検索に次ぐ検索、修正による修正、調整による調整。 正直、ここまで酷くなってるとは思わなかった闇の書。 バックアップデータを当てても邪魔な自衛プログラム。 通称闇の書の闇。その正体を解明するのにまた一苦労。 結局、その自己防衛プログラムの切り離しができたとき、それの正体が判明。【なんとまぁ……私用のグレードアップパッチ、夜天に組み込みますか……】 そう、それはパラディン用の追加パッチだった。それを無理矢理夜天に組み込み、自己防衛プログラムとしたらしい。 プログラムを解体、再組み立てしてそのパッチの元の姿に戻し、パラディンにインストール。 バージョンアップさせて処理能力の上がったパラディンとプレシアさんの協力でようやく。「お、終わった……」「できたわね。久々に骨のある仕事だったわ」 夜天の書、完全復活。 ジュエルシードを使って魔力を補填。 二つも使った。時間逆行でつかえるのは後十一個。 庭園で待っててもらったはやてに最終起動してもらう。「……これが、夜天の書……」「ああ、お前の相棒だ。魔力は充填してある……起動してみろ」「うん。……夜天の書よ、あたしの声を聞いて」 はやての声に反応し、うっすらと輝きを増す夜天の書。 ページがめくられていき、光と共に……浮かびだす人影。 そして……「な、なんやの!?」 噴出した闇!? まだ自衛プログラムのこってたのか!? 闇に飲み込まれそうになるはやてを庇い、その闇に……俺が飲まれた。 真っ暗になっていく目の前に。「せっちゃん!」 はやての声が聞こえた。 目を開けるとそこは……「……? あれ?」 自分のベッドの上だった。 ……永遠せつなのベッドじゃなく、永森刹那の。 ……俺の、家?「おにぃちゃん! バイト遅れるよ!?」 やたらと懐かしい声が聞こえた。 ドアを開けると、そこには。「ちょっと、おにぃちゃん! パジャマで出てこないでよ!」 あの日、無念の死に様を見せた、妹の姿が……「? おにぃちゃん? どうしたの?」 ……駄目だ、涙が……「あすか? 刹那どうしたの!?」 さらに声。この声も知ってる。 姉さんだ。 俺の、姉さんだ。「大丈夫? ……もう、いい年して、情けないわよ?」「ご、ごめ、……ぐぅ……」「おにぃちゃん、悪い夢見たの?」 悪い夢? 夢だったのか……? 「……ああ、夢を見たんだ。二人が死んで……俺が独りになる夢……」「……そう、大丈夫。私はここにいるから」「私もだよ? おにぃちゃん、見かけによらず、寂しがり屋さんだから」 ああ、悪い夢だったんだ、あれは…… 長い、悪夢だったよ…… <はやて> せっちゃんが消えてしまった。 夜天の書を起動した矢先、その管制人格と共に噴出した闇。 それに飲み込まれ、闇は本の中へ。「……マスターはやて……」 銀髪の女性が、あたしを呼ぶ。 夜天の書の管制人格。「申し訳ありません。闇の書の主を閉じ込める闇を発見できなかったようです」 閉じ込める闇?「はい。……闇の書が完成した直後、その主を一時的に本に閉じ込め、夢を見せる闇です」「その夢は、どんなものなの?」「……優しい夢です。その取り込んだものの記憶を検索し、一番幸せだったころの夢を見せる。夢の中では、死んだ者も、一時的に蘇り、幸せの中で……取り込んだものは、死んでいきます」 死ぬ? せっちゃんが死んでしまう?「そ、そんなんあかんわ! せっちゃん、あんたを直すために、いっぱいいっぱい頑張ったんで! せやのに、そのせっちゃんが死ぬんはあかんわ!」「……申し訳ありません……」 頭を垂れる管制人格。 その姿に、腹が煮えた。「謝らんでええ! あんたは夜天の書の管制人格やろ? なんとかせっちゃんを夢から解放せなあかん。方法を教えて?」「……ですが、危険です。下手をすれば、主まで……」「せやけど、せっちゃんが死ぬんよりかはましや。……お願いや。あたしの幼馴染で、あたしが傷つけて、……それでも、あたしを助けようとしてくれた子やねん。せっちゃんを見殺しなんかにせんといて!」 彼女は、一瞬躊躇したが。「……わかりました。闇に入ります。……マスター、ユニゾンを」 あたしの言葉に、従ってくれた。 あたしと、管制人格が重なる……。「ユニゾン・イン」 ……わかる。管制人格は、ユニゾンデバイス。 あたしの足りない処理能力を補助してくれる、あたしのデバイス。「はやてさん」「プレシアさん」 プレシアさんが、あたしを見つめる。「……せつなをお願い。あの子がいないと、私の願いが……いえ、違うわね。あの子の無事が一番先ね」「……大丈夫です。せっちゃんは、ちゃんと連れて帰ります」「お願いね……」 プレシアさん、最初怖い人おもたけど、ほんまは優しい人や。 この四日、一緒にいてわかった。 この人の願いを叶える為に、せっちゃんが頑張ったのを知ってる。 せやから、せっちゃん。「今行くで……!」 待っててや…… <せつな> ……日々は続く。「おにぃちゃん。どうしたの?」「ん? どうしたって?」「何か、寂しそうだったよ?」 そんな顔してただろうか?「いや、多分気のせいだろう」 何を馬鹿な話を。 リリカルなのはの世界に入って、自分が女の子? 馬鹿げた話だ。「ちょっと散歩行ってくる」「気をつけてね?」 玄関を開け、外に出る。 丁度隣の部屋の扉が開き……「あ、刹那」 ……? あれ?「アルフ……?」「おはよ。……? どうしたのさ、とぼけた顔して」 何で、アルフがいる? だってあれは……夢なんだろう?「アルフ? どうしたの……あ、刹那さん、おはようございます!」 アルフに続いて部屋から出てきたのは……聖祥の制服に身を包んだ……フェイトだった。 その後ろには。「刹那? おはよー! ……どうしたの? ぼーとして?」 フェイトがもう一人……まさか、アリシアだというのか?「あ、二人とも、そろそろ学校の時間だよ?」「あ、ホントだ。じゃあ、刹那、いってきまーす!」「いってきます、刹那さん!」「あ、ああ、いってらっしゃい……」 ……あれ~?「どうしたんだい? 今日は変だよ?」「……いや、なんでもない」 あれは……いや、この世界は…… 「すまん、ちょっと出てくる」「え!? ちょっと!?」 アルフを背に、走り出す。 街を走る……辿り着く。 ……何故、辿り着く?「おや、刹那君。いらっしゃい」 翠屋の店先に、高町兄。 だから、何故いる?「高町兄。なのはは?」「なのは? もう学校に行ったが?」 やはりなのはもいるのか? ……なら、次の目的地は……「すまん、ありがとう!」「あ、おい!」 呼び止める高町兄の声を聞き流し、今度は小学校へ。 ……記憶をたどり、学校の校門へ。「あれ? 刹那? 何であんたがここに?」「刹那さん? どうしたんですか?」「あ、刹那お兄ちゃん! おはよう!」 後ろから声が聞こえた。 ……アリサ、すずか、なのは。「……おはよう。……あのさ、一つ聞きたいんだけど……」「? どうしたのよ?」 後はこの場にいない、もう一人。「はやて、見なかったか?」「はやてちゃん? 家にはいませんでしたか?」「はやてちゃん、足の病気でしばらく学校これないはずだよ?」 ……じゃあ、次は……八神邸か!「ありがとう。勉強頑張れよ、お前ら」「あ、こらーーー! なんなのよ一体!」 アリサの怒声を聞き流し、向かうははやての家。 走って、走って、走って…… 見つけた。 一人で住むには、やたら大きい家。「……? 刹那か?」 その玄関先を掃除している、騎士シグナム。 ……意外に似合うな、竹箒。「シグナム、はやては中か?」「? 主なら、散歩に向かわれたぞ? そう言えば、お前を探していたようだが、何か約束か?」 俺を? ……なら、探さないと。「ありがとう。探してみる」「……刹那」 呼び止められる。「どうした?」「……いや、私の勘違いかもしれないが……私の知っている刹那はお前のような男だったかと……いや、やはり勘違いだ」 ……そうだ。 その勘違いは正解だ。 ……無理な話なんだ。 俺の世界と、彼女の世界をつなげるには、かなり無理があるんだ。「……はやてを探してくる」「ああ、気をつけてな」 はやてはどこにいるんだろう? ……まさかと思い、病院へ。 海鳴の病院の裏に、高台がある。 As最終話で、リインフォースと別れたあの高台だ。 ……あのシーンはちゃんと見ていた。 なら、あそこの可能性はある。 病院へ急ぐ。 ……そこに、彼女はいた。「……はじめましてやな、刹那さん」 白に、黒い縁取りのバリアジャケット。 髪がいつもの茶色じゃなく、薄い銀色になっているのは、夜天とユニゾンしているからだろう。「この世界の私は幸せやな。守護騎士のみんながいて、あたしの両親が生きとって……」 ああ、それは、とてもとても幸せだ。 それのどこがいけないのか?「刹那さんも幸せやんな? お姉さんも、妹さんも、この世界じゃ、生きとるんやろ?」 悲しい出来事などなかった。 二人とも無事で、隣にはフェイトたちが暮らしてて、なのはたちも元気に暮らしてて…… とても、とても幸せだ。「せやけどそれは、ただの夢や」 ……わかっている。 こんなことはありえない。 世界はいつだってこんなはずじゃなく…… すぐ隣には、悲しみが満ちている。「あたしは、こんな夢の中で眠るより、現実で幸せになりたいんよ。逃げるんはいやや。あたしは、刹那さん……いや、せっちゃんと、一緒に、現実で幸せになりたい」 ……そうだ。 私は、永森刹那ではなく、永遠せつなだ。 失った過去ではなく、今の現実で生きなくてはいけない。「せっちゃんはどうや? 作り物の幸せと、みんなで作る幸せ。どっちが大事や?」 ……そんなことは決まっている。「……私も、私も、みんなと一緒に、幸せに……なりたいよ」 もう、答えなんか出ている。 景色が砕け、夢が覚め、はやてと、私と、真っ白な闇。「せなら、一緒に行こう。この夢から、でるんや。一緒に」 ……もちろんだ。「パラディン。モードリリース【アヴェンジャー】ロード」【Avenger form ignition. ……いつもより威力が段違いです。気をつけて使用してください!】 いつもの鎧姿。けど、銀色ではなく、闇のように黒い。 魔力の質も、いつもより攻撃的だ。「わかってる。……行くよ、はやて」「よっしゃ! いくでリインフォース!」『ええ、わが主』 はやてが杖を構え、ベルカ式の魔方陣が足元に浮かぶ。 私も、この世界を切り裂く、剣を選択。「おいで。【アロンダイト】」 手の中に浮かぶ、一組の双剣。……なるほど。これが形状変換。 いつものアロンダイトの姿と、違った剣。 けど、攻撃力は、こちらのほうが上!「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ……『フレースヴェルグ』!!」 はやての砲撃魔法が白き闇を打ち砕く。 続けて、私の広域斬撃。「全てを切り裂け、荒れ狂う刃!【烈空百閃】!」【Ranpeling slash】 白き闇が崩壊を始める……視界が光に満ち…… はじけた後、私は、プレシアさんの研究室に出た。「! せつな! ……無事なの?」 プレシアさんが駆け寄ってくる。 ……どうやら、外に出られたようだ。「ご心配をおかけしました。……はやて?」「あたしも無事や。……せやけど……」 はやての視線の先に、浮かぶ闇の雲。 ……ほうっておいても、自己崩壊で崩れ去るだろう。 ……けど。「パラディン。できる?」【……そうですね。あれも私の……アヴェンジャーパッチの一部です。……こちらで引き受けましょう】 パラディンをスタンバイモードに戻し、その本に吸収させる。【Sammlung. ……蒐集完了。しばらく、アヴェンジャーフォルムを使用できません。気をつけてください】「わかった……」 これでようやく、全ての準備が整った。 後は……「プレシアさん。明日、終わらせます」 アリシアを助け出す。「……ええ。お願い、アリシアを……」 プレシアさんの願いを、叶える。 明日、すべてが……終わる……そうしたら…… みんなで、温泉だ……