薄暗い空間に、魔導師が三人。 大いなる古代の儀式を始める。 使うジュエルシードは十個。 予備に一つ。 庭園中央、アリシアの眠るポッドが安置された花畑に、パラディンの特殊な魔方陣が浮かぶ。【ジュエルシード、全接続完了。次元連結魔力炉、術式構成終了。リインフォース?】「こちらも準備は出来た。聖王術式、構成終了。詠唱、どうぞ」 ……その空間に、魔力が溢れ出す。次元連結炉から魔力が生み出され、その魔力はパラディンを通じて、私へ。「聞け、全ての門を司る精霊。時空の扉、汝が力もて開け。我が望む、栄華の過去へ」 詠唱を。力ある言葉を紡ぐ。 パラディンの魔方陣が回り、ジュエルシードの数だけ、魔方陣が展開する。 私の前に、ベルカの魔方陣が現れ、扉を形成していく。 ……これが、時空の門。 過去へつなぐ扉。【時空境界に接続。扉が閉まるまで、一分しかありません。急いでください】「わかった。……リインフォース。術式の維持をお願い」「任されました」「プレシアさん。アリシアのポッドを」「……開けるわ。……アリシアをお願い」「……わかってます」 ポッドから、冷たいアリシアを抱える。……扉を、開ける。「……開け【時空の門】」【time warp】 作戦開始。時間は一分! 扉に入り、出た先にアリシアを探す。 ……発見。あと五〇秒。 研究所と思われる方向から光が漏れ出す。 魔導炉の暴走が始まった! 後三〇秒! 私の姿を認識して、驚いた顔のアリシア。確かにフェイトに似ている。 アリシアを抱えあげ、アリシアの遺体を置き、門まで駆け抜ける後二〇秒! 門に到着、体ごと入る……! て、暴れるなアリシア! お願いだから逃げないで!? 閉まるまで後一〇秒。アリシアを門に入れ、私がその扉に手をかけ、「あ」 ……無情にも、扉は、私の前から、姿を消した。 ……と、取り残され……た……【マスター! 衝撃波、来ます!】 あれに巻き込まれるのは厄介だ。 空間座標を第97管理外世界海鳴市の病院裏に設定。 空間転移式発動。 私たちは、過去に取り残された。 <プレシア> せつなが入った時空の門から、人影が転がり出る。 すかさずフローターフィールドを発生させる。 ……金の髪、小さな体。……その幼い顔を、忘れるはずがない。「アリシア!」「!? ママ!!」 ああ、ああ、生きている! あのころと同じ声、同じ顔。 他の誰でもない、アリシアだ。「ママ……お姉ちゃん、ママのお友達だったんだね?」「そうよ、お姉ちゃんに頼んで、アリシアを助けてもらったの」 ああ、せつな。あなたは本当にアリシアを助けてくれた。 こんな、こんなうれしいことはない。「ほら、アリシア、お姉ちゃんに、せつなに、お礼を……」 ……そして、私は見てしまった。 硬く閉じられた門を。 苦く、そして、絶望を湛えた、夜天の書の管制人格の顔を。 ……アリシアを助けた少女は、戻ってこなかった。 <はやて> 嘘や。 何かの間違いや。 昨日、約束したやん。 一緒に、一緒に幸せになるって。「……誤差は、計算を重ねても、0.3秒前後でした……ですが、5秒早く、門が閉じ、……せつなは……」「う、嘘やろ? せっちゃんのいつもの嘘やろ? あ、あかん子やなぁ、リインフォースまでつこおて、あたしを騙そういうて……」 けど、リインフォースは、顔を上げない。 ……本当に?「じゃあ、せっちゃんは、アリシアちゃんだけ助けて……過去に取り残された言うんか!?」「……申し訳……ありません……」 嘘や。嘘や。 そんなん嘘や! 嘘や言うて、リインフォース!「なあ、嘘やいうてぇなぁ! 嘘やって! 冗談やぁ言うてえなぁ……」 お願いや……せっちゃん。 <フェイト>「……せつな……が?」 母さんからの次元通信。 珍しいことだと思っていた矢先に聞かされた、訃報。 ……せつなが時間逆行の制限時間に間に合わず、過去に取り残された。 ……しかも、その時、母さんが設計していた魔導炉『ヒュードラ』の暴走事故のあった日らしい。 ……その事故の影響で、地表の酸素が一瞬でなくなり、アリシアは窒息死したそうだ。 その現場に、アリシアの代わりに、せつなが、いた。 ……アリシアが助かり、せつなが……死んだ。「テスタロッサ? ……せつなは、どうしたんだ?」 シグナムが、私に、話しかけてくる。 ……もう、私に笑いかけてくれる、あの人がいない。 私を抱きしめてくれるあの子がいない。 せつなが……もう、いない。「……せつなに、なにかあったのか!」 ヴィータが、私に詰め寄る。 その身体を抱きしめて、私は泣いた。 私の、大好きな親友のために。 <なのは>「……シグナムさん、それ、本当ですか?」 シグナムさんからの電話。 せつなちゃんが、時間逆行に失敗。過去に取り残されたと、プレシアさんから連絡があったらしい。 ……でも、でも、とても信じられない。 だって、だって、せつなちゃんは……「美由希さん、すみません。ランチセットもう一品追加で」【マスター。久しぶりの食事でしょうけど、もう少し落ち着いて食べてください。ほら、ほっぺたにご飯粒ついてますよ?】「あんな長い時間寝てたんだから、お腹もすくよ。……あ、ありがとうございます桃子さん」「いいのよ。たくさん食べてね? ……なのは? お友達待たせてどうしたの?」 ……目の前でご飯食べてるの。 ……シグナムさんに事情を説明後、まず。「せつなーーーーーー!!」 フェイトちゃんが飛び込んできた。 シグナムさんとヴィータちゃんもお店に入ってくる。「ちょ、おま、何暢気にシュークリーム食ってやがんだ! あたしにもよこせ!」「ああ、こんなに痩せこけて……もう、私の側離れちゃやだよ。ずっと一緒にいよ?」「ええい、ヴィータ、突っ込みどころが違う! テスタロッサそういう問題じゃないだろう!」 いきなり漫才を始めないで欲しい。 その願いが叶ったのか。「……闇に沈め」「あ!?」「うぇ!?」「……あ、主……」 フェイトちゃんとヴィータちゃんが足元に現れた闇に沈んでいく。 その代わりに、はやてちゃんが白い服装で姿を現した。「……私を泣かした挙句、こんなところで悠々とフェイトちゃんとお茶しとるやなんてええ度胸やな。……せっちゃんは私と一緒におってくれるんやろ?」 漫才がいきなり修羅場に変わりました。 とりあえず、店内で魔法は勘弁して欲しい。 お母さんに頼んで店を一時的に貸切にしてもらった私は、もう少し報われてもいいと思うの。「せつな。フェイトといちゃつくのは構わないけど、ちゃんとアリシアも構ってもらうわよ!」 真っ黒い服を纏った黒髪の女性がまたいきなり現れた。 ……手の中にはフェイトちゃんより幼いけれど、フェイトちゃんそっくりな女の子がいます。 どうも、彼女がプレシアさんで、プチフェイトちゃんはアリシアちゃんのようです。「お姉ちゃん! 大丈夫だったの?」「……うん。平気。お姉ちゃん結構なんでもありだから」 ……とにかく。「そろそろ、お話聞かせて欲しいの」 レイジングハートを準備。 ……その一瞬で土下座をする、せつなちゃんは私をどう思っているのか。 そっちのほうをお話しようか迷ったのは、内緒なの。 <せつな> 転移完了。……間違いなく、地球に降り立った。 周囲を見回す。……まだ、中央病院は建設されていないようだ。 時間は夜。 都合よく、周りに誰もいない。 ……ここは、過去の海鳴市。 知り合いは、まだ誰もいない。 頼れるものは……私一人。【マスター……これから、どうしましょうか?】 いや、もう一人いた。 頼りになる、相棒が。「……時間逆行の逆……時間進行の術式は?」【残念ながら、ヒットしません。……古代ベルカにおいて、過去に行く魔法があったことが奇跡に近い。未来に行く魔法なんて……】「そこまで都合よくないか……」 じゃあ、諦めて、この世界で生きていくか? ……無理ではない、無理ではないが……あまりにも、寂しすぎる。 どうにか、未来にいく方法はないか? どうにか……あれ?「どっかであったな、このシチュエーション……」 思い出せ、思い出すんだ。 私の記憶じゃない。多分、俺の記憶……どこかの小説にあったはず…… あ、未来のクロノだ。【とにかく、この世界での生活を前提に……? マスター?】「パラディン。昨日の闇、まだ手をつけてないよな?」【え、ええ。今回の件が終わったら、改修しようと思ってましたが……】「いや、設定だけ変えて、そのまま使う。……俺の考えはな?」 話す。その、単純な仕組みの未来旅行を。「……できるか?」【……できます。こんな方法があったなんて……天才ですか、マスターは】 ……ごめんなさい、思いっきりパクリです。 ようは、自分自身に対する時間停止。 自分の時間を止めて、肉体と精神を保存する例の闇に避難する。 後は、俺が取り残された時間に、起き出せば……「見事に未来旅行ができるってわけだ。……冷凍睡眠と同じ理屈だな」【今すぐ設定します。……後、私本体はどこにいましょうか?】「ここの地中深くに隠れててくれ。……腐らないよな?」【バクテリアごときには負けませんよ。後、モグラにも】 準備が出来次第、闇に取り込まれる。 なお、寝ている時間がもったいないので、そのすきに睡眠学習を施す。 一般知識とか、ベルカの魔法とか、戦術知識とか…… そして……「ついさっき起きたって訳。……いや、ざっと二十六年近く寝てたから、お腹すいてすいて……」 ……流石に大雑把過ぎたか? プレシアさんはしきりに納得してる。 守護騎士二人は唖然としてる。 はやては……あきれてる。 フェイトは感心して、アリシアは……ぽかんとしてる。解ってらっしゃらないご様子。 なのはは、「せつなちゃん。せめて、まずみんなに連絡するのが先だったと思うの」「あはは。空腹に負けました」 そう言ったら、仕方ないなぁ、って顔して、私を抱きしめてくれた。「でも、よかった。……やっと、いつものせつなちゃんだね?」「……うん。ジュエルシードの件がまだ残ってるけど、もう私が無理する必要ないから。……約束どおり、連休は温泉だよ?」 何を隠そう、一番期待していたのは私だ。 ……さあ、癒されに行こう……「ところで、皆さん。さっきのは一体……」「「「「「「「あ」」」」」」」 やば。魔法、桃子さんに見られちまったい。 その後、なのはと一緒になんとか説明し、黙っておいてもらうことに。 ……後日、高町家の家族には、話し終えたとなのはが疲れながら言っていた。 ご愁傷様です。