて。「……あの、私って……バルクホルンさんに嫌われてるのかな」 そう言った。 ……そりゃねーよ、断言できる。 あのスーパーお姉ちゃんが妹のことを嫌うはずが無い……って、それは立ち直ってからの話だったか。 今の段階でも芳佳の事は嫌いじゃないと思うんだけどな……「私、なんだか避けられてるような気がして……リーネちゃんにも聞いたんだけど、バルクホルンさんは厳しいから何時もあんな感じだって。 でも、なんだか少し違う気がして……カールスラントの人たちには別だって聞いたから、ちょっと気になって」 不安げにもじもじしながら、こちらを上目遣いで伺う芳佳。 ふむ……なんでミーナさんじゃなくてオレに聞くのか良くわからんが。 仲が良いといえば普通、エーリカかミーナだろうに。 まぁ、芳佳も若いし、平穏に暮らしてたらしいし。 この性格だし、他人に拒絶されるって事が今まで無かったんだろう。 ペリーヌもペリーヌで芳佳の事が気に食わないっぽいが、あっちは表に出る解りやすいタイプだしな。 こういうのはそう言うもんだと理解するのが一番楽なんだが…… まぁ、自分に非が有るように感じられるのは仕方ないか。「……心、当たり……ある?」 大体、自分に非が無いと解れば不安も小さくなるだろ。 もしかしたら自分がポカをやらかしたかも、って不安も大きいしな、こういうのは。 芳佳は一直線なところが有る分失敗したとき大きい気がするが、今のところなんも悪いことしてないしな。 そう思っていたら。「あの……うん」 落ち着かないのか、やはり不安なのか、両手の指を絡ませながらそうのたもうた。 え、あるんかいお前……何やったんだよ。「ちょっと前の朝食のとき、リーネちゃんと話してたんです。 カウハバ基地って所で、ウィッチが迷子の捜索のために出動した、って。 それで、私、そうやって一人ひとりを助けられないと、みんなを助けるなんて無理だもんね、って言ったんです」 そうぼそぼそと語りだす芳佳さん。 ふむふむ。 まぁ理想論だな……別に悪い事じゃない。 その迷子の捜索のための出撃とか、すっごいプロパガンダ臭するけど…… 思春期の女の子が多いウィッチなら有り得ない話でもない、かな。「そのとき、バルクホルンさんが来て……みんなを助けるなんて、夢物語だって……よく聞こえなかったんだけど」 ……なるほどな。 ため息を一つつく。 どんだけ鬱屈してんだよ、バルクホルン……いや、アニメでもそんなシーンあったっけ? まぁいい、この口下手なオレがどれだけ伝えられるか解らんが。「……別に、芳佳は……間違ってない」「え……うん」「オレ、には……無理、だけど」 オレには芳佳と同じ考え方をするのは無理だ。 それが無理な理想だって、真っ先に思っちゃったしな。 自分の周囲で、女子供が傷ついたり、大事に思える人が苦しんだりしなければそれでいい。 街がなんぼ滅びようが何万人死のうが多分数字や文字上の事として適当に流していけるだろう。 それこそ、新聞を読んでる感覚だ。 まぁ平和な日本で育ったら戦争なんて基本的には新聞かニュースの出来事だしな……。 血なまぐさい映像とかは自主規制されるし。 だけど、芳佳にとっては戦争と言う修羅場に居る理由。 自分が居れば、多くの人が守れるから。 曖昧で、現実味の薄い夢。 でも、子供は年相応な夢持ってた方が健康的なんだよ……そのために無理すんのが大人の役目です。 それに、若干シニカルな考え方だけれども。 どうせ将来的には厳しくて辛い現実を見ることになるんだから、見れるうちに夢は見ておいたほうが良い。 「え、無理……って」「……色々、あった……から」 就職難とか……内定取り消しとか……初任給とか……生涯給与とか……ああ、なんか要らん事思い出してきたわー。 親のマンションの管理人やって食ってたとか……え、何、やっぱ半分ニートみたいなものですよね…… 芳佳の表情がなんか訝しげなものになってきたので、気を取り直す。「……芳佳の、考えは……大切な、もの」 曖昧だろうが、現実味が薄かろうが。 多くの人たちを守りたいって言う考え方は、尊いものだ。 「だから……自信を持って、良い……」 それに、バルクホルンは最近ちょっとナーバスになってるだけだから、あまり気にしないでやってくれ、と。 そう締めて、芳佳の肩を軽く叩いてやる。 彼女は少しの間、難しい顔をして何かを考えていたようだが、力強く頷いて。 その顔が上げられたときには、もう何時もの元気な表情だった。「……元気、出た?」「うん、頑張れると思う……ありがとう、ヴィルヘルミナちゃん!」「早く……行かないと、美緒……少佐に……怒られる、よ?」「わわっ、そうだった! じゃあね!」 慌てて駆け出していく芳佳さん。 その姿が角を曲がって消えていったのを見て。 さて。 オレもさっさとコンパス拾って格納庫に行きますか。 操縦の講義くらいはしておかないとな、ミーナさんの時間を余りとるのも悪い気がするし! ……それにしても、なんでちゃん付けなんだぜ?------ ペリーヌ書きにくいわー! 難しすぎるんじゃボケー! こんな感じなのか、ペリ犬よう! とりあえずペリーヌは相手を嫌うことから始める子だと思う。 前回、ヴィルヘルミナのAC的扱いを書いてから仮眠した時に見た夢:「芳佳のシールドは硬い……つまりアクアビットマンだったんだよ! 芳佳のコジマが世界を救うと信じてッ!! ご愛読ありがとうございましたッ!!!」 どんな夢だよ。 っていうかAC4とストパンって全然対象層違うじゃないか……!