新暦72年、管理局陸士訓練校。 エリオの願いで、見学に来る事になった。 ……本編では、スバルとティアナがここで頑張り始める時期だな。 まあ、この世界でも、それは一緒みたいだけど。 ……後、イルイも訓練校に入校した。 今年の三月に行われた、ゼンガーさんとの一騎打ちで、一撃を当てるという快挙を成し遂げたイルイ。 当然、親分には訓練用アームドデバイスを使ってもらった。でねーと勝ち目ねーもん。 ……その結果で、親分もとうとう折れ、イルイの入校許可が下りた。 ……と、いいますか、イルイ? その戦術、完全に俺のモーションデータ……アロンダイト2ndフォルム使ってる時の俺のじゃん。 いつの間に……使ってるデバイスも双剣状だし。 ま、まあ、ガンエデンユニットは使えんよな。あれ完全にアウトだし。カナメさん止めたし。ティーダさんに怒られたし。 ……ネタで作って貰ったが、アリサもアリシアも調子に乗りすぎたようだ。さーせん。「……で、この子が俺の弟のエリオです。エリオ? 校長に自己紹介」「はい! エリオ・ハラオウン、七歳です!」 俺たちの目の前にいるのは、訓練校の校長で俺の恩師、ファーン・コラード校長。 ぱっと見優しいおばあちゃんで、実際に優しい人……だが。 俺、模擬戦でこの人に勝てたこと一度も無い。 ……上手すぎるんだよな、魔力運用技術。 俺の戦術の穴という穴にピンポイントで攻めてきて、体制を崩してあれよあれよと防御してると、いつの間にか一撃喰らって負けてる。 ……ユニゾン状態でやったことないから、今度お願いしてみるか……「元気な子ね? せつなちゃんとは、また違ったタイプの騎士になりそうね?」「俺のほうが特殊ですからね。エリオには、正統派の騎士を目指してもらいたいです」 普通、俺みたいにデバイス何個も持って運用する騎士は珍しい。 てかいません。よくて形状変換のみじゃ。 ……俺は結構強く見られがちだが、相手の苦手なポジションを確保できるからであって、相手の得意分野で勝とうと思えば大分苦労する。 言って見れば、某剣製の人と同じだ。 だから、全能力を使ってシグナムには勝てるけど、アロンダイトだけだと、ほぼ負けてる。 ……最初、アロンダイトをレヴァンティン対応とか抜かしたけど、まったくの勘違いだった。 とほほ。「今日は今年入校した子の初訓練日ですから、ゆっくり見て行ってね?」 お。そうなると、スバルたちもいるかも。 よーし、冷やかしにいくべ。 <スバル> ……とうとう、ここから私の夢が始まる。 今日から初訓練。最初は、魔力運用の講義で、それが終わって今からパートナーとの模擬戦だ。 私のパートナーは同じ部屋のティアナ・ランスターさん。 濃いオレンジ色のツインテールが印象的。子供の頃のフェイトさんみたい。 私と同じ持ち込みデバイスで、お姉さんともいえる人から入校祝いに貰ったものだそうだ。 明るい人だが、少々きつい。「じゃあ、始めるわよ? ……さっきも言ったけど、私中距離や長距離専門だから、手加減はしてよね?」「わかってるよ。でも、容赦はしないからね?」「はいはい。……行くわよ!」 て、中距離なのに突っ込んできた!? なんで!? 「『シュートバレット!』」 て、えええええ!! 近づいてきてるティアナさんの後ろから魔力弾が飛んでくる!? ええい!「と、ええ!?」 魔力弾を回避して、よく見ると…… ティアナさんが二人!?「ほら、ちゃんとかかってきなさい!」 もう一人も魔力弾を撃って来た! え!? 分身の術!? せつなお姉ちゃんが言ってた、ジャパニーズニンジャ!? く、とにかく、反撃しないと!「はぁ!」 突っ込んできた方のティアナさんの魔力弾を掻い潜り、魔力打撃! ……え? 消えた?「そっち、偽者だから」 う、後ろ取られちゃった…… なら!「こうだよ!」 ギンねえ直伝、後ろ回し蹴り! って、すり抜けた!?「『ヴァリアブルバレット』!」 へ? アウ! ……横から飛んできた魔力弾頭を頭に受けて、すっころんでしまった。 ま、負けた~……「……そっちも偽者……残念だったわね?」「く、くやしぃ~~~!!」 分身の術なんてずるい! 「ずるくないわよ? これも、魔法よ? 幻術魔法。知らない?」「……うう、使える人知ってる……」 せつなお姉ちゃんがよくフェイントで使ってた。 こんな使い方もあるなんて……「そうなの? 私の周りでも、二人くらいしか知らないけど……結構いるのね」「そうですか? 私も知ってますけど。……一人はランスターさんのお兄さんですけどね?」 うわぁ!! 誰!? 金髪で、ショートの女の子。両側に髪留めを一つずつ……私たちより、年下だ。 て、「え? お兄ちゃん知ってるの!?」「ティアナさんお兄さんいるの? あと、あなた誰?」「はい。私の保護者と同じ部隊の人ですよ? ティーダ・ランスター執務官。……後、私はイルイ・ガンエデン・ゾンボルト。よろしくお願いしますね?」 ……わ、私たちの質問、全部答えちゃった。 礼儀正しくて、可愛い子だな~。「あ、そうなんだ? 私はティアナ・ランスター。こっちはスバル・ナカジマ」「よろしく、イルイちゃん!」「……えと、ひょっとして、スバルさん覚えてませんね……?」 ? えと、何を?「……まさか、こいつにあったことあるの?」「二年前に一度だけですけど。……シエルさんの娘さんですよね?」 ええ!! お母さんの事も知ってるの!? ……ああ!! そうだそうだ! 思い出した!「あの、お侍さんの傍にいた子!」「侍ってあんたね……」「……た、確かに、侍のような人ですけど……」 いや、世間って狭いな~。 「それより、スバルさん。今度は私と試合ってもらえませんか? 私だけあぶれてしまって……」「あ、うん! いいよ~!」 持ってるデバイスから見るに、近距離戦闘だね。 二刀流……お姉ちゃんから聞いた、なのはさんのお兄さんみたい。「じゃあ、私見てるわね? ……スバル? イルイに負けたら笑うわね?」「か、簡単に負けないよ!」「ふふ。じゃあ、お願いしますね?」 いっくぞ~!!「……あんた、弱すぎ」「え、えと、ごめんなさい……」「ううううううう、イルイちゃんつおい……」 五回やって五回とも負けちゃった…… 近距離かと思ったら、広域斬撃が来て、避けられず、被弾したところを詰められて一本。 防御で広域斬撃を防いだら、今度は連撃に耐え切れずバリア破られて一本。 後の三回もあの手この手で、隙を突かれて……うう、私のシューティングアーツがぁ……「えと、シエルさんからも手ほどきを受けたので、その、錬度の甘いスバルさんの隙は突きやすかったです……ご、ごめんなさい」「謝ることないわよ、イルイ。……良かったら、私と組まない?」「ちょ、捨てないでティアナさーーーーん!!」 あうううう……いきなりコンビ解消のピンチーーーー!「あ! せつなお姉ちゃん! スバルさんいたよーーー!!」 え? この声、エリオ君? それに、せつなお姉ちゃんって!? 来てるの!?「お、いたいた……て、お前らもう知り合いか?」「せつなお姉ちゃん! エリオ君!」「せつなさん!?」「こんにちは、せつなさん、エリオ」「「て、せつなさん(お姉ちゃん)知ってるの!?」」「……二人とも鈍すぎです」 ええええ!? 二人とも、お姉ちゃん知ってるなんて! せつなお姉ちゃんはニコニコ笑いで近づいてきて、「ふふふふ。頑張っているようだな妹ども。お姉さんはうれしいよ」 と、私の頭を撫でてくれた。 あ、あう。「……皆さん、せつなさんの妹分なんですよ? ティアナさんもスバルさんも私も」「……いや、世間は狭いわね~」 本当にね? 「お前らこれから飯だろ? 今日はお姉さんが奢ってやろう。食堂行くぞ~?」「「は~い!!」」「ちょ、せつなさん? こいつの馬鹿食い知らないんですか!?」 ば、馬鹿って、酷いよ~。 あれくらい普通だよ?「……ティア? 俺はね? こいつと、こいつの姉さんと、こいつの母親の食事を奢って母さんに借金した女だ。知らないはずないじゃないか」「……ご、ご愁傷様です……」 て、あの時泣いてたのって、そうだったんだ…… うう、わ、悪いことしたかも。「それに、エリオも結構食うしな? 今日は金おろして来てるし、ここの飯安いから、じょぶじょぶ。お姉さんに任せなさい」 と、胸を叩くせつなお姉ちゃん。 ……相変わらず、かっこいいなぁ~。「……じゃあ。ご馳走になります、せつなさん」「すみません。ご馳走になりますね?」「おう。……スバルも、いつもどおり食っていいからな?」「うん! お姉ちゃん大好き!」 えへへ。嬉しいな。みんなでお昼だ。 ……せつなお姉ちゃんは私が小さい頃からのお友達だ。 お母さんが連れてきて、最初、私はお姉ちゃんが怖かった。 その目に圧倒されて、ギンねえの後ろで隠れてた。 ……けど、いろいろ話しかけてくれて、怖いと言っても怒らず、目が怖いといえば、目を瞑ってくれた。 私の顔が見えなくても、私が怖がらずにすむならこれでいいと言ってくれて、面白くて優しい人だとわかった。 ……私の秘密を知っても、怖がったりせずに、接してくれた。 一緒に海にも行った。お姉ちゃんのお友達にも、遊んでもらった。その中には、幼いなのはさんの姿もあった。 お姉ちゃんが管理局に入って、お母さんと同じ部隊に配属になってからは、よく家に遊びに来てくれた。 ギンねえも、お姉ちゃんが大好きで、お母さんの次に大好きな人になった。 ……五年前、お母さんの部隊が全滅したと、お父さんから聞かされた。 お母さんも死んじゃったって聞いて、ギンねえにすがり付いて泣いていた。 その時に、お姉ちゃんが会いに来てくれて、泣いてる私たちに言った。『お母さんに会いに行くぞ~!』 その言葉について行き、お姉ちゃんの家から飛び出して、あるアパートに辿り着き、その玄関を開けると。『あら、せつなちゃん、どうしたの?』 お母さんが、いつもの調子で出てきた。 ……お母さんが生きてた! ギンねえと一緒に飛びついたのは、しっかり覚えてる。 後、お母さんを助けてくれたと言う、せつなお姉ちゃんそっくりのカグヤお姉ちゃんにはびっくりした。 ……それから、年に三、四回、お母さんに会いに連れて行ってくれた。 二年前に、せつなお姉ちゃんの部隊にいるお母さんを見てびっくりした。 長かった髪をばっさり切って、メガネをかけて、一瞬誰かと思った。 ……お母さん自身、ミッドでは死んでいることになっているので、別人としてここにいるそうだ。 シエル・エレイシア。お母さんの新しい名前。 でも、名前が変わっても、髪形が変わっても、私たちの好きなお母さんだった。 時々お姉ちゃんに連れて行ってもらい、シューティングアーツを教えてもらった。 ギンねえが管理局に入ってからは、私も魔法の勉強をし始めて、それの手伝いをお姉ちゃんがしてくれた。 ……去年。お父さんのところに、ギンねえと遊びに行く途中、空港で火災があった。 ギンねえとはぐれ、炎の中、さまよい歩いているところに、倒れてきた石柱。 それを押さえ、助けてくれたのが、昔会った、せつなお姉ちゃんの親友のなのはさん。 なのはさんも私の事を覚えててくれたそうで、『大丈夫。安全なところまで一直線だから』 と、空港の壁に大穴を空ける砲撃を撃ち放った。 ……その、強さ、そして、私を連れ出したときに感じた、優しさ。 せつなお姉ちゃんの親友のなのはさんに、私は憧れた。 ……その日にはお姉ちゃんに会えなかったけど、二日後に、なのはさんとフェイトさんを連れて、会いにきてくれた。『……怪我、ないな? ……ほれ? なのはにお礼!』『あ、え? その……なのはさん! ありがとう!』『にゃはは……無事でよかったよ、スバルちゃん』 ……空港で見た強さのかけらもなく、照れて頭を撫でてくれたなのはさん。 後に知ったなのはさんの実力。 『教導隊の不屈のエース』『空のエースオブエース』 でも、本当のなのはさんは、とても優しくて、可愛い女性だと、お姉ちゃんは教えてくれた。 ……そして、私は管理局を目指し、今、ここに居る。 せつなお姉ちゃんと、なのはさんを目指して。 <せつな>「……ふふふふふ。そうか、スバル。イルイに五連敗か……ティアにも負けてるとは……これは、シエルさんに報告だな?」「うぁぁあぁん! それはやめてーーーー!!」 てか、イルイに負けるのは仕方ないにしても、ティアにすら負けるとは…… あ、そうか。「ティア。『シャドウミラー』使ったな? あれ、普通に反則……」「う。……だ、大丈夫ですよ。ちゃんと使いこなせましたし」 おいおい。確かに入校祝いで送ったけどさ…… ミッド式の幻術はまだまだプログラムが雑で、あまり使う人もいないので発展しない魔法だ。 俺の知り合いでも、ティーダさんくらいしか使ってない。 俺もいろいろと試し、使用リソース削ったり、プログラムを詰めて使いやすいようにと試行錯誤してみたが、なかなか上手く行かない。 お手上げかな~と、思ってたところに現れたのが、うちのクラウン。 古代ベルカの幻術魔法をミッド式にコンバート。見事にはまり、リソースも食わず、精巧な幻を生む術式プログラムが完成した。 その時に作られたのが、幻術用拳銃型デバイス『シャドウミラー』。 しばらく試験用に使っていたが、ティアの入校を聞き、新しく作ってそれを送った。 つまり、ティアが持ってるのは改修型二号機である。「まあ、幻術使いならではの戦い方だからな。スバル。相手が悪かったな?」「うううう。じゃあ、イルイちゃんの強さも、デバイスの?」「んにゃ。こいつは俺の部隊の連中が総出で鍛えた。……そりゃ、強くもなるよなぁ……うちの最強ユニットに、一撃当てるとか……」 基本的な魔力運用と戦術理論をキタムラ教官から。 戦略理論と策謀術をテッサから。 体術、射撃術、戦闘理論はマオねえ達ウルズチームや響介さん達アサルトチームが。 格闘術はシエルさん、ザフィーラが。 剣術はシグナム、アリサ、後、俺が。 魔法理論と術式指導はレーツェルさんが。ついでに料理も仕込んだそうだが。 ……気が付くと、ゼンガーさんが目をむくほどの魔法剣士になってしまった。 ……やべ、やりすぎた。 なお、イルイのデバイスはATではなく、普通のアームドデバイスで『アグニ&ルドラ』。 カートリッジシステム付きの双剣型。一応リミッターつけてある。 訓練校出るまでは、リミッターつけてやってもらうことに……だって、強すぎるんだもん。 うん、簡易試験で魔導師ランクAA+って何だよそれ。 強化しすぎじゃ。「つーわけで、シエルさんに報告は勘弁してやろう。……これからも精進するように」「ははーー!!」「いや、何よその返事?」「えっと、時代劇で将軍やお殿様からお言葉を頂いた時に返す返事ですよ……ゼンガーおじ様がよく見てました」「……せつなお姉ちゃん?」「ああ、俺が教えた」「……せつなさん、もう少し真面目なイメージがあったのに……」 すまん、ティア。それこそ幻覚だと思うぞ? 俺いっつもこんなんだし。 と、いかんいかん。「で、だ、スバル」「? なに?」「ほい。入校祝い。……完成が遅れたんで入校式に間に合わずすまんな?」「え!? あ、ありがとう! ……これ、デバイス?」 渡したのはひし形のコアクリスタル。 アリサに頼んで作ってもらった、リボルバーナックルの後継機……もどき。 シエルさんがリボルバーナックルの右手をスバルに、左手をギンガに渡したので、その対の腕を作ってもらったのだ。 「リボルバーナックルだしてみ?」「あ、うん」 スバルが展開したリボルバーナックルのコアユニットに、渡したそれを一度返してもらい、指定の場所に組み込む。 スタンバイモードに戻し、スバルに手渡す。「ほれ、展開してみな? びっくりするから」「……うん。リボルバーナックル!」『set up』 展開されるリボルバーナックル。 右腕はいつもどおりタービンつきのガントレット。そして、左腕には。「……こ、これ、左腕の……盾?」 こぶし大の丸盾が手首の外側に付いたガントレット。大きさはリボルバーナックルとほぼ同じ。タービンは付いてない。 カートリッジシステムもつけていないが、その丸盾は伊達じゃない。「リボルバーナックル追加ユニット『バスターナックル』。右腕だけじゃシューティングアーツの真価は発揮できないだろ? リボルバーと同じ魔法が使えるだけでなく、防御魔法の強化もできるように作ってもらった。後、中距離射程の魔法『リープリッパー』『リングスラッシャー』も組んである。さらに、その丸盾の周囲に魔力を円環加速運動させて砲撃魔法用の魔力の練り上げを加速させる効果もある。……なのはのバスター。使いたいだろ?」「!? で、ディバインバスターを……使えますか!? 私!?」 スバルが本編中に使っていた、ディバインバスターはなのはのとは別物だ。 近代ベルカ式もやはり砲撃系は苦手。 それを独自解析し、使えるようにしたのはスバルの努力の賜物だ。 ……こいつは、それの後押し。 両手で練り上げる魔力を、左手だけで行えるようにし、魔力弾の錬成を加速&強化できるようにした。 その運用方法は、バスターナックルに組み込んである。 ……実質、こいつだけでディバインバスター撃てるし。「ああ。術式はお前が考えろ。……それを使えば、近距離だけでなく、中距離制圧も可能になるから、戦術幅も広がるだろ? 使い方はバスターにマニュアル入れてあるから、後でよく読んで置くように。……改めて、三人とも。入校おめでとう」「「ありがとうございます!!」」「あ、ありがとう、ござぁいますぅぅぅぅ……」 て、スバル泣き始めちゃったよ!? 相変わらず感受性多感なやつだな。「ほれ、泣いてるなよ。……俺やなのは、それに、クイントさんを目指すんだろ? なら、こんなところで泣いてる暇ないぞ?」 なにせ。「……そうですね。お昼終わってしまいます」「ちょ、マジ!? ほらスバル! 午後の訓練遅れるわよ!」「う……うん! せつなお姉ちゃん! 本当にありがとう!」「おう、頑張れな?」「三人とも、頑張ってください!」「「「はい!!」」」 ばたばたと走り去る新入生三人組。 ……うん。あいつらが、俺の部隊に来るのが楽しみだ。「……ところでお姉ちゃん?」「ん? どしたエリオ?」「……浮気はいけないと思うよ?」 ちょ、おま。 まてや。「お前の入校式にはプレゼントやらん」「わぁぁあ! ご、ごめんお姉ちゃん! 黙ってるから!」「て、そういう意味でなく。……妹に手を出すほど飢えてない」 俺を何だと思ってやがる、この弟。 ……ちなみに、こいつも最近強化中。 来年、本局の短期訓練校に入校予定……ううむ、フォワード陣の早期強化が進んでいくなぁ…… 訓練校の見学終わって、帰り道。 「……そっか、エリオもやっぱり局に入りたいか」「うん。……お姉ちゃんたちに助けてもらったみたいに、僕も、苦しんでる子を助けてあげたいから」 ……そっか。 俺たちの意志が、こうやって助けた子等に引き継がれていく。 これは、ある種の呪い。 前の世代の成し遂げた成果を引き継ぐこと、成し遂げられなかった無念も引き継ぐこと。 助けた子に、その子が助けた子に、延々と続く、想いの呪縛。 ……けど、それを悪しと呼ぶか、善しと呼ぶかはその子の判断に任せられる。 ……やるせないな。 子供にも、その呪縛を押し付けなくてはならないとは。 リンディ母さんや、ゲンヤさんもこんな気持ちだったのだろうか。 ……来月にはなのはが訓練隊の隊長に就任してくれる。 この訓練隊が成功し、力ある魔導師がたくさん生まれれば、子供にその呪縛を押し付けなくても済む。 ……その為にも、俺ももっと頑張らないと。「と、すいません」「いや、気にするな」 ……思考にはまってたな。誰かにぶつかってしまった。 周りが見……え、ええ? 今のは……「ぜ、ゼストさん!?」「おまえは……せつな……か。……大きくなったな」 び、びっくりした。 何でこんな街中にふらついてんのこの人。 しかも、「……」 ルールー連れて。「……えっと、その……生きてたんですね。隊長」 知ってたけど。「……死にぞこなっただけだ。……隣は?」「あ、俺の弟のエリオです。……エリオ、こっち、昔世話になったゼストさん」「はじめまして。エリオ・ハラオウンです!」「……ゼスト・グランガイツだ。こっちはルーテシア。……メガーヌの娘だ」 うん、知ってる。 ぼろのローブを目深に被った女の子。 ……髪の色とか、目元とか、メガーヌさんそっくりだ。「……少し、付き合いませんか? 穴場、ありますから」「……わかった」 ゼストさんたちを連れて、裏取引用のバーへ。 いくつも準備している中でも、もっとも人気のない場所だ。 ほとんど誰も寄り付かない。 ……だからこそ、こういう、グレーな人との話し合いに使っている。 「マスター。奥の部屋、使うぞ」 入って一言目に部屋を指定。 これは裏の意味『貸切』も含まれている。 一つ頷いて、貸切の札を掛けに行くマスター。 実際に奥の部屋でなく、カウンターに腰掛ける俺とゼストさん。 後ろのボックス席にエリオとルーテシアを座らせる。「エリオ、好きなもの頼んでいいぞ。……ルーテシアもな?」「あ、うん」「……」 やっぱり無口だな、ルールー。「ルーテシア、お礼を言いなさい」「……ありがとう、お兄さん」 ざくぅ。……い、椅子からこけかけた。 ま、まあねぇ? これ男性職員服だから、仕方ねぇけど……「あ、あの、ルーテシア? せつなお姉ちゃん、女の人だから……」「……ごめんなさい。お姉さん」「あ、うん、いいよいいよ……見えないってわかってるさ~」「……すまんな。俺だけだと、教育が足りなくてな」 あなたも大概無口ですからね。 父親役は大変だ。「……マスター。俺エル。ロックで」「……適当に頼む。アルコールの薄いやつを」 頷くマスター。「お前はもう酒が飲めたか」「ああ、今のは符号。誰にも喋るなってね? ……酒は飲みませんよ」 いつ出動要請掛かるかわからんし。 飲酒飛行は罰金の上、飛行免許停止じゃ。「……お前も、裏の世界を知るようになったか……」 マスターから薄めに割ったウィスキー(予想)を受け取りながら、悲しげにつぶやくゼストさん。 ……あはは。「知り合った当初から、俺真っ黒ですよ? ……魔導師に、騎士になったころから、ずっと危ない橋渡ってます」 管理局法に触れる事も何度もやった。 人だって、何人も殺した。 ……管理局に入ってからも、直接触れることはなくとも、そのすれすれを歩いている。 全部話せば、フェイトとはやてに泣いて説教喰らうこと確定だ。「……だが、あの時、俺と最後に別れたときよりも、ずっと立派な顔をするようになったな。……見違えたぞ」「五年もあれば、いろいろあります。……俺、新しい部隊作ったんですよ? そこの遊撃隊の隊長です。……まあ、俺一人ですけど」 フェイト以外の人材が見つからん。誰かおらんかな~?「……そうか。数年後が楽しみだ……その数年後に、俺がいるかどうかはわからんがな」 ……だな。 けど、最後くらいは看取ってやりたいな。「……レジアス中将とは、仲良くやっているか? あいつ、お前の事を『近年まれに見る気骨のある少女だ』と気に入っていたが」 どうせそこ、少年とか言ってたんだろ。あの髭達磨。 「今の部隊の後見人の一人になってくれましたよ。……よく、世話になってます」「ほう? ……そうか、あいつがな……」「俺の部隊、海や教会とも繋がってますから、中将の参加はありがたいですよ」「……そう……か。……力になってやれなくて、すまん」 それはこっちの台詞だ。「俺こそ、すみません。……あの時、助けに行けなかった……」 カグヤの件があったにしろ、俺もその場にいたら……いや、これは考えまい。 もしもなんてありえない。「何、気にするな。……ただ、クイントの事は……残念だったな……」 ……ああ、そうだよな。 ドクターも知らん振りしてるみたいだし。 ゼスト隊長、話しても言いふらすような人じゃないから、言っても大丈夫だろ。「そっちこそ気にしないでください。……クイントさん、生きてますし」「……なんだと?」 おっと、目の色変わった? 「生きてますよ。……今、名前を変えて俺の部隊に。……内緒ですよ?」 元気に暴れまわっておりますあの人妻。 ……シエル対策費が部隊帳簿に載るって何事よ? グリフィス君、乙。「……そうか……あいつめ、黙っていたな……?」 あいつは多分ドクター。 意地が悪いからな。「まあ、娘の反乱に遭いましたからね? 言いたくもないでしょう」「……その娘ごと匿ったという訳か」「まあ、俺の妹でもありますから。……俺の遺伝子で作られた、戦闘機人なんです、あいつ」「……そうか……お前は、それを憎んだりはしないのか?」 えっと、憎めって、誰を?「それは製作者をですか? それとも、その妹をですか?」「……両方だ」「ああ、なら、どっちも憎みませんよ。……あいつがいなかったら、クイントさん死んでましたし、そのあいつを作ったのはドクタースカリエッティです……憎めませんよ。両方とも」「……強いな、お前は」 ぽふっと、頭に手を置くゼスト隊長。 あの頃みたいに、そのまま乱雑に頭を撫でる。 ……むぅ。ちょっち恥ずかしい。「……ゼスト、嬉しそう」「お姉ちゃんもだ。……初恋の人なのかな?」「……むぅ」 ふふふ……エリオ、後で泣かす。後、なんで剥れているのかルールー。「……あ、そうだ隊長。二、三年前、郊外で融合騎捨てませんでした?」 これは聞いておかないと。 何でそうしたのか聞いておきたい。「いや、捨てたつもりはないがな……ある研究施設から連れ出したんだが、衰弱していてな。水を汲んでくる間、木陰に隠していたんだが……金髪の少女が来て、連れて行ってしまった。……知り合いか?」 ……あ、アリサ……お前それ、拾ったんじゃなくて誘拐まがい…… あ、ああ、まあ、拾ったも同然か? それとも、ばれる位置に置いたこのおっさんが悪いのか? ……聞くんじゃなかった。「え、ええ。俺の友人です。……今、そいつのデバイスとして元気にしてますよ」「そうか。良きロードに出会えたのだな……」 出会うって言うのかな~? まあ、相性は本当にいいけどあのダブルツンデレ。 ……グングニル完成して、本気で紅い悪魔になりやがった。 ユニゾン状態の髪の色は虚無のツンデレだが。 カグヤのスペカ解析して、弾幕魔法なんて作んなよ……協力したけど。 どこまで俺を魅了すれば気が済むんだあのツンデレ!「……なにも、聞かないのか?」「聞いて欲しいんですか?」 それは、今まで何をしていたのか。 今は何をしているのか。 ……そして、これからどうするのか。「……俺は、ほとんど犯罪者だ。そして、お前は管理局員だ」「……そうですね」「……捕まえようとは……更正させようとは、しないのか?」「ふふ、隊長? あんたほどの騎士が、情けないことを言う」 少し、失望したよ。 ……いやまあ、知ってたけど。「捕まえて欲しかったら、それなりの事してください。ぶん殴って捕まえてやります。……更生したいんなら、言ってください。いい調教師知ってますよ? 隊長専門の、拳と共に泣いて説教してくれる人妻が」「……それはクイントの事を言っているのか? ……いや、確かにやりそうだが」 やりそうじゃなく、あの人はやる。絶対。「けど、それを言い出さないってことは、やるべきことがあるんでしょ? ……なら、それをやったらどうです? ……止めてくれと言わない限り、俺は止めませんよ」 基本的に、俺は酷い人間だから。 身内以外に冷たい人間だから。「……酷い女になったな、お前は」「まあ、そこは男に置き換えてもいいですよ? ……中将も言ってただろうし」「い、いや、言っていたが」 やっぱりか。 後ではたいとこう、あの達磨。「……それが、そのやるべきことが、あんたの怨恨じゃなく、誰かの笑顔の為なら、俺は止めませんよ」「……すまないな。見逃してもらって」 ……不器用な人だ。 助けが必要なら、言ってくれれば手伝うのに。 本当に、不器用な人だ。「じゃあ、そろそろさよならです。……あんまり遅くエリオ連れてると、母さんに怒られますから」「……良き、姉なのだな」「はは、駄目な姉ちゃんですよ。……あんな子供に、俺らの業を背負わせようとしてる。……あんたや、母さんが俺に背負わせたように」「……そうだな。俺も、お前にとって、駄目な兄になるんだろうな」 ……ははは。そうだろうなぁ。 いやいや、こんな高町兄レベルの兄貴は、一人で充分ですはい。 「エリオ、そろそろ行こうか?」「あ、うん! じゃあ、ルーテシア。また会おうね?」「……うん。エリオ。またね?」 ……さすが我が弟。あの無垢な笑顔で早速一人の少女を虜にするとか…… やるね。エリオ。「じゃあ、隊長。また、どこかで」 マスターに勘定払って入り口へ。当然、ゼストさんたちの分も支払う。 お釣りはチップ。後口止め料。「ルーテシア、またね?」「うん。また」「また会おう。せつな。……ありがとう」 ルーテシアのほころんだ笑顔と、ゼストさんの安堵の声が、やけに印象に残った。 次会うときは、街中ですれ違うか、または、戦場か…… まあ、まだわかんねえよな?「……また、会えるよね? ルーテシアや、ゼストさんに」「……ああ、会えるよ、きっと」 その時は、笑って会いたいものだ。 無理、だけど、な……