……ベルカ自治領の奥に。 燃え始めたプラントがあった……というか、もう岩にしか見えないよねあれ。 上手く偽装したな~。くりぬいたのかな? とにかく接近。……と、誰かいる?「……ふ、あ……」 プラントから這い出てきたと思われる、女の子。 実験体か、戦闘機人か? 濃い紫色の髪、小さな体。……どこかで見たような?「……誰だ?」 後ろを取られた!? 慌てて振り向くと……あれれ?「ゼスト……さん?」「な!? せつな! ……何故ここに?」 それはこちらの台詞です。 ……ああ、いや、まて。 と、言うことは、チンク姉さんが頼んだのは、この方なのか。 確か、お世話したのがチンク姉さんだったはず。 ……なら、この人がいるのはおかしくない。「それより、この子は?」「……あのプラントから連れ出した。……後は、潰した」 ちょっと遅かったか。 でも、潰れたんなら、それでいい。 女の子に近づく。……衰弱してる。ちゃんと栄養も与えなかったの? ……それとも、廃棄寸前の子だったか?「……ここにいると見つかる。奥へ行こう」「……そうですね」 少女を担ぎ、ゼストさんに付いていく。 岩陰に潜み、少女を座らせる。 ……えっと、レーヴァテインから緊急救護パックを取り出す。 ドクター製の戦闘機人用だからこの子に合うかどうか…… ……く、プラグどこ? ……まさか、外部入力装置つけてないの!? 衣服を脱がし、背中を……あった! 私たちより下の方、首と肩の間に差し込み端子。 私のプラグと接続……ん?「……せつなでは、ないのか?」「あ、はい。カグヤと言います。……姉さんの遺伝子から作られた、戦闘機人です」「……そうか。お前が。……どうしてここに?」 て、まさか、姉さんと接触済みなんだろうか? 「えっと、チンク姉さんから聞いて、来て見ました。……姉さんとはあいましたか?」「……ああ。……しかし、君はスカリエッティから造反したと聞いているが?」「まあ、敵対はしていますけど、友好的に接してます。……いろいろあるんですよ」「いろいろ……か」 細かく説明するのも、長いし……と、バイタルはなんとか。 それよりも栄養の方が足りてないね? と、固形……じゃ食べれないか。 ゼリーパックを取り出し、ふたを開けて女の子の口に。 ……ちょっとは意識あるから、飲んでくれてる。「……手馴れているな」「訓練しましたし、よく、こういう子、保護したりしますから」 ドクターの依頼で人造魔導師プラント破壊した時に、一人か、二人は救出してしまう。 ほとんど管理局任せになってしまうが、救出直後の応急処置は私がやっている。 ……慣れもする。「うん、全部飲んだね? ……しかし」 これがスクール製の戦闘機人……確かに雑だ。 この子は後方支援用だけど、それのみに特化されて、戦闘技術系モーションがまったく入ってない。 そして、内部装甲もかなり薄い。 狙われたらどうするつもりだったんだろう? 使い捨て? 技術試験機? 先行量産試作機? これで完成品とか抜かしたら、ドクター怒るよ、これ。 ……あ、気がついた。「あ……ひぃ!?」 て、ちょ、何この子? ゼストさんに怯えて……私にも? あ、コラ、プラグはずれるから逃げない!「ほら、落ち着いて? ……痛い事、しないから」「や、やだ……触らないで……」 む、この反応は……玩具にでもされたかな? ……記憶野に潜入。……むぅ。過度な実験が続いてるね。 人間嫌いかな? 「ほら、これ見て?」 私の紹介データを網膜ディスプレイに流す。「……カグヤ・トワ? 私と同じ……戦闘機人……ブランド?」 ブランド……なにかなそれ? 「ドクターセトメが言っていた……ドクタースカリエッティの作ったブランドに負けないように教育すると……」 ……なるほど。 ナンバーズの皆はブランド品なわけだ。 「じゃあ、君の紹介データ教えてくれる?」「……はい」 転送受理……て、おいおい。 この子、ラトちゃんか。 道理で見たことあるような容姿だと。 ……ラトゥーニ11。クラスラトゥーニ。情報戦仕様機人。インヒューレントスキル『コマンド・データ』。 ……うあ、この子、ウーノ姉さんの劣化バージョンだ。 フローレンスセクタリーとほぼ同じだけど、ステルス面でちょっとランク落ちしてる。 後……思考が情報についていけていない? 薬も使ってるから、脳の方に負担が出て、情報整理ができてないんだ。 ……技術試験機だったみたいだね。「……わかった。ラトって呼ぶね?」「……はい、カグヤさん」 ふふ、よかった、懐いてくれた。 けど、「……大丈夫なのか?」「……」 うーん。私以外の人間は駄目か。 「まあ、大丈夫です。消耗は激しいですけど、ゆっくり休ませれば」「そうか。……俺はそろそろ行かねばならない」 あ、そうだね。 こんな所にいてもしょうがないか。「この子は私がつれて帰っても?」「……頼めるか?」 まあ、放っておけないし。「ここからなら、教会も近いですから」「……教会に知り合いがいるのか?」「お友達です。……それじゃ、行きますね?」 ラトを抱え、教会の位置をロック。「……ああ、また会おう」「ええ。またです」 どうせ、ドクターのラボで会えるだろう。 ……この五年間ぜんぜん会えなかったけどね~? 他所のラボにでもいたのかな? とにかく、ラトを休ませないと。 教会到着、秘密の通路を通って友人の部屋へ。「……カグヤですか?」 部屋主が声をかけてくれる。 ……シスターシャッハ。姉さんと私の友人だ。「うん……その、一人、消耗してる子がいるんだけど、休ませてあげてくれる?」「……どうぞ。お入りなさい」 じゃあ、お邪魔しまーす。 部屋に入り、早速ベッドにラトを寝かせる。 既にスリープモードに入ってるらしく、寝息も安定している。「……どこのプラントから?」「戦闘機人のプラント。……私達以外にも、量産されてるみたい」「!? き、聞いていません! せつなは何も!」「……シャッハ、聞いて? 多分、せつな姉さんにも把握できない事態になってる。……私も、今日始めて聞いた」 ……シャッハは、私たちのグレーな部分を知った上で、協力してくれている。 カリム以上の理解者だ。 私達の事は全部教えてある……前世の事や、この世界の本編まで。 流石に未来までは教えてないけど。「……計画の変更もあり、と、言うことですか?」「私たちの計画はそのまま続ける。……けど、対策とらないと」 後三年後のドクターの計画。 それに乗じた計画を、私と姉さんで考えている。 ……現、管理局上層部の一斉洗浄。 当然、評議会の実態すら、公表し、溜まった膿を追い出す計画だ。 それまでの影の実行者が私、協力者はシャッハや、オーリスさん、ドゥーエ姉さん。 ……表の部隊が姉さんなら、裏の部隊だ、私は。 けど、もし、管理局上層部が、スクールやバルシェムを使って、強化を考えていたら…… そして、それを逆手に取られたら? ……むぅ、どう動くか、もうわからなくなってきた。「とにかく、今はまだ静観……けど、取れる対策はとるから」「わかりました。……それより、この子は?」 ……私が連れて歩くには、少し衰弱しすぎだね……「しばらく、預かっておいてくれないかな? この子、衰弱が激しいのと、後、人間嫌いの傾向がある。……過度な実験を施されたみたい」「……わかりました。……すぐに行きますか?」「あ、ちょっと待って……」 ラトに伝言しておかないと。「ラト、起きて?」「……カグヤ……さん?」 スリープモードから復帰。 ……まだ、顔色はよくないね。「うん。……私、すぐに行かなくちゃいけないの。それで、ラトのお世話を、こっちのシスターにお願いしたから」「え!? ……や、やだ……行かないで……傍にいて……カグヤさん……」 お、おおう……い、いてあげたいのは山々なのですが。 すぐに姉さんに接触しないと……「えっとね? シスターシャッハは、優しい人だから。……絶対貴女を傷つけたりしない。私が保証する」「……えっと、ラト、ですね? カグヤの友人の、シャッハといいます。……貴女の身柄は私が引き受けました。しばらく窮屈させるかもしれないけど、酷いことはしませんよ?」 ……まだ戸惑ってるか。 けど、シャッハは優しいから、この子も懐いてくれるだろう。 姉さんは、こういう子得意なんだけどなぁ……「私も、用事が済んだらすぐに戻ってくるから。……ね?」「……うん」 ……聞き分けのいい子だね。「じゃあ、もうちょっと寝てようね? ……お休み、ラト」「……おやすみ」 ……目を閉じる。ふふ、寝顔可愛い。「……じゃあシャッハ。この子お願い。……ごめん。迷惑ばかりかけて」「友人の頼みですから。……気をつけて、カグヤ」 え? ……わお。 シャッハがほっぺにキスしてくれた。「……? えっと、違いましたか? 親愛の情というのでしょう?」 ……あはは。そう言えば、姉さんが教えたんだった。「うん。あってる。ありがと、シャッハ」 返礼にほっぺにキスを返す。 さて、次は……姉さんに会わないとね。 <せつな> ……葬式終わって、二日目。 喪に服すってことで、今日は休み貰った。 ……フェイトたちも、今は自宅にいる。 ……いなくなって、初めてわかる大切さ……か。 俺も酒飲んで忘れたいけどね。そうもいかないか。 仕事の処理の方はテッサたちに任せてるし、もう少し不貞寝しとこうかな……『(姉さん? 今どこ?)』 ? カグヤ?「(今、自宅。……どうした?)」『(緊急事態発生。……今からそっち行くから、転送ポート開けて?)』 緊急? 何があったんだ? ともかく、自宅の転送ポートに電源を入れる。 ……数分で転送終了。 カグヤが出て来た……あれ? 手に持ってるのって……チンクさんのAMF発生コート?「姉さん、ちょっと。部屋の方に」「お、おう……何があったんだ?」 これ以上のトラブルはごめんだぞ? ただでさえ、プレシアさんの事があってブルー入ってんのに。 俺の部屋に入って、鍵を閉める。 ……俺とカグヤの会話は、時々やばいネタもある。 母さんにも、まだ話せないことだってある。 「……まず、一つだけ文句言わせて」「……わ、わかった」 文句ときましたか。 俺、なんかやったか?「ちゃんと仕事して! 裏のほう、とんでもないことになったよ!」「とんでもないって……いや、何のことだよ?」 何があったと。「戦闘機人の量産化、始まっちゃったよ!?」「……ナニィィィィィィィ!!」 んなあほな!? 早すぎんぞなんじゃそれ! ありえねえ!!「ちょ、おま、マジか!? なんで!?」「私が知るわけないじゃない! とにかく、わかってるだけで二件。アラドのところと、クォヴレーのところ。わかるでしょ?」 アラド!? てことはスクール? て、ちょい待ち、クォヴレー!?「それって、バルシェムシリーズの事言ってんのか!? ……おいおい。冗談だろ?」「冗談じゃないよ。チンク姉さんが接触してる……レーヴァテイン?」 空間ディスプレイが展開される。 ……うわ、マジでバルシェム……同じ顔が……三体。 しかも、持ってるの拳銃……デバイスじゃなくて質量兵器かよ。「……スクールの方は?」「今日、ゼストさんが一件潰したけど、各地に結構あるよ。……見て?」 ……映し出された地図データに点在する、マーカー……全部で十四件。 多いな。……ち、こんなにあるなんて。 「それで、そこから技術試験機の一体確保した。名前はラトゥーニ11」「ラトか。……その、性能は?」 これでドクターと同じ性能だったら、マジでまずいぞ?「私たちに比べると、大分雑。……まだまだ完成までは至ってないね。……けど、もし私が知らなかったら……」 計画まで、あと三年……時間的には充分だな。「その子は今どこに?」「今、シャッハに預けてある。……後、バルシェムのプラントまでは、まだわからない」 ……所在のわからないバルシェムよりも、先にスクール潰した方が楽か…… しかし、バルシェム……ん? 待てよ……なのはの時といい、フェイトの時といい……あ!?「そ、っか、誘拐事件か! バルシェムっつーかバルマー系の常套手段じゃん! 何で気付かねえんだ俺!?」 そうだそうだ。 ゲーム内でもよくやってたじゃん、テンザンとか! あれは死体かっぱらっただけだけど! うわ、そうだよな? スパロボ系いるんなら、その可能性もあったんだよな? しまったーーー!!「じゃあ、その誘拐事件を追っていけば……」「バルシェム系列に辿り着けるはず……スクール系に辿り着く可能性もあるけど」「……うん、そうだね。……そっちの捜査は任せるよ。私は、スクールプラントを叩く方向で」 だな。カグヤにはそっちを動いてもらおう。 一応データは貰っておいて、動ける時にこっちでも動くとしよう。 ……フェイトの参入が来年だから、今年中に動くのは厳しいが、誘拐事件の事はこっちでも動くか…… しかし、本当にとんでもないことになったな。「やっぱ、動きすぎたのかな、俺」「おそらくね? ……バタフライだと思うよ? もう、こっちも全員稼動した」 なにぃ!?「全員って、……後発組もか!?」「うん。……計画が、早まる可能性も視野に入れたほうがいい。……一応、ドクターは何も言ってないけど」 ち、最悪だな。 斜め上もいいとこだ。 展開速すぎる……「後、これ。チンク姉さんのAMF発生コート。……預かってきた」「……俺らのほうで解析を?」 ……そういや、結構俺ら手に入れてるはずだけど、対抗策はまだできてないんだよな。管理局。 俺らは独自に対抗策作ってるけど。「うん。最新版だって。……その、技術局に回された方、横流しされてるみたいだから……対策研究されてないみたい」「うあ、マジか……」 なんだそりゃーー!! これも、計画を見越してか? それとも、他に思惑が? ……管理局上層部、一体何を考えてるんだ? ……ま、まさか……「質量兵器運用の復活……? アインへリアルの件もあるし、それしか考えられん……」 わざわざ、保有の魔導師潰してか!? 無茶苦茶だ! ありえねぇ!「……AMFで魔導師の優位性を消して、一度、管理局を崩壊させる。その後、アインへリアル等の質量兵器禁止を解除し、魔法と兵器を両立運用して、管理局の地位を強固にする……? いや、しかし……裏切られたら、元も子もない作戦だぞ、これ。そのための戦闘機人か? 開発者が反旗を翻したらどうする……いや、作戦立案者が開発者だった場合は? ……ドクターはこんなこと提案したりせず、黙ってる人だから、後は……」 一人しかいないじゃん。「「それも私だ」」「……しか、ないよなぁ?」「ないね」 ユーゼス……あいつかよ…… くそーーー。完全に後手に回った! 「ちなみに、バルシェムの開発元はゴッツォ研究所だって」「先に言え!! それしかねえじゃん!! 確定したーーー!?」 タイムダイバーいないのに、そいつがいるなんて反則だーーー!! くそ、仕方ない!「とにかく、こいつはこっちで預かる。対策用意しないと……こんなところで、プレシアさんいなくなるなんて……て、考えちゃ駄目だな、これは」 プレシアさんの弟子、アリシアや、アリサに任せるしかない。 AMF対抗策が万全になれば、この後の展開が有利になる。 少なくとも、俺の部隊が全滅なんて憂き目に会わなくて済むし、危険度も下がる。 ……だが、他の部隊に、技術提供できない……下手に流して、手入れ喰らったらアウトだ。 一度、技術部のアウト作品、封印処理かまさないと…… 俺が言えた義理じゃないけど、あいつらやばいもん作りすぎじゃ!「私が流せる情報はこれだけ。……ちゃんと、仕事してよ? フラグばかり立ててないで」「うぐ……す、すまん。最近調子こいた……」 ううう。イルイの強化とか次期フォワードの強化とか、エリオの教育とか、そんなのに力入れすぎた。 間違ってはいないはずなんだけど、力入れる方向ずれたな…… とほほ~。執務官いないと仕事し辛いんじゃ査察官。 フェイト~早く来て~…… なのはより先にフェイト入れるべきだったーーー!! 三年後、この二人だけの会議をしておいて、よかったと本当に思う。 でないとあんな事態俺一人じゃ収拾付かんわ畜生!