<なのは> 翌日。せつなちゃんは学校に来ませんでした。 今日はちゃんと連絡があり、『保護責任者との面会』とかで、しばらく学校にこれないと連絡したみたい。 もちろん、フェイトちゃんに確認を取ったところ、フェイトちゃんのお母さんと一緒に、はやてちゃんのデバイスを直してるって言ってました。 直ったら、はやてちゃんも魔法使いになるのかな? とにかく、その話をアリサちゃんとすずかちゃんにして、怒りを抑えてもらった。 せつなちゃんが話せるようになってから、みんな彼女の行動に一喜一憂だ。私も含めて。 その日から三日後。私とユーノ君でジュエルシードを追っていたときの事。「なのは! バインド!」「うん、レイジングハート!」『Restrict Lock』 蜘蛛に取り憑いたジュエルシードを捕縛して、攻撃魔法で、弱らせる。 いつもやってたことなんだけど。「バインドが!」 バインドを引きちぎって、蜘蛛の足が私に向かって振り下ろされる。「なのは!」 ……プロテクションが間に合わない。 ああ、これはまずいな……そう思ったとき。「ラケーテン、ハンマァァァァァ!!」 何かがはじける音で、目を見開いた。 そこには、真っ赤なゴシックロリータのドレスを着て、煙が吹き出るハンマーを携えた、「……大丈夫かよ? ぼうっとしてんじゃねえぞ?」 ……とっても口の悪い女の子が、空中に立ってたの。 ……せつなちゃんを思い出したのは秘密だよ? <せつな>「ナイス! ヴィータ! 後は任せろ!」「おう! 一発かましてやれ!」 騎士弓フェイルノートのカートリッジをロード。 スライド音と共に、薬莢が飛び出す。「行くぜ。【旋爪一射】!」【spiral canon】 魔力の矢が螺旋状に回りながら飛び、対象の蜘蛛を抉った。 同時に魔力が霧散し、ジュエルシードの暴走を止めた。「……なるほど、シルビアの業を受け継いだか」 後ろから声をかけてきたのはシグナム。 ……なのはは無事みたいだな。「まあ、ほとんど丸覚えなんで、上手く使えてるかどうか」「いや、的確だ。自信を持っていい」 ……褒められてしまった。 いや、ちょっと照れる。「とにかく、封印はなのはがしてくれたみたいだから、下に降りよう。紹介する」「わかった」 なのはとヴィータが待つ地上に降りる。 「せつなちゃん!」「よう。危なかったな」「……う、うん。この子のお陰で助かったよ」 この子って……プログラムだから年齢はないにしても、その子お前より年上だからな~?「じゃあ、紹介する。俺の友人の高町なのは。ミッドチルダ式の魔導師だ」「あ、はじめまして、高町なのはです」 ぺこりと頭を下げるなのは。 そこに、「なのは、大丈夫?」 がさごそと近寄ってくるユーノ。「守護獣か?」「いや。一応彼も魔導師。ユーノ・スクライア」「はじめまして」 獣の姿で器用にお辞儀するユーノ。 ……いかんいかん、プリチーだと思ってしまった。不覚。「で、こっちははやての守護騎士、ヴィータとシグナム。ベルカ式の騎士だ」「ヴォルケンリッターの烈火の将、シグナムだ」「同じく、紅の鉄騎、ヴィータ。よろしくな、高町……な、な、なんとか?」「なのはだよ! な・の・は!」「な、なにょ、なにょは?」「のだ、の」「だぁぁぁ! 呼びづれぇ!」「逆ギレ!?」 それはやるのね君ら。「とにかく、二人は今日からジュエルシード探索に加わってもらう。住居は俺の部屋使ってもらうから、もし、手強いのがいたら、二人に声掛けてみてくれ」「え……うん! よろしくおねがいします!」「ああ、力になろう。高町」「へっ! あんなの、あたし一人で十分だ!」「……まあ、仲良くな」 で、もう一つの用事を済ませよう。「それで、今日までに何個集まった?」「えっと、私が二個、フェイトちゃんが三個だよ」「そっか。これで予定分は上回ったな」 俺の台詞に、ユーノが反応した。「……せつな、ジュエルシードを使って何するつもりなの?」「……気になるか? 大丈夫、悪いことには使うつもりはない」 と、ぼかしてみるけど、ユーノの疑念の顔は晴れないようだ。 ……フェレットの表情じゃよくわからんが、多分そんな感じ。「あー、とな。具体的に言うと、時空の穴を開けて、昔と今をつなげて、生者と死者を入れ替えるんだ」「……じ、時間逆行をしようというの!?」「じかんぎゃっこう?」 なのははわかってないみたいだな。 首を傾げる姿がプリティ。「ようは、タイムトラベルで過去に行って、死ぬ直前の人を連れてきて、死んだ後の遺体を置いてくるってことだ」「なるほど、それならわかりやすいって、えええええええええ!?」 叫ぶな。「そ、そんなことができるの!?」「使って成功した例はある。あまりの魔力使用量だから、過去一回しか使われてないが、ジュエルシードがあれば大丈夫だ」 次元震を単体で起こす事ができる物だし。 そういった次元系の魔法との相性もいいだろう。 「じゃあ、なのは、ジュエルシードを」「う、うん。レイジングハート」『put out』 レイジングハートのコアからジュエルシードが二個、浮かび上がる。 で、今、手に入れたもので、三個。「じゃあ、俺たちは家に戻るよ。なのは、気をつけて帰れよ?」「うん。……せつなちゃん」 呼び止められる。 ……なのはは、不安そうな顔だ。「大丈夫……? 何か、無理……してない?」 ……なのはに気付かれるほど無理してるように見えるのか、俺は。「……あはは、実はしてる」「ちゃんと休まないと駄目だよ? ……せつなちゃんが、倒れたら、いやだよ……」 心配してくれてるのか。 ……ありがたいことだ。「ありがとう、なのは。けど、私、早く、フェイトや、フェイトのお母さん……プレシアさんって言うんだけど、二人が幸せになってもらえるように、頑張りたいんだ。それに、はやても。……連休前には、片つけるから、連休になったら、思いっきり遊ぼう?」 なのはの手を握る。 これは、誰にも譲れない、私の願い。 「……すずかちゃんがね? 連休、みんなで温泉行こうって、言ってたの。……その時に、フェイトちゃんの家族、はやてちゃんの守護騎士さん達、後、せつなちゃん。……みんなで、行けるよね?」 ……連休までに、ホントに片つけなくてはいけなくなったか。 「うん。みんなで行こう。すずかに、伝言しておいて? フェイトの家族がフェイト入れて四人。はやての家族がはやて入れて六人。……後、私。全部で十一人分、部屋の用意お願いって。……私、いっぱい頑張るから」 みんなで、温泉だ。 楽しくなるのは、目に見えてる。「……うん。伝えるよ。……頑張ってね! 私も、頑張る!」「うん。任せて。……私は、頑張るよ」 なのはの身体をきゅっと抱きしめて、その体温を確かめる。 しばらく堪能して、魔力の翼で、空に飛ぶ。 「……じゃあ、また。終わったら、連絡するよ」「うん。待ってるから! またね!」 そのままエンディングに持って行きそうな会話をして、シグナムたちを連れ、自分の家に。 ……後、二人に温泉について聞かれた。 シグナムが心持ち楽しみにしていたのは、内緒だ。 ……まず、自宅に帰還。二人に部屋の説明。 食事は……しばらく、出前を取ってもらうことに。 うう、すまん。流石に食事を作りに庭園往復するのは辛いんだよ…… 一通り説明し終わったところで、部屋にチャイムの音が鳴る。 フェイトかな?「はい?」 玄関開けたら……「あ、せつなちゃん。お久しぶり。元気そうね?」 ……翡翠の髪のどっかの提督さんがいましたよ? あれ? あれ? あれ? ……私、この人、知ってる? ……あ、会ったことある。 お父さんの、上司の人。 グレアムおじさんの代理で、お父さんの死を教えてくれた人。 私の保護監督者。 名前は……「り、リンディ……さん?」「……お医者様から聞いてたけど、本当に喋れる様になったのね? 嬉しいわ。ねえ、今からあが」「あ、ちょっとごめんなさい」 相手の言葉を遮って、玄関を閉めた。当然鍵とチェーンをかける。 ドアの向こうで抗議の声が聞こえるが、知ったことか! 何で今この人が来るんだよ! まずいだろ、確か!?「二人とも! すぐにベランダから出て、左の部屋に! 急げ!」 ダイニングで寛いでた二人に退避を促す。 すぐにフェイトに念話。「(フェイト! 今から二人そっちによこす! しばらく匿ってやってくれ!)」「どうした!」『(え? せつな? どうしたの? いきなり……)』「(時空管理局だ! 俺の保護責任者、時空管理局の提督さんだったんだよ!)管理局の提督が来てる。流石に、今お前たちがばれるとやばい。なんとか誤魔化すから、隣に避難してくれ。プレシアさんの娘がいるし、今説明した」「わかった。ヴィータ」 「おう。……大丈夫だよな?」「任せろ(今そっちに行く。ベランダからだ。誘導よろしく)」『(わかったよ。気をつけて)』 へ、平行思念会話、疲れるんだよもん。 二人がベランダ出るのを確認してから、玄関にとって返す。 深呼吸して、鍵とチェーンロックをはずし、玄関を開ける。「……せつなちゃん?」 さっきと比べて、額に青筋の立てたご婦人がいましたよ?「ごめんなさい! ……さっきまで友達来てて、凄く散らかってたから、急いで片付けてて……」「……まあ、いいわ。もう、上がっていいかしら?」 よし、不審に思われてない……いや、油断するな。 相手はあのリンディさんだ。 確か聞いたことあるぞ。 未来のエース三人を引き抜いたのは、リンディさんの手腕によるものだって。 油断して、穴を突かれたら……やられる!「どうぞ。……急いで片付けたから、ちょっと、汚いかもしれませんけど……」「あ、気にしないで? ……あなたに友達ができたなんて、私嬉しいわ」 ……うう、母親気取りしないでください。「座っててください。お茶入れます」 フェイトたち、大丈夫だよな……? <フェイト>「ふたりとも、こっちです」 できるだけ外に声が漏れないように、ベランダの二人に声をかける。 二人は強化魔法も使わず、ベランダを塞ぐ衝立をかわしてこちらの部屋に入ってきた。「すまない。……フェイト・テスタロッサだな?」「はい。……あなたは?」「ああ、烈火の将シグナム。主はやての守護騎士だ。こっちは仲間のヴィータ」「紅の鉄騎、ヴィータだ。……本当は、後でせつなが紹介する予定だったんだけど……」「ええ、聞きました……管理局ですね?」 時空管理局。 次元世界を飛び回り、次元犯罪者やロストロギアを取り締まる、一種の警察機構。 ……後、私のように、管理外世界で魔法を行使する違法な魔導師も。「すまん。私たちは事情により、管理局に見つかるわけにはいかない。しばらく匿ってほしい」「それは、私も同じですから。……あとは、せつなですね」「せつな、管理局の魔導師だったのか?」 ……それはない。「せつなの保護責任者が、管理局の人らしいです」「……そうか。……しかし、何故あいつは今日その保護者がここに来ることを知らなかったんだ?」 ……それは、多分。「多分、せつな、保護者の存在も、知らなかったんだと思います。……せつな、ちょっと前まで、心を閉ざして、周りを見ず、ただ、生きてるだけの子だったそうですから」 なのはに聞いた。 私と出会う前は、何を話しても、何も返してくれず、笑いかけても、顔色を変えず、まるで、人形のように生きていたと。 今せつなは、笑ってくれる。話してくれる。 ……でもどこか、無理をしてるみたいで……「でも、それなら逆におかしいぜ? 何であいつ、そのいるかどうか知らない保護者を、管理局だって断定できたんだ?」「……確かに、それはおかしいな」 あ、それなら説明ができる。「せつなのお父さん、魔導師だったそうです。せつなも検査したって言ってましたから、それで見当をつけたんだと」「……なるほど、それなら納得はいく」 ……せつな、大丈夫かな……?