<なのは>「ああ、いたな二人とも」 あ。ゼンガーさん。 ……銀髪で彫りの深い顔立ちのゼンガーさん。 教導隊からせつなちゃんがスカウトした、前線部隊の総責任者です。 ……お兄ちゃんと同じ、侍のオーラがにじみ出ています。渋い。「どうしたんですか? おじ様」「ああ、二人とも、部隊長室に来て欲しい。昨日の件で、二人に感謝状がでている。……是非受け取ってくれ」「あ、はい。わかりました」「今向かいます」「案内しよう。……イルイ。そろそろ時間だ」「はい。……なのはさん、フェイトさん。私そろそろ訓練の時間なので、ここで失礼しますね?」 え? 訓練?「あの、ゼンガーさん。訓練って……」「まあ、基本的な魔力運用を、キタムラ教官に習っているんだ。……本当は、管理局に入ってもらいたくないんだが……」 ……ゼンガーさんは、イルイちゃんの入局に否定的なんだ。「おじ様、まだ言ってる。私、おじ様の力になりたい。……そのために訓練して、おじ様のお仕事を手伝いたい。そう何度も言ってるのに」「……分かっている。しっかり学んで来い。半端者を入れるほど、局は甘くないからな?」「はい、おじ様。ではお二人とも、失礼しますね?」「あ、うん、頑張ってね?」「応援してる。頑張って」 ……そっか。この部隊の最初の生徒は、イルイちゃんなんだ。 ……いいなぁ。こういうの。「すまんな。俺は古い人間のせいか、子供が現場に出るのは否定的でな……と、高町には、以前話したな」「あ、はい。……私が現場に出るのも、いい顔しませんでしたね?」「あれ? えっと、なのは、お知り合い?」 あ、フェイトちゃん知らないんだっけ。「む、失礼した。オリハルコン前線部隊統括官の、ゼンガー・ゾンボルト一等空尉だ。高町とは教導隊で一緒だった。せつなの懇意で、こちらに身を寄せている」「はい、本局航行隊『ハガネ』の法務担当、フェイト・テスタロッサ執務官です。今日は見学に来させてもらってます」 ……ふ、二人とも律儀というか、真面目というか…… 気が合いそうだね。「ハガネというと、ミナセ提督か。提督には、一時期お世話になったことがある。厳しい方だが、教わることは多いだろう」「はい、とても親切に教えてもらっています。……ミナセ提督ともお知り合いなんですね」「ああ、数年前に、武装隊でお世話になった。……そうか、せつなが口利きを頼んだ執務官は君か。俺経由で、せつなはミナセ提督にお前の身柄を引き取ってくれと頼んだはずだ。聞いていないか?」「一尉を通されたんですか? それは聞きませんでした。ありがとうございます」「何、構わん。どうせあいつのことだ。お前が聞くまで話さなかったんだろう? 暗躍が好きな奴だからな。俺やレーツェルをスカウトした時も、高町の驚く顔が見ものだと漏らしていた」「そ、そうなんですか!? せ、せつなちゃんってば……」 もしかして、そのためだけに二人を引き抜いたんだろうか? さ、流石にそれはないか……ないよね? 「ところで、ゾンボルト一尉?」「どうした?」「さっきから思ってたんですが、皆せつなの事を名前で呼んでますよね? ゾンボルト一尉も」 あ、そういえば。 ……私も、ゼンガーさんからは苗字で呼ばれているのに。「ああ。この部隊が最初に稼動し始めた去年の簡易式の事だ。なんだかんだ言っても、この部隊の立役者はあいつだからな。部隊員の前に立たせて、スピーチをやらせた」 あはは。照れながら話すせつなちゃんの顔が浮かぶなぁ。 みんなの前に出るの、苦手だから。「最初は普通に話して、最後まで普通。あいつらしくないなとレーツェルと話していたら、締めの挨拶の時に」『あ、後お前ら。俺の事は名前で呼ぶように。苗字で呼んだら問答無用で訓練場行きだから』「と言い出してな」 ……せ、せつなちゃんらしいなぁ…… 「訳を聞いたら、その場で演説初めてな」『一つは俺はハラオウンの名で動いてるわけじゃない。せつなという一人の人間のわがままでこの部隊を設立した。その事だけは理解して欲しい。もう一つはほとんどの隊員は俺を知ってると思う。もし、知らないと言う奴は前に出ろ。俺がじきじきに自己紹介してやる……いないな? なら、この部隊は一つの家族だ。このメンバーが、最初の家族だ。この後も家族は増えるし、逆に減ったりもする。だからこそ、その采配の一手を担っている、俺はお前らの姉であり妹だ。お母さんとか娘だったりするかもしれん。そして、お前らの友人だ。そこまでの絆があるなら名前で呼べ。苗字なんて堅苦しいことはなし。少なくとも、この部隊内では、そうしろ。返事は、はいかイエスしか認めんからな! 以上!』「と声高々に宣言してな。あいつに反論する奴は一人としていなかったな」 ……せつなちゃん、そんなに…… そうだよね。せつなちゃんが本当に欲しかったものは、支えあえる、家族だったんだ。 そして、その家族を守る為の第一陣として、前に出て…… 大切な人たちを守る為の剣。 せつなちゃんの誓い。 それが、その宣言に含まれてることを私は知ってる。 ……直に、聞きたかったな。その演説。 ゼンガーさんの話を聞きながら、部隊長室へ。 隊舎の最上階。周りを見渡せる一室だ。「部隊長。高町なのは教導官、フェイト・テスタロッサ執務官をお連れしました」「ご苦労様です、ゼンガーさん。……お二人とも、お久しぶりですね?」「テッサさん! お久しぶりです!」「元気そうで何よりです」 今日は懐かしい人ばかりにあう。 ……身内ばかりだから、当たり前かな?「昨日は協力ありがとうございます。お陰で早期鎮火を実現できました。お二人の協力に、敬意を表して、感謝状という形を取らせてもらいます。……せつなさんだったら、現金よこせーとか言いそうですけど」 そ、そんなこと言うかなぁ?「言わないと思いますけど……」「え? 以前、地球で動いてもらった時は素直に報酬ねだって来ましたよ?」 せ、せつなちゃん……意外とお金好き?「あー部隊長。話がずれてますが?」「あ、そうですね。コホン」 隣の初老の人に咎められ、一つ咳払いをして、テッサさんが私たちに向き直る。「本局戦技教導隊所属、高町なのは二等空尉」「はい!」「本局航行隊『ハガネ』所属、フェイト・テスタロッサ執務官」「はい」「お二人の尽力を心より感謝いたします。特務部隊【オリハルコン】部隊長、テレサ・テスタロッサ三等陸佐……どうぞ、受け取ってください」 テッサさんから、感謝状が手渡される。 ……うん。また、人を救えた……せつなちゃんの力になれた…… これは、その証の一つだ。 証は、いろんな形を取るけど、やっぱり、一番の証は、せつなちゃんの笑顔だと、私は思う。 それが、私の願いだから。 子供の頃からの、夢だから。「さて、難しいお話はここまで。お二人の武勇伝を聞かせてくださいな。カリーニンさん? 後お願いしますね?」 笑顔で近づいてくるテッサさん。 あ、休憩まだだったのかな?「そうは問屋がおろさない。昨日の報告書、各部署上がったぞ」 と、部隊長室に入り込んできたのは、書類を抱えたせつなちゃん。 ……えっと、顔が見えないほどあるって……「さらに、昨日の活動費、使用機材、消費機材、補充機材の費用請求書。ティーダ執務官からの現場報告書。検証報告書。救助者の見舞い状のリスト……俺の方で捌ける物は捌いた。後はテッサのサイン待ち。これ、全部今日の分だから、死んでもやれ。カリーニンさん、逃げないように見張りお願いします。……まったく、お前の好みで紙媒体に書き起こす俺の身になりやがれ」 ……お、鬼だ。 仕事の鬼がいる……「そ、そんなぁぁ! さ、さっき私の分が終わったのに!」「はーい、終業まであと三時間! きりきりやれば残業せずにすむぞ! さっさと掛かる!」 ……うーん、どっちが年上だか、どっちが上官だかわかりません。「さて、俺の分はもう終わったから、なのは達は貰っていく。部隊長頑張って~? あ、ゼンガーさんもお茶付き合いません?」「いや、このまま部隊長を手伝うとしよう」「だ、そうだ。よかったなテッサ。人手が増えた。……すみません、うちのボケ娘に手を貸してやってください」「誰がボケ娘ですか!」「身内の旅行に原子力潜水艦乗りつける奴に決まってるだろう! 反論してる暇があったら手を動かせ! ……じゃあ、なのは、フェイト、行こうか?」「ふぇぇぇぇぇん! せつなさんのいじめっ子~~~~~~!!」 テッサさんの泣き声を背に、せつなちゃんと部隊長室を後にする……い、いいのかな? あ、感謝状、レイジングハートの格納領域に入れとこう。「あの、せつな? ……よかったの?」「テッサ? 勿論。ここの部隊長の仕事はおもに書類仕事だからな。……何の為にゼンガーさん入れたと思ってる? 部隊長に楽してもらう為だ……大体、あれくらいの仕事、テッサが本気になれば一時間で終わる。ゼンガーさんも手伝ってるんだから、それより早く終わるな。……? なのは? 何だその目は」「あ、うん、ゼンガーさん、私を驚かせるためだけに入れたのかと」「……前から思ってたけど、お前親分になんか恨みある? そんな理由で入れたりしない……あの人の魔法戦闘も、ロマンだしな」 ど、どんなロマンが…… わかんない。「ゾンボルト一尉はどんな戦い方を?」「ああ、シグナムにかなり似てる。けど、気迫が違いすぎる。最初の一撃で終わらせる気満々で切りかかってくるからな。最初から全力で行かないと、次の瞬間には真っ二つだ」 ……うん。そんな戦闘の仕方だったね。 えっと、薩摩示現流だっけ。二の太刀いらず。 初撃の一の太刀に全力を注ぎ、それのみで倒してしまう剣術。 ゼンガーさんが師と仰ぐ人から教わった、必殺の剣。 ……ただ。「威力がありすぎて、犯人が必ず病院送りになるから、教導隊でも使い辛いと評判の人だったから、うちでスカウトした。AT『グルンガスト参式』渡して、戦術幅広げたから、かなり使い安くなった最強ユニットの一人だぞ?」 うんうん。 私は近接戦闘のお世話になったから、嫌いじゃなかったし、同じ仕事もさせてもらったから、悪い人じゃないって分かってる。……この部隊は、ゼンガーさんにとって、いい職場みたいだ。表情が柔らかになってたし。「せつなも、ゾンボルト一尉には勝てない?」「あの人はなー、シグナムがリミットブレイクしても勝てなかった人だぞー? ……禁じ手使わんと勝てんわ」「「ええええええ!!」」「お前らハモって叫ぶの好きだな」 いやでもまって! シグナムさんが? リミットブレイクして? だって、その……「ゼンガーさん、魔導師ランクA+だよ!? それで、シグナムさんに勝つなんて……」「まあ、前のデバイスじゃ勝てなかったな。……参式なぁ~……親分いなかったら、俺使いたかった……」「ど、どんなデバイスなの!?」 ぎ、技術部で言ってた、違反すれすれの武装?「まあ、バリアジャケットの代わりになるアーマージャケットと、マテリアルエネルギーを使ったエネルギードリル発生装置。牽制用の魔力射撃機構等の中、近距離仕様でな? 最大の目玉が参式斬艦刀。魔力を流すと日本刀型から特大グレートソードに早変わりする素敵剣。……ロールアウト後の運用試験で、シグナムとやった時にそれ使われて、シグナムが競り負けたんだ。じゃあ、リミッター解除してってことで、それでやったら……親分、参式の武装と斬艦刀完全に使いこなしてな? 結局、一文字切りを防御できずにシグナムダウン。部隊内最強の座を獲得してしまったと……」 ……す、凄いなぁ…… と、いいますか。「そんな凄いデバイス、作っちゃっていいの?」「……いや、その、あんなん、親分かシグナムか俺じゃないと使えない。……一撃屋専用のピーキー仕様になってる……やっちゃった感が否めない……」「せ、せつなも使えるんだ……」「俺のアロンダイトも、コンセプトは一撃必殺だからな。使えないことはない」 あはははは…… う、裏を知れば知るほど、この部隊が怖くなってきたよ? 参加するのやめようかな~? ところで。「せつなちゃん仕事終わったって言ってたけど、もういいの?」「後は部隊長のサイン待ちとも言ったがな? ……さっきはああいったが、実は全部明日の昼までに各部署に回せばいいやつだから、ホントは死ぬ気でやらなくてもいい」 あらら。 お得意の嘘ですか。「ど、どうしてそんな嘘を?」「早めに終わらせてくれたら、俺が楽できるから。……お前ら、俺が無理してるって思ってるだろうけど、最近は以前に比べてずっと楽なんだぞ? ……に、二年前のゲンヤさんの部隊にいたときなんかなぁ……」 曰く、『せつな~? これやっとけ~』て、あんたの仕事やんけー! 嘱託にやらせんなー!『せつなー! 調書取りにいけー!』俺の仕事じゃねーだろそれ! 執務官にやらせれー!『せつな? 先日の件の報告書、ありゃ駄目だ、やり直し』嘘だろ!? 五時間掛けたんだぞあれに!? 鬼ー!『せつなよぅ。カルタスとお前でホシあげて来い。絶対捕まえろ』て、カルタスさん魔導師ちゃうやんけー! 俺一人!?『あ、せつな? 休暇中悪いんだけど、すぐ来い。急ぎの仕事だー』や、休んだの一ヶ月前なんですが!?『せつなか? 仕事だ戻って来い。……修学旅行? そんなもんは後だ』ひでぇよとっつあん…… ……げ、ゲンヤさん、酷い……「ふふ……修学旅行中に呼び出されたときが一番殺意わいたね。呼び出すだけ呼び出しといて、ほとんど終わったヤマの後始末でやんの……二日目の朝なんぞに呼び出しやがってーーーー……」 あ、あの時のってそんな理由だったんだ…… 通りで戻ってきた後、黒いオーラが流れてると……「まあ、今となったらいい経験になったし、全部応用が利くから、今楽できるのはあれがあったからこそかな?」 ……せつなちゃんにとっての、師匠なんだね、ゲンヤさんは。 そう言えば、ゲンヤさんと会って、管理局に入る決意したって言ってたし…… いい師匠に出会えたんだね。せつなちゃん。「それに、俺の恨みは全部クイントさんが晴らしてくれたし。……三六連エリアルコンボなんて始めて見たー。やっぱあの姉さん凄いわ」 そ、そんなオチはいらないと思うよ?「さって、お茶お茶~」 三度食堂へ。 休憩時には、喫茶も受け付けているらしい。 コーヒーブレイクメニュー? あ、いろいろあ……あれ?「せ、せつなちゃん? こ、この、『技術提供・翠屋』って……」「ん? 桃子さんと士郎さんに頭下げて翠屋のレシピ分けてもらった」 聞いてないよ!? そんなの、一言も聞いてないよ!?「だって、俺活動拠点来年からこっちになるだろ? 翠屋のシュークリームが食えないなんて我慢できん。……レーツェルさん、菓子類得意じゃないけど、できないことはないって言ったからレシピだけ頭下げてもらってきた。……残念ながら、グレードは下がるが、かなり迫っていると思うぞ?」「しゅ、シュークリームの為にそこまでやるなんて……」 うう、そう言えば、翠屋来たら、必ず注文してたし。中毒になってたんだね…… 「本当は桃子さん自身を雇いたかったんだが、士郎さん真剣持ち出してきてな? 仕方ないからレシピだけになったんだ」「わ、私より先にお母さんに声かけたの!? せつなちゃん酷い!」「それより先に真剣持ち出した士郎さんはスルーなの? なのは?」 うわぁぁぁぁぁん! せつなちゃんにとって、私はシュークリームより下なんだぁぁぁぁ!! ううううううううう。「まあ、なのはが作れるんなら、はやてより先にお前を入れたんだけどな。いや残念だ」「うわっぁぁあぁぁぁぁん!!」 せつなちゃんの意地悪ぅぅぅぅぅぅ!! うう、しかも、美味しいし…… レーツェルさん、お菓子もできるんだなぁ……お母さんに教えてもらおうかな……「……ま、まあ、さっきのはその……すまんなのは。少し苛めすぎた」「いーですよーだ。私は、シュークリームより価値のない女の子ですよーだ」 ふーんだ。せつなちゃん嫌い。 ふーーーーんだ。「あらら~? せつなちゃん喧嘩?」「……苛めすぎか? ほどほどにしないと、愛想をつかされるぞ?」 あ、響介さんとエクセレンさんだ。 ……? 知らない人もいる。金髪で短髪の男の人。 「う、響介さんに恋愛指導喰らうとは……な、なのはー! 本当に悪かったー! 許してー!」「おお! 見なさいブリット君? あれがジャパニーズDO・GE・ZAよ? なんて見事な米搗きバッタ!」「せ、せつなさんが……じゃ、じゃあ、彼女がせつなさんの恋人の高町二等空尉!?」「て、せつなちゃん! そ、そんな謝り方しないで頭上げてー!?」 しかも知らない人にまで広まってるー!? うわーーーん、せつなちゃんやーめーてー!!「せつな……ちょっとかっこ悪いよ……」「や、ブリット君に正しい謝り方を伝授しとこうかと。恋人と喧嘩した時、これをやれば大概許してくれる」「べ、勉強になります!」「偽知識教えちゃだめええ!!」 ああああ、突っ込み、突っ込み役プリーズ! 私、アリサちゃんみたいに上手くできないよぉぉぉぉ!「……あーお前ら。食堂で騒ぐのは感心しないな?」「と、すまんシグナム。ちょっとはしゃぎすぎた」 ああ、静かな突っ込み役が来た! これで助かるよぅ。 ……事態は沈静化。 前線小隊『アサルト』のメンバーとお茶をすることに。「で、フェイトはまだ会ったことなかったな? 『アサルト』の小隊長、南部響介二尉。隊員のエクセレン・ブロウニング三尉。で、こないだ陸上防衛隊からスカウトしたばかりのブルックリン・ラックフィールド陸曹」「よろしく頼む」「よろしくねぇん?」「よろしくお願いします! 自分の事は、ブリットと呼んでください!」 にゃはは。ブリット君真面目な子だなぁ。 礼儀もきちんとしてるし。「ああ、ラックフィールドは、ゾンボルト一尉の師匠と同じ道場の出でな? 示現流は修めてはいないが、その気骨は彼に迫るものがある。まだまだ経験不足は否めないがな……」「ああ、さらに言うと、俺らの同い年だ。……だから、さん付けはいらないんだよ?」「いえ! それでも、上官ですから!」 へぇ~……納得。 でも、同い年か……私の周りの同い年の男の子で、魔導師って少ないから、ちょっと新鮮。 ……その分はせつなちゃんが担当してるけど。「ブリットでいいの? 君は、何かやりたい役職とかあるの?」「はい! 自分は、教導隊を目指してます! 高町さんみたいな!」「わ、私!?」 わ、私が目標?「自分と同い年なのに、教導隊のエースで、幼い頃には、ロストロギア事件の解決にも尽力したと聞いています! だから自分も、高町さんみたいになりたいと思い、日々、努力してます!」「え、あの、その、あ、ありがとう。……応援してるよ、頑張って?」「はい! ありがとうございます!」 にゃはははは、うん、ちょっと照れちゃうな。 私も、目標にされるようになったんだなぁ……「まあでも、しばらくここにいたら、私もこっち来るし。……そしたら、いろいろ教えてあげるね?」「本当ですか!? ありがとうございます!」 うんうん。元気があって、いい人だね。 せつなちゃん、本当にいい人を見つけるの上手いなぁ~。 天性のスカウトマン?「んふふ~? せつなちゃんにライバル出現? あまり冷たくしてると、ブリット君に持ってかれちゃうぞ~?」 ……ど、どうだろう? せ、せつなちゃん、焼き餅やいてくれるかな?「……ブリット。一つ聞く」「な、なんでしょうか?」 ? な、なんだろう?「魔法戦闘なしでシグナムと互角以上の鬼がいるんだが、それを倒せたらなのはと付き合う権利をやろう。当然権利だけで、その後の付き合いは俺を倒してもらわなければならないが……それでもいいか?」 そ、それって、お兄ちゃんですか……?「ふ、副隊長? そ、そんな人いるんですか!?」「……ああ、確かに存在する。……高町の兄だ」「……すみません、自分はまだまだ役者不足です……」「ふ、勝った」 せつなちゃんが威張ってどうするのかな~? なんか納得いかないの。「せつなちゃん? 久々にお話する?」「いやすんません。だが、男になのはやフェイトを渡すつもりはない!」 にゃははは。それは確実なんだ。 よかった。「何、安心しろ。お前に似合いの嫁くらい、俺がスカウトしてきてやる。それまで精進を続けるんだな」「はい! ありがとうございます!」「……よ、嫁ってスカウトできるの?」「わかんにゃい……」 どんどんスカウトマンから離れていってるような気がするよ、せつなちゃん…… で、「響介さんはぜんぜん喋りませんね?」「……まあ、性分でな。許せ」 お兄ちゃんみたいです。 お茶が終わって『アサルト』隊とも別れて、今度は部隊の駐機場へ。 大半が陸戦戦力なので、航空支援隊が存在するそうです。 昨日も部隊の輸送ヘリが消化剤撒きながら飛んでました。「で、そのパイロットのヴァイス陸曹と、アシスタントのアルト二士だ」「昨日は助かったぜ、ありがとな?」「始めまして、よろしくお願いします」 えっと、せつなちゃんが助けた女の子のお兄さんと、その……「えっと、妹ですか?」「いや、こんな生意気な妹いらねー」「失礼ですよ! あの、この人とは血のつながりはないですから!」 あれ? 違った?「妹さんは魔力なしの六歳だからな。普通の学校行ってるよ。……まあ確かに、兄妹に見えなくもないな」「せつなさんまで!?」 あはははは。皆仲いいなー。 「航空支援は二人だけ? 他にもパイロットはいるんでしょ?」「……まあいるにはいるんだが、このコンビで運用した方が早いから、あんまり入れてないなぁ。他のパイロットは出向組だし」 あらら。じゃあ、この部隊専門のパイロットは二人だけなんだ?「後は、航空指揮官の人だけだが「コラァ! 整備班! 使い終わったら片付けろ!」……あの人」「うわ、整備の連中、マーさん怒らせんなよ。面倒なんだから」 マーさん?「ああ、指揮官のマデューカスさん。階級は二等陸尉。テッサの副官を勤めてた人」「あの人も私たちの世界の人なんだ……」 マデューカスだからマーさんか……なにか、いきなり可愛くなったかも。 あ、あの人かな? ドスドスと、歩いて、来て?「おまえら! いつまで油売っとるか! 終業まであと一時間はあるぞ!」「「さーいえっさー!!」」 あらら……ヴァイスさんたち行っちゃった。「……せつな君も、あまりあいつらを遊ばさせんでくれんか?」「まあまあ。昨日も忙しかったんですから。……あ、すまん二人とも。こちらがリチャード・ヘンリー・マデューカス一等陸尉。海兵隊出身だから、怒鳴り声はきついが、間違ったことは言わないから、あまり怯えないでほしい」「君は私を何だと……」「で、副長? こっちが昨日の火災で協力してもらった本局の高町教導官とテスタロッサ執務官」「と、失礼しました。お見苦しいところを」 びしっと敬礼する姿は、やはり軍隊出だ。 思わずこちらも返してしまう。 ……こんな人が部隊にいたら、きびきび仕事できそうだね。 「? せつな? 何で副長?」「ああ、いつぞやの潜水艦覚えてるか? それの副艦長だったんだよ。で、テッサがその役職をずっと言い続けてるから、そのまま固定しちゃって」「あの時は子供が艦長の額にハリセン打ち付けるわ、特務隊指揮官をハリセンで打ち倒すわ……とんでもない子供だと思ったら、それ以上にとんでもない子だったとは……世界は広い」 あ、あはははは……あの時いなくなったと思ったら、そんなことしてたんだ。「てか、副長も本気で止めようよ。潜水艦、街の港に横付けする艦長とか、それを提案する指揮官とか」「止めたんですが聞いてくれなかったんですよ!」 く、苦労人だなぁ、この人…… 本当に、いろんな人がこの部隊に集まってる。 これがせつなちゃんの職場かぁ…… ……ここに、私やフェイトちゃん、シャマルさんとヴィータちゃんが入れば、全員集合だね? ……うん、楽しい仕事場になる。 私も早く、ここで仕事してみたいなぁ…… 夕食も皆で取って、はやてちゃん達は家に、すずかちゃんとアリサちゃんも自分の部屋に戻り、「で、紹介するところのラスト。隊員寮の寮長お二人のお部屋です」 ……えっと、こんな時間に行って大丈夫なんでしょうか?「この時間が一番平穏だからな。シエルさーん。入るよー?」「はーい。いいわよー?」 あれ? この声聞き覚えある。 部屋に入ると、中にはショートヘアの二人の女性。一人はふくよかなイメージ(太ってるとかそう意味じゃなくて、なんかお母さんみたいな)の女性と、メガネの女性……メガネの人、見覚えある?「あら。なのはちゃんにフェイトちゃん。いらっしゃい。元気そうね?」「え、ええ?」「えと?」 ど、どこであったのかなー? どこかで見たはずなんだけど……「おいおい。メガネと髪型だけでわからんとか……いや、勧めた俺が言うのもなんだけど、すぐわかるけどなぁ?」「しばらく一緒にいたあなたと一緒にしちゃ駄目よ。……これでわかる?」 メガネをはずすと……ああ!!「「クイントさん!!」」「あったりー! お久しぶりー!」 こ、こんな所に……変装までして!?「あ、後、スバルとギンガ助けてくれたの、こいつらだから」「二人ともありがとー!!」「わわ!」 にゃにゃ……フェイトちゃんと一緒に抱きつかれちゃった。 もう一人の人もニコニコ微笑んでる。「ふふ、二人とも、凄いのね?」「ええ、俺の自慢の友人たちですから。……ほれ、クイントさん。ちゃんと自己紹介、偽名の方な?」「あ、うん、オッケー」 あはは……クイントさん、ぜんぜん変わってない。 もう一度メガネをかけて、私たちに向き直る。 め、メガネ一つでここまで変わるんだ。「私が男子寮担当の、クイント・ナカジマ改めシエル・エレイシアよ。よろしくね?」「私は女子寮担当の、アイナ・トライトン。二人ともよろしく」「この二人が隊員寮の名物寮母。仏のアイナと仁王のシエル」「ちょ、私のそれは今でも納得行かないんだけど!?」 な、何をやったらそんなあだ名付くんだろう?「……二ヶ月前の研修生撲殺事件」「……な、なんのことかな?」 ぼ、撲殺?「……三ヶ月前の痴漢撃退作戦」「し、知らないなぁ~?」 作戦って……「なら一ヶ月前の飲酒暴走事変は! あれ揉み消すの大変だったんだぞ! いくつ切り札使ったと思ってる!」「ご、ごめ~ん!!」 も、揉み消すとか…… 本当に何をしたんだろう? 簡単に概要だけ教えてもらった。 三ヶ月前の事。 女子寮浴室に覗きがでたらしく、シエル(クイント)さんとマオさんでトラップを仕掛け見事捕獲。 犯人は前線隊員一名と交代部隊員二名(一人は巻き添え)。捕獲後顔の原型がなくなるほど殴打。見せしめで翌日一日部隊内清掃。巻き添えの一人は情状酌量の余地ありの上、日頃の行いの良さで許してもらったとか……これが痴漢撃退作戦。 なお、そのとき使われたトラップは、魔法技術と戦争知識の融合品で、時たま訓練メニューに出されるらしい。 二ヶ月前の事。 訓練校より研修生二名が入隊。キタムラ教官が頭を悩ませている『親の七光り』魔導師で、部隊員を悉く軽視。 その日の夜。男子寮客間にて飲酒。注意しに来たシエルさんを押し倒し、暴行を加えようとした。 が。 シエルさんは元々魔導師の上、シューティングアーツと呼ばれる魔法格闘の達人。 数分で返り討ち&全治三ヶ月の大怪我(魔力ダメージ)を加えた。当然、顔は原型留めず。 二人はその日に脱隊処分の上、婦女暴行未遂&局内法規違反で書類送検。さらに入院。 シエルさん本人は減給一ヶ月で許された……これが研修生撲殺事件。確かに撲殺(社会的な意味で)。 なお、その一ヶ月の生活費は女性隊員のカンパで乗り切ったとか。 一ヶ月前の事。 部隊内の飲み会の時に、寮母の二人も参加。二次会に突入し、その店で部隊に反感を持っている本局将校と大論戦になり、その一人を殴りつけてしまったシエルさん。さらに、その将校との模擬戦になってしまい、店の一部を破壊する騒動に発展してしまった。 本当なら大スキャンダルで、部隊存続の危機なんだけど、なんとせつなちゃん、翌日の本局で、その将校に土下座して許しを買ったらしい。 リンディさんの娘であり、クロノ君の妹であるせつなちゃんに、そんなことをさせたとあっては、彼の威厳や尊厳、評判に傷が付くと、その将校はすぐさま先日の件を水に流してしまったらしい。本人も大分酔っていたそうだし。 ……これが、飲酒暴走事変。 なお、現場となった店に謝罪金や見舞金を送って許しを得たり、その時にいた他のお客に謝りまくったのは全てせつなちゃんだという。 これでもまだ氷山の一角らしく、様々な事件を拳で解決?していく様はまさに仁王。 で、そのシエルさんに笑顔で付いていく、アイナさんが仏に見えたという理由で付いたあだ名だそうだ。「……さて? それで? 弁解はありますかね? シエルさん?」「まったく持ってございません」 シエルさん土下座。アイナさんは引きつった笑みを浮かべている。 でも、その仁王を土下座させている、せつなちゃんは何者でしょうか? ……シエルさん。結構お茶目な人だったんだね…… 部隊内を見終え、せつなちゃんの部屋に戻る。 今日はいろんな人に出会えた。 ……そして、思ったこと。「皆、せつなちゃんと仲いいんだよね。びっくりしちゃった」「うーん。ほとんど俺がスカウトした人だからなぁ~。母さん連れてくる人って能力はいいんだけど、いまいち使い勝手が悪い器用貧乏型だったり、性格が俺と合わなかったり、玉の輿目当てのプレイボーイだったりで、ほとんど蹴ってるし」 ……ありゃりゃ。 と、いいますか。「それって、せつな目当ての?」「ん? ……なんだかんだ言っても、ハラオウンはビッグネームだからな。唾つけて損はないだろ。……まあ、最近はなくなったな。母さん、俺の性癖に目を瞑ってくれたし」 あ、そうなんだ? ……せつなちゃん、男の人より、女の子のほうが好きだから、リンディさん頭抱えてたけど、認めちゃったんだ。 「て、話がそれたな。……まあ、皆、俺とよく話すし、身内ばかりだし、別の部隊で仕事した人だったりで、俺との繋がりがある人ばっかりなんだ。仲良くて当然。……やっぱ、楽しく仕事しないとな?」 ……そうだよね。 それが一番だよね。 利権争いとか、縄張り意識、出世競争でギスギスするよりも、みんなで笑いあって仕事したい。 そして、大切な人、泣いてる人、助けを求めている人を、救いたい。 ……私の、私たちの理想の部隊に、一番近いんだ。ここは。 それを集めたのは、せつなちゃんの想い。「……せつなちゃん。私、せつなちゃんの要請受けるよ。……この部隊の訓練隊隊長。私、引き受ける」「私もだよ。……せつなの部下に、力になるよ。呼んでくれるまで、待ってるから」 だから、私たちも、その想いに集いたい。 大好きな、せつなちゃんだから。「……おう。ありがとな?」 にっこり笑ったせつなちゃんには、もう、悲しみは見えなかった。「せつなさーん! 交代部隊の連中! 博打始めてますーーー!!」「て、またタスクか! イルムの兄さん何やってる!」「混ざってやってるみたいで……」「あのたらしーーーーーー!! アルトさん、報告ありがと! リオ、案内しろ! じきじきに折檻してくれる!」「はい!」 ……えっと、うん、皆仲良し……なのかな?*チラ裏で遊んでいるのでこちらではまじめに。作者です。ようやく六課の代わりの部隊の紹介ができました。ちなみに、部隊編成はこんな感じ。 部隊長、テレサ・テスタロッサ三等陸佐。非魔導師。 部隊長補佐、アンドレイ・カリーニン二等陸尉。非魔導師。 前線部隊統括官、ゼンガー・ゾンボルト一等空尉。近代ベルカA+。 前線小隊『ウルズ』小隊長、メリッサ・マオ二等陸尉。非魔導師(ミッドD) 同上副隊長、ティーダ・ランスター執務官(一等空尉相当官)。ミッドA。 同上小隊員、クルツ・ウェーバー三等陸尉。非魔導師(ミッドD) 同上小隊員、相良宗介三等陸尉。非魔導師(ミッドD) 前線小隊『アサルト』小隊長、南武京介二等陸尉。非魔導師(ミッドD) 同上副隊長、シグナム一等空尉。古代ベルカAA(リミブレ:S) 同上小隊員、エクセレン・ブロウニング三等陸尉。非魔導師?(ミッドD) 同上小隊員、ブルックリン・ラックフィールド陸曹。近代ベルカB 遊撃小隊『フォックス』小隊長、せつな・トワ・ハラオウン査察官(一等陸尉相当官)。古代ベルカ(融合型)A+(リミブレ:AAA) 前線訓練隊『ウィングス』副隊長、カイ・キタムラ陸戦教官(二等陸尉相当官。隊長が決まるまで隊長代理)。ミッドA。 前線支援隊『ロングアーチ』隊長、八神はやて一等陸尉。古代ベルカAA(リミブレ:S) 同上副隊長、リインフォース一等陸尉。古代ベルカAA(リミブレ:S) 同上補佐官、リインフォースⅡ空曹。古代ベルカA+。 同上支援官、ルキノ・リリエ陸曹。非魔導師。 同上支援官、千鳥カナメ技術士官。(技術部副主任兼任)非魔導師。 部隊事務長、グリフィス・ロウラン準陸尉。非魔導師。 航空支援隊指揮官、リチャード・ヘンリー・マデューカス二等陸尉。非魔導師。 航空支援隊員、ヴァイス・グランセニック陸曹。ミッドA。 同上隊員、アルト・クラエッタ二等陸士。非魔導師。 医務担当主任代理、月村すずか医務官。非魔導師。 技術部主任、アリサ・バニングス技術士官。ミッドC。 隊舎施設管理員、アリシア・テスタロッサ技術士官。非魔導師。 食堂施設統括員、レーツェル・ファインシュメッカー食堂主任。非魔導師扱い(ミッドAA)。 食堂施設員、ザフィーラ食堂副主任。守護獣(古代ベルカAA) 隊員寮男子寮長、シエル・エレイシア寮長。非魔導師扱い(近代ベルカAA) 隊員寮女子寮長、アイナ・トライトン寮長。非魔導師。 交代部隊・『ファルコン』隊。 隊長、レフィーナ・エンフィールド一等陸尉。ミッドA+。 隊長補佐、ショーン・ウェブリー二等陸尉。非魔導師。 隊員指揮、イルムガルト・カザハラ二等陸尉。ミッドA。 隊員、タスク・シングウジ三等陸尉。近代ベルカB-。 隊員、レオナ・ガーシュタイン三等陸尉。ミッドB。 隊員、リョウト・ヒカワ三等陸尉。ミッドA-。 隊員、リオ・メイロン三等陸尉。近代ベルカB-。 隊員、ユウキ・ジェグナン三等陸尉。ミッドB+ 隊員、リルカーラ・ボーグナイン三等陸尉。ミッドC。名前の後のミッドやベルカは使用魔法の種類と、そのランクです。これが今現在のメンバー表。編成がんばりましたー。次回は漫画版に噛んでくるな。それと……ちょっとだけ、悲しいお話。作者でした。