翌日。学校を終わらせ、すぐに帰る準備をする。 今日は、フェイトのお母さんに会いにいく日だ。「あ、せつな? このあと、何か予定あるの?」「ごめん、お母さん。フェイトの実家に挨拶してくる」「あ、そう? いってら……て、誰がお母さんよ! 後、実家って!?」 保護者名乗ったのアリサだろ? 後、実家といったら一つしかない。「俺、フェイトと結婚するんだ」「だぁぁぁぁ! 同性でしょ、同性!」 ……? だからなに?「へ?」「アリサ。魔法使いになると、同性でも結婚オーケーなんだよ?」「ちょ、マジなのなのは!?」「知らないよ!?」「まあ、嘘だし」「あんたってひとはぁぁぁぁぁぁ!!」 やあ、楽しいなぁ、アリサは。「でも、フェイトちゃんの実家って……」「うん、フェイトのお母さんに会ってくる……真実を確かめたいんだ」 フェイトの笑顔のために。 フェイトの未来のために。「……あの、それ、私も行っていいかな?」「なのは?」 ……思いつめたなのはの顔。 けど、それは……「それは駄目」「どうして!?」「私とフェイトがこっちいないから、ジュエルシードの暴走止められるの、なのはだけだよ?」 こういうことである。「あ、そうだった……」「……なのは、私の帰る場所、守っててくれる?」「……わかったよ。私、頑張る!」 ぐっと握ったその手に、俺の手を載せて。「お願いね、なのは」 そのほっぺたに軽く口付けた。 あ、やわらかい。「に、にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」「あんたはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」「じゃあ、すずか、ネコと女王の相手は任せたよー」 全てをすずかに投げて、教室を立ち去った。「え!? ちょ、せつなちゃん酷いよー!!」 すまんすずか。 愚痴は後で聞くことにするよ。 怪獣の叫びとネコの鳴き声と友人の悲鳴を聞きつつ、学校を後にした。 自分の家で着替えをして、フェイトの部屋へ。 フェイトとアルフは既にスタンバっている。「じゃあ、行こうか。バルディッシュ」『yes sir』 バルディッシュを振ると、ミッドチルダ式特有の魔方陣が展開され、魔力が流れ出す。「……せつな。あの鬼婆、怒ると怖いから、気をつけてよ?」「アルフ……鬼婆って……酷いよ?」 あはは。 フェイトは本当にお母さんのことが好きなんだねぇ。「行くよ」 視界がひっくり返り、転移が発動したのを感じた。 ……肉体の感覚が元に戻るのを感じる。 側に、フェイトがいるのを確認する……? あれ? いない? てか、ここどこ?「……お花畑?」 の割りに、なんか暗い。 しかも、中央付近になんか円筒形の物がある。 近寄ってみてみると……「フェイト?」 似ているが、背丈が違う。 ……ああ、胸の大きさも違う。 ……この円筒形のポッドに入っているのは…… たぶん。「フェイトのオリジナル……か」 そう言えば、あの変態博士は言ってた。 フェイトが、プロジェクトFで生み出された、人造魔導師だって。 じゃあ、今のフェイトのお母さんは、フェイトの製作者。 多分、フェイトは、この子のクローン。 フェイトのお母さんは、本当は、この子を取り戻したかったんだろう。「……パラディン。セットアップ」【get set. ……どうするんですか? マスター?】「どうにかして、蘇生できないか調べよう。手伝ってくれ。【ブレイブハート】スタンバイ」【stand by brave-heats set up. ……蘇生ですか。まあ、調べます。ブレイブハート、接続開始。目標の体組織、状況読み取り開始。蘇生式組み込み開始】 文句いいつつ手伝ってくれるお前が好きだよ。 ……この間の強制インプットで覚えた術式をフルに使い、彼女を蘇生させる手段を検索する。 しばらくして。「……そこにいるのは誰!?」 誰か来た。 ノイズ、うるさい黙れ。「アリシアから離れ……何をしているの?」 またノイズ。 表層意識の一部を解放。「今、この子が蘇生できる術式を、古代ベルカの聖王の魔法から検索してるから、結果が出るまで少し黙ってて」「古代ベルカ? ……蘇生、できるの?」「……今、キーワードが出た。少し黙ってて」 二回言って、しばらく黙ってもらった。 思考再開。 聖王の魔法群の中より、蘇生魔法検索終了、該当二件……プログラム解凍。 現在の目標と術式条件を重ね合わせ……ち、駄目か。 ……目的修正。 思考中断。表層意識一部解放。「なあ、あんた、この子の母親?」「……え、ええ、そうよ?」「……すまん、古代ベルカの最大蘇生魔法でも、この子は蘇生できないことがわかった」「……そう」「で、別のアプローチをしようと思う。検索中、時間逆行の魔法があった。所謂タイムトラベルだ。それを使って、この遺体と、死ぬ直前の生きた彼女を入れ替えようと思う。……彼女の死因、死亡時間、死亡場所を教えて欲しい」 言った直後、いきなり雷を冗談じゃなく落とされた。 電気変換資質の魔法の雷だろう。「……な、何をする?」「あなたは……アリシアを、アリシアは、遺体じゃない! まだ、方法はないの!? アリシアを蘇らせる、方法は!?」 ……そう言われても。「魂が吹っ飛んで、どこにもいない以上、彼女を蘇生させることはできない。なら、それは遺体だ。……いかな聖王でも、冥府の門は開けられない。代わりに、時間の門は開けられる。……もしかして、病死か? 寿命か? その二つなら、時間逆行しても助けられない。教えて欲しい。彼女を助けるには、それしか方法がない」「黙れ!」 黙れ言われても。「……あなたに頼らなくても……アルハザードに行けば、きっと、アリシアを蘇らせる方法がある、そのためにジュエルシードが必要なのよ!」 ……ああ、そうなのか。 この人は、娘の為に危険を犯せる人か。 ……しかし、蘇生は……【アルハザード? ……まさか、あの邪教集団の名前ですか?】 ……まあ、お前は何でもありだと思ったよ。「知っているの!?」【ええ、確か、クローン技術をはじめ、超高出力魔力炉とか、魔導兵、ユニゾンデバイス、などなどといった、魔法技術のグレーゾーンを研究する狂科学者の集まりと、記憶しています】 ずいぶんな所だな。【私が最終稼動時期に、確か、アルハザードは質量兵器の暴発で、施設内の生物兵器プラントが大破、バイオハザードが起こり、大陸ごと虚数空間に押しやられたとか。最後のマスターがその作戦に参加していました】「そ、それで! アルハザードにアリシアを蘇らせる技術はあったの!?」 お母さん、近い近い。 て、近場で見ると確かにフェイトに似てるような…… ただ、ちょっとやつれてて怖いよ。【アルハザードに、そんな技術ないですよ? あったら、邪教なんて呼ばれません。……あなたの言っているのは、おそらく、クローン転写技術でしょう。遺体の細胞片からクローニングして、記憶転写するだけのものです】「……そ、そんな……」 がっくり膝をつくお母さん。 ……まあねぇ? そりゃ落ち込むわ。 期待してたアルハザードが、そんなところだったとは夢にも思うまい。【それに、今アルハザードに行っても、バイオハザードの影響で、生きてる人間はすべからく死んでしまいます。虚数空間を抜けても、すぐに死んで、どうやって娘さんを助けるつもりです?】 うちのパラディンさんマジ容赦ない。【ですから、マスターの言うとおり、時間逆行に望みを託してみてはいかがでしょう。今、必要魔力を計算しますね~?】 そして、何でそんなに陽気なんだお前は。「……あー、その、げ、元気出してください。アリシアさんは、必ず、俺らで助け出しますから」「……時間逆行は、本当にできるの?」「大丈夫です。ざっと見、五百年前後なら完璧に時間逆行できますから、安心【あれ?】できねえ様な発言するなお前は!? なんだ一体!」 人がせっかく説得してるのに!?【い、いえ、最大魔力値を計算して、何でこんなに低いんでしょう? おかしいな、こんなはずは……ああ、マスターの魔力、歴代のマスターに比べてかなり低いですねぇ。これはマスターだけじゃ時間逆行する前に魔力枯渇で倒れますね】 てめえ、喧嘩売ってんのか!?【……仕方ありません。こういうときこそ、ジュエルシードを使いましょう。あれの保有魔力を計算して……十個もあれば、余裕ですね。後、彼女にも声をかければ、完璧です】 ……彼女って、まさか!?「夜天の書か!?」【はい。私のオリジナルとなる彼女の処理能力があれば、かなりの精度で時間逆行できます。確か、近場にあるんでしたよね?】 だが、今は、改変受けて……【ですから、修復するんですよ。私には、バックアップデータがあるんですよ?】 ……そうだけども。【フェイトさんのお母さん。……見たところ、かなり技術レベルの高い魔導師と見ますが、デバイス開発の経験はありますか?】「……少しはできるわ」【なら、夜天の書……今は、闇の書でしたっけ? それの修復を手伝ってください。魔法に触れてまだ三日のマスターだけでは手が足りません。……お願いできますか?】「……わかったわ。協力する。だから、だからアリシアを……」【わかってます。……じゃあ、マスター。闇の書とその主を連れてきましょう。で、修復中は、フェイトさんとなのはさんにジュエルシードを集めてもらって……】「フェイトなら、好きに使って構わないわ。……アリシアが戻るんなら、あの子に用はない」 ……あ、せっかく助けようとした気が萎えた。「じゃあ、俺、帰りますね。フェイトはもらっていきます」「……え?」【マスター?】 ふざけんなよ?「行くぞ、パラディン。戯言は終わりだ。……たとえ自分の腹痛めて産んだ子じゃなくても、自分の娘の血を持つフェイトに優しくしない母親に、情けをかける義理はない」「え? え? ちょ、ちょっと待ちなさい! さっきまで、あれだけ助けようとしてくれたじゃない。どうして!」「当たり前だ阿呆」 追いすがってくる女を突き飛ばす。 こんな女の為に、俺は、彼女を助けようとしたのか。「俺は、フェイトの笑顔が見たかったから、手伝っただけだ。……このままやっても、フェイトの笑顔が見れないのなら、手伝う意味がない」 フェイトだって、この女の笑顔の為に頑張ってるのに。 それを無碍にする人間に、手をかす義理など、ない。「……すまんな、失礼する」「待ちなさい!」 俺の目の前に雷が降り注ぐ。 ……後ろを向くと、杖を構えた彼女が、俺を睨んでいた。「……アリシアを助けなさい。でなければ……」「殺すか? 俺を。……二度とアリシアと会えなくなるぞ?」 だが、彼女は、口元をゆがめて。「ええ、殺すわ……フェイトをね」 そう、言った。「……じゃあ、その前に、貴様を殺す」 彼女は俺に言ってはいけない言葉を言った。 彼女は、フェイトを殺すと言った。 なら、その原因は、殺さなければ。 「【アロンダイト】スタンバイ」 さあ、虐殺の時間だ。 <フェイト> 庭園の奥から、ものすごい轟音が聞こえた。 あれは……母さんの魔法?「ねえ、フェイト……もしかして、せつなが……」 私の転送ミスで、はぐれてしまったせつな。 母さんが探してくれるといって、しばらく経つ。 ひょっとして、せつなと母さんが喧嘩しているのだろうか? ……魔法を使って? 探しに行かないと! アルフと二手に分かれ、私は母さんの部屋の近くへ。 確か、私が近寄ってはいけないブロックがあったはず。 もしかしたら、せつなはそこに飛ばされたのでは…… せつな、無事でいて……?「……え、かさ……」 ……! この魔力、せつなの!?「……死ね……な……」 このドアの向こう! 扉は自動で開き、中には、ボロボロの花畑。 その中心で……「よう、フェイト……」 ところどころ焦げてるせつなと。「……な、何しに……来たの……?」 倒れた母さんがいた。 ……これは、なに?「フェイト、今、お前を縛っている鎖、解いてやるから。ちょっとまってろ」 そう言って、せつなは、手の剣を、振り上げて……!「バルディッシュ!!」『Blitz Action』 魔法を使って、母さんの盾になった。 ……せつなは、剣を途中で止めてくれた。「どけ、フェイト。そいつ殺せない」「駄目、駄目だよ……母さんを殺さないで!」 せつなを見る。 それは、とても苦しそうな顔で。「どいてくれ、フェイト。そいつは、お前の母親じゃない……母親が、子供を殺すと言った以上、俺は、そいつを殺さないと……」 せつな、男の人の口調になってる。 ……魔法を使ってるからとか、そういうのじゃない。 多分、前世の記憶……「……母さんだよ。本当に私の母さんだよ……」「そいつは、フェイトを殺すと言った。フェイトを死なせたくない」「それでも! 母さんが死ぬのは嫌だ!」 ……言い切った。 涙をボロボロこぼして、泣きながら、せつなを見つめた。 せつなも、泣いてる。「……フェイト……」「かあさん? しっかりして、母さん!」 魔力ダメージが酷い。せつなと戦ったんだろう。 ……せつなも、憔悴が激しい。「……その男の言うとおり、私は……あなたの母親じゃないわ……あなたは……」 母さんから、拒絶された。 けど、そんなの関係ない。「私が何者でも、私の母さんは、母さんだけだよ……死なないで、母さん……」 なんとか、なんとかしないと。 ああ、こんなことなら、リニスにちゃんと回復魔法習っておけばよかった。「フェイト……ごめんなさい……私のフェイト……」 どうにかならないの? 誰、誰か、母さんを助けて! お願い、私の母さんを、助けて……「……たく、わかればいいんだよ、わかれば」「……せ、つな……?」 せつなが母さんの側に座って……手には、十字の杖。確か、魔法行使をするときの杖だ。「これが、俺が見つけた、蘇生魔法の一つ! 【聖光蘇生】!!」【resurrection】 せつなの銀色の魔法光が、母さんの傷を癒していく…… 凄い。傷だけでなく、消耗した魔力まで回復していく……! しばらくして、母さんの顔に赤みが戻り……光が消えた後、代わりに、せつなが倒れてしまった。「……ま、魔力エンプティ……もうだめぽ」 ……魔力切れ? 全部使っちゃったの!?「……あなた……」「よう、いい娘じゃないか。……あんた、まだ、フェイトを殺すとか、言い出せるかい?」「……できるわけないじゃない……」 母さん……泣いてる。「じゃあ、フェイト、後は任せた……パラディン、シャットダウン。おやすみ~」【shat down. ……えと、フェイトさん。マスターをどこか休める場所へ。おそらく、丸一日は寝てるでしょう】「あ、うん。わかった」 私だけじゃ無理だから、アルフに手伝ってもらおう。 念話で呼ぼうと思ったら、母さんがせつなを抱え上げた。「母さん?」「……男かと思ったのに、女の子だったのね……?」 ……まあ、バリアジャケット展開時は、男の子にしか見えないし。 口調も、男の人のだし。 「せつなだったわね? この子は、空いてる部屋に私が運ぶわ……ついてらっしゃい、フェイト」「……はい!」 母さんが、母さんが、笑ってくれた。 私に、笑ってくれた。 せつなのおかげ……かな?【本人怒り狂って殴りつけて説教しただけですけどね~?】 ……母さん相手にそれだけできれば凄いよ……