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No.6858の一覧
[0] 異世界に来たけど至って普通に喫茶店とかやってますが何か問題でも?[風見鶏](2009/04/06 01:29)
[1] ダメなお姉さんの話[風見鶏](2009/03/26 12:48)
[2] もうダメだよこの幼女[風見鶏](2009/03/26 12:31)
[3] ゲームだって、人生だって、最後は体力勝負なのである[風見鶏](2009/03/26 12:31)
[4] やさぐれっ娘登場回[風見鶏](2009/04/02 00:04)
[5] 綺麗なお姉さんが大好きです。[風見鶏](2009/04/12 22:14)
[6] 真・ヒロイン登場回[風見鶏](2009/04/02 00:04)
[7] 穏やかに進行する事態[風見鶏](2009/04/02 00:04)
[8] 穏やかに進行する事態2[風見鶏](2009/04/02 00:04)
[9] 穏やかに進行する事態3[風見鶏](2009/04/02 00:04)
[10] 重なる背中[風見鶏](2009/04/02 00:04)
[11] わんこの宅急便[風見鶏](2009/04/30 22:38)
[12] 常識的に考えて非常識[風見鶏](2009/04/02 00:03)
[13] 未知との遭遇[風見鶏](2009/04/02 00:03)
[14] 違う世界に生きる君へ[風見鶏](2009/04/02 00:03)
[15] 我輩は猫かもしれない[風見鶏](2009/04/12 22:14)
[16] その日、日常、喫茶店にて[風見鶏](2009/04/12 22:32)
[17] 喫茶店の夜[風見鶏](2009/04/30 22:53)
[18] けんかするほど[風見鶏](2009/06/14 19:33)
[19] 彼の日記[かざみろり](2009/08/20 13:55)
[20] 小話集[かざみろり](2010/04/13 21:57)
[21] 変わらない日常の朝[風見鶏](2013/03/24 07:53)
[22] 登場人物メモ[風見鶏](2009/06/14 17:35)
[23] Season2 煮込みハンバーグ[風見鶏](2016/02/24 05:56)
[24] まだ夢の途中[風見鶏](2016/02/24 21:38)
[25] 彼の野望:クエスト編[風見鶏](2016/03/19 23:29)
[26] 番外編 「エイプリルフール」[風見鶏](2016/04/02 03:18)
[27] ココア色の逃げ場所[風見鶏](2016/08/23 21:57)
[28] きみのなは[風見鶏](2017/04/01 20:35)
[29] ※発売延期のお知らせ[風見鶏](2017/04/28 13:47)
[30] 第一巻発売記念 WEB版限定特典 真ヒロイン編[風見鶏](2017/06/21 00:43)
[31] ノルトリを追え![風見鶏](2017/12/17 22:40)
[32] 第二巻発売記念 WEB版限定特典「私の出番はいつなの」編[風見鶏](2017/12/20 00:01)
[33] 第3巻発売記念 WEB版限定特典「私の出番はいつなの2」編[風見鶏](2018/05/28 12:46)
[34] 第6巻発売&書籍版完結記念短編まとめ[風見鶏](2019/07/20 00:20)
[35] コミックス発売記念SS 「遠き山に日は登って」[風見鶏](2019/10/24 19:08)
[36] season3が勝手に始まってるのがウェブの良いところ[風見鶏](2020/02/18 19:25)
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[6858] 第6巻発売&書籍版完結記念短編まとめ
Name: 風見鶏◆cf775fa6 ID:906b829c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2019/07/20 00:20
「ノルトリ、大地に立つ」

 喫茶店の良いところは、来ると誰かがそこにいることだったりもする。
 人というのは難儀なもので、人の中にいると人が煩わしくなるし、かといってひとりでいると寂しいものだ。馴染みの友人たちと騒ぐのも楽しいけれど、ひとりが恋しい時もある。慣れ親しんだ環境の中で、ある日ふと、自分がいつの間にか「自分」を演じていることに気づくことがある。頼られる自分、賑やかな自分、責任感のある自分。
 そうなるともう、出来上がった自分からはみ出す行動はできないものだ。
 コップに水滴を垂らしているように、溢れ出すときがくる。自分を演じることにも疲れて、自分をリセットしたくなったりして。
 そんな時にこそ必要なのが、喫茶店である。まあ、カフェでも居酒屋でも良いのだけれど、やっぱりイチ押しは喫茶店だ。
 そこには自分を知らない人がいて、ほどほどの無関心がちょうど良い。自分を演じる必要もなく、自分らしく過ごせる時間と美味しいコーヒーがある。ずっと無言で過ごすもよし、気まぐれにマスターに話しかけるのも良し。
 つまりそれは第三の場所なのだ。
 家族に向ける自分でもなく、仕事や学校での自分でもなく、ただひとりの人間としての自分でいられる場所。
 そういう場所をもっていることが、自分の気持ちを助けてくれることがある。
「だからノルトリ、無理をしなくて良いんだ。君は君らしく、自由でいてくれ」
 ノルトリは「あぁん? うるせぇなぁ」という、実にやさぐれた目で僕を睨めあげた。それからまた、手に持った分厚い本に顔を隠した。そこには「魔術の基礎から発展まで」と書いてある。たぶん学院の教科書なのだと思う。ノルトリは、それを枕にしているのでも、早弁のための衝立にしているのでもなく、読んでいるのだった。
 ノルトリと出会って何年が過ぎたろう。
 あの頃から、ノルトリはずいぶん成長している。背が伸びたし、背が伸びたし、ええと……背が、伸びた。
 なにしろ喫茶店で見るノルトリは、大半が机に突っ伏して寝ているか、暖炉の前のクッションで寝ているか、カフェ・オ・レかココアに息を吹きかけているかだった。
 勉強をしている姿なんて、一度として見たことはない。
 つまりこれは異常事態なのだ。
 あのノルトリが! 教科書を読んでいるなんて!
「さては、偽物か……?」
 顎に手を当ててぼそりと言う。
「あなたも大概、失礼ですわね。素晴らしいことでしょう」
 ノルトリの横に座っていたアイナが、じとりと呆れた瞳で言った。
「アイナはノルトリを知らないからそんなことが言えるんだよ。ノルトリは怠惰と無気力の化身、清々しいほどの生き様だったんだ」
「どういう評価ですかそれは」
「僕は心の中で師匠と呼んでいたんだけどな……」
 走行中の自転車につま先をつっこんでコケた人を見るような目を僕に向けて、アイナはため息をついた。
 その腕をノルトリが突ついて、教科書のページを指差した。
「はいはい、どこかしら。ああ、魔力抽出後の体内での変換効率についてですね。これこそが魔術師の腕の良し悪しを決める重要な技術です。期末考査には必ずといって出題されますわ」
 そしてすらすらと教科書に補足を入れ、解説している。ノルトリの様子を見て理解度を推し量りながら、ときに表現を変えたり、前のページに戻ったりしている。まったく手慣れた様子だった。
「すごいな」
「家庭教師は何人も付けられましたからね。教え方も見よう見まねですわ」
 と謙遜しているが、魔術についてまったく知識のない僕にだって、内容が理解できるほど明快な説明だった。
 ノルトリは再び、教科書に顔を埋めるようにしている。その集中力は驚くほどで、もう一時間も休みなくそうしているのだ。
「急にどうしたんだろう」
 ふざけてはいたものの、実は本当に困惑しているところもあった。ノルトリは学院をよくサボっていたし、勉強に興味がある様子もなかった。そんな子が急に教科書にかじりついているのだ。
 ましてや、大して会話もしていなかったアイナに、こうして個人教授をお願いしているのだから。よほどのことがあったに違いない。
「進路選択の時期だからでしょう」
「進路選択?」
「幼等部は全科目共通ですが、中等部からは大まかに専攻が分かれるのです。貴族の大半は魔術学科にそのまま上がりますが、貴族以外がそれを専攻するには、資格試験があるのです」
 はあ、なるほど。入学試験みたいなものなのか。
「あれ? ノルトリ、魔術学科に行きたいの?」
 ノルトリは本の陰から僕を見上げて、こくりと頷いた。そしてまた目を落とす。
「そっか、ノルトリももうそんな歳なのか……大きくなったなあ」
「どこの親戚のおじさんですかあなたは」
「ノルトリの成長を見守ってきたからね。胸がいっぱいだ」
 あのぐーたらだったノルトリが受験勉強をするだなんて! きみはやればできる子だと思っていたよ。
「……でも大丈夫? 授業とか、真面目に出てなかったでしょ?」
 あれだけサボっていたのだ。おそらくエリートらしい魔術学科に行くというのは、大変なんじゃないだろうか。
 心配だから訊いてみたのだが、アイナは呆れを隠さない顔で僕を見た。鳥について「大丈夫? 飛べるかな」と心配している人を見つけたみたいな顔だった。
「この子、ユウさんより優秀ですよ? この教科書、高等部の規定図書なんですから」
「……うん?」
 ノルトリを見る。ページをめくっている。一時間前からずっと読んでいるし、アイナに質問までしていたし、普通に理解できているように思える。
「マジで?」
 アイナはゆっくりと頷いた。
「学院は古来から成果主義なんです」
「成果主義?」
「たとえば、学院にはミュラー教授という人がいます。好き勝手な実験で校舎を破壊したり、講義をすっぽかしたりします。それでも彼が許されるのは、それだけの成果をあげているからです」
「はあ」
「リナリアさんもそうです。貴族至上主義が根強い魔術学科で、平民であるリナリアさんが在籍できるのも、首席になれたのも、それだけの成果、つまり成績を示しているからなんですよ。つまり」
「つまり?」
「やることさえやれば、自由が与えられるのです」
 アイナの例え話を訊いて、僕はふむと考えた。それは、なるほど。
「成績が良かったら、学院をサボっても良いってこと?」
 アイナはまた頷いた。
「学院の課す課題や考査を文句なくこなせるなら、あとは個人の時間というわけです。普通は、まあ、教授の評価や周りを慮ってやりませんけど」
 と、アイナは横目でノルトリを見た。そして「ふふふ」と笑ってみせる。
「ずいぶんと将来有望な子がいたものですわ」
 マジか……学院って、そんなルールだったのか……たしかに、ノルトリの授業とか出席日数は心配だったけども……。
「あの、ノルトリ、さん」
 お勉強中のところ、申し訳ないんですけれども、と声をかける。
「…………?」
「学院の課題とか、勉強とか、ちゃんとやってたんだね?」
 確認の意味も含めて訊ねると、ノルトリは眉間に皺を寄せて言う。
「……その方が、めんどくさく、ない……先生も、うるさくない、し……」
「あっ、はい」
 この子、あれだ。有能な怠惰のタイプだった。夏休みの宿題を短期間集中で終わらせて、あとはひたすらだらだらするやつ。テストも合格点ぴったりの勉強だけして、無駄なことはしないやつ。やることはやってるから、周りも強く言えないやつ。
「周りからはやればもっとできるんだからって期待されるけど、絶対やらないやつだ……」
「そういう子がやる気を見せると、恐ろしいですわよ。能力の使い方をわかってますからね」
 ごもっとも。
 いや、やればできる子、将来は大物とは僕も常々思っていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。
「でも、なんで急にやる気をだしたの?」
「…………」
 ノルトリは僕をじーっと睨みつけた。その視線の強さに、思わず身を引いてしまう。
「な、なんでしょう……?」
「……べつに」と、また本に視線を落とした。「…………負けない」という呟きが聞こえたけれど、ノルトリはいったい何と戦っているのだろう?
 アイナに目線を向けると、肩をすくめて返事とされた。あの顔は何か勘付いていると思うのだけれど、僕に教える気はないらしい。
 ぱたん、と本が閉じられた。見やると、その本を枕にして、ノルトリが突っ伏している。
「…………ねる」
 そしてすぐに寝息が聞こえ始めた。
「あっ、いつものノルトリだ。良かった」
「なんですか、良かったって」
「いきなり真面目になったみたいでさ、こう、戸惑ってたんだ」
「どこの親ですかあなたは」
 言われて気づく。そうか、これが子どもの成長を見守る親の気分なのか……。たしかに、いつまでも小さいと思っていたのに、いつの間にか立派になっていたことに気づいて、ちょっと動揺しちゃう感じに似ている……。
「ノルトリ……ちょっと見ない間に、成長したんだね……」
 目尻なんて拭ってみたりして。
 アイナのため息が聞こえたけれど、僕は気にしない。
 聞き慣れたノルトリの寝息と、あどけない寝顔がある。けれどその枕は見慣れない魔術の教科書で、それはもしかしたらノルトリの未来につながるものかもしれない。
 ああ、時間は流れているんだなあと、当たり前のことを実感したりして。
 ノルトリの未来が良いものになりますようにと、その寝顔に祈っておいた。
 


 了
 





「だれかの夢の叶う場所」


 昼食が載ったプレートをテーブルに置きながら言ったメディに、わたしは聞き飽きたという表情を隠せなかった。
「またその話?」
「だって気になるじゃない。もし本当にそんなお店があるなら、あたし、行きたいもの。フィーだってそう思わない?」
「そりゃ、まあ」
「ほら!」
「本当にあるならね、そんなお店が」
 メディは眉を寄せて上げ、口を開けて見せた。わたしがやれば間抜けそのものだろうけれど、彼女がやるとそんな表情まで魅力的に見えるのだから不思議なものだ。
「フィーったら、ほんとに夢がないんだから」
「おあいにくさま。夢を見るより日々の授業の方がわたしには大事なのです」
「だからって、そんなに急いで食べなくても良いでしょう? ちゃんと味わってる? すっごく美味しいのよ、この学院のご飯」
 赤いソースの絡んだ魚の切り身をフォークに刺して、口に運ぶ。メディの所作は優雅で、やっぱり彼女は貴族なんだなと思わされる。
「んー、おいし! このフールフレードなんて絶品!」
「フールフレードってなに?」
 空になった自分の皿を見下ろしてふと考える。どうやらあの甘酸っぱいタレは、フールフレードという名前があったらしい。しかしフールフレードが何なのかがわからない。
 隣のテーブルで笑い声が聞こえた。堪えるふりだけはしているものの、明らかにこちらに聞こえるように笑っている。慣れたもので、わたしはもう視線を向けることもしない。 
 しがない平民のわたしは、貴族の常識を知らない。だから恥をかくことも、バカにされることだって多い。けれど、それは入学前から分かりきっていたことだった。アーリアル魔術学院は、特にその魔術学科は、貴族御用達の名門なのだ。平民であるわたしへの嫌がらせなんて日常のことだった。それに。
「その調子、その調子。ちなみにフールフレードは果物を混ぜて作ったソースのこと」
 こうして隔てなく付き合ってくれる友人ができたのだから、わたしは幸運だ。
「それでね、さっきの話なんだけど」
「続くの? それ」
「この話がしたくてうずうずしてたんだもの。だって素敵でしょ、行くと夢が叶うお店なんて」
「うさんくさいだけだってば。誰も行ったことないんでしょ?」
「それがね、とある筋から新しい話を仕入れたわけですよ」
 メディはフォークとナイフを置き、わざとらしく周囲を見回した。それから身を乗り出し、手を口元に寄せる。いかにも内緒話という態度に、わたしもついつい顔を寄せてしまう。
「そのお店はね、迷宮通りの近くにあるんですって」小声でメディが言う。「普段はね、ただのお店と見分けがつかないの。でも夜が近づいて、あたりが暗くなり始めて、夕日が街を斜めに照らすころに、通りのベンチに座るの。そして時計塔が六つの鐘を鳴らすと……」
「鳴らすと……?」
 くそう、メディは話が上手なのだ。つい聴き入ってしまう。
「夕日の輝きの中で、一羽の鳥が導いてくれるんですって、そのお店に」
「謎めいてるなあ」
「それが良いんじゃない。ね、今日の放課後、一緒に行ってみない?」
 メディは大きな瞳をどこかいたずらっぽく輝かせている。けれどわたしはあまり乗り気になれない。ただの噂に過ぎないし、手がかりも曖昧すぎるのだ。どうせ何も見つからずに帰ることになるのはわかっている。それなら勉強時間にあてたい。
「そんな表情しないの。もうひとつ良いことを教えてあげるから」
「よっぽどの良いことじゃないと、わたしの気持ちは動かないから」
 メディはふふんと笑って、
「そのお店はね、あのリナリア先輩も通ってたんだって」
「ほんと? え、どこからの情報?」
「予想以上に食いつくわね……いや、わかってはいたけど」
 リナリア先輩はわたしの目標であり憧れだった。平民でありながら魔術学科で学年主席を務めて、アーリアル学院在学中に超難関である治療魔術師の専門学院にも合格したという伝説の人なのだ。
 そんな人が通っていたというのなら、ぜひともあやかりたい。
「……放課後、探しにいこう」
「ときどき、あなたの判断基準が心配になるわ、あたし。リナリア先輩が倒立を日課にしてたって言ってもやりそうだもの」
「日課にしてたの?」
「真顔で訊くのやめて。怖いから。嘘だからやるんじゃないわよ」
 なんだ嘘か……。
 予鈴の鐘が鳴り響いた。昼食休憩も終わりだ。食堂が途端に騒がしくなった。わたしとメディもプレートを持って立ち上がる。
「それじゃ、放課後に行きましょ」
「絶対に見つけてみせる」
「なんであたし以上にやる気だしてるかなこの子は……ああ、そうだ、そのお店ね」
 とメディは思い出したように言う。
「喫茶店っていうらしいわよ」

 /

「ごめん、ミュラーさまのお手伝いに誘われたから行けない!」
 と頬を上気させながらメディに言われては、怒る気にもなれない。
 ミュラーさまというのは学院一の変人かつ天才と名高い教授だ。実験中に学院の校舎を半壊させたこともあるらしい。メディはそのミュラー教授に夢中なのだ。何が彼女を焚きつけているのかはわからないけれど、メディも変わり者だから、何か通じるものがあるのかもしれなかった。
 予定が崩れたのだから、わたしも図書館に行って自習をしようかと思った。けれど、今、わたしは迷宮通りのベンチに座っている。
 なぜ来たのかといえば……なぜだろう。
 そりゃ、リナリア先輩が本当に通っていたお店があるなら、ぜひとも行きたい。でも、噂話にすぎないそれを心底から信じているわけでは、もちろんない。出所が不明な話を信用するには、わたしは純情を捨て過ぎてしまった。夢物語に憧れるよりも、期末考査で好成績を残して特待生としての資格を更新することの方が重要なのだ。勉強はいくらでもしなければならないし、時間を無駄にすることは避けたい。
 けれど、わたしは今、ベンチに座ってぼけっとしている。ああ、そろそろ夕暮れだなあ。
 この街に来てから、めったに学院を出たことはなかった。迷宮通りに来たのも初めてだ。ここに座っていると、迷宮と街とを行き来する冒険者たちの姿がたくさん見ることができる。
 辺りには酒場から響く笑い声に、通りに並ぶ屋台や露天商の客引きの声。それは人々の営みで、粗野で、底抜けに明るい。お上品な学院での生活より、わたしには馴染み深いものだった。なにしろわたし、辺鄙な村の雑貨屋の娘なもので。
 喫茶店というお店を探しに来たはずなのだけれど、なんだかこの空気が心地よくて、ベンチに座ったまま時間が過ぎていく。
「お姉さん、お花はいかがですか?」
 不意にかけられた声に顔を向けると、女の子がわたしに花を差しだしていた。
「綺麗な花だね」
「迷宮のお花なんですよ」
「どうりで。見たことがないと思った」
 花弁は青空のように澄んだ色をしていた。ふと、花をじっくりと見るのが久しぶりな気がした。昔は花や草に囲まれた生活だった。けれどこの街に来てからは、花よりも貴族を見ることの方が多い生活だ。
「ひとつもらえるかな?」
「はい! どうぞ」
「ちょっと待ってね」
 制服のポケットから財布を取り出して、硬貨を払う。代わりに花をもらう。それと、ささやかな癒しも。良いお金の使い方ができた気がした。
 と。時計塔の鐘が響いた。
 一回、二回……。
 そこでふと、メディから聞いた話を思い出した。あたりを探すが、導いてくれそうな鳥の姿はもちろんない。
 三回、四回……。
「なにかお探しですか?」
 女の子が言う。わたしは苦笑して、
「うん、喫茶店っていうお店をね、探してるの」
 五回、六回……。
「喫茶店ならあっちの通りですよ?」
 少女が平然と指をさすものだから、ついぽかんとしてしまう。
「知ってるの?」
「はい! お兄さんとも知り合いです! ご飯もとっても美味しいんですよ!」
 どうやら喫茶店というところにはお兄さんがいて、ご飯も美味しいらしい。
「良ければ案内しましょうか?」
 女の子が笑顔で言う。ふと、胸元を飾るブローチに目が留まった。それは鳥の意匠をしている。
「……お願い、できるかな」
 不覚にも胸が高鳴る自分がいたことは否めなかった。

 /

 その店の扉を前に、わたしは立っていた。
 なぜなら、そこまで案内してくれた女の子は「もう夕飯の時間なので」と笑顔で帰ってしまったからだ。「お兄さんによろしく」と言われたけれど、それならせめてそのお兄さんに紹介するところまでお願いしたかったなと思う。
 店構えは古びた酒場のようだった。入り口の上に掲げられ看板だけが美しく立派で、店の名前が書かれているけれど、それは「喫茶店」ではなかった。喫茶店とは店の名前ではなくて、何か別のものを示すらしい。
 窓越しに、中に幾人かのお客さんが座っているのが見えた。誰もが大人で、わたしのような学生はひとりもいなかった。
 もしかして「喫茶店」とは、高級料理店なのかもしれないし、会員制の秘密倶楽部なのかもしれないし、お子さまは入店禁止なのかもしれない。そしてわたしの財布には、貴族のお子さまのお小遣いより乏しいお金しか入っていない。あと、花を握りしめています。
 あまりに未知なことが多過ぎて、扉を開ける勇気がでないでいた。高鳴っていた心臓は緊張のために鼓動をはやめているし、手に汗もかいている。わたしは小心者なのだ。
 そこでふと気づいた。
 場所はわかったのだ。なにもひとりで入る必要はないんじゃないだろうか?
 明日、メディを連れてまた来れば良いんだ。
 わたし、天才か。
 よし今日はこれくらいで許してあげようと思う。さ、帰ろう。
「入らないのかね」
「ひゃっ」
 背後からどえらい渋い声が響いて、思わず飛び上がった。慌てて振り返ると、誰もいない。え、こわい。
「下だよ、お嬢さん」
 とっさに見やると、そこにラビ族の人がいることに気づいた。黒い礼服をきっちりと来こなして、頭にはハットまで乗せている。ラビ族は年齢がわかりづらいのだけれど、明らかにわたしよりも歳上で、なおかつ貴族みたいな風格が感じられた。
「この店に用があるのではないのかね」
「え、あ、そう、ですけど」
「ならば入ると良い。良い店だ」
「はあ」
 本当にこの小さな身体から出ているのだろうか。ついそんなことが気になってしまう。聞いているだけで安心してしまうような声に背を押されるように、わたしはドアに手をかけた。ドアは思っていたよりも軽く開いてしまって、からんからん、と甲高い音色が響いた。
 ふっ、と、空気が変わった気がした。
 店内は穏やかな灯りが満ちていた。床も壁もしっとりと磨かれた木材でできていて、天井には梁が通っている。ランプの揺らめきに合わせて、天井に影がちらちらと顔を見せている。
「いらっしゃいませ」
 と、カウンター席の向こうに立つ男の子が言った。珍しい黒髪に目を奪われていると、その男の子は「おや」と眉をあげた。
「コルレオーネさんのお友だちですか?」
「いや、店の前で立ちすくんでいたのでな。声をかけただけだ」
 わたしを追い越してラビ族の男性がカウンター席に向かった。どうやらコルレオーネという名前らしい。どこかで聞いたような気がする。
 立ち止まったコルレオーネさんがわたしに振り返った。
「ほら、こちらに来なさい」
「は、はい」
 コルレオーネさんに促されるようにして、わたしはカウンター席のひとつに腰をおろした。とっさに身体が動いていた。なんだろうこの人、学院の教授より堂々としているんだけど。
 男の子がカウンターから出てくる。その手には、赤い革張りの、小さくて立派な椅子を持っていた。それをカウンター席の椅子の上に置くと、コルレオーネさんがぴょんと飛び乗った。
「しかしずいぶんと暖かくなりましたね」
「ああ、もう冬も過ぎたな」
「いやいやいやいやいや」
 あまりに平然と会話をする二人に、つい口を挟んでしまった。
「どうしました?」
 男の子がわたしに言う。
 なんですかその立派なのに小さい椅子。というかどこから出したんですか。ここには標準装備なんですか。手馴れ過ぎてませんか。
 言いたいことはいっぱいあったのだけれど、わたしはぐっとそれをこらえて、愛想笑いを浮かべた。学院という貴族社会で学んだことは、余計なことは言わない、である。
「な、なんでもない、です」
 男の子は首をかしげつつもカウンターの中に入る。
「うちは初めてですよね?」
「えっと、はい。案内してもらって」
「案内?」
「花売りの女の子に」
 手に持ったままの花を見せると、男の子は笑みを浮かべた。
「なるほど。あとでお礼を言わないと。では、改めてようこそ喫茶店へ。ご注文はどうしましょうか」
 慌てて店内を見回すと、男の子の後ろに掛けられた黒板にメニューが書かれているのに気づいた。見上げるようにしてざっと目を通すと、軽食からデザートまで揃っているらしい。その中で気になるメニューがあった。
「あの、コーヒーってなんですか? 聞いたことがなくて」
 その時、男の子の目が光った気がした。きらんって。いや、ほんとに。
「コーヒーを知らない? それはいけませんね。いま、大流行中の飲み物ですから、ぜひ飲んでみてください。好きな人は大好きな、それはもう癖になって抜け出せなくなるような素晴らしい飲み物なんです」
「そ、そうなんですか」
 なんだこの人、急に早口になった……もしかして危ない飲み物なんじゃないだろうか。
「ユウ、お嬢さんが戸惑っているぞ」
 コルレオーネさんが呆れた声で言った。この男の子はユウというらしい。名前にしては珍しい響きだった。
「……おっと、失礼しました。僕としたことが、ついうっかり」
「そのうっかりを毎日繰り返していないか?」
「ははは、そんなまさか」
 やけに朗らかに笑う。なんだか変な人だった。
 そこまでおすすめされると、ちょっと気になるけれど。コーヒーの値段をたしかめて、わたしは「ひゃー」と内心で悲鳴をあげた。「ひゃー」な値段だった。貴族の学生ならともなく、苦学生のわたしにはとても手が届かない。
「あの、わたし、手持ちが少ないので……」
 おすすめしてもらって申し訳ないとは思うのだけれど。
 すると男の子は少し悩んで、
「実はいま、一杯目のコーヒーは無料期間中なんです」
 なんですって!?
 無料……それはわたしが世界で三番目に好きな言葉……!
 つい身を乗り出してしまう。
「そ、それなら、お願い、しちゃおうかな」
「はい、すぐに用意しますね」
 コルレオーネさんがくくく、と楽しそうに笑った。
「あの、どうかしました……?」
 わたしが何かおかしいことをしてしまったのかと思ったけれど、コルレオーネさんは「いや」と首を振った。
「ではユウよ、私もコーヒーをもらおうか。一杯目は無料なんだろう?」
「あ、これ、学生が対象なので。コルレオーネさんはだめです」
 今度こそコルレオーネさんは大笑いした。
「機転が利くな。そうか、学生が対象か。それなら仕方ないな」
「えっと、すみません」
 わたしだけ特別扱いされたことが申し訳なく思えて、つい謝ってしまう。
「良いんだよ、お嬢さん。これもユウなりの戦略だ」
「戦略……?」
「中身のわからないものに金を払う人間はそういない。しかし一度その中身を知り、気に入れば、次からは喜んで金を払うだろう。だから無料でも良いからまずは試してもらうのだよ。商人の常套手段だ」
「な、なるほど……」
 そんな方法があるとは、都会は恐ろしいところです……。
「こらこら、人聞きの悪いことを言わないでください。善意ですよ、善意」
「ほう。では少しもそんなことは考えなかったと?」
「さ、美味しいコーヒーをすぐ用意しますね」
 その切り替えの早さにわたしまで笑ってしまった。
 男の子は、棚から小さな白い壺を取り出すと、入っていた黒い豆を小さな筒に移した。筒には取っ手がついていて、それをぐるぐると回す。すると豆が砕かれる音がする。
「それ、砕実器具、ですよね?」
 薬学の実験で使ったことがある。実を砕いて粉にするために用いられるものだ。
「いえ、これはコーヒーミルです」
「ミル……? 砕実器具ですよね?」
「コーヒーミルです」
 あまりに自慢げに言われたので、わたしはそっと黙った。
 それから男の子は傍らにあった器具を取った。まさかとは思っていたのだけれど、それを使うらしい。
「あの、それ、抽出器具、ですよね? 薬品用の」
「いえ、これはサイフォンです」
「サイフォン……? 抽出器具ですよね?」
「サイフォンです」
 これ以外の名前は存在しないという風に言われたので、わたしはそっと黙った。
 一般的なものではないけれど、薬学を知る人間なら馴染みのあるものだ。何を隠そう、わたしは薬学者志望なのだ。薬品を調合するための器具を使って、この人は何を作るつもりなんだろう……どうしよう、帰りたくなってきた。
 しかしこの状況でやっぱり帰りますと言える度胸があれば、わたしは学院でもっと上手くやっていけている。かすかな緊張を握りしめながら、じっと男の子の動きを見つめる。
 そうだ、わたしは薬学者志望だ。そして特待生だ。もし怪しい薬品を調合しているなら、それを見抜けば良い。
 ランプで熱されたフラスコの中で、お湯が沸いている。少年は上部のロートに黒い豆を挽いたものを入れてからフラスコに差し込んだ。やがてお湯はロートから伸びた筒を上がっていく。こうして薬効のある成分を抽出するのだ。わたしもやったことがある。
 男の子は木べらを取り、手馴れた動きでロートの中を撹拌した。それは洗練された動きで、まるで食事をするときのメディの手つきみたいだった。何度も何度も、数え切れないほど繰り返したことで、無駄がそぎ落とされた動きだ。
 ロートの中では、成分が層になって分かれている。たぶん、抽出成功のはずだ。
 ふっ、と。不思議な香りがした。
 かすかに焦げくさい、けれど不快ではない香り。どんな薬品や香草とも違う。
 男の子は火を止めると、もう一度、鮮やかに撹拌した。抽出が終わった液体はゆるやかにフラスコに下がっていく。砕いた豆の粉や、重なった泡、細かなゴミがロートに残る。抽出された液体は、透き通ったガラスの中で黒糖の蜜のような色合いをしていた。
 用意された二つのカップに液体を注いで、男の子はわたしたちの前に置いた。
「どうぞ、コーヒーです。お好みで砂糖を入れて下さいね。もし苦すぎたらホットミルクも加えますから」
「はあ……」
 目の前の抽出物をじっと見つめる。
 手順に怪しいところはなかった。一種類の素材から抽出液を用意するだけだ。薬学的にもシンプルで、わたしたちみたいな新入生が、初めての実験で行うような内容。
 ちらと男の子を見上げると、にこりと邪気のない笑みを返された。
 横を見ると、コルレオーネさんはカップを両手で持って啜っている。かわいい。
 この状況で飲みませんとは、言えなかった。気の弱い自分が恨めしい。
 カップを取り上げ、湯気を吹き冷まし、そっと、おずおずと、ひとくち。
「ーー!」
 口の中に広がる味に、わたしは叫んだ。
「盛りましたね!?」
「なにを!?」
「この苦味、明らかに毒物です!」
「そこまで!?」
「苦味はつまり人体が有害だと教えてくれているんです!」
 はっはっは、と、コルレオーネさんがお腹を抱えて笑った。そこまで豪快に笑われると、調子が崩れてしまう。
「あの、真剣なんですが……」
 コルレオーネさんはようやく笑いをこらえて、
「すまない、毒物とは予想外でな。大丈夫だよ、お嬢さん。これは毒ではない」
「……本当ですか?」
 もちろん、と男の子が力強く頷いた。
 もう一度カップに口をつけて、唇を濡らす程度に口に含む。舌がぴりっとするような苦味、酸味、焦げたような香り。いくつもの複雑な味わいが同時に打ち寄せてくる。
 毒物にありがちな刺激臭や、刺すような舌の痛みはない。嘔吐反射もないし、即効性の有害性はないように思う。
「依存性とか、ありませんか」
 訊くと、男の子はそっと目をそらした。
「あるんですね!? 常習性の毒物じゃないですか!」
「いや、大丈夫……ちょっとだけだから。たまに飲まずにはいられなくなるだけだから」
「ぜんぜん大丈夫じゃないですよ!?」
 カップを見つめる。初めて見たけれど、もしかしたらわたしが知らないだけで、有名な薬物なのかもしれない。
「……どうしたの、カップを両手で持って立ち上がって」 
「これを持ち帰って成分調査するんです。教授なら分かるかも」
「やめてもらって良いですか?」
 男の子が泣きそうな声で言った。
 さすがに反応が過剰すぎたかもしれない。心を落ち着けて椅子に座りなおす。
「……本当に、毒じゃないんですよね?」
 男の子やコルレオーネさんの言葉を受けて、一応は納得したのだけれど、見る限りはやっぱり有害な液体に思えた。なにしろ色が暗すぎる。
「本当に大丈夫。むしろその味わいが癖になるんです」
「薬物を常習する人はみんなそう言うんですが……」
「コーヒーは安全だから!」
 たしかに、コルレオーネさんは平然と飲んでいるし、他のお客さんも気にした様子はない。違法薬物を摂取した際に見られる、異常な興奮や幻視、せん妄といった症状もないようだから、もし毒性があったとしても、弱いのかも。
「行くと夢が叶うって、このコーヒーの毒で幻覚を見たとかじゃないよね……?」
「行くと夢が叶う?」
 わたしはとっさに口を押さえた。独り言は悪い癖だった。
 男の子は興味深げにわたしを見ていた。
「あの、噂で。喫茶店という店に行けば、夢が叶うって」
「そんな噂があるんです? どこで?」
「学院で」
 男の子は口をぽかんと開けた。
「なんでそんなことになってるんだろう」
「いえ、わたしも知りたいです」
 二人して見つめ合うけれど、どっちも事情を知らないのだから、まったく無意味な時間だった。
「夢、叶います?」
 ぽつっと訊いてみる。
 男の子はきょとんとしていたけれど、ふと優しい笑みを浮かべた。
「もちろん叶いますよ。叶える気があるなら」
 それはとても当たり前の言葉で、けれどそんな当たり前のことを、どうしてか信じられずにいた自分に気づいた。
「そう、ですよね」
「ええ」
 毒だなんだと騒いでいた自分がふとばからしく思えて、わたしはコーヒーを啜った。苦いし酸味があるし色も変だし、薬品器具で抽出された液体だけれど、その味は首の裏側にじぃんと沁みて、そこに凝り固まっていた緊張や重みをほぐしてくれたみたいだった。
「……慣れると、悪くないですね」
 そうでしょう、と男の子は自慢げに笑った。

 /

 ミュラー教授と喫茶店、あたしは教授を選ぶ。
 と宣言して、メディは今日も今日とてミュラー教授の研究室に向かった。なんでも助手になるために猛烈にアピールしているらしかった。
 昨日、わたしが喫茶店を見つけたことを話すと、メディはとても満足そうに笑った。いいなあ、あたしも行きたいなあと言うので、もちろん誘ったのだけれど、今はミュラー教授の方が重要らしい。
 代わりに、お金を渡されて、おつかいを頼まれた。なにか喫茶店の名物を買ってきてほしい、と言われたのである。
 今日こそは図書館で勉強をするつもりだったのだけれど、メディが言うには、喫茶店は自習をしても良いところらしい。飲食店ではそういう、食事以外の目的で居座ることは歓迎されていないので、本当だろうかと疑わしい気持ちなのだけれど、鞄に勉強道具を詰めて、わたしはまた喫茶店の前にやってきていた。メディにはいつもお世話になっているので、彼女のお願いとあれば期待に応えたい気持ちもあった。
 昨日と同じ、鐘が六つ鳴るころ、ランタンの掲げられたドアを開いた。からんからん、とドアベルが響いた。
 空気の変わるような瞬間。まるで別の世界に入るみたいに、不思議な感覚があった。これは何でだろう?
 ユウさんはカウンターに座っていたお爺さんと話していたようだけれど、ついとこちらに顔を向けて、笑顔を浮かべた。
「いらっしゃいませーーあ、昨日ぶりですね」
 わたしより二つほど歳上だと分かったのだけれど、異国風の顔立ちは幼く見えて、どうにもお兄さんという感じはしない。
 こんばんは、と挨拶をしながら、昨日と同じカウンターの椅子に座った。
「やっぱり、そうなんですね?」
「はい?」
 わかりますよ、と頷いているユウさんだけれど、わたしはさっぱり意味がわからない。
「コーヒーの魅力にはまったんでしょう?」
「いえ、違いますけど」
 素直に答えると、ユウさんはがくりと肩を落とした。大げさな身振りをする人だなあと、わたしはそれを興味深く観察する。
「ここって、自習をしても良いんですか?」
 ユウさんは「おや」と眉をあげて、懐かしいものを見るような、優しい表情を浮かべた。
「もちろん、大歓迎ですよ」
「飲食店、ですよね。大丈夫なんですか?」
「それが喫茶店なので。ここにいる時間は好きに過ごしてください」
「はあ」
 何とも不思議なお店だなあ。
 でも、図書館や自室以外で勉強ができるというのはありがたい話だった。自室だとどうしても気が抜けてしまうし、図書館では貴族の視線やたまにされる嫌がらせが面倒なのである。しかし、ここならそんな心配はいらないのだ。
「……なかなか、魅力的に思えてきました」
「そうでしょう。喫茶店ですから」
「良いですね、喫茶店」
 ところで喫茶店って何なのか、わたしはいまだによくわからない。わかるのは、なかなかに居心地の良さそうな場所ということだけだ。けれど、大きな問題は相変わらず立ちはだかっている。
 わたしはメニューを見上げて、深くため息をついた。
「……どうかしました?」
「……いえ」
 飲食店で、タダで椅子に座っているわけにもいかない。何かを注文するのは当然のことだ。値段の高いコーヒーは論外として、果実のジュースとか、一般的なお値段のものはもちろんある。けれど、わたしは奨学金頼りの苦学生だ。ジュースの一杯だって、気軽に頼むのにはためらってしまう。
 ユウさんはぽんっと手を打ち鳴らした。
「そうだった、コルレオーネさんを覚えています? 昨日、隣に座っていた」
「それはもちろん、覚えていますけど」
 あんなに印象的な人を忘れろという方が無理な話だ。
「実は昨日、コルレオーネさんからお金を預かったんです。もし君がまた来たら、ご馳走してあげてくれって」
「え、そんな!」
 ご馳走……それはわたしが世界で五番目に好きな言葉……!
 けれど、昨日あったばかりの人に甘えるわけにはいかない。
「良いです、遠慮します。申し訳ないです」
「いえ、それが……」
 ユウさんはひどく深刻な顔をした。
「これが、コルレオーネさんの趣味なんです」
「しゅ、趣味……?」
「ええ。あの人は期待できそうな学生を見つけると、ご馳走せずにはいられないんです。それがもう、生きがいらしくて。もし断られたと知ったら、コルレオーネさんはすごく落ち込んでしまうかもしれません」
「そんなに!?」
 あ、あんなに渋い人が落ち込むなんて信じられない。
「どうかコルレオーネさんのために、ここは受け取ってもらえませんか。あの人の生きがいを奪わないであげてください」
 そこまで言われると、なんだか断る方が悪いことをしている気分になってきた。いや、でも……ううん。
「あ、ちなみに、コルレオーネさんはとても恥ずかしがり屋なので、直接お礼は言わないようにしてくださいね。もし見かけたらそっと微笑んで、ちょっと会釈をして欲しいそうです」
「なんだかすごく変わった趣味ですね、あの人……」
 わたしの思ったよりもずっと変人なのかもしれない。
「コーヒーでいいですか?」
「え、あれっ」
 いつの間にかご馳走になる方向で話が決まってしまっていた。
 そこまで言われると、お言葉に甘えようかなと心が傾いてしまった。次お会いしたら、ちゃんとお礼を言おう。あ、直接言ったらだめなんだっけ。難しいなあ、もう。
「……じゃあ、コーヒーで。甘くしてください」
「はい、すぐ用意しますね」
 なんだかユウさんにうまく言いくるめられた気もする……。
 昨日と同じように薬品器具で抽出の準備を始めたユウさんを前に、わたしはきょろきょろと店内を見る。奥の壁には一面の棚があって、たくさんの食器やグラス、瓶がならんでいて、香草やキノコが吊るされている。グラスは透明度の高いガラス製ばかりで、内心で「ひゃー」と感嘆した。透明度が高くて薄いほどガラスは高価になるのだ。このお店、もしかしてすごく儲かってるのかも。
 フラスコの中でお湯が沸く、こぽこぽとした音が耳に心地良い。実験中に何度も聞いたことはあるのに、それとはまるで違って聞こえる。
 ちらりと他のお客さんの様子をうかがうと、誰もが気ままに過ごして見えた。
 テーブル席ではエルフのお姉さんが座っていて、分厚い本を読んでいた。なんだか優しい表情をしているから、楽しい物語の本なのかもしれない。
 その横の席では、白銀の髪のお姉さんが、短剣の刃を指で弾くようにして何やら確かめていた。傍らには長剣が立てかけられている。冒険者の人だろうか。というか二人ともめちゃくちゃ美人なんですが。大人のお姉さますぎて直視できない。
 ふと話し声が聞こえて目を向けると、カウンターでユウさんとお爺さんがなにやら話していた。お爺さんがすごく厳しい顔をしているのが見える。怒られてるのかな……?
「ユウちゃんや、話は終わっとらんぞ。正直に言ってみい。どうやってその招待状を手に入れたんじゃ!」
「だから、ティセからもらったんですってば」
「じゃあどうしてわしの分はないんじゃ!?」
「だから、ゴル爺の分もありますってば。ろくでなし同盟の皆さんへ、って、団体席の招待状ですし」
「ユウちゃんだけ竜角席の招待状じゃろう! そこ、親族席じゃよ!? 貴賓席より希少なんじゃよ!? わしもそこが良いんじゃー!」
「まあ、諦めてくださいよ。ははっ」
「かーっ! 勝ち誇った顔が腹立たしいっ!」
 叫んで、お爺さんはカウンターに突っ伏して「おおんおおん」と泣き出してしまった。けれどユウさんはまったく気にした様子もなく、コーヒーの抽出に取り掛かっている。
 ……ティセって誰だろ。まさかあの歌姫さんじゃないだろうし。
 あまり見ているのも不躾だしと視線を奥の席に向けると、ドワーフのおじさんが座っているのが見えた。広げた布に鉱石を置いて、じっくりと鑑定しているらしい。原石の等級を調べているのだと思う。ドワーフは決して仕事の手を抜かない種族で、おまけに気難しくて、仕事場には絶対に他人を入れないと聞いたことがあった。そんな人がここで仕事をするなんて、このお店のことをどれほど信頼しているのだろう。ドワーフから信頼されるなんて、「ひゃー」である。
 わたしだって警戒心の強い方だとは思うけれど、さすがにドワーフほどではない。あのおじさんが堂々としているのに、わたしだけが緊張しているのもおかしく思えた。肩にぎゅっと力をいれた。それから、ふっと肩を落とす。脱力。そのまま、背もたれに体重を預けた。ふかっと、柔らかい感触に、思わず笑ってしまう。
「なにか良いことでもありました?」
 ユウさんが湯気の立つカップをカウンターに置いてくれた。
「学院だと、背もたれを使っちゃいけないっていう規則があるんです。貴族の子女たるもの、常に優雅たれって」
「それは恐ろしい規則ですね……」
「もしこんな風にもたれてるのを見られたらお説教です。でもここは学院ではないので、わたしは存分にもたれようと思います」
 背もたれに脱力しながら宣言すると、ユウさんは愉快そうに目を細めた。
「カフェ・オ・レを飲みながら、うちの背もたれを可愛がってやってくださいね」
「かふぇおれ……?」
 なんとも不思議な響きだった。
「コーヒーとホットミルクを混ぜて、砂糖を入れたんです。きっと美味しいですよ」
「本当ですかぁ?」
「そんなに人を疑う目で見られたのは久しぶりですね」
 なにしろ昨日はひどい目にあったのである。疑いは晴れないまま、カップを取る。昨日とはまるで違う色をしていた
「ユウさん……そんなにわたしのことを恨んでいたんですか……そりゃ、毒だなんて騒いで申し訳なかったですけど……」
「ちょっと何を言ってるかわからないんですけど」
「だってこれ、泥水じゃないですか! 雨上がりのあぜ道に溜まってるやつ!」
「違うよ! カフェ・オ・レだって言ってるだろ!」
「冗談です」
 がくーっとユウさんが大げさに肩を落とした。面白い人だなあ。
「きみ、良い性格してるって言われない……?」
「学院では猫をかぶっているので大丈夫です」
「胸を張って言うことかなあ」
 わたしはカップを取って、見た目は雨上がりの泥水であるそれを啜った。
 ん!?
「あまほろにがあまい……」
「複雑だね」
「これは……美味しいです」
「そんな愕然とした表情で言われたのも久しぶりだよ」
 てっきりまた毒のように苦酸っぱいかと思ったのだけれど、どっこい、泥水は美味しかった。ミルクが苦味を抑えていて、でもたしかにそこにあって、それが砂糖の甘さをほどよく際立たせてくれている。果実ジュースはごくごくと飲み干したいものだけれど、このかふぇおれはずっとちびちびと飲み続けたくなるような味わいだった。
「はっ」
「どうしました?」
「これが……依存性……?」
「だから違いますってば」
 ユウさんは言った。呆れたように笑っていて、その他愛もない会話が、なんだかとても楽しかった。

 /

「あ」
 ふと思い出して、わたしはペンを止めた。すっかり自習に夢中になっていた。
 思ったよりも声が大きかったようで、自分に向けられるいくつもの視線を感じた。学院に入ってから、そういうものには敏感になっている。とっさに口を押さえた。
 おそるおそる店内を見渡した。綺麗なお姉さんも、白髭のお爺さんも、ドワーフのおじさんもいなくて、座っているお客さんはみんな初めて見る顔だった。
 目線だけでこちらの様子をうかがうユウさんに、わたしは小声で話しかける。
「あの、持ち帰りできるものってありますか。喫茶店の名物が良いんですけど」
「持ち帰り? あるけど、名物かどうかはわからないなあ」
「このカフェ・オ・レとか、持ち帰れません?」
 言うと、ユウさんは目を丸くして、それから眉間にしわを寄せた。
「コーヒーのテイクアウト……っ! 僕はこんな簡単なことにどうして気づかなかったんだろう! アルベルさんに何度も頼まれていたのに……! そうだ、それを正式に開始すればあるいは……っ!」
「あの、世紀の大発見をしたみたいな顔をしているところ、申し訳ないんですけど。持ち帰れます?」
 ひとしきりぶつぶつ言ったあとで、ユウさんは棚から小さな水筒を探し出した。
「たぶん大丈夫ですけど、早めに飲んでくださいね」
「よかった」
「学院に戻って飲みたいくらい気に入ってくれました?」
 にまぁとユウさんが口元に笑みを浮かべている。ちょっと気持ちわるい。
「いえ、友人に頼まれたんです。その子が喫茶店の噂も教えてくれたんですけど」
 ユウさんはなるほど、と頷くと、カフェ・オ・レの準備に取り掛かった。
 と、わたしはとても大事なことを訊いていなかったのを思い出した。そもそも、わたしはそれを知りたくて喫茶店を探していたのである。
「あの」
「うん?」
「ここ、リナリア先輩が通っていたって本当ですか?」
 あ、リナリア先輩っていうのは、学院の生徒で、わたしの先輩で、いえ、面識はないんですけど……続ける言葉を口の中で転がしていたのだけれど、すべては無駄になった。なぜならユウさんが顔を明るくして、
「あれ、リナリアのことを知ってるの?」
 と言ったからである。
 呼び捨て? リナリア先輩を呼び捨て!?
「お、お知り合いですか!?」
 カウンターに身を乗り出して訊く。ユウさんは「おおっ?」と身を引きながら、
「まあ、お知り合いというか、なんというか」
「え、ほ、本当にここに通ってらっしゃったんですか!」
「まあ、そうだね。というか、現在進行形かな」
「ひゃー!」
「ひゃー?」
 まさか、メディの言っていたことが本当だったとは!
 わたしは店内を見渡し、カウンター席を見下ろし、ユウさんに顔を向けた。
「あの、あの、リナリア先輩はいつもどの席に……!」
「どの席っていうか、そこだけど」
 ユウさんはわたしを指差した。わたしの、座っていた場所を。
「ひゃー!?」
「ひゃー?」
 わたしはすぐさま飛び退いた。
「な、なんて畏れ多いことを……」
「同じ席に座りたいとかじゃないんだ?」
「そんな失礼なこと、できません。お隣が良いんです」
「前にも同じような台詞を聞いた気がするな……」
 わたしは改めて隣の椅子に腰をおろして、じっくりとリナリア先輩が座っていたという椅子を眺めた。ここでリナリア先輩が勉強をしていたのか……。
「そんなにしみじみと見るものかなあ」
「尊敬しているので」
「尊敬?」
「はい。リナリア先輩は、平民ながらに学院で首席になって、ついにフォルトゥナに留学まですることになっているんです。同じ平民として、勝手に尊敬しているんです。学院が嫌になることは山のように、いえ山脈のようにありますけど、リナリア先輩のおかげで、わたしも頑張ろうって思えるんです」
 貴族の子女が通う学院の魔術学科に、平民が入学したのはリナリア先輩が初めてだった。アーリアル魔術学院は冒険者の育成も兼ねていて、平民が入学するのは冒険者学科が当然だった。魔術学科は貴族の城だ。権威と血筋が物を言うのだ。リナリア先輩という前例があったからこそ、わたしの苦労はこの程度で済んでいるとも言えた。
「わたし、いつかリナリア先輩にお会いして、お礼を言うことが夢なんです。あなたのおかげで、わたしは何とか踏ん張っています、って」
 そっか、とユウさんが言った。
「その夢、叶える気はある?」
 穏やかな表情に、わたしは首をかしげた。
 叶える気はあるか。わたしはもちろん頷いた。
 ユウさんは満足げに笑うと「ちょっと失礼」と言って、店の奥へ続く通路に入っていった。それから、誰かを呼ぶような声。
 わたしがぽけっと待っていると、やがてユウさんが戻ってきた。それから、その後ろに、え、いや……はい?
 愕然とするわたしに、ユウさんがにやにやしながら、
「紹介するね、これ、リナリア先輩」
 と言った。
「これとは何よ、これとは」
 と、リナリア先輩らしき人が言った。一度だけ、学院で、遠目に見たことのある姿とそっくりだった。すらりとして、顔はすごく整っていて、肌が白くて、夕日みたいに綺麗な長髪で。
「は、あの、え、り、リナリア先輩ですか。本物ですか?」
 あわわと戸惑うわたしに、リナリア先輩は優しく笑いかけてくれた。
「本物よ。まあ、落ち着いて。そんなにすごい人間じゃないんだから」
 え、優しい……こんな、平々凡々の村娘1に暖かい言葉をかけてくださるなんて……ううっ、尊い……うっうっ。
「……なんで、泣きながら私を拝んでるわけ?」
「尊敬してるんでしょ」
「尊敬って、こういうものだっけ?」
「ほら、表現の仕方は人それぞれだから」
 わたしが言葉を失ってただ感謝を伝える祈りを捧げている間に、ユウさんとリナリア先輩は小気味よく会話をしていた。あのリナリア先輩とこんなに気安く会話ができるなんて……!
「わたし、ユウさんを見くびっていました……ただの変な人じゃなかったんですね……」
「きみ、大丈夫だよ。それだけ言えるなら貴族なんて目じゃないって。図太い神経してるもん」
 ユウさんがジト目で言う横で、リナリア先輩が口元を隠しながら笑っていた。
「リナリアも笑いすぎでしょ」
「良かったじゃない、見直してもらえて」
「誰かさんのおかげですねえ」
「あ、あの! リナリア先輩!」
 とわたしは言った。声が裏返った。
「なに?」
 きょとんと、リナリア先輩がわたしを見る。
「あの、ありがとうございます! リナリア先輩のおかげで、わたし、頑張れてます。学院は大変ですけど、でも、何とか生きていけてます!」
 リナリア先輩は腰に手を当てて、小首をかしげた。
「よくわからないけど、どういたしまして。でもね、頑張ってるのはあなたでしょ。自分のことも褒めてあげて」
「こんな小市民にありがとうございますぅ……」
「……この子、変わってるわね」
「僕もそう思う」
 なんと言われようと構わない。わたしは満足である。ああ、リナリア先輩にお会いしてお礼を言える日が来るとは思わなかった。おまけに、こうして会話までできるなんて。
「噂は本当だった……」
「噂?」とリナリア先輩が言う。
「なんかね、うちに来ると夢が叶うって噂があるらしいよ」
「あら、間違ってないんじゃない?」
 リナリア先輩がユウさんに笑いかけた。それは、わたしが見惚れるくらい、とっても素敵な笑顔だった。
「あんまり期待されると困るんだけどなあ」
 ユウさんは苦笑しながら、水筒をわたしに差し出した。
「はい、お土産のカフェ・オ・レ」
「あ、どうも」
「かふぇおれが好きなの? 私もね、お気に入りなの」
「ありがとうございますっ! 大好きなんですっ!」
「きみさ、僕とリナリアで露骨に態度を変えてない?」
「気のせいです」
 おかしいな……とぼやくユウさんの背中を、リナリア先輩がぽんぽんと叩いた。
「まあまあ、元気をだしなさい」
「その勝ち誇った顔をやめてもらえますかねえ」
「これは生まれつきよ」
「勝ち誇った顔をしてる赤ん坊なんていてたまるか」
 二人の間には、なんだか、お互いに遠慮のない親密な空気があった。
「あの、ところで、どうしてリナリア先輩はこちらに……? 留学されているのでは……」
 訊くと、リナリア先輩は照れたように頰を掻いた。
「長期休暇を利用して帰って来てるのよ。もう学院の寮を使うわけにもいかないから、ここで寝泊まりしてるの。たまにお店も手伝ったりね」
「あっ、そうなんですね、なるほど、はい」
「その、ニチャァってした笑顔はなにかしら」
「いえ、いえ。大丈夫です。わたし、空気を読むのも、空気になるのも得意なので。はい」
 なるほど、そういうことなんですね。わかります。わかりますとも。
 わたしはユウさんにお会計をお願いして、そっと扉に向かった。空気のように退出するのも得意なので。
 けれどちょっと思い直して、わたしは振り返る。
 ユウさんとリナリア先輩が並んで立っている。その光景は、なんだかとってもしっくり来た。リナリア先輩が小首をかしげた。
 昔、学院でリナリア先輩を見たとき、表情は凛と引き締まっていた。まるで雪原に一輪で咲いて、雨にも雪にも風にも負けない花のような強い人だと思った。けれど、それは気を張っていたからなんだと、いま気づいた。周りに負けないように、弱さを見せないように、強さをまとっていたんだ。
 あの頃のリナリア先輩は、いまはもういない。代わりに、ユウさんの横でとっても暖かい表情を浮かべている。
「また、来ても良いですか?」
 訊くと、ふたりはきょとんとしてから、そっくりな笑みを浮かべた。リナリアさんが肘でユウさんを小突いた。
「もちろん、いつでもお待ちしています。なにしろここは、世界にひとつだけの喫茶店だからね」


 了





ーーーーーーーーーーーーーーーーー
▽あとがき
 書籍版のあとがきでは真面目にやってるから、ここのあとがきの開放感がたまらない。
 在りし日には「あとがき」が本編と言われたこともありましたね。
 あとがき邪魔ですという意見もあって無くしたら、あとがきがないと寂しいという意見もあって
復活させたりね。懐かしいですね。
 そんなこんなで、カクヨムの設立に合わせて思いつきで投稿してみたら本当に本になってしまった、
書籍版の異世界喫茶も、ついに完結しました!
 ここまでこれたのは本当に理想郷のみんなが応援してくれたからですよありがとう。
 初めて本が書店にならんだとき、「一巻の勢いがすごい。この作品は読者に愛されてますね」
と担当さんに言われて涙が出たよ。
 あのころみんなと騒いでいた放課後の校庭みたいな遊び場から、本屋の棚に飛び出して、
重版もして、コミカライズもして、6巻まで続いて。いやはや、あのころの夢の続きをやってた
気分です。楽しかったなあ。
 まあ、書籍版は終わるんだけど、ウェブ版は別次元だから!
 こっちはサザエさん時空だから。本当に何も起きないやつです。
 ただまあ、生活費を稼ぐために本を出さねばならない生き物になってしまったから、
更新はのんびり構えてくれると嬉しい……とりあえず次回作なんとかするから……。
 最初から最後まで理想郷のみんなに向けて書いた6冊でした。よかったら最後まで見てくれると
嬉しいです。
 気づいたらみんなもおれも歳とっちゃいましたねえ。
 大人になりましたか。夢、叶いましたか。笑ってますか。小説、読んでますか。楽しくやってますか。
 おれはもう少し放課後の校庭で遊んでおくよ。あのころと変わらず、小説を書いていくから、
みんなもそれぞれに大事なものでがんばっていこうな。
 しんどくなったらまた集まって、騒ぎましょ。
 僕らはもう少しだけ、夢の途中です。
 これからもよろしくね!

 風見鶏

▽レス返信忘れてたわ
>新刊情報キターーーーーーーーと思ったら最終巻って!!!!!
 THE!大人の事情!!

>コミカライズ!
>やたっ!!
>……と思ったら、短期集中で全4回だった悲しみ。
 気持ちは同じ!でも書き下ろしが加えられて秋にコミックス出るからね!

>おお…… 5巻が出てる。これで新しい職場でも社畜として戦えます。
 きみはまだ戦っているのだろうか……。

>カクヨムは感想書き散らせないから勿体ないよね。
 いや本当にそこですよね。壁がね、厚いよね。

>ところでロリ成分がもっとほしいのですがどこで注文すればいいロリ?
 書籍じゃ無理だ……親戚一同に知られているんだ…すまねえな…




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