全授業終了。 ……これが一ヶ月続くとなると、本当に鬱になる。 おのれ、リンディ母さん。 戻ったら絶対揉み倒してくれる。「……はぁ……」 ため息しか出てこん。 ……なのは達に会いたいなぁ……「休暇なのに疲れてるわね?」「まぁなぁ? ……てか、せっかくの休暇なんだから、温泉行きたかった……」「まあ、しばらくのんびりしなさい。……あたし、部活あるから、行くわね?」「頑張って~」 ……香里は部活か。北川はもういない。 祐一は……「私、部活あるから。先帰ってていいよ?」「ん? わかった。……レコード屋にでも寄ってこようかな……」 お前はいつの生まれだ。 CD屋だろう普通。「……? と、きたきた」 目当ての人物が通り過ぎたので、席を立つ。 「お? 帰るのか?」「ちょっと用事。先帰ってて?」「おーう」「せつな、気をつけてねー?」 二人に別れを告げ、赤みがかった髪の持ち主に接近。 テンパなのか猫っ毛なのか、少しソバージュ掛かったようになってる。 むむ、頭一つ分ほど背が低いんだな。「……人の背後に立ってじろじろ見るのは失礼ですよ?」「すまんな。……やっぱり、みっしーだと似合うな、ここの制服」 うん、可愛い。 ユーノにはもったいないね。 立ち止まって、振り向くみっしー……「……意外に似合いますね? かっこいいです」「……すまん、結婚してくれんか、美汐」 凄く感動した、今。「ちなみに嘘ですが」「orz」「……冗談です。かっこいいですよ?」「ふ、やるようになったじゃないかみっしー……お姉さんは感激だよ」 俺の芸風を盗るとは。 やってくれる。「んじゃま、どっか行くか? ……ここの学食、量少ないから夕飯までもたん」「……魔導師の運動量からしたら、少ないですよね。……私には丁度いいんですが」 まあ、司書じゃね。 ……天野美汐。五年ほど前に入った司書で、一応魔導師だ。 ただ、ランクが低い上、使える魔法も戦闘向きでない為、本人の希望もあって無限書庫に配属になった。 専攻は古代風俗史と老古学。後、妖怪などの東洋幻想生物系も得意。 真琴は元々、妖狐と呼ばれる妖怪狐だったそうで、その関係で調べてたら詳しくなったとか。 後、老古学は絶対ユーノの影響だと思う。 現在司書長補佐。ユーノの奥さんと言えば、誰でも気付く。 本人否定しているけど。 ……その彼女と、学校を出て、街の方向へ。 ……市街地には駅から水瀬家に行く最中に通っただけで、どこに何があるのかさっぱりわからん。 また暇を見て散策するか……て、暇だらけだが。「お仕事の方は順調ですか?」「まあ、そこそこにね……大きなヤマ抱えてるのに、一ヶ月休みとらされてまいってる」「……せつなさん、働きすぎですから。はやてさんもぼやいてましたよ?」 うわ、マジでか? 最近無限書庫に顔出してないので、六人の中で使用率ナンバーワンははやてになった。次点はすずか。 「……あいつら守るだけでなく、ほっといたらろくなことしそうにない奴が相手だからなー……」「……その、せつなさんは、まだ、悲しい夢を?」 俺の事はユーノ経由で聞いたらしく、真相を話してある。 もっとも、前世の記憶があるってだけだが。「見てるよ……月に一回のペースにまで落ちた」「……そうですか……」 きっと、そのうち見なくなる。 その時には、なのは達と笑い会える自分になってるだろう。 ……けど、もし、その最中になのは達の誰かを喪えば。 その夢が上書きされるはず。 その、誰かの悪夢に。「……悲しいことを忘れられる人に、なれてればよかったんだがな……大概、俺も不器用だ」「……私も、不器用ですよ……」 美汐の顔にも、影がある。 ……暗い話しても、仕方ないか。「あ、ここです。百花屋。……結構人気の喫茶店なんですよ?」「ほう? どら、翠屋マスターの俺が味比べしてやるとするか」「……えっと、あそこと比べるのは酷な気が……」 今のところ、翠屋以上の喫茶店に出会えていない。 ……まあ、海鳴とミッド以外の街に行かないけど。 入って奥のボックス席に。 みっしーは甘味。俺はチョコパフェ。「……ここのイチゴサンデーも美味しいそうですよ?」「むぅ。居候先の娘さんが好きそうだな……」 朝のジャムの塗り方は異常だった。 昼もイチゴが付いてるというだけでAランチを頼んだそうだ。 ……イチゴ馬鹿?「……それで、真琴はどうしてますか?」 ようやく本題へ。「今のところ元気にしてる。そっちからの魔力供給が滞ってたらしくて、一回倒れたけど、俺が魔力分けた」「!? 倒れたんですか!?」 ? ちょっと、その反応は食いつきすぎ。「魔力不足だよ。……俺が魔力流したら、すぐに起きたよ」「……そ、そうですか……」 うーん。真琴にもなんかあるのかな? ウェイトレスが来たので、一度口を紡ぐ。 立ち去った後、聞いてみる。「真琴に、何かあるのか?」「……真琴が妖狐だって事は話しましたよね? ……あの子、この街の特殊な狐なんです」 聞くところによると。 曰く、その狐は呪いを振りまくという。 人の姿に化け、人に懐き、そして、人として死んでいく。 呪いの名は悲しみ。 だからこそ忌み嫌われる妖怪狐。 ものみの丘の妖狐。「……じゃあ、真琴は、祐一を呪いに来た狐だってことか……? あれ? でも、真琴、使い魔だよな? お前の」「……もしかしたら、真琴は私と会う前に、その祐一さんに会っていたのかも知れません。そして、その時に……」 祐一に酷いことをされた…… ……いや、もしかしたら。「捨てられた……か?」「……推測に過ぎませんが。そして、祐一さんがこの地に現われたことによって、妖狐の血、もしくは、その力が発現して、祐一さんの元に行ってしまったと、考えられます」 ……と、なると…… 「……おいおい。じゃあなにか? 真琴、最終的には死んでしまうってことじゃ……」「……」 俯く美汐。 ……その表情には、いままで見たことないような悲しみがある。「……とにかく、今は真琴のしたいようにさせればいいのか? ……その、呪いを掛け終るまで」「……そうして、あげてください。……たとえ、どんな結果になっても……」 そういった美汐の声は、震えて、今にも泣きそうで…… ……推測だが。 美汐は別の狐に、既に呪いを掛けられた後だったんだろう。 その悲しみを忘れる為に、傷ついた真琴を拾い、使い魔とした。 その狐の変り身にするために…… ……真琴自身も、別の人物に復讐しなくてはいけないという事実を知らずに。 ……なんて、悲しみの連鎖。 一番苦しみ、悲しむのは、祐一ではなく、美汐かもしれないと、漠然と思った。 ……やるせないな…… 店を出て、美汐と別れる事に。 最後に聞いた。一度、熱を出して倒れたら知らせて欲しいと。 ……それが、合図だと。 ……彼女の背中を、呆然と見送るしかなかった。 「まったく、勘弁してくれよ……」 真琴も、俺の大切な友人だというのに。 ……それが死んでしまう。 それも、仕方のないこと。仕方のない別れになってしまう。 ……今はまだ、考えないことにするか。 合図があるまで。 ……と? 誰かが背中にぶつかった。「?」 振り向いてみると、幼い女の子?「あ、ごめんなさい……」 買い物袋を両手で抱えた女の子が、ぺこりと謝った。 ……髪の色に、見覚えがある。 最近見たような? ……髪質は違うが。「ああ、気にしないでくれ。ぼぅっとしてた俺も悪い」 全体を見ると……寒そうな格好。 肩にかけたチェックのストール。防寒具はそれだけで、セーターとエプロンスカート。 ……寒く、ないのか? 地元の人間は。「……その格好は寒くないか?」「? いえ、ストールありますから」 ……わからん。 けど、分かることはある。「じゃあ、どっか痛いところでもあるのか?」「え?」「……いや、泣きながら歩いてると、危ないぞ?」 泣いているということだ。 ……本人気付いてないのか、瞳からボロボロ涙こぼしている。「……あ……」「病院行くか? 教えてくれれば連れて行くぞ?」 どこにあるのかわからんからな。「……ごめんなさい……気に、しないでください」「いや、無理」「え?」 泣いてる子を放って置くほど、薄情にできてない。 彼女の手から荷物を奪い取り、片手で持つ。 空いた片手で彼女の手をとって。「せめて家まで送らせろ。……荷物持ちぐらいはしてやる」「……強引です」「それが持ち味だからな」 ニカッと笑ってやる。 彼女はその顔に……笑ってくれた。「……それじゃ、お願いします」「おう。お姉さんに任せなさい」 彼女の手を引いて歩き出す。 が、彼女は動かない。「? どした?」「……家、こっちです」 指差す先は反対方向。 ……台無しである。 彼女の案内に従い、歩きながら話す。「じゃあ、一ヶ月の間だけここにいるんですか?」「ああ。お姉さん意外と働き者でな? ……そして、仕事が一杯あるんだ」 休み明けのデスクが怖い。 「……その、お姉さんって呼んでいいですか? 名前知らないので」「? 教えて欲しい?」「……いいんですか?」 ……名前を聞くのを遠慮する子は初めてかもしれない。 もう泣いてはいないが、何か遠慮しがちな子だ。「ああ、いいよ。俺の名前はせつな・トワ・ハラオウン。十七歳だ」「……えっと、私は、美坂栞です」 美坂? ……まさか。「香里の妹?」「……お姉ちゃんを知ってるんですか?」「奇遇なことにクラスメイトだ」 本人の次に妹に会うとは。 本当に奇遇なことだな。「……お姉ちゃん、元気ですか?」「? 元気にしてはいるが、別々に暮らしているのか?」「……一緒に暮らしてます。けど、私、嫌われてますから」 ……そりゃ、いけない。「明日、香里に説教しなくちゃだな……」「え!?」「俺にも妹がいるんだがな? そいつが言うに『姉は妹を嫌ったりせず、愛でに愛でてメロメロにしなくちゃいけない』らしい。……そいつも俺にメロメロなんだと」 やりすぎな感はあるが、姉が妹を嫌うのは間違ってる。 どんな理由があるにしろ。「だから、香里に栞を可愛がるように言って置くぞ? なんなら、洗脳するか?」「……あの、洗脳はやり過ぎだと……」 やっぱり?「……それに、お姉ちゃんは頑固だから……言っても無駄です」「……お姉ちゃん、嫌いか?」「……じゃあ、嫌いってことにしてください」 じゃあって……はぁ。 香里と栞の間にも、何かあるんだろうな。「あ、ここです」 立ち止まった家には、美坂の表札。 荷物を手渡し、家を仰ぎ見る。 ……ひょっとしたら、俺のお節介なのかもしれない。「……まあ、困ったことがあったら言ってくれ。力になるよ」「……そのときは、お願いします」 あまり信用してない様子。 表情は暗いままだ。 ……もったいない。可愛いのに。「じゃあ、これで」「……ああ。またね?」 返事は返ってこず、さっさと中に入ってしまった。 ……うーん。お姉ちゃん力が弱まってきたか? こっちも結構まいってるからなぁ……「……帰るか」 来た道を取って返す。 できれば、彼女にも笑ってもらいたいところ。 何かできることはないのかなぁ…… ……コンビニで肉まんを買い、帰宅。 夕食の時間もすぐなので、真琴には食事後に食べてもらうことに。 ……おいしそうに食べるその顔に。 少し、悲しくなった。『……せっかく休んどるのに、えらい景気の悪い顔しとるな?』「……むしろ拷問だ……」 今日の連絡ははやて。 アイビスの質問レポートがあるくらいで、他には特に連絡はないそうだ。「知ってる知識を延々話されても、つまらないだけだぞ? 夜しっかり寝てるから、眠くもならない……時間の無駄だよ~」『……まあ、中学の最後の方はそんな感じやったな。休み時間のお喋りだけが楽しみやったなぁ……』 その頃には、俺もはやても高校以上の頭あったしな。 『まあ、一週間も続けたら慣れるやろ。ゆっくり休み』「そうする……じゃあ、今日はここまでだな」『うん。明日はアリサちゃんやからな~?』「うぃ。おやすみ~」 通信を切る。 真琴は既にお休みだ。 ……俺も寝るとしよう…… ――――― ゆめ ――――― ――――― 夢を見て「だから来るなと言っているだろう羽娘」「うぐぅ!? ぼくだって来たくて来てる訳じゃないよ!?」 堂々と人の夢の中に入ってきといて何を言う。 なお、首根っこ掴んで目線まで上げている。 この娘、俺の頭一つ分ほど小さい。「ならばさっさと成仏するなり、自分の夢に帰るなりしろよ」「うう~~。お兄さん意地悪だよ~~!!」「だから、誰がお兄さんか!」 服装は男物だが、れっきとした女である。 ……体に引っ張られているせいか、夢の中でも、きちんと女だ。「? え? ちがうの?」「違う。俺は、女だ。お姉さん」「うぐぅ。見えない……」 ほほう? そんな直球なことを言う子には……「擽り倒してくれる!」「え? や! わき腹はダメェ~~~~~!!」 うははははははは!! 泣け、叫べ、笑い死ねぇ!「……で? 俺が何に見えるって?」「お、女の、ひ、と……うぐぅ」「分かればよろしい」 アイムウィン。 むしろいじめだこれ。 夢なのにリアルだな。「うぐぅ~~~。お姉さんいじめっ子だよ~~」「自業自得という言葉を知ってるか? 生意気なお子様にはこれぐらいの制裁は必要だ」「ぼくお子様じゃないもん!」 いやぁ、どこから見てもお子様です。 頬を膨らませて怒るさまがプリチー。「……まあ、とにかく、早く出て行くことを推奨する」「……出方分からないもん」 ……おいおい。「俺が起きるまでここにいるつもりか?」「……駄目……かな?」 むぅ。そんな上目遣いで見られても…… ……うーん、まあ。「いいか。少し、お話でもしようか」「ありがとう!」 お、笑った。 ……ニコニコ笑う顔は可愛いな。「じゃあ、まずは……」 それから、俺が起きるまで雑談が続き、起きる前にはお別れした。 ……あれは、一体、何のつもりだろうか? 俺の夢に来るなんて、酔狂な…… 怖い思いしても知らないぞ? *今更だけど、主役の容姿イメージは天王星の戦士の人……ではなく、竜之介な人と言ってみる作者です。どこの竜之介かは……『俺は女だーー!!』で分かるかなぁ? なお、声のイメージは中学入学前までは薗崎の姉っぽく(カグヤの方は妹の方)、現在までは今度こそ天王星の人。カグヤはそのまま。 さらに、パラディンはアンバーな人で、クラウンはゴットゥーザ様でイメージしてます。 こんなんでどうでしょうか? 作者でした。 ……寝てないせいか、ぐだぐだなあとがきになってしまいました。