――――― ゆめ。――――― ――――― 夢を見ている ――――― て、まてコラそこの羽娘。「う、うぐぅ!? 捕まえられた!?」 ……なんじゃこいつ? なのはよりも明るい亜麻色の髪、肩まであるロングで、カチューシャつけてる。 茶色のコート着て、手にはミトン。 ……羽付きのカバン? アニメグッズか? そして、全体的に……「ちっこい」「うぐぅ!? ちっこくないよう! ……そ、そりゃぁ、あんまりないけど……」「いや、ちっこい、背丈とか、容姿とか……小学生?」「ぼく、十七だもん!」 おいおい。 俺とタメかい。 見えない。「で? お前さん名前は?」「え? ぼく?」「そう、無断で人の夢に乗り込んできてる不法侵入者の名前」「……うぐぅ……」 それは新手の萌え発言なのだろうか? かなり使い古されてるような気もするけど。 まあ、可愛いけど。鳴き声。 「ぼく、月宮あゆ」「ほう、あゆちゃんか。……塩ふって焼いたら美味いかな?」「さかなじゃないよ!」 ふむ、この子は虐めると楽しい子だな。 ……なのはみたい。「で、どうして俺の夢に? 今名前聞いたぐらいだから、初対面だよな?」「……わからないよ。……どうして貴方の夢にいるのかなんて、分からない……」 ……浮浪意識体か? レポートでそういう件名はあったはずだが…… むぅ、ちゃんと見てないんだよな。 ……まあいいか。「まあ、あまり俺の夢にはこない方がいい。……時たま、怖い夢見てるからな」「……そうなの? ……どんな?」 ……端的に言えば。「お子様に見せられる夢じゃないさ」「ぼく、お子様じゃないよ!」 どこから見てもお子様です。 ついつい頭撫でてしまう。 ぐりぐり……「うぐぅ……お子様じゃないのに~……」「はっはっは……と、そろそろ時間か」 意識が薄れて(浮かび上がって)くる。 パラディンの呼び声が聞こえる。「え? あ、夢……起きるんだね?」「そういうことだ。縁が会ったらまたな?」「あ! お兄さんの名前!」 ぴし。「絶対に教えてやらん!」 ……あれ? ……夢? ……変な夢見た…… 住人を起こさないように外へ。 道なりにロードワーク。 いい広場がないか探しながらランニングを続ける。 ……方向音痴ではないので、迷うことはない。 ……が、いい広場がない。 おのれ……明日は別のルートを通ることに決め、転進。 午前六時過ぎに水瀬家に帰還。 ……家に入ると、秋子さんは起きてました。「あら? ……訓練ですか?」「あ、いえ、ランニングだけ……広場が見当たらなかったので」「そうですか……あ、朝御飯の準備はすぐ出来ますよ?」「その前にシャワーだけ借りますね?」「はいどうぞ。六時半前後には名雪も降りてくる……はずですから」 はず? ……お寝坊さん? まあいいか。 十分で汗を流し、部屋に戻って制服に着替え。 真琴はまだ寝てる。 カバンに教材を……あ、時間割しらねえ。 ……いいや、裏技。ストレージに教材全部詰める。 それをカバンの中に。 これで取り出せば、普通に見えるだろう……たぶん。 よし、そろそろ……『ジィ』 ん?『ジィッィィィイィィィィィィィ!!』『リンリンリンリンリンリンリンリンリ!!』『サイショカラクライマックスダゼ!! オンドゥルラギッタンディスカー!!』『ジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャン!!』『オッキローオッキローオッキローオッキロー!!』 うわぁ!? な、なんだなんだぁ!?「あうぅぅぅ!? なになになにぃ!?」 うわ、真琴も起きちまった。 そうですよね起きますよね、なんだこの騒音公害! 部屋から飛び出ると、祐一も出てきた。 ……音の発生源は名雪ちゃんの部屋。「……正直聞くに堪えん」「同感だ。行くぞ、せつな」「おうよ!」 二人して突入。うわ、なんじゃこの目覚まし博物館!? 全てのスイッチを切って回る! ……よし、全部止まった。「……くー……」 ……部屋主まだ寝てるとか…… おいおい。「眠り姫かこいつ……王子様、出番だ」「よし……おい、名雪! 朝だぞ起きろ!」 あ、普通だ。 そこはキスでもしてもらわないと。「ん~? あさ~?」「そうだ、朝だ。早く起きろ」「んにゅ~……あ、祐一、おはよ~……」 ……起きてるのか? これ。 「……はぁ、祐一、後任せた」「おう。ほら、起きろ!」 はぁ……まさか、毎朝これやらされるのか? 部屋に戻って……「あうぅ……」 あ、耳塞いで震えてる真琴発見。 ……やれやれ…… パジャマのままの真琴を連れて一階へ。「あら? 名雪起きました?」「今祐一に任せてます……毎朝これなんですか?」「ええ。毎朝です。……あら、真琴ちゃんも起きたのね?」「あう……耳がじんじんする……秋子さん、おはよう……あう……」「あらあら……ごめんなさいね?」 ……は、いかんいかん。 あの笑顔に何でも許してしまいそうになるな…… ええい、相手は人妻相手は人妻……しかも俺今女だから! テーブルに着く。真琴も隣に座らせる。「おかーさん、おはよ~」「おはようございます……」 二人も降りてきた。 ……朝から憔悴してるな、祐一君。「お勉めご苦労」「ありがとよ……」 ついつい敬礼。「あ、せつなさん制服似合うよ~」「そうですね。よくお似合いですよ?」 ……水瀬家は感性が独特なのだろうか…… 「……真琴はどう思う?」「あう? ……女の人みたい」「……うん、その反応が普通なんだよね……」「……マジで不憫な……」 ふふふ。なんか男呼ばわりされないと不安になってきましたよ? おのれ、この胸が憎い……胸さえあれば~…… 「それじゃ、いただきます」「切り替え早いな……」 ええい、いつまでも落ち込んでられるか。 今日から学校じゃ。 と、そうだ。「秋子さんすみません、真琴見てあげてもらえませんか? 連れて行くわけにも行きませんし」「ええ、いいですよ? 真琴ちゃんもそれでいい?」「ええ!? 真琴置いてきぼり?」 流石に学校は入れられないなぁ。「すまん。肉まん買って来てやるから」「あう~……わかった……」「ありがとな、真琴」 頭に手を置きぐーりぐーり。 ……む?「何故そんなに優しい目を向けてやがる祐一」「いや、まるで姉妹だなと」「……準妹分だからな」 本当に妹ばかり増えていくよ…… そういえば。「祐一はジャム使わない派か?」「ん? ああ、甘いの苦手なんだよ」「ええ~? イチゴジャム美味しいよ~?」 いや、君は塗りすぎそれ。「あら? じゃあ、甘くないのもありますよ?」 がた! 手のトーストを押し込み、コーヒーを飲み込む。「じゃあ真琴、秋子さんの言うことよく聞いてな? 祐一、玄関で待ってるぞ?」「わたしも、玄関で待ってるから。お母さんご馳走様。行ってきます」 む、名雪ちゃんも同類と見た。 唖然とする真琴と祐一を置いて、玄関に。 靴を履いて(指定の革靴だそうだ。動きにくい)外へ離脱。「……すまん祐一。生贄に捧げる友を許せ……」 南無南無。「せつなさんも、あれ知ってるんだ?」「ああ……母さんに一ダースほど送られてきてな……兄と義姉と弟と一緒に悶え苦しんでた……」 そして恐ろしいことに。「母さん、あれお気に入りなんだぜ?」「……お母さんの友達だね……いるんだ、お母さん以外で食べられる人……」 なお、一瓶桃子さんに送って、母さんとの間で大喧嘩した逸話もある。 ……あれは、緑茶に砂糖を入れたときと同じレベルの喧嘩だった……「……あ、名雪ちゃん。俺の事は呼び捨てでいいぞ?」「え? ……じゃあ、私の事も呼び捨てでいいよ?」 ほむ。「じゃあ、改めてよろしく、名雪」「よろしくね? せつな」 よしよし。友達二号ゲット。 がっちり握手した後、玄関が開き……「うう、まだ舌が……」 生贄にされた羊登場。「……お前ら、知ってやがったな……」「一度は通る道だ、諦めろ」「あはは……ごめんね? 祐一」 さーせん。 通学路を三人で歩く。 昨日も晴れてたと言うのに、まだ雪が積もってるとか……後、寒い。 俺と祐一はコート装備。 なのに、名雪は制服のみ……「名雪は寒くないのか?」「え? 今日は暖かい方だよ?」「「マジでか?」」 冗談じゃない。こんな日が続いたら…… あ、よく考えたら、もっと気温低い時に俺走り回ってたじゃん、今日。 ……まあ、防寒結界張ってたし。「うう……学校に行くのが鬱になりそうだ」「祐一は寒いの苦手か?」「嫌いだ」 さいで。 俺は苦手レベルだな…… クラナガンは比較的温暖地域だからな~。「二人とも、この街慣れた?」「……一日二日で、慣れるものじゃないぞ?」「俺は街にすら出てないからな。今日が初めてだ」 の割にはいろいろあったな。「直に慣れるよ。二人とも、しばらくここに居るんだし」「まあ、な?」「俺は一ヶ月だけだがな~?」「あれ? そうなの?」「そうなんです。……戻って仕事がな~……」 うう、休み明けは地獄を見そうだ。「それって、昨日のあれ?」「……あれだ(出来るだけ内密に頼む。企業秘密も扱ってるから)」「? あれって?」「(うわ、そうなのか? すまん、黙っとく)」「「気にするな」」「……二人とも、息合うんだね?」 いや、今のは合わせた。 ……しばらく歩いて。 大きな白い校舎。 ここが俺の通う高校らしい……結構でかいな。 しかもキレイだし。「な~ゆき!」 と、名雪の後ろから飛びつく少女。 ……あ、美人さんだ。 濃茶系のウェーブロング、あとインテーク。 ……やはり流行ってるのか? 背丈は名雪より少し高め。「香里……おはよう」「おはよう、名雪。ひさしぶり」「三日前に会ったばかりだよ?」「三日前でも充分ひさしぶりよ」 ……ああ、うん、普通だ。 普通の女子学生の会話だ……「? 何感動してんの?」「いや、俺はこの平穏が欲しかった……」 少なくとも、魔法でアンドロイドを倒すような世界にはいたくなかったんだよもん。 切実に思う。 俺の平穏を返せ。「で? あなたの従兄弟様は……そっち?」 指を指すのは祐一君の方向。「当たりだ。相沢祐一。名前で呼んでいいぞ?」「遠慮するわ。私は美坂香里。名前で呼んでくれていいわよ? あと、そっちは?」「居候二号だ。せつな・トワ・ハラオウン。……短期転入で短い期間になるが、よろしく」「ええ、よろしく……女の人……よね?」 ……一応。「そう言えば、何で男の喋り方なんだ?」「……実は男」「「「ええ?」」」「嘘だが。……いや、一名そこ。納得顔するな」「あ、わり」 まったく。「……まあ、精神病の後遺症と考えてくれ。病気自体は治ったんだが、口調が戻らなくなってな」「そうなんだ……ごめん」「香里は謝らなくてもいいぞ? ……なぁ? 祐一君?」「うぐ、すまん」 ん? その鳴き声どっかで聞いたような……「え、ああ! そろそろ予鈴!」「あ、ほんとだ。……祐一達は、先に職員室だね?」「おう。また後でな?」「うん。同じクラスになれるといいね?」「「いいか?」」「いいに決まってるよ~……また二人して言うし……」 いやぁ、この気の合い方は尋常じゃないね。二回目。「なーゆーきー!!」「あ、うん! じゃあね~」 香里と名雪が校舎に入り、さて俺たちも……「ところでゆうちゃん?」「なんだいせっちゃん?」 ……「職員室どこ?」「さぁ?」 ……せめて案内くらいしていけボケ娘…… 近場にいた生徒に案内してもらいました。 二人とも同じクラスに編入。 紹介を受けて教室の中へ。 ……あれま。「(名雪と同じか)」「(香里もいるな)」 小さく手を振る名雪。視線で挨拶する香里。 自己紹介をして、それぞれの席に着席。 祐一は名雪の隣。俺は香里の後ろ。 なお、香里の前に名雪。 ……うう、ほとんどが奇異の視線…… どうせねー? ホームルームが終わってすぐ授業。 ……うは。この空気は久しぶりだ。 まともに授業受けたの何年振りだろ…… さらに、ほぼわかってる内容。 うう、時間の無駄~…… 仕方ないので、マルチタスク発動。 空きタスクで仮想訓練したる。 …… あっという間に一時間経過。 これが後半日以上……「? ハラオウンさんはいきなり疲れてるわね?」「を? あ、名前でいいって言わなかったか、俺?」「言ってないわね」「じゃあ名前でよろしく」「……まあ、女の子だし、いいか」 男だと駄目なのか、かおりん。 祐一は……後ろの男子と話してるな。 ? あのアンテナは……「? なに? 俺の顔になんか……ああ!」 なんだ?「『聖祥の女ジゴロ』!」 ブフォァ!! な、懐かしい称号きたなおい!「き、北川君? 何それ?」「あ、ああ。齢八歳でクラスの美少女三人をたらしこみ、教室内でいちゃいちゃしていた伝説の女! 何でこんな所に!?」 き、きたがわ……? ああ、いたなぁ! 確か!「そしてその称号をつけたのは貴様だったな北川君。……もう一度、フランケンシュタイナー喰らいたい?」「うぉぉ!? い、痛い! 頭が割れるように痛い!」 がっちりとその頭にアイアンクロー。 ギリギリ締め付けます。「……物凄い八歳だったんだな、お前」「若気の至りだ……称号と共に忘れろ」 頭を離して席に戻る。 あ、北川君潰れた。「く、あ、頭……」「……せつな、本当に女の子?」「確かめても構わんぞ? ……ああ、胸じゃわかり辛いからスカートの中な?」「……いや、その発言は女としてどうなんだ?」「……うちの仕事場に、一週間くらい男と思ってた奴がいて、風呂で裸見てようやく女だってわかった部下いるぞ……」「……もういい……涙が止まらなくなりそうだ……」 ふふふ。こんな自虐ネタばかり増えていくよ。 そして、本気で泣きそうな目をしないでくれ名雪。「可哀想だよ。せつな、可愛いのに」「……えっと、香里? お前の友人変じゃないか?」「あなたと同じレベルね」「どういう意味だ」「言葉通りよ……と、休み時間終わりよ?」 ち、なかなかやるな、この子。 なお、北川君はしばらく潰れてました。 ようやく昼……つ、疲れた…… 内容がもう知ってることばかりだからつまんない…… 仮想訓練も三時間以上やると飽きる…… 仕事したい……「だぁうぁ……」「うわ、潰れてるな、せつな」 祐一君?「帰って仕事したい……部下の面倒みたい……上司と打ち合わせしたい……」「重症だな……」 完全なワーカーホリックですよここまで来ると。 おのれ、実は母さん俺の事嫌いだな?「ほら、潰れてないで、食堂行くわよ?」「……そだな」 飯は貴重なんです。 香里達に連れられて食堂へ…… の、前に誰かにぶつかった。「あ、ごめん」「いえいえ。だいじょう……!」「え? あ、あら?」 ……確かこの人、航行隊で見たぞ? あれは……確か、アースラにいた時に……「し、失礼しますね?」「え? ちょ……悪い、祐一。先行って食っててくれ」「お、おい!」 逃げる彼女を追いかける。 ……結構早い。 が、俺よりは遅い。「捕まえた。……確か、佐祐理さんであってたか?」「ふええ……せつなさん……」 そんな涙目にならんでも。 ……アースラで仕事してた時、本局の航行隊に俺と年の近い魔導師がいたから、模擬戦を依頼。 ……なのはばりの砲撃魔法を使ったのを覚えてる。 なのはは感覚で魔法を組むが、彼女は理論で魔法を組んでたから、なのはよりやりやすかった。 ……あいつ突発で魔法組んだり、組み替えたりするからな…… 俺の勝ちで勝負が付き、握手を求めて友達になろうとしたら。『次は、負けません』 ……と、冷静に返されて握手をスルーされた。 ……フルネームは倉田佐祐理。俺と同じ出身世界。 その後、局を辞めたって聞いたけど……「こんな所に……えと、久しぶり?」「あ、はい、お久しぶりです……よく覚えてましたね?」「いや、まあ、あの別れの言葉は印象に残ってるから……」「あ、あははー……」 力なく笑う彼女。 ……? なんか、以前の彼女と違うな…… こう、丸くなった? 性格。 容姿はぜんぜん変わってないのに。 明るい亜麻色の髪とか、さらさらのストレートとか、あと、おっきなリボンとか。 後、幼いよな、顔立ち。 ……うう、俺好みの美人に育って……「えっと……これからお昼だろ? よかったら、話さないか?」「あ、その……お友達待たせてるんです」「あ……そっか」 むう、なんか拒絶の雰囲気。 なら、仕方ないか。「わかった。また暇な時に話そうか?」「……管理局には、戻りませんよ?」 ……?「えっと、自分から辞めたんでしょ?」「え? あ、はい……」 むう、悲しげな目。 ……もったいない。 美人なのに。「なら、俺はわざわざ勧誘することしないよ。……あんなところ、いないほうがいい」「!? ……あの、あなたはまだ……」「……あれからずっとだよ。今、地上で査察官やってる。……まあ、今月一杯休暇取らされたけど」 ウヌレ、向こうで仕事してる方がよっぽど有意義じゃ。 ……辞めた人を、連れ戻す必要ない。 平穏が一番だ。「じゃあ、また。世間話程度は、付き合ってくれな~?」「……はい。また……」 佐祐理さんを背に食堂へ向かう。 ……転進。「? どうしました?」「……食堂どこ?」「……あははー」 あ、笑った。 笑顔の可愛い人だ。 佐祐理さんに道を教えてもらって食堂へ。 食券買って受付。 メニュー少ない……カレーを選択した。 ……量少ない……大盛りにすればよかった…… ……あ、アンテナ発見。「またせた」「もう食べてるわよ?」 む、皆ほとんど食い終わるな。 香里の隣に座り、一口……「……うう、ランク落ち……」 レーツェルさんやザフィーラのカレーの方が数倍美味い…… 学食のカレーなんてこんなもんか……「……いや、そんな悲しそうに食べんでも」「口に合わないとか?」「……職場のカレーの方が美味かった……量もこの1.5倍はあった……福神漬け自作だった……」 覚悟を決めてがつがつ食う。 みんなと同時に食べ終わる……足りない……「うう、夜までもたん……買い食い決定だな、これ……」「……その、職場って?」 む? 気になるか、香里さん。「元々高校通ってなくてさー、仕事してたんだわ、俺。……有給二〇〇日溜まったから、消化して来いって母が……」「うわ。働きすぎじゃない? それ」「しかし、仕事が一杯ある……休みたい時に休めないのに、一番抜けたくない時に抜けさせられた……」「……休まないと駄目だよ……体、壊しちゃうよ?」 うう、そこらへんのメンテナンスはバッチリです。 だが、みんなには無理してるように見えるんだよな……「うう、兄はこれ以上の仕事してたのに……理不尽だ……」「……ほとんど仕事の虫だな、これ」「うちの親でもこうはないぞ……」 ちきしょう…… 誰も分かってくれない…… 戻って、後半戦。 暇だ。 ……? 祐一君、外見てる?「(何か、面白いものある?)」「(ん? んにゃ、空が青いなって……)」 教師の説明と、黒板にチョークを当てる音だけ響く。「(……あー。なのはと空飛びてー……)」「(はぁ?)」 とと、思考と念話ごっちゃになった。「(……すまん、内緒だ)」「(……この念話に関係してるとか?)」 ……意外に鋭いな、祐一君。「(……信じる信じないは別で頼む……なんなら、俺の作り話でもいいぞ? 授業つまんないし)」「(ああ、大学生と同じレベルだっけか?)」 正確にはさらに上。 修士レベルはある。「(俺、実は魔法使いなんだわ)」「!? ……(えらいもんが出てきたな)」 驚いたようだな。 体傾いて、こっち見てる。「(さらに、職場は異世界)」「(……じゃあ、お前異世界人?)」「(残念ながら出身は地球だ。海鳴って知ってる?)」「(あ、聞いたことあるぞ? 確か……)」 海に近い都市として記憶にあるそうだ。 む?「次、相沢」「え? あ、はい! えと……」「(67ページの右から3行目)」「!? えっと『その時、ぼくは……』」 実は現国の授業。 社会に出て四番目ぐらいに使わない教科。 一番? 古文だろ?「よしそこまで」 朗読が終わって、席に着く祐一。「(サンキュ。助かった。……てか、授業は聞いてるんだな?)」「(一応な? 今みたいなことがあるし)」 よく授業中に使ってました。 なのはとか平気で仮想訓練に没頭してるから、時々フォローもした。 全部の思考使うなよ……「(と、どこまで話したっけ?)」「(職場が異世界だろ? どんな仕事だ?)」 ああ、そうだっけ。「(……警察と自衛隊の相の子。相手は犯罪者……)」「(……魔法少女から遠ざかったな……)」 言うな。 今はさらに遠ざかってるし。「(まあ、その関係で、八歳から仕事してるんだわ。……今までずっと)」「(……十年か? 長いな……)」「(正確にはまだ九年ぐらいだよ)」 それでも、随分長いよな…… もうそんなに経つんだ……「(……空って、魔法で飛べるのか?)」「(おう。空はいいぞー? つまらないことを全部忘れさせてくれる。さっき言ったなのはって奴が、特に空が好きでさ。暇があったらよく部隊の上飛んでるんだわ。……俺の部下にも、空が好きな奴がいて、今度三人で編隊組むかって話もしてたな)」 その話をフェイトに話したら拗ねられた。 うう、ごめんって……「(凄いリアルな話だな……本当に、作り話か?)」「(……そういうことにしておいてくれ。……知らない方が幸せってこともあるさ)」 知ったものには、それ相応の物がのしかかる。 それを、わざわざ他人に押し付ける必要はない。 ……また、それを捨てた者に、無理矢理押し付けようとする必要も。 ……はぁ、空飛びたい。