<アイビス> 最初は、隣のお兄さんの誘いだった。 フィリオ・プレスティ。管理局技術部の研究者。 あたしも、魔導師になれると聞いて、あたしより年下の子が教導隊にいると聞いて。 雑誌に載ってた高町教導官の姿に、憧れた。 二年前、フィリオに連れられて、本部に遊びに行った時に、それを見た。 三人の魔導師を、一本の剣で切り伏せる、白銀の騎士。 その剣筋に、その翼に、その鎧に。 流星のような銀の輝きに、高町教導官以上の憧れを持った。 その騎士の名前は聞けなかったけど、あの輝きは、今でもなお、瞳に焼き付いている。 一年前に航空隊の予備生として入隊した。 入隊直後に起きた、フィリオの死。 ツグミから手渡された、彼の遺産。アームドデバイス『アルテリオン』。 あの騎士と同じ銀の剣。 フィリオの思い出と共に、あたしの宝物になった。 航空隊の試験に落ちて、その直後に出会った軽い男。 特務隊の査察官で、通り掛かったあたしを特務隊内の訓練隊にスカウトしてきた。 突然の誘い。訓練隊には、高町教導官もいるという。 ……最初は乗り気じゃなかった。 けど、あいつは言った。『大丈夫、お前は飛べる』 フィリオと同じことを言う彼を、信じてみたくなった。 そして、彼の誘いに乗った。 あれから、一週間。 「今日はここまでー! 皆、お疲れさまー!」「「「「「お疲れ様でしたぁーー!!」」」」」 あたしは、訓練隊の生徒になった。 訓練隊隊長の高町教官(本人は名前で呼んで欲しいといっているけど、ちょっと無理)に、魔法技術と空戦技術を。 副隊長のキタムラ教官に魔力運用と陸戦技術を学び、予備隊では教えてもらえなかったいろんなことを教わっている。 ……それと、この部隊ならではのデバイス技術があるらしく、それを使った空戦訓練は凄く楽しい。 『リオン』と呼ばれるデバイスで、これを使えば、空戦技能の低い者でも、空を自由に飛べる。 ……ただし、使用期間は入隊から一ヶ月間。 その後の試験で落ちれば、適性なしとみなされ、陸戦重視の訓練になるらしい。 ……絶対に落ちないようにしないと……「アイビス? お疲れ様。……隊には慣れたかな?」「え? あ、はい。なんとか……」 高町教官は、入隊の時から気さくに話し掛けてくれる。 何でも、査察官に面倒見てやって欲しいと頼まれているそうだ。 ……幼馴染だと言っていた。「うん。リオンとの相性もいいし、後は、リオンなしで空を飛べるようになれば、バッチリだね?」「……その、このまま使い続けるってことは、駄目なんですか?」 相性がいいなら、このまま使いたんだけどな。「……えっとね? これ、ほとんどインチキなんだ。……借り物の翼なんだよ。これは」「借り物の……」「そう。だから、よっぽどの事がない限り、これを使い続けることは出来ないんだよ。……それに、借り物の翼で、自分の翼が育たなくなっちゃう危険性もある。……だから、あまり使って欲しくないんだ、私」 教官が、否定的なんだ。このデバイスは。「でもね? はじめから空を飛ぶっていうのは、なかなか出来ない。できる人は極僅か。……出来るようになるまで、空に慣れてもらおうってことで、使ってもらってるんだ。そのためだけの、デバイス」 ……そうなんだ。 完全に訓練用なんだな。 ……航空隊に、こんなものなかった。 これさえあれば、試験に受かってたのかな……「……アイビス? あなたを拾ってくれた人は、あなたの翼に期待してる。……どうか、自分の翼を捨てずに、自分の翼で、空を飛ぼう。……きっと、飛べるから」 ……本当に、飛べるんだろうか? 自分の翼で……あの、白銀の騎士のように。「……頑張ります」「うん! じゃあ、汗流して、食事して、明日の英気を養ってね?」「はい」 立ち去る高町教官の背にも、翼はある。 ……桜色の、きれいな翼。 ……今度、聞いて見ようか。あの騎士を知っているかを。 食堂でツグミと食事。 ツグミの配属もすぐに決まり、ほぼ同時期に入隊できた。 あの男、実は凄い人なんだろうか?「……ツグミ? トワ・ハラオウン査察官って、どんな人なの?」「え? ……えっと、私もよくは知らないんだけど、それでもいい?」 ツグミの話によると。 高町教官の幼馴染で、恋人(部隊内で聞いた)。 他にも部下の執務官や、支援隊隊長、技術部主任、医務室副主任とも関係を持っているとか。 ……プレイボーイなんだね。 本部ではよく中将と話しているのを見かけるらしい。 ……あのレジアス中将に、タメ口で話すのを聞いた者もいるとか。 ……怖い物知らず? そして、管理局の人攫い。 彼の目に留まった人は、高確率で連れて行かれるらしい。 勿論、配属先はここ。訓練隊だったり、事務室だったり、支援隊だったり、食堂だったり。 ……スカウトマンなんだよね? この部隊で聞いた話だと。 曰く、『ある意味大物』『勇者』『ロマンの体現者』『ベルカの変態騎士』『特務隊の鬼畜狐』 ……よくわかんない。 「後、これは噂なんだけど」「うん?」「S級ロストロギア『闇の書』を、一人で攻略したって」 !? あの悪名高き闇の書を!?「正確には、トワ・ハラオウン査察官と、テスタロッサ執務官の母親の二人で攻略して、闇の書の主に手渡したとか……噂なんだけどね?」 ……ほ、本当に凄い人なんだ……「でも、あまりに荒唐無稽だから、誰も信じないの。それに、証拠がないし……」「証拠なら、あるよ~?」 !? び、びっくりした! あたしの隣に座ったのは、支援隊『ロングアーチ』の八神隊長。 ……部隊案内の時に紹介され、私の胸を見てがっかりな目をしてたのはちょっと頭にキタ。 ……女性隊員の胸を揉むのが趣味らしい。 レズ?「証拠って、あるんですか?」「ふふん。これは内緒……いうか、せっちゃんが言いふらさんだけでな? れっきとした証拠はあるんや」 せっちゃん……せつなだからせっちゃんか。 なんか、女の子みたいな呼び名だね。「何を隠そう、その闇の書の主な? ……あたしやねん」「「ええ!?」」 こ、こんなところに!?「あたしのデバイス、夜天の書が元々の姿でな? 改変と改悪を重ねてできたんが闇の書や。……せっちゃん、その事実をしっとってな? フェイトちゃんのお母さんと一緒に修復して、あたしに返してくれたんや……せっちゃんは、あたしと夜天の書の恩人やねん」 ……す、凄い……そんなこと、あるんだ……「で、でも!? 守護騎士はどうしたんですか!? 闇の書に付き従う守護騎士は!?」「ああ、あたしが説得したよ。せっちゃんと一緒にな? せっちゃん凄いねんで? みんなの前で『邪魔する奴ははやての敵とみなし、この場でたたっ斬る』ゆうてな? 当時、八歳の子がやで? 度胸あるわ~」 ……は、八歳…… もしかして、あいつ、高町教官より凄いんじゃ……「まあ、そんなこと誰も信じへんし、せっちゃん自身なんも言わんから、噂話にとどまっとるからな~」「……け、謙虚なんですね……」「いや、せっちゃんは目立つん嫌いやねん。取材とかもよっぽどの事がないと蹴っとるしな?」 ……そんな、凄い人だったんだ…… そんな人に、あたし拾われるなんて、信じられない……「どうして、そんな人が、あたしなんかを……」「? ……せっちゃんがあんたを拾った理由か?」「知ってるんですか!?」 是非、教えてもらいたい。 あの時は勘だって言ってたけど、他に理由があるのなら……「んー。……せっちゃんな。人を見る目があるねん。せっちゃんが連れてきた人は、必ず大成しとる。……あんたも、その器がある言うとった。……せっちゃんの勘は、結構あたるんやで?」 ……か、勘なんだ……やっぱり…… 謎な人だ……「あ! いた! アイビス!」 食事が終わって寮に向かう途中、あいつに呼び止められた。 ……せつな・トワ・ハラオウン査察官。 今日聞いたいろんなことで、さらに謎になった、あたしをスカウトしてくれた人。「お、お疲れ様です、トワ・ハラオウン査察官……」「……いや、おまえね。名前で呼べって言わなかったかい?」 入隊当初、『俺の事は名前で呼べ!』といった彼。 ……どうも、これ、本気だったようだ。「次、苗字で呼んだら、本当に俺の地獄特訓行きだからな? 海のエリートが泣いて帰ったスペサルコースだ。今のお前じゃ、三十分も持たない奴。……魔導師辞めたくないだろ?」 そ、それってただのいじめじゃ…… 後、脅迫だよ、これ。「まあいいや。それより! お前、デバイス持ってるんだよな?」「え? ……アルテリオンの事ですか?」 この子がどうしたんだろう。「……一日だけ、俺に預けてくれないか? てか、技術部のほうでメンテさせてくれ。……頼む!!」「え、ええ!?」 頼むって……あ、頭下げてまで?「そ、その、こいつは、ツグミがメンテしてくれてるから、技術部のほうでやってもらわなくとも……」「く、そうか、やはりツグミさんか……なら、データだけでもコピーさせてくれ! 頼む! このとおり!」「……な、なにか、あるんですか?」 ここまで必死になるなんて、裏がありそうで怖いんだけど……「……いや、それの製作者がプレスティ技術官と聞いてな? ……絶対、なんかあるって確信してる」「な、なんかって……」「例えば、高出力魔導炉のパーツとか」 !? ……こ、こいつ! フィリオの研究を知ってる!?「いや、待て、警戒するな。……研究内容を横取りするつもりじゃなくな? もしあったら、ベガリオンの存在も確信できるって思っただけだから」「ベガリオンも知ってるの!?」「て、本当にあるのかよ!?」 えええええ? な、なんなんだこいつ!? 「なら、やはりハイペリオンもか……まあ、こっちで作らなくて済んだな。くそぉ、フィリオさん探して協力しとけばよかったぁ~! 下手うった!」「え、えと?」「ま、まあ、とにかく、一度技術部に預けてくれ。……ツグミさんにも、話し通しておくから」 ……そこまで言うなら、預けてみてもいいかな……「そう言えば、そのアルテリオン、どんなデバイスなんだ? ストレージ? インテリ?」「あ、アームドです。……銀の剣のアームドデバイス」 あの騎士と、同じ剣。「……展開してもらってもいいかな? 見てみたい」「あ、はい。……アルテリオン、セット」『set up』 三角形の緑の水晶。 それをコアに、銀の刀身をもつ剣が姿を現す。 白銀の騎士が持ってた剣はもう少し大きかったけど、形は同じに作ったそうだ。 わざわざ、その騎士に頼んでくれたらしい。「アロンダイト!? ……い、いや、少し小さいな……び、びっくりした……」「え?」 これのオリジナルを、知ってる?「……まさかと思うけど……アロンダイトのデータ貸し出し依頼があったな……あれか? なあ、これ、いつ作られたか知ってる?」「……詳しくは知らないけど……一年前に……フィリオの、遺品なんだ。これ」「……そっか。やっぱりアロンダイトか」 やっぱり! この人、あの白銀の騎士知ってるんだ!「あ、あの! トワ……せつなさんは、知ってるんですか!? これのオリジナルを持ってる人!?」 「……えと、聞いてどうするんだ?」 ……どうするかなんて、考えてない。 けど、もう一度、もう一度、あの姿を見たい!「会いたいです、あ、あたし、あの騎士に、憧れて、空を飛ぼうって、それで!」「……そっか。……なのは信者じゃないのかー……むーなんか照れるな、面と向かって言われると……」 ? な、何の話だろう?「……パラディン。セットアップ。【アロンダイト】スタンバイ」【get set. stand by arondait set up】 電子音声よりも流暢な声と共に、彼の姿が白に包まれた。 ……右手には、あの銀の剣。 ……体に纏う、白銀の鎧。 あたしの見た、空を舞う騎士……「多分、お前が言ってる騎士は俺のことだと思う。……失望したかな? こんな軽い奴で」「……あ、い、いえ! あ、あたし、二年前、航空隊の模擬戦見て、それで、管理局に……」「む? ……あ、あれかぁ……むー、真相聞くと、がっくりするけど、聞く?」 何か苦笑いを浮かべて、話しづらそうにしているけど…… 是非聞きたい。「聞きたいです!」「……あれな? 俺が入隊蹴った奴等なんだよ。隊にふさわしくないってね? そしたら怒って、模擬戦に突入して、仕方ないから、返り討ち。……ただの喧嘩だったって話」 け、喧嘩で…… でも、酷く真剣で、とても、「……とてもキレイでした」「き、キレイとか……その、うん、ありがと……」 あ、俯いて、頬かいてる…… なんか、可愛い。「も、もういいかな? 結構目立つんだ、こいつ」「あ、はい、ありがとうございました」 デバイスを戻して、元の姿に戻る。 ……スタンバイモードが本型だ。 それを小さくして、髪の中へ。 ……ど、どうやって止めてるんだろう?「じゃあ、俺のアロンダイトの子供に当たるんだな、そいつ。……なら、しっかり使いこなさないとな?」 ぽんぽんと、頭を撫でてくれる。 ……一瞬、彼の顔とフィリオの顔がダブった。 ……性格なんかぜんぜん似てないのに。 同じことを、あたしに言ってくれる。「……はい!」 ようやく見つけた。憧れの騎士。 その人に拾われて、同じ部隊にいる。 あたしは、この人や、高町教官から、いろいろ学べる! ……きっと、空も飛べるはず! フィリオ、あたし、きっと空を飛ぶよ…… ……その。 憧れの騎士だったのに。「……せ、せつなさん……? こ、こっち、女湯ですよ?」「ん? そうだが?」 寮に戻って、入浴の準備。 この隊にある大浴場『天使湯』の女子更衣室。 ……なんでこんな施設あるんだろうと思いながらも、大きいし気持ちいいから毎日使ってるんだけど。 下着を脱いだ直後、せつなさんが入ってきた。堂々と。「そ、そんなあっさり……」「……ち、タスクの勝ちか。まさか教えないと分からないとは……」 絶望した。 憧れの人が実はただの変態だった事実に絶望した。 く、こうなったら、こいつを殺して私も……フィリオ、今行く……? あ、あれ?「あ、あの、な、何でブラ……」「どうせ必要ないんだがな……なかったら擦れて痛いしな……」 それをはずすと……男の胸板じゃなく、なんか、凄く、小さいけど……お、女の胸? ショーツを脱ぐと……な、ない!?「お、女の人!?」「……今の今まで男だと思ってやがったな本気で……一週間も気付かない奴は流石に初めてだな」 だ、だって、口調とか、仕草とか。 そ、それに、高町教官と恋人って……「ほれ、裸でいると風邪引くぞ? さっさと入る」「は、はい……」 ……さ、詐欺だ…… そう言えば、誰も騒がなかったし……あ、皆笑ってる。 ……もしかして、いつもの事?「え!? ちょ、査察官!? ここ女湯……て、女の人ーーーー!?」「ええい! あんたもか! 後、役職で呼ぶな名前で呼べぇ! シャーリー笑うなちくしょう!」 つ、ツグミも知らなかったんだ…… 謎な人だ……ホントに。 改めて、体を洗う。 聞くと、この施設を発案したのが、せつなさんらしく。「いや、俺の出身世界に、温泉ってのがあってな? 地熱やマグマで沸騰した地下水に入浴するって物で、俺やシグナム、後、テッサ……部隊長がお気に入りでな。シグナムと企画書作って部隊長に渡したらノリノリで許可出して、即座に建設開始。今年の夏に出来上がった新築だぞ?」 そ、そうなんだ…… 他の部隊じゃ、考えられない……「え、えっと、査察官「名前で呼べ。次呼ばなかったら揉む」……せつなさんが、闇の書攻略したって本当ですか?」 ……つ、ツグミだと揉むんだ…… ……せつなさん、あたしより小さい……不憫だ……「ああ、一応本当。……つっても、バックアップデータ当てて、基本のところだけ初期化して、無理矢理組み込まれてた俺のデバイス用のグレードアップパッチ外しただけなんだけどな?」「……だけって……す、凄いことですよ? それ……」 やっぱり、そうなんだ?「いや、主がはやてで助かった。もし別の、それこそ力が全てとか考えてる奴とか、マッド科学者が主だったら、こうは行かないだろな~」「……そ、そうですか……そんなあっさり……」 飾らない人なんだな。 ……かっこいいかも。「じゃあ、そのことを何でもっと広報しないんですか?」 そうそう。 広報したほうが、イメージアップになるのに。「……闇の書に迷惑した人、結構いるだろ? それこそ、家族を殺された人だっている。……それなのに、その元主がはやてだって広報してみ? ……一杯の非難が、はやてに行くんだぜ? はやて自身は無関係なのにさ」「!? ……む、無関係って……」「あれ、一回暴走したら、次の主の元に転生して復元される機能付いててさ、その転生先、完全にランダムなんだ。……前の所有者と、次の所有者に、接点まったくないんだ。……一応、技術局のデータベースに載ってるぜ、これ」 ……し、知らなかった……「な? 管理局にいるお前らが知らないんだ。一般の人なんて、さらに知らない。……それで、はやての元デバイスの事を言いふらしたら……」「非難と、下手したら、復讐に来る人も出てくる……」「そうだ。……だからまあ、あまり言いふらさないでな? 噂は噂のままでいい事もあるさね」 ……八神隊長のためだったんだ…… 人の、友人の為に、自分の功績を隠せる人なんだ…… うん、かっこいい。 やっぱり、あたしの憧れの人は、凄い人なんだ。 「さって……しかし、ツグミさんは着やせする人なんだな。……羨ましいなぁ」「ええ? ……せ、せつなさんは、その、アイビスより、ありませんね……」「そうなんだよな~。……部隊内で一番小さいんだと、俺。……泣くぞもう……」 ……凄い人、なんだけど、なぁ…… いいや、湯につかろう。 ……せつなさんもお湯に浸かって……うわ。 凄く幸せそうな顔してる……「……? どした~?」「あ、いえ、その……お風呂、好きなんですか?」「好きだぞ~? 一番癒されるね。……まあ、本当は、地球の露天風呂が一番なんだけどな……」 露天? なんだろ?「ああ、外にある風呂でな? 岩場に囲まれて、昼なら青空の下、夜なら満天の星の下でゆっくりとお湯に浸かれる……大自然を満喫できる風呂オブ風呂だ」「……なんでそれは作らなかったんですか?」 そうそう。あたしも入ってみたい、それ。「……企画書には載ってたんだけどな……その、こっちだとな……」「? こっちだと?」「……空飛んで覗く馬鹿がいるかもって話がでてな?」 !? な、なるほど……「で、でも、空を飛ぶには、航空許可が……」「市街じゃな? ……部隊内だったら、訓練で通るだろ?」「……なるほど……」 うう、飛行魔法を覗き目的で…… なんて人だ。「ただでさえ覗く馬鹿がいるのに、露天風呂ならなおさらだってことで却下になった。俺もそれだけは同感だし」 ……と、いうことは。「……い、いるんですか、この部隊に……覗き魔」「……ああ、いる。……裸覗きたいがために暗視望遠鏡用意する元軍人とか、鏡面屈折魔法なんて高度技術使って覗きを決行した交代部隊員とか」 む、無駄な努力する人もいるんだなぁ……「その人は、クビにしたんですか?」「いや、それがな。無駄にスキル高いからクビに出来ん……代わりに、拳と共にお説教&減給二ヵ月&隊内清掃で勘弁してやった」 きびしっ! て、こぶし!?「……も、もしかして、入寮手続きした日のあの磔にあってた二人が……?」「ああ、あれ見たのか? ……一人はそうだが、あの時のは別件だ。……人の睡眠時間削りやがったから、お仕置き」 ……こ、怖いところだ……特務隊…… お風呂から上がって、再び脱衣所。「……その、女性用制服は着ないんですか?」 だから男に間違えられるんだと……ひぃ!? 凄い陰鬱な目でツグミを見てる!?「……昔はな、ちっこくってまだ女の子だって認識されてたんだ……十三歳あたりから急激に背が伸びて、さらにこの胸だろ? ……一度中将の前で『女装が趣味なのかね?』って聞かれた事あってな……あの髭達磨、二十分ぐらい大笑いしやがって……次の日から、女性用はくずかご行きだ」 ……ふ、不憫だ…… なんだか涙が止まらないよ……「ふふふ、胸ペッタンの大女は普通に男にしか見えん……口調も男そのままだしな……別にいいんだ、どうせ、男と付き合う気ねーし。女の子大好きだし」 ……い、今、不穏な台詞言ったような…… そ、そう言えば、高町教官の恋人だって噂で…… ほ、本物!?「じゃあ、その、せつなさんは……れむぅ!?」 ツグミの口を塞ぐ手。 ……あ、医務官の月村副主任だ。「……タカクラ陸曹? その台詞をせつなちゃんの前で言っちゃ駄目だよ? ……言うなら百合だよ?」 や、それ同じ…… て、同性愛は認めるんだ……「すずか? そんなに俺の力説は聞きたくないのか?」「わざわざ被害を増やすことないよ? ……また、妹増やすつもり?」「こいつら俺より年上だっつーの」 へ? ……あ、ああ、そうだよね。 高町教官が私のいっこ下なんだから、せつなさんもそうなんだよね……「……でも、何で妹なんですか?」「……せつなちゃんの妹には、二種類あるの。一つは、せつなちゃんが気に入って、妹分として接しているタイプ。今現在で六、七人ぐらいいるよ」 ……せつなさんかっこいいからなぁ…… こんなお兄さん居たらいいかも……て、お姉さんか。「もう一つは、せつなちゃんの百合談義にやられて、自分を彼女の妹だと誤認識しちゃうタイプ。別名、なんちゃってスール」 百合談義……やられるって……「前者はまだいいとしても、後者はそのまま同性愛に目覚めちゃうから、私たちは被害者って呼んでるの……だから、ね?」「「は、はい?」」「百合の事を横文字、英語で呼ばないように。……わかった?」「「はい!!」」 い、いま!? さ、殺気が!? この人医務官だよね!? 何で教官より怖いオーラを感じるの!?「おーい、すずかー? 黒いの漏れてるから。新人にそのオーラはまだ早い」「……むぅ。大体、せつなちゃんがいけないんだよ? 次々に妹増やしていくんだから……」「前者はともかく、後者は俺のせいじゃねー」 あ、あはは……特務隊、恐ろしいところだ……「だ、誰よ特務隊が厳しくて真面目な職場だって言った人……」「た、楽しい職場……だね?」 ……カルチャーショックだ…… こんな凄い部隊があるなんて…… いろんな意味で。 せつなさんと別れて、寮へ。 ……今日は、いろいろ分かったことが一杯だ。 高町教官の想い、指導。 せつなさんの功績。 憧れの騎士がせつなさんだったこと。 せつなさんが女の人だって事。 ……知らなくてもいいことも教えてもらったけど。「? アイビス? なんか、嬉しそうね? ……いいことあったの?」「ん? ……あたし、この隊に来て、よかったなって」 きっと、あの人に出会えたのが、一番嬉しかったこと。 軽くて、謎で、優しくて、かっこいい。 ……せつなさんに出会えたこと。 あたし、あの人の背中を見て、いろいろ覚えて。 一緒に、空を飛びたい。 ……あの、星空の下を。「てめこらタスクーーーー!! フェイトの生写真売ってるってどういうことだーーーー!! フェイトは俺の嫁だぞ、ネガごとボッシュゥーーーーーート!」「姐さんすんませ……ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」 ……は、早まったかなぁ……*ども、作者です。 EXはおまけシナリオとしてお楽しみください。 アイビスらしさが出てれば幸い……『こんなんアイビスじゃねぇ!』とか思われたらごめんなさい。 さて、感想返しを二、三件ほど。 まずはsenさん。前半の『性別切り替え時の感覚』についてですが、『一瞬の違和感の後、平常通りに戻る』といった感覚。 変身プロセスもあったもんじゃありません。BJ展開時(変身シーンなし)と同じようなもの? 後半の考察に関してですが、非常に残念ですが、負けを認めざるを得ません。 ……諦め早いと思われるかもしれませんが、その考察に沿って設定すると、今まで公開したストーリーラインが崩れる可能性があり、前回の電波で言ったとおり、あれ以上の設定は考えていませんでした。 ですので、後半の考察にお答えできません。 ……作者の頭じゃこれが限界です、申し訳ありません。 続いて、ジョーカー&WSさん。お久しぶりです。 設定の使用に関してですが、本スレ分、ちら裏『多次元世界』『多次元世界・旅行記』に関しては使っていただいてもかまいません。 ただ、文章の丸写しはご勘弁。盗作扱いになっちゃいますから。 あと、ちら裏『多次元世界・異聞録』の設定は使用不可でお願いします。 商業作品ではなく、Web小説ではありますが、オリジナル作品なので。 後、残念なお知らせ。バイトの達人は出ません(予定)。 予定なので、ひょっとしたらどこかに出るかもしれませんが、あまり期待はしないようにお願いします。 以上、感想返しですた。 そう言えば、前々回L27のお話ですが、あれは予定通りです。 ちょっと鬱な話でしたが、分岐後の鬱ルート(ライン・カオス)は『こんなもんじゃない』と、言っておきます。 で、次回。ちょっとした伏線張りの後、ちょっと地雷を踏み抜いたシナリオを挟みます。 一応、伏線は出てるんですけどね、そのシナリオ用の。 前書きの5番に関連することですので、どうか、お付き合いのほどを。 作者でした。