<なのは> 朝の日差しが部屋に差し込んでる。 今の時間は午前5時半。 子供の頃からの習慣で、結構早く起きてしまう。 ……それに、最近は徹夜もしてないし。「……? あ、なのは? おはよう」「おはよう、フェイトちゃん……起こしちゃった?」 フェイトちゃんとはルームメイトだ。 最初はせつなちゃんと同じ部屋だったんだけど、フェイトちゃんが入隊したと同時に、せつなちゃんが家を建ててしまい、そっちに移ってしまった。 代わりにフェイトちゃんがこの部屋に入った。 ……この部屋は、元々せつなちゃんの部屋だ。 「ううん? 自分で起きたから平気……」 ……あはは……寝起きのフェイトちゃん、凄いかっこ。 パジャマの隙間から、白い肌やブラが見えてる。 ……せつなちゃんだったら、押し倒しちゃうよね、絶対。 隊舎に出勤する準備をする。朝御飯は食堂でとってるから、朝には余裕がある。 ……今日は、陸士部隊との合同訓練があるから、早めに行って準備しないと。 フェイトちゃんも参加してくれるそうだ。「今日の合同訓練、こないだの実験隊の人達もくるんだって?」「うん。……ATデバイスは使わないようにって、せつなちゃんから言われてるけど……」 ひょっとして、あそこの隊長さんには、何かあるのかも知れない。 この間も、私たち置いて二人で話してたし。 「……プリスケン一尉、調べてみたんだけど……教導隊出身なんだよね。なのは、知ってる?」 ……聞いたことない。 班が違っただけかもしれないけど、私は見覚えないなぁ…… 後でゼンガーさんに聞いて見ようかな?「レーツェルさんにも聞いて見ようか? ……後、キタムラ教官にも」「そうだね。……フェイトちゃんも、プリスケン一尉に何かあるって思うの?」「……うん。せつなね? あの人を見る目が……いつもと違った」 ……と、言うことは。 彼も、せつな……刹那さんの世界のゲームキャラなのかもしれない。 リュウセイ君たちもそうだって言ってたし。 そして、彼はいつか……私たちの敵になる。 ……憶測に過ぎないけど。「せつなちゃん、全部教えてくれればいいのに」「……せつな、そういうところがずるいよね? 全部自分で背負おうとするから」 うん。 ……私たちにも、もっと頼って欲しいなぁ…… 出勤して、まずは食堂へ。 今日はザフィーラさんの朝食メニュー。 ……この、食券販売機の隅っこにある、ドッグフードのボタンは何の冗談なんでしょうか? ……クラブサンドで朝食を済ますことに。 焼いたトーストに、ジューシーな牛肉をレタスやトマトとはさんだサンドイッチ。 焼き物料理は、レーツェルさんも脱帽する腕前になってしまったザフィーラさん。 アルフさんとの仲も順調だそうだ。 ……で、レーツェルさんが暇そうにしてたので、プリスケン一尉の事を聞くことに。「……ああ、確かにそうだ。私とゼンガーが教導隊に入って間もない頃、同じ班だった。……キタムラ教官も同じ班だったから、後で聞いてみるといいが……」 レーツェルさん曰く、とても謎な男の人だったらしい。 仕事は真面目にこなし、任務もとても真剣に取り組んでいた。 けれど、人付き合いが悪く、同じ班の人間にも、あまりより付かなかったそうだ。 その割には、上の階級の人間とよく話していたそうで、実は内部査察官だったんじゃないかとの噂もあるらしい。 プライベートでは誰一人としてその行動を目撃したことのない、本当に謎な人。 イングラム・プリスケンという人は、そういう人らしい。「……気になるかい?」「……せつなちゃんが、そのプリスケン一尉に接触してたみたいなので……ちょっと、気になって」「……なら、あまり気にしないほうがいい。せつな君に任せておくのも、手だと思う……彼女は多分、彼の正体を知っているのかもしれないしね?」 ……レーツェルさんの言うとおりかも。 レーツェルさんの正体も知ってたんだから、せつなちゃんはきっと知ってる……と、言いますか。「せつなちゃん以外にばれなかったんですか? ……レーツェルさんの正体」「不思議なことにね? ……確かに、ばれない私が異常なのかもな……」 うーん。不思議。 なお、ゼンガーさんは初めから知っていたそうです。 合同訓練の受付テントを、訓練隊の生徒と準備する。 ……あ、本当は訓練生って呼び方なんだけど、私は生徒って呼んでるんだ。 特に、今一番力を入れてる子が、「なのはさん! 陸士隊のリスト持って来ました!」「ありがと、アイビス。机の上に隊ごとに並べておいて?」「はい!」 明るい茶色に色違いのメッシュを入れた髪の女の子。 アイビス・ダグラス訓練生。せつなちゃんの弟子……に、なるのかな? 私と訓練するより、せつなちゃんと訓練してる時が、一番嬉しそうにしてるんだよね。 ……うーん。憧れって凄いなぁ…… せつなちゃん、本当はかなり卑怯なのに。 ああいう戦い方はして欲しくないなぁ、アイビスには。 まあ、せつなちゃんもそこは分かってるみたいで、正統派の空戦技術を教えてるけど。 ……ヴィータちゃんがいたら、もっと楽に教えてあげられるんだけど。「あ、高町教官? 今日の訓練スケジュールですけど」 私の後ろから声をかけてきたのは、ツグミさん。 ロングアーチの通信官だけど、訓練隊の管制官も担当してくれてる。 ……アイビスの友達なんだって。「どうしたの?」「えっと、この『広域魔法回避訓練』なんですが……えと、何でバニングス技術士が教官になってるんですか?」 ……それは聞いてほしくなかったなぁ…… 広域魔法なら、はやてちゃんの領域なんだけど、今日はちょっと教会に行く用事があるので、急遽、アリサちゃんが担当することに。 ……なお、アリサちゃんが魔法戦闘できることは、特務隊内でもあまり知られていない事実です。「それに『近接戦闘講座』にも、月村副主任の名前が……どういうことです?」 ……ATデバイス禁止じゃなかったのかな? かな? アリサちゃんはぎりぎりセーフとしても、すずかちゃんはアウトだよね?「……ちょっと、すずかちゃんにお話聞いてくるね?」「はぁ……バニングス技術士はいいんですか?」「アリサちゃんはいいの」 一応魔導師登録はしたそうだから。 さて、医務室にいるかな~?「あ、高町。月村の嬢ちゃんはそのままでいいぞ?」 て、え?「キタムラ教官? ……どうしてですか?」 私の副官をしてくれている、ダンディーなお髭のキタムラ教官。 ……陸戦の担当教官で、生徒の体調管理も引き受けている人が、非魔導師のすずかちゃんをどう使う気なのか?「……高町よぉ。自分の友人の実力ぐらい把握しとこうや? 嬢ちゃん。こないだAランク陸士を生身で倒してたぞ?」「「へ!?」」 ……なんでも。 先日の航空隊との模擬戦で、看護官を担当していたすずかちゃんにナンパをした陸士がいたらしく、その誘いに乗らなかったすずかちゃんに激昂して、殴りかかってしまったらしい。 当然懲罰ものだが、すずかちゃんはその陸士を滅多打ちにしてしまったらしい……生身で。 模擬戦に来た47航空隊の隊長は語る。『特務隊は、看護官でも優秀な戦士だ』 と。 ……えっと、すずかちゃんだけ……じゃ、ないか。 シャマルさんも強い方だし、クスハちゃんも合気道習ってて、そこそこの腕らしいし。 「で、月村の嬢ちゃんには、女性隊員に護身術を教えるように頼んである。……だから、そのままでいいぞ?」 ……な、納得しました…… ATデバイスなくても、すずかちゃんなら、魔法の使用タイミングも教えれるだろうし…… 「……わ、私も聞いておこうかな……」 ツグミさん、そうした方がいいと思いますよ? ……私も一緒に聞いておこうかな…… 合同訓練に参加する陸士部隊は全部で五つ。 その中に、先日の実験隊も含まれている。 ……あ、リュウセイ君だ。「げ、高町教導官……」 ……目を合わせてそんなに嫌な顔しなくても…… こないだのがよっぽど後に引いちゃったかな? 一応笑顔で手を振ってみる。「お、お久しぶりです、高町教導官」「うん、お久しぶり……後、ここでは教官だよ?」「あ、はい……普通にしてたら綺麗なんだけどなぁ……」 小声、聞こえてるよ? まあ、褒めてくれるのは嬉しいけど。「今日の合同訓練、期待してるよ? 頑張ってね?」「はい! 期待に添えられるよう、頑張ります!」 あはは。元気だね、リュウセイ君。 でも……逃げるように隊列に戻るのは、どういうつもりかな……私、そんなに怖い?「訓練中のあんたが怖いんじゃない?」「む、そんなことないと思うよ?」 真っ赤な槍を携えて現われたのはアリサちゃん。 ……肩にはアギトちゃんが乗ってる。「今日ははやてちゃんの代わり、お願いね?」「ええ。任せなさい? ……ひよっこどもに弾幕の何たるかを叩き込んであげるわ」「おうよ! ぼっこぼっこにしてやる」 えっと、されたら困るよアギトちゃん。 あくまで訓練なんだから。「……ところで、せつなは何でATデバイス禁止なんか言ったのよ? なのは聞いてる?」「……なんにも。けど、ひょっとしたら……知られちゃいけない相手がいるのかも」 例えば……プリスケン一尉とか。「ふーん……まあ、今の訓練生にATデバイス使用者いないし、いいんじゃない?」「そうだね。……じゃあ、始めようか?」 訓練開始だ。 <アリサ> さて、あたしの出番ね? あたしの担当する広域魔法回避訓練に参加したのは、陸士部隊の二チームと、実験部隊のチーム。 後、訓練生からアイビス含む三名。 三名一組になって、あたしの弾幕魔法、二種類を制限時間一杯まで避け続けてもらう。 もちろん、防御魔法なし。回避が目的だからね? ……と、言うか、これはやてじゃ無理じゃない? はやての広域、自動追尾ありよ? 最強広域魔法だと、範囲外に逃げるか、なのはクラスの防御魔法使わないと防ぎきれないし。 ……キタムラ教官の提案訓練らしいけど、そこらへん考えたのかしら? まあいいか。 まずはお手本を訓練生にやってもらう。「いーい? なのはの教え子なら、これくらいノーミスで避けてみなさい! 三回以上被弾した子は、なのはに報告するからね!」「「「はい!」」」 うん、いい返事。 全員空戦なので、あたしも空に上がる……飛行魔法、苦手だけど。 ユニゾンしたアギトに、魔力練成を頼み、まずは一つ目。「行くわよ! 『全世界ナイトメア』!」 蝙蝠の形をした魔力の塊が紅い弾に変わり、その群れが訓練生たちに襲い掛かる。 ……カグヤに頼み込んでデータを取らせてもらった弾幕を元に、せつなとアギトに組んでもらった術式で放つ炎熱弾幕魔法。 ……実はカグヤの弾幕も、刹那の世界のシューティングゲームが元になっているらしい。 あたし用に組んでもらったのは、その中のキャラクター、吸血鬼の姉妹の物を元にしているそうだ。 この紅い槍状デバイス『グングニル』も、吸血鬼の姉が使う弾幕の名前らしい。 北欧の神様も持ってなかったっけ? ……ちなみに、その吸血鬼の姉の性格もツンデレなんだそうだ。 ……せつなめ、あたしと同じと言いたいのかしら?「ほら! 後一分!」 弾幕魔法には制限時間がある。 その時間内にあたしの集中が途切れるか、制限時間が経過するまで弾幕は止まらない。 これはカグヤも同じらしい。 何でそんなものがあるのかと聞いたところ。『様式美だ! ……後、時間無制限にしたら、魔力枯渇しちゃうし、パターン覚えられちゃっていいことないし』 ……様式美を思いっきり強調してたのはなんでかしら? まあ、あたし自身の魔力も少ないし、アギトとユニゾンしないと使えないから、丁度いいけど。 あ、一人当たった。 ……アイビスはまだ大丈夫ね?「スペルオーバー九〇秒。……次、行くわよ?」 グングニルのカートリッジに火を入れる。 次は難しい奴だ。「『ブラッディマジックスクエア』!!」 紅い魔力弾が次々に生み出され、アイビスたちを包む。 パターンさえ読めれば、楽に避けられるんだけど、読むまでが大変。 せつなでさえ、弾幕魔法は苦手らしい。 ……一番楽なのは、範囲外に逃げてしまえばいいんだけど、この弾幕魔法の恐ろしいところは何も魔力弾の多さだけではない。 あ、一人捕まった。「え!? 逃げられない!?」「あ、言ってなかったかしら? あたしの魔法の効果範囲内に、遮断結界張られるから、それ以上外に逃げられないわよ?」「き、聞いてませ、ぎゃぁぁぁぁぁ!!」 あちゃ~。集中で喰らっちゃったわね、あの子。 えっと……航行隊から送られてきた子よね、たしか。 三回被弾っと……「アリサさん! 覚悟!」 げ、アイビスに接近許しちゃった。 彼女の剣を槍で受け止め、反動で後ろへ。 ……弾幕魔法発動中は、他の魔法が使えないのがネック。 簡単な捕縛魔法や移動魔法なら使えるんだけど…… と、時間切れか。「スペルオーバー。九〇秒。……一人が脱落ね? 報告しておくから」「はいぃ……」 ま、まあ、なのはだって鬼じゃないし、そんなに気落ちすることはないと思うわよ……多分。「アイビスは動きよくなったんじゃない? あたしの弾幕かわして接近できるなんて、なかなかできないわよ?」「は、はい……ありがとうございます」 ……むぅ。あたしが褒めてるんだから、もう少し喜んでも……て、それどころじゃないか。 肩で息してるから、結構無茶したのね、この子。「じゃあ、訓練生は休憩しなさい。……じゃあ、次」 地上に降りて、陸戦部隊の相手をする。 ……何気に、地上の方が辛いのよね、弾幕回避。 私の前に出てきた陸士たちは、余裕の表情してるけど……ああ、外から見たら、弾速が凄く遅く見えるのよね。 『避けられない方がおかしい』とか言ってる。 ……じゃあ、試してみましょうか?「始めるわね? 『全世界ナイトメア』」 さっきと同じ弾幕。一度見たからパターンは分かるでしょ? ……けど。「え!? なんでこっちに! うあ!」「あれ!? 囲まれ……ぎゃぁぁ!!」「ちょ、逃げられ、あぐぅ!」 ……ふふふ、馬鹿ねぇ。 飛ぶのと走るのじゃ、運動量が違うから、思い通りに動けるわけないじゃない。 あっという間に打ち倒される陸士たち。 ……む、もう一チームの方顔真っ青。 実験部隊の隊員も、顔に縦線入ってる。「……まったく、まだ三〇秒も残ってるのよ? 情けないわね……次! 前に出なさい!」 倒れてる陸士を訓練生に片付けさせ、残った方の陸士たちを相手にする。 あら? ……実験隊の隊長の傍にいるの、はやて? 戻ってきたのかしら? <はやて> あちゃ~。始まってもうたか。 結構急いだんやけどな~。「残念でしたですぅ」 まあ、しゃあないな。ここはアリサちゃんに譲ろか~。 ……正直、あたしの広域を避けられる人ってうちの部隊でも少ないからな~。 「訓練生の模範訓練からですね。……結構頑張ってるです」 そやね。最初、負け犬とか言われてたアイビスもよく動いてる。 ……て、なんか動きがせっちゃんとヴィータに似とるな。 あ、ヴィータの戦い方を教習しとるんやね? せっちゃんなりに。 おお! バレルロールまで! あれはなのはちゃんの訓練の賜物やな。「……む? 今は訓練中だ。何をしている?」 はい? ……何や、ロンゲの目つき鋭い兄さんに咎められてもうた。 ……と、思ったら、実験部隊の隊長さんやん。「えーと、特務隊の八神はやて一等陸尉です。はじめまして、プリスケン一尉」「そうか。すまない。SRX隊隊長のイングラム・プリスケンだ。……訓練には参加されないのか?」 したかったんやけどね?「朝から教会に外回りやって、参加できへんかったんですよ。今戻ってきたところなので」「そうか……」 あたしに興味をなくしたように、訓練風景に視線を向ける。 あたしもそれに倣うと……お、アイビス、アリサちゃんに切りかかった。 「今の凄かったですね。なのはちゃんでもあの軌道は難しいですぅ」「……うーん、フェイトちゃんに迫っとるな。回避はなのはちゃんより、フェイトちゃんのほうが得意やし」 なのはちゃんは基本的に、防御重視や。一応回避訓練もそこそこできるけど、防御して、砲撃がなのはちゃんの持ち味。 回避→接近→斬撃の組み合わせは、フェイトちゃんの得意分野やから、せっちゃんが仕込んだんやろな。あれ。 「……凄いな。この部隊は、訓練生でもあれだけの実力を……」「ええ。あの子は特に育成に力入れてる子ですから。……せっちゃんのお気に入りやし」 暇ができたら訓練に参加してアイビス強化しとるからな、せっちゃん。 妬くで? ほんまに。「せっちゃん?」「あ、トワ・ハラオウン査察官の事です。彼女と幼馴染なんですよ、あたし」「ああ、彼女か」 む? プリスケン一尉、せっちゃんの事知っとるん?「トワ・ハラオウン査察官の事、知ってはるんですか?」「この間、俺の部隊の見学に来ていた。その時にな」 ああ~。なるほど。 せっちゃん友達や知り合い作るん上手いから、もうプリスケン一尉と仲良しさんなんやね。 「彼女は今長期休暇中だったな……」 そんなことまで知っとるとは…… 「じゃあ、八神一尉。彼女へ伝言を伝えて欲しいんだが」「? 伝言ですか?」 む。まさかせっちゃん、この人と深い仲……な、分けないか。 せっちゃん男に興味ないし。 せやったら、なんかの取引相手やろか?「ああ。『風が決まった』と伝えてくれればいい。……それで分かるはずだ」「……暗号、ですか?」「いや。彼女なら、この一言で分かるはずだ」 ……怪しい! むっちゃ怪しいで、この人! それに、せっちゃんも。 何や、この、全てお見通しだって顔は! 胡散臭い人やな~。「それより、一つ聞かせてもらいたいんだが」「……なんでしょうか?」「……あの教官は本当にただの技術士官なのか? ……資料では魔導師ランクCのはずなのに、あの広域魔法は異常だ」 ぎっくぅ。 ……き、聞かんといて欲しいなぁ~それ。 「あ、アリサちゃん……バニングス技術士は、融合騎をパートナーに持ってますから。それの底上げもあるんですよ~」 ……実はそれだけでも足りんけど。 「……それでも、まだ足りない。先ほどから、AAランクの広域魔法を連続して使っている。……カートリッジがあるとしても、魔力量が足りなくなるはずだ……」「ま、まあ、そこは部隊機密ってことなんで~……」 鋭い人やな~。 アリサちゃんのデバイス『グングニル』は一応アームドデバイスの範疇に入る。 カグヤちゃんの持っとる『レーヴァテイン』の改修型で、弾幕魔法用に作ったアリサちゃん専用デバイスやけど…… 実は、あれに『テスラドライブ』が組み込まれとる。 ATデバイスの技術を応用し、アリサちゃん自身の魔力量を底上げしとる、インチキ仕様や。 今のアリサちゃんは、本人の努力の甲斐もあって、AAランク魔導師と同じ力を発揮できる。 ……正直、やり過ぎな気もするんやけど、アリサちゃんこれでもまだ足りんとか言いよるからな~。「あ!」 ん? どしたん、ツヴァイ? ……いつの間にか、アリサちゃん空に上がり、実験部隊の子らを相手にしとるけど…… あのトリコロールのバリアジャケットの子、何や、飛行軌道危なっかしいな~。 あれは、アイビスの真似でもしたいんか?「……リュウセイめ、何をやっている……」 おっと、プリスケン一尉もご立腹や。 て、あのまま行ったら……「だぁぁぁぁぁ!! どけぇぇぇぇぇ!!」「貴様! 隊列を乱すな!」「リュウ! ライ! ペース乱しちゃ駄目よ!」 あ~あ。無茶苦茶やね。 リュウセイと呼ばれた子、青いバリアジャケットの子にぶつかってもうた。 あ、集中砲火。「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」「うぉぉ!?」「……あ~、もう!」 規定の五回被弾して、リュウセイ君とライ君は墜落。 赤色のバリアジャケットの女性だけが残ってもうた。 ……あの子、位置取り上手いな。「……うちの部隊の者が、見苦しいところを見せたな」「いえいえ~。バニングス技術士の魔法が凶悪すぎるだけですから」 ……あ、リュウセイ君とライ君。喧嘩始めよった。 あれ、ほんまにチームとしてやっていけるんかいな…… プリスケン一尉。乙やね。 午前中の訓練が終わって、訓練参加者に昼食が振舞われる。 結構な人数やから、食堂の職員だけやのうて、あたしも手伝うことに。 ……こういうんも楽しいなぁ。せっちゃんがおらんのは寂しいけど。「あれ? あそこにいるの、さっきの実験部隊の隊員じゃないですか?」 あ、ほんまや。確かライ君やったな。 あそこ、うちの部隊員用の詰め所やで? 近寄ったらあかんよ~。そこの金髪さん。「……何故、貴様がここにいる!」 へ? ……よう見たら、レーツェルさんと一緒におる。 けど、何や、険悪な雰囲気やね。「……私は、私のやり方をしているだけだ。お前にとやかく言われる筋合いはない」「特務隊の食堂主任が、何をできるというんだ、エルザム!」 !? え、ひょっとして、ライ君って、レーツェルさんの身内!? て、これ、まさか修羅場か?「それでも、お前よりも前にいるという自覚はある。……たった一人であがいている、お前とは違う」「!? ……せつなさんを利用しているのか、貴様は!」 ……いや、多分逆やで、それ。 「そうだな。せつな君には、お世話になっている。……彼女の手を払ったお前と、私の差がそこに出る。……もっと大局を見ろ。今、何をするべきか、よく考えるんだ」「貴様の言うことに、賛同なんかできるか!」 意固地やね、ライ君。 ……うーん、どうしようかな~。 こんなところで喧嘩して欲しくないし、レーツェルさんにはお世話になっとるしな。「二人とも、そこまでにしい」「……はやて君」「? ……あなたは?」 二人の前に出て、水を差させてもらう。 特に、ライ君には落ち着いてもらわんとな。「特務隊支援『ロングアーチ』隊長の八神はやてや。実験部隊の子やね?」「し、失礼しました。自分は、SRX部隊のライディース・F・ブランシュタイン三等空尉です」 ああ、それでライ君なんやね。 ……ミドルネーム、レーツェルさんと違うんはなんでやろ? まあ、ええわ。「二人とも、なんかいろいろあるんは見とってわかるけどやね、こんなところで喧嘩しとったらあかんよ? レーツェルさんも、大人気ないで?」「む……私は喧嘩しているつもりもなかったんだがな。この馬鹿者に振るう拳は持ち合わせていない」「く、俺は眼中にないと言いたいのか!」「やめぇ! ……ブランシュタイン三尉? 先人にいちいち噛みつくんは、自分が馬鹿者やて認めてるようなものやで? ……レーツェルさんも、言葉選びぃ。わざわざ怒らせても、分かってくれへんよ?」 難儀やなぁ~この二人。 あたしらの知ってる兄弟姉妹は、比較的仲ええ人らばかりやからな…… こういうんは初めてや。「……八神さん、貴女たちはこの男の正体を知ってるんですか? こいつは」「知っとるよ? ……エルザム・V・ブランシュタイン。エルピス事件の真相を知っとる、数少ない人や」「知っているなら、何故!? この男は、あなた方の部隊や、せつなさんを利用しようとしているんですよ!?」 ……ちょっと、せっちゃんの気持ちわかったわ。 裏側知っとると、知らない人の反応が凄くおもろいわ。 うん、これは癖になる。「……一つ、教えといたる。ブランシュ……長いからライ君でええ?」 噛みそうになるわ。その名前。「は、はぁ……せつなさんと同じ反応を……」 せっちゃんも同じこと言うたんかい。「ええか、ライ君。……逆や」「……は?」「せっちゃんが、レーツェルさんを利用しとるんや。……うちのせっちゃんはな? あんたの思ってる以上のコネクションとネットワークを持ってる。その一つにレーツェルさんを組み込んだだけに過ぎん。……特務隊の銀狐の名は、伊達やないんやで?」 せっちゃんが人に利用されるなんてこと、あるはずがない。 嘘八百で人に協力を取り付け、時効になってからその嘘をばらすような子やし。 「レーツェルさんの正体知っとるあたしらが、黙ってるんは何でや思とる? エルザム執務官として動いてもらうよりも、レーツェル食堂主任として動いてもらうほうが、別視点での情報が得られるからや。うちの部隊に執務官二人もおるねんで? これ以上執務官いらんわ。……情報いうんは、ひとつの見方だけやあかん。多方向から見て、その真意、真実を見抜かなあかんねん。そういう理由で、レーツェルさんには手伝うてもろとる。……レーツェルさんの料理も美味しいしな?」「……」 ライ君、黙ってもうたな。 後、レーツェルさん? そのやれやれってポーズはなんやの?「さっきの訓練、見させてもろたけど、あんた、リュウセイ君と仲悪いな?」「……あれは、あいつが」「ああ、そうや。あの子も一人で突っ走ってみんなに迷惑かけとる。あれは、あかん。……せやけど、あんたも何やあれ? 罵倒するだけ罵倒して、何が悪かったか一つも言うてへんやん。……さっきのレーツェルさんと何処が違うん?」 レーツェルさんごめんな~? 出汁に使わせてもらうで~? 「そのくせ、先人に噛み付いて、意見を聞こうともせん。……聞くで、ライ君。あんたは一人で何ができるん?」「!? ……それは……」 これは、せっちゃんの受け売りや。 ……言うか、せっちゃん自身が言われたことやそうやけど。「あんた一人でできることなんて、高が知れてるで? せっちゃんかて、いろんな人に頭下げて、協力してもらったり、人に協力したりして、この部隊を立ち上げたんよ? せっちゃん一人でやったことやないんで?」 あたしよりも先にそれを成したんや。 ……そして、あたしにも協力を頼んでくれた。 まだ、未熟なあたしにも。 ……と、言うか、きっと見るに見かねてって感じやろうけど。 情けないな~。当時のあたし。「……せつなさんも、同じことを言っていました」「せやろ? なら、少しは言うこと聞いてみ? 自分に余裕を持って、周りを見て、話を聞いて……あたしにもできたことや。あんたにかて、きっとできる。……せっちゃん知っとるってことは、あんたもスカウト受けた口やろ?」「はい……その時は、断わりましたが……」「せっちゃんが声かける人はな、大概成功する人や。あんたにもその素質がある。……それを潰すんも芽吹かせるんも、あんた次第や。偉そうな事言うけど、もっと精進しぃ。あんたもまだまだなんやから」 ……これは、あれやね? せっちゃんの説教癖が、あたしにもうつってもたんやね…… レーツェルさん、そんな微笑ましい顔で見つめんでください。 「……はい。……心に、留めておきます」「うん。そうしい。……ほら、もう午後の訓練始まってまうよ? さっさと戻り」「はい! 失礼します!」 綺麗に敬礼して、実験隊の詰め所に戻るライ君。 ……せっかく、ここに来たんやから、いろいろ覚えて帰って欲しいなぁ…… 「……すまないな、はやて君。弟が、迷惑を」「ええですよ。あたしこそすみません。偉そうな口叩いてもて」 レーツェルさんにまで注意してもたね、あたし。 完全にせっちゃんがうつったわ。「いや、確かに、君の言うことにも一理ある……どうも、私は弟に厳しく当たりすぎるきらいがあってね……伝えたいことの十分の一も伝えられない」「男兄弟いうんは、そんなもんなんですかねぇ? ……あたしらの回り、姉妹とか姉弟とかしかいませんでしたから、よう分かりませんが……」 そして、みんな仲がいい。 しかも、無制限に妹作る姉が一名おるし。 作りすぎやっちゅうねん。 「……それより、私はせつな君に利用されているのかね?」「え? ……あれ? 違いましたん? せっちゃん、そのつもりで置いとる思たんやけど……主に食堂で」「……そ、それはちょっと寂しいね……いや、せつな君には、私の情報も有効活用してもらえたらそれでいいんだが」「それも、大丈夫ですよ。せっちゃん、きっと何か尻尾掴み始めよる思いますし……せやなかったら、休暇なんかとりませんて」 ……おそらく、せっちゃん目処が立ったんやと思う。 その、研究所の在り処に。 せやないと、休暇しとるふりして動いとるはずや。……今はその気配ない。 でも、それを言わないということは、まだ時期やないということ。 ……しゃあない。せっちゃんが話してくれるまで、待つしかないやろ。 一番敵に回したらあかんのは、何を隠そうせっちゃん本人やし。「とにかく、レーツェルさんは、弟さんと仲良くせなあきませんよ?」「……善処しよう。……昔は良く懐いてくれてたんだがなぁ……」 あ、背中に哀愁漂うとる…… 実は寂しかったんやね、レーツェルさん…… ん? あれ? 何で、すずかちゃん、リュウセイ君慰めてるん? ……浮気はあかんよ? せっちゃん泣くで? <すずか> ……えっと、弱りましたね……「……」「……」 アリサちゃんの訓練中に、墜落して足首を捻挫してしまったリュウセイ・ダテ三等空尉さん。 医務用テントに運ばれたはいいんですけど……クスハちゃんと睨み合いを続けてます。「……あの、リュウセイ君、どうして、ここに?」「……俺、実験隊の隊員にスカウトされたんだよ。……クスハこそ、どうして特務隊にいるんだよ? お前、看護師になるんじゃなかったのか?」 ひょっとして、幼馴染かな? で、久々に再会して……両方とも、意外な立場にいた……と。「ここで、私、看護官させてもらってるの。……せつなさんの厚意で」「けど、特務隊じゃなくてもいいだろ!? 本部の病院施設でだって、いいはずだろ? ……特務隊だと、前線支援に出されることもあるんだぞ!?」 ……うーん。私やシャマルさんもいるから、危ないってことはないんだけど……「でも、私、ここで頑張るって、決めたから。……リュウセイ君こそ、航空隊に入るって言ってたよね? 実験隊なんて、どうして?」「……仕方ねーよ。そういう辞令なんだから……」 ……その、こんなところで喧嘩はやめて欲しいな……「えっと、クスハちゃん? 悪いんだけど、消毒液の補充お願いできるかしら?」「え? シャマルさん?」「そうだね、お願いできるかな? クスハちゃん」「……はい。行ってきます」 とにかく、まずはクスハちゃんを退避。 後に残ったリュウセイ君の治療だね。「ダテ三尉? 治療するから、足出してもらえる?」「……あの、聞いていいっスか?」 ……クスハちゃんの事かな?「クスハはどうして、ここに……」「クスハちゃんはね。せつなちゃんにスカウトされてきたんだよ? 知ってる? トワ・ハラオウン査察官」「……この間、高町教官やテスタロッサ執務官と部隊見学に来てました」 ああ、言ってたね。 厄介ごとが増えたとも。「せつなちゃん、自分がこれって決めた人、必ず連れてきちゃうから……クスハちゃんにも、何か光るものがあったんだと思うよ?」「か、看護官に光るものって……あるんすか?」「……ど、どうだろ?」 うーん。今でも実は分からないんだよね、クスハちゃんを入れた意味が。 ブリット君のお嫁さん候補だから? ……いやいや。それだけじゃないと思うけど……なんで否定できないんだろう。「でも、治療魔法の覚えは早いわね。効果も的確に出るし」「それに、通常治療も覚え早いですね。……二年前の火災の時にいてくれたら、もっと早くに治療終えてたんだけど……」「その分、今活躍してもらってるけどね? ……ダテ三尉は、クスハちゃんがみんなの役に立ってるのが不満?」「……でも、クスハ自身が危ない目に会うのは……」 ……も、もしかして、リュウセイ君、クスハちゃんの事が……? だとしたら、まずいかも。 クスハちゃんとブリット君、本当に付き合う寸前だし…… さ、三角関係?「あらあら? ダテ三尉、クスハちゃんにほの字ですか?」「しゃ、シャマルさん!」 そんな直球に!?「そ、そんなんじゃなくて……友達が傷つくの、見るのが嫌なんです……」 ……ああ、そっか。 せつなちゃんの同類だね、彼は。「(シャマルさん。ここは私に任せてもらってもいいですか?)」「(? いいけど……浮気したらせつなちゃんが泣きますよ?)」「(そんなことしません!)」 ……もう、私はせつなちゃん一筋なのに…… 「じゃあ、すずかちゃん、彼の治療はお願いしますね?」「はい。……ダテ三尉? 痛かったら言って下さいね?」「あ、はい……」 AT『ビルトシュバイン』で、治療魔法を使う。 リンカーコアのない私にとって、この子がいないと足手まといだ。「……友達が傷つくのを見るのは、私も嫌です」「……えっと、あんたも?」「ええ。せつなちゃんが私のお友達なんですけど……私たちを守る為に、いつも前に出て、盾になろうとしてくれるんです。私たちが傷つかないように……でも、せつなちゃんにも、傷ついて欲しくないんです。私は」 でも、彼女は、それでも前に、私たちの前に出て、剣を振る。 私たちが傷つかないように……「ハラオウン査察官は、強いんじゃないんですか?」「ええ、強いです。……でも、とても、泣き虫なんですよ? 昔は、良く泣いてました……」 悲しいことを背負ったまま、二度とそれを起こすまいと、泣きながら前に。「ダテ三尉は、何か目標があって管理局に?」「あ、いや、その……お袋が、病気がちで、今入院してるんすよ。俺のところ、母子家庭で、俺が働いて金作らないと入院費も馬鹿にならなくて……」「……それで、管理局に」「実験隊に入れば、お袋の入院費、全額出してくれるって、隊長言ってくれたから、俺、航空隊から実験隊に……」 ……うーん。それっていいのかな? ちょっと調べてもらった方がいいのかも。 ……でも、大体分かった。「じゃあ、ダテ三尉は、お母様を守る為に戦っているんですね?」「え!? あ、いえ、そんな大層な事じゃないんすけど……」「同じことですよ。せつなちゃんだって、最初は、一人の女性を救うためだけに管理局に入りましたから」「へ?」 アリサちゃんがせつなちゃんから聞いた話だけど。 本当は、クイントさんを助ける為だけに管理局に入ろうとしたらしい。 なのに、私たちが入るって言い出して、なら、私たちも守ろうと、東奔西走して…… その目的を果たせる部隊を作り上げてしまった。 その事実を、彼に話す。「……す、凄いっスね……」「でしょ? ……クスハちゃんも、その部隊にいる。絶対、危ないなんてことはないですよ……せつなちゃんが守ってくれますから」 それに、クスハちゃん自身結構強いし。 ……魔法戦闘も教え始めちゃったから、もう後に引けないしなぁ…… 「……そっか、じゃあ、安心か……あーあ。なんか俺情けないな~」「? どうしてですか?」「だって、俺一人空回りして、高町教官にはいいとこ見せられないし、ライには馬鹿にされるし、アヤには口うるさく言われるし、隊長にも叱られるし……」 あらら。いいとこなしですね。 ……でも、「でも、一生懸命に頑張れば、きっといいことがありますよ。……私も、頑張って、好きな人と一緒にいられるようになりましたから」「え? そうなんすか? ……あ、査察官と?」 え、あ、その。 あうう、顔熱くなってきちゃった。 「へ~? あの人やるなぁ。……ん? こないだ来た時は、高町教官ともテスタロッサ執務官とも仲良さげだったような……?」「えっと、あの二人とも、幼馴染だから、せつなちゃん」「あ、そうなんすか。……まさか、四角関係? いやまさかハーレム!? そんな羨ましいことが!?」 ……あ、もしかして、リュウセイ君。 せつなちゃんが女の子だって知らない……?「くそー、男の敵めー」「……えっと、ダテ三尉? ……せつなちゃん、女の子だからね?」「……え? ……嘘ですよね?」「……本当なんだけどな……」「なにーーーーーーー!? あれで女ーーーーー!?」 ……うう、やっぱり。 そんなに女の子に見えないのかな…… 結構美人だと思うのになぁ……せつなちゃん。 お昼の食事はクスハちゃんが持ってきてくれた。 いろいろ話したお陰か、リュウセイ君とも仲直りした。 よかった。……けど、ここでハプニング発生。 「クスハちゃ~ん? 愛しのブリット君が、怪我しちゃったから、ちょっと来て……あれ?」 エクセレンさん……その、爆弾抱えてこないでください……「え!? ブリット君が?」「あ、うん。……えっと、そちらは?」「あ、幼馴染のリュウセイ君です。て、ブリット君は医務室ですか?」「そうだけど……」「はい、すぐ行きますね?」 ……その、目が点になってるリュウセイ君をおいて、クスハちゃん医務室に向かっちゃいました。「……ひょっとして、私、やっちゃったかしらん?」「はい。凄く」 ……く、空気が重い……!「あ、あの、すずかさん? ブリットって……クスハの……」「え、えっと、ね?「ん? 恋人よん?」エクセレンさん!?」 ああああああ……そんなにあっさり……「あ、そ、っスか……はは……今日は厄日か……」 え、え~と……なんだか凄く可哀想になってきました。「ま、まあまあ! 女の子はクスハちゃんだけじゃないのよ? いい女の子は見つかるって! ねぇ、すずかちゃん?」「え、ええ! そうですよ! 元気出してください。リュウセイ君」「……そ、そっすね。あ、いえ、大丈夫です。……ちょっとびっくりしただけですから」 でも、凄く落ち込んでるように見えるんだけど…… えっと……「じゃ、じゃあ、せつなちゃんにお願いして、リュウセイ君のお嫁さんスカウトしてきてもらおうか?」「はぁ!?」 ……て、何言ってるんですか、エクセレンさん? でも、せつなちゃん、ブリット君のお嫁さんスカウトするって言って、クスハちゃん連れてきたから…… できないはずはない……ちょっと無理かな?「クスハちゃん連れてきたのもせつなちゃんだから、できるかもよん? ……自分の嫁までスカウトするくらいなんだから。ねぇ? すずかちゃん?」「え、と、その……あう」 そこで私に振らないでください……「……え? は? ええ? ……ハラオウン査察官の嫁が、すずかさん?」「他にもー、なのはちゃんとか、フェイトちゃんとか、はやてちゃんとか、アリサちゃんとか。……ふふん。羨ましいでしょ、少年」「……ま、まさか、あの人真性!? それでハーレム!? ……神は死んだーーーーーー!?」 ああああ、とうとうせつなちゃんの性癖までばれちゃった…… そして、リュウセイ君の落ち込み具合がさらに酷く……「エクセレン? 一体何をしている」「あら。響介? ……ちょっと青少年に世の中の理不尽を教えてたところよん?」 ああ、響介さん! エクセレンさん連れて行ってください。 このままだと、リュウセイ君自殺しかねない勢いで沈んでいってしまいます。「……まあ、いい。それより、書類仕事が溜まってるんだ。早く来い」「はぁ~い。じゃあ、すずかちゃん、リュウセイ君、またね~?」 ……はぁ。ようやく嵐が去ってくれました。 ……被害は甚大ですけど。「……りゅ、リュウセイ君?」「……あの、すずかさん?」「え? 何、かな?」「……俺、何を信じていいのかわからなくなりました……」 それは、鬱病患者の台詞だよ…… 顔色も青いし……「えっとね? ……また、いいことありますよ。きっと」「……はい」 もう、これしか言えませんでした…… <フェイト> 合同訓練午後の部も大体終わり、機材の片付けを訓練生と始める。 ……午後は私も参加して、実験隊のメンバーを見たけど……ダテ三尉は何かあったんだろうか? 物凄く陰鬱なオーラで私を見てたけど……まあ、ブランシュタイン三尉が何か話しかけてたから、大丈夫だとは思うけど。 私、何かしたかな? 「あ、テスタロッサ執務官、手伝います」「コバヤシ二尉……えっと、そちらの隊はいいんですか?」「はい。リュウとライ、なんか仲良くなっちゃって」 ? どうしたんだろう。この間は、凄く仲悪そうだったし、お昼前にも喧嘩してたけど…… まあ、仲良いことは悪いことじゃないからいいか。 コバヤシ二尉にも手伝ってもらって、片付けはすぐに終わった。「ありがとう、助かったよ」「いえ。……あの、それで、今日せつなさんは……?」 ? せつなに用事かな?「せつなは長期休暇に入ってるんだ。……何か、用事?」「あ、いえ……その、妹の事で、何か進展がなかったか、聞きたかったものですから……」 妹? 進展? ……ああ、もしかして。「マイ・コバヤシのお姉さんなんですね? コバヤシ二尉は」「……はい。せつなさんが、担当していると言っていましたから……」 担当じゃないんだけどな…… まあ、ほとんどの情報はせつなに流れてるけど。「今はまだ、何も進展してない状況です。……お力になれず、すみません」「あ、いえ……もう、三年も経ってますから、父も、諦め気味で……」 ……そんなに経ってるんなら、もう、彼女は……? え? なのにせつなが諦めてない?「あの、せつな、諦め気味に言ってはいませんでしたか?」「え? ……いえ。必ず被害者も、犯人も捕まえるとは言ってましたけど……」 ……おかしい。 せつな、あれでいて結構他人には冷たい人だ。 なのに、『必ず』なんて言葉を使っている…… まさか、せつな、マイ・コバヤシがまだ無事なことを知ってる……? ……あの時みんなに話した時、言ってたよね。 利用できる者は自分の手駒にして、それ以外は実験体になるって…… じゃあ、マイ・コバヤシは、手駒になっている可能性がある? それも、助けられるレベルで? ……せつなに聞いてみなくちゃ。「……せつなが捕まえるというなら、必ず捕まえられると思うよ。だから、諦めずにまっていて欲しい」「……はい。お願いします。私も、実験隊で頑張ります……妹を見つけられるように」 ……どこの姉も、強い人ばかりだ。 アリシアも、せつなも。 ……私も、見習わないとね?「……あ、それで、テスタロッサ執務官?」「はい?」「……リュウが言ってたんですけど……せつなさんがレズって本当ですか?」「!? え、えと?」 ついつい周りを見渡してしまう。 ……せつながいなくて良かった。「それで、テスタロッサ執務官も、その、せつなさんの恋人だとか……ど、どうなんです?」「え、あ、その、間違っては、ない、けどね?」 まさかあの目はそれで!? うう、まさか知られたとは……「……せつな、かっこいいし、その、……私の、恩人なんだ。……あまり、外には言いふらさないでもらえると、嬉しい」「あ、はい。……その、せつなさんが女性ってこともびっくりしましたけど」「……やっぱり男の人に見られてたんだね……」 女性用制服着ないし……髪も短いし。 よく見たら女性ってわかるんだけどな…… 喋り方も男だから、はじめて見る人には男性にしか見えないのかも。「でも、噂は本当だったんですね……」「え?」 噂って……ひ、酷く嫌な予感するんだけど……「そ、その噂って?」「えっと、本部で流れてる噂なんですけど……『特務隊の査察官は、自分のハーレムを作るためにスカウトをしてる』って……」「ええええ!?」 そ、それは酷いよ! 誰がそんなことを!?「その噂は嘘だからね! せつな、ちゃんと男の人も入れてるし! 私たち以外に浮気はしないって言ってくれたし!」「は、はい! ……私たち?」「あ」 し、しまった…… ええい、みんなごめん。 でも、さっきの噂よりも、まだマシだから。「……私と、後四人……高町教官と、八神一尉、月村副主任、バニングス技術士……せつなの恋人は、これだけだから。それ以上、恋人作らないって、せつな言ってるから、だから、その噂は、否定して。……いいかな?」「……わ、分かりました……その、本当に、せつなさん女の人なんですよね?」「……一応」 お、男の人でもあるけど…… うう、なんか恥ずかしい……「……それで、その、せつなさんとはどこまで……?」「き、キス……だけ……」「他の人もですか?」「う、うん……その、せつな、優しいから……」 しても、胸を揉むぐらいだし……どちらかと言えば、はやてに揉まれる回数が多いけど。 「……せつなさん、意外とプラトニックなんですね……驚きです……」「な、内緒だよ? ……その、ダテ三尉にも喋らないようにお願いしてもらっていいかな?」「は、はい」 よ、よし。これで不名誉な烙印はせつなに押されない……手遅れかもだけど。 噂って、怖いなぁ……「……せつなさんの気持ちもわかるかも……テスタロッサ執務官、凄く可愛い……」 こ、小声聞こえてるよ…… <なのは> えっと?「飲み会、ですか?」「おう。せっかくイングラムの奴がいたからな。教導隊一五班のメンバーで飲みに行こうと思ってな? ……で、高町もどうだ?」 ……わ、私、未成年なんだけどな…… せつなちゃんも、こうやってキタムラ教官に誘われたんだね。「ああ、安心していいぞ? お前さんには酒は飲ません。……まあ、うちのメンバーで、絡み癖のある奴はいないしな」 えっと、キタムラ教官に、ゼンガーさんにレーツェルさん……そして、プリスケン一尉。 ……確かに、絡みそうにないね。 でも、静かな飲み会になりそう。 もしくは、キタムラ教官の独壇場。「と、言うか来い。命令な? 上官命令」「……上官私なんですが……」 うう、強引だぁ…… 仕方ない……今日の連絡役、はやてちゃんに代わってもらおう。 せつなちゃん、びっくりするかも。 ……はやてちゃんに連絡役を任せて、キタムラ教官たちについて行く。 最近、繁華街って来てないから、息抜きついでになるかな……「悪いな、高町。カイが無理を言った」「あ、いえ。息抜きのつもりでお付き合いします」「せつな君がいれば、彼女も誘うんだけどね? ……いや、残念だ」「ほう? エルザムは彼女がお気に入りか?」 あれ? プリスケン一尉、普通に話しに乗ってる…… 軽口とか言わない人かと思ったのに。「いやいや。彼女ほど面白い子はいないよ。私の変装を一発で見破ったしね?」「……それは本当に変装になるのか?」「言わないと気付かなかった奴がそこにいるぞ?」「ほっとけ! お前はもっと真面目ぶってただろ! 食堂で鍋振ってるなんて、気付くか!」 にゃはは……うん、そうだよね。 こないだせつなちゃんがレーツェルさんに話聞いた後で、キタムラ教官にも話したそうだ。 ……あの時の驚き方は、面白かった……内緒だけど。「と、ここだここだ」 ついたのは、繁華街を抜けた場所にある地下の酒場。 せつなちゃんと飲む時も、ここを使っているらしい。 ……中はちょっと薄暗く、こじんまりとした店内。 お客さんは一人もいない。「よう、マスター? 『奥の部屋使うぞ』?」 ? 奥の部屋があるのかな? バーテンダーさんが一つ頷いて、入り口へ札を持っていく。 ……チラッと札の文字が見えた。『貸切中』 ……もしかして今の、暗号?「どした? 高町?」「き、キタムラ教官、今のは……」 あ、してやったりな笑顔。「ああ、この周辺の暗号でな? 入って一言目にそれ言ったら、貸切にしてくれるんだ。……秘密会議とかに良く使われる。覚えて置いて損はないぞ?」「おいおい、カイ? なのは君に悪い知識を教えるなよ? また保護者に怒鳴られるぞ?」「……それは、せつな君の事を言ってるのか?」「ああ、そうだ。……彼女は、せつなの親友だからな」 あ、あう。 ……それ以上とはとても言えません…… レーツェルさんはニヤニヤしないでください。 店内の隅っこのお座敷に上がり、全員が着席する。 ……えっと、メニューが……ない。「? おお、高町。好きなものを頼んでいいぞ、アルコール以外ならな? 大抵のドリンクは置いてあるから、今飲みたい奴を言えばいい」「今日は我々のおごりだ。カイが無理を言ったからな」「あ、はい。ありがとうございます……」 と、言われても、何を頼んでいいのか……あ、前にせつなちゃんに頼んでもらったやつ……えっと、名前は……「じゃ、じゃあ、か、カレーミルク?」「……高町君。カルーアミルクか?」「そ、それをお願いします……」 プリスケン一尉に突っ込まれてしまった…… 皆さん、苦笑しないでください!「じゃあ、俺はブランデーだな。後『エルのロック』と」「……梅昆布茶を頼む」「相変わらず下戸だな、ゼンガー……私は赤ワインにしよう。グラスは?」「一つでいい。俺はカイと同じにする」 ……皆さん飲む気満々です……ゼンガーさんは飲まないんですね。 後、エルのロックってなんだろ? テーブルに運ばれるお酒と、ゼンガーさんのお茶、私の頼んだドリンク……あれ?「あの、キタムラ教官? 一つ足りないような……」「ん? ……ああ、まさか、エルのロックか? ……お前さん、せつなと付き合ってるくせに何も知らないんだな」「ええ?」 もしかして、今のも暗号?「そうだ。エルのロックも暗号だ。『ここで見聞きしたことは口外するな』という意味のな? ……まあ、上に行けば分かることだが、もう少し勉強しようや、高町」 ……し、知りませんでした……「カイ。その知識、全部せつな君の受け売りだろう? ……あまり偉そうに言わない方がいいぞ?」「げ!? ばらすなよエルザム!」「え? せつなちゃんの……ですか?」「ああ。せつな君は結構顔が広くてね。佐官や将校クラスにも知れ渡っている。……付き合いで飲みに行く時に覚えたそうだ。その知識をカイに教えた。……それだけだよ。こいつがそんなに暗号を知ってるはずないだろう? 訓練校の教官が」「ち、うるせーよ」 ……せ、せつなちゃん、本当に何やってるのかな~? じっくりお話聞かせてもらった方がいいのかな?「……では、そろそろ乾杯と行こうか。音頭は?」「発案者だろう。カイ」「おっしゃ! じゃあ、合同訓練の成功と、銀狐の恋人にぃ! 乾杯!」 グラスを上げる皆さん。それに倣う。 ……音を鳴らしたりはしないんだ。 ……後、銀狐の恋人って、私の事?「はは。銀狐の恋人は君の事だよ。なのは君。銀狐はせつな君だからね?」「……まあ、個人の好みに、とやかく言わん」「……同意しよう。……それに、彼女ならそれもありと思える」 ぷ、プリスケン一尉が認めるほどですか…… せつなちゃん、かなり一尉と仲良しなのかな……「なんだ、イングラム。随分せつなを買ってるな? ……あいつと知り合ったの、最近だって言ってなかったか?」「ああ……まさかお前たち、彼女の力を知らないのか?」 ? 力?「……彼女が先を読みすぎていることは知っている。我々以上のな?」「ああ、ギリアムの再来かと思うほどにな」 ……ギリアムって、誰の事なんでしょう?「まさか、せつなも予知能力者だって言いたいのか、イングラムは」 ……えっと、それは…… せつなちゃん曰く、ただのチートだと…… 私たちや皆さんの未来知ってますしね。「……彼女は、アカシックレコードを紐解いたと言った。……おそらく、この先何が起こるかを、大体把握できているだろう」「……その、アカシックレコードってのは、なんなんだ?」 ……プリスケン一尉には、そう言ったんだ。 私も、その単語は知らない。何のことだろ?「アカシックレコードというのは、世界の記憶が刻まれる歴史盤だ。過去、現在、未来が絶えず更新されている……それに触れたものは、過去の知識を操り、今を自分の思い通りに動かし、未来を正確に把握できる。……もっとも、彼女は膨大な情報量を捌ききれず、大まかにしかわからなかったそうだが」 ……あ、はい。 その通りですね。 ……上手い言い回しだね…… 「では、我々はせつな君の未来の為に集められた……と?」「……おいおい。冗談だろ? じゃあ、お前の本来の任務も、あいつは知ってるって言うのか?」 プリスケン一尉の、本来の任務? 「ああ。俺が名乗った次の瞬間に、俺がタイムダイバーだと見抜いた……ただの査察官が、俺の任務を知っているはずがないからな」「……やはり、せつなは只者ではなかったか」 ……な、何か、いきなり置いてきぼりです。 タイムダイバーってなんですか?「……ふむ。高町君は俺の任務については聞いてないようだな。……せつな君の力は知っているのに」「「「なに!?」」」「……え、えと……アカシックレコードというのは初耳ですけど、大体の未来を知っているって言うのは、聞いてます」 ……うう、プリスケン一尉、私の表情を見てたんだ…… 「では、この先何が起こるか、なのは君は聞いているのかい?」「……いえ。せつなちゃん、未来を知るのは、いけないことだと言って教えてくれませんでしたから……それに」「それに?」 ……ど、どうしよう…… 言っちゃっていいのかな…… せつなちゃんの知っている未来と、別の方向に進んでるってこと……「……」「高町。せつなに口止めでもされてるのか?」「あ、いえ、そういうわけじゃないんですが……」「よかったら、言いたまえ。……なんなら、全て俺のせいにしてもいい」「イングラム?」 プリスケン一尉のせいに? どういうことだろう。「なに、俺は彼女に嫌われているからな。……俺が無理矢理聞きだしたことにすればいい」「……えっと、せつなちゃん、そんなに嫌ってないと思いますけど……」「? そうかね? この間、君たちが見学に来たときに、原因不明の殺気を浴びせられたのだが……」 せつなちゃん……お兄ちゃんとの訓練で、殺気の操り方を練習してたし…… 使えると便利なんだって。 でも、それだけなら、嫌いって事にはならない。 「せつなちゃん、嫌いな人は問答無用で自分の周囲から遠ざけますから……」「……ああ、そうだったな。彼女を女装呼ばわりした査察官も、一ヵ月後には更迭されたんだったな」「うむ。あれほど殺気立ったせつなを見たのは初めてだったな……俺が気合入れないと近づけなかった」 ゼンガーさんがですか……それは知らなかったなぁ。「それじゃ、話しますね?」 皆さん、せつなちゃんを信頼してくれてるみたいだし…… 明日、せつなちゃんに怒られよう。「……今、せつなちゃんの知る未来とは、まったく別の方向に進んでいるみたいなんです」 ……? あれ? プリスケン一尉、反応薄い?「そうなのか? ……その割には、堂々としたものだがな……」 え? ……まさか、せつなちゃん、私に嘘を…… あ、違う! あの時、せつなちゃん、プリスケン一尉に出会ってなかった! 一尉に出会ったことで、せつなちゃん未来の方向性に見当をつけたんだ!「……えっと、せつなちゃん、一尉の存在知ったから、未来の見当をつけれたんだと思います。……さっきの話を聞いた時は、一尉に会ってなかったから……」「……なるほど。やはり彼女はアカシックレコードに触れたのだな。……俺の存在で、未来の方向性を見出したか……」「ふふ。せつな君は凄い女性だな。……思わず求婚しそうだよ」「やめとけ。嫁さんたちにボコボコにされるぞ? ……いや、高町、冗談だから睨むな」 むぅ、私たちそんなに凶暴じゃないです。 と、言いますか、せつなちゃん本人が先に暴れますから。「あの、それで、タイムダイバーってなんなんですか?」 せつなちゃん教えてくれなかったし…… あ、聞く前に休暇入っちゃったんだっけ。「……そうだな。次元先行者……あらゆる次元に現われて、ある、一人の悪魔を倒す為に行動する者をそう呼んでいる。この次元のタイムダイバーが、俺だ」 ……悪魔……ですか…… 私じゃないよね?「それで、われわれはそのタイムダイバーを支援する為に、集った仲間というわけだ……この場にはいないが、あと一人いる」 それがさっきのギリアムさんなのかな?「その悪魔って……誰なんですか?」「……残念だが、君には聞く資格がない。……エルザムたちにも話していないしな」 ……でも、多分。 せつなちゃんは知ってる。 「せつなちゃんには、話したんですね?」「……ああ。彼女には話した」「な!? ……まさか、彼女もタイムダイバーだと言うのか、お前は!」 ……似てるけど、違うんじゃないかな~? せつなちゃん、あくまで私たちの守護が目的だし。「いや。彼女はただ知っているだけだ。俺の目的をな? ……そして、彼女は俺やその悪魔の存在を、忌み嫌っている……迷惑なんだそうだ。俺やその悪魔がいると」 うん、多分そうなんじゃないかな? 本来の流れと変わったからって、凄く頭抱えてたし。 それまでは楽勝風味だったし…… 誘拐事件の件に関わってからだね……せつなちゃんが焦り出したの。 ? あ、じゃあ、プリスケン一尉の敵って……「(ゴッツォ研究所……)」「なに!?」 あ、反応した。 凄い目でこっち見てます。「? どうした?」「あ、いや、なんでもない(どうしてそれを?)」「おいおい、驚かせるなよ……」「(えっと、せつなちゃんが急いで潰したいって言ってた研究所なので……じゃあ、一尉の敵って、そこなんですか?)」「しかし、タイムダイバーすら知っている、せつな君には脱帽だな……」「(……そうだ。その研究所の責任者、ユーゼス・ゴッツォが俺の言う悪魔だ)」 やっぱり……せつなちゃん、目処が立ってるんだね。 そして、おそらく、その研究所の場所まで。 ……でも、それならどうしてすぐに潰しに……あ。「くそぅ。おい高町! せつな呼び出せ! あいつにいろいろゲロさせてやる!」「え、えと、ちょっと無理かと……休暇と一緒に、任務もしてますから……」 あの後すぐに休暇入っちゃったから、行動できなかったのかも。 ……うう、今頃恨んでるなぁ……せつなちゃん。「とにかく、俺は彼女の動きやすいように支援するつもりだ。……お前たちも、彼女の支援をしてやって欲しい。それが、最善手だと思う(高町君。先ほどの話は、口外しないように頼む。……詳しくは、せつな君に聞けばいい)」「ああ。是非もない。……あいつのスカウトを受けたのは、渡りに船だったようだな」「(はい。……一つだけ聞かせてください。せつなちゃん、研究所の場所を知ってるんですか?)」「そうだな。私も、陰ながら支援させてもらおう」「(……目処は立っているはずだ。俺ですら、分からないが、おそらくな)」「ち、しょうがねえ。高町! お前も頼むぞ? 期待してるぜ!」「(……ありがとうございます)はい。せつなちゃんとは、友達ですから」 ……明日、せつなちゃんに会いに行こう。 ……直接会って、話さないと。 皆さんと解散して、フェイトちゃんに連絡。『え? 明日休むの?』「うん。急なんだけど、テッサさんに報告いいかな?」『いいけど……どうしたの?』 えっと、どういう理由にしようか…… あ、そうだ。「ちょっと、プリスケン一尉とデートに」 ごめんなさい、一尉。 名前使わせてもらいます。『……えっと……その、だ、駄目だよなのは? あの人、結構怪しいのに……それに! せつなが泣いちゃうよ!?』 そのせつなちゃんに会いに行くの~! でも、そんなこと言ったら、後でみんなにも話さなくちゃいけないし……「……えと、その、決まっちゃったから、キャンセルできないし……せ、せつなちゃんにも、話しとおすから」『……なのは、本気なの? ……せつなを、見捨てるの?』 にゃあぁぁ!? 変な方向に勘違いしてる!?「違うよ! そうじゃなくて……実験隊の育成方針の事で相談があるって言われて、それで」『あ、そうなの? ……デートなんて言い出すから、びっくりしたよ』 ……よかった、誤魔化せた…… うう、後で一尉に口裏合わせをお願いしよう……「それで、今日はちょっと帰らないと思うから、明日、報告お願いね?」『え? ……どうして?』「そ、それは……」 えっと、えっと……うう、せつなちゃんの二枚舌が今欲しいよ、切実に…… 「えっと、ゼンガーさんのお家で、二次会するらしくて……」 こ、これなら大丈夫だよね? ゼンガーさんにも口裏合わせをお願いしないと……『うーん……わかった。そういうことにしとくよ』「ありがと……え?」『せつなに会いに行くんだよね?』「え!? なんでわかったの!?」『やっぱり……なのは? ばればれの嘘は駄目だよ?』 ……しまった。 誘導尋問に引っかかってしまいました……「う~……フェイトちゃん、何で分かったの?」『嘘をつくなら、事前準備ちゃんとしないと。今、ゼンガーさんに念話で問い合わせて、確認取ったんだから』「むーーーー! フェイトちゃんの意地悪~~~~!!」 フェイトちゃんがせつなちゃんに見えるよ…… なんて子に育っちゃったんだろう。 昔はもっと純粋だったのに。 ……せつなちゃんの影響だよね、絶対。『……なのは? ……私たちに、言えない事?』「……うん。……せつなちゃんに、確かめたい事があるんだ」 ひょっとして、私たちの勝手な約束で、せつなちゃんの行動を阻害しちゃったんじゃないかって。 リンディさんの依頼もあったらしいけど、でも、せつなちゃんも、あの研究所は目の上のたんこぶだと思ってるはずだ。 すぐにでも対処したかったと思ってるなら……私、謝らないと。『……わかった。じゃあ、聞かない。……なのは、せつなに似てきたね? 秘密にするところ』「む! フェイトちゃんも似てきてるよ? 意地悪なところ」『うん。いっつも意地悪されてるから……皆、せつなに影響されてるね』 ……うん。皆、せつなちゃんと一緒だったから。 皆、せつなちゃんが大好きだから。『それじゃ、こっちは任せて? 明日は私予定空いてるから、訓練隊の面倒、私も見るよ』「ありがとう。……じゃあ、中継ポートの時間あるから、行くね?」『うん。おやすみ、なのは。……せつなによろしく』「おやすみ、フェイトちゃん」 ……ありがとう、フェイトちゃん。 分かってくれて…… せつなちゃんも、同じ気持ちなのかな? みんなに秘密にしなくちゃいけないってこと、こんなに辛いこと……知ってて、それでも、秘密にしてるんだね。 本当に、ずるいなぁ。「よし、まずは、家に行こう」 今日は実家に帰って、すぐに飛べば……向こうのホテルに泊まれるよね? よし、中継ポートへ……? あれ、この気配……人の気配が消えていく……あ、封鎖結界!? 閉じ込められた!「レイジングハート!」『set up』 バリアジャケットを纏い、襲撃に備える。 ……魔導師まで誘拐犯になっちゃったのかな。「へへ……ブランドを追って来てみれば、激レア魔導師じゃん!」 ……げ、激レア? 私はどこかのカードですか? ……姿を現したのは、その、ちょっと小太りの男性。 顎がしゃくれて特徴的。 ……? デバイスを持ってない?「高町教導官だろ、あんた? ……へへ。あんたを連れて帰れば、俺様の格も上がるってもんよ」 やっぱり、誘拐犯だね。 しかも、違法魔導師。「一応聞くけど、大人しく捕まる気はあるかな?」「ねえな! ……バルシェム! 激レアゲットだ!」 それはあなたのキャラじゃないような気がするよ! ……彼の後ろから、同じ顔の少年が三人。 せつなちゃんの言っていたバルシェム量産型……と、いうことはまさか!「君は、誘拐された子なの!?」「おうともよ! けどな、俺は力を手に入れたんだ! 魔法の力を! もう、魔導師なんぞ怖くねえぞ!」 非魔導師だったんだね。 ……まさか、研究所で、ATデバイスのような研究を? ……被害者の中には、魔導師もいるはず。なら、その可能性もある!「かかれ!」 襲ってきた! ……よし。「飛ぶよ! レイジングハート!」『all right』 飛行魔法で空へ。 バルシェム量産型に飛行機能はない。 空から撃ち落す!「飛ばせねぇ! そして、撃たせねぇ!」 ? ……あ、魔力が霧散してる……AMF!? なら!「同じ手は食わない! 中和フィールド!」『展開します』 アリサちゃん特製のAMF中和フィールドを展開。 ……よし! 上手く効いてる!「『アクセルシューター』! マルチショット!」『Axel Shooter』 数は十五。五発ずつバルシェム・アインに撃ち込む!「なにぃ!? AMFが効いてない!?」「対抗策はできてるよ! ブレイク!」 一人にヒット。続けて、二人目、三人目と撃ち落す。 ……動きが止まった。バインドで固めておこう。「『チェーンバインド』!」『Chain Bind』 後は、彼だけだね。 ? な、なにあれ? 肩に大きな物体を担ぎ上げた。形状から見るに……大砲?「ホ! なら、撃ち落してやるっての! 『ヴァリアブルレールガン』!」 !? 速い! ……あ、危なかった。 弾速が早くて……見えない!「へへ、ほらほら墜ちやがれ!」「く!」 連続で撃って来た! シールドを張る暇が…… ええい!「『ショートバスター』!」『Short Buster』 あの大砲を打ち抜く!「無駄だっての!」 え!? 私の砲撃をバリアで止めた!? 彼、結構固い! ……わ、私の戦術とられたみたいで悔しいの!「そらぁ!」「きゃぁ!」 かすった!? 足に……飛行制御し辛い!「激レアゲットォ!」 !? やられる!「させるかよ! 『ディスカッター』!」 え!? お兄ちゃん!? ……あ、ちがう。 緑色の髪の……白銀の鎧を纏った青年……せつなちゃんのより、鋭角的だ。 彼の魔力斬撃で、弾道をずらしたみたい。 魔力弾はあさっての方向へ。「ホ! なんだ、てめ!」「へ! 悪党に名乗る名前はねえ!」 ……えっと、助けに来てくれたのかな? じゃあ、連携取らないと。「ありがとうございます! 前衛お願いします!」「え? ……あ、おう!」 ? ひょっとして、この人も……違法魔導師? と、とにかく、彼を捕獲するのが先!「『アクセルシューター』!」『Axel Shooter』 牽制に魔力弾を撃ち込む。……うん。彼、動き鈍い!「ち、この! こんな豆鉄砲! 屁でもねえよ!」「くそ、堅てえんだよ、この! 『ディスカッター』!」 それに、彼、近距離用魔法持ってないの? 防御魔法は常に展開してるけど、鎧の彼には攻撃しない。 ……なら!「(そのまま、囮お願いします!)」「(!? え! なんだこれ!?)(マサキ! これテレパスにゃ! あにょ子からの!)」 てれぱす? 念話知らない!? それに、もう一人の意識があるの!? 「(と、とにかく、攻撃続ければいいんだな!?)」「(はい! 合図で下がってください!)レイジングハート! モードリリース!」『Exceed Mode』 バリアジャケットとレイジングハートを戦闘用に切り替える。 スカートが長くなったり、ジャケットの形状が変わったりと、ちょっとずつ変化があるけど、変わるのは見た目だけじゃない。これは、私とせつなちゃんで考えた、完全な戦闘用のバリアジャケット。 いつものセイクリッドモードよりも防御力が上がり、砲撃用の収束率にも変化がある。 レイジングハートも砲撃用に切り替え、杖の先が鋭角的に変化する。 ……あのバリアを打ち抜く! 「ホ!? やばいっての!」 あ、背中向けた。逃げる気だ!「逃がすかよ! クロ! シロ!」『お任せだにゃん!』『逃がさにゃいにゃ!』 マサキって呼ばれた彼の背中から、二つの物体が飛び出して、犯人の行く手を阻む。 そして、魔力射撃……自立誘導の補助兵装? とにかく、チャンス! 念のため、カートリッジを一回使って、魔力補強。標準を定める。 ……今!「(下がって!)『エクセリオーーーーンバスターーーーー』!!」『Excellion Buster』 マサキさんが着弾点から離れ、砲撃が犯人に直撃! ……それでも、まだ砲撃を防御できてる!「くそぉ……ここは逃げの一手だっての! 『離脱』!」 !? 転移魔法!? そのタイミングで!? ……嘘。 本当に転移しちゃった……AAランク魔法を防ぐ防御魔法と平行して、転移魔法を行使するなんて……それに、バルシェムも消えてる。 ……結界も消えたね。「ちぃ! 逃げられたか!」 あ、彼は残ってる。 お話聞かないと……「あの、手伝ってくれてありがとうございます。私、管理局特務隊の高町なのは。あなたは?」 ……えっと、どうして後ずさるんでしょうか?「え、えっと……俺、管理局に登録してなくて、だな?」 ……違法魔導師なんだね。 うう、せつなちゃんのところに行きたかったのに……「お話、聞かせてもらえますか?」「……は、はい……」 よかった。大人しくしてくれて。 ……逃げられたら、追っかけないと駄目だしね?「じゃあ、どこかお店で聞かせてもらえるかな? ここにいて、また襲われてもあれだし」「え? 店って……どっかの詰め所に放り込まれるんじゃ……」「むぅ。そこまでしないよ。……えっと、マサキ君でよかったかな?」「え!? 何で俺の名前!?」 あれ?「えっと、あなたのほかにも、意識体あるよね? クロとか、シロとか。その子がそう呼んでたから」「あ、あの時ね。……と、じゃあ、ちょっと待ってな。クロ?」『はいはい。サイバスターシャットダウン』 クロと呼ばれた声がすると、白銀の鎧が消え、彼は空色のジャケットとジーンズという普通の服に変わった。 ……まさか、彼のも、ATデバイスと同じ? 鎧の代わりに彼の体から現われたのは、二匹の猫。黒色と、白色の……だから、クロとシロ?「俺はマサキ。マサキ・アンドー。……クラナガンでは、一般市民で……非魔導師だ」 ……やっぱり。 「あたしはクロだにゃ。マサキのファミリアだにゃ」「僕はシロ。クロとおにゃじファミリアだにゃ」 ……ファミリアって言うのは初耳。 そして、やはり黒猫がクロ、白猫がシロ。……安易だね?「じゃあ、今のは……」「えっと、辺境世界の八七管理世界『ラ・ギアス』のロストロギアで、名前が『サイバスター』。……俺は、サイバスターに選ばれた、操者なんだと」 ろ、ロストロギア…… うう、絶対にせつなちゃんのところにいけない…… 「じゃ、じゃあ、詳しい話を」 しよう……と、思ったのに。「ん? なんだこれ?」「イブン様の転送法陣にゃ!」「ご、ごめんなさいにゃ、にゃにょはさん! 僕たち行かにゃくちゃ!」 転送法陣!? 後、にゃにょはじゃなくてなのは! 魔方陣が消え去るとともに……ああ、マサキ君たちも消えちゃった…… ……よ、よし。「うん、これも、せつなちゃんに相談しよう!」 絶対知ってるはずだから! ……魔法使った報告も無視することにして、私は転送ポートに逃げ出した。 うう、局員にあるまじき行為だよ…… この話をして、せつなちゃんが頭を抱えたのは予想に容易かった。※外伝的意味合いのEXをお届けします。作者です。 待っててくれた方、応援してくれた方、感謝です。そして、待たせている事実が心苦しく……ストック分放出します。 タイムダイバーの解釈や、イングラムの行動指針の違い等は作者の勝手な変更なので、詳しい突っ込みはご容赦ください。 ……大体、あの人作品ごとにスタンス違うよね。大まかなところは同じだけど。 ところで、外伝ではなく番外(ギャグだったり、ネタ晴らしだったり、メタネタだったり)って、需要あるのでしょうか? 休んでる(仮死状態的な意味)間に思いついたネタがいくつかあるんですが、読みたいですか? まあ、今の状況では簡単に出せるかどうかって話ですが。 ちょっとだけ意見が聞きたいです。 手元にあるネタは「八神はやての憂鬱(声優ネタ)」「ある日の訓練風景(声優ネタ)」「笑ってはいけない特務部隊24時(ギャグ)」「出番と台詞のないキャラクターの救済コーナー(メタネタ)」と、こんなところです。 それよりまず、安定した生活と、専用のマシンだよね。わかってます。 以上、作者でした。